【文献】
BEGOU, T et al.,Marcatili's extended approach: comparison to semi-vectorial methods applied to pedestal waveguide design,Journal of Optics A: Pure and Applied Optics,英国,2008年 5月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記長手方向における任意の前記突起部の周囲には、前記突起部及び前記支持部が存在しない領域があり、該突起部及び支持部が存在しない領域の前記長手方向における長さは71μm以下である
請求項1から9のいずれか1項に記載の光導波路。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
<光導波路>
本発明の実施態様に係る光導波路は、被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置に用いる光導波路であって、基板と、長手方向に沿って延伸し且つ光が伝搬可能なコア層と、基板の少なくとも一部とコア層の一部とを接続し基板に対してコア層を支持する支持部と、基板およびコア層に挟まれる空間領域において長手方向に断続的に配置されており基板からコア層に向かって突出する突起部と、を備えている。なお、長手方向とは、少なくとも1方向に沿って延伸している形状の三次元構造物における、最も長く延びている方向であって、直線状の方向だけでなく、曲線状の方向を含む。さらに、コア層は曲線状に延びる部分を含み、かつ突起部はコア層の曲線状に延びる部分と基板とに挟まれる空間領域、言い換えると、突起部はコア層の曲線状に延びる部分の直下に配置さていてよい。なお、直下とは、コア層から基板に向かう方向を上下方向と定めた場合における、まっ直ぐ下であることを意味する。また、コア層の幅方向における、突起部が最大高さとなる位置は、コア層の中央位置から外れていてよい。幅方向とは、本実施態様において、コア層の長手方向に垂直且つ基板の主面に平行な方向である。基板の主面とは、基板の板厚方向に垂直な表面であって、さらに言換えると、本実施態様において、基板を形成する6面の中で、面積が最大である面である。
【0016】
ATR法を利用したセンサでは、エバネッセント波と被測定物質との相互作用量を増加させること、及び、被測定物質以外の材料への光吸収を低減させることによりセンサ感度を向上させることができる。被測定物質以外の材料への光吸収を低減させるためには、コア層を支える支持部を、コア層の基板に相対する面の一部に部分的に存在させ、コア層の多くの部分を露出させることが有効である。支持部に接続されずに基板に対して浮いているコア層の部分には、結露などにより当該一部と基板の間に生じる水分によるメニスカス力により、当該一部が基板上に張付くスティッキングが発生し得る。スティッキングが発生すると、導波路の一部浮かせた構成を維持できず、センサの感度が著しく低下する。これに対して、基板の面に構造物を設けることによりスティッキング発生の可能性は低減する。また、スティッキングは従来、可動部を有するいわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスにおいて問題視されることが多いが、先述のようなメニスカス力に起因するスティッキングについては、可動部を有していない構造においても対策することが求められる。
【0017】
このような構成の光導波路として、基板と、基板上に配置されたコア層と、基板とコア層の一部とを接続し基板に対してコア層を断続的に支持する支持部と、基板からコア層に向かって突出する突起部と、を備える光導波路が考えられる。このような構成の光導波路では、突起部によりコア層の基板への張付きが防がれるので、スティッキングの発生の可能性が低減する。ただし、基板とコア層との間に突起部を確実に形成するために、コア層から染み出したエバネッセント波が突起部によって光吸収される虞がある。
【0018】
本実施態様に係る光導波路によれば、突起部はコア層の長手方向に断続的に配置されている。つまり、長手方向において、コア層および基板の間に突起部が設けられない領域が設けられている。これにより、本実施態様に係る光導波路によれば、突起部が設けられる領域においてコア層のスティッキング発生を抑制しながら、突起部が設けられない領域においてエバネッセント波の光吸収を低減させ得る。このため、本実施態様に係る光導波路を備える光学式濃度測定装置において、スティッキングによる光導波路の故障の可能性を低減させながら測定感度を向上させることが可能になり、高感度および高信頼性が実現され得る。また、突起部は、コア層の曲線状に延びる部分と基板とに挟まれる空間領域に配置されている。これにより、本実施態様に係る光導波路は、直線状の部分よりスティッキングが発生し易い曲線状の部分における、スティッキングの発生を抑制し得る。また、コア層の幅方向における、突起部が最大高さとなる位置が、コア層の幅方向の中央位置から外れている。つまり、突起部の中でコア層に最も近づく部分が、光が主に伝搬するコア層の幅方向の中心から離れた位置に設けられている。これにより、本実施態様に係る光導波路によれば、コア層の幅方向の中央位置から外れた位置において最大高さとなる突起部が設けられているので、突起部によるエバネッセント波の光吸収をより低減させ、測定感度をより向上させることが可能になる。また、本実施態様に係る光導波路では、コア層は可動部を有していなくてもよい。
【0019】
以下、光導波路を構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。
【0020】
<コア層>
コア層は、長手方向に沿って延伸し且つ光が長手方向に沿って伝搬可能であれば特に制限されない。具体的には、シリコン(Si)やガリウムひ素(GaAs)、ゲルマニウム(Ge)等で形成されたコア層が挙げられる。なお、長手方向とは、少なくとも1方向に沿って延伸している形状の三次元構造物における、最も長く延びている方向であって、直線状の方向だけでなく、曲線状の方向を含む。コア層の長手方向に沿った任意の位置における垂直な断面は、円形に限定されず、当該断面の中心から外表面までの距離が当該断面の中心を軸にした回転によって変動する任意の形状、例えば矩形であってよい。したがって、コア層は、本実施態様において長尺の板状である。
【0021】
また、コア層の少なくとも一部は、露出することにより被測定気体または被測定液体と直接接触可能、または、コア層を伝搬する光の真空波長の1/4よりも薄い薄膜に被覆されることにより当該薄膜を介して被測定気体または被測定液体と接触可能であってもよい。これにより、エバネッセント波と被測定気体または被測定液体を相互作用させ、被測定気体または被測定液体の濃度を測定することが可能となる。
【0022】
また、コア層は曲線状に延びる部分を含んでよい。これにより、コア層全体を平面視した際の、コア層の輪郭のアスペクト比を1に近づけ得るので、光導波路および光学式濃度測定装置が小型化され得る。また、コア層の長手方向における少なくとも一部には、長手方向と垂直な断面においてコア層および基板の間の全領域に、後述の支持部が存在しなくてもよい。これにより、コア層から染み出すエバネッセント波と周囲の気体または液体との相互作用量を増加させることが可能となる。なお、支持部が存在しないとは、コア層が、長手方向において互いに隣接する、2つの支持部の間に架渡されていることである。さらには、支持部が存在しないとは、コア層の基板に対向する全領域は、長手方向において互いに隣接する2つの支持部の間で、空隙、または、コア層が伝搬する光の吸収率が支持部よりも低い媒質を、基板との間に有することである。
【0023】
コア層を伝搬する光はアナログ信号としての赤外線であってもよい。ここでアナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)および1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、各実施態様に係る光導波路をセンサや分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空波長は2μm以上12μm以下であってもよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊するガス(CO
2、CO、NO、N
2O、SO
2、CH
4、H
2O、C
2H
6O等)が吸収する波長帯である。これにより各実施態様に係る光導波路をガスセンサとして利用することができる。
【0024】
<基板>
基板は、基板上に支持部、突起部、及びコア層を形成可能であれば特に制限されない。具体的には、シリコン基板やGaAs基板等が挙げられる。基板の主面とは、基板の水平方向(膜厚方向に垂直な方向)の表面を指す。基板の表面は、必ずしも露出していなくてもよく、一部が支持部および突起部と同じ材料の薄膜により覆われていてもよい。なお、基板の表面が露出していない場合、後述する突起部の高さとは、基板の表面を基準とした突起部表面の高さではなく、コア層直下の領域における当該薄膜表面のうち、最も低くなる位置を基準とした場合の突起部表面の高さを指す。
【0025】
<支持部>
支持部は、基板の少なくとも一部とコア層の一部とを接続する。また、支持部は、基板に対してコア層を支持するようになっている。
【0026】
また、支持部は、基板及びコア層を接合可能であれば特に制限されないが、好ましくは任意の波長の光またはコア層を伝搬する光に対してコア層よりも屈折率が小さい材料である。一例として、支持部の形成材料として、シリコン酸化膜(SiO
2)やシリコン(Si)、ガリウムひ素(GaAs)等が挙げられる。屈折率は、任意の波長の光に対して、あるいは特定の波長の光に対する屈折率である。特定の波長の光は、特に光学式濃度測定装置において、コア層を伝搬する光である。これにより、支持部は、支持部との接続部分においてもコア層を伝播する光を全反射させ得る。
【0027】
また、支持部とコア層との接続部分は、コア層の基板と対向する面における、いずれの位置であってもよく、例えば、幅方向の中央位置であってよい。さらには、支持部とコア層との接続部分は、コア層の幅方向の端面におけるいずれの位置であってもよい。また、支持部のコア層との接続部分は、コア層の長手方向に沿って断続的に存在させてもよい。これにより、コア層は長手方向において一部に支持部に接触しない外表面が増加するので、エバネッセント波と被測定気体または被測定液体との相互作用領域を拡大し得る。また、支持部のコア層との接続部分は、コア層の幅方向におけるコア層の端から該コア層の中央位置に近づくにつれて、コア層の長手方向に広がる形状であってもよい。このような形状であることにより、コア層の長手方向に沿って、支持部の無い領域から支持部の有る領域に向かう場合(またはその逆の場合)に、コア層の周囲の状況が段階的に変化する。その結果、コア層を伝搬する光にとって急激な周囲状況の変化を抑制できるため、コア層を伝搬する光の散乱損失を抑えることが可能となる。
【0028】
支持部の形成方法の一例としては、SOI(Silicon On Insulator)基板の埋め込み酸化膜(BOX:Buried Oxide)層(SiO
2層)をエッチングすることで、コア層(Si層)と基板(Si層)をBOX層で支持する構造を形成することができる。
【0029】
<突起部>
突起部は、基板およびコア層に挟まれる空間領域においてコア層の長手方向に断続的に配置されている。また、突起部は、基板からコア層に向かって突出する。
【0030】
また、突起部は、支持部と同一の材料で形成されていてよい。これにより、コア層の厚さ方向において、支持部と重複する領域に配置される突起部がリソグラフィ技術およびエッチング技術などを用いて、容易に形成され得る。また、突起部は山形状であってよい。これにより、長手方向に垂直な面内でコア層が例えば矩形形状である構成では、突起部が山形状であるとコア層の底面と突起部の表面とが平行にならず、コア層と突起部の間でのスティッキングが発生しにくくなる。突起部が山形状でない構成でも、コア層の底面と、突起部のコア層に対向する表面とが平行でないことで、同様の効果が得られる。なお、突起部の山形状は、コア層の厚さ方向に垂直な任意の方向、例えば、コア層の長手方向から見た形状である。また、突起部はコア層の幅方向において非対称であってもよいが、好ましくは対称であってよい。コア層の幅方向において対称とは、当該幅方向に垂直な直線を対称軸とした線対称を意味する。これにより、コア層が幅方向に対称な構造をしている場合、突起部も幅方向に対称構造をしていることで、コア層の直下方向に突起部の無い領域のコア層から、コア層の直下方向に突起部が有る領域のコア層に光が進行して行く際に、光のモード変換が起こりにくくなり、モード変換による伝搬ロスが小さくなる。また、突起部の最大高さは、コア層および基板の間隔の1/20以上であってよい。これにより、コア層のスティッキング発生がより抑制され得る。また、突起部の最大高さは、100nm以上であってよい。これにより、コア層のスティッキング発生がいっそう抑制され得る。また、コア層の長手方向において、任意の突起部の周囲には、突起部及び支持部が存在しない領域、言換えると、長手方向において互いに隣接する2つの突起部に挟まれる領域、または長手方向において互いに隣接する突起部および支持部に挟まれる領域があってよい。当該突起部及び支持部が存在しない領域の長手方向における長さは
【数1】
以下であってよい。ここで、Eはコア層のヤング率[N/m
2]、hはコア層と基板との間の浮遊距離[m]、tはコア層の厚さ[m]、αは実験学的比較パラメータ:45.2345×10
-6[N/m]である。また、突起部および支持部が存在しない領域の長手方向における長さは71μm以下であってよい。これにより、支持部および突起部のいずれも設けられないコア層の長手方向の領域が、スティッキング発生の可能性が高まる
【数2】
以下、または71μm以下に抑えられるので、光導波路においてスティッキング発生が低減され得る。また、コア層の幅方向における、突起部が最大高さとなる位置は、コア層の幅方向の中央位置から外れていてよい。ただし、突起部は、コア層の長手方向の全域に亘って、コア層の幅方向の中央位置から外れた位置で最大高さでなくてよい。例えば、突起部は、コア層の長手方向の少なくとも一部の領域においてコア層の幅方向の中央位置から外れた位置で最大高さであって、別の一部の領域においてコア層の幅方向の中央位置で最大高さであってよい。
【0031】
<光学式濃度測定装置>
本発明の各実施態様に係る光学式濃度測定装置は、本発明の各実施態様に係る光導波路と、コア層に光を入射可能な光源と、コア層を伝搬した光を受光可能な検出部と、を備える。
【0032】
以下、光学式濃度測定装置を構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。
【0033】
<光源>
光源は、コア層に光を入射可能であれば特に制限されない。ガスの測定に赤外線を用いる場合には光源として、白熱電球やセラミックヒータ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒータや赤外線LED(Light Emitting Diode)などを用いることができる。光源は光導波路と光接続可能な構成であればどのような配置でもよい。例えば、光源は、光導波路と同じ個体内に光導波路に隣接して配置してもよいし、別の個体として光導波路から一定の距離を置いて配置してもよい。また、ガスの測定に紫外線を用いる場合には光源として、水銀ランプや紫外線LEDなどを用いることができる。また、ガスの測定にX線を用いる場合には光源として、電子ビームや電子レーザーなどを用いることができる。
【0034】
光学式濃度測定装置に備えられる光導波路のコア層を伝搬する光は、アナログ信号としての赤外線であってもよい。ここで、アナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)および1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、光学式濃度測定装置をセンサや分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空波長は2μm以上12μm以下であってもよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊するガス(CO
2、CO、NO、N
2O、SO
2、CH
4、H
2O、C
2H
6O等)が吸収する波長帯である。これにより本実施態様に係る光学式濃度測定装置をガスセンサとして利用することができる。
【0035】
<検出部>
検出部は、光導波路のコア層を伝搬した光を受光可能であれば特に制限されない。ガスの測定に赤外線を用いる場合には検出部として、焦電センサ(Pyroelectric sensor)、サーモパイル(Thermopile)あるいはボロメータ(Bolometer)等の熱型赤外線センサや、ダイオードあるいはフォトトランジスタ等の量子型赤外線センサ等を用いることができる。また、ガスの測定に紫外線を用いる場合には検出部として、ダイオードやフォトトランジスタ等の量子型紫外線センサ等を用いることができる。また、ガスの測定にX線を用いる場合には検出部として、各種半導体センサを用いることができる。
【0036】
〔実施形態〕
本発明の実施形態による光導波路および光学式濃度測定装置について
図1から
図17を用いて説明する。
【0037】
図1は、本実施形態による光学式濃度測定装置1の概略構成を示す図であるとともに、本実施形態による光導波路10を利用したATR法の概念図でもある。
【0038】
図1に示すように、光学式濃度測定装置1は、濃度などを検出するガスが存在する外部空間2に設置されて使用される。光学式濃度測定装置1は、本実施形態による光導波路10と、光導波路10に備えられたコア層11に光(本実施形態では赤外線IR)を入射可能な光源20と、コア層11を伝搬した赤外線IRを受光可能な光検出器(検出部の一例)40とを備えている。
【0039】
光導波路10は、基板15と、赤外線IR(光の一例)が伝搬可能なコア層11と、基板15の少なくとも一部とコア層11の一部とを断続的に接続することにより、基板15に対してコア層11を支持する支持部17と、基板15からコア層11に向かって突出する突起部18とを備えている。コア層11および基板15はシリコン(Si)で形成され、支持部17および突起部18は二酸化ケイ素(SiO
2)で形成されている。
【0040】
基板15は例えば板状を有し、コア層11は、例えば、直方体形状を、部分的に有している。また、
図2に示すように、コア層11は、基板15の主面に垂直な方向を軸に直方体を湾曲させた、曲線状に延びる部分を有している。
【0041】
図1に示すように、光導波路10は、コア層11の長手方向の一端部に形成されたグレーティングカプラ118と、コア層11の長手方向の他端部に形成されたグレーティングカプラ119とを有している。グレーティングカプラ118は、光源20の出射方向に配置されている。なお、本実施形態では、光導波路10は、積層方向が鉛直方向に平行であり、基板15の主面が鉛直下方側に向くように設置されている。光源20の出射方向とは、このように光導波路10が設置された状態における、光源20の鉛直下方である。グレーティングカプラ118は、光源20から入射する赤外線IRを、コア層11を伝搬する赤外線IRに結合するようになっている。グレーティングカプラ119は、光検出器40に対向する方向に配置されている。なお、光検出器40に対向する方向とは、上述のように光導波路10が設置された状態における、光検出器40の鉛直下方である。グレーティングカプラ119は、コア層11を伝搬する赤外線IRを取り出して光検出器40に向けて出射するようになっている。
【0042】
図3は
図1中のA−A線で切断した断面を示す端面図であり、
図4は
図1中のB−B線で切断した断面を示す端面図である。
図5は、
図1中のC−C線で切断した断面を示す端面図である。
【0043】
図1、
図3、
図4、
図5に示すように、光導波路10は、支持部17が設けられた領域を除いて、コア層11および基板15の間に、クラッド層などの所定の層を有さずに空隙13を有する構造をしている。
【0044】
図3に示すように、コア層11と接続される支持部17の接続部分171は、コア層11の幅方向においてコア層11の中央位置cpと重なっている。また、
図1に示すように、支持部17の接続部分171は長手方向に沿って、断続的に存在している。また、
図1、
図2に示すように、コア層11の長手方向において、突起部18は基板15およびコア層11に挟まれる空間領域に断続的に配置されている。
【0045】
また、突起部18は、当該空間領域の、コア層11の長手方向において支持部17とは異なる位置に配置されている。また、
図4に示すように、突起部18は、当該空間領域の、コア層11の幅方向においてコア層11の幅方向の中央位置cpに重なる位置に配置されている。また、突起部18は、コア層11の長手方向から見て山形状である。また、突起部18は、コア層11の幅方向において対称である。また、突起部18の最大高さは、コア層11および基板15の間隔gpの1/20以上であって、より具体的には100nm以上である。また、突起部18は、
図2に示すように、コア層11の曲線状に延びる部分の直下にも配置されている。また、コア層11の長手方向において、支持部17および突起部18のいずれも設けられない領域、言換えると、コア層11の長手方向において互いに隣接する2つの突起部18に挟まれる領域、またはコア層11の長手方向において支持部17に隣接する突起部18と当該支持部17とに挟まれる領域の長さは
【数3】
以下、より具体的には71μm以下である。ここで、Eはコア層11のヤング率[N/m
2]、hはコア層11と基板15の間隔gp[m]、tはコア層11の厚さ[m]、αは実験学的比例パラメータ:45.2345×10
-6[N/m]である。
【0046】
なお、突起部18の形状や、コア層11の幅方向における突起部18の位置は、以下の方法で確認される。突起部18の断面形状を確認する場合は、長手方向に垂直な面を電子顕微鏡(SEM)で観察することによって確認される。また、幅方向における突起部18のコア層11との相対位置に関しては、光導波路10のコア層11側から、集束イオンビーム(FIB)照射によるダメージ層の形成により、コア層11の影を基板に転写し、その後で、コア層11を剥離し、剥離した表面に転写されたコア層11の影と突起部18とを電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、幅方向における突起部18のコア層11との相対位置が確認される。より詳細に説明すると、コア層11が空中に浮いている箇所において、基板15の主面に対して垂直な方向に集束イオンビームを照射することで、集束イオンビームによるダメージ層によってコア層11の影が基板に転写される。転写された影は、基板の主面と平行な面内におけるコア層11の位置を示しているため、転写された影と突起部の位置を比較することで、突起部とコア層11の相対位置を判断することができる。
【0047】
ここで、本実施形態による光導波路10の効果について、
図19に示す長手方向全域に亘って突起部18’が設けられた光導波路10’と比較しながら説明する。
【0048】
ATR法を用いたセンサは、コア層内ではシングルモードで光を伝搬させることが多い。本実施形態による光学式濃度測定装置1でも、光導波路10に備えられたコア層11内ではシングルモードで光(赤外線)を伝搬させる例を挙げている。ただし、マルチモード伝搬させる場合でも、コア層11の長手方向に光が伝播するため、本発明の効果は得られる。
図1に示すように、コア層11内をシングルモードで赤外線IRを伝播させると、コア層11の中心から離れるほど強度が低下しながらも、コア層11の周りにエバネッセント波EWが染み出す。なお、
図19に示す、互いに隣接する支持部17’間で長手方向の全領域に亘る突起部18’が設けられた光導波路10’のコア層11’を伝搬する赤外線IRのエバネッセント波EWの分布も、本実施形態の光導波路10と同様である。
【0049】
ATR法を用いたセンサでは、コア層から染み出るエバネッセント波と被測定物質との相互作用領域を拡大させ(つまりコア層の露出部分を拡大させ)、かつ、被測定物質以外の材料への光の吸収(つまり支持部等による光の吸収)を低減させることで、センサとしての感度を上げられる。スティッキングの抑制のために形成される突起部18’に関して、
図19に示すように、互いに隣接する支持部17’の間で長手方向の全領域に亘る形状が、最も単純な形状として考えられる。
【0050】
しかしながら、光導波路10’では、基板15’との間が空隙13になっている長手方向の全領域に亘って、突起部18’ の形成材料によるエバネッセント波EWの吸収が生じる。その結果、光導波路10’を用いたセンサの感度が低下してしまう。
【0051】
これに対し、
図1に示すように、本実施形態による光導波路10は、光導波路10’と同様に、コア層11および基板15の間に挟まれる空間領域に突起部18を設け、スティッキングを抑制する構造を有している。ただし、
図1に示すように、突起部18は、コア層11の長手方向に断続的に設けられている。これにより、コア層11の中心から周囲に染み出すエバネッセント波EWが、突起部18が設けられない領域においては吸収されないので、光(赤外線)がグレーティングカプラ118からグレーティングカプラ119まで伝播する間の突起部18による吸収量が低減する。したがって、本実施形態による光導波路10は、通常考えられる突起部18’をコア層11’の長手方向に連続的に設けた光導波路10’に比べて、突起部によるエバネッセント波EWの光吸収を低減させ得る。
【0052】
また、突起部18は、コア層11の長手方向から見て山形状である。これにより、長手方向に垂直な面内でコア層11が矩形形状をしている本実施形態では、突起部18が山形状であるとコア層11の底面と突起部18の表面とが平行にならず、コア層11と突起部18の間でのスティッキングが発生しにくくなる。また、突起部18は、コア層11の幅方向において対称である。これにより、コア層11が幅方向に対称な構造をしている本実施形態では、突起部18も幅方向に対象構造をしていることで、コア層11の直下方向に突起部18の無い領域のコア層11から、コア層11の直下方向に突起部18が有る領域のコア層11に光が進行して行く際に、光のモード変換が起こりにくくなり、モード変換による伝搬ロスが小さくなる。また、突起部18の最大高さは、コア層11および基板15の間隔gpの1/20以上であって、より具体的には100nm以上である。これにより、コア層11のスティッキング発生がより抑制され得る。また、光導波路10全体の小型化のために、コア層11は曲線状に延びる部分を有しており、突起部18は当該曲線状に延びる部分の直下に配置されている。このように、光導波路10は、直線状の部分よりスティッキング耐久性の低い曲線状の部分におけるコア層11の、スティッキング耐久性を向上し得る。また、コア層11の長手方向において、支持部17および突起部18の何れも設けられない領域の長さは
【数4】
以下、より具体的には71μm以下である。ここで、Eはコア層11のヤング率[N/m
2]、hはコア層11と基板15の間隔gp[m]、tはコア層11の厚さ[m]、αは実験学的比例パラメータ:45.2345×10
-6[N/m]である。これにより、支持部17および突起部18のいずれも設けられないコア層11の長手方向の領域が、スティッキング発生の可能性が高まる
【数5】
以下、または71μm以下に抑えられるので、光導波路10においてスティッキング発生が低減され得る。
【0053】
ここで、本実施形態による光導波路10の、コア層11の長手方向において、支持部17および突起部18のいずれも設けられないコア層11の長手方向の領域が、より詳細に説明される。
【0054】
本発明では、長手方向において、突起部18はコア層11の下に断続的に配置されている。突起部18が断続的に配置されているということは、基板15に対して浮いた構造のコア層11を有する光導波路10において、任意の突起部18の周囲に他の突起部18および支持部17が存在しない領域がある、ということである。ここで任意の突起部18の周囲に他の突起部18および支持部17が存在しない領域としては、以下の2通りが考えられる。
I:任意の突起部18から隣の突起部18までの領域
II:任意の突起部18から支持部17までの領域
ここで、スティッキングの防止効果としては、突起部18よりも支持部17の方が高いため、IよりもIIの距離の方を長く取ることができる。したがって、突起部18を断続的に有する光導波路10において、突起部18が存在しなくてもスティッキングが発生しない距離の最大値はIIの距離から見積もることができる。すなわち、コア層11が2つの支持部17によって支持され、基板15に対して浮いた構造を有する光導波路10において、2つの支持部17の間に突起部18が存在しない状態で、どれだけ支持部間距離を離した場合に、どれくらいの範囲でスティッキングが発生するかを調べることにより、任意の突起部18の周囲に他の突起部18や支持部17が存在しなくてもよい最大距離を見積もることができる。
【0055】
図20は、コア層11(シリコン)の厚さ:220nm、コア層11の幅:2μm、コア層11から基板15までの間の浮遊距離(すなわち基板15の表面からの支持部17の高さ):3μm、支持部17間の距離:150μm、の光導波路10を、コア層11の下に突起部18を作らないで作成した時の顕微鏡観察画像(平面視)である。
図20では、コア層11の150μmの支持部17間の距離のうち中央付近の45μmがスティッキングにより基板15に接触している(残りのコア層11の部分は浮遊している)。なお、
図20において、コア層11の左右にあるひし形の領域には、コア層11と基板15の間に支持部17があり、両ひし形に挟まれるコア層11の細線領域におけるコア層11と基板15の間には、支持部17も突起部18も存在しない。この測定結果から、スティッキングを発生させない場合における、突起部18と支持部17の最大距離l
pを(1)式と決定することができる。
【0057】
ここで、Eは梁(すなわちコア層11)を構成する部材のヤング率[N/m
2]、hはコア層11と基板15の間隔gp[m]、tは梁(コア層11)の厚さ[m]、αは実験学的比例パラメータ:45.2345×10
-6[N/m]である。
【0058】
(1)式を得るために、上記の光導波路10を矩形断面の両端固定梁とし、製造プロセス中に、コア層11と基板15の間にたまるプロセス薬液の表面張力に起因するラプラス圧力を均一荷重とするモデルにより解析すると、たわみ量は(2)式、(3)式、(4)式のように計算される(引用1:2002年、日刊工業新聞、『製品開発のための材料力学と強度設計のノウハウ』鯉渕興二ら編著、p18。引用2:2012年、日本機械学会論文集78巻790号 『二平面間に形成された液体架橋のメニスカス力(厳密解と近似式との比較)』田浦 裕生ら)。
【0060】
(2)から(4)式において、v(x)は片方の端からの距離xにおけるたわみ量、pは単位長さあたりの荷重、lは梁(つまりコア層11の浮遊部分)の全長、Iは断面2次モーメント、wは梁の幅、γは表面張力、θは接触角である。前述の
図20に示した光導波路10の寸法(すなわち、コア層11の厚さ:220nm、コア層11の幅:2μm、コア層11から基板15までの間の浮遊距離:3μm、支持部間距離:150μm)において、コア層11のヤング率を単結晶シリコンのヤング率(193GPa)とするとき、たわみ量が浮遊距離h(すなわち3μm)よりも大きい値となるx領域の長さ(つまり基板15に接触した状態となる距離)が45μmになるように荷重pを決定することができる。
【0061】
一方で、最大たわみ量v
maxは梁(コア層11)の中央部(つまりx=l/2)のたわみであり、式(2)、式(3)、および式(4)より、式(5)および式(6)と解くことができる。
【0063】
測定結果より計算された荷重pを用いることにより、実験学的比例パラメータαが求められる。
【0064】
ところで、突起部18が、コア層11が基板15に接触する地点に存在することにより、スティッキングが防がれる。したがって、少なくとも一点でコア層11が接触する条件(つまり最大たわみ量v
maxとコア層11と基板15の間の浮遊距離hが等しい場合)のコア層11の浮遊部分の全長の半分の長さの位置に突起部18が存在することにより、スティッキングを防ぐことができる。この条件から式(7)、式(8)、および式(9)のようにl
pを求めることができる。
【0066】
特に式(9)から、シリコン製のコア層11を有する光導波路10が、
図20の断面寸法(すなわち、コア層11の厚さ:220nm、コア層11から基板15までの間の浮遊距離:3μm)である構成において、支持部17から長手方向に71μm以下の位置に突起部18を存在させることでスティッキングを防ぐことができる。すなわち、突起部18を断続的に有する光導波路10において、突起部18が存在しなくてもスティッキングが発生しない距離の最大値は71μmである。
【0067】
次に、本実施形態による光導波路10の製造方法について
図1から
図5を参照しつつ
図6、
図17を用いて説明する。
図6は、光導波路10の製造工程平面図を示している。
図7は、
図6中に示すD−D線、E−E線、F−F線で切断した光導波路10の製造工程端面図を示している。
図8は、光導波路10の製造工程平面図を示している。
図9は、
図8中に示すD−D線、E−E線、F−F線で切断した光導波路10の製造工程端面図を示している。
図10は、光導波路10の製造工程平面図を示している。
図11は、
図10中に示すE−E線で切断した光導波路10の製造工程端面図を示している。
図12は、
図10中に示すF−F線で切断した光導波路10の製造工程端面図を示している。なお、
図10中に示すD−D線で切断した光導波路10の製造工程端面図は、マスクパターンM1、マスクパターンM2のいずれも存在しないため、
図9に示した端面構造と同一となる。
図13は、光導波路10の製造工程平面図を示している。
図14は、
図13中に示すD−D線で切断した光導波路10の製造工程端面図を示している。
図15は、
図13中に示すE−E線で切断した光導波路10の製造工程端面図を示している。
図16は、
図13中に示すF−F線で切断した光導波路10の製造工程端面図を示している。
図17は、別の実施形態の光導波路主要部を、
図13中に示す光導波路主要部10aのE−E線と同じ位置で切断した製造工程端面図を示している。
【0068】
まず、シリコンで形成され最終的に基板15となる支持基板15aと、シリコンで形成されコア層11が形成される活性基板11aのいずれか一方、または両方にSiO
2膜を形成し、このSiO
2膜を挟むようにして支持基板15aおよび活性基板11aを貼り合わせて熱処理して結合する。その後、活性基板11aを所定の厚さまで研削・研磨するなどして活性基板11aの膜厚を調整する。これにより、
図6、
図7に示すように、支持基板15aと、支持基板15a上に形成されたBOX層17aと、BOX層17a上に形成された活性基板11aとを有し、「シリコン−絶縁層−シリコン」構造を有するSOI基板100が形成される。
【0069】
次に、SOI基板100をリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて活性基板11aをエッチングし、断面矩形で長手方向に延伸するコア層11を形成する。これにより、
図8、
図9に示すように、板状の支持基板15aと、支持基板15a上に形成され板状のBOX層17aと、BOX層17a上の一部に形成され四角柱状のコア層11とを有する光導波路主要部10aを形成する。
【0070】
次に、
図10に示すように、コア層11およびBOX層17aの一部を覆うマスクパターンM1、マスクパターンM2を、コア層11の長手方向に断続的に形成する。
図10、
図11に示すように、マスクパターンM1は、コア層11の幅方向の中央位置に対称に配置される。
図10、
図12に示すように、マスクパターンM2は、コア層11の幅方向の中央位置に対称に配置され、マスクパターンM1より幅方向に長い。マスクパターンM1、マスクパターンM2は、フォトレジストでもよいし、シリコン窒化膜等のハードマスクでもよい。また、マスクパターンM1とマスクパターンM2は、一体(すなわち同一)のマスク層であってもよく、異なるマスク層であってもよい。
【0071】
次に、マスクパターンM1、マスクパターンM2をマスクとして光導波路主要部10aのBOX層17aの一部をウェットエッチングなどで除去する。これにより、
図13、
図14に示すように、コア層11の長手方向においてマスクパターンM1、マスクパターンM2が設けられなかった領域には、支持部17および突起部18のいずれもが形成されず、空隙13が形成される。また、
図13、
図15に示すように、コア層11の長手方向においてマスクパターンM1が設けられた領域には、コア層11の幅方向における中央位置に存在する突起部18が形成される。また、
図13、
図16に示すように、コア層11の幅方向における中央位置に存在する支持部17が形成される。なお、
図13から
図16では、支持部17および突起部18を形成する部分以外のBOX層17aが除去されているが、必ずしも完全に除去されずに、
図17に示す別の実施形態のように、BOX層17aの残りなどで支持基板15aを覆う薄膜19を形成してよい。なお、このときの突起部18の最大高さは、コア層11の直下の領域における当該薄膜19表面のうち、最も低くなる位置を基準としたときの、突起部18の山形状の頂点高さである。
【0072】
その後、マスクパターンM1、マスクパターンM2をエッチングする。なお、本実施形態ではグレーティングカプラの形成を省略したが、
図1に示すようなグレーティングカプラ118、グレーティングカプラ119を形成する場合は、
図8に示すコア層11の形成と同時もしくはその前後にグレーティングカプラ118、グレーティングカプラ119を形成し、その後、
図10に示すマスクパターンM1、マスクパターンM2を形成するとよい。コア層11の長手方向の一端部にスリット状のグレーティングカプラ118を形成し、コア層11の長手方向の他端部にスリット状のグレーティングカプラ119を形成すると
図1に示した構造となる。
【0073】
次に、支持基板15aを所定領域で切断して光導波路主要部10aを個片化する。これにより、突起部18が、コア層11の長手方向に断続的に存在する光導波路10(
図1から
図5参照)が完成する。
【0074】
さらに、
図1に示すように、光導波路10のグレーティングカプラ118に赤外線IRを入射できるように光源20を設置し、光導波路10のグレーティングカプラ119から出射する赤外線IRを受光できるように光検出器40を配置することにより、光学式濃度測定装置1が完成する。
【0075】
このように、光導波路10は、突起部18が、コア層11の長手方向に断続的に存在する構造を有することで、コア層11におけるスティッキングの発生を抑制しながら、突起部18による被測定物質MOの検出特性の低下を防止し得る。
【0076】
以上説明したように、本実施形態によれば、コア層11におけるスティッキングの発生を抑制しながら、センサの感度の低下を抑える突起部18を持った光導波路10および光学式濃度測定装置1を提供することができる。
【0077】
また、本実施形態による光導波路10は、突起部18による当該エバネッセント波EWの吸収量を減少させることができる。これにより、本実施形態による光導波路10は、種々の仕様態様において高感度に安定して被測定物質MOを検出することができる。
【解決手段】光導波路10は基板15とコア層11と支持部17と突起部18とを有する。コア層11では光が伝搬可能である。支持部17は基板15の少なくとも一部とコア層11の一部とを接続する。支持部17はコア層11を支持する。突起部18を基板15およびコア層11に挟まれる空間領域において長手方向に断続的に配置する。突起部18は基板15からコア層11に向かって突出する。