(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
[カバーレイフィルム]
本実施の形態のカバーレイフィルムは、ポリイミド絶縁層(A)と、このポリイミド絶縁層(A)の一方の面に設けられたポリイミド接着剤層(B)とからなる。
【0019】
本発明のカバーレイフィルムは、カバーレイフィルム全体における誘電率をDk12とし、誘電正接をDf12とした場合に、下記式(1);
√Dk12×Df12<0.007 … …(1)
を満足するものである。従来技術では、カバーレイフィルムの主に接着剤層の低誘電化について検討されているが、接着剤層の低誘電化だけではなく、カバーレイフィルム全体としての低誘電化が重要となる。そして、上記√Dk12×Df12は、カバーレイフィルムの誘電特性の指標となるものであり、ポリイミド絶縁層(A)についても低誘電化を行うことで、上記式(1)の充足が可能となる。なお、上記特性を満たせば、ポリイミド絶縁層(A)とポリイミド接着剤層(B)のいずれか一方の誘電率の平方根と誘電正接の積が、0.007より大きくてもよい。また、式(1)を満たすためには、ポリイミド絶縁層(A)の誘電特性が後述する式(2)を満たすことが好ましく、さらに、ポリイミド接着剤層(B)の厚み比率が、後述する式(3)を満たすことが好ましい。
【0020】
また、ポリイミド絶縁層(A)の厚み(L1)は、12μm以上30μm以下の範囲内が好ましい。また、ポリイミド接着剤層(B)の厚み(L2)は、10μm以上40μm以下の範囲内が好ましい。
【0021】
また、ポリイミド絶縁層(A)の厚み(L1)とポリイミド接着剤層(B)の厚み(L2)の合計(好ましくは、カバーレイフィルムの全体の厚み)に対するポリイミド接着剤層(B)の厚み(L2)は、40%より高いことが好ましい。
すなわち、下記の式(3);
L2/(L1+L2)>0.40 … …(3)
を満たすことが好ましい。式(3)を満たすことで、ポリイミド絶縁層(A)と比較した際、ポリイミド接着剤層(B)が誘電率、誘電正接が優れていることを利用し、カバーレイフィルムとしての低誘電化を達成することが可能とし、式(1)についても達成可能とすることができる。
【0022】
また、カバーレイフィルム全体における5GHzでの誘電正接をDf12-5GHzとし、20GHzでの誘電正接をDf12-20GHzとした場合に、下記の式(4);
Df12-20GHz/Df12-5GHz≦1 … …(4)
を満足することが好ましい。カバーレイフィルムを、高周波域でも使用可能とするためには、狭域の周波数のみではなく、広域の周波数で安定的な誘電特性を示すことが重要である。そのため、カバーレイフィルムは、高周波域においても誘電正接の悪化を生じない材料によって設計することが重要となる。式(4)を達成するためには、高周波域においても安定的な誘電正接示すポリイミド接着剤層(B)を用い、尚且つ、高周波域において、誘電正接の悪化を生じやすいポリイミド絶縁層に対する厚み比率を一定以上担保する必要ことが重要である。またポリイミド接着剤層(B)は、高周波域において、誘電正接の悪化を生じにくくするために、分子骨格中の双極子の回転運動を抑制する材料設計、すなわち分子骨格中の双極子の低減が重要となる。
【0023】
また、カバーレイフィルムの反りを抑制するために、ポリイミド絶縁層(A)の弾性率が、ポリイミド接着剤層(B)の弾性率より高いことが望ましい。ポリイミド絶縁層(A)
の弾性率がポリイミド接着剤層(B)の弾性率より低下すると、熱線膨張係数の大きいポリイミド接着剤層(B)の影響によりカバーレイフィルムの反りが大きくなり、また回路配線板に貼り合せを行った際においても反り発生の原因となる。
【0024】
また、カバーレイフィルムは、ポリイミド接着剤層(B)側の面に離型材を貼り合わせて離型材層を有する形態としてもよい。離型材の材質は、カバーレイフィルムの形態を損なうことなく剥離可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂フィルムや、これらの樹脂フィルムを紙上に積層したものなどを用いることができる。
【0025】
本発明のカバーレイフィルムは、優れた柔軟性と熱可塑性を有することから、FPCのカバーレイフィルムとして用いた際にポリイミド接着剤層(B)が配線間に充填され、カバーレイフィルムと配線層との高い密着性が得られる。
【0026】
次に、ポリイミド絶縁層(A)と、ポリイミド接着剤層(B)について、それぞれ詳細に説明する。
【0027】
[ポリイミド絶縁層(A)]
ポリイミド絶縁層(A)に用いる樹脂は、芳香族テトラカルボン酸無水物成分を含む酸無水物成分と、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン等を含むジアミン成分と、を反応させて得られるポリイミドである。ポリイミドは、一般に、酸無水物とジアミンとを反応させて製造されるので、酸無水物とジアミンを説明することにより、ポリイミドの具体例が理解される。以下、好ましいポリイミドを酸無水物とジアミンにより説明する。
【0028】
<酸無水物>
ポリイミド絶縁層(A)に用いるポリイミドの原料の酸無水物成分として、無水ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が好ましく例示される。また、酸無水物として、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
【0029】
<ジアミン> ポリイミド絶縁層(A)に用いるポリイミドの原料のジアミン成分として、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基若しくはアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等が挙げられる。
【0030】
上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。また、上記以外のジアミン及び酸無水物を上記の酸無水物又はジアミンと共に使用することもできる。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0031】
ポリイミド絶縁層(A)を構成するポリイミドは、イミド基濃度が33%以下であることが好ましく、32%以下であることがより好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(−(CO)
2−N−)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が33%を超えると、ポリイミドの難燃性が低下するとともに、極性基の増加によって誘電特性も悪化する。
【0032】
ポリイミド絶縁層(A)を構成するポリイミドは、酸無水物成分、並びに、ジアミン成分を溶媒中で反応させ、前駆体樹脂を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5〜30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0033】
合成された前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。前駆体をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0034】
<ポリイミド絶縁層(A)の厚み>
ポリイミド絶縁層(A)は、保護フィルムとして機能を発現し、尚且つ製造時および接着剤層塗工時の搬送性の観点から、12μm以上であることが好ましく、またカバーレイフィルムとして誘電特性の悪化を避けるためには、30μm以下の範囲にあることが好ましい。
【0035】
ポリイミド絶縁層(A)は、耐熱性の観点から、ガラス転移温度(Tg)が280℃以上であることが好ましく、さらに、300℃以上であることがより好ましい。また、カバーレイとし、FPCと貼り合せた際における反り抑制の観点から、ポリイミド絶縁層(A)の熱線膨張係数は、1×10
−6 〜30×10
−6(1/K)の範囲内、好ましくは1×10
−6 〜25×10
−6(1/K)の範囲内、より好ましくは15×10
−6 〜25×10
−6(1/K)の範囲内にあることがよい。
【0036】
ポリイミド絶縁層(A)は、カバーレイフィルムの絶縁層としてFPC等の回路基板に使用した際の誘電損失を低減するために、5GHz、10GHzおよび20GHzにおける誘電率の平方根と誘電正接の積が、いずれも0.01未満であることが好ましい。すなわち、ポリイミド絶縁層(A)の5GHz、10GHzおよび20GHzにおける誘電率をDk1とし、誘電正接をDf1とした場合に、以下の式(2);
√Dk1×Df1<0.01 … …(2)
を満たすことが好ましい。
【0037】
ポリイミド絶縁層(A)の5GHz、10GHzおよび20GHzにおける誘電率の平方根と誘電正接の積が0.01を超えると、カバーレイフィルムとしての誘電特性についても悪化し、従来のカバーレイフィルムと同程度の性能となる。このことから、イミド基濃度が33%以下であることが好ましく、32%以下であることがより好ましい。イミド基濃度が33%を超えると、ポリイミドの極性基の増加によって誘電率、誘電正接の悪化につながる。
【0038】
ポリイミド絶縁層(A)は、必要に応じて、ポリイミド層中に無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
[ポリイミド接着剤層(B)]
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、芳香族テトラカルボン酸無水物成分を含む酸無水物成分と、脂肪族ジアミン成分と、を反応させて得られるポリイミドである。またジアミン成分として芳香族ジアミンを含んでもよい。ポリイミドは、一般に、酸無水物とジアミンとを反応させて製造されるので、酸無水物とジアミンを説明することにより、ポリイミドの具体例が理解される。以下、好ましいポリイミドを酸無水物とジアミンにより説明する。
【0040】
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、原料の酸無水物として、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA、別名;5,5’−オキシビス−1,3−イソベンゾフランジオン)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、5,5'-[1-メチル-1,1-エタンジイルビス(1,4-フェニレン)ビスオキシ]ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)(BISDA)、4,4'-ジアミノジシクロヘキシルメタン等を使用することができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
<脂肪族ジアミン>
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、原料のジアミン成分として、例えばダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基若しくはアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン等のジアミノアルカン類、トリス(2−アミノエチル)アミン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、ジエチレントリアミン、N−メチル−2,2’−ジアミノジエチルアミン、3,3’−ジアミノジプロピルアミン、N,N−ビス(3−アミノプロピル)メチルアミン等の窒素原子を含有するアミン類、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]−ウンデカン等の酸素原子を含有するアミン類、2,2’−チオビス(エチルアミン)等の硫黄原子を有するアミン類等の脂肪族ジアミン類を主成分とすることが望ましく、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、低誘電率および低誘電正接を有し、尚且つ可溶性である必要があるため、前記脂肪族ジアミンが全ジアミンに対して好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であることが好ましい。
【0042】
<芳香族ジアミン>
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、原料のジアミン成分として、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等の芳香族ジアミンを含んでもよく、これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、脂肪族ジアミンと組み合わせてもよい。また、ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、低誘電率および低誘電正接を有し、尚且つ可溶性である必要があるためには、全ジアミンに対する芳香族ジアミン比率を低減する必要がある。このため、全ジアミンに対して芳香族ジアミンは、全ジアミンに対して好ましくは40モル%未満、さらに好ましくは20モル%未満であることが好ましい。芳香族ジアミンの比率が増加するとポリイミド溶液時における溶剤への溶解性が低下する。更に芳香族骨格はπ電子を有するため、誘電率の増加につながる。
【0043】
ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂は、上記の酸無水物成分とジアミン成分を溶媒中で反応させ、前駆体樹脂を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0〜200℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し縮重合反応させることでポリイミド溶液が得られる。反応にあたっては、生成するポリイミドが有機溶媒中に5〜50重量%の範囲内、好ましくは20〜40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン、2−ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような水と共沸する溶剤を使用するとよい。
【0044】
また、ポリイミド接着剤層(B)に用いる樹脂には、ポリイミド樹脂の他に任意成分として可塑剤、エポキシ樹脂などの他の硬化樹脂成分、硬化剤、硬化促進剤、無機フィラー、カップリング剤、充填剤、顔料、溶剤、難燃剤などを適宜配合することができる。ただし、可塑剤には、極性基を多く含有するものがあり、それが銅配線からの銅の拡散を助長する懸念があるため、可塑剤は極力使用しないことが好ましい。
【0045】
以上のようにして得られるポリイミド接着剤層(B)用の樹脂は、これを用いて接着剤層を形成した場合に優れた柔軟性と熱可塑性を有するものとなり、例えばFPC、リジッド・フレックス回路基板などの配線部を保護するカバーレイフィルム用の接着剤として好ましい特性を有している。カバーレイフィルムのポリイミド接着剤層(B)として使用する場合、ポリイミド絶縁層(A)用のフィルム材の片面に接着剤樹脂組成物を溶液の状態(例えば、溶剤を含有するワニス状)で塗布した後、例えば60〜220℃の温度で熱圧着させることにより、ポリイミド絶縁層(A)とポリイミド接着剤層(B)を有する本発明のカバーレイフィルムを形成できる。架橋剤やエポキシ樹脂などの樹脂成分を含有する場合、熱圧着の際の熱を利用して架橋反応や熱硬化性樹脂の硬化反応を進行させることができる。また、熱圧着の際の加熱縮合が充分でない場合でも、熱圧着の後に更に熱処理を施して加熱縮合させることもできる。熱圧着後に熱処理を施す場合、熱処理温度は、例えば60〜220℃が好ましく、80〜200℃がより好ましい。また、任意の基材上に、ポリイミド接着剤層(B)用の樹脂組成物を溶液の状態(例えば、溶剤を含有するワニス状)で塗布し、例えば80〜180℃の温度で乾燥した後、剥離することにより、ポリイミド接着剤層(B)用の接着剤フィルムを形成し、この接着剤フィルムを、ポリイミド絶縁層(A)用のフィルム材と例えば60〜220℃の温度で熱圧着させることによっても、本実施の形態のカバーレイフィルムを形成できる。また、ポリイミド接着剤層(B)用の樹脂は、任意の基材上に、スクリーン印刷により溶液の状態で被覆膜を形成し、例えば80〜180℃の温度で乾燥させて使用することもできる。好ましくは更に130〜220℃の温度で所定時間熱処理し、被覆膜を完全に硬化させることにより、硬化物を形成することもできる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は以下によるものである。
【0047】
[誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名E8363C)ならびにSPDR共振器を用いて、所定の周波数における樹脂シートの誘電率および誘電正接を測定した。なお、測定に使用した材料は、温度;24〜26℃、湿度;45〜55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0048】
実施例および比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
(A)ポリイミド原料
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
m‐TB:2,2’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル
DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIA
MINE1074、アミン価;210mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマー
ジアミンの混合物、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
N−12:ドデカン二酸ジヒドラジド
【0049】
(B)絶縁基材
絶縁基材(1):材質;液晶ポリマー、厚さ;25μm
絶縁基材(2):材質;ポリイミド、厚さ;25μm
【0050】
(C)離型基材
離型基材(1):材質;PET、表面処理;シリコーン処理、厚さ38μm
【0051】
(D)銅箔
銅箔(1):電解銅箔、厚さ;12.5μm、ポリイミド絶縁層塗工側の表面粗度Rz;1.5μm
【0052】
<ポリイミド絶縁層用の樹脂合成>
実施例及び比較例に用いたポリイミド絶縁層の形成にあたり、使用したポリアミド酸の合成は、以下の合成例1によるものである。
【0053】
[合成例1]
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、3.86gのDDA(0.0072モル)、18.94gのm‐TB(0.089モル)及び255gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、5.60gのBPDA(0.019モル)及び16.60gのPMDA(0.076モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを得た。ポリアミド酸溶液aにおける固形分濃度は15重量%であり、溶液粘度は31000cpsであった。
【0054】
<ポリイミド接着剤層用の樹脂合成>
実施例および比較例に用いたポリイミド接着剤層の形成にあたり、使用したポリイミドの合成は、以下の合成例2および3によるものである。
【0055】
[合成例2]
窒素気流下で、500mlのセパラブルフラスコに、44.98gのBTDA(0.139モル)、75.02gのDDA(0.140モル)、168gのN−メチル−2−ピロリドン及び112gのキシレンを装入し、40℃で30分間良く混合して、ポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、4.5時間加熱、攪拌し、112gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液bを得た。得られたポリイミド溶液bにおける固形分は29.1重量%であり、粘度は7800cpsであった。またポリイミド溶液bの重量平均分子量(Mw)は87,700であった。
【0056】
[合成例3]
合成例2で得られたポリイミド溶液bの34.4g(固形分として10g)と1.25gのN−12および2.5gのExolit OP935(クラリアントジャパン株式会社製)を配合し、1.297gのN−メチル−2−ピロリドンと3.869gのキシレンを加えて希釈してポリイミド接着剤溶液cを得た。得られたポリイミド接着剤溶液cにおける固形分濃度は32.5重量%であり、粘度は3100cpsであった。
【0057】
<ポリイミド絶縁層フィルムの作製>
実施例及び比較例に用いたポリイミド絶縁層フィルムの作製は、以下の作製例1および2によるものである。
【0058】
[作製例1]
合成例1で得られたポリアミド酸溶液aを銅箔(1)の片面(表面粗さRz;1.5μm)に、硬化後の厚みが12.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結した。得られた金属張積層体について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミド絶縁層フィルム1を得た。
【0059】
[作製例2]
硬化後の厚みが25μmであること以外、作製例1と同様にして、ポリイミド絶縁層フィルム2を得た。
【0060】
<ポリイミド接着剤層フィルムの作製>
実施例及び比較例に記載の誘電率および誘電正接の測定に用いたポリイミド接着剤層フィルムの作製は、以下の作製例3によるものである。
【0061】
[作製例3]
合成例3で得られたポリイミド接着剤溶液cを乾燥後の厚みが25μmとなるように離型基材(1)(縦×横×厚さ=320mm×240mm×25μm)のシリコーン処理面に塗布した後、80℃で15分間加熱乾燥した。更に、180℃で2時間熱処理を行い、完全に溶剤の除去を行った後、離型基材(1)から剥離し、ポリイミド接着剤層フィルム1を得た。
【0062】
[実施例1]
合成例3で得られたポリイミド接着剤溶液cを乾燥後の厚みが15μmとなるように、ポリイミド絶縁層フィルム1(縦×横×厚さ=320mm×240mm×25μm)の銅箔除去面に塗布した後、80℃で15分間加熱乾燥した。更に、180℃で2時間熱処理を行い、完全に溶剤の除去をし、カバーレイフィルム1を得た。
【0063】
[実施例2〜4及び比較例1]
ポリイミド絶縁層フィルムとポリイミド接着剤層フィルムの厚みが表1及び表2に示す組み合わせであること以外は、実施例1と同様にカバーレイフィルム2〜5を作製した。
【0064】
[比較例2]
ポリイミド絶縁層フィルムとして絶縁基材(1)を用いた以外は、実施例1と同様にカバーレイフィルムを作製し、カバーレイフィルム6を得た。
【0065】
[比較例3]
ポリイミド絶縁層フィルムをとして絶縁基材(2)を用いた以外は、実施例1と同様にカバーレイフィルムを作製し、カバーレイフィルム7を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。