(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641382
(24)【登録日】2020年1月7日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】カーボン膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20200127BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20200127BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
C23C14/35 B
C23C14/06 F
H01L21/285 S
H01L21/285 301
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-551519(P2017-551519)
(86)(22)【出願日】2016年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2016003800
(87)【国際公開番号】WO2017085898
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2018年4月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-228097(P2015-228097)
(32)【優先日】2015年11月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】小梁 慎二
(72)【発明者】
【氏名】伊東 潤一
(72)【発明者】
【氏名】布施 和志
(72)【発明者】
【氏名】逸見 充則
【審査官】
谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−210006(JP,A)
【文献】
特開2003−098306(JP,A)
【文献】
特表2011−505496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン製のターゲットを用い、このターゲット表面側にマグネットユニットにより漏洩磁場を作用させた状態でターゲットに電力を投入してスパッタリングし、処理対象物の表面にカーボン膜を成膜するカーボン膜の成膜方法であって、ターゲット表面に漏洩磁場が作用する領域を局所的とし、この漏洩磁場が作用する領域を、ターゲット表面の起点からターゲットに対して相対移動して起点に戻るように周期的に変化させるものにおいて、
マグネットユニットをターゲットに対して所定速度で相対移動させたときのターゲット表面の所定位置における漏洩磁場の平均値を平均磁場強度とし、前記平均磁場強度とターゲットに対する投入電力との積を125G・kW以下、かつ前記平均磁場強度を100G以下にしたことを特徴とするカーボン膜の成膜方法。
【請求項2】
前記ターゲット表面の所定位置における漏洩磁場の平均磁場強度とターゲットに対する投入電力との積を85G・kW以下、かつ前記平均磁場強度を50G以下にしたことを特徴とする請求項1記載のカーボン膜の成膜方法。
【請求項3】
前記ターゲットへの投入電力を3kW以下としたことを特徴とする請求項1又は2記載のカーボン膜の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン膜の成膜方法に関し、より詳しくは、マグネットスパッタリング法によるものに関する。
【背景技術】
【0002】
メモリ素子や有機EL素子などのデバイスの電極としてカーボン膜を用いることが知られている。このようなカーボン膜の成膜には、量産性等を考慮して所謂マグネトロン方式のスパッタリング装置が用いられる(例えば、特許文献1,2参照)。この種のスパッタリング装置は、成膜処理しようとする処理対象物が設置されるステージを有する真空チャンバを備える。真空チャンバ内には、ステージに対向させてスパッタカソードが設けられる。スパッタカソードは、グラファイトやパイロカーボン等のカーボン製のターゲットと、ターゲット表面側に漏洩磁場を作用させるマグネットユニットとを備える。カーボン膜の成膜に際しては、真空雰囲気の真空チャンバ内にアルゴンガスなどの放電用スパッタガスを導入し、ターゲットに高周波電力等を投入してステージとターゲットとの間の空間にプラズマを発生させ、プラズマ中のスパッタガスのイオンでターゲットをスパッタリングすることで、ターゲットに対向配置されたステージ上の処理対象物の表面にカーボン膜が成膜される。
【0003】
ここで、上記種のスパッタリング装置においては、カーボン膜の膜厚の均一性やターゲットの利用効率を高めるために、例えばターゲットが円形の輪郭を持つ場合、マグネットユニットをターゲット中心から偏在させてターゲット表面側に漏洩磁場が作用する領域を局所的とし、成膜中には、マグネットユニットをターゲット中心を回転中心として一定の速度で回転させることで、漏洩磁場が作用する領域をターゲット表面の起点からターゲットに対して相対移動させて起点に戻るように周期的に変化させることが一般に行われている。
【0004】
然し、上記従来例に従いカーボン膜を成膜すると、カーボン膜の比抵抗を効果的に低くできないことが判明した。即ち、数Ω・cm程度の比抵抗のカーボン膜しか得られない。そこで、本発明の発明者は、鋭意研究を重ね、ターゲットへの投入電力との関連でターゲット表面側に作用する漏洩磁場の磁場強度がカーボン膜の比抵抗を低下させることにとって阻害要因となることを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−31573号公報
【特許文献2】国際公開第2015/122159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、上記従来例のものと比較して極めて低い、数十mΩ・cm程度の比抵抗を持つカーボン膜を再現性よく成膜することができるカーボン膜の成膜方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、カーボン製のターゲットを用い、このターゲット表面に漏洩磁場を作用させた状態でターゲットに電力を投入してスパッタリングし、処理対象物の表面にカーボン膜を成膜する本発明のカーボン膜の成膜方法は、ターゲット表面側に漏洩磁場が作用する領域を局所的とし、この漏洩磁場が作用する領域を、ターゲット表面の起点からターゲットに対して相対移動させて起点に戻るように周期的に変化させ、ターゲット表面の所定位置における漏洩磁場の平均磁場強度とターゲットに対する投入電力との積を125G・kW以下にしたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、30mΩ・cm以下(上記積が85G・kW以下かつ上記平均磁場強度が50G以下であれば、20mΩ・cm以下)の比抵抗を持つカーボン膜を再現性よく成膜することができ、上記従来例のものより一層低い比抵抗のカーボン膜が得られることが確認された。ここで、本発明にいう「平均磁場強度」とは、マグネットユニットを所定速度で相対移動させたときのターゲット表面の所定位置における磁場強度の平均値をいう。即ち、ターゲット表面の所定位置における磁場強度をみると、一周期においては、磁場強度がゼロから、マグネットユニットが近づくに従い磁場強度が増加し、磁場強度が最大になり、次いで、マグネットユニットが遠ざかるのに従い磁場強度が減少し、やがて磁場強度がゼロになる。このときの一周期におけるターゲット表面の所定位置での磁場強度の平均値をいう。また、ターゲット表面の所定位置における漏洩磁場の平均磁場強度とターゲットに対する投入電力との夫々の最小値は、ターゲットをスパッタリングする際に放電可能な範囲で適宜選択されるが、前記ターゲットへの投入電力が3kWを超えると、処理対象物表面に成膜したカーボン膜の表面が荒れるという問題が生じることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態のカーボン膜の成膜方法に用いることができるマグネトロン方式のスパッタリング装置の模式断面図。
【
図2】ターゲットに対するマグネットユニットの相対移動を説明する図。
【
図3】(a)及び(b)は、本発明の効果を確認する実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、処理対象物をシリコンウエハWとし、マグネトロン方式のスパッタリング装置SMによりシリコンウエハWの片面にカーボン膜を成膜する場合を例に本発明のカーボン膜の成膜方法の実施形態を説明する。以下においては、
図1に示すスパッタリング装置SMの姿勢を基準とし、真空チャンバの天井壁側を「上」、その底壁側を「下」として説明する。
【0011】
図1を参照して、SMは、本実施形態の成膜方法の実施に利用されるマグネトロン方式のスパッタリング装置である。スパッタリング装置SMは、成膜室1aを画成する真空チャンバ1を備える。真空チャンバ1の底壁には排気管11が接続され、排気管11は例えばターボ分子ポンプとその排圧側のロータリーポンプとで構成される真空ポンプ12が接続され、成膜室1a内を所定圧力(例えば10
−5Pa)に真空引きできるようにしている。真空チャンバ1の底壁には、シリコンウエハWが載置されるステージ2が絶縁体2aを介して配置されている。この場合、ステージ2上に静電チャック機構を組み付け、シリコンウエハWを吸着保持できるようにしてもよい。
【0012】
また、真空チャンバ1の側壁には、図外のガス源に連通し、マスフローコントローラ31が介設されたガス導入管3が接続され、アルゴンなどの放電用スパッタガスを成膜室1a内に所定流量で導入できるようにしている。真空チャンバ1の天井壁にはカソードユニットCuが配置されている。カソードユニットCuは、カーボン製のターゲット4と、ターゲット4の下面側に漏洩磁場を作用させるマグネットユニット5とを備える。
【0013】
ターゲット4は、成膜しようとする薄膜(カーボン膜)に応じて適宜選択されるグラファイトやパイロカーボン等で構成され、円形の輪郭を持つように公知の方法で製作されている。また、ターゲット4の上面には、図示省略のボンディング材を介してCu製のバッキングプレート41が接合され、ターゲット4から外方に延出したバッキングプレート41の部分に絶縁体42を介して、ターゲット4表面としてターゲット4の下面(スパッタ面4a)が成膜室1aに臨むように真空チャンバ1の天井壁に取り付けられる。この場合、スパッタ面4aとステージ2上のシリコンウエハWとの間の上下方向の間隔は、40〜90mmに設定される。また、ターゲット4(バッキングプレート41)には、公知の構造を持つ高周波電源(13.56MHz)や直流パルス電源(例えば、80kHz〜400kHz)等で構成されるスパッタ電源Psからの出力ケーブルP1が接続され、所定電力が投入できるようにしている。なお、ステージ2上のシリコンウエハWにバイアス電圧を印加する他の高周波電源を設けることもできる。
【0014】
図2も参照して、バッキングプレート41の上方に配置されるマグネットユニット5は、ヨークとしての磁性材料製の円盤状の支持板51を有し、支持板51の下面には、ターゲット4より小さい径の円弧に沿って配置される外側マグネット52と、外側マグネット52の内側で所定径の円弧に沿って配置される内側マグネット53とがターゲット4側の極性をかえて設けられている。この場合、外側マグネット52と内側マグネット53としては、同磁化のネオジウム磁石が用いられ、例えば一体に成形したリング状のものが利用できる。これにより、ターゲット4のスパッタ面4aの所定領域に漏洩磁場Mfが局所的に作用する。また、支持板51には、ステージ2の中心を通る軸線上に一致させて配置した駆動軸54が連結され、図外のモータ等の駆動手段により駆動軸54を回転駆動することで支持板51が一定の速度で回転するようにしている。これにより、この漏洩磁場Mfが作用する領域を、ターゲット4表面の起点からターゲット4に対して相対移動して起点に戻るように周期的に変化させることができる。
【0015】
上記スパッタリング装置SMは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた図示省略する公知の制御手段(図示せず)を有し、マスフローコントローラ31、真空ポンプ12やスパッタ電源Psの稼働等を統括制御し、シリコンウエハW表面にカーボン膜を成膜するようになっている。以下に、ターゲット4をグラファイト製とし、上記スパッタリング装置SMを用いてシリコンウエハW表面にカーボン膜を成膜する場合を例にカーボン膜の成膜方法を具体的に説明する。
【0016】
ステージ2にシリコンウエハWを載置した状態で、成膜室1aを減圧し、所定圧力(例えば、1×10
−5Pa)に達すると、マスフローコントローラ31を制御してアルゴンガスを所定流量で導入する。この場合、スパッタガスの流量は、真空ポンプ12の排気速度との関連で成膜室1aの圧力が0.01〜30Paの範囲となるように設定される。次に、スパッタ電源Psからターゲット4に高周波電力を投入する。これにより、ステージ2上のシリコンウエハWとターゲット4との間の空間であってマグネットユニット5により漏洩磁場Mfが作用する領域にプラズマが環状に発生し、プラズマ中のアルゴンイオンでターゲット4がスパッタリングされてスパッタ粒子が飛散し、シリコンウエハW表面に付着、堆積してカーボン膜が成膜される。この場合、マグネットユニット5は、30〜90rpmの範囲の速度で回転される。
【0017】
ここで、本発明者の知見によれば、マグネットユニット5からの漏洩磁場Mfの磁場強度が、カーボン膜の比抵抗を低下させることにとって阻害要因になることがある。そこで、本実施形態では、マグネットユニット5の外側マグネット52と内側マグネット53とを夫々構成するマグネットを適宜設定することでターゲット4表面の所定位置における漏洩磁場Mfの平均磁場強度とターゲット4に対する投入電力(スパッタ電源側の電力)との積を125G・kW以下にした。この場合、「平均磁場強度」とは、マグネットユニット5を駆動手段により所定速度で回転させたときのターゲット4表面の所定位置における磁場強度の平均値をいう。即ち、ターゲット4表面の所定位置における磁場強度をみると、一周期においては、磁場強度がゼロから、マグネットユニットが近づくに従い磁場強度が増加し、磁場強度が最大になり、次いで、マグネットユニットが遠ざかるのに従い磁場強度が減少し、やがて磁場強度がゼロになる。このときの一周期におけるターゲット4表面の所定位置での磁場強度の平均値をいう。併せて、スパッタ電源Psでのターゲット4への投入電力を3kW以下とした。この場合、ターゲット4表面の所定位置における漏洩磁場Mfの平均磁場強度とターゲット4に対する投入電力との夫々の最小値は、ターゲット4をスパッタリングする際に放電可能な範囲で適宜選択されるが、ターゲット4への投入電力が3kWを超えると、シリコンウエハW表面に成膜したカーボン膜の表面が荒れるという問題が生じる。
【0018】
以上の実施形態によれば、30mΩ・cm以下(上記積が85G・kW以下かつ上記平均磁場強度が50G以下であれば、20mΩ・cm以下)の比抵抗を持つカーボン膜を再現性よく成膜することができ、上記従来例のものより一層低い比抵抗のカーボン膜が得られる。
【0019】
次に、上記本実施形態の成膜方法を実施して得られる本発明の効果を確認する実験について説明する。スパッタ条件として、グラファイト製のターゲット4のスパッタ面4aとステージ2上のシリコンウエハWとの間の上下方向の間隔を70mm、成膜室1aの圧力を0.6Pa、マグネットユニット5の回転速度を60rpmとした。そして、スパッタ電源Psでのターゲット4への投入電力を0.5kW、1.5kW及び2.5kWに夫々設定し、平均磁場強度を30〜300Gの範囲で適宜変化させ、そのときの平均磁場強度に対するカーボン膜の比抵抗と、ターゲット4表面の所定位置における漏洩磁場Mfの平均磁場強度とターゲット4に対する投入電力との積(G・kW)に対する比抵抗とを
図3(a)及び
図3(b)に夫々示す。
【0020】
これによれば、投入電力を2.5kWとした場合、平均磁場強度を50Gに設定すれば、30mΩ・cmと上記従来例と比較して極めて低い比抵抗のカーボン膜が得られることが確認された。また、投入電力が1.5kW、0.5Kwと低い場合、平均磁場強度を80G、100Gと強くしても、上記同様に、極めて低い比抵抗のカーボン膜が得られ、その結果、投入電力が小さければ、平均磁場強度を大きくしてもよいことが確認された。以上より、ターゲット4表面の所定位置における漏洩磁場Mfの平均磁場強度とターゲット4に対する投入電力との積を管理し、この積を125G・kW以下にすれば、30mΩ・cm以下(上記積が85G・kW以下かつ上記平均磁場強度が50G以下であれば、20mΩ・cm以下)の比抵抗を持つカーボン膜を再現性よく成膜することができることが確認された。なお、スパッタリング中のマグネットユニット5の回転速度を変化させたが、得られたカーボン膜の比抵抗は殆ど変化しないことが確認された。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態では、カーボン製のターゲット4として円形の輪郭を持つものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、矩形とすることができる。また、マグネットユニット5の形態も上記に限定されるものではなく、ターゲット4の輪郭等に応じて適宜変更することができ、その際、ターゲット4に対するマグネットユニット5の相対運動も、例えば同一線上を往復動するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0022】
4…ターゲット、5…マグネットユニット、Mf…漏洩磁場、Ps…高周波電源(スパッタ電源)、W…シリコンウエハ(処理対象物)。