(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ポリイミド系フィルム)
本実施形態に係るポリイミド系フィルムは、以下の条件(I)を満たす。
条件(I):ポリイミド系フィルムの、波数q(単位:Å
−1)と散乱強度Iとの両対数プロットで表される小角X線散乱プロファイルI(q)において、q=0.003における接線を接線F(q)としたとき、0.003<q≦0.018において、I(q)/F(q)の最大値が1.5を超える。
【0012】
小角X線散乱プロファイルは、小角X線散乱測定により求められる。
小角X線散乱プロファイルとは、X線をフィルムに入射し、フィルムを構成する原子により散乱される散乱X線のうち、散乱角2θが10°未満の散乱強度の波数依存性を表す。小角X線散乱プロファイルは、通常、角度θでなく、波数(散乱ベクトルの絶対値)qに対する散乱強度Iで表される。波数qは(4π/λ)sinθから計算され、λはX線の波長を表す。X線の波長としては、0.1〜3Åが挙げられる。また、散乱角2θは5°以下であることが好ましい。
このようなX線は、SPring−8、PFリングなどで利用でき、放射光X線を用いることにより短時間で十分な強度の小角X線散乱プロファイルが得られる。
【0013】
図1に小角X線プロファイルの例を示す。
図1を参照して、各プロファイルa〜cは、波数q=0.003Å
−1の点で接線F(q)を有する。波長の範囲0.003<q≦0.018におけるI(q)/F(q)の最大値は、前記範囲においてF(q)の値とI(q)の値とがもっとも離れた位置q
aの値から算出される。ポリイミド系フィルムの小角X線プロファイルは、プロファイルaのようにピークが0.003<q≦0.018の範囲になくてもよく、プロファイルbのようにピークが0.003<q≦0.018の範囲にあってもよい。プロファイルaのようにピークが上記の範囲にない場合は、上記範囲におけるI(q)/F(q)の最大値を算出すればよい。また、ポリイミド系フィルムの小角X線プロファイルにおいて、プロファイルcのように接線F(q)は傾きを持つこともできる。
0.003<q≦0.018におけるI(q)/F(q)の最大値は、1.5より大きく、好ましくは、1.8より大きい、より好ましくは2.2より大きい。0.003<q≦0.018におけるI(q)/F(q)の最大値の上限は、10であることができ、8であってもよい。ポリイミド系フィルムの小角X線プロファイルで、上記の条件を満たすものが本実施形態に係るポリイミド系フィルムに該当する。
【0014】
(ポリイミド系高分子)
ポリイミド系フィルムは、ポリイミド系高分子を含む。本明細書において、ポリイミド系高分子とは、式(PI)、式(a)、式(a’)又は式(b)で表される繰り返し構造単位を少なくとも1種以上含む重合体を意味する。なかでも、式(PI)で表される繰り返し構造単位が、ポリイミド系高分子の主な構造単位であると、フィルムの強度及び透明性の観点で好ましい。式(PI)で表される繰り返し構造単位は、ポリイミド系高分子の全繰り返し構造単位に対し、好ましくは40モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、殊更好ましくは90モル%以上であり、殊更さらに好ましくは98モル%である。
【0016】
式(PI)中のGは4価の有機基を表し、Aは2価の有機基を表す。式(a)中のG
2は3価の有機基を表し、A
2は2価の有機基を表す。式(a’)中のG
3は4価の有機基を表し、A
3は2価の有機基を表す。式(b)中のG
4及びA
4は、それぞれ2価の有機基を表す。
【0017】
式(PI)中、Gで表される4価の有機基の有機基(以下、Gの有機基ということがある)は、非環式脂肪族基、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選ばれる基が挙げられる。ポリイミド系フィルムの透明性及び屈曲性の観点から、Gの有機基は、環式脂肪族基及び芳香族基であることが好ましい。芳香族基としては、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、および、芳香族基が直接または結合基により相互に連結された非縮合多環式芳香族基等が挙げられる。樹脂フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、Gの有機基は、フッ素系置換基を有する環式脂肪族基、フッ素系置換基を有する単環式芳香族基、フッ素系置換基を有する縮合多環式芳香族基又はフッ素系置換基を有する非縮合多環式芳香族基であることが好ましい。本明細書においてフッ素系置換基とは、フッ素原子を含む基を意味する。フッ素系置換基は、好ましくはフルオロ基(フッ素原子,−F)およびパーフルオロアルキル基であり、さらに好ましくはフルオロ基及びトリフルオロメチル基である。
【0018】
より具体的には、Gの有機基は、例えば、飽和又は不飽和シクロアルキル基、飽和又は不飽和へテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、ヘテロアルキルアリール基、及びこれらのうちの任意の2つの基(同一でもよい)を有しこれらが直接又は結合基により相互に連結された基から選ばれる。結合基としては、−O−、炭素数1〜10のアルキレン基、−SO
2−、−CO−又は−CO−NR−(Rは、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を表す)が挙げられる。
【0019】
Gで表される4価の有機基の炭素数は通常2〜32であり、好ましくは4〜15であり、より好ましくは5〜10であり、さらに好ましくは6〜8である。Gの有機基が環式脂肪族基又は芳香族基である場合、これらの基を構成する炭素原子のうちの少なくとも1つがヘテロ原子で置き換えられていてもよい。ヘテロ原子としては、O、N又はSが挙げられる。
【0020】
Gの具体例としては、以下の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)又は式(26)で表される基が挙げられる。式中の*は結合手を示す。式(26)中のZは、単結合、−O−、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−Ar−O−Ar−、−Ar−CH
2−Ar−、−Ar−C(CH
3)
2−Ar−又は−Ar−SO
2−Ar−を表す。Arは炭素数6〜20のアリール基を表し、例えばフェニレン基が挙げられる。これらの基の水素原子のうち少なくとも1つが、フッ素系置換基で置換されていてもよい。
【0022】
式(PI)中、Aで表される2価の有機基の有機基(以下、Aの有機基ということがある)は、非環式脂肪族基、環式脂肪族基及び芳香族基からなる群から選択される基が挙げられる。Aで表される2価の有機基は、環式脂肪族基及び芳香族基であることが好ましい。芳香族基としては、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、および2以上の芳香族環を有しそれらが直接または結合基により相互に連結された非縮合多環式芳香族基が挙げられる。樹脂フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、Aの有機基には、フッ素系置換基が導入されていることが好ましい。
【0023】
より具体的には、Aの有機基は、例えば、飽和又は不飽和シクロアルキル基、飽和又は不飽和へテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、ヘテロアルキルアリール基、及び、これらの内の任意の2つの基(同一でもよい)を有しそれらが直接又は結合基により相互に連結された基から選ばれる。ヘテロ原子としては、O、N又はSが挙げられ、結合基としては、−O−、炭素数1〜10のアルキレン基、−SO
2−、−CO−又は−CO−NR−(Rはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を含む)が挙げられる。
【0024】
Aで表される2価の有機基の炭素数は、通常2〜40であり、好ましくは5〜32であり、より好ましくは12〜28であり、さらに好ましくは24〜27である。
【0025】
Aの具体例としては、以下の式(30)、式(31)、式(32)、式(33)又は式(34)で表される基が挙げられる。式中の*は結合手を示す。Z
1〜Z
3は、それぞれ独立して、単結合、−O−、−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−SO
2−、−CO−又は―CO―NR−(Rはメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜3のアルキル基又は水素原子を表す)を表す。下記の基において、Z
1とZ
2、及び、Z
2とZ
3は、それぞれ、各環に対してメタ位又はパラ位にあることが好ましい。また、Z
1と末端の単結合、Z
2と末端の単結合、及び、Z
3と末端の単結合とは、それぞれメタ位又はパラ位にあることが好ましい。Aの1つの例は、Z
1及びZ
3が−O−であり、かつ、Z
2が−CH
2−、−C(CH
3)
2−又は−SO
2−である。これらの基の水素原子の1つ又は2つ以上が、フッ素系置換基で置換されていてもよい。
【0027】
A及びGの少なくとも一方は、これらを構成する水素原子のうちの少なくとも1つの水素原子が、フッ素系置換基、水酸基、スルホン基及び炭素数1〜10のアルキル基等からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基で置換されていてもよい。また、Aの有機基及びGの有機基がそれぞれ環式脂肪族基又は芳香族基である場合に、A及びGの少なくとも一方がフッ素系置換基を有することが好ましく、A及びGの両方がフッ素系置換基を有することがより好ましい。
【0028】
式(a)中のG
2は、3価の有機基である。この有機基は、3価の基である点以外は、式(PI)中のGの有機基と同様の基から選択することができる。G
2の例としては、Gの具体例として挙げられた式(20)〜式(26)で表される基の4つの結合手のうちいずれか1つが水素原子に置き換わった基を挙げることができる。式(a)中のA
2は式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0029】
式(a’)中のG
3は、式(PI)中のGと同様の基から選択することができる。式(a’)中のA
3は、式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0030】
式(b)中のG
4は、2価の有機基である。この有機基は、2価の基である点以外は、式(PI)中のGの有機基と同様の基から選択することができる。G
4の例としては、Gの具体例として挙げられた式(20)〜式(26)で表される基における4つの結合手のうちいずれか2つが水素原子に置き換わった基を挙げることができる。式(b)中のA
4は、式(PI)中のAと同様の基から選択することができる。
【0031】
ポリイミド系フィルムに含まれるポリイミド系高分子は、ジアミン類と、テトラカルボン酸化合物(酸クロライド化合物およびテトラカルボン酸二無水物などのテトラカルボン酸化合物類縁体を含む)又はトリカルボン酸化合物(酸クロライド化合物およびトリカルボン酸無水物などのトリカルボン酸化合物類縁体を含む)の少なくとも1種類とを重縮合することにより得られる縮合型高分子であってもよい。さらにジカルボン酸化合物(酸クロライド化合物などの類縁体を含む)を重縮合させてもよい。式(PI)又は式(a’)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びテトラカルボン酸化合物から誘導される。式(a)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びトリカルボン酸化合物から誘導される。式(b)で表される繰り返し構造単位は、通常、ジアミン類及びジカルボン酸化合物から誘導される。
【0032】
テトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸化合物、脂環式テトラカルボン酸化合物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸化合物が挙げられる。これらは、2種以上併用してもよい。テトラカルボン酸化合物は、好ましくはテトラカルボン酸二無水物である。テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0033】
ポリイミド系高分子の溶媒に対する溶解性、及びポリイミド系フィルムを形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、テトラカルボン酸化合物は、脂環式テトラカルボン化合物及び芳香族テトラカルボン酸化合物等であることが好ましい。樹脂フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、テトラカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式テトラカルボン酸化合物及びフッ素系置換基を有する芳香族テトラカルボン酸化合物であることが好ましく、フッ素系置換基を有する脂環式テトラカルボン酸化合物であることがより好ましい。
【0034】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂環式トリカルボン酸、非環式脂肪族トリカルボン酸およびそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられる。トリカルボン酸化合物は、好ましくは芳香族トリカルボン酸、脂環式トリカルボン酸、非環式脂肪族トリカルボン酸およびそれらの類縁の酸クロライド化合物である。トリカルボン酸化合物は、2種以上併用してもよい。
【0035】
ポリイミド系高分子の溶媒に対する溶解性、及びポリイミド系フィルムを形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、トリカルボン酸化合物は、脂環式トリカルボン酸化合物及び芳香族トリカルボン酸化合物であることが好ましい。樹脂フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、トリカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式トリカルボン酸化合物及びフッ素系置換基を有する芳香族トリカルボン酸化合物であることが好ましい。
【0036】
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、非環式脂肪族ジカルボン酸およびそれらの類縁の酸クロライド化合物、酸無水物等が挙げられる。ジカルボン酸化合物は、好ましくは芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、非環式脂肪族ジカルボン酸およびそれらの類縁の酸クロライド化合物である。ジカルボン酸化合物は、2種以上を併用してもよい。
【0037】
ポリイミド系高分子の溶媒に対する溶解性、及びポリイミド系フィルムを形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、ジカルボン酸化合物は、脂環式ジカルボン酸化合物又は芳香族ジカルボン酸化合物であることが好ましい。樹脂フィルムの透明性及び着色の抑制の観点から、ジカルボン酸化合物は、フッ素系置換基を有する脂環式ジカルボン酸化合物及びフッ素系置換基を有する芳香族ジカルボン酸化合物であることが好ましい。
【0038】
ジアミン類としては、芳香族ジアミン、脂環式ジアミン及び脂肪族ジアミンが挙げられる。ジアミン類は、これらを2種以上併用してもよい。ポリイミド系高分子の溶媒に対する溶解性、及びポリイミド系フィルムを形成した場合の透明性及び屈曲性の観点から、ジアミン類は、脂環式ジアミン又はフッ素系置換基を有する芳香族ジアミンであることが好ましい。
【0039】
ポリイミド系高分子は、異なる種類の複数の上記の繰り返し構造単位を含む共重合体でもよい。ポリイミド系高分子の重量平均分子量は、通常10,000〜500,000である。ポリイミド系高分子の重量平均分子量は、好ましくは、50,000〜500,000であり、さらに好ましくは70,000〜400,000である。重量平均分子量は、GPCで測定した標準ポリスチレン換算分子量である。ポリイミド系高分子の重量平均分子量が大きいと高い屈曲性を得られやすい傾向があるが、ポリイミド系高分子の重量平均分子量が大きすぎると、ワニスの粘度が高くなり、加工性が低下する傾向がある。
【0040】
ポリイミド系高分子は、上述のフッ素系置換基等によって導入できるフッ素原子等のハロゲン原子を含んでいてもよい。ポリイミド系高分子がハロゲン原子を含むことにより、樹脂フィルムの弾性率を向上させ且つ黄色度を低減させることができる。これにより、樹脂フィルムにキズ及びシワ等が発生することを抑制し、且つ、樹脂フィルムの透明性を向上させることができる。ハロゲン原子として好ましくは、フッ素原子である。ポリイミド系高分子におけるハロゲン原子の含有量は、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1質量%〜40質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましい。
【0041】
ポリイミド系フィルムは、1種又は2種以上の紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、樹脂材料の分野で紫外線吸収剤として通常用いられているものから、適宜選択することができる。紫外線吸収剤は、400nm以下の波長の光を吸収する化合物を含んでいてもよい。ポリイミド系高分子と適切に組み合わせることのできる紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及びトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
本明細書において、「系化合物」とは、当該「系化合物」が付される化合物の誘導体を指す。例えば、「ベンゾフェノン系化合物」とは、母体骨格としてのベンゾフェノンと、ベンゾフェノンに結合している置換基とを有する化合物を指す。
【0042】
紫外線吸収剤の量は、樹脂フィルムの全体質量に対して、通常0.5質量%以上であり、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは2質量%以上であり、さらに好ましくは3質量%以上である。また、紫外線吸収剤の量は、通常10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは6質量%以下である。紫外線吸収剤がこれらの量で含まれることで、ポリイミド系フィルムの耐候性を特に効果的に高めることができる。
【0043】
(無機粒子)
ポリイミド系フィルムは、強度を高める観点から、無機粒子を更に含有していてもよい。無機粒子としてはケイ素原子を含む粒子が挙げられ、該ケイ素原子を含む粒子としては、シリカ粒子が挙げられる。その他の無機粒子としては、チタニア粒子、アルミナ粒子及びジルコニア粒子等が挙げられる。
【0044】
無機粒子の平均一次粒子径は、通常100nm以下である。無機粒子の平均一次粒子径が100nm以下であるとフィルムの透明性が向上する傾向にある。無機粒子の一次粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)による定方向径とすることができる。平均一次粒子径は、TEM観察により一次粒子径を10点測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0045】
ポリイミド系フィルムにおいて、ポリイミドと無機粒子との配合比は、質量比で、1:9〜10:0であることが好ましく、3:7〜10:0であることがより好ましく、3:7〜8:2であることがさらに好ましく、3:7〜7:3であることがよりさらに好ましい。ポリイミドと無機粒子との配合比が上記の範囲内であると、透明性や機械的強度が向上する傾向を示す。
【0046】
無機粒子同士は、シロキサン結合(−SiOSi−)を有する分子により結合されていてもよい。
【0047】
ポリイミド系フィルムは、透明性および屈曲性を損なわない範囲で、更に他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤等の着色剤、難燃剤、滑剤、増粘剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
【0048】
ポリイミド系フィルムは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等の4級アルコキシシラン、シルセスキオキサン誘導体等の有機ケイ素化合物を含むこともできる。
【0049】
ポリイミド及び無機材料以外の成分は、ポリイミド系フィルムの質量に対して、0%超20質量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは0%超10質量%以下である。
【0050】
ポリイミド系フィルムの厚さは、用途に応じて適宜調整されるが、通常、10〜500μmであり、15〜200μmであることが好ましく、20〜100μmであることがより好ましい。
【0051】
このポリイミド系フィルムは、JIS K7105:1981に準拠した全光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
また、このポリイミド系フィルムは、JIS K 7105:1981に準拠したHazeが1%以下であることが好ましく、0.9%以下であることがより好ましい。
また、このポリイミド系フィルムは、JIS K 7373:2006に準拠した黄色度YIが10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましい。
【0052】
このようなポリイミド系フィルムは屈曲性に優れる。このようなポリイミド系フィルムが屈曲性に優れる理由は明らかではないが、ナノスケールにおける凝集構造、微細構造などX線散乱に影響する何らかの構造を有し、その構造が可視光を散乱しないサイズであり、さらに、その構造がある程度均一なサイズ分布を持って存在していることが、屈曲性の向上に寄与していると考えられる。
【0053】
小角X線散乱プロファイルにおいて、波数q=0.003及び波数q=0.018は、それぞれ、209nm及び35nmの長さに対応する。この範囲のX線散乱プロファイルにピーク等の構造を有することは、その範囲に周期的構造を有することを意味する。したがって、F(q)を209nmに相当するq=0.003における接線と定義し、その接線からI(q)が大きく離れるような部分を0.003<q≦0.018に有するということは、前記サイズの構造をある程度の量、フィルム中に有していることを示している。
【0054】
また、前記サイズの構造を有する場合であっても、構造のサイズが不均一な場合には十分な屈曲性を得られにくい傾向がある。そのように構造のサイズが不均一な場合には、X線散乱プロファイルのピークがブロードになり、結果としてI(q)/F(q)の最大値が小さくなる。したがって、I(q)/F(q)の最大値が1.5を超えるqを有するということは、材料の透明性を阻害しないようなナノサイズの構造をある程度の量を含有し、かつその構造の大きさがある程度の均一性を有していることを意味している。
【0055】
(製造方法)
次に、本実施形態のポリイミド系フィルムの製造方法の一例を説明する。ポリイミド系フィルムは、ポリイミド系高分子ワニスに含まれる固形分の固化物である。
ポリイミド系高分子ワニスは、公知のポリイミドの合成手法を用いて重合された溶媒可溶なポリイミドを溶媒に溶解し、調製される。溶媒としては、ポリイミドを溶解する溶媒であればよく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(GBL)、N−メチルピロリドン(NMP)、酢酸エチル、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、シクロペンタノン、ジメチルスルホキシド、キシレン及びそれらの組み合わせを用いることができる。
ポリイミドとしては、溶媒可溶なポリイミドであればよく、前述の構造であることができる。
【0056】
ポリイミド系高分子ワニスは、さらに水を含んでいてもよい。水の含有量は、ポリイミド系高分子ワニスの質量に対して、通常、0.1〜10質量%である。
ワニスが水を含有することにより、上述の小角X線プロファイルを示す構造を有するフィルムが得やすい。水の添加によりポリイミド系フィルムの構造が変化する理由は明らかではないが、溶媒乾燥時に水が存在することにより、ポリイミドの構造形成に影響を与えることが考えられる。
【0057】
ポリイミド系高分子ワニスは、さらに、上述の無機粒子を含有することができる。ポリイミド系高分子ワニスが無機粒子を含む場合には、ポリイミド系高分子ワニスが水を含有することにより、無機粒子のゲル化が抑制される点も加わり、ポリイミド系高分子の構造形成に影響を与えることが考えられる。
【0058】
ポリイミド系高分子ワニスが無機粒子を含有する場合、ポリイミド系高分子ワニスは、溶液安定性を向上させるために、アルコキシシランなどの金属アルコキシドを含有してもよい。好ましくは、アミノ基を有するアルコキシシランである。アルコキシシランは、無機粒子同士の結合形成に寄与する。
【0059】
金属アルコキシドの添加量は、無機粒子の100質量部に対して、通常0.1〜10質量部であり、0.5〜5質量部であることが好ましい。
【0060】
また、ポリイミド系高分子ワニスには、さらなる添加剤が添加されていてもよく、添加剤として、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤等の着色剤、難燃剤、滑剤、増粘剤、レベリング剤などを添加してもよい。
【0061】
調整されたポリイミド系ワニスは、次いで、公知のロール・ツー・ロールやバッチ方式により、PET基材、SUSベルト、又はガラス基材上に、上塗布されて塗膜を形成する。この塗膜は、乾燥され、基材から剥離されることによって、フィルムとなる。剥離後に更にフィルムの乾燥を行ってもよい。
【0062】
塗膜の乾燥は、温度50〜350℃にて、適宜、不活性雰囲気あるいは減圧の条件下に溶媒を蒸発させることにより行う。溶媒の蒸発は大気下で行ってもよい。大気下で行う場合は、温度を230℃以下とすることが着色の観点で好ましい。
【0063】
(用途)
このようなポリイミド系フィルムは、透明であって屈曲性に優れるのでフレキシブルディスプレイの構成要素として使用できる。例えば、フレキシブルディスプレイの表面保護用の前面板(ウィンドウフィルム)として使用することができる。
また、このポリイミド系フィルムに、紫外線吸収層、ハードコート層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層などの種々の機能層を付加した積層体とすることもできる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0065】
(実施例1)
窒素置換した重合槽に、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、溶媒(γブチロラクトン及びジメチルアセトアミド)及び触媒を仕込んだ。仕込み量は、式(1)で表される化合物75.0g、式(2)で表される化合物36.5g、式(3)で表される化合物76.4g、γブチロラクトン438.4g、ジメチルアセトアミド313.1g、触媒1.5gとした。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とのモル比は3:7、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物の合計と式(1)で表される化合物とのモル比は、1.00:1.02であった。
【化4】
【0066】
重合槽内の混合物を攪拌して原料を溶媒に溶解させた後、混合物を100℃まで昇温し、その後、200℃まで昇温し、4時間保温して、ポリイミドを重合した。なお、この加熱中に、液中の水を除去した。その後、精製及び乾燥により、ポリイミドを得た。
【0067】
次に、濃度20質量%に調整したポリイミドのγブチロラクトン溶液、γブチロラクトンに固形分濃度30質量%のシリカ粒子を分散した溶液、アミノ基を有するアルコキシシランのジメチルアセトアミド溶液、及び、水を混合し、30分間攪拌した。
【0068】
ここで、シリカとポリイミドの質量比を60:40、アミノ基を有するアルコキシシランの量をシリカ及びポリイミドの合計100質量部に対して1.67部、水をシリカ及びポリイミドの合計100質量部に対して10質量部とした。
【0069】
混合溶液を、ガラス基板に塗布し、50℃で30分、140℃で10分加熱して溶媒を乾燥した。その後、フィルムをガラス基板から剥離し、金枠を取り付けて210℃で1時間加熱することで厚み50μmの透明ポリイミド系フィルムを得た。
【0070】
(実施例2)
ポリイミドを三菱ガス化学社製「ネオプリム」を用い、シリカとポリイミドの質量比を55:45とした以外は実施例1と同様とした。
【0071】
(実施例3)
実施例2で調整した混合溶液をガラス基板に塗布する前に24時間40℃で保管する以外は実施例2と同様とした。
【0072】
(比較例1)
水を添加しない以外は実施例1と同様として混合溶液を調整し、混合溶液をガラス基板に塗布する前に24時間40℃で保管した。
【0073】
(小角X線散乱プロファイルの測定)
得られた各フィルムの小角X線散乱プロファイルをSPring−8のUSAXS装置により以下の条件で取得した。X線の波長λは2Å、波数qの範囲は0.002〜0.02Å
−1であった。
【0074】
得られたプロファイルから、0.003<q≦0.018における、I(q)/F(q)の最大値を求めたところ実施例1は2.5、比較例1は1.1であった。
【0075】
(屈曲性の評価)
各フィルムから切り出したサンプル(10mm×100mm)を長手方向の中央部で180°曲げ、さらに、屈曲部を指で押して屈曲部の観察を行った。結果を表1に示す。屈曲部が破断した場合をCとし、屈曲部が破断しなかった場合をAと表す。
【0076】
(YIの評価)
実施例および比較例のフィルムの黄色度(Yellow Index:YI)を、JIS K 7373:2006に準拠して日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V−670によって測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、フィルムをサンプルホルダーにセットして、300〜800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YIを、下記の式に基づいて算出した。
YI=100×(1.2769X−1.0592Z)/Y
【0077】
(Hazeの評価)
フィルムのHaze(%)を、JIS K 7105:1981に準拠して、スガ試験機社製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM−2DPにより測定した。
【0078】
(全光線透過率Trの評価)
フィルムの全光線透過率は、JIS K 7105−1:1981に準拠して、スガ試験機社製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM−2DPにより測定した。これらの結果を表1に示す。
【0079】
【表1】