(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6635303
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】チェーンのピン脱着装置
(51)【国際特許分類】
F16G 13/06 20060101AFI20200109BHJP
【FI】
F16G13/06 E
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-79968(P2016-79968)
(22)【出願日】2016年4月13日
(65)【公開番号】特開2017-190819(P2017-190819A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2018年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】武内 秀明
【審査官】
小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭48−113800(JP,U)
【文献】
実開平04−063366(JP,U)
【文献】
実開昭53−092797(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンのリンクピンを脱着する装置であって、
チェーンを配置するチェーン収容溝を有する本体部と、
前記チェーン収容溝の幅方向に沿って進退可能となるように前記本体部に取り付けられた軸部材と、を備えており、
前記本体部が、
間隔を空けて配置された一対のフレーム部材と、
該一対のフレーム部材間に配置された、前記軸部材が取り付けられるネジ形成部と、を備えており、
前記一対のフレーム部材には、前記チェーン収容溝を形成する切欠きが設けられており、
前記ネジ形成部には、
前記軸部材が螺合されるネジ孔が形成されており、
該ネジ孔は、
該ネジ孔に螺合した前記軸部材の軸方向が前記切欠きの幅方向と平行になり、
該ネジ孔に螺合した軸部材の中心軸から前記切欠きの内底面までの距離が、前記チェーンの高さ方向の端縁からリンクピンの中心軸までの距離と同じ長さになるように設けられており、
前記切欠きにおける前記ネジ形成部のネジ孔と対向する部分には、リンクピンが排出される排出空間が設けられている
ことを特徴とするチェーンのピン脱着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンのピン脱着装置に関する。さらに詳しくは、チェーンコンベアにおけるチェーンの交換においてピンを脱着するピン脱着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の設備では、コンベア装置によって物体の搬送が行われており、チェーンコンベアも一般的に使用されている。例えば、一対のチェーン間にパレット等を設けたチェーンコンベアでは、パレット等の上に搬送する物体を載せて一対のチェーンを移動させることによって、物体を搬送することができる。
【0003】
かかるチェーンコンベアでは、チェーンの損傷や老朽化により、チェーン全体の交換や一部分の交換等が行われる。チェーン全体を交換する場合には、リンクピンを取り外して古いチェーンを取り外し、新しいチェーンの端部同士をリンクピンで連結してチェーンを取り付ける。また、損傷等したリンクを交換する場合には、損傷等した部分と他の部分を連結しているリンクピンを取り外して損傷等した部分を取り外し、新しい部品と元のチェーンをリンクピンで連結する。つまり、チェーン全体の交換する場合でも、チェーンの一部を交換する場合でも、リンクピンを着脱する作業が行われる。
【0004】
ところで、チェーンコンベアのチェーンは、駆動中にリンクピンが外れたりしないように、リンクピンはしっかりと固定されている。このため、リンクピンを取り外す場合には、リンクピンに大きな力を加えなければならない。
【0005】
チェーンのリンクピンを取り外す装置として、特許文献1に開示された技術がある。特許文献1には、チェーン環とかみ合う歯を有する本体部と、本体部に取り付けられて手動で操作可能なパンチを備えたねじ要素と、を有する工具が開示されている。この工具では、歯にチェーン環を噛み合わせて、ねじ要素によってパンチを移動させれば、リンクピンを着脱できる旨が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1の工具は、工具を手で保持した状態でチェーンを本体部に固定してリンクピンの着脱を行うものである。このため、自転車用ローラーチェーンといった、小型のチェーンには適用できるものの、チェーンコンベア等のチェーンのように、中型や大型のチェーンで使用することは困難である。
【0007】
中型や大型のチェーンのリンクピンを取り外す場合、現状では、
図3に示すようなピン脱着装置が使用されている。
【0008】
図3に示すように、従来のピン脱着装置100は、リンクピンLPを押圧するポンチPを有する油圧ジャッキ101と、この油圧ジャッキ101を保持するジャッキ受台102と、を備えたものである。かかるピン脱着装置100では、以下の方法でリンクピンLPの着脱が実施される。
【0009】
リンクピンLPを着脱する際には、チェーンコンベアのチェーンCが設置されているレールR上にジャッキ受台102を設置する。その後、チェーンCにおいて、着脱するリンクピンLPの位置と油圧ジャッキ101のポンチPの位置を合せる。その状態で油圧ジャッキ101を作動して、ポンチPによってリンクピンLPを押圧する。すると、油圧ジャッキ101から大きな押圧力をリンクピンLPに加えることができるので、ブシュからリンクピンLPを除去することができる。
【0010】
逆に、ブシュの位置にリンクピンLPを配置して、油圧ジャッキ101によってリンクピンLPを押し込めば、リンクLのブシュにリンクピンLPを挿入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−175474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、従来のピン脱着装置100では、レールR上にジャッキ受台102を設置するので、ジャッキ受台102を設置するためには、チェーンCを持ち上げる必要がある。中型や大型のチェーンは重く、油圧ジャッキ101やジャッキ受台102も重いので、ジャッキ受台102を設置するだけでも、多数の作業者が必要になるという問題がある。
【0013】
また、リンクピンLPを除去する準備作業だけでも、1)リンクピンLPを脱着する部分のチェーンCを持ち上げる、2)レールR上にジャッキ受台102を設置する、3)ポンチPとリンクピンLPの芯合わせをする、という作業が必要になる。つまり、準備作業だけでも多数の作業が必要であるので、リンクピンLPを脱着するための作業工数が多くなるという問題もある。
【0014】
本発明は上記事情に鑑み、簡単かつ迅速にリンクピンの脱着作業を実施できるチェーンのピン脱着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1発明のチェーンのピン脱着装置は、チェーンのリンクピンを脱着する装置であって、チェーンを配置するチェーン収容溝を有する本体部と、前記チェーン収容溝の幅方向に沿って進退可能となるように前記本体部に取り付けられた軸部材と、を備えており、
前記本体部が、間隔を空けて配置された一対のフレーム部材と、該一対のフレーム部材間に配置された、前記軸部材が取り付けられるネジ形成部と、を備えており、前記一対のフレーム部材には、前記チェーン収容溝を形成する切欠きが設けられており、前記ネジ形成部には、前記軸部材が螺合されるネジ孔が形成されており、該ネジ孔は、該ネジ孔に螺合した前記軸部材の軸方向が前記切欠きの幅方向と平行になり、該ネジ孔に螺合した軸部材の中心軸から
前記切欠きの内底面までの距離が、前記チェーンの高さ方向の端縁からリンクピンの中心軸までの距離と同じ長さになるように設けられており、
前記切欠きにおける
前記ネジ形成部のネジ孔と対向する部分には、リンクピンが排出される排出空間が設けられていることを特徴とする
。
【発明の効果】
【0016】
第1発明によれば、チェーン収容溝に、その内底面と接触するようにチェーンを配置すれば、リンクピンの中心軸の高さと軸部材の中心軸の高さを合せることができる。すると、チェーンに沿って本体部をスライドさせるだけで、リンクピンの中心軸と軸部材の中心軸を合せることができる。つまり、リンクピンの中心軸と軸部材の中心軸を簡単に合わせることができるので、リンクピンを脱着するための前作業を簡単にできる。したがって、少ない作業者かつ少ない作業工数でリンクピンの脱着作業を実施できる
。しかも、本体部を軽量化できるので、装置の取り扱い性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態のチェーンのピン脱着装置10の概略説明図であり、(A)は正面図であり、(B)は側面図である。
【
図2】(A)は本実施形態のチェーンのピン脱着装置10によるリンクピンLの取り外し作業の概略説明図であり、(B)は本実施形態のチェーンのピン脱着装置10によるリンクピンLの取り付け作業の概略説明図である。
【
図3】従来のチェーンのピン脱着装置100の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のチェーンのピン脱着装置は、チェーンのリンクピンを脱着する装置であって、取り扱い性や作業性を向上したことに特徴を有している。
【0019】
本発明のチェーンのピン脱着装置によってリンクピンを脱着するチェーンはとくに限定されず、種々のチェーンにおいてリンクピンの脱着に使用できる。しかし、物体の搬送などに使用されるチェーンコンベアのチェーンなどのように、中型や大型のチェーンのリンクピンを脱着する装置として適している。とくに、チェーンコンベアにおいて、レール上に配置されるチェーンのリンクピンの脱着をする装置に適している。
【0020】
(本実施形態のチェーンのピン脱着装置10の説明)
図1に示すように、本実施形態のチェーンのピン脱着装置10(以下、ピン脱着装置10という)は、本体部11と、軸部材15と、から構成されている。
【0021】
(本体部11)
図1に示すように、本体部11は、一対のフレーム部材12,12と、一対のフレーム部材12,12間に設けられたネジ形成部13と、を備えている。
【0022】
図1に示すように、一対のフレーム部材12,12は、ある程度間隔を空けた状態かつ所定の間隔を維持するように連結されている。一対のフレーム部材12,12を間隔を空けた状態に維持する方法はとくに限定されない。例えば、両者間にスペーサを配置した状態で、ボルト等によって一対のフレーム部材12,12を連結すれば、所定の間隔を維持した状態で、両者を連結することができる。
【0023】
この一対のフレーム部材12,12は板状の部材であり、実質的に同じ形状に形成されており、いずれもその一辺(
図1では下辺)に切欠き12hが形成されている。この切欠き12hは、その内底面12aが平坦面に形成されており、その内部にリンクピンLPが脱着されるチェーンC(以下単にチェーンCという)を収容できる程度の大きさに形成されている。具体的には、切欠き12hは、その幅がチェーンCの幅よりも大きく、その深さDpがチェーンCの高さCH程度となるように形成されている。なお、切欠き12hにおいて、後述するネジ形成部13と逆側に位置する側面12bは、内底面12aとほぼ直交するように形成される。
【0024】
上述した一対のフレーム部材12,12間には、ネジ形成部13が設けられている。このネジ形成部13には、その幅方向(
図1では左右方向)を貫通する雌ネジ孔13hが形成されている。具体的には、ネジ形成部13の雌ネジ孔13hは、その軸方向が切欠き12hの内底面12aと略平行となるように設けられている。しかも、ネジ形成部13の雌ネジ孔13hは、切欠き12hの内底面12aを含む平面SFからその中心軸までの距離13Lが、チェーンCの端縁からリンクピンLPまでの距離CLと同じ長さになるように設けられている。
【0025】
(軸部材15)
この本体部11のネジ形成部13の雌ネジ孔13hには、軸部材15が取り付けられている。
具体的には、軸部材15は、その側面に雄ネジが形成されたものであり、ネジ形成部13の雌ネジ孔13hに螺合されている。つまり、軸部材15は、その中心軸から切欠き12hの内底面12aを含む平面SFまでの距離がチェーンCの端縁からリンクピンLPまでの距離CLと同じ長さになるように配設されている。
しかも、軸部材15はネジ形成部13の雌ネジ孔13hに螺合されているので、軸部材15を回転させれば、軸部材15を進退させることができるようになっている。つまり、軸部材15は、その中心軸を切欠き12hの内底面12aと平行に維持した状態で、切欠き12hの幅方向に沿って移動できるようになっている。
【0026】
(本実施形態のピン脱着装置10によるリンクピンLP脱着作業)
以上のような構造であるので、以下のように作動させれば、ピン脱着装置10によって、チェーンCのリンクピンLPの脱着を行うことができる。なお、以下の説明は、レールR上に配置されているチェーンCにおいてリンクピンの脱着に使用する場合を説明する。
【0027】
まず、レールR上に配置されているチェーンCに対し、その上方からピン脱着装置10を設置する。具体的には、ピン脱着装置10の本体部11の切欠き12h内にチェーンCを配置する。このとき、切欠き12hの内底面12aが、チェーンCの上端面に接触するように配置する。このように配置すれば、軸部材15の中心軸は、チェーンCのリンクピンLPと同じ高さになるように配置される。
【0028】
この状態で、チェーンC上に沿ってピン脱着装置10を移動させて、軸部材15の中心軸と、着脱したいリンクピンLPの位置を合せる。つまり、軸部材15の中心軸とリンクピンLPの中心軸が同軸となるように、ピン脱着装置10を配置する。このとき、チェーンCの表面が切欠き12hの側面12bも面接触するようにピン脱着装置10を配置すれることが望ましい。すると、チェーンCに対してピン脱着装置10をしっかりと位置決めすることができる。
【0029】
この状態で、軸部材15をネジ形成部13の雌ネジ孔13hから突出させれば、リンクピンLPを軸部材15の先端によって押圧することができる。チェーンCの表面が切欠き12hの側面12bに面接触するように配置されていれば、リンクピンLPを押圧する力はリンクピンLPに集中して加わるようになる。すると、軸部材15に押圧されて、リンクピンLPは、チェーンCに対して移動するよう(
図2(A)参照)。
【0030】
やがて、軸部材15に押し出されて、リンクピンLPは一対のフレーム部材12,12間の空間に排出される。すると、リンクピンLPをチェーンCから取り外す作業が完了する。なお、リンクピンLPが排出される一対のフレーム部材12,12間の空間が特許請求の範囲にいう排出空間に相当する。
【0031】
一方、リンクピンLPを取り付ける場合には、ブシュの中心軸と軸部材15の中心軸を一致させた状態で、ブシュにリンクピンLPを配置して、軸部材15をネジ形成部13の雌ネジ孔13hから突出させる。すると、リンクピンLPを、その中心軸がブシュの中心軸と一致したまま押し込まれるので(
図2(B)参照)、リンクピンLPをチェーンCに取り付ける作業が完了する。
【0032】
以上のように、ピン脱着装置10は、チェーンCに簡単に設置でき、しかも、リンクピンLPの中心軸と軸部材5の中心軸を簡単に合わせることができるので、リンクピンLPを脱着するための前作業を簡単にできる。また、ピン脱着装置10は、切欠き12hの内底面12aがチェーンCの上端面に接触するように配置しているだけであるので、ピン脱着装置10を設置するためにチェーンCを持ち上げたりする必要がない。しかも、ピン脱着装置10は、ジャッキのような重い装置を有していないので、軽量かつコンパクトな構成となっている。
【0033】
したがって、本実施形態のピン脱着装置10であれば、少ない作業者かつ少ない作業工数で、簡単かつ迅速にリンクピンLPの脱着作業を実施できる。
【0034】
(切欠き12hについて)
切欠き12hの深さDpは、切欠き12hにチェーンCを配置したときに、軸部材15の中心軸とリンクピンLP(またはブシュの中心軸)とが同軸になるようになっていればよく、とくに限定されない。しかし、切欠き12hの深さDpをチェーンCの高さCH程度としておけば、切欠き12hにチェーンCを配置した際に、ピン脱着装置10を安定した状態に配置しておくことができる。
【0035】
(ネジ形成部13)
ネジ形成部13は、ネジ孔13hが形成されているものであれば、どのようなものであってもよく、その形状などはとくに限定されない。例えば、ブロック材や軸材にネジ孔を形成したものをネジ形成部としてもよい。とくに、市販のナットを使用すれば、ネジ孔を加工する必要がないので、安価かつ簡便にピン脱着装置10を製造することができる。
【0036】
(軸部材15)
軸部材15も、ネジ形成部13のネジ孔13hに螺合できるものであれば、どのようなものであってもよい。例えば、市販のボルトを使用すれば、安価かつ簡便にピン脱着装置10を製造することができる。
【0037】
(本体部について)
本体部は、上述したような一対のフレーム部材12,12とネジ形成部13を組み合わせて形成したものに限られない。例えば、ブロック体の一面に溝(チェーン収容溝)を形成して、その溝の幅方向に沿って溝とブロック体の外面とを連通する雌ネジ孔を形成する。そして、溝において、雌ネジ孔と対向する部分に、貫通孔や切欠き等によってリンクピンが排出される排出空間が設けて、本体部としてもよい。かかる本体部でも、溝の幅や深さを上述した切欠き12hと同等の長さとし、溝の内底面と雌ネジ孔の相対的な位置関係を、上述したネジ形成部13と切欠き12hの内底面12aの相対的な位置関係と同等の状態にする。すると、上述した、一対のフレーム部材12,12とネジ形成部13とからなる本体部11と同等の作用効果を得ることができる本体部とすることができる。
【0038】
しかし、本体部を、上述したような構成とすれば、本体部を軽量化できるので、装置の取り扱い性を向上でき、リンクピンLPを脱着する作業を効率よく行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のチェーンのピン脱着装置は、鉱石や砂利等のような重量物を搬送するために使用されるチェーンコンベアや、粉体物を大量に運搬する設備で使用されるチェーンコンベアのチェーンにおいてリンクピンの脱着を実施する装置に適している。
【符号の説明】
【0040】
10 ピン脱着装置
11 本体部
12 フレーム部材
12h 切欠き
12a 切欠きの内底面
13 ネジ形成部
13h 雌ネジ孔
15 軸部材
C チェーン
L リンク
LP リンクピン
LB ブシュ