特許第6641217号(P6641217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6641217金属酸化物膜形成用塗布剤及び金属酸化物膜を有する基体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641217
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】金属酸化物膜形成用塗布剤及び金属酸化物膜を有する基体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/14 20060101AFI20200127BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20200127BHJP
   C23C 18/18 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   C01B13/14 Z
   C23C26/00 A
   C23C18/18
【請求項の数】9
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-68800(P2016-68800)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-178687(P2017-178687A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000120386
【氏名又は名称】株式会社JCU
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】三隅 浩一
(72)【発明者】
【氏名】コルドニエ クリストファー
【審査官】 印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−544938(JP,A)
【文献】 特開2014−167882(JP,A)
【文献】 特表2013−545316(JP,A)
【文献】 特開2014−238564(JP,A)
【文献】 特開2006−201800(JP,A)
【文献】 特開平06−085139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00
C23C 26/00
C01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤と、金属と、カテコール配位子と、を含有し、
前記溶剤が、下記の式(1)で表される化合物(A)を含有する、金属酸化物膜形成用塗布剤。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは下式(1−1)又は下式(1−2):
【化2】
で表される基である。式(1−1)中、Rは、水素原子又は水酸基であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基である。式(1−2)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。)
【請求項2】
感光性化合物を含有する、請求項1記載の塗布剤。
【請求項3】
溶剤と、金属と、感光性化合物と、を含有し、
前記溶剤が、下記の式(1)で表される化合物(A)を含有する、金属酸化物膜形成用塗布剤。
【化3】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは下式(1−1)又は下式(1−2):
【化4】
で表される基である。式(1−1)中、Rは、水素原子又は水酸基であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基である。式(1−2)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。)
【請求項4】
記溶剤の沸点が150〜190℃、20℃における表面張力が25〜35mN/m、蒸気圧が100℃で5〜15kPaである、請求項1〜3のいずれか一項記載の金属酸化物膜形成用塗布剤。
【請求項5】
前記金属が導電性を有する金属である、請求項1〜4のいずれか一項記載の塗布剤。
【請求項6】
前記化合物(A)が、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、又はN,N,N’,N’−テトラメチルウレアである、請求項1〜5のいずれか一項記載の塗布剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載の塗布剤を基体に塗布し、加熱して金属酸化物膜を形成する工程を備える、金属酸化物膜を有する基体の製造方法。
【請求項8】
前記基体が、微細孔を備えるインターポーザ基板を含み、
前記微細孔の孔表面が前記金属酸化物膜で被覆された、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
めっきの製造に用いられる、請求項7記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物膜形成用塗布剤及び金属酸化物膜を有する基体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶ディスプレイなどの電子機器等に金属酸化物膜が用いられており、この金属酸化物膜を形成する際には、有機溶媒が用いられている。有機溶媒としては、用途に応じて適宜選択されて用いられるが、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)や、N−メチルピロリドン(NMP)などが知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−207693号公報
【特許文献2】特許第5694265号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、世界的にグリーン調達・グリーン設計が求められており、環境負荷が低く、より安全な材料の使用が望まれている。例えば、欧州においては、電子・電気機器における特定有害物質の使用制限についての指定(RoHS指令)が施行されている。
【0005】
RoHS指令では、Pbなどの有害物質の規制を対象としているが、近年RoHS指令に加え、REACH規制への対応も求められている。REACH規制では、高懸念物質(SVHC:Substance of Very High Concern)を含む物質については、規制対象としており、例えば上述した有機溶媒であるDMAも規制対象としてリストアップされている。よって、DMAのような環境規制対象ではない有機溶剤を開発及び実用化することが急務となっている。
【0006】
さらに、上述した有機溶媒であるDMAの代替として、例えばNMPを用いた場合に、塗布する基体の形状によっては、DMAのようにコンフォーマルに塗布できないという問題もあった。
【0007】
したがって、本発明は、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)やN−メチルピロリドン(NMP)とは異なる有機溶剤を含有し、コンフォーマルな塗布性に優れた、金属酸化物膜形成用塗布剤及び金属酸化物膜を有する基体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を鑑み、鋭意検討を行った。その結果、DMAやNMPとは異なる有機溶剤を含有し、基体に対するコンフォーマルな塗布性に優れた、金属酸化物膜形成用塗布剤及び金属酸化物膜を有する基体の製造方法に係る、以下の(1)〜(9)の本発明を完成するに至った。
【0009】
(1)溶剤と、金属と、を含有し、溶剤が、下記の式(1)で表される化合物(A)を含有する、金属酸化物膜形成用塗布剤。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは下式(1−1)又は下式(1−2):
【化2】
で表される基である。式(1−1)中、Rは、水素原子又は水酸基であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基である。式(1−2)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。)
(2)溶剤と、金属と、を含有し、溶剤の沸点が150〜190℃、20℃における表面張力が25〜35mN/m、蒸気圧が100℃で5〜15kPaである、金属酸化物膜形成用塗布剤。
(3)金属が導電性を有する金属である、(1)又は(2)記載の塗布剤。
(4)配位子化合物を含有する、(1)〜(3)のいずれか記載の塗布剤。
(5)感光性化合物を含有する、(1)〜(4)のいずれか記載の塗布剤。
(6)化合物(A)が、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、又はN,N,N’,N’−テトラメチルウレアである(1)〜(5)のいずれか記載の塗布剤。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか記載の塗布剤を基体に塗布し、加熱して金属酸化物膜を形成する工程を備える、金属酸化物膜を有する基体の製造方法。
(8)基体が、微細孔を備えるインターポーザ基板を含み、微細孔の孔表面が金属酸化物膜で被覆された、(7)記載の製造方法。
(9)めっきの製造に用いられる、(7)記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)やN−メチルピロリドン(NMP)とは異なる有機溶剤を含有し、コンフォーマルな塗布性に優れた、金属酸化物膜形成用塗布剤及び金属酸化物膜を有する基体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態の金属酸化物膜形成方法のフローチャートである。
図2】第1実施形態の金属酸化物膜形成方法を説明するための断面図である。
図3】第2実施形態の金属酸化物膜パターン形成方法のフローチャートである。
図4】第2実施形態の金属酸化物膜パターン形成方法を説明するための断面図である。
図5】第3実施形態の無電解めっき形成方法のフローチャートである。
図6】第3実施形態の無電解めっき形成方法を説明するための断面図である。
図7】第4実施形態の無電解めっきパターン形成方法のフローチャートである。
図8】第4実施形態の無電解めっきパターン形成方法を説明するための断面図である。
図9】第4実施形態の無電解めっきパターン形成方法の変形例を示すフローチャートである。
図10】実施例1の金属酸化物膜形成用塗布剤を用い、基板及び貫通加工ガラスに塗布した際の顕微鏡写真である。
図11】比較例1の金属酸化物膜形成用塗布剤を用い、基板に塗布した際の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の記載によって限定的に解釈されるものではない。
【0013】
(金属酸化物膜形成用塗布剤)
本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤は、溶剤と、金属と、を含有し、溶剤が、下記の式(1)で表される化合物(A)を含有する、金属酸化物膜形成用塗布剤である。なお、本金属酸化物膜形成用塗布剤は、無電解めっき膜を形成する場合には「触媒溶液」(触媒前駆体膜形成用の溶液)と呼ぶ場合がある。
【化3】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基であり、Rは下式(1−1)又は下式(1−2):
【化4】
で表される基である。式(1−1)中、Rは、水素原子又は水酸基であり、R及びRは、それぞれ独立に炭素原子数1〜3のアルキル基である。式(1−2)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、又は炭素原子数1〜3のアルキル基である。)
【0014】
式(1)で表される化合物(A)のうち、Rが式(1−1)で表される基である場合の具体例としては、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド(DMIB)、N−エチル,N,2−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジエチル−2−メチルプロピオンアミド、N,N,2−トリメチル−2−ヒドロキシプロピオンアミド、N−エチル−N,2−ジメチル−2−ヒドロキシプロピオンアミド、及びN,N−ジエチル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオンアミド等が挙げられる。
【0015】
式(1)で表される化合物(A)のうち、Rが式(1−2)で表される基である場合の具体例としては、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア(TMU)、N,N,N’,N’−テトラエチルウレア等が挙げられる。
【0016】
上記の化合物(A)の例のうち、コンフォーマル性の観点から、特に好ましいものとしては、N,N,2−トリメチルプロピオンアミド、及びN,N,N’,N’−テトラメチルウレアが挙げられる。
【0017】
上記式(1)で表される化合物(A)は、NMPよりも沸点が低いという特徴を備える。NMPよりも沸点が低いことによって、より低温で蒸発しやすく、コンフォーマルな膜を形成しやすい傾向にある。また、沸点が所定の温度よりも高いことによって、膜が硬化する前に平滑化しやすくなり、コンフォーマルな膜を形成しやすい傾向にある。化合物(A)の沸点は、好ましくは150〜190℃であり、より好ましくは160〜190℃であり、さらに好ましくは170〜180℃である。例えば、N,N,2−トリメチルプロピオンアミドの大気圧下での沸点は175℃であって、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの大気圧下での沸点は177℃である。
【0018】
上記式(1)で表される化合物(A)は、表面張力が低いという特徴を備える。表面張力が低いことによって、ぬれ性が向上し、コンフォーマルな膜を形成しやすい傾向にある。化合物(A)の20℃における表面張力は、好ましくは、25〜35mN/mであり、より好ましくは27〜35mN/mであり、さらに好ましくは30〜35mN/mである。例えば、N,N,2−トリメチルプロピオンアミドの20℃における表面張力は31.9mN/mであって、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの20℃における表面張力は34.4mN/mである。
【0019】
上記式(1)で表される化合物(A)は、蒸気圧が高いという特徴を備える。蒸気圧が高いことによって、コンフォーマルな膜を形成しやすい傾向にある。化合物(A)の蒸気圧は、100℃で、好ましくは5〜15kPaであり、より好ましくは6〜15kPaであり、さらに好ましくは7〜15kPaである。例えば、N,N,2−トリメチルプロピオンアミドの蒸気圧は100℃で9kPaであって、N,N,N’,N’−テトラメチルウレアの蒸気圧は100℃で13.3kPaである。
【0020】
本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤の調製に用いる溶剤中の、前述の化合物(A)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。溶剤の質量に対する化合物(A)の比率は、典型的には、4質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、上限は特になく、化合物(A)の含有量が100質量%であってもよい。
【0021】
化合物(A)とともに使用することができる有機溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素極性溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びイソホロン等のケトン類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、及び酢酸−n−ブチル等のエステル類;ジオキサン、及びテトラヒドロフラン等の環状エーテル類;エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネート等の環状エステル類;トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が挙げられる。
【0022】
本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤は、溶剤と、金属と、を含有し、溶剤の沸点が150〜190℃、溶剤の表面張力が25〜35mN/m、溶剤の蒸気圧が100℃で5〜15kPaである、金属酸化物膜形成用塗布剤であってもよい。上述のとおり、溶剤の沸点、表面張力及び蒸気圧が上記範囲であることによって、塗膜をコンフォーマルに形成することが可能となる点で優れている。特に、表面に微細孔を有する基体に対しても、コンフォーマルな膜を形成することが可能となる。
【0023】
本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤において、金属は、後述するように、金属酸化物膜を形成する場合と、さらに無電解めっき膜等を形成する場合とによって異なっていてもよい。また、複数の金属を用いてもよい。
【0024】
金属は、例えば、B、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Po、Sb、Bi、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、V、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Zn、Cd、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどを用いることができる。金属は、導電性を有する金属であることが好ましい。例えば、金属としてInやSnを含有する場合、本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤を用いることによって、ITO電極を形成することができる。
【0025】
本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤は、配位子化合物を含有することが好ましい。配位子化合物は、金属(金属イオン)と反応することによって金属錯体を形成することができるものであれば特に限定されず、例えば、4−(2−ニトロベンジルオキシカルボニル)カテコール配位子(後述する式(10))や、4−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジルオキシカルボニル)カテコール配位子(後述する式(11))を用いることができる。また、プロトカテク酸エチル、4−シアノカテコール、4−メチルカテコールなどの配位子化合物を用いることもできる。
【0026】
本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤は、金属錯体を含有することが好ましい。金属錯体としては、例えば以下の式(2)又は式(3)に示す化合物を用いることが好ましい。
【0027】
【化5】
【0028】
【化6】
【0029】
式(2)及び式(3)におけるMは、金属原子である。
【0030】
式(2)におけるXは、下記(d1)〜(d10)のうちのいずれかから選択される。
【0031】
(d1)ヒドロキシド又はアルコキシド(例えば、エチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、カテコール誘導体、エトキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、α−ヒドロキシケトン類のシクロテン、マルトール)
(d2)カルボキシレート(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、エチルヘキサン酸塩、メトキシ酢酸、2−メトキシエトキシ酢酸)
(d3)β‐ケトネート(アセチルアセトナート)
(d4)金属と共有結合した有機部分
(d5)フッ酸塩、塩酸塩、臭酸塩、ヨウ酸塩
(d6)硝酸塩又は亜硝酸塩
(d7)硫酸塩又は亜硫酸塩
(d8)過塩素酸塩又は次亜塩素酸塩
(d9)リン酸塩
(d10)ホウ酸塩
【0032】
式(2)及び式(3)におけるR〜R12のうちの少なくとも1つは、式(4)〜式(7)のいずれかである。
【0033】
【化7】
【0034】
【化8】
【0035】
【化9】
【0036】
【化10】
【0037】
式(4)〜(6)におけるR21は、式(8)又は式(9)である。
【0038】
【化11】
【0039】
【化12】
【0040】
式(2)又は式(3)におけるR〜R13のうち、式(4)〜式(7)のいずれでもないもの、及び式(8)〜式(9)におけるR13〜R16は、それぞれ、下記(a1)〜(a14)のうちのいずれかである。
【0041】
(a1)H
(a2)C1〜C20の飽和又は非飽和アルキル基であって、C2n+1又はC2n−1−2xで表され、n=1〜20、x=0〜n−1の範囲である
(a3)アルキルアミン基
(a4)カルビノール基
(a5)アルデヒド又はケトン
(a6)COORで表され、R=C2m+1又はC2m−1−2y(m=0〜20、y=0〜m−1の範囲)である
(a7)F、Cl、Br、又はI
(a8)CN又はNO
(a9)ヒドロキシ又はエーテル類
(a10)アミン類
(a11)アミド類
(a12)チオ又はチオエーテル類
(a13)ホスフィン類又はリン酸類
(a14)環状基、ベンゾ、アゾル、オキサゾル、チアゾル、又はジオキソル
【0042】
式(7)におけるYは、下記(b1)〜(b5)のうちのいずれかである。
(b1)F、Cl、Br、又はI
(b2)オキソカルボニル基又はCHCOO−
(b3)アミド基又はCHCONH−
(b4)スルホニル基又はCHSO
(b5)ホスホリルオキシ基又はPhPOO−
【0043】
式(8)におけるR17〜R18及び式(9)におけるR17〜R20は、それぞれ、下記(c1)〜(c15)のうちのいずれかである。
(c1)H
(c2)C1〜C20の飽和又は非飽和アルキル基であって、C2n+1又はC2n−1−2xで表され、n=1〜20、x=0〜n−1の範囲である
(c3)カルビノール基
(c4)アルデヒド又はケトン
(c5)COORで表され、R=C2m+1又はC2m−1−2y(m=0〜20、y=0〜m−1の範囲)である
(c6)F、Cl、Br、又はI
(c7)CN又はNO
(c8)ヒドロキシ又はエーテル類
(c9)アミン類
(c10)アミド類
(c11)チオ又はチオエーテル類
(c12)ホスフィン類又はリン酸類
(c13)環状基、ベンゾ、アゾル、オキサゾル、チアゾル、又はジオキソル
(c14)アルキルアミン基
(c15)2−ニトロベンジル構造を含む基
【0044】
具体的なポジ型の第1金属の錯体、第2金属の錯体の組み合わせは、NBOC−CAT(式(10)と第1金属との錯体(例えば、式(12)、式(13))と、NVOC−CAT(式(11)と第2金属との錯体と、の組み合わせである。
【0045】
【化13】
【0046】
【化14】
【0047】
【化15】
【0048】
【化16】
【0049】
なお、式(2)又は式(3)で表される金属錯体が、露光前は現像液に対し不溶であるが、所定の波長の光を用いた露光により易溶となる理由は以下のように推測できる。式(2)又は式(3)で表される金属錯体は、2−ニトロベンジルアルコール誘導体がエステル結合により結合している構造を有する。この金属錯体は、現像液(特にアルカリ性現像液)に対し不溶である。露光工程において、この金属錯体を含む塗膜に、2−ニトロベンジルアルコール誘導体の部分が吸収するような紫外線を照射すると、エステル結合が切れ、2−ニトロソベンズアルデヒドと、カルボキシカテコール誘導体−金属錯体とが生成する。このカルボキシカテコール誘導体−金属錯体は、エステル結合が切断されて生成したカルボキシル基のために、アルカリ性現像液に易溶となる。よって、式(2)又は式(3)で表される金属錯体は、露光前はアルカリ性現像液に対し不溶であるが、所定の波長の光を用いた露光により易溶となる。
【0050】
また、式(2)又は式(3)で表される金属錯体を用いれば、高コントラストのパターンを得る。その理由は、以下のように推測できる。すなわち、露光した部分において生じるカルボキシカテコール誘導体−金属錯体は、化学的に安定で、錯体間の重合による不溶化などが起こらないので、金属水酸化物が放出される従来の錯体よりもコントラストが高いパターンを容易に得る。また、式(2)又は式(3)で表される金属錯体を用いれば、金属酸化物膜パターンにクラックが生じにくい。一般に、膜厚が厚いほどクラックは生じやすくなるが、式(2)又は式(3)で表される金属錯体を用いれば、クラックが生じにくいため、膜の膜厚を厚くする。式(2)又は式(3)で表される金属錯体を用いた場合にクラックが生じにくい理由は、以下のように推測できる。すなわち、式(2)又は式(3)で表される金属錯体は、錯体間でベンゼン環がスタックしやすいため、焼成の際に横方向の体積収縮が少なく、クラックができにくいという性質がある。
【0051】
式(2)又は式(3)で表される金属錯体において、金属に対する配位子(例えば式(10)、式(11)で表されるもの)のモル比は、0.1〜2の範囲が好ましい。このモル比が0.1以上であることにより、パターンのコントラストが一層高くなる。また、このモル比が2以下であることにより、還元工程後における膜の密度が低下してしまうようなことがない。上記のモル比は、特に、0.5〜1、又は2が好ましい。
【0052】
ネガ型錯体としては、例えば、β−ジケトン型の分子を配位子とする金属錯体が挙げられ、β−ジケトン構造を持つもの広く使用できる。具体的には、アセチルアセトン(式(14))を配位子とする錯体や、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン(式(15))を配位子とする錯体を使用できる。
【0053】
【化17】
【0054】
【化18】
【0055】
本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤は、感光性化合物を含有することが好ましい。感光性化合物を含有することによって、露光及び現像することができ、パターニング形成が可能となる傾向にある。感光性化合物としては、特に制限されないが、紫外線等の照射によって金属錯体成分のアルカリ溶液(例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液)に対する溶解性を高めるものが好ましく、キノンジアジド基含有化合物が好ましい。
【0056】
キノンジアジド基含有化合物としては、具体的には、フェノール性水酸基含有化合物と、ナフトキノンジアジドスルホン酸化合物(NQD)と、の完全エステル化物や部分エステル化物が挙げられる。
【0057】
上記フェノール性水酸基含有化合物としては、具体的には、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどのポリヒドロキシベンゾフェノン類;
【0058】
トリス(4−ヒドロシキフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−3−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)−2,4−ジヒドロキシフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(5−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(5−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−3−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(5−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−2−ヒドロキシフェニルメタン、ビス(5−シクロヘキシル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−3,4−ジヒドロキシフェニルメタン等のトリスフェノール型化合物;
【0059】
2,4−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンジル)−5−ヒドロキシフェノール、2,6−ビス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェノール等のリニア型3核体フェノール化合物;
【0060】
1,1−ビス〔3−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−ヒドロキシ−5−シクロヘキシルフェニル〕イソプロパン、ビス[2,5−ジメチル−3−(4−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−ヒドロキシフェニル]メタン、ビス[2,5−ジメチル−3−(4−ヒドロキシベンジル)−4−ヒドロキシフェニル]メタン、ビス[3−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンジル)−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル]メタン、ビス[3−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンジル)−4−ヒドロキシ−5−エチルフェニル]メタン、ビス[3−(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシベンジル)−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル]メタン、ビス[3−(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシベンジル)−4−ヒドロキシ−5−エチルフェニル]メタン、ビス[2−ヒドロキシ−3−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンジル)−5−メチルフェニル]メタン、ビス[2−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−5−メチルフェニル]メタン、ビス[4−ヒドロキシ−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−5−メチルフェニル]メタン、ビス[2,5−ジメチル−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−ヒドロキシフェニル]メタン等のリニア型4核体フェノール化合物;
【0061】
2,4−ビス[2−ヒドロキシ−3−(4−ヒドロキシベンジル)−5−メチルベンジル]−6−シクロヘキシルフェノール、2,4−ビス[4−ヒドロキシ−3−(4−ヒドロキシベンジル)−5−メチルベンジル]−6−シクロヘキシルフェノール、2,6−ビス[2,5−ジメチル−3−(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−ヒドロキシベンジル]−4−メチルフェノール等のリニア型5核体フェノール化合物、等のリニア型ポリフェノール化合物;
【0062】
ビス(2,3,−トリヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)メタン、2,3,4−トリヒドロキシフェニル−4’−ヒドロキシフェニルメタン、2−(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)−2−(2’,3’,4’−トリヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−2−(2’,4’−ジヒドロキシフェニル)プロパン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−2−(3’−フルオロ−4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−2−(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)−2−(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−(2,3,4−トリヒドロキシフェニル)−2−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−{1−[4−〔2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕フェニル]エチリデン}ビスフェノール等のビスフェノール型化合物;
【0063】
1−[1−(4−ヒドロキシフェニル)イソプロピル]−4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、1−[1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)イソプロピル]−4−[1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン、等の多核枝分かれ型化合物;
【0064】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の縮合型フェノール化合物等が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0065】
また、上記ナフトキノンジアジドスルホン酸化合物としては、ナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホン酸又はナフトキノン−1,2−ジアジド−4−スルホン酸等を挙げることができる。
【0066】
また、他のキノンジアジド基含有化合物、例えばオルトベンゾキノンジアジド、オルトナフトキノンジアジド、オルトアントラキノンジアジド又はオルトナフトキノンジアジドスルホン酸エステル類等のこれらの核置換誘導体、
【0067】
さらには、オルトキノンジアジドスルホニルクロリドと、水酸基又はアミノ基をもつ化合物(例えばフェノール、p−メトキシフェノール、ジメチルフェノール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ナフトール、ピロカテコール、ピロガロール、ピロガロールモノメチルエテール、ピロガロール−1,3−ジメチルエーテル、没食子酸、水酸基を一部残してエステル化又はエ−テル化された没食子酸、アニリン、p−アミノジフェニルアミン等)と、の反応生成物等も用いることができる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
キノンジアジド基含有化合物としては、好ましくは、下記式(16)又は(17)で表される化合物のキノンジアジドスルホン酸エステルである。
【0069】
【化19】
【0070】
【化20】
【0071】
(式(16)、(17)中、R、R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、置換または無置換の炭素数1〜5のアルキル基、置換または無置換の炭素数4〜8のシクロアルキル基を示す)
【0072】
特に、式(16)又は(17)で表わされる化合物のキノンジアジドスルホン酸エステルの中でも、下記式(18)で表わされる化合物のキノンジアジドスルホン酸エステルはより好ましく用いられる。
【0073】
【化21】
【0074】
前記式(16)、(17)または式(18)で表される化合物において、ナフトキノン−1,2−ジアジド−スルホニル基は、4位または5位にスルホニル基が結合しているものが好ましい。これら化合物は、組成物を溶液として使用する際に通常用いられる溶剤によく溶解し、ポジ型ホトレジスト組成物の感光性成分として使用すると、高感度で画像コントラスト、断面形状に優れ、かつ耐熱性にも優れる上、溶液として用いる場合に異物の発生のない組成物を与える。なお、前記式(16)または(17)で表される化合物のキノンジアジドスルホン酸エステルは、一種用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。この式(16)で表わされる化合物は、例えば1−ヒドロキシ−4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンとナフトキノン−1,2−ジアジド−スルホニルクロリドとをジオキサンのような溶媒中において、トリエタノールアミン、炭酸アルカリや炭酸水素アルカリのようなアルカリの存在下に縮合させ、完全エステル化または部分エステル化することにより製造することができる。また、この式(17)で表わされる化合物は、例えば1−[1−(4−ヒドロキシフェニル)イソプロピル]−4−[1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンとナフトキノン−1,2−ジアジド−スルホニルクロリドとをジオキサンのような溶媒中において、トリエタノールアミン、炭酸アルカリや炭酸水素アルカリのようなアルカリの存在下に縮合させ、完全エステル化または部分エステル化することにより製造することができる。なお、前記のナフトキノン−1,2−ジアジド−スルホニルクロリドとしては、ナフトキノン−1,2−ジアジド−4−スルホニルクロリドやナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホニルクロリドが好適である。
【0075】
(製造方法)
本実施形態の金属酸化物膜を有する基体の製造方法は、上記塗布剤を基体に塗布し、加熱して金属酸化物膜を形成する工程を備える、製造方法である。
【0076】
金属酸化物膜の膜厚は、10〜150nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましく、30〜60nmであることがさらに好ましい。
【0077】
本実施形態において、基体としては、石英、ガラス、シリコンウェハー、プラスチック(PC(ポリカーボネート),PET(ポリエチレンテレフタレート),PEN(ポリエチレンナフタレート),PI(ポリイミド)等)等の基板を用いることができる。基体は、微細孔を基体の主面上に備えるインターポーザ基板を含み、微細孔の孔表面が金属酸化物膜で被覆されていることが好ましい。上述のとおり、本実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤は、沸点及び表面張力が低く、蒸気圧が高いという特徴を有している。このため、表面上に微細孔が形成された基体であっても、金属酸化物膜をコンフォーマルに形成できる。
【0078】
本実施形態の金属酸化物膜を有する基体の製造方法は、めっきの製造に用いられることが好ましい。その中でも、無電解めっきの製造に用いられることが好ましい。無電解めっきの製造においては、めっき膜の形成前に基体の表面に触媒膜を形成するところ、本実施形態の方法を用いることによって、触媒膜を基体表面上に形成し、その触媒膜上に無電解めっき膜を形成することができる。
【0079】
無電解めっき膜の形成には、いくつかの方法が考えられる。以下、第1の製造方法〜第3の製造方法を例示する。
【0080】
無電解めっき膜の第1の製造方法としては、例えば、
第1の金属(M1)を有する有機化合物と、第2の金属(M2)を有する化合物と、を含有する触媒溶液を基体に塗布し、塗布膜を形成する工程と、
塗布膜を加熱し、触媒前駆体膜にする工程と、
触媒前駆体膜を還元し、触媒膜にする工程と、
無電解めっき反応により、触媒膜上に第4の金属(M4)を含有する無電解めっき膜を形成する工程と、を備え、
第2の金属は、無電解めっき反応において触媒となる金属であり、
第1の金属は、無電解めっき反応において触媒とならない金属であり、第2の金属と異なる金属である、めっき製造方法である。
【0081】
無電解めっき膜の第2の製造方法として、例えば、
第1の金属(M1)を有する有機化合物と、第2の金属(M2)を有する化合物と、を含有する触媒溶液を基体に塗布し、塗布膜を形成する工程と、
塗布膜を加熱し、触媒前駆体膜にする工程と、
触媒前駆体膜を還元する工程と、
還元された触媒前駆体膜における第2の金属を第3の金属(M3)に置換し、触媒膜にする工程と、
無電解めっき反応により、触媒膜上に第4の金属(M4)を含有する無電解めっき膜を形成する工程と、を備え、
第3の金属は、無電解めっき反応において触媒となる金属であり、
第1の金属は、無電解めっき反応において触媒とならない金属であり、第2の金属及び前記第3の金属と異なる金属である、めっき製造方法である。
【0082】
また、無電解めっき膜の第3の製造方法として、例えば、
第1の金属(M1)を有する有機化合物を含有する触媒溶液を基体に塗布し、塗布膜を形成する工程と、
塗布膜を加熱し、第3の金属(M3)を付与して触媒膜にする工程と、
無電解めっき反応により、触媒膜上に第4の金属(M4)を含有する無電解めっき膜を形成する工程と、を備え、
第3の金属は、無電解めっき反応において触媒となる金属である、
第1の金属は、無電解めっき反応において触媒とならない金属であり、第3の金属と異なる金属である、めっき製造方法である。
【0083】
上記第1〜第3の製造方法において、パターン形成を行うには、触媒溶液に配位子化合物、感光性化合物を含有することが好ましい。配位子化合物、感光性化合物を含有する触媒溶液を感光性金属錯体溶液として、塗布後に露光、現像することにより、パターン形成を行うことが可能となる。感光性金属錯体溶液は、形成される金属酸化物膜の厚みが30nm〜60nmとなるように、塗布することが好ましい。感光性金属錯体溶液の塗布後の乾燥は例えば100℃で行う場合には5〜50分で行うことが好ましい。露光量は、金属酸化物膜の厚みが500nmとなる場合には、100〜200mJ/cmであることが好ましい。現像は、0.1〜0.25重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)又はテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)を用い、常温で20〜30秒間行うことが好ましい。
【0084】
以下に図面を用いて本実施形態をさらに説明する。
【0085】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の金属酸化物膜形成方法のフローチャートである。図2は、第1実施形態の金属酸化物膜形成方法を説明するための断面図である。
【0086】
<ステップ1>
ステップ1では塗布剤となる溶液の準備が行われる。塗布剤として、溶剤と、金属と、を含有する溶液を調製すればよい。溶剤としては、上述のとおり、式(1)で表される化合物(A)を含有する溶剤であり、特にN,N,2−トリメチルプロピオンアミド、又はN,N,N’,N’−テトラメチルウレアが好ましい。金属は、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La−Lu、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Zn、Al、In、Si、Ge、Sn、Cu、Fe、Co、Ni、Pd、Au、又は、Ptなどから選択される金属であり、金属を含む有機化合物を用いてもよい。
【0087】
ステップ1により、実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤として、以下の組成の溶液を得た。
チタン(IV)テトライソプロポキシド 59.2mL
プロトカテク酸エチル 72.9g
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL
乳酸エチル 500mL
【0088】
<ステップ2>
ステップ2として、塗布処理が行われる。具体的には、ステップ1で得た金属酸化物膜形成用塗布剤をホウケイ酸ガラスからなる基体1の表面上に、スピンコート法などにより塗布し、塗布膜2が成膜される(図2(A)参照)。
<ステップ3>
ステップ3として硬化処理が行われる。硬化処理は、例えば熱処理であり、ホットプレートを用いて行うことができる。熱処理の温度は250〜550℃であることが好ましく、熱処理の時間は10〜120分であることが好ましい。図2(B)に示すように、熱処理により、溶剤が蒸発するとともに塗布膜2は硬化し、金属酸化物膜3となる。
【0089】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態の金属酸化物膜パターン形成方法のフローチャートである。図4は、第2実施形態の金属酸化物膜形成方法を説明するための断面図である。
【0090】
<ステップ4>
ステップ4では塗布剤となる溶液の準備が行われる。塗布剤として、溶剤と、金属と、配位子化合物と、感光性化合物とを含有する溶液を調製すればよい。溶剤としては、上述のとおり、式(1)で表される化合物(A)を含有する溶剤であり、特にN,N,2−トリメチルプロピオンアミド、又はN,N,N’,N’−テトラメチルウレアが好ましい。金属は、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La−Lu、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Zn、Al、In、Si、Ge、Sn、Cu、Fe、Co、Ni、Pd、Au、又は、Ptなどから選択される金属であり、金属を含む有機化合物を用いてもよい。感光性化合物は、NQDエステルの化合物を用いてもよい。
【0091】
ステップ4により、実施形態の金属酸化物膜形成用塗布剤(パターン形成用)として、以下の組成の溶液を得た。
チタン(IV)テトライソプロポキシド 59.2mL
プロトカテク酸エチル 72.9g
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL
乳酸エチル 500mL
NQDエステル NQD基として0.1mmoL/L
【0092】
<ステップ5>
ステップ5として塗布処理が行われる。具体的には、ステップ4で得た金属酸化物膜形成用塗布剤をホウケイ酸ガラスからなる基体1の表面上に、スピンコート法などにより塗布し、塗布膜2が成膜される。
【0093】
<ステップ6>
ステップ6として乾燥処理が行われる。塗布膜2の金属は、安定した金属錯体を形成している。このため、80〜110℃で1〜50分の乾燥処理により、塗布膜2中の溶剤が蒸発する。
【0094】
<ステップ7>
ステップ7として、パターニング工程(露光工程)が行われる。図4(B)に示すように、例えば水銀ランプなどの光源により、フォトマスク4を介して、パターン露光されると、露光領域2Aが形成される。露光領域2Aは、アルカリ現像液に対し易溶な状態に変化している。
【0095】
<ステップ8>
ステップ8として、パターニング工程(現像工程)が行われる。図4(C)に示すように、アルカリ現像液を用いて現像されると、露光領域2Aが溶解され、塗布膜2がパターニングされる(塗布膜2b)。
【0096】
<ステップ9>
ステップ9として硬化処理が行われる。図4(D)に示すように、250〜550℃で10〜120分の熱硬化処理が行われると、塗布膜2b中の金属錯体が分解し、塗布膜2bが金属酸化物膜3bになる。これにより、金属酸化物膜パターンが形成される。
【0097】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態の無電解めっき形成方法のフローチャートである。図6は、第3実施形態の無電解めっき形成方法を説明するための断面図である。
【0098】
<ステップ10>
ステップ10では、最初に触媒膜を形成するための触媒溶液が調製される。触媒溶液は、無電解めっき反応の触媒とならない第1金属M1の有機化合物と、無電解めっき反応の触媒となる第2金属M2の化合物と、を含む。
【0099】
第1金属M1としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La−Lu、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Zn、Al、Si、又は、Snを用いてもよい。第2金属M2としては、Ru、Co、Rh、Ni、Pt、Cu、Ag、又はAuを用いてもよい。なお、無電解めっきの触媒として多用されているPdは、生体適合性及びコストの観点から、本実施形態では好適には用いられない金属である。しかし、Pdを用いてもよい。
【0100】
例えば、第1金属M1として、チタン(Ti)を選択した場合に、有機化合物としては、チタンテトライソピロポキシドに代表されるチタンアルコキシドを用いてもよい。チタンアルコキシドとしては、チタンテトライソプロポキシド、テトラブトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、これらの2量体、3量体、4量体等の縮合物からなるアルコキシド、チタニルビスアセチルアセトネート、ジブトキシチタニウムアセチルアセトネート、イソプロポキシチタニウムトリエタノールアミナート等のキレート、チタニウムステアレート、チタニウムオクチレート等の有機酸塩等が挙げられる。これらのチタンの有機化合物は室温で液体又は固体である。
【0101】
一方、第2金属M2として、金(Au)を選択した場合に、化合物としては、塩化金酸ナトリウムに代表されるAu無機塩を用いてもよい。Au無機塩としては、塩化金酸、臭化金、テトラクロロ金、亜硫酸金、水酸化金、水酸化金酸ナトリウム(Au(OH)Na)、酢酸金、チオプロニン−金(I)錯体又は、これらのナトリウム塩もしくはカリウム塩等が挙げられる。
【0102】
一方、第2金属M2として、銀(Ag)を選択した場合に、化合物としては、硝酸銀に代表されるAg無機塩を用いてもよい。Ag無機塩としては、塩化銀、臭化銀、酢酸銀、硫酸銀、又は、炭酸銀等が挙げられる。
【0103】
なお、第2金属M2として、銅(Cu)を選択した場合には、Cuイオンの溶解性改善のため、2−メトキシエトキシ酢酸に代表される金属イオン可溶有機溶剤を含むことが好ましい。
【0104】
第3実施形態においては、第1金属M1がTiであり、第2金属M2がCuであり、第4金属M4がCuであることが、Pdを使わずに無電解銅めっきを形成できる点で好ましい組み合わせである。
【0105】
実施形態の触媒溶液としては、以下に示す組成のTiAu溶液が調製された。
チタン(IV)テトライソプロポキシド:Ti(OPr) 18mmol
4−(2−ニトロベンジルオキシカルボニル)カテコール配位子 36mmol
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 80mL
塩化金酸ナトリウム2水和物 2mmol
水 1mL
【0106】
<ステップ11>
図6(A)に示すように、ホウケイ酸ガラス(テンパックス:ショット社製)からなる基体11に、スピンコート法により触媒溶液が塗布され、塗布膜12が成膜される。
【0107】
<ステップ12>
ステップ12として、塗布膜12の硬化処理が行われる。硬化処理は、例えば、熱処理でありホットプレートを用いて、170℃、60分間行われることが好ましい。図6(B)に示すように、熱処理により、溶剤が蒸発するとともに塗布膜12は硬化し、触媒前駆体膜13となる。ここで、硬化とは、第1金属の有機化合物(チタンテトライソプロポキシド)が分解して、金属酸化物(酸化チタン)になる反応である。なお、170℃の熱処理で生成する酸化チタンは、光触媒性のある結晶性の高い構造ではなく、光触媒性のないアモルファスであることが好ましい。熱処理温度は、100℃〜400℃の範囲で適宜選択される。
【0108】
触媒前駆体膜13は、第1金属の酸化物が無機バインダとしての機能を有するため、基体11への密着性が極めて高い。なお、触媒前駆体膜13は比表面積が大きい多孔質とすることが好ましい。溶剤蒸発及び第1金属の有機化合物の分解反応等によって発生する気体により、触媒前駆体膜13を多孔質にすることができる。
【0109】
<ステップ13>
ステップ13として、触媒前駆体膜13は、還元剤である水素化ホウ素ナトリム(SBH)を、2g/L含有する水溶液(50℃)に2分間、浸漬されることが好ましい。還元剤としては、次亜リン酸、ヒドラジン、水素化ホウ素、ジメチルアミンボラン、テトラヒドロホウ酸等を用いることができる。
【0110】
還元処理により、イオン状態の第2金属M2が、触媒機能のある金属微粒子15に還元される。水溶性還元剤を用いた還元処理では、無電解めっき触媒となる貴金属である第2金属の酸化物は還元されるが、酸化チタン等の第1金属の酸化物は、上記還元剤では還元されず酸化物のままである。
【0111】
図6(C)に示すように、触媒前駆体膜13は、酸化チタンからなる無機酸化物層に、触媒機能を有するAu微粒子が担持した状態の触媒膜14になる。すなわち、無電解めっき反応の触媒とならない第1金属の無機酸化物層に、無電解めっき反応の触媒となる第2金属の微粒子が担持した触媒膜14が形成される。
【0112】
なお、多孔質の触媒前駆体膜13は、比表面積が大きく、多くの第2金属のイオンが表面に露出している。多くの第2金属のイオンが金属微粒子15に還元されるため、多孔質の触媒前駆体膜13から作製される触媒膜14は触媒能力が高い。
【0113】
<ステップ14>
図6(D)に示すように、触媒膜14が形成された基体11が、無電解めっき浴に浸漬されると、第3金属M3からなる無電解めっき膜16が、触媒膜14上に成膜される。無電解めっき浴には、第3金属M3のイオンと還元剤とを含む公知の各種の組成を用いることできる。
【0114】
第3金属M3としては、Ru、Co、Rh、Ni、Pt、Cu、Ag、又はAuを用いることができる。なお、第2の金属M2と第3金属M3とは、同じあることが好ましい。
【0115】
以下に例示する無電解金めっき浴Aを用いた場合には、第2の金属M2及び第3金属M3は、Auである。
【0116】
<めっき浴A>
チオプロニン−金錯体(テトラマー) 0.91g/L(金として0.5g/L)
リン酸の2カリウム塩 15g/L
ニコチン酸 2.5g/L
3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール 2.5g/L
PEG1000(和光純薬工業(株) 和光一級(165−09085) 0.05g/L(界面活性剤)
アスコルビン酸 9g/L(還元剤)
浴温:70℃
pH:6(水酸化カリウムと硫酸で調整)
【0117】
第3実施形態の無電解金めっき膜16は、高い密着強度を示した。また、無電解金めっき膜16に対して第2の金属M2及び第3金属M3をAgとして成膜した無電解銀めっきも、無電解金めっき膜16と略同等の高い密着強度を示した。
【0118】
(第4実施形態)
図7は、第4実施形態の無電解めっきパターン形成方法のフローチャートである。図8は、第4実施形態の無電解めっきパターン形成方法を説明するための断面図である。
【0119】
第4実施形態においては、第1金属M1がTi、第2金属M2がCu、第3金属M3がPd、第4金属M4がCu又はNiであることが好ましい組み合わせである。これにより、触媒活性を向上させることができ、第4金属M4の選択肢も増やすことが可能となる。
【0120】
<ステップ20>
ステップ20では、第4実施形態の触媒溶液として、以下に示す組成のTiCu溶液が調製された。
【0121】
1)感光性TiCu(A−1)
プロトカテク酸エチル(配位子) 250mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 175mmol/L
酢酸銅(II)(M2) 75mmol/L
メトキシエトキシ酢酸 110mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
【0122】
<ステップ21>
図8(A)に示すように、触媒溶液が、ホウケイ酸ガラス(テンパックス:ショット社製)からなる基体21に、スピンコート法により塗布されることが好ましい。
【0123】
<ステップ22>
塗布膜22の金属は、安定した金属錯体を形成している。このため、100℃60分間の熱処理は、主として溶剤を蒸発させる乾燥処理であることが好ましい。
【0124】
<ステップ23>
ステップ23として、パターニング工程(露光工程)が行われる。図8(B)に示すように、水銀ランプなどの光源により、フォトマスク31を介して、パターン露光されると、露光領域22Aが形成される。露光領域22Aは、アルカリ現像液に対し易溶な状態に変化している。
【0125】
<ステップ24>
ステップ24として、パターニング工程(現像工程)が行われる。図8(C)に示すように、アルカリ現像液を用いて現像されると、露光領域22Aが溶解され、塗布膜22がパターニングされる。
【0126】
<ステップ25>
ステップ25として硬化処理が行われる。図8(D)に示すように、300℃60分間の熱硬化処理が行われると、金属錯体が分解し、塗布膜22が触媒前駆体膜23になる。触媒前駆体膜23では、第1金属酸化物からなる無機バインダ中に第2金属M2イオンが分散した構造となることが好ましい。
【0127】
<ステップ26>
ステップ26として、触媒前駆体膜23は、還元剤であるテトラヒドロホウ素ナトリム(SBH)を、2g/L含有する水溶液(50℃)に2分間、浸漬されることが好ましい。すると、図8(E)に示すように、触媒前駆体膜23は、第2金属M2イオンが還元処理され、金属微粒子25を含む触媒膜24となる。
【0128】
<ステップ27>
無電解銅めっき浴(荏原ユージライト製:PB−506)を用いて、無電解銅めっき膜26が成膜される。すなわち、第3金属M3として銅(Cu)が、第2金属M2の銅からなる金属微粒子25を触媒として成膜される。
【0129】
図9は、第4実施形態の無電解めっきパターン形成方法の変形例を示すフローチャートである。図9に示す無電解めっきパターン形成方法は、上述の無電解めっき膜の第2の製造方法に相当しており、ステップ26の還元処理後に、還元された触媒前駆体膜(触媒膜)における第2の金属を第3の金属に置換するステップ26Bの工程を備えている。当該置換工程を有することによって、無電解めっきに含まれる金属に対して触媒活性の高い金属に置き換えることが可能となる。これにより、基体に対してより密着性の高い無電解めっきを形成できる。
【0130】
また、上述した無電解めっき膜の第3の製造方法としては、図示していないが、第1の金属(M1)を有する有機化合物を含有する触媒溶液を基体に塗布し、塗布膜を形成するステップと、塗布膜を焼成するステップと、第3の金属(M3)を付与して触媒膜にするステップと、無電解めっき反応により、触媒膜上に第4の金属(M4)を含有する無電解めっき膜を形成するステップと、を備えることが好ましい。塗布膜の焼成は、300〜700℃で行うことが好ましい。また、第1の金属がTiの場合には、塗布膜を1MのKOH水溶液に50℃で30秒〜3分程度浸漬させるなど、アルカリ処理をしてもよい。また、クリーナー/コンディショナー(JCU社製PB−102)処理を実施してもよい。第3の金属(M3)を付与した触媒膜に、還元処理をしてもよい。また、無電解めっき膜が通電している場合には、電解めっきにより厚付けしてもよい。電解めっき膜の密着が低下した場合、焼成処理を実施すると強い密着が得られる。無電解めっき膜と電解めっき膜とは、第4の金属が銅の場合には、300〜500℃で焼成すると、0.4〜0.6kN/mまで90°ピール強度を上げることができる点で好ましい。
【0131】
無電解めっき膜の第3の製造方法においては、第1金属M1がTi、第3金属M3がPd、第4金属M4がCu又はNiであってもよい。一方、第1金属M1がTi、第3金属M3がAu又はPt、第4金属M4がAuであること、もしくは、第1金属M1がTi、第3金属M3がPt、第4金属M4がPtであることは、Pdを使わずに生体適合性に優れた無電解銅めっきを形成できる点で好ましい組み合わせである。
【0132】
以下に、感光性金属錯体溶液の配合の一例を示す。なお、以下の1)〜8)の感光性金属錯体溶液は、上記第1の製造方法、第2の製造方法で用いられることが好ましい。また、9)〜10)の感光性金属錯体溶液は、上記第3の製造方法で用いられることが好ましい。
【0133】
1)感光性TiCu(A−1)
プロトカテク酸エチル(配位子) 250mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 175mmol/L
酢酸銅(II)(M2) 75mmol/L
メトキシエトキシ酢酸 110mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
2)感光性TiCu(A−2)
プロトカテク酸エチル(配位子) 385mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 175mmol/L
酢酸銅(II)(M2) 75mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 87.5mmol/L
3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン 87.5mmol/L
3)感光性TiCu(B)
4−シアノカテコール(配位子) 250mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 175mmol/L
酢酸銅(II)(M2) 75mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
4)感光性TiCu(C)
4−メチルカテコール(配位子) 250mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 175mmol/L
酢酸銅(II)(M2) 75mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
5)感光性TiCu(D)
プロトカテク酸エチル(配位子) 250mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 175mmol/L
酢酸銅(II)(M2) 75mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
6)感光性NbCu
プロトカテク酸エチル(配位子) 250mmol/L
ニオブイウム(V)ペンタエトキシド(M1) 175mmol/L
酢酸銅(II)(M2) 75mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
7)感光性TiNi
プロトカテク酸エチル(配位子) 250mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 175mmol/L
酢酸ニッケル(II)(M2) 75mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
8)感光性TiCo
プロトカテク酸エチル(配位子) 250mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 175mmol/L
酢酸コバルト(II)(M2) 75mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
9)感光性Ti
プロトカテク酸エチル(配位子) 250mmol/L
チタン(IV)テトライソプロポキシド(M1) 250mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
10)感光性Nb
プロトカテク酸エチル(配位子) 300mmol/L
ニオビウム(V)ペンタエトキシド(M1) 250mmol/L
NQDエステル NQD基として100mmol/L
N,N,2−トリメチルプロピオンアミド 250mL/L
γ−ブチロラクトン 80mL/L
乳酸エチル 400mL/L
トリエタノールアミン 175mmol/L
エチレングリコールシランオリゴマー 87.5mmol/L(Siとして)
【0134】
上記例示された1)〜10)の感光性金属錯体溶液について、N,N,2−トリメチルプロピオンアミドは、上記式(1)の化合物(A)である他の溶剤でもよい。また、1)〜10)の感光性金属錯体溶液全体が容量1Lになるように、乳酸エチルの量で調整してもよい。プロトカテク酸エチルは、200〜500mmol/Lでもよい。NQDエステルは、NQD基として90〜120mmol/Lでもよい。NQDエステルは、4,4’−{1−[4−〔2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕フェニル]エチリデン}ビスフェノールの水酸基がすべてNQD基で置換された化合物(40g/L)又はNQD−ドパミン(N,O,O−tris−(1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホナト)−2−(3,4−ジヒドロキシフェニル)エチルアミン)(30g/L)でもよい。
【実施例】
【0135】
以下、本発明の実施例を記載する。なお、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0136】
(実施例1)
1.成膜処理:
金属酸化物膜が約45nmになるように基板(Schott社製TEMPAX)に感光性金属錯体塗布液(感光性TiCu(A−1))をスピンコートし、100℃で10分間乾燥して感光性金属錯体膜を形成した。
貫通VIA加工ガラスは、メチルエチルケトン:感光性TiCu(A−1)の容量割合を4:1とした溶液にディップコートし、感光性金属錯体膜を形成した。
感光性TiCu(A−1)に含まれる溶剤であるN,N,2−トリメチルプロピオンアミドの沸点は175℃、表面張力は31.9mN/m、蒸気圧は100℃で9kPaである。
また、感光性TiCu(A−1)に含まれるNQDエステルは、4,4’−{1−[4−〔2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕フェニル]エチリデン}ビスフェノールの水酸基がすべてNQD基で置換された化合物である。
2.パターン形成:
平行光露光機(ウシオ電機製、Multilight)、光源(ウシオ電機製、USH−250BY/D−z1、5mW/cm at λ=313nm)を用い、150mJ/cmの露光量を照射した。露光後、0.25%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用い、30秒間現像した。
3.焼成処理:
パターンが形成された基板及び加工ガラスを、電気炉で400℃、1時間焼成した。
4.還元処理:
焼成された、パターン形成された基板及び加工ガラスを、2g/LのNaBH(pH12)30℃水溶液に5分浸漬し、金属酸化物膜内のCu酸化物を金属Cuに還元した。
5.置換処理(触媒活性強化):
還元処理後のパターン形成された基板及び加工ガラスを、300mg/LのPdCl30℃水溶液に5分浸漬し、金属Cuを金属Pdに置換した。
6.無電解銅めっき:
無電解銅めっき液(JCU社製、PB−506)に、置換処理後のパターン形成された基板及び加工ガラスを浸漬し、酸化Ti/金属Cu/金属Pdパターン膜に0.15μmのCu膜を析出した。無電解銅後、120℃で10分乾燥した。これにより、無電解銅メッキを形成した。
7.密着力評価:
めっき膜の密着力を評価するために、露光・現像の工程を省略し、電解銅めっき(JCU社製、CU BRITE 21)で15μm銅箔を形成し、窒素炉に400℃で1時間焼成し、90°ピール試験を行った(JIS規格H8630)。密着力は0.5kN/mであり、優れていた。
【0137】
(比較例1)
感光性金属錯体塗布液における溶剤について、N,N,2−トリメチルプロピオンアミドをNMP(沸点202℃、表面張力40.79、蒸気圧が20℃で0.04kPa)に置き換えた以外は、実施例1と同様にしてめっき膜の形成を行った。
【0138】
図10は、実施例1の金属酸化物膜形成用塗布剤を用い、基板及び貫通加工ガラスに塗布した際の顕微鏡写真である。図10(a)、(b)に示すとおり、実施例1においてはパターンが精密に形成されており、図10(c)のとおり貫通加工ガラスにもコンフォーマルに形成されていた。
【0139】
図11は、比較例1の金属酸化物膜形成用塗布剤を用い、基板に塗布した際の顕微鏡写真である。NMPを用いた場合、図11(a)、(b)に示すとおり、パターン形成されていた。しかし、貫通加工ガラスの表面にめっき膜を形成できなかった。
【符号の説明】
【0140】
1、11、21・・・基板(基体)
2、12、22・・・塗布膜
3、13・・・金属酸化物膜
3b、23・・・金属酸化物膜パターン
4、31・・・フォトマスク
14・・・触媒膜
16・・・無電解めっき
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11