特許第6640975号(P6640975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6640975
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】静電チャック機構、及び荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20200127BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20200127BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   H01J37/20 A
   H01J37/28 B
   H01L21/68 R
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-237885(P2018-237885)
(22)【出願日】2018年12月20日
(62)【分割の表示】特願2014-50971(P2014-50971)の分割
【原出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2019-54007(P2019-54007A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2018年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】海老塚 泰
(72)【発明者】
【氏名】菅野 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】安河内 正也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正和
(72)【発明者】
【氏名】石垣 直也
(72)【発明者】
【氏名】宮 豪
【審査官】 小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−101974(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/093268(WO,A1)
【文献】 特開2006−054094(JP,A)
【文献】 特開2007−189238(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/071073(WO,A1)
【文献】 特開2009−302415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を吸着する試料吸着面と、当該試料吸着面と前記試料との間で吸着力を発生させるための電圧が印加される第1の電極を有する静電チャック機構において、
前記第1の電極より下側に第1の面を有する第2の電極と、当該第2の電極に負電圧を印加する負電圧印加電源を備え、前記第2の電極は、前記第1の面を包囲すると共に前記試料吸着面より下側に位置する前記第2の電極の最上面となる第2の面を備え、前記第1の面と前記第2の面は高低差のある段状に形成されていることを特徴とする静電チャック機構。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に第3の電極を配置したことを特徴とする静電チャック機構。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1の電極と前記第3の電極には同じ電圧が印加されることを特徴とする静電チャック機構。
【請求項4】
請求項1において、
前記第2の電極は、前記第1の電極を包囲するように配置されることを特徴とする静電チャック機構。
【請求項5】
試料を吸着する試料吸着面と、当該試料吸着面と前記試料との間で吸着力を発生させるための電圧が印加される第1の電極を有する静電チャック機構において、
前記第1の電極より下側に第1の面を有する第2の電極と、当該第2の電極に負電圧を印加する負電圧印加電源を備え、前記第2の電極は、前記第1の面を包囲すると共に前記試料吸着面より下側に位置する前記第2の電極の最上面となる第2の面を備え、前記第1の面と前記第2の面は、前記第1の電極から離れるほど高くなるスロープ状に形成されていることを特徴とする静電チャック機構。
【請求項6】
荷電粒子ビームを照射するためのビームカラムと、前記荷電粒子線が照射される試料を移動する試料ステージを備えた荷電粒子線装置において、
前記試料を吸着する試料吸着面と、当該試料吸着面と前記試料との間で吸着力を発生するための電圧が印加される第1の電極を有する静電チャック機構を備え、当該静電チャック機構は、前記第1の電極より下側に第1の面を有する第2の電極と、当該第2の電極に負電圧を印加する負電圧印加電源を備え、前記第2の電極は、前記第1の面を包囲すると共に前記試料吸着面より下側に位置する前記第2の電極の最上面となる第2の面を備え、前記第1の面と前記第2の面は高低差のある段状に形成されていることを特徴とする荷電粒子線装置
【請求項7】
荷電粒子ビームを照射するためのビームカラムと、前記荷電粒子線が照射される試料を移動する試料ステージを備えた荷電粒子線装置において、
前記試料を吸着する試料吸着面と、当該試料吸着面と前記試料との間で吸着力を発生するための電圧が印加される第1の電極を有する静電チャック機構を備え、当該静電チャック機構は、前記第1の電極より下側に第1の面を有する第2の電極と、当該第2の電極に負電圧を印加する負電圧印加電源を備え、前記第2の電極は、前記第1の面を包囲すると共に前記試料吸着面より下側に位置する前記第2の電極の最上面となる第2の面を備え、前記第1の面と前記第2の面は、前記第1の電極から離れるほど高くなるスロープ状に形成されていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項6乃至のいずれか一項において、
前記荷電粒子ビームが照射される個所に応じて、前記第2の電極に印加する電圧を調整する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記試料の位置を検出する位置検出装置を備え、前記制御装置は、当該位置検出装置の位置検出結果に基づいて、前記第2の電極に印加する電圧を調整することを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック機構、及び荷電粒子線装置に係り、特に試料のエッジ近傍で発生する電界の影響を効果的に抑制し得る静電チャック機構、及び荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化は指数関数的に進歩しており、近年では数10nmオーダーの寸法で作られるデバイスが主流となっている。このような微細構造のデバイス製造ラインでは、微細パターンの寸法計測やデバイス上の欠陥を検査するために、走査型電子顕微鏡を応用した装置が使われている。たとえば、半導体デバイスのゲートやコンタクトホールの寸法測定には測長SEM(Critical−Dimension Scanning Electron Microscope:CD−SEM)が、欠陥検査には欠陥検査SEM等が用いられる。また、電位コントラストを利用し、配線用深穴の導通検査にも走査型電子顕微鏡が用いられるようになっている。
【0003】
走査電子顕微鏡等に代表される荷電粒子線装置では、対象となる試料(半導体ウェハ等)を保持するための保持機構として、静電チャック機構が用いられることがある。静電チャックは、内部に設けた金属電極に電圧を印加し、被吸着物と静電チャックの表面に正・負の電荷を発生させ、この間に働くクーロン力等によって被吸着物を固定するものである。一方、電子顕微鏡等の試料保持機構として、静電チャックを採用すると、試料と静電チャックの間に形成された強い電界が、ウエハ(試料)外周部の電位分布を乱す場合があり、結果として電子ビームが曲げられることになるため、ウエハ外周部近傍の適正な位置にビームが照射できなくなる可能性がある。特許文献1では、静電チャックの吸着電極をウエハよりも大きくして、ウエハからはみ出た部分が作り出す電界でウエハエッジ近傍の電界を均一化させる方法が開示されている。また、特許文献2には、試料の外周近傍に、試料表面と同じ高さの電界補正部品を配置する静電チャック機構が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5143787号(対応米国特許公開公報US2012/0070066)
【特許文献2】特開2009−302415号公報(対応米国特許公開公報US2009/0309043)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたウエハ外周より大きな径を持つ電極や、特許文献2に開示された電界補正部品によれば、ウエハ外周部に発生する電位分布の乱れを抑制することが可能となる。一方、発明者らの検討によって、静電チャックに試料を搭載したときに、その接触によって試料のエッジ近傍に帯電が発生する可能性のあることが明らかになった。更に、試料のエッジ近傍にビームを照射したときに発生する二次電子等が、静電チャックに付着することによる帯電も考えられる。このような帯電によってもビームが曲げられる可能性がある。
【0006】
特許文献1、2に記載されているような補正用の電極に電圧を印加することによっても、或る程度、ビームに対する電界の影響を緩和することができるが、上述のような複数種類の電界が複合する場合に、十分にその影響を抑制し得るものではなかった。
【0007】
以下に、試料のエッジ近傍で発生する種々の電界のビームへの影響を効果的に抑制することを目的とする静電チャック機構、及び荷電粒子線装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための一態様として、試料を吸着する試料吸着面と、当該試料吸着面と前記試料との間で吸着力を発生させるための電圧が印加される第1の電極を有する静電チャック機構であって、第1の電極より下側に第1の面を有する第2の電極と、当該第2の電極に負電圧を印加する負電圧印加電源を備え、前記第2の電極は、前記第1の面を包囲すると共に前記試料吸着面より下側に位置する前記第2の電極の最上面となる第2の面を備えている静電チャック機構、及び荷電粒子線装置を提案する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、試料のエッジ近傍で発生する種々の電界の影響を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】走査電子顕微鏡の概要を示す図。
図2】走査電子顕微鏡を用いた半導体ウエハの測定プロセスを示すフローチャート。
図3】リターディング電圧を印加したときの対物レンズ近傍の電位分布を示す図。
図4】リターディング電圧を印加したときの試料エッジ近傍の電位分布を示す図。
図5】リターディング電圧を印加したときに試料エッジ近傍で発生する電界を、静電チャックの吸着電極への電圧印加によって補正する例を示す図。
図6】試料と静電チャックとの接触等によって、静電チャックの吸着面に帯電が発生した様子を示す図。
図7】試料のエッジ近傍を静電チャックの吸着面と非接触にすると共に、吸着電極への電圧印加によって生ずる電界を補正する電極を備えた静電チャックの一例を示す図。
図8】試料のエッジ近傍を静電チャックの吸着面と非接触にすると共に、吸着電極への電圧印加によって生ずる電界を補正する電極を備えた静電チャックの他の一例を示す図。
図9】静電チャックの吸着面で発生した帯電を、試料がシールドしている様子を示す図。
図10】静電チャック内にシールド電極を設けた例を示す図。
図11】静電チャック外にシールド電極を設けた例を示す図。
図12】走査電子顕微鏡を用いた半導体ウエハの測定プロセスを示すフローチャート。
図13】走査電子顕微鏡を用いた半導体ウエハの測定プロセスを示すフローチャート。
図14】走査電子顕微鏡の概要を示す図。
図15】走査電子顕微鏡を用いた半導体ウエハの測定プロセスを示すフローチャート。
図16】電界を補正する電極への印加電圧と、試料位置との関係を示す図。
図17】静電チャック表面に段差を設け、下段側内部に補正電極を内在した例を示す図。
図18】試料、静電チャック、及び補正電極の位置関係を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に説明する実施例は、主に、半導体デバイスにおける微細パターンの線幅や穴径の計測、および半導体デバイス上の欠陥検査、画像取得をおこなう走査型電子顕微鏡に関するものである。まず、走査電子顕微鏡等の電子線応用装置の基本原理を簡単に説明する。電子銃から一次電子を放出させ、電圧を印加して加速する。その後、電磁レンズによって電子ビームのビーム径を細く絞る。この電子ビームを半導体ウエハ等の試料上に2次元的に走査する。走査した電子ビームが試料に入射することにより発生する二次電子を検出器で検出する。この二次電子の強度は、試料表面の形状を反映するので、電子ビームの走査と二次電子の検出を同期させてモニタに表示することで、試料上の微細パターンが画像化できる。たとえばCD−SEMでは、ゲート電極の線幅を測定する場合には、得られた画像の明暗の変化にもとづいてパターンのエッジを判別して寸法を導き出す。欠陥検査SEMの場合には、得られた画像から欠陥を認識して自動分類する。
【0012】
これら電子線応用装置は、半導体製造ラインにおける寸法測定・欠陥検査に使用されるため、分解能、測長再現性といった電子顕微鏡としての性能だけでなく、スループットが非常に重要となる。
【0013】
スループットを決定する要因は複数存在するが、特に影響が大きいのがウエハを積載しているステージの移動速度と画像を取得するときのオートフォーカスに要する時間である。
【0014】
また、測定や検査の対象となる半導体ウエハ等を保持する機構として、静電チャック機構がある。ウエハを静電チャックで安定的に固定することができれば、ウエハがステージからズレ落ちたりすることなく高加速度、高速度で搬送することが可能となる。また、静電チャックであればウエハ全面をほぼ均等な力で反りウエハなども平坦化して固定できるため、ウエハ面内の高さ分布が均一化しフォーカス合わせをするために対物レンズのコイルに流す電流値を決定する時間、すなわちオートフォーカス時間が短縮される。
【0015】
また、CD−SEMや欠陥検査SEMとして重要な性能のなかに、観察可能範囲、すなわちウエハ面内のどれだけ広い範囲を観察できるかをあらわす指標がある。半導体製造ラインでは、1枚のウエハから少しでも多くのチップを製造することで製造コストを抑えたいため、ウエハ外周部まで正しくデバイスの製造が出来ているかを検査するためにも、電子線応用装置に対し観察可能範囲は厳しく求められる。
【0016】
一方、静電チャックがウエハよりも大きい場合には、静電チャック表面に帯電が形成される場合がある。静電チャックは電気絶縁性の高いセラミックスで作られるため、ウエハと静電チャックとの間の接触や摩擦、また電子線の照射によって帯電が発生する場合がある。静電チャック上のウエハエッジ付近に形成された帯電は、ウエハエッジ付近の電界を乱すため、次に搬送されるウエハでエッジ付近を観察する際に電子線へ影響を与え、観察可能範囲が制限されてしまう場合がある。
【0017】
ウエハエッジ近傍の電界の乱れを抑制するために、吸着機能に加えて電界均一化機能を備えた電極を用いることも考えられるが、反ったウエハの矯正やウエハと静電チャック間の熱伝達の確保といった静電チャックとしての本来の機能との両立が難しい場合がある。さらに、静電チャックの吸着電極でウエハ表面の電界を制御しようとすると、ウエハ裏面と吸着電極間の電界が非常に強くなるため、電界を均一化する機能も耐圧の限界によって制限されてしまう。
【0018】
以下に説明する実施例では、静電チャックの内部電極および静電チャック上の帯電が電子線におよぼす影響を抑制し、かつウエハの吸着力や熱伝達との両立が容易で、耐圧による制限を受けにくい電界均一化技術を提案する。
【0019】
本実施例では、静電チャックの外径をウエハよりも小さくし、静電チャックの外側に導電性部材を設け、前記導電性部材に適切な電圧を印加する静電チャック機構、及びこれを用いた荷電粒子線装置について説明する。このような構成によれば、静電チャックの外径がウエハよりも小さいため、静電チャックの吸着電極の影響、および静電チャック上の帯電が作り出す電界の影響はウエハ自身によってシールドされるため、安定して観察可能範囲を確保することが可能となる。また、電界均一化機能を吸着電極とは独立に持たせているので、静電チャック本来の機能である吸着力および熱伝達特性との両立が容易である。さらに、導電性部材は真空空間によって絶縁を確保することができるので、耐圧による制限も受けにくくなる。
【0020】
次に図面を用いて、静電チャック機構の具体例を説明する。また、静電チャックの外径(ウエハとの接触面)をウエハよりも小さくすることの効果の説明のため、静電チャックの外径が試料より大きい例についても併せて説明する。
【0021】
図1図5は、静電チャック機構を備えた荷電粒子線装置の概要を示す図である。ここではCD−SEMを例に採って説明する。図1に装置全体図を示す。基本構成は、電子線を制御するカラム101、試料を保持する静電チャック105を載せたXYステージ104を含む試料室102、およびウエハを試料室内に搬入する前に真空排気を行う予備排気室103である。試料室102は図示しない真空ポンプによって排気される。また、CD−SEMは図示しない制御装置によって制御され、後述するような条件で静電チャックや周辺の電極への印加電圧が制御される。
【0022】
図2はCD−SEMによる測定工程を示すフローチャートである。ウエハはまず予備排気室に搬入され(ステップ201)、所定の圧力まで真空排気を行った後に(ステップ202)、試料室へ搬入される(ステップ203)。試料室へ搬入されたウエハは静電チャック上に載せられ(ステップ204)、静電チャックの内部電極に所定の電圧を印加して(ステップ205)、静電チャック上に吸着される。続いて、所定のリターディング電圧を印加した後に(ステップ206)、各測定点に移動し(ステップ207)、画像取得および測長処理を行う(ステップ208)。これを全ての測定点に対し繰り返し、全ての測定点の処理が完了したらウエハを搬出する(ステップ209)。
【0023】
図3に、ウエハ内側領域を観察している際の観察点付近の電界の様子を示す。301はウエハ、302は電子線を収束させるための電磁レンズ、破線303は等電位面である。観察中、静電チャックに内蔵された電極にリターディング電圧を印加することにより、ウエハ301はリターディング電位圧となり、対向する電磁レンズ302との間の空間は電子線の中心軸304に対し軸対称な電界が形成され、電子線は等電位面と垂直な軌道305を描いてウエハへ到達する。
【0024】
ウエハ内側領域では、ウエハ自身によって周囲からの電界がシールドされており、電子線の通過する領域は軸対称なまま保たれている。一方で、図4に示すように、ウエハ外周付近では、たとえばウエハ周囲に何も構造物が無い場合、ウエハ自身の段差になぞらえるように等電位面401に段差が生じるため、電子線の通過する領域における電界の軸対称性が崩れる。このとき、電子線の軌道402は等電位面の崩れによって曲げられるので、ウエハへの到達位置が所望の位置からずれてしまう。このずれ量が大きいと、所望のパターンが画像の視野からはずれてしまい、自動での観察が困難になる。したがって、この段差による影響が無視できなくなる範囲まで観察可能領域が狭まってしまう。
【0025】
このような電界の影響を抑制すべく、図5に示すように、ウエハよりも静電チャック501の外径が大きく、ウエハからはみ出た吸着電極502が作る電界によって段差による電界の落ち込みを押し戻し、なるべく外周まで電子線軌道503における電界504が軸対称に保たれるようにすることが考えられる。しかし、静電チャックの表面は絶縁性の高いセラミックスであるため、図6に示すように、ウエハとの接触や摩擦、またウエハ外周付近を観察した際の電子線の照射により帯電601が形成される。
【0026】
ここでは一例として静電チャックが正に帯電した場合の電界の様子を図示している。静電チャック上の帯電が作り出す電界は、電子線軌道602上における等電位面603の軸対称性をさらに崩し、観察可能範囲を狭めてしまう。このような静電チャック上の帯電も加味して適切な電圧を印加するという方法も考えられるが、通常絶縁物上の帯電は一様ではなく、極めて局所的に発生するので、帯電の計測および補正は困難である。そのため、ウエハよりも外径が大きい静電チャックでは、静電チャック上の帯電の影響が無視できる範囲まで観察可能領域が狭まってしまう。
【0027】
そこで、図7に例示するように、静電チャック701のウエハ702との吸着面を、ウエハ702の径より小さくすることによって、上述のような帯電の影響を抑制する。図7に例示する静電チャック701はウエハ702よりも外径が小さいことを特徴としており、静電チャック表面の帯電の影響をウエハ自身でシールドする。一方、ウエハ外周付近観察時の電界の乱れは、ウエハよりも外側に導電性部材703を設け、所定の電圧Vcを印加することで補正する。導電性部材703は、ウエハの下方向と側面方向の両方を取り囲む形状とし、ウエハ側面とのすき間dおよび導電性部材の高さh1を保って設置される。
【0028】
図18は、静電チャックを構成する構成要素の配置条件を、より詳細に説明する図である。静電チャック2の試料吸着面3は、試料1の接触側面より小さく形成されている。吸着電極4(第1の電極)は、静電チャック2内に内蔵され、クーロン力等を発生するために電圧が印加される。なお、図示していないが、吸着電極4には、試料1に照射される電子ビームを減速するためのリターディング電圧が印加される。また、試料吸着面3より相対的にZ方向に離間した位置に第1の電極面8を備え、電界補正用電源5に接続された電極6(第2の電極)が、静電チャック2に接続される。Z方向は電子ビームの光軸と同じ方向であって、この場合、試料吸着面3は、Z方向に直交するX−Y平面となる。更に試料1のエッジに接し、且つZ方向に延びる仮想直線7が通過するように、上記第1の電極面8が位置するように、電極6が形成される。
【0029】
静電チャック2の試料吸着面3の径を、試料1より小さくする理由は、上述したように、試料1のエッジ近傍で発生する帯電を抑制するためである。試料のエッジのすぐ脇に試料吸着面が存在すると、試料と試料吸着面間の摩擦等によって電荷が蓄積する可能性がある。また、試料のエッジ近傍にビームを照射することによって発生する電子等が、ランディングすることによって電荷が蓄積される可能性もある。このような電荷の蓄積を抑制すべく、試料のエッジ部分(エッジ部分の静電チャックとの接触面側)が、静電チャック搭載時に非接触となるように、試料吸着面の大きさを設定する。
【0030】
また、試料のエッジ部を非接触とすべく、試料吸着面を小さく形成すると、吸着電極4に印加される電圧によって生ずる電界が、エッジ側に向かって漏洩することが考えられる。このようなエッジ部分における漏洩電場の影響を効果的に抑制すべく、試料1のエッジの下方(仮想直線7が通過すると共に、試料吸着面3、及び吸着電極4より相対的に試料1から離間した位置)に第1の電極面8を持つ電極6を設置する。このような電極の配置条件によれば、試料1のエッジ側に向かう漏洩電場を抑制することができる。このような構成によれば、静電チャック3を基点として形成される等電位線を電極面8に向かって引き込むことができる。即ち、エッジに向かって漏洩する電場の量を抑制することができ、結果としてエッジ部分の電界の乱れに基づく、ビーム偏向を抑制することが可能となる。
【0031】
なお、図8に示すように、導電性部材801に階段状の段差を設けるようにしても良い。図8の例では、試料吸着面との差分がh1の電極面801、差分がh2の電極面802、差分がh3の電極面803が形成されている。図示の通り、各差分の関係は、h3>h2>h1である。このような構造とすれば、段差の高さ寸法h2と側面方向のすき間寸法dを調整することにより、下方向からの電界補正と側面方向からの電界補正の寄与率を調整することが可能となり、より補正電圧の適正化が行い易くなる。
【0032】
更に、図8、18に例示するように、電極面の高さが吸着電極4から離れるに従って、高くなるように補正電極を構成することによって、より正確に電界補正を行うことが可能となる。図18の例では、第2の電極面9が形成されており、電極面が、吸着電極から離れるに従って、対物レンズ側に近づくように形成されている。図8図18の例では、試料のエッジは他部材と非接触となっており、試料表面を伝う等電位線は、X−Y方向に試料から離れるに従って、下方(対物レンズから離れる方向)に向かう。試料のエッジ近傍にビームを照射する場合、等電位線は試料表面に平行に形成されていることが望ましい。よって、等電位線を試料表面と平行にすべく、補正前の等電位線の変化に逆行する等電位線を形成する電極として、吸着電極から離れるに従って、対物レンズに電極面が近づくような構造を採用する。
【0033】
図8、18に例示する構造によれば、エッジ部分の電位勾配を試料面と平行となるよう補正を行うことができる。また、階段状に形成するのではなく、スロープ状に形成するようにしても良い。
【0034】
図9は、試料より小さな吸着面を備えた静電チャックであって、試料のエッジ下方に電界補正用の電極を設けたときの試料外周の電界分布の一例を示す図である。導電性部材901に所定の補正電圧Vcを印加することにより、ウエハ自身の段差による等電位面903の落ち込みを押し戻し、電子線軌道904における電界を軸対称に保つ。静電チャック上の帯電905は静電チャックの外径がウエハよりも小さい場合も同様に発生するが、帯電905が作り出す電界は、ウエハ自身によってシールドされるため、電子線軌道上に影響を与えることは無い。このような構成とすれば、静電チャックの帯電の影響を受けることなく、測長可能範囲を拡大することが可能となる。また、補正電圧Vcを印加する導電性部材901も、電源を介して接地されているため帯電することは無い。
【0035】
また、導電性部材901を試料吸着面より下方に位置させることによって、例えば、試料がずれて搬送されてきたような場合に、静電チャック構造と試料の衝突のリスクを低減することが可能となる。尚、図7から図9では導電性部材の高さがウエハよりも低い位置に図示したが、ウエハと同一高さあるいはウエハよりも高くしてさらに補正効果を高めても良い。
【0036】
また、導電性部材は必ずしも静電チャックと別部品である必要はなく、導電性部材を静電チャック内部に埋め込んで一体化させても良い。たとえば図17に示すように、静電チャック1701のウエハ吸着部1702はウエハ外径よりも小さく保ったまま、静電チャック内部のウエハ外周部下方に、導電性部材1703を埋め込む構成とする。この時、ウエハ吸着部1702より外側の領域は該ウエハ吸着部よりも低くし、静電チャック表面とウエハとの距離1704を帯電の影響が無視できる程度に保つ。このような構成とすれば、静電チャック表面の帯電による影響を受けることなく電子線の軌道補正を行うことが可能となる。なお、本実施例では導電性部材の内径をウエハ外径よりも小さくしている。導電性部材の内径はウエハ外径より大きくても良いが、本実施例のように導電性部材の内径がウエハ外径よりも小さい場合には、第四の実施例で示すようなウエハの搬送ばらつきや電極とウエハとのすき間を考慮した電圧印加シーケンスは不要となり、より電子軌道補正が容易となる。
【0037】
更に、単に試料のエッジ部分を非接触にするためだけであれば、静電チャックの吸着面側に段差を設けるだけで、吸着電極と導電性部材1703に高低差を設ける必要はない。しかしながら、クーロン力等を極力大きくするためには、吸着電極と試料との間の間隔を小さくすることが望ましい。よって、図17に例示するように、静電チャック表面側の突出部に、吸着電極を内蔵させ、結果として吸着電極と導電性部材1703に高低差を設けることが望ましい。また、高さ方向(Z方向)に2つの電極が離間することになるため、X−Y方向に2つの電極を近接させたとしても、放電のリスクが高くなることはなく、より電界補正の効果を考慮した電極配置を行うことが可能となる。
【0038】
続いて、図10を用いて第二の実施例について説明する。第二の実施例では、第一の実施例に加え、静電チャック内部に、吸着電極1001の外側最外周にシールド電極1002(第3の電極)を設けたことを特徴とする。シールド電極1002は、ウエハと同一電圧であるリターディング電源1003に接続される。第一の実施例では、静電チャック表面の帯電の影響は、ウエハ外径よりも小さくしたことによりシールドされるが、静電チャックの吸着電極が作り出す電界もウエハ外周付近にまで多少の影響を与える。最外周の電極にウエハと同一電圧のリターディング電圧を印加すれば、吸着電極が作り出す電界1004をシールドすることが可能となる。しかし、このような構成とした場合、シールド電極の分だけ静電チャックの吸着領域が制限される。吸着領域も十分確保しつつ内部電極の影響をシールドしたい場合には、図11に示すように、静電チャックの内部ではなく、静電チャック1101と導電性部材1102の間に絶縁性部材1104を介してシールド部材1103を設けてもよい。このような構成とし、シールド部材にリターディング電圧1105を印加すれば、内部電極の電界の影響をシールドしつつ静電チャックの吸着領域を充分確保することが可能となる。尚、ここではシールド部材をESC(Electrostatic Chuck)とは別部材として説明したが、ESCの外周に導電性のコーティングを施すことでシールド部材を形成しても良い。
【0039】
図12に、第一の実施例および第二の実施例におけるCD−SEMの測定フローを示す。まず、試料室へウエハを搬入し、静電チャックおよびリターディング電圧を印加する(ステップ1201)。その後、導電性部材に所定の電圧Vcを印加する(ステップ1202)。このとき印加するべき電圧の値Vcは、導電性部材とウエハ側面の間のすき間d、導電性部材の高さh1、また段差がある場合には段差部の高さh2によって決まる最適な電圧値Vc(d,h1,(h2))を選択する。その後、各測定点での測長処理を実施し(ステップ1203)、測長処理が完了したらウエハを搬出する(ステップ1204)。このようなフローとすれば、ウエハ観察中は常に導電性部材に適切な電圧が印加されるので、ウエハ上のどこを測長するときも測定位置を意識することなく観察可能範囲を確保することが可能となる。
【0040】
次に、第三の実施例として、第一の実施例および第二の実施例に加え、さらに測長可能領域を拡大するCD−SEMの測定フローを説明する。ウエハエッジ付近の電界は、エッジに近づくにつれて段差部の電界の乱れの影響を受けやすくなる。そのため、観察位置のウエハエッジからの僅かな距離の差によって、補正電極に印加すべき最適な電圧は微妙に異なる。図13は、第三の実施例におけるCD−SEMの測定フローである。リターディング電圧印加後に一定の値として補正電圧Vcを印加するのではなく、各測定点(ビーム照射点)に移動毎にウエハ中心からの距離rを算出し、距離rに応じた最適な電圧Vc(d,h1,(h2),r)を導電性部材に印加する(ステップ1301)。こうようなフローとすることで、観察位置毎に最適な補正電圧を印加できるので、測長可能領域をさらに広げることが可能となる。また、測定毎の電圧再設定はステージ移動と並列して行うので、装置スループットを低下させることはない。
【0041】
続いて、第四の実施例について説明する。静電チャック上に置かれるウエハ位置は、静電チャック中心に対し搬送精度の誤差分だけばらつく。このばらつきは、ウエハエッジと静電チャック外側に設置された導電性部材のすき間に同様のばらつきを与える。導電性部材とウエハ中心がずれた場合、ウエハがずれた方向におけるウエハと導電性部材の間のすき間は比較的狭くなり、その反対側におけるすき間は比較的広くなるというように、ウエハ角度方向の場所によってすき間の大きさが異なってくる。図14および図15を用いて、このような搬送精度によるすき間のばらつきも補正できるようにしたCD−SEMおよび測定フローについて説明する。ウエハを試料室に搬入後、まず図14に示す光学式顕微鏡1401等の位置検出装置によりウエハ1402および導電性部材1403の間のすき間を複数箇所撮像し(ステップ1501)、画像処理によりウエハの位置ずれ量ΔxおよびΔyを算出する(ステップ1502)。各測定点(Xn,Yn)へ移動時(ステップ1503)は、ウエハ中心からの距離rだけでなく、位置ずれ量Δx,Δyによって決まる観察位置Xn, Yn方向のウエハと導電性部材のすき間d(Δx, Δy, Xn, Yn)に応じた最適補正電圧Vc(h1,(h2),r,d(Δx,Δy, Xn, Yn))を印加する(ステップ1504)。これら最適電圧Vcを決めるためのパラメータの位置関係を、図16に示す。
【0042】
ウエハ1601の位置ずれΔx,Δyおよび観察位置Xn,Ynによってきまるすき間d(Δx,Δy, Xn, Yn)と、ウエハ中心からの距離r、および導電性部材1602の高さh1,(h2)によって最適電圧Vcを決定する。このようなフローとすることで、ウエハ搬送ばらつきも考慮した補正が可能となり、観察可能範囲をさらに拡大させることが可能となる。尚、ここではウエハの位置ずれを光学式顕微鏡で行ったが、ラインセンサによって行っても良い。
【0043】
上述のような構成によれば、静電チャックを適用した走査型電子顕微鏡において、静電チャックの内部電極の影響、および装置運用中に蓄積した静電チャック上の帯電の影響を受けることなく、安定して観察可能範囲を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 試料
2 静電チャック
3 試料吸着面
4 吸着電極
5 電界補正用電源
6 電極
7 仮想直線
8 第1の面
9 第2の面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18