特許第6638360号(P6638360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6638360プラズマ処理装置のクリーニング方法及びクリーニング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6638360
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置のクリーニング方法及びクリーニング装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20200120BHJP
【FI】
   H01L21/302 101H
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-239562(P2015-239562)
(22)【出願日】2015年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-107943(P2017-107943A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】沼尾 善行
(72)【発明者】
【氏名】永井 達夫
【審査官】 鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/082724(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0186431(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/038371(WO,A1)
【文献】 特開2008−235562(JP,A)
【文献】 特表2007−531996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/304
H01L 21/3065
H01L 21/31
H01L 21/365
H01L 21/461
H01L 21/469
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板を収容する処理チャンバと、前記処理チャンバ内に配設され、前記被処理基板が載置される下部電極と、前記下部電極と対向する上部電極と、前記処理チャンバ内を減圧する減圧機構とを有するプラズマ処理装置の前記処理チャンバ内の構成部材及び/又は前記処理チャンバの内壁面に付着した付着物を除去するプラズマ処理装置のクリーニング方法であって、
前記付着物がフッ化物であり、
前記処理チャンバ内に水蒸気を含む処理ガスを供給し、
前記水蒸気を含む処理ガスをプラズマ化し、
該プラズマ化した水蒸気を含む処理ガスにより前記処理チャンバ内の構成部材及び/又は前記処理チャンバの内壁面を処理する
ことを特徴とするプラズマ処理装置のクリーニング方法。
【請求項2】
前記水蒸気を含む処理ガスが、前記プラズマ処理装置の上部電極もしくは上部電極近傍から噴霧されることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置のクリーニング方法。
【請求項3】
前記水蒸気を含む処理ガスが、希ガス、酸素、窒素及び水素の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置のクリーニング方法。
【請求項4】
前記水蒸気を含む処理ガスをプラズマ化するための高周波出力(RF出力)が5〜300W/cmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラズマ処理装置のクリーニング方法。
【請求項5】
前記水蒸気を含む処理ガスを減圧状態下で0.5〜20Paの圧力となるように供給することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理装置のクリーニング方法。
【請求項6】
被処理基板を収容する処理チャンバと、前記処理チャンバ内に配設され、前記被処理基板が載置される下部電極と、前記下部電極と対向する上部電極と、前記処理チャンバ内を減圧する減圧機構とを有するプラズマ処理装置の前記処理チャンバ内の構成部材及び/又は前記処理チャンバの内壁面に付着した付着物を除去するプラズマ処理装置のクリーニング装置であって、
前記付着物がフッ化物であり、
前記処理チャンバ内に水蒸気を含む処理ガスを噴霧する噴霧機構
を備え
前記水蒸気を含む処理ガスをプラズマ化し、
該プラズマ化した水蒸気を含む処理ガスにより前記処理チャンバ内の構成部材を処理することを特徴とするプラズマ処理装置のクリーニング装置。
【請求項7】
前記噴霧機構が、前記プラズマ処理装置の上部電極もしくは上部電極近傍に前記処理ガスを噴霧する噴霧口を有することを特徴とする請求項6に記載のプラズマ処理装置のクリーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライエッチングなどに使用するプラズマ処理装置のクリーニング方法及びクリーニング装置に関し、特にプラズマ処理装置のチャンバ内を効率よく効果的にクリーニングする方法及びクリーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体の製造工程等では、ガスをプラズマ化して被処理基板(例えば、半導体ウェハ)に作用させ、被処理基板にエッチング処理やスパッタ処理あるいはイオン注入処理等を施す際にプラズマ処理装置が用いられている。また、このようなプラズマ処理装置としては、処理チャンバ内に平板状の上部電極と下部電極とが平行に対向するように配置され、これらの電極間に高周波電力を印加してプラズマを発生させながら、ガス供給部からエッチングガスを供給する、いわゆる平行平板型のプラズマ処理装置が知られており、さらに、このような構造のプラズマ処理装置において磁界を用いてプラズマ密度を制御するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプラズマ処理装置では、プラズマエッチング等のプラズマ処理を繰り返して行うと、プラズマ化するガスの一成分として用いられているハロゲン系ガス(例えばCF)との反応による副生成物が処理チャンバ内に配置された各種構成部材(部品)、特に上部電極に副生成物が付着し次第に増大したり、ガス供給部のガス穴内に付着した場合にはガス供給量が減少したりするなど、プラズマ処理に悪影響を与える可能性がある。このため、定期的に処理チャンバ内の構成部材に付着した付着物を除去するクリーニングを行っている。
【0004】
このプラズマ処理装置の部品のクリーニング方法としては、処理チャンバ内に酸素、水素、窒素などのクリーニングガスのプラズマを発生させて付着物をエッチングし除去する方法が知られている(特許文献2)。
【0005】
また、処理チャンバ内にクリーニングガスのプラズマを発生させてプラズマによって付着物をエッチングするとともに複数のコイルに通電して磁界を発生させ、かつ上部電極に付着した付着物の径方向における厚さに応じて該複数のコイルに通電する通電量をコイル毎に変更する方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−149722号公報
【特許文献2】特開2009−99858号公報
【特許文献3】特開2015−170611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年メモリ等の半導体デバイスの微細化、高集積化は限界に近くなっており、積層によって容量を増やす3次元NANDメモリ等が主流になっている。この3次元NANDメモリは、積層数を増やすことによって容量を増やすことができるが、積層数が増える分、プラズマエッチング工程の処理時間も延びるので、処理チャンバ内の付着物も増加する。このため上述したようなチャンバ内のクリーニングを頻繁に行わなければならず、クリーニングを効率的に短時間で行う方法の開発が求められていた。
【0008】
ここで、プラズマ処理装置の処理チャンバ内の構成部材への付着物は、プラズマ化するガスの一成分として用いられているハロゲン系ガス(例えばCF)とイットリアやアルマイトなどの半導体材料とのプラズマによる反応生成物(例えばYFやAlF)が主なものであり、これを除去する必要がある。
【0009】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3に記載されたクリーニング方法は、プラズマ処理装置のチャンバ内でクリーニングガスのプラズマを発生させて構成部材の付着物をエッチングして除去するものであるので、処理効率が悪く構成部材に付着した副生成物が厚いときには十分に除去できない、という問題点がある。一方、構成部材に付着した副生成物を十分に除去しようとすると、これらのクリーニングガスはプラズマ化によるエッチング作用により副生成物(付着物)を除去するものであるので、クリーニング対象となる上部電極など構成部材の素材自体が損耗してしまうという問題点がある。また、除去作業に非常に手間がかかるという課題もある。
【0010】
そこで、処理チャンバ内のプラズマ処理装置の構成部材、特に上部電極への付着物が多い時には、これを処理チャンバ内から一旦取り出して、化学薬品やサンドブラストにより付着物を除去している。しかしながら、半導体ウェハなどの被処理基板はプラズマ処理装置により処理することから、プラズマ処理装置を分解して副生成物が付着した構成部材を取り出すことなく、装置内で処理できれば作業効率やプラズマ処理装置の停止時間を短くするうえで望ましい。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、プラズマ処理装置を分解して処理チャンバ内から副生成物が付着した構成部材を取り出すことなく、クリーニング時における上部電極など被対象物の損耗を抑制することができるとともに、プラズマによるYFなどのフッ化物の付着物を効率よく短時間で除去することの可能なプラズマ処理装置のクリーニング方法及びこのクリーニング方法を実施するためのクリーニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に鑑み、本発明は、第一に、被処理基板を収容する処理チャンバと、前記処理チャンバ内に配設され、前記被処理基板が載置される下部電極と、前記下部電極と対向する上部電極と、前記処理チャンバ内を減圧する減圧機構とを有するプラズマ処理装置の前記処理チャンバ内の構成部材及び/又は前記処理チャンバの内壁面に付着した付着物を除去するプラズマ処理装置のクリーニング方法であって、前記処理チャンバ内に水蒸気を含む処理ガスを供給し、前記水蒸気をプラズマ化し、該プラズマ化した水蒸気を含む処理ガスにより前記処理チャンバ内の構成部材及び/又は前記処理チャンバの内壁面を処理することを特徴とするプラズマ処理装置のクリーニング方法を提供する(発明1)。
【0013】
かかる発明(発明1)によれば、水(水蒸気)をプラズマ化すると水素ラジカル(H・)とヒドロキシラジカル(OH・)とが生成する。プラズマ処理において、処理チャンバ内の構成部材や処理チャンバの内壁面への付着物は、ほとんどはプラズマ化するガスの一成分として用いられている例えばCFなどのハロゲン系ガスとイットリアやアルマイト(Al)などの被処理基板となる半導体材料とが反応したYFやAlFなどのフッ化物であるので、処理チャンバ内に水蒸気を供給し、これをブラズマ化して水蒸気プラズマで処理することにより、生成した水素ラジカル(H・)が付着物となっているYF、AlFなどのフッ化物中のFと反応してHFとすることでこれを除去する。また、残存するY、Alなどのフッ化物中の陽イオン側の元素は、ヒドロキシラジカル(OH・)との反応によりイットリア(Y)、アルマイト(Al)などの酸化物となる。これらによりプラズマ処理装置の処理チャンバ内の上部電極などの構成部材自身の損耗を抑制して、効率よく短時間で該構成部材をクリーニングすることができる。
【0014】
上記発明(発明1)においては、前記水蒸気を含む処理ガスが、前記プラズマ処理装置の上部電極もしくは上部電極近傍から噴霧されるのが好ましい(発明2)。
【0015】
かかる発明(発明2)によれば、水蒸気を含む処理ガスを上部電極側から噴霧してプラズマ化することにより、上部電極付近のプラズマ濃度を高めることができ、付着物の付着量が多くなりやすい上部電極を特に効率よくクリーングすることができる。
【0016】
上記発明(発明1,2)においては、前記水蒸気を含む処理ガスが、希ガス、酸素、窒素及び水素の1種又は2種以上を含有するのが好ましい(発明3)。
【0017】
かかる発明(発明3)によれば、上述したプラズマ化した水蒸気によるクリーニング効果に加え、プラズマ化した他のガス成分によるエッチング効果も期待できる。このエッチング効果は酸化物よりもフッ化物に対してより優先する傾向を示すので、効率的にプラズマ処理装置の処理チャンバ内の上部電極などの構成部材に付着した付着物をクリーニングすることができる。
【0018】
上記発明(発明1〜3)においては、前記処理ガスをプラズマ化するための高周波出力(RF出力)が5〜300W/cmであるのが好ましい(発明4)。
【0019】
かかる発明(発明4)によれば、上記出力で処理ガスに高周波電力を付与することで、該処理ガスを効率的にプラズマ化することができるとともに処理対象である付着物が付着した構成部材自身の損耗が軽微で済む。
【0020】
上記発明(発明1〜4)においては、前記水蒸気を含む処理ガスを減圧状態下で0.5〜20Paの圧力となるように供給するのが好ましい(発明5)。
【0021】
かかる発明(発明5)によれば、処理空間である処理チャンバ内を減圧した状態で上記圧力の処理ガスを供給することで、該処理チャンバ内の処理ガスを効率よくプラズマ化しながら素早く拡散させて、短時間でクリーニングすることができるとともに処理対象である構成部材自身に与える影響が軽微で済む。
【0022】
また、本発明は、第二に、被処理基板を収容する処理チャンバと、前記処理チャンバ内に配設され、前記被処理基板が載置される下部電極と、前記下部電極と対向する上部電極と、前記処理チャンバ内を減圧する減圧機構とを有するプラズマ処理装置の前記処理チャンバ内の構成部材及び/又は前記処理チャンバの内壁面に付着した付着物を除去するプラズマ処理装置のクリーニング装置であって、前記処理チャンバ内に水蒸気を含む処理ガスを噴霧する噴霧機構を備えることを特徴とするプラズマ処理装置のクリーニング装置を提供する(発明6)。
【0023】
かかる発明(発明6)によれば、水(水蒸気)をプラズマ化すると水素ラジカル(H・)とヒドロキシラジカル(OH・)とが生成する。プラズマ処理において、処理チャンバ内の構成部材や処理チャンバの内壁面への付着物は、ほとんどはプラズマ化するガスの一成分として用いられている例えばCFなどのハロゲン系ガスとイットリアやアルマイト(Al)などの被処理基板となる半導体材料とが反応したYFやAlFなどのフッ化物であるので、処理チャンバ内を減圧しながら噴霧機構から処理チャンバ内に水蒸気を供給し、上部電極及び下部電極に高周波電流を供与することで、処理チャンバ内の構成部材や処理チャンバの内壁面に付着した付着物を水蒸気プラズマで処理することができる。これによりプラズマ処理装置の処理チャンバ内の上部電極などの構成部材自身の損耗を抑制して、効率よく短時間で該構成部材をクリーニングすることができる。
【0024】
前記発明(発明6)においては、前記噴霧機構が、前記プラズマ処理装置の上部電極もしくは上部電極近傍に前記処理ガスを噴霧する噴霧口を有するのが好ましい(発明7)。
【0025】
かかる発明(発明7)によれば、水蒸気を含む処理ガスを上部電極側から噴霧してプラズマ化することができるので、上部電極付近のプラズマ濃度を高めることができ、付着物の付着量が多くなりやすい上部電極を特に効率よくクリーニングすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のプラズマ処理装置のクリーニング方法によれば、プラズマ処理装置の処理チャンバ内の構成部材や処理チャンバの内壁面に付着した付着物を、該処理チャンバ内に供給した水蒸気を含む処理ガスをプラズマ化して処理しているので、水蒸気をプラズマ化して生成した水素ラジカル(H・)が付着物となっているYFなどのフッ化物中のFと反応してHFとすることでこれを除去する。また、残存するYなどのフッ化物中の陽イオン側の元素は、ヒドロキシラジカル(OH・)との反応によりイットリア(Y)などの酸化物となり、エッチングなどのように付着物を過度に擦り取って素地を損耗するようなことがなく、選択的に除去することができる。これによりクリーニング対象となるプラズマ処理装置の上部電極などの構成部材を処理チャンバ内から取り出すことなく、その損耗を抑制して、効率よく短時間でプラズマ処理装置をクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第一の実施形態によるプラズマ処理装置のクリーニング装置を模式的に示す概略図である。
図2】本発明の第二の実施形態によるプラズマ処理装置のクリーニング装置を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の第一の実施形態によるプラズマ処理装置のクリーニング装置及びこれを用いたクリーニング方法について添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1は半導体ウェハのプラズマ処理装置に付設した本実施形態に係るクリーニング装置を示しており、図1においてプラズマ処理装置は、処理チャンバ1と、この処理チャンバ1内に設けられた構成部材としての平板状の上部電極2と、前記平板状の上部電極2と平行に対向して設けられた平板状の下部電極3とを有する。そして、下部電極3の縁部には内壁板3Aが立設置されている。これら上部電極2及び下部電極3は、高周波電流を供与するRF(高周波)電源4にそれぞれ接続されていて、RF(高周波)電源4は所望の周波数及び所望のデューティー比でプラズマ生成用の高周波電力を上部電極2及び下部電極3に印加することができるようになっている。
【0030】
また、処理チャンバ1の上部には上部電極2の近傍に、クリーニング装置としての水蒸気を含む処理ガスWを噴霧するガス導入管5が複数個所(本実施形態においては2か所)設けられていて、このガス導入管5の末端側は処理チャンバ1内に噴霧口5Aとして開口している一方、基端側は水蒸気を含む処理ガスWの噴霧機構(図示せず)に連通している。さらに、処理チャンバ1の下部には、減圧装置(図示せず)に接続した排気口6が形成されている。
【0031】
ここで、水蒸気を含む処理ガスWとしては、水蒸気ガス単独だけでなく、水蒸気ガスに希ガス、酸素、窒素及び水素の1種又は2種以上を10%以下程度、特に5%以下程度配合したものを用いてもよい。これらの他のガス成分をプラズマ化して処理することにより、水蒸気プラズマによる後述するフッ化物の変性による除去効果に加え、エッチング効果も発揮することができる。特に10%以下程度の配合量であれば、エッチング効果は酸化物よりもフッ化物に対してより優先するので、処理対象の素地をいためることもない。
【0032】
上述したようなプラズマ処理装置において、処理対象は上部電極2や下部電極3などの処理チャンバ1内の構成部材及び処理チャンバ1の内壁面である。これらの処理対象は、少なくとも表層の一部がイットリア系材料又はアルマイト系材料のものが好適である。そして、本実施形態は、このプラズマ処理装置によるCFなどのハロゲン系ガスを用いたプラズマ処理に起因して素地であるイットリアなどが変性してYFなどの付着物が付着した処理チャンバ1内の構成部材及び処理チャンバ1の内壁面をクリーニングするためのものである。このような処理対象としては、YFなどのフッ化物が厚く付着しやすい点で特に上部電極2が好適である。
【0033】
次に上述したような構成を有する本実施形態のプラズマ処理装置のクリーニング装置を用いたクリーニング方法について説明する。
【0034】
まず、プラズマ処理装置の処理チャンバ1を密封したら図示しない減圧装置を起動して排気口6から吸引し、処理チャンバ1内を好ましくは10−3Pa以下にまで減圧する。このように処理チャンバ1内を10−3Pa以下にまで減圧することにより、処理チャンバ1の内壁面や処理チャンバ1内の各種構成部材、特に上部電極2に付いている微細粉やその他の不純物を除去することができ、後述する水蒸気プラズマによる処理が容易となるため好ましい。
【0035】
次に図示しない噴霧機構を起動して上部電極2に近接して設けられたガス導入管5の噴霧口5Aから水蒸気を含む処理ガスWを上部電極2側から供給するとともにRF電源4を用いて高周波を印加することで水蒸気を含む処理ガスWをプラズマ化する。このように水蒸気をプラズマ化することにより水素ラジカル(H・)とヒドロキシラジカル(OH・)とが生成し、水素ラジカルが処理チャンバ1の内壁面や処理チャンバ1内の各種構成部材、特に上部電極2の付着物となっているYFなどのフッ化物中のFと反応して、これをHFとすることで除去する。また、残存するYなどのフッ化物中の陽イオン側の元素は、ヒドロキシラジカル(OH・)との反応によりイットリア(Y)などの酸化物となる。ここで、YFなどのフッ化物はもともと、上部電極2や下部電極3のイットリアが変性したものであるので、処理対象、特に上部電極2に付着した付着物をエッチングなどのように過度に擦り取ることなく選択的に除去することができる。特に本実施形態においては、上部電極2側から水蒸気を含む処理ガスWを噴霧してプラズマ化しているので、上部電極2付近のプラズマ濃度を高めることができ、付着物の付着量が多くなりやすい上部電極2を特に効率よくクリーングすることができる、という効果を奏する。
【0036】
なお、処理ガスWは、水蒸気ガス以外のガス成分を含んでいても良く、例えば希ガス、酸素、窒素及び水素の1種又は2種以上を含んでいても良い。この場合、上述した水蒸気のプラズマ化による作用に加え、エッチング効果も発揮することができる。特に10%以下程度の配合量であれば、エッチング効果は酸化物よりもフッ化物に対してより優先するので、上部電極2などの処理対象の素地をいためることもない。
【0037】
ここで水蒸気を含む処理ガスWは0.5〜20Paの圧力となるように供給するのが好ましい。処理ガスWの圧力供給圧が0.5Pa未満ではプラズマ化しにくくなる一方、20Paを超えてもそれ以上の効果の向上が得られないばかりか、上部電極2などの処理対象の素地を損耗しやすくなるため好ましくない。
【0038】
また、RF電源4を用いて高周波を印加する処理ガスWをプラズマ化するための高周波出力は5〜300W/cmであるのが好ましい。高周波出力が5W/cm未満ではプラズマが発生しにくくなり、上部電極2などの処理対象に付着したYFなどのフッ化物としての付着物を変性する効果が十分に得られなくなる一方、300W/cmを超えてもそれ以上の効果の向上が得られないばかりか、上部電極2など処理対象自体を破損しやすくなるため好ましくない。なお、上記出力の場合、一般的なプラズマ処理装置では装置全体としての高周波出力は2500〜10000Wの範囲内となる。
【0039】
このプラズマ化した処理ガスWによる処理時間は特に制限はないが、あまり長時間では経済的でない一方、短時間では十分なクリーニング効果が得られないことから3〜30分程度行えばよい。
【0040】
上述したような本実施形態のプラズマ処理装置のクリーニング方法により、処理チャンバ1内設けられた構成部材としての上部電極2、下部電極3及び内壁板3A、さらには処理チャンバ1の内壁面に付着した付着物を除去することができる。特にフッ化物としての付着物が付着しやすく、かつこの付着物が厚くなりやすい上部電極2のクリーニングに好適である。
【0041】
次に本発明の第二の実施形態について説明する。第二実施形態のプラズマ処理装置のクリーニング装置は、図2に示すように水蒸気を含む処理ガスWを噴霧するガス導入管5が上部電極2に設けられ、上部電極2の下面に噴霧口5Aが形成されている以外は、前述した第一の実施形態と同じ構成を有する。このガス導入管5は、エッチング用などのハロゲンガスの供給用管と共有すればよい。
【0042】
本実施形態のようにガス導入管5を上部電極2に設けることにより、前述した第一の実施形態と同様の作用を発揮するだけでなく、水蒸気を含む処理ガスWを噴霧するガス導入管5を別途設ける必要がなく、半導体基板などの加工用のエッチング用などのハロゲンガスの供給用管を共用して、必要に応じて切り変えればよく、既存の装置を簡易に改良して、本実施形態の装置とすることができる。
【0043】
以上、本実施形態について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は上記各核実施形態に限定されるものではなく、各種の変形が可能である。例えば、水蒸気を含む処理ガスWを噴霧するガス導入管5及び噴霧口5Aは、処理チャンバ1の上部に限定されず、下部電極3や内壁板3Aを中心にクリーニングしたい場合には、処理チャンバ1の下側に設けてもよいし、下側から上部電極2に向けて処理ガスWを噴霧する構造としてもよい。
【実施例】
【0044】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
〔実施例1〜9〕
アルミニウム板の表面にイットリア溶射により200μmのイットリア被膜を形成しこれを素地とした。このイットリア被膜形成アルミニウム板をCFガスのプラズマに晒すことにより、イットリア被膜の表層に模擬付着物を形成させ、試験用の模擬上部電極2とした。この模擬上部電極2上の付着物の厚さは約2μmであった。
【0045】
この試験用の模擬上部電極2を図1に示すクリーニング装置の処理チャンバ1内にセットし、この処理チャンバ1内を10−3Pa以下に減圧し、水蒸気を含む処理ガスWを表1に示すように0.5〜25Paで供給するとともに表1に示すように1〜500W/cmの高周波出力で、処理ガスWをプラズマ化して10分間クリーニング処理を行った。これらの処理条件を表1に示す。また、処理後の上部電極2の表層の元素構成比をXPS測定するとともに、素地であるイットリア被膜の膜厚の減少量を計測した。結果を表2に示す。なお、参考例としてクリーニング模擬付着物を形成しクリーニングする前の上部電極2の表層の元素構成比のXPS測定結果を表2にあわせて示す。
【0046】
〔比較例1〕
実施例1で使用したのと同じ条件で模擬付着物を形成した試験用の上部電極2を図1に示すクリーニング装置の処理チャンバ1内にセットし、この処理チャンバ1内を10−3Pa以下に減圧し、処理ガスとしてArを10Paで供給するとともに300W/cmの高周波出力で、処理ガスWをプラズマ化して10分間クリーニング処理を行った。これらの処理条件を表1に示す。また、処理後の上部電極2の表層の元素構成比をXPS測定するとともに、素地であるイットリア被膜の膜厚の減少量を計測した。結果を表2に示す。
【0047】
〔比較例2〕
実施例1で使用したのと同じ条件で模擬付着物を形成した試験用の上部電極2を図1に示すクリーニング装置の処理チャンバ1内にセットし、この処理チャンバ1内を10−3Pa以下に減圧し、処理ガスとしてHを10Paで供給するとともに300W/cmの高周波出力で、処理ガスWをプラズマ化して10分間クリーニング処理を行った。これらの処理条件を表1に示す。また、処理後の上部電極2の表層の元素構成比をXPS測定するとともに、素地であるイットリア被膜の膜厚の減少量を計測した。結果を表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1及び表2から明らかなとおり、試験用の上部電極2の表層の組成の変化から実施例1〜9のクリーニング方法によれば、10分間の処理時間で参考例と比べてフッ素が減少しており付着物を選択的にクリーニングすることができることがわかる。これはYFなどのフッ化物が水蒸気プラズマに起因する水素ラジカル(H・)と反応して、HFとして除去される一方、陽イオン側のイットリウムがヒドロキシラジカル(OH・)と反応してイットリアとなるためであると考えられる。
【0051】
特に水蒸気を含む処理ガスWの圧力が3Paでは、高周波電源の出力を5W/cm以上とすることでクリーニング効果が大きいが、高周波電源の出力が300W/cm超える実施例9では、イットリア被膜の減少が大きかった。また、高周波電源の出力が300W/cmで水蒸気を含む処理ガスWの圧力が20Paを超える実施例8では、イットリア被膜の損耗がわずかに認められた。
【0052】
これに対し、Arを処理ガスとしてプラズマ化して同様にして処理チャンバ1内で試験用の上部電極2を処理した比較例1では、イットリア被膜の損耗が認められ、水素を処理ガスとしてプラズマ化して同様にして処理チャンバ1内で試験用の上部電極2を処理した比較例1では、元素構成比が、クリーニングする前の参考例に近いものであり、10分程度のクリーニングでは付着物が十分に除去でないことがわかる。
【符号の説明】
【0053】
1…処理チャンバ
2…上部電極
3…下部電極
4…RF(高周波)電源
5…ガス導入管
5A…噴霧口
6…排気口
W…水蒸気を含む処理ガス
図1
図2