(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642078
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】粉末X線回折分析用の試料作成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2005 20180101AFI20200127BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20200127BHJP
【FI】
G01N23/2005
G01N1/28
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-24302(P2016-24302)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-142187(P2017-142187A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 大河
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光
(72)【発明者】
【氏名】中村 公二
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−201616(JP,A)
【文献】
特開2012−242171(JP,A)
【文献】
特開2008−058323(JP,A)
【文献】
特開平11−273678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/44、23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向性を有する分析対象粉末と樹脂である包埋剤とを混合し、該包埋剤を硬化させて固形物を得、
前記固形物を粉砕して処理後粉末試料を得る
ことを特徴とする粉末X線回折分析用の試料作成方法。
【請求項2】
前記包埋剤はエポキシ樹脂である
ことを特徴とする請求項1記載の粉末X線回折分析用の試料作成方法。
【請求項3】
配向性を有する分析対象粉末と包埋剤とを混合し、該包埋剤を硬化させて固形物を得、
前記固形物を粉砕して処理後粉末試料を得る方法であって、
前記分析対象粉末と前記包埋剤との混合比率は、見掛体積において、前記分析対象粉末1に対して前記包埋剤0.5〜2である
ことを特徴とする粉末X線回折分析用の試料作成方法。
【請求項4】
配向性を有する分析対象粉末と包埋剤とを混合し、該包埋剤を硬化させて固形物を得、
前記固形物を粉砕して処理後粉末試料を得る方法であって、
前記処理後粉末試料の粒径は前記分析対象粉末の粒径以上である
ことを特徴とする粉末X線回折分析用の試料作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末X線回折分析用の試料作成方法に関する。さらに詳しくは、配向性を有する粉末試料をX線回折分析する際の試料作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末X線回折分析は試料の結晶性や結晶構造を分析する手法として広く知られている(例えば、特許文献1)。一般に、粉末X線回折分析の試料の調整は以下の手順で行われる。まず、試料を粉砕して適当な粒径の粉末試料を得る。つぎに、粉末試料を試料ホルダに充填する。試料ホルダはガラスや金属などの板材に凹部を形成したものである。試料ホルダの凹部に粉末試料を均一に充填する。この際、スライドガラス等を試料ホルダに擦り合わせることで、試料面を平坦にする。
【0003】
前記の方法で配向性を有する粉末試料を試料ホルダに充填すると、結晶子の向きが特定の方向に偏る。その結果、X線回折分析において、特定の回折X線だけが強く観測されてしまう。この現象は選択配向と称される。
【0004】
粉末試料をキャピラリ(内径1.0mm程度のパイプ)に充填する方法であれば、選択配向を防止できる。しかし、この方法は粉末試料の充填にコツが必要である。また、キャピラリに充填できる試料の量は少量であるため、回折X線の強度が弱い。そのため、試料ホルダを用いた場合に比べて、X線回折分析に10倍程度の時間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−31569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、配向性を有する粉末試料であっても選択配向が生じない粉末X線回折分析用の試料作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の粉末X線回折分析用の試料作成方法は、配向性を有する分析対象粉末と
樹脂である包埋剤とを混合し、該包埋剤を硬化させて固形物を得、前記固形物を粉砕して処理後粉末試料を得ることを特徴とする。
第2発明の粉末X線回折分析用の試料作成方法は、第1発明において、前記包埋剤はエポキシ樹脂であることを特徴とする。
第3発明の粉末X線回折分析用の試料作成方法は、
配向性を有する分析対象粉末と包埋剤とを混合し、該包埋剤を硬化させて固形物を得、前記固形物を粉砕して処理後粉末試料を得る方法であって、前記分析対象粉末と前記包埋剤との混合比率は、見掛体積において、前記分析対象粉末1に対して前記包埋剤0.5〜2であることを特徴とする。
第4発明の粉末X線回折分析用の試料作成方法は、
配向性を有する分析対象粉末と包埋剤とを混合し、該包埋剤を硬化させて固形物を得、前記固形物を粉砕して処理後粉末試料を得る方法であって、前記処理後粉末試料の粒径は前記分析対象粉末の粒径以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、処理後粉末試料を試料ホルダに充填しても選択配向が生じない。
また、包埋剤が樹脂であるので、固形物の作成が容易である。
第2発明によれば、包埋剤がエポキシ樹脂であるので、硬化が容易である。
第3発明によれば、分析対象粉末1に対して包埋剤を0.5以上とすることで、分析対象粉末を包埋剤中に十分に分散できる。分析対象粉末1に対して包埋剤を2以下とすることで、X線回折分析において包埋剤により生じるバックグラウンドを抑えることができる。
第4発明によれば、処理後粉末試料の粒径が分析対象粉末の粒径以上であるので、分析対象粉末が包埋剤でコーティングされた状態を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る試料作成方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る粉末X線回折分析用の試料作成方法は、X線回折分析の対象である分析対象粉末に処理を施して処理後粉末試料を得る方法である。前記処理は、混合工程10、硬化工程20、粉砕工程30からなる。以下、順に説明する。
【0011】
(分析対象粉末)
分析対象粉末は配向性を有する粉末である。配向性を有する粉末としては板状や針状の粒子が挙げられる。このような粉末として、二硫化モリブデン、グラファイト、雲母、
酸化チタン(IV)などが知られている。
【0012】
分析対象粉末は予め粉砕などの処理により適当な粒径に整えられている。分析対象粉末の粒径は特に限定されないが、100μm程度とすれば後述の混合工程10において包埋剤と混合しやすいので好ましい。
【0013】
(混合工程10)
混合工程10では分析対象粉末と包埋剤とを混合し、混合物を得る。包埋剤中に分析対象粉末が分散した状態とする。
【0014】
包埋剤は分析対象粉末が溶解することがなく、硬化後には粉砕することが可能な硬度を有していれば特に限定されない。X線回折パターンへの影響を抑えるため、包埋剤はアモルファスが好ましい。包埋剤として、樹脂、ガラス、金属などを用いることができる。包埋剤として樹脂を用いれば、後述の固形物の作成が容易であるので好ましい。樹脂としては何らかの処理により硬化可能な樹脂が用いられる。このような樹脂として熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が挙げられる。また、液体または粉末の樹脂を用いれば、分析対象粉末との混合が容易である。特に、顕微鏡観察用の包埋樹脂が好ましい。包埋樹脂として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ベークライト(フェノール樹脂)などが知られている。
【0015】
(硬化工程20)
硬化工程20では包埋剤を硬化させて固形物を得る。包埋剤中に分析対象粉末が分散した状態のまま硬化できればよく、硬化方法は特に限定がない。例えば、混合工程10で得られた混合物を型に充填し、硬化させる。混合物を充填する型は、得られた固形物の粉砕に障害とならない形状や寸法であればよい。
【0016】
包埋剤としてエポキシ樹脂を用いた場合、所定時間放置するだけで硬化する。このように、包埋剤としてエポキシ樹脂を用いれば、硬化が容易である。
【0017】
包埋剤としてアクリル樹脂を用いた場合には、硬化剤を添加することで硬化する。包埋剤としてベークライトを用いた場合には、混合物を加圧加熱成形機にセットして、所定の硬化処理をする。
【0018】
(粉砕工程30)
粉砕工程30では固形物を粉砕して処理後粉末試料を得る。粉砕方法は特に限定されないが、例えば、ハンマーにより粗粉砕した後、乳鉢で微粉砕すればよい。
【0019】
以上の処理で得られた処理後粉末試料を試料ホルダに充填する。具体的には、試料ホルダの凹部に処理後粉末試料を盛り上げ、スライドガラス等を試料ホルダに擦り合わせることで、余分な試料を除去し、試料面を平坦にする。
【0020】
以上の手順で処理後粉末試料を試料ホルダに充填しても選択配向が生じない。そのため、X線回折分析において、特定の回折X線だけが強く観測されることがなく、精度の高い分析が可能となる。
【0021】
処理後粉末試料を用いると選択配向が生じない理由は以下のとおりと考えられる。
処理後粉末試料は分析対象粉末の表面が包埋剤でコーティングされたものである。処理後粉末試料は球形に近い形状であるか、分析対象粉末の結晶子の向きとは無関係の形状である。そのため、処理後粉末試料を試料ホルダに充填しても、分析対象粉末の結晶子がランダムな方向を向き、選択配向が生じない。
【0022】
前記混合工程10において、分析対象粉末と包埋剤との混合比率は、見掛体積において、分析対象粉末1に対して包埋剤0.5〜2とすることが好ましい。分析対象粉末に対して包埋剤が少ないと、包埋剤中に分析対象粉末が十分に分散できない恐れがある。そうすると、分析対象粉末のコーティングが不十分になる可能性がある。分析対象粉末1に対して包埋剤を0.5以上とすることで、分析対象粉末を包埋剤中に十分に分散できる。その結果、分析対象粉末を十分にコーティングできる。
【0023】
また、包埋剤が多すぎると、X線回折分析において包埋剤により生じるバックグラウンドが大きくなり、相対的に分析対象粉末の回折X線の強度が弱くなる。分析対象粉末1に対して包埋剤を2以下とすることで、X線回折分析において包埋剤により生じるバックグラウンドを抑えることができる。その結果、精度の高い分析が可能となる。
【0024】
前記粉砕工程30において、処理後粉末試料の粒径は分析対象粉末の粒径以上とすることが好ましい。処理後粉末試料を分析対象粉末の粒径未満まで粉砕すると、包埋剤でコーティングされていない分析対象粉末が生成され、選択配向が生じる。処理後粉末試料の粒径を分析対象粉末の粒径以上とすれば、分析対象粉末が包埋剤でコーティングされた状態を維持できる。
【0025】
処理後粉末試料の粒径は試料ホルダの凹部の深さに対して十分に小さい方が好ましい。例えば、処理後粉末試料の粒径の上限を試料ホルダの凹部の深さの5分の1とすることが好ましい。
【実施例】
【0026】
つぎに、実施例を説明する。
(実施例1)
分析対象粉末として二
硫化モリブデン粉末を用いた。分析対象粉末の粒径は篩下100μmであり、重量は0.5gである。包埋剤として液体のエポキシ樹脂(丸本ストルアス株式会社製、エポフィックス)を用いた。
【0027】
分析対象粉末とエポキシ樹脂とを内径25mm、高さ20mmの円筒形の鋼製筒に入れ、ガラス棒で60秒撹拌した。ここで、分析対象粉末とエポキシ樹脂との混合比率を、見掛体積において1:1とした。空気中に4分間放置して、直径25mm、高さ10mmの円筒形の固形物を得た。得られた固形物をハンマーで数mmの粒度まで粉砕した。つぎに、得られた粉末をメノウ乳鉢で100μm篩下となるまで粉砕して、処理後粉末試料を得た。
【0028】
処理後粉末試料をガラス製試料ホルダの凹部に充填した。この際、スライドガラスを試料ホルダに擦り合わせることで、試料面を平坦にした。試料ホルダとして、直径25mm、深さ0.5mmの凹部を有するものを用いた。X線回折分析装置として、PANalyticl社製 型式:X’Pert PRO(Cu−Kα線 45kV 40mA)を用いて、X線回折分析を行った。
【0029】
図2にX線回折分析により得られたX線回折パターンを示す。
図2の横軸は入射角(2θ)、縦軸は回折強度である。
図2中の縦線は予想されるピーク位置、強度を示す。
図2から分かるように、X線回折パターンは予想されるピーク位置、強度と良く一致した。
【0030】
(比較例1)
粉末試料として二
硫化モリブデン粉末を用いた。粉末試料の粒径は篩下100μmであり、重量は0.5gである。粉末試料をガラス製試料ホルダの凹部に充填した。この際、スライドガラスを試料ホルダに擦り合わせることで、試料面を平坦にした。試料ホルダとして、直径25mm、深さ0.5mmの凹部を有するものを用いた。X線回折分析装置として、PANalyticl社製 型式:X’Pert PRO(Cu−Kα線 45kV 40mA)を用いて、X線回折分析を行った。
【0031】
図3にX線回折分析により得られたX線回折パターンを示す。
図3の横軸は入射角(2θ)、縦軸は回折強度である。
図3中の縦線は予想されるピーク位置、強度を示す。
図3から分かるように、X線回折パターンは比較的小さい角度領域では予想されるピーク位置と合致したが、比較的大きい角度領域では予想されるピーク位置とほとんど合致しなかった。
【0032】
以上より、実施例1では選択配向を防止でき、精度よく分析できることが確認された。
【符号の説明】
【0033】
10 混合工程
20 硬化工程
30 粉砕工程