【発明の効果】
【0013】
本発明は半導体装置部品の接合のための接合部材であって、高温状態においてビッカース硬さが顕著に低下し、常温(25℃)においてビッカース硬さがもとに戻るという特性により、半導体装置内部に生じる応力を緩和することができるため、低温から高温、高温から低温という大きな冷熱衝撃に半導体装置をさらしても、接合部材への負荷を低減することができる。
これにより、今後、高温動作、大電流密度化が進むMOSFETやIGBTなどの半導体チップに関して、支持体との熱膨張係数差によって生じる応力を緩和することにより、半導体装置に生じるクラック等を抑制することが可能である。
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
<銅微粒子焼結体>
本発明の銅微粒子焼結体は、150℃でのビッカース硬さが、25℃でのビッカース硬さの5%以上20%以下であることを特徴とする。
より明確に表現すれば、
銅微粒子焼結体の150℃でのビッカース硬さをHvbとし、
同銅微粒子焼結体の25℃でのビッカース硬さをHvaとしたとき、
(Hvb/Hva)×100の値が、5%以上20%以下であることを特徴とする。
このような特徴は、簡便に表現するために、「ビッカース硬さの低下率が5%以上20%以下である」とも言い換えられ、本明細書では「ビッカース硬さの低下率」という用語で表現した箇所がある。また、このような「ビッカース硬さの低下率」に関する詳述及び「ビッカース硬さ」の測定方法詳述については、後記したため参照されたい。
本発明の銅微粒子焼結体の「ビッカース硬さの低下率」は、上述のような本発明の効果が得られやすい観点から、150℃でのビッカース硬さが、25℃でのビッカース硬さの7%以上10%以下であることが好ましい。
このような本発明の銅微粒子焼結体は、粒径が1〜300nmの銅微粒子を200℃〜350℃の焼結処理等により融着させることで焼結体として簡便に得られるが、接合部材としての銅微粒子焼結体が、本発明の特徴である上記した150℃でのビッカース硬さと25℃でのビッカース硬さの関係を満たすものであれば、どのような方法で得られたとしても、本発明に包含される。
【0015】
焼成処理に関しては、窒素やアルゴンのような不活性雰囲気下で行なえばよいが、水素やギ酸のような還元性の雰囲気下で焼成することもでき、また、プラズマや光焼成のような装置を用いて焼成することもできる。
【0016】
また、焼結体のビッカース硬さが前述の範囲に収まる限りは、他粒径の銅、たとえばサブミクロン銅やミクロン銅を添加することもできる。
【0017】
本発明の高い信頼性を有する銅微粒子焼結体を実現するためには、焼結体のビッカース硬さ、冷熱衝撃試験によるクラック、又は、剥離の有無を評価する必要がある。従って本明細書では焼成後の銅微粒子焼結体のビッカース硬さをインデンテーション試験により評価した。また、冷熱衝撃試験により、半導体チップと支持体との接合信頼性を評価した。
【0018】
<銅微粒子>
本発明の銅微粒子焼結体の製造に用いられる銅微粒子は、200〜350℃の焼結により銅微粒子同士の融着を行なう点から、1〜300nmの一次粒子径を持つものを用いることができるが、耐酸化性、分散性の点から10〜100nmのものがより好ましい。前記銅微粒子の表面被覆有機物(分散安定剤)の種類、もしくは有無に関しては特に限定されるものではない。
【0019】
銅微粒子を構成する銅の純度は特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。銅微粒子の純度は、95質量%以上であればよく、97質量%以上であることが好ましい。また、銅微粒子中に含まれる、有機物、銅酸化物及び銅水酸化物の総含有率は5%以下であればよく、3%以下であることが好ましい。なお、本発明において、銅酸化物は、酸化銅(II)及び亜酸化銅を含むものである。
【0020】
銅粒子の形状は特に制限されず、適宜選択することができるが、球状、板状、棒状などを挙げることができ、なかでも球状であることが好ましい。
【0021】
<銅微粒子の表面被覆有機物>
本発明の銅微粒子焼結体の製造に用いられる銅微粒子の表面被覆有機物としては、公知慣用の分散安定剤がいずれも使用できるが、例えば、脂肪族カルボン酸類、脂肪族アミン類、脂肪族チオール類、脂肪族チオエーテル類、エチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、チオエーテル構造を含むポリマー、チオエーテル構造を含むオリゴマー、及び、これらの混合物や、これらの共重合体を使用することができる。
【0022】
<ポリエチレンオキシド含有有機化合物(A)>
本発明の銅微粒子焼結体を、より好適に得るために、炭素数8〜200のポリエチレンオキシド含有有機化合物が複合した銅微粒子を用いることが好ましい。このような有機化合物は、特許第4784847号公報、特開2013−60637号公報又は特許第5077728号公報に記載の方法で合成することができる。これらは、チオエーテル型(R−S−R’)化合物が銅粒子表面に対して適切な親和吸着効果と、加熱による迅速な脱離性を有することが特徴となっており、低温融着特性を示す金属ナノ粒子として開発されている。
これらの中でも、下記式(1)〜(3)で表されるチオエーテル型有機化合物であることが好ましい。
【0023】
<チオエーテル(R−S−R’)型有機化合物>
本発明の効果を説明する一例として、下記一般式(1)〜(3)で表されるチオエーテル型有機化合物が複合した銅微粒子について詳述する。
W−(OCH
2CH
2)
n−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−S−X (1)
[W−(OCH
2CH
2)
n−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−S−]
dY (2)
[W−(OCH
2CH
2)
n−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−S−R
a−]
tZ (3)
〔式(1)、(2)及び(3)中のWはC
1〜C
8のアルキル基であり、nは4〜100の繰り返し数を示す整数であって、XはC
2〜C
12のアルキル基、アリル基、アリール基、アリールアルキル基、−R
1−OH、−R
1−NHR
2、又は−R
1−(COR
3)
m(但し、R
1はC
1〜C
4の飽和炭化水素基であり、R
2は水素原子、C
2〜C
4のアシル基、C
2〜C
4のアルコキシカルボニル基、又は芳香環上にC
1〜C
4のアルキル基又はC
1〜C
8のアルコキシ基を置換基として有していても良いベンジルオキシカルボニル基であり、R
3はヒドロキシ基、C
1〜C
4のアルキル基又はC
1〜C
8のアルコキシ基であり、mは1〜3の整数である。)であり、Yは硫黄原子と直接結合するものが炭素原子である2〜4価の基であって、C
1〜C
4の飽和炭化水素基又はC
1〜C
4の飽和炭化水素基が−O−、−S−若しくは−NHR
b−(R
bはC
1〜C
4の飽和炭化水素基である。)で2〜3個連結した基であり、dは2〜4の整数であり、R
aはC
2〜C
5のアルキルカルボニルオキシ基であり、Zは硫黄原子と直接結合するものが炭素原子である2〜6価の基であって、C
2〜C
6の飽和炭化水素基、C
2〜C
6飽和炭化水素基が−O−、−S−若しくは−NHR
c−(R
cはC
1〜C
4の飽和炭化水素基である。)で2〜3個連結した基、又はイソシアヌル酸−N,N’,N”−トリエチレン基であり、tは2〜6の整数である。〕
【0024】
前記一般式(1)〜(3)中におけるエチレンオキシドを繰り返し単位として有する鎖状の官能基は、溶媒親和部として機能する。このポリエチレンオキシドの炭素数は、8〜200のものを用いることが好適であり、炭素数8〜100のものを用いることがより好適である。また、前記一般式(1)〜(3)中におけるエチレンオキシドを繰り返し単位として有する鎖状の官能基は炭素数が少ない程、有機成分が残りにくいため、炭素数8〜12程度のものが高導電性や信頼性を有する接合部材としてより好ましい。
【0025】
一方で、前記一般式(1)〜(3)中におけるエチレンオキシドを繰り返し単位として有する鎖状の官能基は炭素数50〜100程度のものが分散安定性に優れ、銅微粒子を高分散させ、接合材ペーストとして用いる際の分散性、及び、再現性を向上させる点で、より好ましい。
【0026】
従って、使用場面に応じて炭素数を8〜200の範囲や、より好ましい炭素数8〜100の範囲で適宜調節することができる。
【0027】
前記一般式(1)〜(3)中のWは、工業的な入手の容易さ、および分散剤として使用したときの分散安定性の点から、直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基であり、特に水性媒体中での安定性の観点からは炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0028】
前記一般式(1)中のXがカルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基を部分構造として含む構造のものは、チオエーテル基と多座配位子を構成することが可能となるため、金属ナノ粒子表面への配位力が強くなるため好ましい。
【0029】
前記一般式(2)中のYがエーテル(C−O−C)、チオエーテル(C−S−C)を部分構造として含む構造のもの、前記一般式(3)中のR
aがメチレンカルボキシ基(−CH
2COO−)またはエチレンカルボキシ基(−CH
2CH
2COO−)であって、Zがエチレン基、2−エチル−2−メチレンプロパン−1,3−ジイル基、2,2−ビスメチレンプロパン−1,3−ジイル基であるものが最も好適である。
【0030】
<チオエーテル型有機化合物の製造方法>
前述のように、本発明においてチオエーテル型有機化合物は、前記一般式(1)〜(3)で表される化合物であることが好ましい。これらのチオエーテル型有機化合物を製造する方法について、以下詳述する。
【0031】
チオエーテル型有機化合物を簡便に製造する方法としては、例えばグリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)とチオール化合物(a2)とを反応させる方法が挙げられる。
【0032】
前記グリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)は、下記一般式(4)で表すことができる。
【0033】
【化1】
・・・・(4)
【0034】
(式中、W、R
1、nは前記と同じである。)
グリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)の合成方法としては、例えば、ルイス酸存在下、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルをエピクロロヒドリンのオキシラン環に付加開環させた後、生成するクロロヒドリン体を濃厚アルカリ中で加熱再閉環する方法、過剰のアルコラートや濃厚アルカリなどの強塩基を用いて、一段階で反応させる方法が挙げられるが、より高純度のポリエーテル化合物(a1)を得る方法としては、カリウムt−ブトキシドを用いてポリエチレングリコールモノメチルエーテルをアルコキシドとし、これとエピクロロヒドリンとを縮合させた後、加熱を継続してエポキシ環を再形成するGandourらの方法(Gandour,et al.,J.Org.Chem.,1983,48,1116.)を準用することが好ましい。
【0035】
前記グリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)の末端オキシラン環を、チオール化合物(a2)で開環させて、目的とするチオエーテル型有機化合物を得ることができる。この反応はチオール基の求核反応を利用したものであるが、この反応については様々な活性化方法が挙げられる。
【0036】
例えば、ルイス酸によるエポキシドの活性化による合成が広く行なわれており、具体的には酒石酸亜鉛や、ランタニド系ルイス酸を用いることが知られている。また、ルイス塩基を用いる方法もしばしば行われている。
【0037】
更に、フッ素イオンを塩基触媒として活用する方法はJames H.Clarkの総説に詳しく述べられている。Pensoらはこれをレジオセレクティビティーに優れるエポキシドの開環方法として応用しており、フッ化第四級アンモニウムを触媒とすることで穏和な条件下でチオールのエポキシドへの付加開環反応が進行することを報告している。
【0038】
特に本発明で用いるチオエーテル型有機化合物が高効率で得られる点からは、フッ素イオンを塩基触媒として活用する方法が好ましい。この方法を適用することによって、グリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)とチオール化合物(a2)の反応後、特別な精製を行わなくても、チオエーテル型有機化合物を得ることができる。
【0039】
ポリエーテル化合物(a1)には様々なチオール化合物(a2)を反応させることができる。例としてアルカンチオール類、ベンゼンチオール類の他、ラジカル重合連鎖移動剤として汎用されているため入手が容易なチオグリコール、チオグリコール酸およびそのエステル類、メルカプトプロピオン酸およびそのエステル類などが挙げられる。チオリンゴ酸、チオクエン酸およびそれらのエステル類のようなメルカプトポリカルボン酸類を反応させてもよい。また、分子内に複数のチオール基を有する化合物、すなわちエタンジチオールの様なアルキレンジチオール類、トリメチロールプロパン=トリス(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトール=テトラキス(3−メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトール=ヘキサキス(3−メルカプトプロピオナート)なども同様に反応させ導入することが可能である。その結果得られる化合物は、分子内に複数のチオエーテル構造を持つので、銅系ナノ粒子に対し複数の領域によって親和性を発現しうる。
【0040】
一般式(1)〜(3)で表される構造を分子中に有する高分子化合物を得るために使用するチオール化合物(Q)は、一般に連鎖移動剤として使用されるチオール化合物を使用することができる。具体的には、チオグリコール、2−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロパノール、8−メルカプトオクタノール、2,3−ジヒドロキシプロパンチオール、2−メトキシエタンチオール、2−エトキシエタンチオール、2−ヘキシルオキシエタンチオール、2−(2−エチルヘキシルオキシ)エタンチオール、2−ベンジルオキシエタンチオール、2−(4−メトキシベンジルオキシ)エタンチオール、2−フェニルオキシエタンチオール、2−(4−メトキシフェニルオキシ)エタンチオール、2−(2,4−ジメトキシフェニルオキシ)エタンチオール、6−(4−ヒドロキシメチルフェニルオキシ)ヘキサンチオール、2−アセトキシエタンチオール、2−ヘプタノイルオキシエタンチオール、2−オクタノイルオキシエタンチオール、2−オクタデカノイルオキシエタンチオール、2−イソブチリルオキシエタンチオール、2−ピバロイルオキシエタンチオール、チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸、7−メルカプトオクタン酸、2−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトコハク酸、およびこれらカルボン酸の無機塩、アンモニウム塩および有機アミンの塩、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸エチル、チオグリコール酸オクチル、β−メルカプトプロピオン酸エチル、β−メルカプトプロピオン酸オクチル、β−メルカプトプロピオン酸ドデシル、β−メルカプトプロピオン酸−2−(メトキシエチル)、β−メルカプトプロピオン酸−2−(メトキシエトキシエトキシ)、β−メルカプトプロピオン酸−2−(4−メトキシブトキシ)、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸−2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸−3−メトキシブトキシ、2−メルカプトエチルホスファート、2−メルカプトエチルホスフィン酸、2−メルカプトプロピルホスファート、2−メルカプトプロピルホスフィン酸、ω−メルカプトエトキシエチルホスファート、ω−メルカプトプロピルオキシプロピルホスファート、2−メルカプトエチルジメチルホスファート、2−メルカプトエチルホスフィン酸ジメチル、2−メルカプトエチルジエチルホスファート、2−メルカプトプロピルジエチルホスファート、2−メルカプトエチルジイソプロピルホスファート、2−メルカプトエチルジイソブチルホスファート、2−メルカプトエチルサルファート、2−メルカプトエチルスルホン酸、2−メルカプトプロピルスルホン酸、2−メルカプトエチルメチルサルファート、メチル 2−メルカプトエチルスルホナート、2−メルカプトエチルエチルサルファート、エチル 2−メルカプトエチルスルホナート、メチル 2−メルカプトプロピルスルホナート、エチル 2−メルカプトプロピルスルホナート、等があげられる。中でもチオグリコール、2,3−ジヒドロキシプロパンチオール、チオグリコール酸、β―メルカプトプロピオン酸、β―メルカプトプロピオン酸エチル、β―メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルが、反応性の点から好ましく、β―メルカプトプロピオン酸メチルが最も好ましい。
【0041】
<炭素数8〜200のポリエチレンオキシド含有有機化合物が複合した銅微粒子の合成>
本発明の効果を説明する一例として、本発明の銅微粒子焼結体に含有される炭素数8〜200のポリエチレンオキシド含有有機化合物が複合した銅微粒子の製造方法は、チオエーテル型有機化合物の存在下で、2価の銅イオン化合を溶媒と混合する工程と、銅イオンを還元する工程とを有することを特徴とするものである。
【0042】
2価の銅イオン化合物としては、一般的に入手可能な銅化合物が利用可能であり、硫酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、炭酸塩、塩化物、アセチルアセトナート錯体等が利用できる。0価の銅微粒子との複合体を得る場合には2価の化合物から出発しても1価の化合物から製造してもよく、水分や結晶水を有していても差し支えない。具体的には、結晶水を除いて表現すれば、CuSO
4、Cu(NO
3)
2、Cu(OAc)
2、Cu(CH
3CH
2COO)
2、Cu(HCOO)
2、CuCO
3、CuCl
2、Cu
2O、C
5H
7CuO
2などが挙げられる。さらに、上記塩類を加熱したり、塩基性雰囲気に曝したりすることにより得られる塩基性塩、たとえばCu(OAc)
2・CuO、Cu(OAc)
2・2CuO、Cu
2Cl(OH)
3等は最も好適に用いることができる。これら塩基性塩は、反応系内で調製してもよいし、反応系外で別途調製したものを使用してもよい。また、アンモニアやアミン化合物を加えて錯体形成し、溶解度を確保してから還元に用いる一般的な方法も適用可能である。
【0043】
これらの銅イオン化合物を、予めチオエーテル型有機化合物を溶解又は分散した媒体に溶解、または混合する。このとき用いることができる媒体としては、使用する有機化合物の構造にもよるが、水、エタノール、アセトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンおよびそれらの混合物が好適に用いられ、水、または、水とエタノールの混合物が特に好ましい。
【0044】
チオエーテル型有機化合物の、各種媒体中における濃度としては、引き続き行なう還元反応の制御が容易になる点から、0.3〜10質量%の範囲に調整することが好ましい。
【0045】
上記で調製した媒体中に、前記銅イオン化合物を、一括又は分割して添加し、混合する。溶解しにくい媒体を使用する場合には、予め少量の良溶媒に溶解させておいてから、媒体中に添加する方法であっても良い。
【0046】
混合するチオエーテル型有機化合物と銅イオン化合物との使用割合としては、反応媒体中でのチオエーテル型有機化合物の保護能力に応じて適宜選択することが好ましいが、通常、銅イオン化合物1molあたりに、チオエーテル型有機化合物として1mmol〜30mmol(分子量2000のポリマーを用いる場合、2〜60g程度)の範囲で調製し、特に15〜30mmolの範囲で用いることが好ましい。
【0047】
引き続き、銅イオンの還元を、各種還元剤を用いて行なう。還元剤としては、ヒドラジン化合物、ヒドロキシルアミンおよびその誘導体、金属水素化物、ホスフィン酸塩類、アルデヒド類、エンジオール類、ヒドロキシケトン類など、氷冷温から80℃以下の温度で銅の還元反応を進行させることができる化合物であることが、沈殿物形成の少ない複合体を与えるため、好適である。
【0048】
銅イオンの還元において、具体的にはヒドラジン水和物、非対称ジメチルヒドラジン、ヒドロキシルアミン水溶液、水素化ホウ素ナトリウムなどの強力な還元剤が好適である。これらは、銅化合物を0価まで還元する能力を有するので、2価および1価の銅化合物を還元銅とし、有機化合物とナノ銅粒子との複合体を製造する場合に適している。
【0049】
還元反応に適する条件は、原料として用いる銅化合物、還元剤の種類、錯化の有無、媒体、チオエーテル型有機化合物の種類によって様々である。例えば、水系で酢酸銅(II)を水素化ホウ素ナトリウムで還元する場合には、氷冷程度の温度でも0価のナノ銅粒子が調製できる。一方、ヒドラジンを用いる場合には、室温では反応は遅く、60℃程度に加熱してはじめて円滑な還元反応が起こり、エチレングリコール/水系で酢酸銅を還元する場合には、60℃で2時間程度の反応時間を要する。このようにして還元反応が終了すると、有機化合物と銅微粒子との複合体を含む反応混合物が得られる。
【0050】
<銅微粒子ペースト>
本発明における銅微粒子焼結体は、銅微粒子の粉末をそのまま焼成して作製することも可能であるが、銅微粒子の分散性、被着物である半導体装置部品との濡れ性の点から、任意の溶媒と混合し、ペーストとして使用することが好ましい。銅微粒子の濃度は高いほど接合密度が向上し、ボイド等の発生を抑制することができるが、塗布、印刷方式に見合った粘度範囲で最大の銅微粒子濃度となるように調節することができ、50〜95%程度の濃度とすることが被着物への供給がし易い点で好適である。
【0051】
<溶媒>
本発明における銅微粒子のペースト化に用いることができる溶媒としては、水以外に有機溶媒を用いることも可能である。極性有機溶媒としては、アルコール類(例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールや2−エチルへキシルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコールなどの一級アルコール型や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオールなどの二級アルコール型や、プロパントリオール、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、ヘプタントリオールなどの三級アルコール型、プロパンテトラオール、ブタンテトラオール、ペンタンテトラオール、ヘキサンテトラオール、ヘプタンテトラオールなどの4級アルコール型、ペンタンペンタオール、ヘキサンペンタオールなどの5級アルコール型のものが挙げられる。また、ベンゼントリオール、ビフェニルペンタオール、ベンゼンペンタオール、シクロヘキサンヘキサオールなどの環状型の構造を有するアルコール化合物を用いることも可能である。それ以外にもクエン酸、アスコルビン酸等のアルコール基を有する化合物を用いてもよい)やアルデヒド類(例えば、アセトアルデヒド等)、エーテル構造を含むアルコール誘導体(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシブタノール、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、分子量200〜400までのポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)を用いることができる。
【0052】
また、エステル系溶媒(例えば、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,4−ブタンジオールジアセテート、1,3−ブチレングリコールジアセテート、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、環状構造を持つクラウンエーテル類等)を用いることも可能である。
【0053】
また、ラクタム構造含有溶媒(例えば、β−ラクタム、ε−カプロラクタム、σ−ラクタム、N−メチル−2−ピロリドン、ピログルタミン酸、ピラセタム、ペニシリンなどのβ−ラクタム系化合物等)を用いることも可能である。
【0054】
非極性有機溶媒(例えば、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、キシレン、ベンゼン等)を用いることも可能である。
なかでも、分解・揮発時の熱還元作用の観点から、沸点150℃以上のアルコール系溶媒、沸点150℃以上のエーテル系溶媒を用いることが好ましい。
なかでも、より好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオールなどの二級アルコール型の沸点150℃以上のアルコール系溶媒、沸点150℃以上のエーテル系溶媒が好ましい。
なかでも、さらに好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、分子量200〜400までのポリエチレングリコールが好ましい。
【0055】
溶媒の使用量は金属に対し5〜50%の範囲であれば使用可能であり、5〜15%の範囲であることがより好ましい。
【0056】
<接合>
上記銅微粒子ペーストを、表面に金めっきを施した銅―65モリブデン基材(縦21mm×横37mm×厚さ3mm)に塗布し、接合面に金蒸着を施した白金抵抗体の付いたシリコンチップ(5mm角×厚さ0.3mm)をマウントした後、そのまま、あるいは僅かに加圧しながら銅微粒子が融着する温度まで加熱することで接合試験片を作製することができる。このとき、水素を含むフォーミングガス下、窒素雰囲気下又はギ酸を通過させて含ませたギ酸含有窒素の雰囲気下で行うこともできる。また、被接合物の大きさ、上記溶媒の種類により温度プロファイルを変えて融着をより進行させることもできる。
【0057】
本発明において、接合すべき部材(被接合物)としては、金属(合金、金属間化合物も含む。)のほか、セラミック(シリコン、シリコンカーバイド、窒化ガリウムも含む)、プラスチック、これらの複合材料等を大きさ、厚みに関わらず例示できるが、本発明では特に金属(合金、金属どうしの接合も含む。)とシリコン、及び、シリコンカーバイドが好ましい。また、部材の形状等も、これらの粉末又はペーストが部材間に適切に配置できる限り、特に限定されない。
【0058】
<冷熱衝撃試験による接合部位の信頼性評価>
JIS C 60068−2−14「温度変化試験方法」に記載の方法に準拠して、気相冷熱衝撃装置(エスペック社製、TSD−100)を用いて、上記の接合試験片を低温雰囲気槽(−40℃)と高温雰囲気槽(200℃)に交互に5分間ずつ1000回さらすことで、接合部位の信頼性を評価した。クラック、剥離の有無は接合試験片を100サイクル、300サイクル、600サイクル、1000サイクル毎に取り出し、シリコンチップ上に描画された白金抵抗体に電圧を印加することで下記式により熱抵抗の増加を測定することで評価した。
【0059】
熱抵抗Rth(℃/W)=(T1(℃)−T2(℃))/P(W)
T1=電圧無印加時のチップ上面中央の温度
T2=電圧印加時のチップ上面中央の温度
P=印加電圧(V)×測定電流(A)
【0060】
<銅微粒子焼結体のビッカース硬さ>
上記接合試験片を信頼性試験用サンプルとは別に作製し、クロスセクションポリッシャー研磨により接合断面を露出させ、得られた銅微粒子焼結体断面をインデンテーション法により測定することでビッカース硬さを評価した。25℃でのビッカース硬さはダイナミック超微小硬度計(島津製作所:DUH−W201)、高温でのビッカース硬さは微小荷重試験機(鷺宮製作所:LMH207−20)を用いて下記の押し込み条件で測定した。
使用圧子:ダイヤモンド型三角錘(頂角117°)
最大荷重:1N
荷重速度:70.6mN/s
最大荷重保持時間:15s
試験温度:25℃、150℃
【0061】
ビッカース硬さは三角錘圧子が試料に侵入した深さhから以下の式を用いて算出した。三角錘圧子によって導入される圧痕形状は相似形であり、圧子が侵入した深さhと投影面積Aは比例する。頂角117°の圧子を用いた場合、深さと投影面積の関係は以下の式に従う。
A(投影面積)=49×h(深さ)
2
上記で算出したA(投影面積)から以下の式によりビッカース硬さを求めた。
HV(ビッカース硬さ)=0.102×F〔N〕(試験力)/A〔mm
2〕(投影面積)
詳細な算出方法はHandbook of Micro/nano Tribology (Second Edition) Edited by Bharat Bhushan, CRC Press (ISBN 0−8493−8402−8)に説明されているため、ここでの説明は省略する。また、ビッカース硬さは10点の平均値を使用した。
【0062】
<ビッカース硬さの低下率>
上記の手法で測定したビッカース硬さを用いて、下記式からビッカース硬さの低下率を求めた。
ビッカース硬さ低下率(%)
=150℃ビッカース硬さ(HVb)/25℃ビッカース硬さ(HVa)×100