特許第6641636号(P6641636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6641636セメント組成物用白華抑制方法及びセメント製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6641636
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】セメント組成物用白華抑制方法及びセメント製品
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20200127BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20200127BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20200127BHJP
   B28B 11/04 20060101ALI20200127BHJP
   C04B 41/65 20060101ALI20200127BHJP
   C04B 103/60 20060101ALN20200127BHJP
【FI】
   C04B22/08 B
   C04B28/02
   B28C7/04
   B28B11/04
   C04B41/65
   C04B103:60
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-71432(P2016-71432)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-178734(P2017-178734A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年8月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】中上 明久
(72)【発明者】
【氏名】上原 伸郎
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−182608(JP,A)
【文献】 特開2006−182609(JP,A)
【文献】 特開昭53−003423(JP,A)
【文献】 特開昭55−154368(JP,A)
【文献】 特開昭60−067681(JP,A)
【文献】 特開昭51−002639(JP,A)
【文献】 特開昭64−003041(JP,A)
【文献】 特開昭61−219747(JP,A)
【文献】 特開平01−298185(JP,A)
【文献】 特開2008−196024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
C04B 41/65
C04B 103/60
B28B 11/04
B28C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸カルシウムを含有するセメント組成物用白華抑制剤をセメントを含むセメント組成物に添加する工程を備えており、
前記セメント組成物用白華抑制剤を前記セメント組成物に添加する工程は、前記セメント組成物用白華抑制剤を未硬化の前記セメント組成物に混練する工程を備えており、
前記セメント組成物用白華抑制剤を未硬化の前記セメント組成物に混練する工程は、前記セメント100質量部に対して、前記亜硝酸カルシウムが1質量部を超え3.0質量部以下になるように、前記セメント組成物に前記セメント組成物用白華抑制剤を添加することを含むセメント組成物用白華抑制方法。
【請求項2】
亜硝酸カルシウムを含有するセメント組成物用白華抑制剤をセメントを含むセメント組成物に添加する工程を備えており、
前記セメント組成物用白華抑制剤を前記セメント組成物に添加する工程は、前記セメント組成物用白華抑制剤を前記セメント組成物の表面に付着させる工程を備えており、
前記セメント組成物用白華抑制剤は、前記亜硝酸カルシウムを含む亜硝酸カルシウム水溶液であり、
前記亜硝酸カルシウム水溶液は、該亜硝酸カルシウム水溶液の全量を100質量%として、前記亜硝酸カルシウムを10質量%以上30質量%以下含有しており、
前記セメント組成物用白華抑制剤を前記セメント組成物の表面に付着させる工程では、前記亜硝酸カルシウム水溶液の付着量が0.2kg/m以上0.8kg/m以下になるように、前記セメント組成物の表面に前記亜硝酸カルシウム水溶液を付着させるセメント組成物用白華抑制方法。
【請求項3】
セメントを含む未硬化のセメント組成物に、亜硝酸カルシウムを含有するセメント組成物用白華抑制剤が混合されてなり、
前記セメント100質量部に対して、前記亜硝酸カルシウムを1質量部を超え3.0質量部以下含むセメント製品。
【請求項4】
セメントを含むセメント組成物の表面に、亜硝酸カルシウムを含有するセメント組成物用白華抑制剤が付着されてなり、
前記セメント組成物用白華抑制剤は、前記亜硝酸カルシウムを含む亜硝酸カルシウム水溶液であり、
前記亜硝酸カルシウム水溶液は、該亜硝酸カルシウム水溶液の全量を100質量%として、前記亜硝酸カルシウムを10質量%以上30質量%以下含有しており、
前記セメント組成物の表面における前記亜硝酸カルシウム水溶液の付着量が0.2kg/m以上0.8kg/m以下であるセメント製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物用白華抑制方法及びセメント製品に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリートなどのセメント組成物には、表面に面状又は斑点状の白色析出物が沈着する白華(エフロレッセンス)が発生することがある。白華は、セメント組成物中に含まれる水可溶性の白華成分を含有する水分が、乾燥等に起因して、内部空隙を通じて表面に移動し、表面において、該白華成分が大気中の炭酸ガスと反応して白色物質を生成することにより発生する。白華成分は、水酸化カルシウム、アルカリ化合物又は炭酸化合物等である。
【0003】
白華には、セメント組成物の製造時に水に溶解した白華成分に起因する一次白華と、セメント組成物の表面から侵入した水に溶解した白華成分に起因する二次白華と、がある。一次白華は、セメントの水和反応によって水酸化カルシウムが水に溶解することでカルシウムイオンが生じ、上記のように大気中の炭酸ガスと反応することで炭酸カルシウムが生成して、乾燥によって炭酸カルシウム又は水酸化カルシウム自体の結晶が析出することによって発生する。
【0004】
このような白華の発生は、セメント組成物の強度の低下や環境面での問題などを引き起こすものではないが、セメント組成物の美的外観を損なうために好ましくない。特に、顔料等で着色された着色セメント組成物は、近年需要が伸びているが、白華による白色物質が外観上目立つため、美的外観を損なう可能性が高くなる。従って、白華の発生のないセメント組成物が望まれており、セメント組成物の白華現象を抑制する方法として、様々な方法が提案されている。例えば、その一つに、セメント組成物用に一般に市販されているシリコーン系の白華抑制剤を添加する方法がある。また、白華成分と反応する高炉スラグ微粉末やフライアッシュ等を添加し、白華を抑制する方法が知られている。
【0005】
さらにまた、セメント組成物の表面を処理することにより、白華を抑制する方法も知られている。特許文献1には、セメント組成物の表面を二酸化炭素で処理することで、該表面を炭酸化して、以降の表面の炭酸化を抑制することで白華を抑制する方法が提案されている。特許文献2には、セメントと水とを混合して超音波を照射することにより、白華を起こりにくくする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−217281号公報
【特許文献2】特開平9−70811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の白華抑制剤、高炉スラグ微粉末やフライアッシュは、白華抑制効果が充分とはいえず、特に、低温環境下での一次白華に対する効果が低い。また、二酸化炭素や超音波で処理する方法は、いずれも多額な設備投資を必要とするから、生産コストが上昇し、かつ、生産工程も増えるためにセメント組成物の生産性が低下する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであり、特別な装置を必要とせず、かつ、従来のセメント組成物の製造工程を大きく変更することなく白華を抑制することができ、低温条件下においても、セメント組成物の白華の発生を十分に抑制できる白華抑制剤及び白華抑制方法、外観に優れ、取扱いを容易に行うことができるセメント製品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる課題を解決するために鋭意研究を行った結果、亜硝酸カルシウムが、低温条件下においても、セメント組成物の白華の発生を強力に抑制できることを知見した。この知見に基づいて、亜硝酸カルシウムがセメント組成物用白華抑制剤に適することを見出し、本発明に至ったものである。従って、本発明は下記実施形態を含む。
(1)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、亜硝酸カルシウムを含有するセメント組成物用白華抑制剤をセメント組成物に添加する工程を備える。
)本発明の実施形態に係るセメント製品は、セメントを含むセメント組成物に亜硝酸カルシウムを含有するセメント組成物用白華抑制剤が添加されたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセメント組成物用白華抑制剤及びセメント組成物用白華抑制方法は、特別な装置を必要とせず、かつ、従来のセメント組成物の製造工程を大きく変更することなく白華を抑制することができ、低温条件下においても、セメント組成物の白華の発生を十分に抑制できる。また、本発明のセメント製品は、外観に優れ、取扱いを容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(セメント組成物)
本発明の実施形態に係る白華抑制剤及び白華抑制方法は、セメント組成物の白華を抑制するものである。セメント組成物とは、少なくともセメントと水とを含有する材料から形成されるものであり、セメント組成物には、セメントと水との水和反応によって完全に硬化されたもの、未硬化のもののいずれも含む。本明細書において、未硬化のセメント組成物とは、少なくとも一部が未硬化のものであればよく、一部が硬化し、他部が未硬化であるもの、及び、全部が未硬化であるものの両方を含む。
【0012】
セメント組成物としては、コンクリートやモルタルを含む製品、及び、これらの製造途中にある半製品を含む。具体的には、セメント組成物としては、道路、橋、トンネル、ビル等のコンクリート含有部分やモルタル含有部分、インターロッキングブロック、建築用空洞ブロック、化粧ブロック、平板、普通ブロック、土留ブロック、タイル下地等の様々なモルタル製品及びコンクリート製品、及び、これらの半製品を例示することができる。
【0013】
概して、セメント組成物は、振動締固め方式、遠心力締固め方式及び即時脱型方式の三種類の成形工程により成形される。振動締固め方式は、比較的軟らかい未硬化のセメント組成物を型枠に投入しながら振動機を用いて締固めて、養生することによる方法であり、遠心力締固め式は、遠心力を与えて未硬化のセメント組成物内部の水を除去して、養生することにより、水セメント比がより低いセメント組成物を製造する方法である。即時脱型方式は、脱型後の塑性変形を抑制するため、水の含有量が極めて低くなるように、水とセメントとの質量比率を調整した未硬化のセメント組成物を、セメント組成物用型枠に投入し、振動締め固めした後に、直ちに脱型して養生することによる成形方法である。
【0014】
顔料や塗料を添加して着色された着色セメント組成物は、化粧製品として知られているが、白華によって発生する白色物質が外観上目立つため、白華によって美的外観が損なわれる可能性が高くなる。従って、着色セメント組成物に、本発明の白華抑制剤を用いると、特に効果的である。
【0015】
上述のとおり、上記セメント組成物は、少なくともセメントと水とを含む材料から形成される。セメント組成物としては、更に、骨材を含むことができ、例えば、コンクリートの材料としては、セメントと細骨材と粗骨材と水とを含有し、モルタルの材料としては、セメントと細骨材と水とを含有する。セメント組成物には、更に各種添加物を含んでもよい。セメント組成物は、一般的なコンクリートミキサを使用して、混練して調製される。例えば、セメント組成物の材料を所定の割合の配合で一軸式又は二軸式の強制練り混練機を用いて混練することにより、未硬化のセメント組成物を調製することができる。
【0016】
本実施形態に用いられる未硬化のセメント組成物は、白華を抑制する観点から、含有する水分量が少ない固練りのセメント組成物であることが好ましい。従って、未硬化のセメント組成物としては、硬化前のセメント組成物をスランプ試験によって測定した測定値が0cmであるものを好適に用いることができる。
【0017】
なお、上記セメントとしては、セメント組成物に一般的に用いられるセメントであれば、特に限定せずに使用可能である。該セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、アルミナセメント、ジェットセメント等が挙げられる。該セメントは、一種又は複数種を用いてもよい。
【0018】
上記水としては、特に限定されず、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等が使用できるが、セメントの水和反応やセメント組成物に悪影響を及ぼす有機物、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が含まれない、又はそれらの含有量が微量であることが好ましい。該水としては、品質の安定した水道水又は工業用水が特に好ましい。
【0019】
上記骨材には、細骨材及び粗骨材を含む。上記細骨材としては、山砂、海砂、川砂、砕砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケル細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材、フェロクロム細骨材、人工軽量細骨材、再生細骨材等が挙げられる。上記細骨材は、一種類でもよく又は二種類以上を混合してもよい。
【0020】
上記粗骨材としては、山砂利、海砂利、川砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、人工軽量粗骨材、再生粗骨材等が挙げられる。上記細骨材は、一種類でもよく又は二種類以上を混合してもよい。
【0021】
本実施形態に用いられるセメント組成物には、必要に応じて、添加物が含まれてもよい。添加物としては、例えば、収縮低減剤、減水剤、消泡剤、流動化剤、凝結促進剤、凝結遅延剤等の化学混和剤、合成樹脂粉末、合成樹脂繊維、金属繊維、炭素繊維、ガラス繊維、石灰石微粉末、膨張材、フライアッシュ、シリカフューム、高炉スラグ微粉末等を例示することができる。但し、上記添加物には、亜硝酸カルシウムとの相性を考慮して、チオシアン酸塩(ロダン酸塩)を主成分とする添加物を含まないようにすることができる。なお、上記添加物は、一種類で用いてもよく、又は、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0022】
(白華抑制剤)
本発明の実施形態のセメント組成物用白華抑制剤は、亜硝酸カルシウムを有効成分として含有する。セメント組成物用白華抑制剤は、亜硝酸カルシウムのみからなるものであってもよいし、亜硝酸カルシウムの以外の他の成分を含んでもよい。このように、亜硝酸カルシウムを含有する白華抑制剤は、5℃程度の低温条件下においても、セメント組成物の白華の発生を抑制する効果が大きい。
【0023】
上記セメント組成物用白華抑制剤は、亜硝酸カルシウムを有効成分とするので、亜硝酸カルシウムを含有する亜硝酸カルシウム水溶液や、亜硝酸カルシウムを含む粉体状物又は粒体状物等の亜硝酸カルシウム含有物として、セメント組成物に添加することができる。例えば、セメント組成物用白華抑制剤が亜硝酸カルシウム水溶液である場合は、散布や塗布などによって、白華現象が起こるセメント組成物の表面に白華抑制剤を付着させること、及び、セメント組成物中に混練することができるため、容易にセメント組成物に添加することができる。セメント組成物用白華抑制剤が粉体状物又は粒体状物である場合には、セメント組成物中に混練することで、容易にセメント組成物に添加することができる。このため、本実施形態のセメント組成物用白華抑制剤は、特別な装置を必要とせず、従来のセメント組成物の製造工程を大きく変更することなく使用可能である。
【0024】
従って、本実施形態のセメント組成物用白華抑制剤は、特別な装置を必要とせず、かつ、従来のセメント組成物の製造工程を大きく変更することなしに使用可能であると共に、低温条件下においても、セメント組成物の白華の発生を抑制する効果が大きいものである。
【0025】
上記亜硝酸カルシウム水溶液は、亜硝酸カルシウム水溶液全量を100質量%として、前記亜硝酸カルシウムを5質量%以上30質量%以下、好ましくは10質量%以上30質量%以下で含有するものであってもよい。5質量%未満であると、亜硝酸カルシウム量に対して水分が多すぎるため、セメント組成物に白華が発生する可能性がある。また、30質量%以下で白華防止効果を充分得ることができるから、亜硝酸カルシウムをこの濃度範囲で加えれば、セメント組成物の白華を効果的に抑制することができる。
【0026】
本実施形態に係る白華抑制剤は、振動締固め方式、遠心力締固め方式及び即時脱型方式等のいずれの成形方法によって成形されるセメント組成物にも有効に用いることができる。これらの内でも、本実施形態に係る白華抑制剤は、即時脱型方式で成形される即時脱型セメント組成物に対して、特に有効に用いることができる。即時脱型セメント組成物は、通常のセメント組成物よりも、セメント組成物の単位体積当たりの水含有量が低い。従って、セメント組成物の内部から表層に水可溶成分を移動させる自由水が少なく、セメント組成物の表層を白華抑制剤で処理するのみで白華を抑制することが可能である。従って、本実施形態に係る白華抑制剤は、即時脱型セメント組成物用に使用することで、白華抑制剤の使用量を低減させることができ、生産コストを低減することができる。
【0027】
(白華抑制方法)
次に、本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法について説明する。本実施形態のセメント組成物用白華抑制方法は、セメント組成物に亜硝酸カルシウムを添加する工程を備える。これにより、低温条件下においても、セメント組成物の白華の発生を極めて効果的に抑制することができる。
【0028】
本実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、セメント組成物の成形工程を含んでもよい。セメント組成物の成形工程は、上述のとおり、振動締固め方式、遠心力締固め方式又は即時脱型方式によって行うことができるが、即時脱型方式によって行うことが好ましい。ここで、即時脱型方式による成形方法を説明する。まず、上述のセメント組成物を、所望形状の型枠に投入して成形を行う。成形時には、加圧振動成形処理を加える。これにより、セメント組成物の型枠への充填性が良好になり、得られるセメント組成物が緻密化される。加圧振動成形処理をしたセメント組成物は、型枠より直ちに脱型される。これにより、セメント組成物を成形することができる。なお、直ちにとは、成形後直ぐであってもよいし、成形後数秒から数分後であってもよい。
【0029】
本実施形態のセメント組成物用白華抑制方法は、更に、成形したセメント組成物を養生する養生工程を備えてもよい。養生工程は、常圧蒸気養生、オートクレープ養生など公知の養生方法によって行うことができる。そして、養生工程は、温度5℃程度の低温条件下で養生する低温養生工程であってもよい。本実施形態の白華抑制方法によれば、温度5℃程度の低温下で養生した場合であっても、従来の白華抑制方法に比して、白華の抑制効果を充分に得ることができる。また、養生工程は、成形したセメント組成物に雨掛り等の水分供給がない又は少ない状態において行われることが好ましい。
【0030】
上記セメント組成物に亜硝酸カルシウムを添加する工程は、成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム含有物を付着させる工程を含むことができる。また、上記セメント組成物に亜硝酸カルシウムを添加する工程は、セメント組成物に亜硝酸カルシウム含有物を混練する工程を含むことができる。以下、これらを、一の実施形態及び他の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法として、分けて説明する。
【0031】
(一の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法)
本発明の一実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、亜硝酸カルシウムを加える工程として、セメント組成物を成形する工程と、成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム含有物を付着させる工程と、を備える。なお、本明細書において、亜硝酸カルシウム含有物は、亜硝酸カルシウムを含有しているものを示し、粉体状、粒体状、水溶液やゲル状の流体状などの何れの状態のものであってもよい。
【0032】
本実施形態では、上記セメント組成物を、即時脱型方式によって成形し、亜硝酸カルシウム含有物として亜硝酸カルシウム水溶液を用いる例を説明する。具体的に説明すると、上記セメント組成物用白華抑制方法は、上記セメント組成物を即時脱型方式によって成形する工程と、脱型後に、成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム水溶液を付着させる工程と、を備える。
【0033】
成形されたセメント組成物は、大気中に暴露される表層と表層に囲まれた内部とを備えるが、かかる方法によれば、大気中に暴露される成形されたセメント組成物の表面から亜硝酸カルシウムを施すことができるため、成形されたセメント組成物の表層にのみ亜硝酸カルシウムを含む白華抑制層が形成され、内部には形成されないようにすることができる。これにより、セメント組成物の白華を抑制することができると共に、亜硝酸カルシウムの使用量を抑えることで、生産コストを低減することができる。
【0034】
上記成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム含有物である亜硝酸カルシウム水溶液を付着させる工程は、成形されたセメント組成物の表面に、亜硝酸カルシウム水溶液を塗布又は散布することで行うことができる。亜硝酸カルシウム水溶液の塗布又は散布は、ローラ方式、噴霧方式、又は、はけ方式などの公知の方式によって、セメント組成物の製造ライン上に配置された塗布又は散布装置を用いて行うことができる。
【0035】
上記成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム含有物である亜硝酸カルシウム水溶液を付着させる工程は、セメント組成物の成形後、60分以内に行うことができる。これによれば、セメント組成物内のセメントと水の水和反応が進行しすぎない段階で、亜硝酸カルシウム水溶液を施すことができるから、白華を効果的に抑制することができる。
【0036】
上述のように、亜硝酸カルシウム水溶液を成形されたセメント組成物の表面に付着させる場合、亜硝酸カルシウム水溶液の付着量を0.1kg/m以上1.0kg/m以下、好ましくは、0.2kg/m以上0.8kg/m以下とすることができる。付着量を0.1kg/m以上1.0kg/m以下とすることで亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果が得られる。但し、付着量が0.2kg/mに満たないと液むらが生じやすくなり、0.8kg/mを超えると、水溶液中の水による白華発生の影響が生じやすくなり、白華抑制効果が低下するから、0.2kg/m以上0.8kg/m以下とすることで白華抑制効果をより一層高くすることができる。
【0037】
また、亜硝酸カルシウム水溶液のような亜硝酸カルシウム含有物を付着させる場合、成形されたセメント組成物の表面に付着された亜硝酸カルシウム含有物中の単位面積当たりの亜硝酸カルシウムの含有量を0.02kg/m以上0.30kg/m以下とすることで、亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果を十分に得ることができる。好ましくは、成形されたセメント組成物の表面に付着された亜硝酸カルシウム含有物中の単位面積当たりの亜硝酸カルシウムの含有量が0.03kg/m以上0.16kg/m以下になるように、亜硝酸カルシウム含有物を付着させることで、極めて高い白華抑制効果を得ることができる。
【0038】
さらにまた、亜硝酸カルシウム水溶液のような亜硝酸カルシウム含有物を付着させる場合、成形されたセメント組成物の表面に付着された亜硝酸カルシウム含有物中の単位面積当たりの水含有量を0.06kg/m以上0.80kg/m以下、好ましくは、0.16kg/m以上0.64kg/m以下にすることができる。水含有量を0.06kg/m以上0.80kg/m以下にすると、亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果を十分に得ることができる。単位面積当たりの水含有量を0.16kg/m以上0.64kg/m以下にすると、成形されたセメント組成物に円滑に付着させることができると共に、亜硝酸カルシウム含有物中の水による白華発生の影響をも低減することが可能となり、白華抑制効果をより一層高くすることができる。
【0039】
より好ましくは、亜硝酸カルシウム水溶液のような亜硝酸カルシウム含有物を付着させる場合、成形されたセメント組成物の表面に付着された亜硝酸カルシウム含有物中の単位面積当たりの亜硝酸カルシウムの含有量が0.02kg/m以上、かつ、成形されたセメント組成物の表面に付着された亜硝酸カルシウム含有物中の単位面積当たりの水含有量が0.80kg/m以下となるように亜硝酸カルシウム含有物を付着してもよい。更に好ましくは、成形されたセメント組成物の表面に付着された亜硝酸カルシウム含有物中の単位面積当たりの亜硝酸カルシウムの含有量が0.03kg/m以上、かつ、成形されたセメント組成物の表面に付着された亜硝酸カルシウム含有物中の単位面積当たりの水含有量が0.64kg/m以下となるように、亜硝酸カルシウム含有物を付着してもよい。これによれば、亜硝酸カルシウムの高い白華抑制効果を得つつ、亜硝酸カルシウム含有物中の水による白華発生の影響を低減を防げるから、白華抑制効果を一層高くすることができる。
【0040】
本実施形態のセメント組成物用白華抑制方法は、上記成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム含有物を付着させる工程よりも前に、セメント組成物を露出するように、セメント組成物の周囲を被覆する被覆体によって、セメント組成物の周囲を被覆して保護するセメント組成物の周囲保護工程を含んでもよい。すなわち、本実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、セメント組成物の周囲保護工程と、セメント組成物の成形工程と、成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム含有物を付着させる工程と、を備えることができる。これにより、亜硝酸カルシウム含有物を付着させる際に、亜硝酸カルシウムが周囲に飛散しないようにすることで、周囲環境の汚染を防ぐことができる。
【0041】
更に、本実施形態のセメント組成物用白華抑制方法は、成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム含有物を付着させる工程の後に、上記養生工程を含んでもよい。
【0042】
(他の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法)
本発明の他実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、上記セメント組成物に亜硝酸カルシウム含有物を添加する工程と、亜硝酸カルシウム含有物が添加された上記セメント組成物を成形する工程と、を備える。更に、本実施形態のセメント組成物用白華抑制方法は、セメント組成物の成形工程の後に、上記養生工程を含んでもよい。ここでも、上述のとおり、亜硝酸カルシウム含有物は、亜硝酸カルシウム単体の粉体状物や粒体状物、亜硝酸カルシウム水溶液などの流体状物または亜硝酸カルシウム以外のものが混合された混合物として添加することができる。
【0043】
上記亜硝酸カルシウム含有物を添加して混練する工程は、亜硝酸カルシウム含有物を添加した未硬化のセメント組成物を混練機を用いて混練する。亜硝酸カルシウム含有物は、粉体状のセメント組成物材料に添加し、混合した後に、水が加えられて、亜硝酸カルシウム含有物を添加した未硬化のセメント組成物が混練されてもよいし、混練されたセメント組成物に亜硝酸カルシウム含有物を後から添加して更に混練してもよい。
【0044】
亜硝酸カルシウム含有物は、セメント組成物中のセメント100質量部に対して、亜硝酸カルシウムが0.5質量部以上3.0質量部以下になるように、好ましくは、1.5質量部以上2.5質量部以下になるように、セメント組成物に亜硝酸カルシウム含有物を加えることができる。セメント100質量部に対して、亜硝酸カルシウムが0.5質量部以上3.0質量部以下になるように、セメント組成物に亜硝酸カルシウム含有物を加えることで、亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果を十分に得ることができる。また、亜硝酸カルシウムが1.5質量部以上となるように、亜硝酸カルシウム含有物をセメント組成物に添加することで、白華防止効果を極めて高くすることができる。そして、亜硝酸カルシウムが2.5質量部を超えると、フレッシュ状態のセメント組成物の粘性が増し、コンシステンシーの経時変化が増加し、材料コストも増加するため、亜硝酸カルシウムを、セメント100質量部に対して、1.5質量部以上2.5質量部以下で含有することが好ましい。
【0045】
(セメント製品)
本実施形態のセメント製品は、セメントを含むセメント組成物に亜硝酸カルシウムが添加されたものである。亜硝酸カルシウムは、上述のセメント組成物の白華を抑制するだけでなく、セメント組成物の硬化を促進し、コンクリートの強度を早期に発現させることができる。従って、本実施形態のセメント製品は、白華の発生が少なく、早期に硬化することができるから、外観に優れ、取扱いを容易に行うことができる。
【実施例】
【0046】
続いて、本実施形態の白華抑制剤及び白華防止方法をより具体的にした実施例について説明する。
【0047】
(実施例1)
セメント組成物材料としては、水28質量部、セメント100質量部、細骨材360質量部、顔料10質量部からなるモルタル用材料を用意した。水としては上水道水、セメントとしては普通ポルトランドセメント、細骨材としては珪砂を用いた。添加材料としては、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤を添加した。添加材料は、セメント組成物中のセメント100質量部に対して、添加材料が2質量部となるように、セメント組成物に混合した。添加方法は、添加材料を溶解した水を加えた未硬化のセメント組成物をモルタルミキサを用いて混練後、型枠と振動機を用いて締固めることで、寸法φ75mm×30mmの実施例1の供試体を得た。締固め率は、白華が発生しやすいように82%とした。
【0048】
(実施例2)
セメント組成物中のセメント100質量部に対する、添加材料である亜硝酸カルシウムの質量比を3質量部及び水の質量比を27質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の供試体を得た。
【0049】
(比較例1)
添加材料を加えず、セメント100質量部に対する、水の質量比を30質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の供試体を得た。このため、表1中、添加材料種類を無添加とした。
【0050】
(比較例2)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、従来のシリコーン系の練りこみタイプの白華抑制剤に変更し、セメント100質量部に対する、従来の白華抑制剤の質量比を0.3質量部及び水の質量比を29.7質量部に変更した点以外は、実施例1と同様にして、比較例2の供試体を得た。
【0051】
(比較例3)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、高炉スラグ微粉末に変更し、セメント100質量部に対する、添加材料の質量比を30質量部及び細骨材の質量比を334質量部に変更し、更に、添加材料は水に溶解させずに添加した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の供試体を得た。
【0052】
(比較例4)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、亜硝酸ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例4の供試体を得た。
【0053】
(比較例5)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、亜硝酸カリウムに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例5の供試体を得た。
【0054】
(比較例6)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、亜硝酸リチウムに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例6の供試体を得た。
【0055】
(比較例7)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、硝酸カルシウムに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例7の供試体を得た。
【0056】
(比較例8)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、硝酸ナトリウムに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例8の供試体を得た。
【0057】
(比較例9)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、硝酸カリウムに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例9の供試体を得た。
【0058】
(比較例10)
添加材料を、亜硝酸カルシウムからなる白華抑制剤の代わりに、硝酸リチウムに変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例10の供試体を得た。
【0059】
比較例12
セメント100質量部に対する、添加材料の質量比を0.5質量部及び水の質量比を29.5質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例12の供試体を得た。
【0060】
比較例13
セメント100質量部に対する、添加材料の質量比を1質量部及び水の質量比を29質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例13の供試体を得た。
【0061】
(実施例5)
白華抑制剤として、亜硝酸カルシウム水溶液全量を100質量%として、亜硝酸カルシウムを20質量%含有するように、亜硝酸カルシウムを水に溶解させた、20質量%亜硝酸カルシウム水溶液を用意した。セメント組成物材料としては、上水道水30質量部、普通ポルトランドセメント100質量部、珪砂360質量部、顔料10質量部からなるモルタル用材料を用意した。モルタル用材料を混練した未硬化のセメント組成物を即時脱型方式で成形し、脱型後、直ち(噴霧開始時間0分)に、成形されたセメント組成物の表面に霧吹きで、白華抑制剤の付着量が0.2kg/mになるように白華抑制剤を噴霧することで、実施例5の供試体を得た。
【0062】
(実施例6)
白華抑制剤としての20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の付着量が0.3kg/mになるように噴霧した以外は、実施例5と同様の手法で実施例6の供試体を得た。
【0063】
(実施例7)
白華抑制剤としての20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の付着量が0.5kg/mになるように噴霧した以外は、実施例5と同様の手法で実施例7の供試体を得た。
【0064】
(実施例8)
成形されたセメント組成物を脱型後、30分を経過した時に、20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の付着量が0.3kg/mになるように、白華抑制剤として20質量%亜硝酸カルシウム水溶液を噴霧した以外は、実施例5と同様の手法で実施例8の供試体を得た。
【0065】
(実施例9)
成形されたセメント組成物を脱型後、60分を経過した時に、20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の付着量が0.3kg/mになるように、白華抑制剤として20質量%亜硝酸カルシウム水溶液を噴霧した以外は、実施例5と同様の手法で実施例9の供試体を得た。
【0066】
比較例14
白華抑制剤としての20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の付着量を0.1kg/mとなるように噴霧した以外は、実施例5と同様の手法で比較例14の供試体を得た。
【0067】
比較例15
白華抑制剤としての20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の付着量を1.0kg/mとなるように噴霧した以外は、実施例5と同様の手法で比較例15の供試体を得た。
【0068】
(比較例11)
実施例5の成形されたセメント組成物であって、亜硝酸カルシウム水溶液が付着されていない(無付着)ものを比較例11の供試体とした。なお、この供試体には、亜硝酸カルシウム水溶液は付着されていないため、表3中、噴霧剤種類を無付着としている。
【0069】
(実施例12)
白華抑制剤としての20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の付着量を0.8kg/mとなるように噴霧した以外は、実施例5と同様の手法で実施例12の供試体を得た。
【0070】
比較例16
白華抑制剤を、20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の代わりに、5質量%亜硝酸カルシウム水溶液に変更した以外は、実施例6と同様にして、比較例16の供試体を得た。5質量%亜硝酸カルシウム水溶液は、亜硝酸カルシウム水溶液全量を100質量%として、亜硝酸カルシウムを5質量%含有する。
【0071】
(実施例14)
白華抑制剤を、20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の代わりに、10質量%亜硝酸カルシウム水溶液に変更した以外は、実施例6と同様にして、実施例14の供試体を得た。以下、10質量%亜硝酸カルシウム水溶液は、亜硝酸カルシウム水溶液全量を100質量%として、亜硝酸カルシウムを10質量%含有する。
【0072】
(実施例15)
白華抑制剤を、20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の代わりに、10質量%亜硝酸カルシウム水溶液に変更した以外は、実施例7と同様にして、実施例15の供試体を得た。
【0073】
(実施例16)
白華抑制剤を、20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の代わりに、30質量%亜硝酸カルシウム水溶液に変更した以外は、実施例6と同様にして、実施例16の供試体を得た。以下、30質量%亜硝酸カルシウム水溶液は、亜硝酸カルシウム水溶液全量を100質量%として、亜硝酸カルシウムを30質量%含有する。
【0074】
比較例17
白華抑制剤を、20質量%亜硝酸カルシウム水溶液の代わりに、30質量%亜硝酸カルシウム水溶液に変更した以外は、比較例15と同様にして、比較例17の供試体を得た。
【0075】
[白華試験1]
白華の発生し易い条件である温度5℃かつ湿度88%の恒温屋に7日間暴露した上記実施例1〜2の供試体と比較例1〜10の供試体を、目視観察することで、白華抑制効果を評価した。白華抑制効果は、白華の発生が全く認められない、又は、極微量である場合に、優れた効果あり「○」と評価し、上記以外を効果なし「×」と評価した。このように測定された白華抑制効果の評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
[白華試験2]
白華の発生し易い条件である温度5℃かつ湿度88%の恒温屋に7日間暴露した実施例1の供試体と比較例1,4〜10の供試体のうち、各供試体のうち大気中に暴露された白華の発生している面と、比較例1(無添加供試体)の供試体のうち、大気中に暴露されておらず、白華の発生していない面と、の色差ΔE*abを計測することで、添加材料種類による白華抑制効果の程度を測定した。なお、大気中に暴露されないと、乾燥や炭酸化が生じないため白華は発生しないことから、比較例1(無添加供試体)の供試体のうち、大気中に暴露されていない面を、白華の発生していない面として計測を行った。
【0078】
L*a*b*色差であるΔE*abは、色彩色差計により、L*,a*,b*を計測し、を数1に示す式により算出することで測定した。なお、ΔL*,Δa*,Δb*は、各供試体のうち大気中に暴露された白華の発生している面と比較例1(無添加供試体)の大気中に暴露されずに白華の発生していない面とのL*,a*,b*の差である。これにより測定された色差ΔE*abを表2に示す。なお、L*,a*,b*は、CIE1976(L*a*b*)表色系と呼ばれ、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。
【0079】
【数1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1において、比較例1〜10は、抑制効果の評価が「×」であるのに対して、表1の実施例1〜2は、抑制効果の評価が「○」であった。そして、表2に示すように、実施例1の色差ΔE*abは、比較例1〜10と比較して、格段に低いものであった。すなわち、上記白華試験1及び2の結果から、亜硝酸カルシウムは、セメント組成物の白華を強力に抑制するものであり、亜硝酸カルシウムは、セメント組成物用白華抑制剤として有効であることが見出された。
【0082】
なお、比較例3の結果から、高炉スラグ微粉末は、低温条件下で初期材齢に発生する一次白華に対する抑制効果が低いことが認められる。これは、低温条件下で、しかも初期材齢においては、期待される高炉微粉末と水酸化カルシウムとの反応が生じなかったことが推察される。また、比較例2を用いた実験から、従来のシリコーン系の練りこみタイプの白華抑制剤は、低温条件下の一次白華において、白華抑制効果にばらつきが生じやすいことが認められた。
【0083】
[白華試験3]
次に、実施例1,2及び比較例1,12,13の供試体を用いて、亜硝酸カルシウムを添加して混練する場合の亜硝酸カルシウムの添加量による白華抑制効果の変化を検証した。白華の発生し易い条件である温度5℃かつ湿度88%の恒温屋に7日間暴露した実施例1,2、比較例12,13の供試体を目視観察することで、白華抑制効果を評価した。白華抑制効果は、白華の発生が全く認められない、又は、極微量である場合に、優れた効果あり「◎」と評価した。また、無添加との比較で白華が抑制されている場合に効果あり「○」、白華が多く生じる場合に「×」と評価した。評価結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
白華試験3の結果から、亜硝酸カルシウムを添加して混練する場合、亜硝酸カルシウムの添加量として、セメント組成物中のセメント100質量部に対して、亜硝酸カルシウムが0.5質量部以上3.0質量部以下となるように、亜硝酸カルシウムをセメント組成物に添加することにより、モルタルの白華を抑制できることが認められた。なお、亜硝酸カルシウムが1.0質量部を超えて、2.0質量部となるように亜硝酸カルシウムをセメント組成物に添加することにより、モルタルの白華をより効果的に抑制できることが明らかになった。従って、好ましくは、セメント組成物中のセメント100質量部に対して、亜硝酸カルシウムが1.5質量部以上となるように、亜硝酸カルシウムをセメント組成物に添加することで、モルタルの白華をより効果的に抑制できるものと考えられる。
【0086】
また、亜硝酸カルシウムが2.5質量部を超えると、フレッシュ状態のセメント組成物の粘性が増し、コンシステンシーの経時変化が増加し、材料コストも増加するから、セメント組成物中のセメント100質量部に対して、亜硝酸カルシウムが2.5質量部以下となるように、亜硝酸カルシウムをセメント組成物に添加することが好ましい。従って、亜硝酸カルシウムの添加量として、セメント組成物中のセメント100質量部に対して、亜硝酸カルシウムが1.5質量部以上2.5質量部以下となるように、亜硝酸カルシウムをセメント組成物に加えることが好ましい。
【0087】
[白華試験4]
実施例5〜9及び比較例11の供試体を用いて、亜硝酸カルシウム水溶液を成形されたセメント組成物の表面に付着させることによる、白華抑制効果の有無を検証した。白華の発生し易い条件である温度5℃かつ湿度88%の恒温屋に7日間暴露した上記実施例5〜9及び比較例11の供試体の白華の発生を目視観察することで、白華抑制効果を評価した。白華抑制効果は、白華が全く発生していないか、又は、極微量であるものを効果あり「○」、それ以外を効果なし「×」として、評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
このように、実施例5〜9の供試体は白華が発生していないか、極微量であるのに対して、比較例11の供試体には白華が多く発生していた。従って、亜硝酸カルシウム水溶液を成形されたセメント組成物の表面に付着させることは、白華抑制効果に有効であることが認められた。そして、成形後30分後及び60分後に、成形されたセメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム水溶液を付着させることによっても、白華抑制効果があった。これにより、成形後、ある程度の時間が経過してから亜硝酸カルシウム水溶液を成形されたセメント組成物に施しても白華抑制効果が得られることが認められた。これは、セメント組成物内のセメントと水の水和反応が進行しすぎない段階で、亜硝酸カルシウム水溶液を施すことで、白華を効果的に抑制することができるものと考えられる。
【0090】
[白華試験5]
白華の発生し易い条件である温度5℃かつ湿度88%の恒温屋に7日間暴露した実施例5〜7,12,14〜16及び比較例11,14〜17の供試体を用いて、成形されたセメント組成物の表面に付着される亜硝酸カルシウム水溶液の濃度及び付着量によるセメント組成物の白華抑制効果を検証した。材齢7日目の供試体の白華の発生を目視観察することで、白華抑制効果を評価した。白華抑制効果は、白華が全く発生していないか、又は、極微量である場合を優れた効果あり「◎」と評価した。また、無付着との比較で白華が抑制されている場合に効果あり「○」、白華が多く生じる場合に「×」と評価した。評価結果を表5に示す。
【0091】
【表5】
【0092】
白華試験5の結果、成形されたセメント組成物の表面への亜硝酸カルシウム水溶液の付着量を0.1kg/m以上1.0kg/m以下とすることで亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果を得られることが認められる。好ましくは、成形されたセメント組成物の表面への亜硝酸カルシウム水溶液の付着量を0.2kg/m以上0.8kg/m以下とすることで、極めて高い白華抑制効果を得ることができると認められる。付着量が0.2kg/mに満たないと液むらが生じやすくなり、0.8kg/mを超えると、水溶液中の水による白華発生の影響が生じるために、亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果が低下するものと考えられるからである。
【0093】
また、成形されたセメント組成物の表面に付着された付着剤中の単位面積当たりの亜硝酸カルシウムの含有量を0.02kg/m以上0.30kg/m以下とすることで、亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果を得られることが認められる。好ましくは、成形されたセメント組成物の表面に付着された付着剤中の単位面積当たりの亜硝酸カルシウムの含有量が0.03kg/m以上0.16kg/m以下になるように、亜硝酸カルシウム水溶液を付着させることで、極めて高い白華抑制効果を得ることができることが認められる。
【0094】
また、成形されたセメント組成物の表面に付着された付着剤中の単位面積当たりの水含有量を0.06kg/m以上0.80kg/m以下にすることで、亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果が十分に認められる。好ましくは、0.16kg/m以上0.64kg/m以下にすることで、成形されたセメント組成物に円滑に付着させることができると共に、付着剤中の水による白華発生の影響をも低減することが可能となり、白華抑制効果をより一層高くすることができる。
【0095】
これらから、成形されたセメント組成物の表面に付着された付着剤中の単位面積当たりの亜硝酸カルシウムの含有量が0.02kg/m以上、かつ、成形されたセメント組成物の表面に付着された付着剤中の単位面積当たりの水含有量が0.80kg/m以下となるように、付着剤を付着させることが、より好ましいことが認められた。これにより、亜硝酸カルシウムによる白華抑制効果を得つつ、付着剤中の水による白華発生の影響を低減を防げるからである。また、更に好ましくは、成形されたセメント組成物の表面に付着された付着剤中の単位面積当たりの亜硝酸カルシウムの含有量が0.03kg/m以上、かつ、成形されたセメント組成物の表面に付着された付着剤中の単位面積当たりの水含有量が0.64kg/m以下となるように、付着剤を付着してもよい。これによれば、亜硝酸カルシウムの高い白華抑制効果を得つつ、付着剤中の水による白華発生の影響を低減を防げるから、白華抑制効果を一層高くすることができる。
【0096】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。また、上記記載から、本発明の実施形態は、以下の通りであることが確認される。
【0097】
(1)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制剤は、亜硝酸カルシウムを含有する。
(2)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制剤は、上記亜硝酸カルシウムを含む亜硝酸カルシウム水溶液であって、上記亜硝酸カルシウム水溶液全量を100質量%として、上記亜硝酸カルシウムを5質量%以上30質量%以下含有する上記亜硝酸カルシウム水溶液である。
(3)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、セメント組成物に亜硝酸カルシウムを添加する工程を備える。
(4)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、上記(3)に記載のセメント組成物用白華抑制方法であって、上記亜硝酸カルシウムを添加する工程は、上記亜硝酸カルシウム含有物を添加した未硬化の上記セメント組成物を混練する工程を備える。
(5)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、上記(4)に記載のセメント組成物用白華抑制方法であって、上記セメント組成物はセメントを含み、上記亜硝酸カルシウム含有物を添加した未硬化の前記セメント組成物を混練する工程は、上記セメント100質量部に対して、上記亜硝酸カルシウムが0.5質量部以上3.0質量部以下になるように、上記セメント組成物に上記亜硝酸カルシウム含有物を添加することを含む。
(6)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、上記(3)に記載のセメント組成物用白華抑制方法であって、上記亜硝酸カルシウムを添加する工程は、上記セメント組成物の表面に亜硝酸カルシウム含有物を施す工程を備える。
(7)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、上記(6)に記載のセメント組成物用白華抑制方法であって、上記亜硝酸カルシウム含有物は、亜硝酸カルシウム水溶液であり、上記亜硝酸カルシウム含有物を施す工程は、上記亜硝酸カルシウム水溶液の付着量が0.1kg/m以上1.0g/m以下になるように、上記セメント組成物の表面に上記亜硝酸カルシウム水溶液を付着させる工程を備える。
(8)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、上記(6)又は(7)に記載のセメント組成物用白華抑制剤であって、上記亜硝酸カルシウム含有物は、亜硝酸カルシウム水溶液であり、上記亜硝酸カルシウム水溶液は、上記亜硝酸カルシウム水溶液全量を100質量%として、上記亜硝酸カルシウムを5質量%以上30質量%以下で含有する。
(9)本発明の実施形態に係るセメント組成物用白華抑制方法は、上記(3)から(8)のいずれかに記載のセメント組成物用白華抑制方法であって、上記亜硝酸カルシウムを添加する工程は、上記セメント組成物を即時脱型方式によって成形する成形工程を備える。
(10)本発明の実施形態に係るセメント製品は、セメントを含むセメント組成物に亜硝酸カルシウムが添加されたものである。