特許第6638589号(P6638589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6638589
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年1月29日
(54)【発明の名称】金属電着用陰極板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20200120BHJP
   C25C 7/08 20060101ALI20200120BHJP
   C25C 1/08 20060101ALI20200120BHJP
【FI】
   C25C7/02 302F
   C25C7/02 304
   C25C7/08 A
   C25C1/08
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-143530(P2016-143530)
(22)【出願日】2016年7月21日
(65)【公開番号】特開2018-12864(P2018-12864A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 いつみ
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭44−001062(JP,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0233055(US,A1)
【文献】 実開昭57−185763(JP,U)
【文献】 特開昭52−152832(JP,A)
【文献】 米国特許第4040915(US,A)
【文献】 特開2018−12865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 1/00 − 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に複数のリング形状の溝が配列している金属板からなり、
前記金属板の表面であって、前記溝のそのリング形状の内側の表面で構成される導電部と、
前記金属板の表面上であって、前記溝の内部と前記溝のそのリング形状の外側の表面上に形成される非導電部と、を有する、
金属電着用陰極板。
【請求項2】
前記溝の深さは、50μm以上、1000μm以下である、
請求項1に記載の金属電着用陰極板。
【請求項3】
前記溝の幅は、100μm以上である、
請求項1又は2に記載の金属電着用陰極板。
【請求項4】
前記金属板は、チタン又はステンレス鋼からなる、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属電着用陰極板。
【請求項5】
メッキ用電気ニッケルの製造に使用される、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属電着用陰極板。
【請求項6】
金属電着用陰極板の製造方法であって、
金属板の少なくとも一方の表面に、複数のリング形状の溝を形成する第1工程と、
前記金属の表面であって、前記溝の内部と前記溝のそのリング形状の外側表面上に非導電部を形成する第2工程とを有する、製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属電着用陰極板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ニッケルメッキのアノード原料として供せられる電気ニッケルは、アノード保持具となるチタンバスケット内に入れられ、ニッケルメッキ槽内に吊るされて使用されている。このとき、アノード原料である電気ニッケルとしては、陰極板に電着された板状の電気ニッケルを切断して小片状としたものを使用していた。
【0003】
しかしながら、小片状の電気ニッケルは、角部が鋭いためチタンバスケットへ投入する際の取り扱いが困難であった。また、その小片状の電気ニッケルは、チタンバスケットに投入後に角部がチタンバスケットの網目に引っ掛っていわゆる棚吊りを起こし、チタンバスケット内での充填状態が変化して、メッキむらの発生要因となることがあった。
【0004】
そこで、角部の取れた丸みのある小塊状(ボタン状)の電気ニッケルの使用が提案されている。小塊状の電気ニッケルは、例えば、複数の円形状の導電部を等間隔に配列している陰極板を用いて、電解によりその導電部にニッケルを析出させた後、導電部から電着したニッケルを剥ぎ取ることにより製造することができる。このような方法によれば、1枚の陰極板から複数の小塊状の電気ニッケルを効率的に製造することができる。
【0005】
図5は、小塊状の電気ニッケルの製造に用いられる従来の陰極板の一例を示す図である。陰極板11は、平板状の金属板12上に、導電部12aとなる箇所を残して非導電膜13でマスキングが施されており、この陰極板11では、導電部12aが凹部となり、非導電膜13が凸部となっている。このような陰極板11を用いることで、その導電部12aに適度な大きさのニッケルを電着させ、小塊状の電気ニッケルを製造する。
【0006】
陰極板11のように、金属板12上に非導電膜13を形成する方法としては、例えば、図6(a)に示すように、平板状の金属板12上に、エポキシ樹脂等の熱硬化性の非導電性樹脂をスクリーン印刷法により塗布して加熱することで所望のパターンを有する非導電膜13を形成する方法がある(特許文献1、2参照)。なお、図6(b)は、非導電膜13を形成した陰極板11を用いてニッケル(電気ニッケル)14を導電部12aに電着析出させた状態を示すものである。陰極板11では、ニッケル14が、導電部12aから電着析出しはじめ、厚さ(縦)方向だけではなく平面(横)方向にも成長し、非導電膜13の上部にも盛り上がった状態となる。
【0007】
また、例えば図7(a)に示すように、金属板22上に、感光性の非導電性樹脂を塗布し、露光及び現像により導電部22aに相当する箇所の非導電性樹脂を除去して、所望のパターンを有する非導電膜23を形成する方法も提案されている。なお、図7(b)は、非導電膜23を形成した陰極板21を用いてニッケル(電気ニッケル)24を導電部22aに電着析出させた状態を示すものである。陰極板21においても、ニッケル24は、導電部22aから電着析出しはじめ、厚さ方向だけではなく平面方向にも成長していく。
【0008】
さらに、導電部となる複数のスタッドが等間隔に複数配列されるように組み込まれた金属の構造体の周囲を射出成形法により絶縁性樹脂で固めることによって、非導電部を構成する陰極板を製造する方法も提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭51−036693号公報
【特許文献2】特開昭52−152832号公報
【特許文献3】特公昭56−029960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
さて、上述したような陰極板を用いて小塊状の電気ニッケルの製造する場合、陰極板に形成される非導電膜(非導電部)の寿命が長いこと、その非導電膜が欠落(劣化)した場合でも容易に整備可能であることが要求される。
【0011】
図6(a)に示したように、金属板12に非導電性樹脂をスクリーン印刷により塗布して非導電膜13を形成した場合、非導電膜13の膜厚は、導電部12aに近づくにしたがって徐々に薄くなるため、導電部12aとの境界で非常に薄くなる。このような非導電膜13の膜厚の変化は、非導電性樹脂の塗布量、非導電性樹脂の粘性及び粘性の温度特性、非導電性樹脂の硬化温度、金属表面の表面粗さや表面自由エネルギー等に依存する。そのため、非導電膜13の膜厚は、導電部12aとの境界で非常に薄くなる。
【0012】
上述したように、図5図6に示すような陰極板11を用いて小塊状の電気ニッケルを製造すると、ニッケル14は、導電部12aから電着析出しはじめ、縦方向だけでなく横方向にも成長するため、徐々に非導電膜13の上にも盛り上がった状態となる。そのため、導電部12aとの境界近傍に形成される薄い非導電膜13の部分においては、電解液の浸透により金属板12との密着性が低下しやすくなるとともに、ニッケル14の電着時の応力やその電気ニッケルの剥ぎ取り時の衝撃によって欠落しやすくなる。また、一度、非導電膜13の欠落が発生すると、その周辺の非導電膜13が金属板12の表面から浮き上がるため、その間隙にさらに電解液が侵入しやすくなり、その結果、引き続きニッケルを電着させようとすると、金属板12の表面から浮き上がった非導電膜13の間隙に電解液が潜り込んでニッケル14が電着していく。そして、その間隙に潜り込んで電着したニッケル14を剥ぎ取ろうとすると、ニッケル14が噛み込んでいる非導電膜13をさらに欠落させてしまう。
【0013】
このように、従来の陰極板11においては、連鎖的に非導電膜13の欠落が発生し、欠落部分が広がっていくと隣接する導電部12aから成長したニッケル14同士が連結しやすくなり、所望の形状の電気ニッケルを得ることができず、不良品となる。したがって、非導電膜13の欠落が発生する前に、すべての非導電膜13を剥ぎ取り、再度非導電膜3を形成して陰極板11を整備する必要が生じる。しかしながら、実際には、数回から多くても10回未満程度のニッケルの電着処理を行った段階で陰極板11の整備を行う必要が生じてしまい、生産性が低下するばかりか整備コストも増大する。
【0014】
一方、図7(a)に示したように、感光性の非導電性樹脂を用いて露光及び現像により非導電膜23を形成した陰極板21では、均一な膜厚に非導電膜23を形成することができる。しかしながら、電着後にニッケル24を剥ぎ取る際に、そのニッケル24が凸部を構成する非導電膜23の段差に引っ掛かり、その非導電膜23に大きな衝撃が加わりやすくなるため、やはり非導電膜23の欠落が発生してしまう。
【0015】
なお、特許文献3のように射出成形により非導電部を構成する方法では、形成される非導電部の寿命は長くなるものの、陰極板それ自体の製造コストが高くなり、非導電部が劣化した場合の陰極板の整備が困難である。
【0016】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、金属板上の非導電膜が欠落しにくく、繰り返し使用可能な金属電着用陰極板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上述した解題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、金属板に複数のリング形状の溝が配列し、金属板のリング状溝の内側表面で構成される導電部と、その金属板のリング状溝の内側表面以外に形成される非導電膜とを設けた陰極板とすることで、非導電膜が欠落しにくくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
(1)本発明の第1の発明は、少なくとも一方の面に複数のリング形状の溝が配列している金属板からなり、前記金属板の表面であって、前記溝のそのリング形状の内側の表面で構成される導電部と、前記金属板の表面上であって、前記溝の内部と前記溝のそのリング形状の外側の表面上に形成される非導電部と、を有する、金属電着用陰極板である。
【0019】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記溝の深さは、50μm以上、1000μm以下である、金属電着用陰極板である。
【0020】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記溝の幅は、100μm以上である、金属電着用陰極板である。
【0021】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3の発明において、前記金属板は、チタン又はステンレス鋼からなる、金属電着用陰極板である。
【0022】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4の発明において、メッキ用電気ニッケルの製造に使用される、金属電着用陰極板である。
【0023】
(6)本発明の第6の発明は、金属電着用陰極板の製造方法であって、金属板の少なくとも一方の表面に、複数のリング形状の溝を形成する第1工程と、前記金属の表面であって、前記溝の内部と前記溝のそのリング形状の外側表面上に非導電部を形成する第2工程とを有する、製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、非導電膜が欠落しにくく、繰り返し使用可能な金属電着用陰極板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】陰極板の構成を示す平面図である。
図2】陰極板の構成を示す要部拡大断面図であり、(a)はニッケル電着前の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図であり、(b)はニッケル電着後の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図である。
図3】別の陰極板の構成を示す要部拡大断面図である。
図4】陰極板の製造方法を説明する要部拡大断面図であり、(a)は第1工程を説明する要部拡大断面図であり、(b)は第2工程を説明する要部拡大断面図である。
図5】従来の陰極板の構成を示す平面図である。
図6】従来の陰極板の構成を示す要部拡大断面図であり、(a)はニッケル電着前の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図であり、(b)はニッケル電着後の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図である。
図7】従来の陰極板の構成を示す要部拡大断面図であり、(a)はニッケル電着前の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図であり、(b)はニッケル電着後の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の金属電着用陰極板を、電気ニッケルの製造に使用される金属電着用陰極板に適用した実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更することができる。
【0027】
<1.金属電着用陰極板>
(1)陰極板の構成
本実施の形態に係る陰極板1は、図1に示すように、導電部2aを有する金属板2と、金属板2の導電部2a以外の表面上に形成される非導電部である非導電膜3とを有する。陰極板1は、後述するように、例えばニッケルを含む電解液や陽極を収容する電解槽内に吊下げ部材5により吊下げられて使用される。これにより、導電部2aにニッケルが電着析出し、小塊状の形状に個々に分割されて形成された電気ニッケルを得ることができる。
【0028】
[金属板]
金属板2は、図1及び図2に示すように、略平板状の金属の板であり、一方の面に複数のリング形状の溝(以下、「リング状溝」という。)2bが配列している。金属板2において、リング状溝2bのそのリング形状の内側の表面は、非導電膜3から露出して導電部2aとなる。
【0029】
金属板2の大きさは、特に限定されず、製造する電気ニッケルの所望の大きさや数に応じて適宜設定すればよい。例えば、一辺が100mm以上、2000mm以下の矩形状の大きさとすることができる。また、金属板2の厚みとしては、リング状溝2bを一方の表面に設ける場合には、例えば、1.5mm以上、5mm以下程度であることが好ましく、リング状溝2bを両方の表面に設ける場合には、例えば、3mm以上、10mm以下程度であることが好ましい。金属板2の厚みが過小であると、金属板加工時にとによって反りが生じやすくなる傾向がある。一方で、金属板2の厚みが過大であると、金属板2の重量が増大して取り扱いが困難になる。
【0030】
金属板2の材質としては、使用する電解液による腐食が小さく、ニッケル等の電着物とゆるい接着しか形成しない金属であれば特に限定されないが、チタン、ステンレス鋼が好ましく挙げられる。
【0031】
また、金属板2の表面、すなわち、金属板2の導電部2aには、サンドブラストやエッチングにより細かい凹凸を設けてもよい。これにより、導電部2aに電着したニッケル4が電解処理中に脱落することなく、適度な衝撃で剥ぎ取ることができる。この場合、後述する非導電膜3の膜厚は、金属板2の最大表面粗さRzの2倍以上であることが好ましい。非導電膜3の膜厚が金属板2の最大表面粗さRzの2倍より小さいと、非導電膜3のピンホールや絶縁不良部分の発生が懸念される。
【0032】
(リング状溝)
上述したように、金属板2の表面には、複数のリング状溝2bが一定の間隔で配列して形成されている。金属板2の表面において、このリング状溝2bのリング形状の内側の表面が導電部2aを構成する。なお、図2では、金属板2の一方の面にリング状溝2bを有する例を示しているが、その両方の面にリング状溝2bを有していてもよい。
【0033】
リング状溝2bのリング形状の内側の直径、すなわち導電部2aの直径は、所望の電気ニッケルの大きさに応じて適宜設定されればよいが、例えば、5mm以上、30mm以下とすることができる。
【0034】
また、リング状溝2bの深さXは、50μm以上、1000μm以下であることが好ましく、100μm以上、600μm以下であることがより好ましい。リング状溝2bの深さが過小であると、後述するように、リング状溝2b内部の非導電膜3の厚みが不十分となり、非導電膜3の劣化や欠落が生じやすくなる。一方で、リング状溝2bの深さが過大であると、金属板2にリング状溝2bを形成する加工時に歪みが大きくなり、非導電膜3の形成が困難になる。
【0035】
また、リング状溝2bの幅Yは、100μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。リング状溝2bの幅が過小であると、リング状溝2bの内部へ非導電膜3を充填することが難しくなり、リング状溝2b内部に形成される非導電膜3の劣化や欠落が生じやすくなる。なお、リング状溝2bの幅の上限値は、特に限定されないが、隣接するリング状溝2bとの間隔によって決定するとよい。
【0036】
[非導電膜]
非導電膜3は、図2に示すように、金属板2の表面であって、リング状溝2bの内部と、リング状溝2bのそのリング形状の外側の表面(以下、「リング状溝の外側表面」という。)2c上とに形成される。なお、ここで、リング状溝2bの内部とは、リング状溝2bの深さXの中に納まる範囲に限定されるものではなく、したがって、リング状溝2b内に形成される非導電膜3は、リング状溝2bの深さX以上の膜厚となるように形成されてもよい。
【0037】
このように形成される非導電膜3は、その端部が、リング状溝2b内にある。そのため、非導電膜3の端部の膜厚は、金属板2のリング状溝2bの外側表面2c上に形成される非導電膜3の膜厚よりも、リング状溝2bの深さX分だけ厚く形成される。したがって、非導電膜3は、図6に示すように、平板状の金属板12上に形成される従来の非導電膜13のように、端部の膜厚が薄くなりにくく、ニッケル4の電着時の応力や電着後の剥ぎ取り時の衝撃によっても欠落しにくい。また、非導電膜3は、図7に示す従来の非導電膜23のように、凸状に突出しておらず、その端部がリング状溝2b内にある。よって、ニッケル4を陰極板1から剥ぎ取る際にも、ニッケル4が非導電膜3の端部に与える衝撃は小さく、非導電膜3が欠落しにくい。このように、陰極板1においては、非導電膜3が欠落しにくいことから、非導電膜3を交換することなく、繰り返し電着に使用することが可能であり、整備コストの低減、生産性の向上を図ることが可能である。
【0038】
非導電膜3の膜厚は、リング状溝2bの内部とリング状溝2bの外側表面2cを被覆することができれば特に限定されないが、例えば、リング状溝2bの外側表面2c上の非導電膜3の膜厚としては、60μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましい。
【0039】
また、リング状溝2bの内部における非導電膜3の膜厚は、リング状溝2bの深さX以上であることが好ましい。リング状溝2b内部における非導電膜3の膜厚がリング状溝2bの深さX以上であれば、リング状溝2bのリング形状の内側の周縁部が段差となって非導電膜3から露出することがない。これにより、ニッケル4を陰極板1から剥ぎ取る際にも、ニッケル4がリング状溝2bの周縁部に引っ掛かることがない。
【0040】
非導電膜3の膜厚の上限は、特に限定されないが、必要以上に厚くする必要はない。例えば、リング状溝2bの外側表面2c上における膜厚は、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。例えば、金属板2のリング状溝2bの外側表面2c上に、スクリーン印刷により、500μmを超えて塗布することは難しい。スクリーン印刷でリング状溝2bの外側表面2cに膜厚500μm超の非導電膜3を形成しようとすると、複数回に亘ってスクリーン版のパターンのサイズを微調整しながら実施する必要が生じるため、その調整が困難であり生産性が低下してしまう。
【0041】
なお、スクリーン印刷法によって、金属板2のリング状溝2b内に非導電膜3を形成する場合、非導電膜3の材料がリング状溝2bのそのリング形状の内側の表面、すなわち導電部2aの表面にも塗布されて導電部2aの表面積が減少し、初期の電流密度が増加することがあるが、電着したニッケル4の特性に不具合が発生しなければ問題ない。また、導電部2aの表面上に付着した非導電膜3は、膜厚が非常に薄いため欠落しやすいが、リング状溝2b上に形成される非導電膜3は、膜厚が厚く欠落が抑制されるため問題ない。
【0042】
非導電膜3は、非導電性のものであり、使用する電解液による腐食が小さい材料からなるものであれば特に限定されない。例えば、非導電膜3の材料としては、成膜が容易であるという観点から、熱硬化樹脂又は光硬化(紫外線硬化等)樹脂が挙げられる。具体的には、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。
【0043】
なお、非導電部は、複数層で構成してもよい。例えば、図3に示すように、非導電部である非導電膜3’は、リング状溝2b内に形成される第1の非導電層3aと、第1の非導電層3a上とリング状溝2bの外側表面2c上とに形成される第2の非導電層3bとから構成されてもよい。具体的には、例えば、第1の非導電層3aとして、セラミックス等の無機材料を用い、第2の非導電層3bとして、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等の絶縁性樹脂を用いることができる。また、第1の非導電層3aと第2の非導電層3bとで異なる絶縁性樹脂を用いてもよい。非導電部の最表層、すなわち、ニッケル4が電着する非導電層3bには、ニッケル4の剥ぎ取り時の衝撃によっても割れにくい等の点から、絶縁性樹脂を用いることが好ましい。非導電部が複数層で構成される場合、例えば、第1の非導電層3aには高価であるが、耐久性の高い材料を使用し、第2の非導電層3bには廉価な材料を使用してもよい。
【0044】
(2)陰極板を用いた電気ニッケルの製造
上述した構成からなる陰極板1では、図2(b)に示すように、非導電膜3から露出する金属板2の表面が導電部2aとなって、ニッケル4を電着析出させる。陰極板1において、ニッケル4は、厚さ方向だけではなく平面方向にも成長するため、非導電膜3の上部に盛り上がった状態になる。このことから、隣接する導電部2aから成長したニッケル4同士が接触する前に電着を終了することが好ましい。
【0045】
そして、ニッケルの電着が終了した後、陰極板1からそのニッケル4を剥ぎ取ることで、1枚の陰極板1より複数の小塊状の電気ニッケルを得ることができる。上述したように、本実施の形態に係る陰極板1では、非導電膜3が欠落しにくいことから、非導電膜3を交換することなく、繰り返し使用することができ、整備コストの低減、生産性の向上を図ることができる。
【0046】
なお、本実施の形態に係る陰極板1は、ニッケル4を電着したが、ニッケルに限定されず、銀、金、亜鉛、錫、クロム、コバルト、又はこれらの合金を電着してもよい。
【0047】
<2.金属電着用陰極板の製造方法>
本実施の形態に係る陰極板1の製造方法は、図4に示すように、金属板2の少なくとも一方の表面に複数のリング状溝2bを形成する第1工程(図4(a))と、金属板2のリング状溝2b以外の表面に非導電膜3を形成する第2工程(図4(b))とを有する。
【0048】
[第1工程]
第1工程では、金属板2の表面に、複数のリング状溝2bを形成する。加工方法としては、特に限定されず、例えば、ウェットエッチング加工、エンドミル加工、レーザー加工等により行うことができる。
【0049】
例えば、平板状のステンレス鋼板をウェットエッチングで加工する場合には、ステンレス鋼板の表面に感光性のエッチングレジストを塗布し、続いて、所望のパターンを描画したフィルムやガラスを通して露光し、エッチングする部分のエッチングレジストを現像処理により除去する。そして、現像処理されたステンレス鋼板をエッチング液(例えば、塩化第二鉄溶液)に付け、エッチングレジストが除去されたステンレス鋼板の一部を除去し、最後にエッチングレジストを剥離することで、所望のパターンに対応した、複数のリング状溝2bを形成することができる。
【0050】
なお、リング状溝2bは、金属板2の一方の表面のみに形成してもよいし、金属板2の両方の表面に形成してもよい。
【0051】
[第2工程]
第2工程では、リング状溝2bの内部と、リング状溝2bの外側表面2c上、すなわち導電部2a以外の金属板2表面に、非導電膜3を形成する。非導電膜3の形成方法としては、特に限定されず、スクリーン印刷により行うことができる。非導電膜3の材料が熱硬化樹脂又は光硬化樹脂である場合には、必要に応じて熱硬化又は光硬化を行えばよい。
【0052】
また、非導電膜を2層構成で形成する場合には、リング状溝2bの内部に第1の非導電層3aを形成した後、第1の非導電層3a上とリング状溝2bの外側表面2c上とに第2の非導電層3bを形成する。第1の非導電層3aの形成方法としては、例えば、リング状溝2b以外の部分をマスキングし、リング状溝2b内にセラミックスコート剤を塗布し、マスキングを取り外し後に焼成することでリング状溝2b内にセラミックスからなる第1の非導電層3aを形成してもよい。または、金属板2全面にセラミックスコート剤を塗布し焼成した後、リング状溝2b以外に形成された不要なセラミックスを研磨して除去することで、リング状溝2b内にセラミックスからなる第1の非導電層3aを形成してもよい。第2の非導電層3bの形成方法としては、第1の非導電層3a上とリング状溝2bの外側表面2c上に、スクリーン印刷によりエポキシ樹脂を塗布し、その後に熱硬化又は光硬化を行って、エポキシ樹脂からなる第2の非導電層3bを形成してもよい。
【0053】
本実施の形態に係る陰極板の製造方法によれば、上述した簡易な方法で、金属板2上の非導電膜3、3’が欠落しにくく、繰り返し使用可能な陰極板1を得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、便宜上、図1乃至図6で示した部材と同一の機能をもつ部材には同一符号を付して説明する。
【0055】
<陰極板の作製>
[実施例1]
図1図2に示すような陰極板1を作製した。具体的には、まず、200mm×100mm×4mmのステンレス鋼製の金属板2に、ウェットエッチングを施し、リング状溝2b(18個)を形成した。このとき、リング状溝2aの大きさは、内径14mm、深さX300μm、幅Y1000μmとし、隣接する導電部2aの最小中心間距離は21mmとした。次に、スクリーン印刷法により、熱硬化性エポキシ樹脂を金属板2におけるリング状溝2bの内部及びリング状溝2bの外側表面2c上に塗布し、150℃60分の加熱により硬化させて非導電膜3を形成した。
【0056】
[実施例2〜実施例6]
金属板2のリング状溝2bの深さXと、幅Yを、表1に示す数値にした以外は、実施例1と同様に、陰極板1を作製した。
【0057】
[比較例1]
比較例1では、図5に示すような従来の陰極板11を作製した。具体的には、200mm×100mm×4mmのステンレス鋼製の平板状の金属板12に、直径14mmとなる導電部12a(18個)を残して、スクリーン印刷法により、熱硬化性エポキシ樹脂を塗布し、150℃60分の加熱により硬化させて非導電膜13を形成し、陰極板11を作製した。
【0058】
[比較例2]
200mm×100mm×4mmのステンレス鋼製の金属板に、ウェットエッチングを施し、内径14mm、深さ2000μm、幅2000μmのリング状溝(18個)を形成したところ、金属板の反りが大きく、スクリーン印刷による非導電膜の形成が困難であった。
【0059】
<電気ニッケルの製造>
各実施例及び比較例にて作製した陰極板を用いて、電解処理により電気ニッケルを製造した。具体的には、塩化ニッケル電解液を収容した電解槽中に、陰極板と、200mm×100mm×10mmの電気ニッケルからなる陽極板とを、対向させて浸漬した。そして、初期電流密度710A/m、電解時間3日間の条件で、陰極板の表面にニッケルを電着させた。電解後、陰極板上に析出した電気ニッケルを剥ぎ取り、小塊状のメッキ用電気ニッケルを得た。
【0060】
<評価>
電解処理に使用した陰極板を、そのまま繰り返し利用できる回数を評価した。非導電膜の欠落が広がると、隣接する導電部で電着したニッケル同士が連結し、所望の形状の電気ニッケルを得られないことがある。したがって、非導電膜が欠落し、非導電膜が初期の所定の位置から導電部と離れる方向に1mm以上に亘って欠落した場合には、使用を中止し、その時点までの繰り返し回数を評価した。
【0061】
下記表1に、陰極板の構成とともに評価結果を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、リング状溝2bが形成された金属板2からなる陰極板1を用いた実施例1〜6では、平板状の金属板12からなる陰極板11を用いた比較例1に比べ、非導電膜3の欠落が抑制され、繰り返し使用できる回数が増えた。特に、リング状溝2bの溝深さXが50μm以上、幅Yが100μm以上である陰極板1を用いた実施例1〜4では、十分な回数繰り返し使用することができた。
【符号の説明】
【0064】
1 陰極板
2 金属板
2a 導電部
2b リング状溝
2c リング状溝の外側表面
3 非導電膜
4 ニッケル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7