(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るレーザ光照射装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るレーザ光照射装置の概略構成を示す図である。
図1に示されるように、レーザ光照射装置1000は、レーザ光源ユニット100と、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200と、モード外乱手段300と、対物光学系400とを備えている。
【0020】
レーザ光源ユニット100は、レーザ光を出射するためのユニットであり、少なくとも1つのレーザ素子、好ましくは複数のレーザ素子を備えている。レーザ光源ユニット100が出射するレーザ光のスペクトル幅は、3nm以上100nm以下とすることが好ましい。このスペクトル幅の下限を下回ると、レーザ光の強度分布を平滑化することが困難となり、一方、このスペクトル幅の上限を上回ると、レーザ光照射装置1000としての所望波長から外れてしまう場合があるからである。レーザ光照射装置1000を例えばがん細胞を破壊する用途に使う場合などは、水の吸収波長である1480nm近傍の波長のレーザ光を用いる必要があり、上記スペクトル幅の上限を上回ると当該用途から外れてしまう。
【0021】
なお、レーザ光源ユニット100が出射するレーザ光のスペクトル幅とは、レーザ光の最大出力強度から20dB低下した強度となる波長範囲である。また、レーザ光源ユニット100が一つのレーザ素子を備えている場合、当該1つのレーザ素子が発振するレーザ光のスペクトル幅が上記範囲となることを意味し、複数のレーザ素子を備えている場合、合波した全体のスペクトル幅(すなわち、レーザ光の最大出力強度から20dB低下した強度となる波長が複数ある場合は、その最大値と最小値との間の幅)が上記範囲となることを意味している。
【0022】
レーザ光源ユニット100が備えるレーザ素子が一つの場合、例えばファブリペロー型のレーザダイオードを用いることが考えられる。ファブリペロー型のレーザダイオードは、複数の共振モードを有しているので、これら複数の共振モードのレーザ光をそのまま(外部共振器等でモードを制限せずに)レーザ光源ユニット100の出力として用いることができる。
【0023】
図2は、ファブリペロー型のレーザダイオードが発振するレーザ光のスペクトルの例を示すグラフである。
図2に示される例では、ファブリペロー型のレーザダイオードが発振するレーザ光のスペクトル幅が13nmであり、3nm以上100nm以下となっている。つまり、
図2に示されるようなスペクトルを有するファブリペロー型のレーザダイオードは、レーザ光源ユニット100が備えるレーザ素子として好適なものとなっている。
【0024】
レーザ光源ユニット100が備えるレーザ素子が複数の場合、ファブリペロー型のレーザダイオードを用いることが好ましいが、分布帰還型のレーザダイオードや外部共振器を用いたレーザダイオードなどを用いることも可能である。なお、たとえ各レーザ素子から出射されるレーザ光のスペクトル幅が狭いものであっても、合波された全体のスペクトル幅が3nm以上100nm以下となっていればよい。
【0025】
しかしながら、複数のレーザ素子のうち1つであっても、そのレーザ素子から出射されるレーザ光のスペクトル幅が極端に狭い場合は、レーザ光の強度分布を平滑化することが困難となる。具体的には、レーザ光源ユニット100が備える各レーザ素子が発振するレーザ光のスペクトル幅が3nm以上50nm以下であることが好ましい。なお、レーザ素子が発振するレーザ光のスペクトル幅とは、レーザ光の最大出力強度から20dB低下した強度となる波長範囲である。
【0026】
また、レーザ光源ユニット100が備えるレーザ素子が複数の場合、同一のレーザ素子を複数備えるのではなく、各レーザ素子の中心発振波長が相互に異なるように構成することが好ましい。ただし、中心発振波長があまりに離れてしまっていると、レーザ光照射装置1000としての所望波長から外れてしまうので、各中心発振波長の差の最大値は、50nm以下となっていることが好ましい。
【0027】
図3は、ファイバブラッググレーティングを外部共振器として備えるレーザダイオードが発振するレーザ光のスペクトルの例を示すグラフである。
図3に示される例では、レーザ光のスペクトル幅が3nmより狭くなっている。つまり、
図3に示されるようにスペクトルを有するファブリペロー型のレーザダイオードは、レーザ光源ユニット100が備えるレーザ素子として適さない。
【0028】
図4は、複数のレーザ素子が発振するレーザ光を合波した場合のスペクトルの例を示すグラフである。なお、
図4に示されるグラフは、2つのファブリペロー型のレーザダイオードの発振を合波した例を示している。
図4に示される例では、合波されたレーザ光のスペクトル幅が70nmであり、3nm以上100nm以下となっている。また、各レーザ素子が発振するレーザ光のスペクトル幅も3nm以上50nm以下となっている。つまり、
図4に示されるようなスペクトルを有する2つのレーザ素子は、レーザ光源ユニット100が備えるレーザ素子として好適なものとなっている。
【0029】
ここで、
図1の参照にもどり、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200およびモード外乱手段300の説明を行う。
【0030】
図1に示されるように、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200は、レーザ光源ユニット100から出射されたレーザ光を対物光学系400までマルチモードで伝搬する光ファイバである。ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200とは、複数のモードでレーザ光を伝搬することを許容する光ファイバであって、特にコアおよびクラッドが形成する屈折率分布がステップ形状となっているものをいう。
【0031】
ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の開口数は0.15以上であることが好ましい。後に詳述するように、ステップインデックス型マルチモード光ファイバのNAが大きい方が、平滑性Fは向上することが実験によって確かめられたからである。
【0032】
モード外乱手段300は、レーザ光源ユニット100と対物光学系400との間に設けられ、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に側圧と曲げと振動とを同時に与える手段である。モード外乱手段300は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に側圧と曲げと振動とを同時に与えることにより、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を伝搬しているレーザ光のモードに外乱を与える。
【0033】
ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200は、複数のモードでレーザ光を伝搬することを許容しているが、多くの場合、許容されるすべてのモードでレーザ光が伝搬されているわけではない。モード外乱手段300は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に外乱を与えることによって、レーザ光とモードとの結合状態を変化させる作用を有する。結果、レーザ光が伝搬するモードが変更するいわゆるモードシフトが発生し、実現されていなかったモードでの伝搬が実現することとなる。なお、このことは、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を伝搬しているレーザ光の空間的コヒーレンシーが低下していることを意味する。
【0034】
対物光学系400は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200から出射されるレーザ光のビーム径を拡大して対象物に照射するための光学系である。ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の端面と対象物とは、光学的共役関係に配置されており、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の端面におけるレーザ光の強度分布がほぼ相似形に対象物に投影される。
【0035】
上述のように、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を伝搬するレーザ光は、モード外乱手段300によって数多くのモードで伝搬されて端面に到達するので、端面における強度分布の平滑性が向上している。また、空間的コヒーレンシーが低下しているので、ランダムな干渉現象であるいわゆるスペックルノイズも低減されている。よって、対象物に照射された状況でも、平滑性が向上される。
【0036】
以下に、上記説明した第1実施形態の各構成を具体化した実施形態について説明する。以下では、具体化された各構成の部分のみの説明を行うが、説明を省略した部分は、第1実施形態と同一の構成であるものとする。また、例えばレーザ光源ユニット100の具体例とモード外乱手段300の具体例とを組み合わせるように、以下で説明する異なる実施形態の構成を組み合わせて新たな実施形態を構成することも可能である。
【0037】
(第2実施形態)
図5〜
図7は、第2実施形態に係るレーザ光照射装置におけるレーザ光源ユニットの概略構成を示す図である。
図5〜
図7に示されるレーザ光源ユニット110は、第1実施形態におけるレーザ光源ユニット100の具体例となっている。
図5は、レーザ光源ユニット110の平面構成図であり、
図6は、レーザ光源ユニット110の垂直面視図であり、
図7は、レーザ光の合波部分の拡大図である。
【0038】
図5および
図6に示されるように、レーザ光源ユニット110は、第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cを備え、これら第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cが発振するレーザ光が直接合波されてステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に導入される構成である。
【0039】
第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cは、ファブリペロー型のレーザダイオードとすることが好ましいが、分布帰還型のレーザダイオードや外部共振器を用いたレーザダイオードなどを用いてもよい。第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cは、中心発振波長が相互に異なり、各中心発振波長の差の最大値は、50nm以下となっている。また、第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cが発振する各レーザ光のスペクトル幅は、3nm以上50nm以下であり、各レーザ光を合波した際のスペクトル幅は、3nm以上100nm以下である。
【0040】
図5に示されるように、第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cは、互いに平行に配置され、同一方向にレーザ光を出射する。第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cから出射したレーザ光は、それぞれ紙面垂直方向の屈折力を有する第1のシリンドリカルレンズ112a,112b,112cと紙面水平方法の屈折力を有する第2のシリンドリカルレンズ113a,113b,113cとを透過し、ミラー114a,114b,114cにて反射されることによって、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200方向に偏向される。
【0041】
第1のシリンドリカルレンズ112a,112b,112cおよび第2のシリンドリカルレンズ113a,113b,113cは、第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cから出射するレーザ光を平行光にするためのものである。第1のシリンドリカルレンズ112a,112b,112cは、当該レーザ光に対して紙面に垂直方向に屈折力を有するように配置されている。第2のシリンドリカルレンズ113a,113b,113cは、当該レーザ光に対して紙面に平行方向に屈折力を有するように配置されている。
【0042】
図6に示されるように、第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cは、段差を付けて配置されている。これにより、第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cから出射した各レーザ光がミラー114a,114b,114cにて反射される際には、
図5における紙面垂直方向で互いに高さが異なり、かつ互いに平行なレーザ光になる。また、各ミラー114a,114b,114cにて反射されたレーザ光は、集光レンズ115に入射する際には、互いに高さが異なる平行なレーザ光となっている。
【0043】
図7は、第1のレーザ素子111a、第2のレーザ素子111bおよび第3のレーザ素子111cから出射した各レーザ光が合波されてステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に導入される様子を示している。
図7に示されるように、集光レンズ115は正の屈折力を有するレンズであり、後側焦点位置がステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の端面にほぼ一致するように配置されている。
【0044】
一方、第1のレーザ素子111aから出射したレーザ光L
aと、第2のレーザ素子111bから出射したレーザ光L
bと、第3のレーザ素子111cから出射したレーザ光L
cとは、互いに段差を有する平行なレーザ光となっている。したがって、集光レンズ115を透過したレーザ光L
a,L
b,L
cは、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の端面近傍にて交差することとなる。
【0045】
さらに、各レーザ光L
a,L
b,L
cは、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の端面に角度θ
1以下の入射角度で入射している。ここで、角度θ
1は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に固有の定数である開口数(NA
1)で定まる角度であり、NA
1=sinθ
1の関係を有する。入射角度がθ
1以下である各レーザ光L
a,L
b,L
cは、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に結合されることとなる。
【0046】
以上の構成のレーザ光源ユニット110は、レーザ光源ユニット110から出射されたレーザ光をマルチモードで伝搬するステップインデックス型マルチモード光ファイバ200と、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に側圧と曲げと振動とを同時に与えるモード外乱手段300と、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200から出射されるレーザ光のビーム径を拡大して対象物に照射する対物光学系400と共に用いることにより、第2実施形態に係るレーザ光照射装置を構成する。
【0047】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態に係るレーザ光照射装置におけるレーザ光源ユニットの概略構成を示す図である。
図8に示されるレーザ光源ユニット120は、第1実施形態におけるレーザ光源ユニット100の具体例となっている。
【0048】
図8に示されるように、レーザ光源ユニット120は、第1のレーザ素子121a、第2のレーザ素子121bおよび第3のレーザ素子121cを備え、これら第1のレーザ素子121a、第2のレーザ素子121bおよび第3のレーザ素子121cが発振するレーザ光をレーザ光源ユニット120内で合波し、いわゆるピグテールの構成でステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に接続する構成である。
【0049】
第1のレーザ素子121a、第2のレーザ素子121bおよび第3のレーザ素子121cは、ファブリペロー型のレーザダイオードとすることが好ましいが、分布帰還型のレーザダイオードや外部共振器を用いたレーザダイオードなどを用いてもよい。第1のレーザ素子121a、第2のレーザ素子121bおよび第3のレーザ素子121cは、中心発振波長が相互に異なり、各中心発振波長の差の最大値は、50nm以下となっている。また、第1のレーザ素子121a、第2のレーザ素子121bおよび第3のレーザ素子121cが発振する各レーザ光のスペクトル幅は、3nm以上50nm以下であり、各レーザ光を合波した際のスペクトル幅は、3nm以上100nm以下である。
【0050】
第1のレーザ素子121a、第2のレーザ素子121bおよび第3のレーザ素子121cが発振したレーザ光は、それぞれ光ファイバ122a,122b,122cを伝搬しながら、光合波器123へ導入される。光合波器123は、例えば波長分割多重方式の光カプラを用いる。光合波器123によって合波されたレーザ光は光ファイバ124を伝搬しながら、レーザ光源ユニット120の外部へ導出され、コネクタや融着接続部により構成される光接続部125を介してステップインデックス型マルチモード光ファイバ200へ接続される。
【0051】
なお、光ファイバ122a,122b,122c,124は、第1のレーザ素子121a、第2のレーザ素子121bおよび第3のレーザ素子121cがシングルモードレーザ素子である場合は、シングルモードの光ファイバとすることができるが、マルチモードレーザ素子である場合は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に多くのモードで導入することができるという観点では、マルチモードの光ファイバを用いることが好ましい。また、光合波器123は、第1のレーザ素子121a、第2のレーザ素子121bおよび第3のレーザ素子121cの発振波長の相違度合に基づいて、ファイバ溶融型やフィルタ型、または導波路型のカプラを選択して用いることができる。さらに、合波するレーザ光が2つの場合は、光合波器123の代わりに偏波合成器を利用する構成としてもよい。さらには、合波するレーザ光がさらに多い場合は、偏波合成器と波長分割多重式の光合波器とを併用する構成としてもよい。
【0052】
以上の構成のレーザ光源ユニット120は、レーザ光源ユニット120から出射されたレーザ光をマルチモードで伝搬するステップインデックス型マルチモード光ファイバ200と、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に側圧と曲げと振動とを同時に与えるモード外乱手段300と、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200から出射されるレーザ光のビーム径を拡大して対象物に照射する対物光学系400と共に用いることにより、第3実施形態に係るレーザ光照射装置を構成する。
【0053】
(第4実施形態)
図9および
図10は、第4実施形態に係るレーザ光照射装置におけるモード外乱手段の概略構成を示す図である。
図9および
図10に示されるモード外乱手段310は、第1実施形態におけるモード外乱手段300の具体例となっている。
図9は、モード外乱手段310の部分透過図であり、
図10は、モード外乱手段310の側面図である。
【0054】
図9および
図10に示されるように、モード外乱手段310は、巻き束状に配置したステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を2枚の挟持板311a,311bで挟持した構成となっている。
【0055】
2枚の挟持板311a,311bには、ボルトおよびナットで構成される加圧手段312が設けられ、2枚の挟持板311a,311bに挟持されたステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に側圧が加えられるように構成されている。
図9に示されるように、巻き束状に配置したステップインデックス型マルチモード光ファイバ200は、多数の交点を有する状態で配置されているので、2枚の挟持板311a,311bから印加された側圧が局所的に変化の付けられたものとなり、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を伝搬するレーザ光のモードに対してより効率よく外乱を与えることができるように構成されている。
【0056】
なお、加圧手段312は、図に示されるようなボルトおよびナットで構成することもできるが、上側の挟持板311aがある程度の重量を有しているならば、挟持板311aの自重をもって加圧手段312とすることができる。また、別途の重り等を上側の挟持板311aの上に配置し、当該重りの重量をもって加圧手段312とすることもできる。
【0057】
また、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200は、巻き束状に配置されているので、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に曲げが印加されている。ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に対する曲げは、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を伝搬するレーザ光に対する外乱となっている。
【0058】
さらに、挟持板311a,311bには、振動手段313が設けられ、2枚の挟持板311a,311bに挟持されたステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に振動が加えられるように構成されている。振動手段313は、例えば200Hz程度の振動を発生させる振動モータである。ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に対する振動は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を伝搬するレーザ光に対する外乱となっている。
【0059】
巻き束状に配置されたステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の長さは1m以上であることが好ましい。モード外乱手段310がステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に側圧と曲げと振動とを同時に与える領域の長さを1m以上とし、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を伝搬するレーザ光のモードに十分な外乱を与えるためである。例えば、半径3cm程度の大きさでステップインデックス型マルチモード光ファイバ200を巻き束にした場合、6巻程度の巻き束である。
【0060】
以上の構成のモード外乱手段310は、レーザ光を出射するレーザ光源ユニット100と、レーザ光源ユニット100から出射されたレーザ光をマルチモードで伝搬するステップインデックス型マルチモード光ファイバ200と、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200から出射されるレーザ光のビーム径を拡大して対象物に照射する対物光学系400と共に用いることにより、第4実施形態に係るレーザ光照射装置を構成する。
【0061】
(第5実施形態)
図11は、第5実施形態に係るレーザ光照射装置におけるモード外乱手段の概略構成を示す図である。
図11に示されるモード外乱手段320は、第1実施形態におけるモード外乱手段300の具体例となっている。
【0062】
図11に示されるように、モード外乱手段320は、ボビン321a,321bと張力手段322a,322bと振動手段323とを備えている。
図11に示されるように、モード外乱手段320は、いわゆる光ファイバ型偏波コントローラを流用した構成となっている。振動手段323はたとえば電動モータとギヤとで構成されたアクチュエータである。
【0063】
光ファイバ型偏波コントローラとは、光ファイバを曲げる際の複屈折を利用して偏波を制御する偏波コントローラである。モード外乱手段320は、この光ファイバ型偏波コントローラを流用し、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に側圧と曲げと振動とを同時に与える。
【0064】
図11に示されるように、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200は、張力手段322a,322bによって一定の張力を与えられながらボビン321a,321bに巻きつけられている。これにより、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200は、ボビン321a,321bから側圧を受けることになる。さらに、ボビン321a,321bはそれぞれ軸321aa,321baの回りに回転できるように構成されており、ボビン321a,321bがそれぞれ軸321aa,321baの回りに回転することにより、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200は捻られて側圧および曲げを受けることになる。
【0065】
また、
図11に示されるように、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200同士が交点を有するよう、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200がボビン321a,321bに巻きつけられている。これにより、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200同士の交点で、局所的に強い側圧および曲げが印加されている。
【0066】
さらに、
図11に示されるように、振動手段323によって、ボビン321a,321bはそれぞれ軸321aa,321baの回りに回転され、振動または搖動が印加されている。これにより、ボビン321a,321bに巻きつけられたステップインデックス型マルチモード光ファイバ200も振動または搖動が印加されている。
【0067】
以上の構成のモード外乱手段320は、レーザ光を出射するレーザ光源ユニット100と、レーザ光源ユニット100から出射されたレーザ光をマルチモードで伝搬するステップインデックス型マルチモード光ファイバ200と、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200から出射されるレーザ光のビーム径を拡大して対象物に照射する対物光学系400と共に用いることにより、第5実施形態に係るレーザ光照射装置を構成する。
【0068】
(第6実施形態)
図12は、第6実施形態に係るレーザ光照射装置における対物光学系の概略構成を示す図である。
図12に示される対物光学系410は、第1実施形態における対物光学系400の具体例となっている。
【0069】
図12に示されるように、対物光学系410は、対物レンズ411を備えている。対物レンズ411は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の端面におけるレーザ光の強度分布をほぼ相似形に拡大し、対象物に投影するためのレンズである。すなわち、対物レンズ411の前側焦点位置がステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の端面に一致し、かつ、対物レンズ411の後側焦点位置が対象物に一致するように配置されている。
【0070】
ここで、対物レンズ411の開口数(NA
2)は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の開口数(NA
1)よりも小さい。
図12の角度θ
1とθ
2との関係で表現すれば、角度θ
2は角度θ
1よりも小さい。先述のように、NA
1=sinθ
1,NA
2=sinθ
2の関係が成立しているからである。
【0071】
上記開口数の関係は、いわゆるケラレが発生してしまう状態である。すなわち、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200の端面から出射されるレーザ光のうちビーム外周の一部は、対物レンズ411を透過することができず、対象物まで到達することができない。一般的に、ケラレが発生することは好ましくないとされているが、対物光学系410は、意図的にケラレを発生させることにより、対象物に投影されるレーザ光の強度分布をより矩形に近い形状に整形している。
【0072】
以上の構成の対物光学系410は、レーザ光を出射するレーザ光源ユニット100と、レーザ光源ユニット100から出射されたレーザ光をマルチモードで伝搬するステップインデックス型マルチモード光ファイバ200と、ステップインデックス型マルチモード光ファイバ200に側圧と曲げと振動とを同時に与えるモード外乱手段300と共に用いることにより、第6実施形態に係るレーザ光照射装置を構成する。
【0073】
(効果の検証例)
以下、上記説明した本発明の実施形態に係るレーザ光照射装置における効果の検証例について説明する。まず、効果の測定に用いる平滑性の定義を行う。
【0074】
図13は、平滑性の定義を説明する図である。
図13に示されるグラフには、レーザ光の強度分布の例が実線で記載され、比較となる強度分布としてガウシアン強度分布が破線で記載されている。
【0075】
以下の効果の検証で用いられる平滑性Fは、平均パワーPと平均パワーに対する変動幅δPとの比で表される。すなわち、平滑性Fは、F=δP/Pの関係式で定義される。
【0076】
図13に示されるように、平均パワーPとは、レーザ光の強度分布の全幅Wの0.8倍の範囲におけるレーザ光の強度の平均値である。ここで、全幅Wとは、レーザ光の最大出力強度から20dB低下した強度となる波長範囲である。なお、
図13に示されるグラフの縦軸は、リニアスケールの任意単位(a.u.)であり、全幅Wは、縦軸に関して最大強度の1%に低下した位置の波長範囲に対応している。また、平均パワーに対する変動幅δPとは、レーザ光の強度分布の全幅Wの0.8倍の範囲におけるレーザ光の強度のピーク・トゥー・ピークの差である。
【0077】
図13から解るように、レーザ光の強度分布における凹凸が大きくなる程、平滑性Fが大きくなる。また、レーザ光の強度分布がガウシアン強度分布に近づいても、平滑性Fが大きくなる。したがって、上記定義の平滑性Fが小さい程、本発明の効果が大きいと判断できる。
【0078】
(検証例1)
検証例1は、
図3に示したようにスペクトル幅が狭いレーザ光を用いた場合の例である。なお、モード外乱手段では、振動と側圧と曲げとを同時に与えている。また、使用したステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数は0.15であり、対物光学系の開口数は0.15である。
【0079】
図14〜
図16は、検証例1における平滑性を示す図である。
図14は、検証例1におけるレーザ光の強度分布を示す3Dグラフであり、
図15は、検証例1におけるレーザ光の強度分布を示す平面画像であり、
図16は、
図15におけるX断面およびY断面の強度分布を示すグラフである。
【0080】
図14〜
図16を参照すると解るように、検証例1におけるレーザ光の強度分布は、スペックルの発生が観察される。また、検証例1におけるレーザ光の強度分布の平滑性Fを計算すると、F=約20%であった。
【0081】
(検証例2)
検証例2は、
図3に示したようにスペクトル幅が狭いレーザ光を用いた場合の例である。なお、モード外乱手段では、振動と側圧と曲げとを同時に与えている。また、使用したステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数は0.22であり、対物光学系の開口数は0.22である。
【0082】
図17〜
図19は、検証例2における平滑性を示す図である。
図17は、検証例2におけるレーザ光の強度分布を示す3Dグラフであり、
図18は、検証例2におけるレーザ光の強度分布を示す平面画像であり、
図19は、
図18におけるX断面およびY断面の強度分布を示すグラフである。
【0083】
図17〜
図19を参照すると解るように、検証例2におけるレーザ光の強度分布は、スペックルは少ないが、ガウシアン強度分布に近い形状である。また、検証例2におけるレーザ光の強度分布の平滑性Fを計算すると、F=約15%であった。
【0084】
ここで、検証例1と検証例2とを比較すると、ステップインデックス型マルチモード光ファイバのNAが大きい方が、平滑性Fは向上することが解る。
【0085】
(検証例3)
検証例3は、
図4に示したようにスペクトル幅が広い複数のレーザ光を合波したものを用いた場合の例である。なお、モード外乱手段では、振動のみを与えている。また、使用したステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数は0.22であり、対物光学系の開口数は0.22である。
【0086】
図20〜
図22は、検証例3における平滑性を示す図である。
図20は、検証例3におけるレーザ光の強度分布を示す3Dグラフであり、
図21は、検証例3におけるレーザ光の強度分布を示す平面画像であり、
図22は、
図21におけるX断面およびY断面の強度分布を示すグラフである。
【0087】
図20〜
図22を参照すると解るように、検証例3におけるレーザ光の強度分布は、スペックルの発生が観察される。また、検証例3におけるレーザ光の強度分布の平滑性Fを計算すると、F=約15%であった。
【0088】
(検証例4)
検証例4は、
図4に示したようにスペクトル幅が広い複数のレーザ光を合波したものを用いた場合の例である。なお、モード外乱手段では、振動と曲げのみを与えている。また、使用したステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数は0.22であり、対物光学系の開口数は0.22である。
【0089】
図23〜
図25は、検証例4における平滑性を示す図である。
図23は、検証例4におけるレーザ光の強度分布を示す3Dグラフであり、
図24は、検証例4におけるレーザ光の強度分布を示す平面画像であり、
図25は、
図24におけるX断面およびY断面の強度分布を示すグラフである。
【0090】
図23〜
図25を参照すると解るように、検証例4におけるレーザ光の強度分布は、スペックルが十分に除去されていない。また、検証例4におけるレーザ光の強度分布の平滑性Fを計算すると、F=約12%であった。
【0091】
ここで、検証例3と検証例4とを比較すると、ステップインデックス型マルチモード光ファイバに振動のみならず曲げも印加する方が、平滑性Fは向上することが解る。
【0092】
(検証例5)
検証例5は、
図4に示したようにスペクトル幅が広い複数のレーザ光を合波したものを用いた場合の例である。なお、モード外乱手段では、振動と曲げと側圧とを同時に与えている。また、使用したステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数は0.22であり、対物光学系の開口数は0.22である。
【0093】
図26〜
図28は、検証例5における平滑性を示す図である。
図26は、検証例5におけるレーザ光の強度分布を示す3Dグラフであり、
図27は、検証例5におけるレーザ光の強度分布を示す平面画像であり、
図28は、
図27におけるX断面およびY断面の強度分布を示すグラフである。
【0094】
図26〜
図28を参照すると解るように、検証例5におけるレーザ光の強度分布は、スペックルが十分に除去されており、平滑性が良い。また、検証例5におけるレーザ光の強度分布の平滑性Fを計算すると、F=約10%であった。
【0095】
ここで、検証例4と検証例5とを比較すると、ステップインデックス型マルチモード光ファイバに振動および曲げのみならず側圧も印加する方が、平滑性Fは向上することが解る。
【0096】
(検証例6)
検証例6は、
図4に示したようにスペクトル幅が広い複数のレーザ光を合波したものを用いた場合の例である。なお、モード外乱手段では、振動と曲げと側圧とを同時に与えている。また、使用したステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数は0.22であり、対物光学系の開口数は0.18である。
【0097】
図29〜
図31は、検証例6における平滑性を示す図である。
図29は、検証例6におけるレーザ光の強度分布を示す3Dグラフであり、
図30は、検証例6におけるレーザ光の強度分布を示す平面画像であり、
図31は、
図30におけるX断面およびY断面の強度分布を示すグラフである。
【0098】
図29〜
図31を参照すると解るように、検証例6におけるレーザ光の強度分布は、スペックルが十分に除去されており、かつ、強度分布の両端部における光強度が低下しているので、切れの良い矩形形状となっている。また、検証例6におけるレーザ光の強度分布の平滑性Fを計算すると、F=約8%であった。
【0099】
ここで、検証例5と検証例6とを比較すると、ステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数よりも対物光学系の開口数を小さくする方が、平滑性Fは向上することが解る。
【0100】
(検証例7)
検証例7は、
図4に示したようにスペクトル幅が広い複数のレーザ光を合波したものを用いた場合の例である。なお、モード外乱手段では、振動と曲げと側圧とを同時に与えている。また、使用したステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数は0.22であり、対物光学系の開口数は0.24である。
【0101】
図32〜
図34は、検証例7における平滑性を示す図である。
図32は、検証例7におけるレーザ光の強度分布を示す3Dグラフであり、
図33は、検証例7におけるレーザ光の強度分布を示す平面画像であり、
図34は、
図33におけるX断面およびY断面の強度分布を示すグラフである。
【0102】
図32〜
図34を参照すると解るように、検証例7におけるレーザ光の強度分布は、強度分布の両端部における光強度が増加し、全体としてガウシアン強度分布に近い形状となっている。さらに、本来とは異なるレーザ光まで結合されてしまい、平滑性も犠牲になっている。また、検証例7におけるレーザ光の強度分布の平滑性Fを計算すると、F=約12%であった。
【0103】
ここで、検証例6と検証例7とを比較すると、ステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数よりも対物光学系の開口数を小さくする方が、平滑性Fは向上することが解る。
【0104】
(検証例のまとめ)
検証例3〜5を比較すると解るように、ステップインデックス型マルチモード光ファイバに側圧と曲げと振動とを同時に与えるモード外乱手段を備えるレーザ光照射装置は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバに振動のみを与えるモード外乱手段、またはステップインデックス型マルチモード光ファイバに振動および曲げのみを与えるモード外乱手段を備えるレーザ光照射装置よりも、レーザ光の強度分布の平滑性を向上させる効果が大きい。
【0105】
また、検証例2と検証例5とを比較すると解るように、レーザ光源ユニットから出射されるレーザ光のスペクトル幅が3nm以上100nm以下であるレーザ光照射装置は、レーザ光源ユニットから出射されるレーザ光のスペクトル幅が3nmより小さいレーザ光照射装置よりも、レーザ光の強度分布の平滑性を向上させる効果が大きい。
【0106】
さらに、検証例1と検証例2とを比較すると解るように、ステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数が0.15以上であるレーザ光照射装置は、ステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数が0.15より小さいレーザ光照射装置よりも、レーザ光の強度分布の平滑性を向上させる効果が大きい。
【0107】
さらに、検証例5〜7を比較すると解るように、対物光学系の開口数がステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数よりも小さいレーザ光照射装置は、対物光学系の開口数がステップインデックス型マルチモード光ファイバの開口数よりも小さいレーザ光照射装置よりも平滑性を向上させる効果が大きい。