(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6635575
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】安定性の良いフェノール化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 8/00 20060101AFI20200120BHJP
C07C 37/20 20060101ALI20200120BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20200120BHJP
C08G 59/08 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
C08G8/00 A
C07C37/20
C07C39/16
C08G59/08
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-91674(P2014-91674)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-209490(P2015-209490A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年4月21日
【審判番号】不服2019-4766(P2019-4766/J1)
【審判請求日】2019年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501479710
【氏名又は名称】株式会社 国都化▲学▼
【氏名又は名称原語表記】KUKDO CHEMICAL CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100089406
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏
(72)【発明者】
【氏名】宅和 成剛
(72)【発明者】
【氏名】印出 広太
(72)【発明者】
【氏名】野口 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】村井 秀征
(72)【発明者】
【氏名】吉村 康男
(72)【発明者】
【氏名】申 泰圭
(72)【発明者】
【氏名】李 鎭洙
【合議体】
【審判長】
佐藤 健史
【審判官】
井上 猛
【審判官】
大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−262815(JP,A)
【文献】
特開昭60−53516(JP,A)
【文献】
特開平6−128183(JP,A)
【文献】
特開昭62−195009(JP,A)
【文献】
特開2001−253924(JP,A)
【文献】
特開2005−263985(JP,A)
【文献】
特表2000−503693(JP,A)
【文献】
特開昭56−69190(JP,A)
【文献】
特開2001−48961(JP,A)
【文献】
特開平7−53666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/00-8/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、アルデヒド類またはケトン類、及びフェノール類より得られる、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法であって、該フェノール類化合物
(1)中に含まれる金属イオン濃度は0.1〜10mg/kgであり、該フェノール
類化合物(1)中の溶存酸素濃度は0.01〜1.0mg/L
である製造方法であり、使用する原料の総金属イオンを0.1〜10mg/kgに調整すると共に、
該フェノール類化合物(1)中の溶存酸素は製品化前に酸素以外の気体をバブリング
することにより置換することを特徴とする熱および/または酸素に対して安定
性の良い、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法。
【化1】
(式中、R
1はそれぞれ独立に炭素数1〜12の炭化水素基であり、R
2は炭素数1〜13の炭化水素基、または−C(CF
3)−であり、kはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、nは1以上の整数である。)
【請求項2】
上記酸素以外の気体が窒素ガスである請求項1記載の熱および/または酸素に対して安定性の良い、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法。
【請求項3】
触媒の存在下、アルデヒド類またはケトン類、及びフェノール類より得られる、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(
1)の製造方法であって、
該フェノール類化合物(1)中に含まれる金属イオン濃度は0.1〜10mg/kgであり、該フェノール類化合物(1)中の溶存酸素濃度は0.01〜1.0mg/Lである製造方法であり、使用する原料中の総金属イオン濃度を0.1〜10mg/kgの範囲とする一方、該フェノール類化合物(1)の溶存酸素濃度を0.01〜1.0mg/Lの範囲となるように、溶融状態の該フェノール類化合物(1)を減圧脱気することを特徴とする熱および/または酸素に対して安定性の良い、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法。
【化2】
(式中、R1はそれぞれ独立に炭素数1〜12の炭化水素基であり、R2は炭素数1〜13の炭化水素基、または−C(CF3)−であり、kはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、nは1以上の整数である。)
【請求項4】
上記フェノール類化合物(1)がビスフェノールFである請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱および/または酸素に対して熱安定性の良い、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法。
【請求項5】
上記フェノール類化合物(1)がフェノールノボラック樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱および/または酸素に対して安定性の良い、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法。
【請求項6】
上記フェノール類化合物(1)がビスフェノールF及びフェノールノボラック樹脂を併産する製造方法で得られるビスフェノールF及びフェノールノボラック樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱および/または酸素に対して安定性の良い、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法。
【請求項7】
上記金属イオン濃度がリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、およびカルシウムイオンの各濃度の総合計である請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱および/または酸素に対して熱安定性の良い、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法。
【請求項8】
上記アルデヒド類がホルムアルデヒドであり、上記フェノール類がフェノールである請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱および/または酸素に対して熱安定性の良い、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒド類(以下、単にアルデヒドという場合がある)またはケトン類(以下、単にケトンという場合がある)とフェノール類(以下、単にフェノールという場合がある)より製造される熱および/または酸素に対して安定性の良いフェノール化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールやフェノールノボラック樹脂は、エピクロルヒドリンと反応させてグリシジルエーテル化して、エポキシ樹脂として広く利用されている。これらのフェノール化合物は熱及び酸素に敏感に反応することが公知であり、熱および/または酸素に暴露した際にこれらのフェノール化合物は分解生成物を形成し、この分解生成物を含むフェノール化合物より製造されたエポキシ樹脂の物性に対しても悪影響を与える。特に、ビスフェノールFやフェノールノボラック樹脂は、フェノールにホルマリンを加え、酸触媒を用いて縮合させることによって製造されるが、これらを長期間保存すると着色が著しい。また、このように着色したフェノール化合物を用いて得られるエポキシ樹脂も着色し、製品価値を著しく損なってしまう。そのため、反応液の溶存酸素を制御することで得られるフェノール化合物の着色を防止する提案がされ、現在では標準的な手法となっており、得られるフェノール化合物の色相はきれいである(特許文献1)。しかしながらその方法で得られたフェノール化合物であっても、長期間保存すると着色する傾向や、熱時の分解性の解決にはなっていない。
【0003】
そこで、これらのフェノール化合物を安定化させるため、安定剤として、乳酸、リンゴ酸、グリセリン酸、またはその金属塩を添加する方法(特許文献2)や、無水フタル酸や無水フタル酸誘導体を添加する方法(特許文献3)や、L−アスコルビン酸やDL−α−トコフエロールを添加する方法(特許文献4)が提案されている。しかしながら、これらの方法では、安定剤が不純物として混入するため、いわゆる間接法と呼ばれる低分子エポキシ樹脂とフェノール化合物との反応で得られるエポキシ樹脂の製造方法では、エポキシ樹脂に安定剤が混入し、物性を悪化させる場合がある。
また、ビスフェノールF及びフェノールノボラック樹脂を併産する製造方法では、蒸留工程が必ず含まれるため、熱の影響を受ける可能性が大きいが、従来方法では特に配慮された製法にはなっていなかった(特許文献5、特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−195009号公報
【特許文献2】特許2820746号公報
【特許文献3】特開昭55−151526号公報
【特許文献4】特許3008374号公報
【特許文献5】特開平6−128183号公報
【特許文献6】特開2011−68760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み開発されたものであり、目的とするところは、アルデヒドまたはケトンとフェノールより製造されるフェノール化合物において、特別な安定剤を使用することなく、熱および/または酸素に対して安定性の良いフェノール化合物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アルデヒドまたはケトンとフェノールより製造されるフェノール化合物において、フェノール化合物中の金属イオンと溶存酸素濃度を従来より大幅に低減させた一定範囲で制御すれば、特別な安定剤を使用することなく、熱および/または酸素に対して安定性の良いフェノール化合物を得られることを見出し、本発明に完成した。
【0007】
即ち、本発明は、
触媒の存在下、アルデヒド類またはケトン類、及びフェノール類より得られる
、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法であって、使用する原料中の金属イオン濃度を0.1〜10mg/kgの範囲とする一方、上記フェノール類化合物(1)中の溶存酸素濃度を0.01〜1.0mg/Lの範囲となるように、溶融状態の該フェノール類化合物(1)に酸素以外の気体をバブリングすること、または溶融状態の該フェノール類化合物(1)を減圧脱気することを特徴とする熱および/または酸素に対して安定性の良い
、エポキシ樹脂原料用のフェノール類化合物(1)の製造方法である。
【0008】
上記フェノール類化合物は、ビスフェノールFまたはフェノールノボラック樹脂が好ましく、
【0009】
上記フェノール類化合物は、ビスフェノールF及びフェノールノボラック樹脂を併産する製造方法で得られるビスフェノールF及びフェノールノボラック樹脂がより好ましい。
【0010】
上記アルデヒド類はホルムアルデヒドが好ましく、上記フェノール類はフェノールが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱および/または酸素に対して安定性の良いフェノール類化合物は、特別な安定剤を必要としないため、その後の使用時にほとんど悪影響を及ぼさないフェノール類化合物が得られ、いわゆる間接法によるエポキシ樹脂の製造方法の原料として適したフェノール類化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のフェノール類化合物とは、下記一般式(1)で示される、アルデヒド類またはケトン類、及びフェノール類より製造されるフェノール類化合物であり、そのフェノール類化合物中の金属イオン濃度は0.1〜10mg/kgであり、溶存酸素濃度は0.01〜1.0mg/Lであるフェノール類化合物を指す。
【0013】
【化1】
(式中、R
1はそれぞれ独立に炭素数1〜12の炭化水素基であり、R
2は炭素数1〜13の炭化水素基、または−C(CF
3)−であり、kはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、nは1以上の整数である。)
【0014】
原料のフェノール類はフェノールの他に例えば、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール等のアルキルフェノール類や、その(オルソ、メタ、パラ)位置置換体、(n−、sec−、tert−等の)置換基構造異性体を使用することもできる。中でも、反応性や蒸留回収の容易さから、フェノールが好ましい。フェノールは単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
【0015】
原料のアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド(ホルマリン)、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0016】
原料のケトン類は、例えば、アセトン、ブタノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン、ヘキサフルオロアセトン等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0017】
本発明のフェノール類化合物の製造には、一般的なフェノール化合物の製造と同様に、触媒が用いることが好ましい。用いることのできる触媒として具体的には、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、サリチル酸、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸等の有機酸等の酸触媒や、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア水、トリエチルアミン等の第3級アミン、カルシウム、マグネシウム、バリウム等アルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム等の塩基性触媒が挙げられる。また、イオン交換樹脂のような固体触媒の固定床であっても良い。本発明では特に触媒の規定はないが酸触媒が好ましく、具体的にはシュウ酸、パラトルエンスルホン酸が好ましい。
【0018】
また、製造における反応温度や反応時間は、用いる触媒の種類、量または反応モル比〔フェノール類/アルデヒド類またはケトン類〕等によっても異なるが、反応温度は通常50〜110℃であり、反応時間は通常0.5〜10時間である。
【0019】
具体的なフェノール類化合物には、フェノールとアセトンから得られるビスフェノールA、フェノールとホルマリンから得られるビスフェノールF、フェノールとアセトフェノンから得られるビスフェノールAP、フェノールとヘキサフルオロアセトンから得られるビスフェノールAF、フェノールとブタノンから得られるビスフェノールB、フェノールとベンゾフェノンから得られるビスフェノールBP、クレゾールとアセトンから得られるビスフェノールC、フェノールとアセトアルデヒドから得られるビスフェノールE、2−イソプロプルフェノールとアセトンから得られるビスフェノールG、2−フェニルフェノールとアセトンから得られるビスフェノールPH、フェノールとシクロヘキサノンから得られるビスフェノールZ等のビスフェノールや、フェノールとホルマリンから得られるフェノールノボラック、クレゾールとホルマリンから得られるクレゾールノボラック、オクチルフェノールとホルマリンから得られるオクチルフェノールノボラック等のフェノールノボラック等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、明細書中でフェノール化合物というときは、特に断りがない限り、これら本発明のフェノール化合物を指す。本発明以外のフェノール化合物や本発明以外のフェノール化合物を含む場合は、その都度明確に区別する。
【0020】
これらのフェノール化合物中に含まれる金属イオン濃度が0.1〜10mg/kgの範囲であり、フェノール化合物中の溶存酸素濃度が0.01〜1.0mg/Lの範囲を満足すれば、これらのフェノール化合物は、熱および/または酸素に対して安定性の良いフェノール化合物であり、長期間の保管でも着色せず、高温に保持されても熱分解が起こりにくい。
【0021】
フェノール化合物中の金属イオン濃度は、0.1〜10mg/kgの範囲であれば、特に熱に対する安定性が向上し、熱分解が起こりにくい。熱分解は残存する酸触媒量の影響が大きく、残存量が多いと熱分解が起こりやすい。また、熱分解の起こりやすくなる量は酸触媒の種類によって異なるが、本発明では、その種類に関係なく、その対となる金属イオン濃度を制御することで、熱分解が起こりにくい範囲を見出した。そのフェノール化合物中の金属イオン濃度の範囲は、0.1〜10mg/kgであり、0.1〜7mg/kgがより好ましく、0.1〜5mg/kgがさらに好ましく、0.1〜3mg/kgが特に好ましい。この金属イオン濃度は、フェノール化合物合成時に使用される酸触媒の残存量の指標であり酸触媒の種類には関係なく、金属イオンは少ないほど残存する酸触媒量が少なくなる。しかしながら、金属イオン濃度を強制的に減らすには、水洗等の工程が必要になるので、工程の煩雑さや収率低下が懸念され実製造上好ましくない。ほとんどの場合、原料のフェノール、アルデヒド、またはケトン中の金属イオンの総量がそのままフェノール化合物中に残存するため、原料中の金属イオン量の制御が現実的であり、使用する原料の総金属イオン濃度を0.1〜10mg/kgの範囲に調整することが好ましい。
【0022】
なお、金属イオン濃度は蛍光X線法で求めるが、ほとんどの金属イオンが検出以下なので、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、およびカルシウムイオンの各濃度の総合計としてもよい。その場合、簡便的にイオンクロマトグラフィーによる定量法を用いてもよい。
【0023】
フェノール化合物中の溶存酸素濃度が、0.01〜1.0mg/Lの範囲であれば、熱に対する安定性が向上し、熱分解が起こりにくくなり、また、酸素に対する安定性が向上し、長期間の保管でも着色しなくなる。溶存酸素は熱分解の起因となりやすく、多いほど熱分解が促進される。さらに、溶存酸素は、フェノール化合物の着色要因に大きくかかわり、着色は酸化によるものと考えられている。そのため、従来は酸化防止剤を添加して酸化を抑制していたが、本発明では、フェノール化合物中の溶存酸素の範囲を制御することで酸化自体が起こりづらく、着色しづらいことを見出した。そのフェノール化合物中の溶存酸素濃度の範囲は、0.01〜1.0mg/Lであり、0.01〜0.7mg/Lが好ましく、0.01〜0.5mg/Lがより好ましく、0.01〜0.3mg/Lがさらに好ましい。この溶存酸素濃度は長期保管時の着色度合の目安となる。0.01〜1.0mg/Lの範囲であれば、60℃の保管でも、60日間は着色はほとんど認められないが、溶存酸素が多くなると、それに従い、着色が始まる期間が短くなる。この溶存酸素はフェノール化合物の製品化前に、酸素以外の気体、具体的には、水蒸気(水)、二酸化炭素、ヘリウム、窒素等の気体で置換すればよく、コストや入手の容易さから置換する気体は窒素が好ましい。溶存酸素を減らす目的では、水蒸気でも問題ないが、その手法で得られたフェノール化合物は、水分量を嫌がる用途では使用できない。また、フェノール化合物を溶融液状化させ減圧による脱気も考えられるが、気体置換の手法よりは効率が悪い。いずれの手法を使用しても良いが、フェノール化合物中の溶存酸素濃度を、0.01〜1.0mg/Lにすることが重要である。
【0024】
なお、フェノール化合物中の溶存酸素濃度は、以下の測定方法によって求める。
フェノール化合物70質量部を精秤し、密閉できる容器に投入する。あらかじめ精秤しておいたN,N−ジメチルホルムアミド30質量部を、空気を巻き込まないように静かに同じ容器に添加する。その際、同容器の空隙率が5容量%以下になるようにする。同容器を密閉した後、振盪機で完全に溶解する。完全に溶解した不揮発分70質量%のフェノール化合物のN,N−ジメチルホルムアミド溶液を25℃にて溶存酸素計を用いて溶存酸素を測定する。それとは別に、使用したN,N−ジメチルホルムアミドも同じ溶存酸素計で溶存酸素を測定する。なお、N,N−ジメチルホルムアミドは予め窒素バブリングを10分以上行い溶存酸素を減らしたものを使用する。フェノール化合物中の溶存酸素濃度は次式によって計算する。
【0025】
【数1】
但し、
DO :フェノール化合物中の溶存酸素濃度(mg/L)
DO
1:フェノール化合物のN,N−ジメチルホルムアミド溶液の溶存酸素濃度(mg/L)
DO
0:N,N−ジメチルホルムアミドの溶存酸素濃度(mg/L)
w :フェノール化合物の質量部(kg)
w
0:N,N−ジメチルホルムアミドの質量部(kg)
ρ :フェノール化合物の密度(kg/L)
ρ
0:N,N−ジメチルホルムアミドの密度、0.944(kg/L)
【0026】
本発明は、安定性の悪いビスフェノールFやフェノールノボラック樹脂に有効であり、ビスフェノールFを蒸留して高純度ビスフェノールFを得る製法や、ビスフェノールFとフェノールノボラック樹脂を併産する製法に特に有効である。ビスフェノールFを蒸留して高純度ビスフェノールFを得る製法では、使用するビスフェノールFが本発明のフェノール化合物であれば、着色も分解も起こらずに高純度ビスフェノールFが得られる。また、ビスフェノールFとフェノールノボラック樹脂を併産する製法では、蒸留工程、即ちビスフェノールFとフェノールノボラック樹脂を分離する工程に、本発明のフェノール化合物を供給すれば着色も分解も起こらずにビスフェノールFとフェノールノボラック樹脂が得られる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。実施例において、特に断りがない限り「部」は質量部を表し、「%」は質量%を表す。なお、実施例及び比較例における各種特性値の測定は、下記(1)〜(3)の方法により実施した。
【0028】
(1)金属イオン濃度:遠沈管(フッ素樹脂製、蓋付き、50ml)に試料約1gを精秤採取した後、メチルイソブチルケトン(以下MIBKという)20mlを加えて完全に溶解した後、純水10mlを加えて蓋を閉めて、5分間以上激しく振って水層に金属イオンを抽出した後、遠心分離装置を使用して、MIBK層と水層に遠心分離し、分離した水層をイオンクロマトグラフィーによる定量法を用いて、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、およびカルシウムイオンの各濃度を求めた。各イオン濃度の合計をフェノール化合物中の金属イオン濃度に換算した。
【0029】
(2)溶存酸素濃度:上記の溶存酸素濃度の測定方法に従った。
【0030】
(3)ガードナー色数:JIS K−0071−2に準拠して、フェノール化合物の溶融色を測定した。
【0031】
実施例1
撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、減圧装置等を備えた撹拌槽型反応機に、フェノール(金属イオン濃度3.0mg/kg)を1300部を加えて80℃まで昇温した後、3.9部のシュウ酸2水和物(金属イオン濃度1.1mg/kg)を添加し、10分間撹拌溶解した後、246部の37.5%ホルマリン(金属イオン濃度3.5mg/kg)を30分間かけて滴下した。その後、反応温度を92℃に維持して3時間反応を続けた。反応終了後、110℃まで温度を上げ、脱水を行った後、残存するフェノールを150℃、60mmHgの回収条件で約90%回収した後、5mmHgの回収条件で回収した後、さらに160℃、80mmHgの条件下で水10部を90分間かけて滴下して残存するフェノールを除去した後、溶融しているフェノールノボラック樹脂中に窒素ガスを60分間バブリングして、フェノールノボラック樹脂を得た。
【0032】
実施例2
実施例1で得られたフェノールノボラック樹脂を、ロータ回転数を250rpmとし、真空度が3〜5mmHgで運転される遠心薄膜蒸発器に21kg/hrで連続的に1時間供給し、蒸発成分および缶出成分を連続的に抜き出し、それぞれ、ビスフェノールFおよびフェノールノボラック樹脂を得た。遠心薄膜蒸発器はジャケット付で、加熱伝面が0.21m
2でジャケットには260℃の熱媒を流した。また、遠心薄膜蒸発器は外部コンデンサーを有し、冷却伝面が1.3m
2で120℃の加温水を流し、蒸発成分の全量を凝縮させて抜出した。
【0033】
実施例3
撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、減圧装置等を備えた撹拌槽型反応機に、フェノール(金属イオン濃度4.0mg/kg)を1300部を加えて80℃まで昇温した後、3.9部のパラトルエンスルホン酸(金属イオン濃度0.8mg/kg)を10質量%の水溶液として添加し、10分間撹拌溶解した後、246部の37.5%ホルマリン(金属イオン濃度4.5mg/kg)を30分間かけて滴下した。その後、反応温度を92℃に維持して3時間反応を続けた。反応終了後、48%の水酸化ナトリウム水溶液で中和後、水洗を1回行い、110℃まで温度を上げ、脱水を行った後、残存するフェノールを150℃、60mmHgの回収条件で約90%回収した後、5mmHgの回収条件で回収した後、さらに160℃、80mmHgの条件下で水10部を90分間かけて滴下して残存するフェノールを除去した後、溶融しているフェノールノボラック樹脂中に窒素ガスを40分間バブリングして、フェノールノボラック樹脂を得た。
【0034】
実施例4
撹拌機、温度調節装置、還流冷却器、全縮器、減圧装置等を備えた撹拌槽型反応機に、フェノール(金属イオン濃度6.0mg/kg)を1500部を加えて80℃まで昇温した後、65部のシュウ酸2水和物(金属イオン濃度1.1mg/kg)を10質量%の水溶液として添加し、10分間撹拌溶解した後、246部の37.5%ホルマリン(金属イオン濃度4.5mg/kg)を30分間かけて滴下した。その後、反応温度を92℃に維持して3時間反応を続けた。反応終了後、110℃まで温度を上げ、脱水を行った後、残存するフェノールを150℃、60mmHgの回収条件で約90%回収した後、5mmHgの回収条件で回収した後、さらに160℃、80mmHgの条件下で水10部を90分間かけて滴下して残存するフェノールを除去した後、溶融しているビスフェノールFに窒素ガスを20分間バブリングして、ビスフェノールFを得た。
【0035】
比較例1
溶融しているフェノールノボラック樹脂中に窒素ガスによるバブリングを全く行わなかったこと以外は、実施例1と全く同様の操作でフェノールノボラック樹脂を得た。
【0036】
比較例2
比較例1で得られたフェノールノボラック樹脂を使用した以外は、実施例2と全く同様の操作でビスフェノールFとフェノールノボラック樹脂を得た。
【0037】
比較例3
使用した原料をフェノール(金属イオン濃度11mg/kg含有)、シュウ酸2水和物(金属イオン濃度1.1mg/kg含有)、37.5%ホルマリン(金属イオン濃度13mg/kg含有)とした以外は、実施例1と全く同様の操作でフェノールノボラック樹脂を得た。
【0038】
比較例4
使用した原料をフェノール(金属イオン濃度11mg/kg含有)、シュウ酸2水和物(金属イオン濃度1.1mg/kg含有)、37.5%ホルマリン(金属イオン濃度13mg/kg含有)とし、かつ、溶融しているビスフェノールFに窒素ガスによるバブリングを全く行わなかったこと以外は、実施例4と全く同様の操作でビスフェノールFを得た。
【0039】
実施例1〜4、及び比較例1〜4で得られたフェノール化合物の金属イオン濃度、溶存酸素濃度、ガードナー色数を表1に示す。なお、表中のPNはフェノールノボラック樹脂を、BPFはビスフェノールFをそれぞれ示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例5〜8、比較例5〜8
実施例1、実施例3、比較例1、および比較例3のフェノールノボラック樹脂と実施例2、実施例4、比較例2、および比較例4で得られたビスフェノールFを、それぞれ密閉できる容器に入れ、60℃の恒温に管理されている恒温装置に保管して、着色度合いを確認した。その結果を表2に示した。なお、表中のPNはフェノールノボラック樹脂を、BPFはビスフェノールFをそれぞれ示す。
【0042】
【表2】