特許第6642023号(P6642023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642023
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】脱酸素剤及び脱酸素処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/12 20060101AFI20200127BHJP
   F22B 37/52 20060101ALI20200127BHJP
   F22B 37/56 20060101ALI20200127BHJP
   C23F 11/14 20060101ALI20200127BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
   C23F11/12
   F22B37/52 Z
   F22B37/56 Z
   C23F11/14 101
   C02F1/58 T
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-7934(P2016-7934)
(22)【出願日】2016年1月19日
(65)【公開番号】特開2017-128755(P2017-128755A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100113561
【弁理士】
【氏名又は名称】石村 理恵
(72)【発明者】
【氏名】林 倩
(72)【発明者】
【氏名】志村 幸祐
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/018508(WO,A1)
【文献】 特開昭57−204288(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/153058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/12
C02F 1/58
C23F 11/14
F22B 37/52
F22B 37/56
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるヒドロキシルアミン誘導体のうちから選ばれる少なくともいずれか1種の化合物(A)、下記一般式(2)で表されるアミノフェノール及びその誘導体のうちから選ばれる少なくともいずれか1種の化合物(B)、並びにレゾルシノール、オルシノール及び没食子酸プロピルのうちから選ばれる少なくとも1種の化合物(C)を含む、脱酸素剤。
【化1】

(式(1)中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基である。)
【化2】

(式(2)中、R〜Rは、少なくともいずれか1つがアミノ基であり、残りはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルキルオキシ基及び下記一般式(3)で表される基のうちのいずれかである。)
【化3】

(式(3)中、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【請求項2】
前記化合物(A)100質量部に対して、前記化合物(B)及び前記化合物(C)の合計が5〜150質量部であり、かつ、前記化合物(B)と前記化合物(C)との質量比が1:10〜10:1である、請求項1に記載の脱酸素剤。
【請求項3】
前記化合物(A)が、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン及びN−イソプロピルヒドロキシルアミンのうちから選ばれる少なくともいずれか1種である、請求項1又は2に記載の脱酸素剤。
【請求項4】
前記化合物(B)が、4−アミノフェノール、2−アミノフェノール、4−アミノ−3−メチルフェノール、3−アミノ−4−メチルフェノール及び4−アミノ−2−(アミノメチル)フェノールのうちから選ばれる少なくともいずれか1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱酸素剤。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の脱酸素剤を、ボイラ又は蒸気発生器の給水系に添加する、脱酸素処理方法。
【請求項6】
前記化合物(A)が0.001〜1000mg/Lとなるように前記脱酸素剤を添加する、請求項に記載の脱酸素処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中溶存酸素を除去し、特に、ボイラや蒸気発生器等の水系システムにおける水中溶存酸素を除去することができ、腐食防止に有効な脱酸素剤及び脱酸素処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラや蒸気発生器等の給水に含まれている溶存酸素は、ボイラ本体、ボイラの前段に設けられる熱交換器やエコノマイザ、ボイラの後段に設けられる蒸気・復水系配管等のボイラシステムのあらゆる箇所での腐食の原因となる。このため、ボイラシステムの腐食を防止するためには、給水中の溶存酸素を除去することが必要となる。
【0003】
溶存酸素を除去する脱酸素処理方法としては、通常、化学的処理方法が用いられ、場合によっては、物理的処理方法も併用されている。物理的処理方法としては、具体的には、加熱脱気、真空脱気、膜脱気等の方法が用いられている。一方、化学的処理方法としては、従来、脱酸素剤としてヒドラジンをボイラ給水に添加する方法が広く採用されていた。
しかしながら、ヒドラジンは、毒性が問題視されるようになり、これを代替する脱酸素剤が求められていた。
【0004】
新たな脱酸素剤としては、例えば、カルボヒドラジド、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物、アミノフェノール化合物、タンニン酸、没食子酸及びその誘導体、ヒドロキシルアミン等が提案されている。
【0005】
具体的には、特許文献1には、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン(以下、DEHAと略称する場合がある。)及び4−アミノ−3−メチルフェノールの混合添加により、優れた脱酸素効果が得られることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、DEHA、1,4−ジヒドロキシベンゼン誘導体であるtert−ブチルヒドロキノン、及び1,3−ジヒドロキシベンゼン誘導体であるオルシノールの混合組成物による脱酸素剤が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、N−置換アミノ基を有する複素環式化合物として1−アミノピロリジンと、ヒドロキシベンゼン誘導体としてハイドロキノンを含有する脱酸素剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2015/018508号
【特許文献2】国際公開第2012/153058号
【特許文献3】特許第3552460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ヒドラジンを代替する上記のような脱酸素剤のうち、カルボヒドラジドは、170℃以上の高温になるとヒドラジンを生成するため、根本的な解決をもたらすものとは言えない。また、タンニンは、高温水中で濃度が高くなると脱酸素処理した水が着色するという課題を有している。また、ヒドロキシルアミン等のその他の脱酸素剤は、酸素との反応速度が小さいため、十分な脱酸素効果を得るためには、多量に使用しなければならない。
【0010】
上記特許文献1又は2には、ヒドロキシルアミン誘導体であるDEHAを、特定のアミノフェノール化合物又は特定のジヒドロキシベンゼン誘導体と併用することが記載されているが、これらの脱酸素剤であっても、ボイラシステムにおける脱酸素効果は十分であるとは言えなかった。
【0011】
また、上記特許文献3に記載の脱酸素剤は、弱酸性のヒドロキシベンゼン誘導体が塩基性のN−置換アミノ基を有する複素環式化合物によって中和される形で水に溶解するものであるため、溶解し難く、固体として残留する場合もあり、必ずしも十分な脱酸素効果が得られるとは言えないものであった。また、これらのヒドロキシベンゼン誘導体のうち、ハイドロキノン等は変異原性が認められ、安全性に対する懸念がある。
【0012】
本発明は、このような状況下でなされたものであり、安全性が高く、かつ、水溶性に優れ、温度や圧力が大きく変動するボイラや蒸気発生器等の水系システムにおいても、水中溶存酸素を効果的に除去し得る脱酸素剤及びこれを用いた脱酸素処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、脱酸素剤の構成成分としてヒドロキシルアミン誘導体を用いるとともに、これと酸素との反応速度を効果的に増大させる化合物との併用により、温度や圧力が大きく変動するボイラや蒸気発生器等の水系システムにおいても、優れた脱酸素効果が得られることを見出したことに基づいてなされたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、次の[1]〜[7]を提供する。
[1]下記一般式(1)で表されるヒドロキシルアミン誘導体のうちから選ばれる少なくともいずれか1種の化合物(A)、下記一般式(2)で表されるアミノフェノール及びその誘導体のうちから選ばれる少なくともいずれか1種の化合物(B)、並びにレゾルシノール及びその誘導体のうちから選ばれる少なくとも1種の化合物(C)を含む、脱酸素剤。
【0015】
【化1】

(式(1)中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基である。)
【0016】
【化2】

(式(2)中、R〜Rは、少なくともいずれか1つがアミノ基であり、残りはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルキルオキシ基及び下記一般式(3)で表される基のうちのいずれかである。)
【0017】
【化3】

(式(3)中、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0018】
[2]前記化合物(A)100質量部に対して、前記化合物(B)及び前記化合物(C)の合計が5〜150質量部であり、かつ、前記化合物(B)と前記化合物(C)との質量比が1:10〜10:1である、上記[1]に記載の脱酸素剤。
[3]前記化合物(A)が、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン及びN−イソプロピルヒドロキシルアミンのうちから選ばれる少なくともいずれか1種である、上記[1]又は[2]に記載の脱酸素剤。
[4]前記化合物(B)が、4−アミノフェノール、2−アミノフェノール、4−アミノ−3−メチルフェノール、3−アミノ−4−メチルフェノール及び4−アミノ−2−(アミノメチル)フェノールのうちから選ばれる少なくともいずれか1種である、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の脱酸素剤。
[5]前記化合物(C)が、レゾルシノール、オルシノール及び没食子酸プロピルのうちから選ばれる少なくともいずれか1種である、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の脱酸素剤。
【0019】
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の脱酸素剤を、ボイラ又は蒸気発生器の給水系に添加する、脱酸素処理方法。
[7]前記化合物(A)が0.001〜1000mg/Lとなるように前記脱酸素剤を添加する、上記[6]に記載の脱酸素処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の脱酸素剤は、安全性が高く、かつ、水溶性に優れ、水中溶存酸素を効果的に除去することができる。特に、温度や圧力が大きく変動するボイラや蒸気発生器等の水系システムにおいても、優れた脱酸素効果を発揮することができる。
したがって、本発明の脱酸素剤及び脱酸素処理方法は、ボイラや蒸気発生器等の腐食防止に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の脱酸素剤及びこれを用いた脱酸素処理方法を詳細に説明する。
【0022】
[脱酸素剤]
本発明の脱酸素剤は、下記一般式(1)で表されるヒドロキシルアミン誘導体のうちから選ばれる少なくともいずれか1種の化合物(A)、下記一般式(2)で表されるアミノフェノール及びその誘導体のうちから選ばれる少なくともいずれか1種の化合物(B)、並びにレゾルシノール及びその誘導体のうちから選ばれる少なくとも1種の化合物(C)を含むものである。
このような、ヒドロキシルアミン誘導体である化合物(A)、アミノフェノール及びその誘導体である化合物(B)、並びにレゾルシノール及びその誘導体である化合物(C)を必須成分とする脱酸素剤によれば、化合物(B)又は(C)のいずれか一方を化合物(A)と併用した従来の脱酸素剤に比べて、化合物(B)及び(C)の両者による相乗効果によって、水中溶存酸素をより効果的に除去することができる。また、水溶性に優れ、取り扱い容易性に優れた脱酸素剤とすることができる。
【0023】
(化合物(A))
化合物(A)は、下記一般式(1)で表されるヒドロキシルアミン誘導体のうちから選ばれる少なくともいずれか1種である。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0024】
【化4】
【0025】
式(1)中、Rは水素又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基である。R及びRのいずれも、前記アルキル基の炭素数は1〜3であることが好ましい。
【0026】
化合物(A)の具体例としては、N−メチルヒドロキシルアミン、N−エチルヒドロキシルアミン、N−イソプロピルヒドロキシルアミン、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン(DEHA)、N−メチル−N−エチルヒドロキシルアミン等が挙げられ、これらのうち、DEHA及びN−イソプロピルヒドロキシルアミンが好ましく、DEHAが特に好ましい。
【0027】
(化合物(B))
化合物(B)は、下記一般式(2)で表されるアミノフェノール及びその誘導体のうちから選ばれる少なくともいずれか1種である。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
【化5】
【0029】
式(2)中、R〜Rは、少なくともいずれか1つがアミノ基であり、残りはそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルキルオキシ基及び下記一般式(3)で表される基のうちのいずれかである。前記アルキル基又は前記アルキルオキシ基の炭素数は1又は2であることが好ましい。
【0030】
【化6】
【0031】
式(3)中、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。R及びRのいずれも、前記アルキル基の炭素数は1又は2であることが好ましい。
【0032】
化合物(B)の具体例としては、4−アミノフェノール、2−アミノフェノール、4−アミノ−3−メチルフェノール、3−アミノ−4−メチルフェノール、4−アミノ−2−(アミノメチル)フェノール等が挙げられ、これらのうち、4−アミノ−3−メチルフェノールが特に好ましい。
【0033】
(化合物(C))
化合物(C)は、レゾルシノール及びその誘導体のうちから選ばれる少なくとも1種である。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
レゾルシノールは、ベンゼン環の1,3位の水素がヒドロキシ基に置換した構造を持つベンゼンジオール(ジヒドロキシベンゼン)であるが、ベンゼン環に3個以上のヒドロキシ基を有していてもよい。
化合物(C)の具体例としては、レゾルシノール、オルシノール(5−メチルレソルシノール)、没食子酸プロピル等が挙げられ、これらのうち、オルシノール及び没食子酸プロピルが特に好ましい。
【0034】
前記脱酸素剤は、化合物(A)〜(C)が予め調製混合されたものであっても、各化合物が使用時にそれぞれ添加されるものであってもよい。添加する際の取り扱い容易性等の観点からは、予め調製混合されたものであることが好ましい。
また、化合物(B)及び(C)自体は、水への溶解性は低い場合が多いが、ボイラ等の水系に添加する際の取り扱い性や、溶解又は分散性等の観点から、水を媒体とした混合液であることが好ましい。この場合、混合液中の化合物(A)〜(C)の合計含有量は、取り扱い性や各化合物の水溶性の観点から、5〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜20質量%である。このような混合液であれば、化合物(A)〜(C)が均一に溶解しているため、不溶分を含む均一でない状態と比べて、脱酸素剤中の各成分を簡便に正確な量で添加することができるという利点を有している。
なお、化合物(A)〜(C)は、脱酸素剤のうちの媒体を除く成分中の主成分であり、前記媒体を除く成分の合計量のうちの化合物(A)〜(C)の合計量は、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90〜100質量%である。
【0035】
化合物(A)〜(C)の混合質量比は、良好な脱酸素効果を得る観点から、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)及び(C)の合計が5〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは10〜100質量部である。
また、化合物(B)と化合物(C)との質量比は、化合物(A)の酸素との反応速度を十分に増大させる観点から、1:10〜10:1であることが好ましく、より好ましくは1:5〜5:1、さらに好ましくは1:2〜2:1である。
【0036】
前記脱酸素剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、化合物(A)〜(C)以外に、アルカリ剤やスケール防止剤、防食剤等の従来の脱酸素剤に用いられている添加剤成分を、必要に応じて添加含有させてもよい。例えば、ポリアクリル酸又はその塩、ポリメタクリル酸又はその塩等のアクリル酸系ポリマー;ヒドラジン、カルボヒドラジド、タンニン等の還元剤(他の脱酸素剤);オルソリン酸(塩)、トリポリリン酸(塩)、ハキサトタルリン酸(塩)、ホスホン酸(塩)、ホスフィン酸(塩);アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩;モルホリン、メトキシプロピルアミン、ジグリコールアミン、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、シクロへキシルアミン、アンモニア、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミン、N−オレイル−1,3−ジアミノプロパン、N−オレイル−プロピレントリアミンなどの揮発性アミン類等が挙げられる。
【0037】
[脱酸素処理方法]
本発明の脱酸素処理方法は、前記脱酸素剤を、ボイラ又は蒸気発生器の給水系に添加して脱酸素処理を行う方法である。水中溶存酸素を効果的に除去する観点から、ボイラ又は蒸気発生器における給水タンクや給水ライン等の給水系に、前記脱酸素剤を添加することが好ましい。
前記脱酸素剤の添加は、上述したように、予め調製混合されたものを添加してもよく、あるいはまた、各化合物(A)〜(C)が同一の給水系に別々に添加される態様であってもよい。
【0038】
前記脱酸素処理方法は、前記脱酸素剤を給水系に添加する工程を含んでいれば、通常のボイラ又は蒸気発生器の水系処理で行われる他の工程を含んでいてもよい。また、これらの水系処理のランニングコストの抑制の観点から、加熱脱気、真空脱気、膜脱気等の物理的脱酸素処理方法を併用してもよい。
【0039】
前記脱酸素剤の添加量は、水中溶存酸素濃度に応じて適宜調整されるが、ボイラ又は蒸気発生器の水系全体において十分な脱酸素効果を得る観点から、化合物(A)の添加濃度が給水系で0.001〜1000mg/Lとなるようにすることが好ましく、より好ましくは0.01〜200mg/Lとする。
【0040】
前記給水系は、良好な脱酸素効果を得る観点から、pHが5〜12であることが好ましく、より好ましくは8.5〜10.5である。ただし、ボイラ水系等のように後段で濃縮を伴う水系においては、pHが高すぎると、後段の装置の運転に影響を及ぼす場合があることに留意する必要がある。
また、前記脱酸素剤が添加される水系の温度及び圧力は特に限定されるものではなく、通常のボイラや蒸気発生器等の水系システムにおける運転条件での温度及び圧力であれば、変動する条件下においても、前記脱酸素剤は良好な脱酸素効果を発揮し得る。
【0041】
前記脱酸素処理方法においては、例えば、給水中やブロー水中の溶存酸素濃度を予め測定しておき、その測定値に応じて、給水に対する脱酸素剤の添加量を自動制御することにより、ボイラ又は蒸気発生器の水系全体で、安定的に脱酸素効果を発揮させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
容量4Lの圧力容器を備えたテストボイラにおいて、溶存酸素濃度500μg/Lの40℃の超純水を給水し、水酸化ナトリウムの添加によりpHを10.5に調整した。缶内温度110℃、缶内圧力0.2MPaで蒸気を発生させずに15時間連続運転した後、ブロー水中の溶存酸素濃度を測定した。
その後、前記給水に、化合物(A)としてDEHA、化合物(B)として4−アミノ−3−メチルフェノール、及び化合物(C)としてオルシノールを質量比100:10:10で、水を媒体として混合した脱酸素剤の希釈液(DEHA濃度1000mg/L)を、給水中において、化合物(A)が3mg/L、化合物(B)が0.3mg/L、化合物(C)が0.3mg/Lとなるように添加し、上記と同じ条件でボイラを運転した後、ブロー水中の溶存酸素濃度を測定した。そして、脱酸素剤添加前の溶存酸素濃度からの低減率を脱酸素率として求めた。
なお、ブロー水中の溶存酸素濃度は、ブロー水を熱交換器にて室温(30℃)に冷却し、溶存酸素計を用いて測定した。
【0044】
(実施例2〜6、比較例1〜6)
実施例1の脱酸素剤の成分の化合物(A)〜(C)及びこれらの添加濃度を下記表1に示すように変更し、それ以外は実施例1と同様にして、それぞれ、ブロー水中の溶存酸素濃度を測定し、脱酸素率を求めた。
なお、比較例2,5及び6の脱酸素剤は、給水への添加前は媒体の水に不溶分が多く残存し、均一に混合することができなかったが、添加後は不溶分はなくなった。これら以外の脱酸素剤は、いずれも、均一な混合溶液であり、容易に均一に添加することができた。
【0045】
これらの実施例及び比較例の結果を表1にまとめて示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示した結果から分かるように、本発明の脱酸素剤を所定濃度で給水系に添加することにより(実施例1〜6)、従来の脱酸素剤成分を用いた場合(比較例1〜6)よりも、脱酸素率が向上することが認められた。