特許第6638364号(P6638364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6638364ピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6638364
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】ピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 295/023 20060101AFI20200120BHJP
   C07D 295/027 20060101ALI20200120BHJP
   C07D 487/08 20060101ALI20200120BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20200120BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200120BHJP
【FI】
   C07D295/023
   C07D295/027
   C07D487/08
   B01J29/40 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-242614(P2015-242614)
(22)【出願日】2015年12月11日
(65)【公開番号】特開2017-105740(P2017-105740A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白倉 義法
(72)【発明者】
【氏名】小田 康弘
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−133971(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1467034(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第1354174(CN,A)
【文献】 Journal of Catalysis,1993年,vol. 144,pp. 556-568
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D201/00−521/00
B01J 21/00− 38/74
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが8以上の塩基性条件下で、カリウム、ナトリウム、セシウム及びルビジウムの群から選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ金属塩を用いてイオン交換したペンタシル型ゼオライトとエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、及びN−アミノエチルピペラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上のアミン類を、50重量%以上の基質濃度条件で反応させることを特徴とするピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【請求項2】
反応温度が200℃以上400℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法において、ピペラジンが高選択的且つ高収率で得られる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペラジン及びトリエチレンジアミンは、医農薬中間体、有機合成用触媒、化学吸着剤、又は抗菌剤として有用な化合物である。
【0003】
従来の製造法としては、エチレンアミン類をペンタシル型のゼオライト触媒と接触させ、ピペラジンとトリエチレンジアミンとを同時に製造する方法が知られている。
【0004】
例えば、プロトン型のペンタシル型ゼオライトを触媒に使用して、ポリエチレンポリアミン又はエタノールアミンからトリエチレンジアミン及びピペラジンの混合物を製造する方法では、転化率を上げるとトリエチレンジアミンが主生成物となり、ピペラジンの収率が低下していた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、アルカリ金属イオン又は骨格アルミニウムが鉄に置換されたペンタシル型ゼオライトを触媒としたエチレンジアミンからの反応が提案されている。しかし、反応が高転化率に達した場合には、トリエチレンジアミンが主生成物として得られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
一方、ベータ型、フォージャサイト型、モルデナイト型といったペンタシル型以外のゼオライト触媒とエチレンジアミン原料での反応においては、ピペラジンの選択率は50%以下と低いことに加え、基質濃度が10重量%と低濃度であり、極めて生産効率が低く、工業的製造方法としては不十分であった(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
以上のように、アミン類を触媒と接触させ、ピペラジンとトリエチレンジアミンとを同時に製造する方法では、生産効率が高く、高選択率でピペラジンが得られる工業的な製造方法はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平01−143864号公報
【特許文献2】特開平03−133971号公報
【特許文献3】特開2014−9181公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した背景技術より、ピペラジンが高選択的且つ高収率で得られるピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法について鋭意検討を重ねた結果、pHが8以上の塩基性条件下で、アルカリ金属塩を用いてイオン交換したペンタシル型ゼオライトと1種類以上のアミン類を、50重量%以上の基質濃度条件で接触させることにより、ピペラジン収率40モル%以上、且つピペラジン選択率50重量%以上が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明はピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法に関するものであり、ピペラジンが高選択的且つ高収率で得られる製造方法に関する。
【0012】
[1]pHが8以上の塩基性条件下で、アルカリ金属塩を用いてイオン交換したペンタシル型ゼオライトと1種類以上のアミン類を、50重量%以上の基質濃度条件で反応させることを特徴とするピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【0013】
[2]アルカリ金属が、カリウム、ナトリウム、セシウム及びルビジウムの群から選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ金属であることを特徴とする[1]に記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【0014】
[3]反応温度が200℃以上400℃以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【0015】
[4]アミン類が、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N−アミノエチルピペラジン、及びそれらのアルキル化体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする[1]乃至[3]に記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【0016】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
【0017】
本発明のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法は、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N−アミノエチルピペラジン、及びそれらのアルキル化体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミン類と、pHが8以上の塩基性条件下で、アルカリ金属塩を用いてイオン交換したペンタシル型ゼオライトとを、50重量%以上の基質濃度条件で反応を行うことを特徴とする。
【0018】
本発明において、ペンタシル型ゼオライトのSiO/Al(モル比)は特に限定されないが、例えば、20〜500の範囲のSiO/Al(モル比)であれば、触媒活性が高く、触媒の耐熱性に優れているため好ましい。
【0019】
ペンタシル型ゼオライトは、通常、プロトン型が用いられるが、イオン交換法等の公知の方法でプロトンをアルカリ金属イオンにイオン交換したゼオライト等を使用すると、ピペラジンの収率や選択率が高くなり好ましい。
【0020】
イオン交換の方法は特に限定されないが、交換金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩などの水溶液と接触させるなどの公知の方法を用いればよい。
【0021】
本発明では、ペンタシル型ゼオライトをイオン交換する際に、ピペラジンの収率や選択率をさらに高めるため、イオン交換時のpHを8以上に調整することが必須である。
【0022】
pHの調製方法は特に限定されないが、上記交換溶液にイオン交換金属の炭酸塩や水酸化物を添加して調製すればよい。プロトン型のペンタシル型ゼオライトをイオン交換する場合は、交換されたプロトンによって溶液のpHは低下するため、イオン交換金属の炭酸塩や水酸化物を添加し、イオン交換中のpHを8以上に維持することが好ましい。
【0023】
本発明において、水素イオンがアルカリ金属イオンとイオン交換した時のアルカリ金属イオン交換率は、アルカリ金属イオン/Al(モル比率)で表され、50%以上、好ましくは60%以上である。イオン交換率を50%以上とすることで、得られるピペラジンの選択性は向上する。
【0024】
アルカリ金属イオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、及びセシウムイオンの群から選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ金属イオンが好ましい。
【0025】
本発明において、上記のゼオライトの形態は、粉末状や成形体など自由に選択できる。例えば、連続反応に用いるときは成型体を使用することができ、また、バッチ反応に用いるときは粉末又は成型体を使用することができる。成型体の形状は特に制限されず、球状、円柱状、円筒状、顆粒状、不定形等、反応形式に応じて自由に選択できる。ゼオライトの成型方法としては、例えば、打錠成型、押し出し成型、転動造粒、噴霧乾燥等、種々の方法が挙げられるが、特に限定されない。また、ゼオライトを成型する際には、例えば、粘土、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ等の公知の結合剤(バインダー)を用いることができる。
【0026】
本発明において、原料として用いるアミン類は、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、N−アミノエチルピペラジン及びそれらのアルキル化体からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。好ましくはエチレンジアミンとN−アミノエチルピペラジンとの組合せである。エチレンジアミンとN−アミノエチルピペラジンとを組合せることで、ピペラジンの選択率を高める効果が発揮される。エチレンジアミンとジエチレントリアミンとの組合せでも同様の効果が得られる。
【0027】
本発明において、2種類以上のアミン類を組合せる場合のモル比は、特に限定するものではないが、例えば、エチレンジアミン1モルに対してジエチレントリアミンやN−アミノエチルピペラジンを0.1モル以上1モル以下の範囲、好ましくは0.2モル以上1モル以下の範囲である。
【0028】
本発明で反応に用いる原料は、アミン類を希釈剤で希釈して反応させることが好ましい。希釈剤としては特に限定されないが、例えば、窒素ガス、水素ガス、アンモニアガス、水蒸気、水が挙げられる。これらのうち単独又は複数を用いて原料を希釈し、反応に用いることが好ましい。これらの希釈剤は任意の量で使用でき、限定されるものではない。
【0029】
例えば、希釈剤が水の場合、アミン類濃度は30重量%以上が好ましく、より好ましくは50重量%以上が生産効率を高くできるため好ましい。
【0030】
本発明において、反応における希釈剤は、原料として用いるアミン類と同時に反応器内に導入してもよく、予めアミン類を希釈剤に溶解させた後に、原料溶液として反応器に導入してもよい。
【0031】
本発明において、反応は200〜400℃の温度範囲で実施することが好ましく、さらに250〜400℃の温度範囲で実施することが好ましい。200℃未満でも反応は進行するが、十分な反応速度が得られない場合があり、温度を下げる利点は少ない。また、400℃を越える温度で反応させると原料及び生成物が分解するおそれがあり、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの収率が低下することがある。
【0032】
また、本発明において、反応は、常圧〜50MPaの圧力範囲で実施することが好ましく、さらに0.1〜5MPaの圧力範囲で実施することが好ましい。50MPaを越える圧力で反応させても特別な効果はなく、安全面で工業的に不利となる。
【0033】
本発明において、原料として用いるアミン類の供給量は、特に限定するものではないが、触媒1kgに対して、1時間当たり0.1〜10kgの範囲が好ましく、0.3〜5kgの範囲がさらに好ましい。供給量を0.1kg以上とすることでピペラジン及びトリエチレンジアミンの生産性が向上し、10kg以下とすることでピペラジン及びトリエチレンジアミンの収率が向上する。
【0034】
本発明において、反応は気相反応、液相反応で行うことができる。反応様式は回分式、半回分式、又は固定床のいずれの方法によって実施してもよい。使用する反応器は、例えば、槽型、管型等のいずれの形状でもよい。また、使用する触媒と反応液との分離は、ろ過、デカンテーション等の固体と液体とを分離する一般的な方法を用いることができる。また、蒸留等、公知の方法により触媒と反応液を分離することもできる。触媒と反応液の分離操作が不要である固定床で実施することが好ましい。
【0035】
本発明において、得られたピペラジン及びトリエチレンジアミンと希釈剤とを分離する方法としては特に限定されず、例えば、蒸留等の公知の方法を用いることができる。分離された希釈剤は反応の希釈剤として再び用いることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の製造方法は、ピペラジンとトリエチレンジアミンとを同時に製造する方法において、高い基質濃度で高いピペラジン選択率が得られる、工業的に極めて有用な製造方法である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0038】
また、本実施例における原料の転化率、生成物の収率はガスクロマトグラフ分析で確認した。ガスクロマトグラフ分析はガスクロマトグラフGC−2014(島津製作所製)を用い、カラムにはDB−5(アジレント・テクノロジー社製)、検出器にはFIDを用いた。なお、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの収率は原料であるアミン類からのモル収率として下式に従って算出し、ピペラジンの選択率はピペラジンとトリエチレンジアミン中のピペラジンの重量%とした。
【0039】
【数1】
【0040】
以下の方法で、実施例及び比較例で使用する触媒層を調製した。
【0041】
(触媒のイオン交換方法)
市販のZSM−5型ゼオライト(東ソー社製、SiO/Al=70)を用い、ゼオライト中のアルミニウムに対し10倍モル量のアルカリ金属の塩化物水溶液と混合した。
【0042】
次いで、0.1モル/Lの濃度アルカリ金属水酸化物水溶液を添加し、所定のpH±0.5の範囲に調整し、50℃で10時間以上交換後、純水で洗浄、乾燥を行った。
【0043】
この操作を5回繰り返し、アルカリ金属イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを得た。また、得られたアルカリ金属イオンの交換率を元素分析により確認した結果、いずれの実施例においても交換率は90%以上であった。
【0044】
次いで、それらを加圧成型器で成型後、乳鉢で破砕、篩で1.7〜3.5mmに分級した触媒を直径20mmのガラス反応管に20mL充填し、その上下をセラミックス製ラシヒリング(直径3mm×長さ3mm×厚さ1mm)を詰め、反応に使用した。
【0045】
(反応条件)
実施例及び比較例において、以下の方法で、ピペラジン及びトリエチレンジアミンを同時に合成した。
【0046】
上記の触媒層の温度を所定の温度に保ち、上部よりアミン濃度63重量%に調製した水溶液を0.34mL/分の速度で滴下した。触媒層を通過した反応ガスをコンデンサーで冷却し、反応液を回収し、ガスクロマトグラフィーにより成分分析を行った。
【0047】
実施例1
ナトリウム交換時のpHを10に調製し、ナトリウム交換を行ったZSM−5型ゼオライトを用い、63重量%のジエチレントリアミン水溶液を用いて反応を行った。
【0048】
生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が99%であり、ピペラジンの収率は41モル%、トリエチレンジアミンの収率は59モル%から、ピペラジンの選択率は51重量%であった。
【0049】
実施例2〜5に、アルカリ金属種、イオン交換時のpH条件、反応温度が異なる以外は実施例1と同様の操作を行った結果を表1に示した。
【0050】
実施例6
カリウム交換時のpHを10に調製し、カリウム交換を行ったZSM−5型ゼオライトを用い、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン1モルを添加し、全アミン濃度を63重量%に調製した水溶液を用いて反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が99%、エチレンジアミンの転化率は79%であり、ピペラジンの収率は58モル%、トリエチレンジアミンの収率は37モル%から、ピペラジンの選択率は69重量%であった。
【0051】
実施例7〜11に、アルカリ金属種、イオン交換時のpH条件、反応温度が異なる以外は実施例6と同様の操作を行った結果を表1に示した。
【0052】
実施例12
カリウム交換時のpHを12に調製し、カリウム交換を行ったZSM−5型ゼオライトを用い、アミノエチルピペラジン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加し、全アミン濃度を63重量%に調製した水溶液を用いて反応を行った。生成物を分析した結果、アミノエチルピペラジンの転化率が80%、エチレンジアミンの転化率は60%であり、ピペラジンの収率は66モル%、トリエチレンジアミンの収率は16モル%から、ピペラジンの選択率は80重量%であった。
【0053】
実施例13〜15に、アルカリ金属種、イオン交換時のpH条件、反応温度が異なる以外は実施例12と同様の操作を行った結果を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
比較例1
ナトリウム交換時のpHを7に調製し、ナトリウム交換を行ったZSM−5型ゼオライトを用い、63重量%のジエチレントリアミン水溶液を用いて反応を行った。
【0056】
生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が99%であり、ピペラジンの収率は27モル%、トリエチレンジアミンの収率は72モル%から、ピペラジンの選択率は37重量%であった。
【0057】
比較例2〜12に、アミン水溶液種、アルカリ金属種、イオン交換時のpH条件、反応温度が異なる以外は比較例1と同様の操作を行った結果を表2に示した。
【0058】
【表2】
【0059】
表1、表2より、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法において、pHが8以上の塩基性条件下で、アルカリ金属塩を用いてイオン交換したペンタシル型ゼオライトと1種類以上のアミン類を、50重量%以上の基質濃度条件で反応させることにより、ピペラジン収率40モル%以上、且つピペラジン選択率50重量%以上が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法は、工業的に利用可能なピペラジンを主生成物とするトリエチレンジアミン併産方法であり、アミン製造工業に利用される可能性を有する。