(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642616
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】湿式塗装ブース循環水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/54 20060101AFI20200127BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20200127BHJP
C02F 1/24 20060101ALI20200127BHJP
C02F 1/40 20060101ALI20200127BHJP
B05B 14/462 20180101ALI20200127BHJP
B05B 16/00 20180101ALI20200127BHJP
【FI】
C02F1/54 G
C02F1/56 G
C02F1/24 B
C02F1/40 B
B05B14/462
B05B16/00
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-82086(P2018-82086)
(22)【出願日】2018年4月23日
(65)【公開番号】特開2019-188296(P2019-188296A)
(43)【公開日】2019年10月31日
【審査請求日】2019年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(74)【代理人】
【識別番号】100067839
【弁理士】
【氏名又は名称】柳原 成
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恒行
(72)【発明者】
【氏名】吉川 努
(72)【発明者】
【氏名】上野 健一
【審査官】
片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−173562(JP,A)
【文献】
特開2008−119612(JP,A)
【文献】
特開2008−264741(JP,A)
【文献】
特開2011−072866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/24、40、52−56
B01D 21/00−34
B05B 12/16−16/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式塗装ブースからピットに向かって流れる循環水、ピットに滞留している循環水、およびピットから湿式塗装ブースに向かって流れる循環水のうちの少なくともひとつに、マイクロナノバブル、フェノール樹脂溶液又は分散液、および重量平均分子量が1千以上100万以下である低分子カチオン性ポリマーの溶液又は分散液を添加して、塗料浮上スラッジを形成させ、次いで
循環水から塗料浮上スラッジの全部若しくは一部を除去する、
ことを含む、湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項2】
マイクロナノバブルの平均直径が100μm以下である、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去は、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水を取水装置にて取水することによって行われる、請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水に重量平均分子量が100万超である高分子カチオン性ポリマーの溶液又は分散液を添加し、
該高分子カチオン性ポリマーの溶液又は分散液の添加された表層水を取水装置にて取水し、取水装置にて取水された取水液に、浮上処理を施すことをさらに含む、請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
浮上処理が加圧浮上処理である、請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径が120μm以下である、請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
浮上処理を施す際に、アニオン性ポリマー溶液又は分散液を取水液に添加することをさらに含む、請求項4〜6のいずれかひとつに記載の処理方法。
【請求項8】
浮上処理の施された取水液に、濾過処理および/または脱水処理を施すことをさらに含む、請求項4〜7のいずれかひとつに記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式塗装ブース循環水の処理方法に関する。より詳細に、本発明は、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料を、不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジに高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる、湿式塗装ブース循環水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式塗装ブースにおいて塗着しなかった余剰塗料を循環水で捕集する。次いで循環水に捕集された余剰塗料を除去し、余剰塗料の除去された循環水を湿式塗装ブースで再使用する。そのために、湿式塗装ブース循環水に捕集された余剰塗料を除去する方法が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、塗料を塗着しようとする被塗装物を上方に位置させ、その下方に捕集液を張った捕集槽を備えた塗装ブースにおいて、捕集槽内にエアレータを備え、該エアレータの噴出口を略水平方向に向けて設置したことを特徴とする塗装ブースの汚水浄化システムを開示している。
【0004】
特許文献2は、湿式塗装ブースにおける塗装工程で、湿式塗装ブースに直接配設又は接続配設された受槽内の溶液に、比重が1より小さな微粒子、例えばマイクロバルーン、を多数注入し、その後、被塗装物に塗着しなかった余分な塗料ミストが前記溶液に取り込まれてなる塗料滓に、前記微粒子を付着させることにより、受槽内の液面に塗料滓一体微粒子として浮上させ、しかる後、該塗料滓一体微粒子を溶液から分離することを特徴とする塗料滓の浮上分離方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、湿式塗装ブース循環水に塗料ミストが取り込まれてなる塗料滓を、アルカリイオン水性洗浄剤固有のきめ細かな気泡を湿式塗装ブースのベンチュリーの機能によって超微粒子化した気泡で溶剤と不粘着化した塗料クズとに個別に気泡分離させて液面へと浮上分離浄化する方法を開示している。
【0006】
特許文献4は、マイクロバブル発生手段で発生させたマイクロバブルを、塗装ブースの塗料スラッジ処理槽内の塗装ブース循環水中に吐出し、塗料スラッジ処理槽から導いたマイクロバブルが混入した塗装ブース循環水を、塗装ブースの排気ダクト内で噴霧して、塗装ブース排気中の塗料ミストに接触させることを特徴とするマイクロバブルを使用した塗装ブースの塗料ミスト除去方法を開示している。。
【0007】
特許文献5は、鏡筒1内の上部に旋回用ファン4を配置し、鏡筒内へと塗装ミスト流を下方から吸い込み、マイクロバブルを発生するノズル2を下方に向けて配置し、ノズルからフィルム状に拡散する水微粒子群と塗装ミスト上昇流の混流により、旋回領域を形成し、この領域内を浮遊するマイクロバブルを含んだ水微粒子群に揮発性有機化合物や塗装ミストを吸着・酸化処理する、揮発性有機化合物・塗装ミスト除去装置を開示している。
【0008】
特許文献6は、湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤、及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に加圧浮上分離により余剰塗料を分離し、分離された余剰塗料を更に固液分離処理する湿式塗装ブース循環水の処理方法において、該カチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に更にアニオン性ポリマーを添加する工程を有することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−074084号公報
【特許文献2】特開2004−223492号公報
【特許文献3】特開2009−269024号公報
【特許文献4】特開2017−100049号公報
【特許文献5】実用新案登録第3158129号公報
【特許文献6】特開2011−072866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
水性塗料スラッジや親水性不粘着化剤で処理された塗料スラッジは強い親水性である。一方、マイクロバブルは疎水性である。そのため、マイクロバブルはスラッジに付着し難くいので浮上性の向上効果が十分に発揮されず、循環水の清澄性が安定しないことがある。
本発明の目的は、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料が親水性であるか疎水性であるかに関わらず、該余剰塗料を不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジに高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる、湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0012】
〔1〕 湿式塗装ブースからピットに向かって流れる循環水、ピットに滞留している循環水、およびピットから湿式塗装ブースに向かって流れる循環水のうちの少なくともひとつに、マイクロナノバブル、フェノール樹脂溶液又は分散液、および低分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液を添加して、塗料浮上スラッジを形成させ、次いで
循環水から塗料浮上スラッジの全部若しくは一部を除去する、
ことを含む、湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0013】
〔2〕 マイクロナノバブルの平均直径が100μm以下である、〔1〕に記載の処理方法。
〔3〕 塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去は、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水を取水装置にて取水することによって行われる、〔1〕または〔2〕に記載の処理方法。
〔4〕 塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水に高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液を添加し、
高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液の添加された表層水を取水装置にて取水し、取水装置にて取水された取水液に、浮上処理を施すことをさらに含む、〔3〕に記載の処理方法。
〔5〕 浮上処理が加圧浮上処理である、〔4〕に記載の処理方法。
〔6〕 加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径が120μm以下である、〔5〕に記載の処理方法。
〔7〕 浮上処理を施す際に、アニオン性ポリマー溶液又は分散液を取水液に添加することをさらに含む、〔4〕〜〔6〕のいずれかひとつに記載の処理方法。
〔8〕 浮上処理の施された取水液に、濾過処理および/または脱水処理を施すことをさらに含む、〔4〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載の処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法によれば、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料が親水性であるか疎水性であるかに関わらず、該余剰塗料を不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジ(フロック、スラグ)に高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる。そして、湿式塗装ブースに返送する循環水の清澄性を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の方法を実施するためのピットを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法を適用可能な湿式塗装ブースとしては、例えば、水膜状の循環水により余剰塗料を捕集する水流板式(水膜式)塗装ブース、シャワー状の循環水により余剰塗料を捕集するシャワー式塗装ブース、水膜式とシャワー式とを組み合わせた水膜・シャワー式塗装ブース、渦巻室における遠心力により分離された余剰塗料を水膜状の循環水に捕集するベンチュリー式塗装ブース等が挙げられる。
【0017】
湿式塗装ブースにおける余剰塗料の捕集によって得られる、余剰塗料と水とを含んでなる循環水(未処理循環水)は、湿式塗装ブースからピットに向かって流され、ピットに一時的に滞留させられる。循環水がピットに滞留している間に循環水から余剰塗料を取り除き、循環水を清澄化処理する。次いで処理済循環水をピットから湿式塗装ブースに向かって流し、湿式塗装ブースにおける余剰塗料の捕集に再使用する。ピットにおける循環水の滞留時間は、特に制限されないが、例えば、2〜5分間である。
ピットは、その形状によって特に限定されないが、通常、直方体形状の貯留スペースを有するものが用いられる。そして、未処理循環水が処理済循環水と混ざり難くするために、ピットへの未処理循環水の供給口は、ピットからの処理済循環水の抜出口とできるだけ離れた位置になるように、設置することが好ましい。例えば、
図1に示すように、ピットへの未処理循環水の供給口とピットからの処理済循環水の抜出口とを直方体形状の貯留スペースの対角線のほぼ両端に設けることができる。
【0018】
本発明の処理方法においては、湿式塗装ブースからピットに向かって流れる循環水(D)、ピットに滞留している循環水(R)、およびピットから湿式塗装ブースに向かって流れる循環水(F)のうちの少なくともひとつに、マイクロナノバブル、フェノール樹脂溶液または分散液(以下 これらを併せて「フェノール樹脂含有液」と記すことがある。)、および低分子カチオン性ポリマー溶液または分散液(以下 これらを併せて「低分子カチオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)を添加して塗料浮上スラッジを形成させる。
マイクロナノバブルが添加される循環水、フェノール樹脂含有液が添加される循環水、および低分子カチオン性ポリマー含有液が添加される循環水は、同じステージにある循環水であってもよいが、異なるステージにある循環水であることが好ましい。例えば、塗料浮上スラッジの形成の観点から、マイクロナノバブルが添加される循環水は、好ましくは循環水(R)であり、フェノール樹脂含有液が添加される循環水および低分子カチオン性ポリマー含有液が添加される循環水は、好ましくは循環水(D)または循環水(F)である。
【0019】
本発明に用いられるフェノール樹脂溶液又は分散液は、水との親和性の高い溶媒若しくは分散媒にフェノール樹脂を溶解若しくは分散させてなるものである。
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との縮合物またはこれの変性物であって、架橋硬化させる前の物である。フェノール樹脂の具体例としては、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物などを挙げることができる。変性物としては、アルキル変性フェノール樹脂、ポリビニルフェノールなどを挙げることができる。これらのフェノール樹脂はノボラック型であっても、レゾール型であってもよい。また、該フェノール樹脂は、分子量その他物性によって特に制限はなく、湿式塗装ブース循環水処理用として一般に使用されているものの中から適宜選択して使用することができる。フェノール樹脂は1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明に用いられるフェノール樹脂は、重量平均分子量が、好ましくは10000以下、より好ましくは7000以下である。
【0020】
フェノール樹脂含有液に使用され得る溶媒若しくは分散媒としては、アセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール、アルカリ水溶液、アミン等を挙げることができる。これら溶媒のうち、アルカリ水溶液が好ましい。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などを挙げることができる。フェノール樹脂をアルカリ水溶液に溶解ないし分散させてなる物は、アルカリ成分の濃度が好ましくは1〜25質量%であり、フェノール樹脂の濃度が好ましくは1〜50質量%である。
【0021】
フェノール樹脂(固形分)の添加量は、余剰塗料の不粘着化の観点から、循環水1Lに対して、好ましくは1mg以上、より好ましくは5mg以上である。過度の発泡および運転コストの上昇を抑えるという観点から、フェノール樹脂(固形分)の添加量の上限は、循環水1Lに対して、好ましくは1000mg、より好ましくは200mgである。また、フェノール樹脂(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、フェノール樹脂(固形分)の添加量の上限は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは100質量%、より好ましくは10質量%である。フェノール樹脂は、水性塗料を捕捉した表面泡末の多い循環水、または表面電位がほとんどゼロの有機溶剤塗料を捕捉した循環水における、水処理に好適である。フェノール樹脂含有液の添加によって、循環水中の余剰塗料の粘着性を下げる(不粘着化する)こともできる。
【0022】
本発明に用いられる低分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液は、水との親和性の高い溶媒若しくは分散媒に低分子カチオン性ポリマーを溶解ないし分散させてなるものである。本発明に用いられる低分子カチオン性ポリマーは、例えば、重量平均分子量が、好ましくは1千以上100万以下、より好ましくは5千以上30万以下である。
【0023】
低分子カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、カチオン変性ポリアクリルアミド、ポリアミン、ポリアミンスルホン、ポリアミド、ポリアルキレン・ポリアミン、アミン架橋重縮合体、ポリアクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド(DADMAC)重合物、アルキルアミンとエピクロルヒドリンとの重縮合物、アルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンとの重縮合物、ジシアンジアミドとホルマリンとの重縮合物、DAM(ジメチルアミノエチルメタアクリレート)の酸塩又は四級アンモニウム塩のホモポリマー又はコポリマー、DAA(ジメチルアミノエチルアクリレート)の酸塩又は四級アンモニウム塩のホモポリマー又はコポリマー、ポリビニルアミジン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドとアクリルアミドとの共重合物、メラミンとアルデヒドとの重縮合物、ジシアンジアミドとアルデヒドとの重縮合物、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの重縮合物などを挙げることができる。なお、アルキルアミンとエピクロロヒドリンの重縮合物におけるアルキルアミンとしては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどを挙げることができる。メラミン・アルデヒド縮合物およびジシアンジアミド・アルデヒド重縮合物におけるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ホルムアルデヒドの3量体であるパラホルムアルデヒドなどを挙げることができる。低分子カチオン性ポリマーは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
低分子カチオン性ポリマー含有液に使用され得る溶媒若しくは分散媒としては、水、アセトン、メタノールなどを挙げることができる。
【0025】
低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、循環水1Lに対して、好ましくは0.1〜100mg、好ましくは0.3〜30mgである。また、低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。低分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量の下限は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは5質量%、より好ましくは1質量%である。
低分子カチオン性ポリマー含有液の添加によって、循環水中の余剰塗料の荷電を中和して微細なフロックを形成しやすくすることができる。
【0026】
フェノール樹脂含有液および低分子カチオン性ポリマー含有液の供給口は、湿式塗装ブースからピットに向かって流れる循環水(D)用のライン、ピットから湿式塗装ブースに向かって流れる循環水(F)用のライン、および循環水(R)が滞留しているピットのいずれかに設けることができ、フェノール樹脂含有液および低分子カチオン性ポリマー含有液が循環水に均一に混ざり合うという観点から、循環水(D)用のライン若しくは循環水(F)用のラインに、またはピットの循環水(D)がピットに供給される口の近くに、それぞれ設けることが好ましい。
【0027】
マイクロナノバブルは、平均直径が、好ましくは100μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下の気泡である。マイクロナノバブルの平均直径の下限は、好ましくは0.1μm、より好ましくは0.5μm、さらに好ましくは1μmである。マイクロナノバブルは、超音波、衝撃波等により発生する急激な圧力変化を利用する方式(圧壊方式)、気体と液体が混合した状態でベンチュリー管、高速旋回ロータなどにより発生する乱流によって気体を千切る様にして気泡化する方式(せん断方式)、圧壊方式とせん断方式とを組み合わせた方式、筒に供給される気体と液体とを混合圧縮して気泡を含む液を得、これを気泡拡散孔を通して外に放出する方式(特開2001−104764号公報など参照)、コンプレッサー等による加圧によって液中へ強制的に気体を過飽和溶解させ、その液体を急激に減圧して気体を放出させる方式などによって、生成させることができる。これらのうち、圧壊方式、せん断方式、圧壊方式とせん断方式とを組み合わせた方式で生成させることが好ましい。
マイクロナノバブルを発生させる装置として、市販品を用いることができる。例えば、タフバブラー(ビーエルダイナミクス社製)、マイクロバブラー(野村電子工業社製)、マイクロバブルジェネレータMBG(ニクニ社製)などを挙げることができる。
マイクロナノバブルの添加量(空気供給量)は、余剰塗料(固形分)1gに対して、好ましくは0.005〜0.30g、より好ましくは0.05〜0.15gである。マイクロナノバブルの添加によって、余剰塗料のフロックなどを浮上させることができる。
【0028】
また、マイクロナノバブルの供給口は、湿式塗装ブースからピットに向かって流れる循環水(D)用のライン、ピットから湿式塗装ブースに向かって流れる循環水(F)用のライン、および循環水(R)が滞留しているピットのいずれかに設けることができ、マイクロナノバブルの浮上行程を長く確保できるという観点から、ピットに、より具体的にはピットの底にできるだけ近い位置に設けることが好ましい。未処理循環水中の塗料がフェノール樹脂および低分子カチオン性ポリマーの作用によって低粘着性のフロックになった状態でマイクロナノバブルを作用させるようにすることが、効率的であると考えられるので、マイクロナノバブルの供給口は、フェノール樹脂含有液または低分子カチオン性ポリマー含有液の供給口の下流にフェノール樹脂および低分子カチオン性ポリマーが循環水に均一に混ざりあう程度の距離をあけて設置することが好ましく、フェノール樹脂含有液または低分子カチオン性ポリマー含有液の供給口をピットに設けた場合にはピットに設置されたフェノール樹脂含有液または低分子カチオン性ポリマー含有液の供給口からピット全長の5%〜60%程度離れた位置に設置することが好ましい。ピット全長が長い場合には、一つのピットに、マイクロナノバブルの供給口を複数設けてもよい。
【0029】
本発明においては、マイクロナノバブル、フェノール樹脂含有液、および低分子カチオン性ポリマー含有液以外に、不粘着化剤、有機凝結剤、無機凝結剤、pH調整剤などを、本発明の効果を阻害しない限り、添加することができる。
不粘着化剤としては、カルボン酸系重合体、タンニン系化合物、タンニン基剤重合体、メラミンホルムアルデヒド縮合物、メラミンジシアンジアミド縮合物、直鎖型カチオン性ポリアミン、亜鉛酸ナトリウム、アルミナゾルなどを挙げることができる。
有機凝結剤としては、アルギン酸ソーダ;キチン・キトサン系凝結剤;TKF04株、BF04などのバイオ凝結剤などを挙げることができる。
無機凝結剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、擬ベーマイトアルミナゾル(AlO(OH))などのアルミニウム系凝結剤;水酸化第一鉄、硫酸第一鉄、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、鉄−シリカ無機高分子凝結剤などの鉄塩系凝結剤;塩化亜鉛などの亜鉛系凝結剤;活性ケイ酸、ポリシリカ鉄凝結剤などを挙げることができる。
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの水溶性アルカリ金属化合物;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの鉱酸;などを挙げることができる。
【0030】
上記のようにして形成された塗料浮上スラッジの全部若しくは一部を循環水から除去する。
塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去は、好ましくは、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水を取水装置にて取水することによって、行われる。取水装置としては、フロート堰、フロートポンプなどの表層液排出装置を挙げることができる。
【0031】
一方、塗料浮上スラッジの全部若しくは一部の除去された循環水(処理済循環水)を湿式塗装ブースに供給して、余剰塗料の捕集に再使用する。ピットからの処理済循環水の抜出口またはその近傍には、スラグ、スラッジ、フロックなどが循環水に同伴して抜き出され難くするために、堰、フィルタ、網などを設けることが好ましい。
【0032】
本発明においては、塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水に高分子カチオン性ポリマー溶液又は分散液(以下 これらを併せて「高分子量カチオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)を添加することが好ましい。高分子カチオン性ポリマー含有液の添加によって、塗料浮上スラッジを凝集させ、固液分離を容易にすることができる。
【0033】
高分子カチオン性ポリマー含有液は、水との親和性の高い溶媒に高分子カチオン性ポリマーを溶解ないしは当該高濃度の溶解液を疎水性液体に分散させてなるもの(W/O型エマルション)等である。高分子カチオン性ポリマーは、例えば、重量平均分子量が、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは600万〜1,100万である。
高分子カチオン性ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構造単位を有するポリマー(例えば、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合体など)、ポリアミノアルキルアクリレート、ポリアミノアルキルメタクリレート、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、キトサン、尿素−ホルマリン樹脂などを挙げることができる。高分子カチオン性ポリマーは、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。高分子カチオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。高分子カチオン性ポリマーの添加量は、例えば、循環水に対するコロイド当量値として、好ましくは0.001〜1meq/L、より好ましくは0.002〜0.5meq/Lである。高分子カチオン性ポリマーの添加によって、フロック(塗料浮上スラッジ)の再分散を防止することができ、また、加圧浮上処理後に行うことがある濾過処理および/または脱水処理(沈降分離や遠心分離など)の効率を高めることができる。
【0034】
高分子カチオン性ポリマー含有液の添加された塗料浮上スラッジと水とを含んでなる表層水は、取水装置によって取水され、取水装置で取水された取水液に、浮上処理、好ましくは加圧浮上処理を施すことが好ましい。
浮上処理を施すことによって、高分子カチオン性ポリマー含有液で凝集された塗料浮上スラッジを液面に浮上させることができる。なお、加圧浮上処理は、浮遊物を含む液(常圧)に、空気の過飽和溶液(加圧)を注入することによって、空気の気泡を発生させ、浮遊物を浮上させるための処理方法である。加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径は、好ましくは120μm以下、より好ましくは30μm以上120μm以下である。加圧浮上処理において発生する気泡の平均直径は、前述のマイクロナノバブルの平均直径よりも大きいことが好ましい。
【0035】
浮上処理を施す際に、アニオン性ポリマー溶液又は分散液(以下 これらを併せて「アニオン性ポリマー含有液」と記すことがある。)を取水液に添加することがさらに好ましい。アニオン性ポリマー含有液は、水との親和性の高い溶媒にアニオン性ポリマーを溶解ないしは当該高濃度の溶解液を疎水性溶媒に分散させてなるもの(W/O型エマルション)等である。
アニオン性ポリマーとしては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ソーダ・アミド誘導体、ポリアクリルアミド部分加水分解物、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド、ポリ(2−アクリルアミド)−2−メチルプロパン硫酸塩などを挙げることができる。アニオン性ポリマーは、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。アニオン性ポリマーはアニオン化度が10〜30モル%であるものが好適である。アニオン性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは800万〜1500万である。アニオン性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0036】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、両性ポリマー溶液又は分散液(以下 これらを併せて「両性ポリマー含有液」と記すことがある。)を取水液に添加することができる。両性ポリマー含有液は、水との親和性の高い溶媒に両性ポリマーを溶解ないし高濃度の溶解液を疎水性溶媒に分散させてなるもの(W/O型エマルション)等である。
両性ポリマーとしては(メタ)アクリルアミドと4級アンモニウムアルキル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸ナトリウムとの共重合体などを挙げることができる。両性ポリマーのアニオン/カチオンのモル比は0.2〜2.0が好適である。両性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100万超、より好ましくは500万以上、さらに好ましくは800万〜1000万である。両性ポリマー(固形分)の添加量は、余剰塗料(固形分)に対して、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.2〜3質量%である。
【0037】
加圧浮上処理の施された取水液に、濾過処理および/または脱水処理を施すことができる。濾過処理においては、ウェッジワイヤスクリーン、ロータリースクリーン、バースクリーン、フレキシブルコンテナバッグなどを用いることができる。
脱水処理においては、サイクロン、遠心分離機、加圧ろ過装置などを用いることができる。取り出されたスラッジは、焼却したり、埋め立て処分したり、コンポスト化したりすることができる。
【0038】
次に、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。但し、以下の実施例は本発明の一実施形態を示すに過ぎず、本発明を以下の実施例に限定するものでない。
【0039】
実施例
湿式塗装ブースにおいて、自動車部品を有機溶剤塗料77kg-dry/日でスプレー塗装を行った。その間、余剰塗料を循環水(約50m
3)で捕集した。余剰塗料を捕集した循環水をピットに滞留させた。ピットの底にマイクロナノバブル発生装置を設置し、空気量6l/分、気固重量比(空気-g/余剰塗料-g)0.078で、ピットに滞留している循環水に、マイクロナノバブルを供給した。同時に、ピットに滞留している循環水に、フェノール樹脂28%アルカリ水溶液を余剰塗料(固形分)に対して5重量%(固形分)の割合で、且つ重量平均分子量10万のカチオン性4級塩ポリアミン50%溶液を余剰塗料(固形分)に対して0.45重量%(固形分)の割合で添加した。
フロートポンプにて、塗料浮上スラッジを含む表層水をピットから抜き出した。抜き出した表層水に、重量平均分子量700万のアクリル酸系カチオン性ポリマー40%溶液を余剰塗料(固形分)に対して0.1重量%(固形分)の割合で添加し、それを浮上分離装置に移送した。浮上分離装置で分離した塗料浮上スラッジ(スラグ)を含む液をフレキシブルコンテナバックに移し重力濾過を行った。スラッジ回収率は100%(スラッジ含水率68%、比重0.83)であった。処理後の循環水の濁度は10であった。
【0040】
比較例
フェノール樹脂28%アルカリ水溶液、および重量平均分子量10万のカチオン性4級塩ポリアミン50%溶液を添加する代わりに、塩基性塩化アルミニウム溶液(Alとして12.2%含有)を余剰塗料(固形分)に対して3重量%(固形分)の割合で、且つpH調整剤水溶液(炭酸カリウムと水酸化カリウムとを22.8%含有)を余剰塗料(固形分)に対して6重量%(固形分)の割合で添加した以外は、実施例1と同じ方法で、循環水を処理した。スラッジ回収率は67%(スラッジ含水率73%、比重0.85)であった。処理後の循環水の濁度は45であった。
【0041】
以上の結果が示すとおり、本発明の処理方法(実施例)によれば、湿式塗装ブースで回収した余剰塗料を、不粘着性で且つ除去しやすい塗料浮上スラッジ(フロック、スラグ)に高効率で変換して、ピットなどに堆積する塗料汚泥(スラッジ)の量を減らすことができる。そして、湿式塗装ブースに返送する循環水の清澄性を安定させることができる。
【符号の説明】
【0042】
2:塗装ブースからの未処理循環水
3:フェノール樹脂含有液
4:低分子カチオン性ポリマー含有液
5:塗装ブースへの処理済循環水
6:取水液
7:マイクロナノバブル
8:マイクロナノバブル発生装置
9:取水装置(フローポンプ)
10:堰
11:塗料浮上スラッジ
12:塗料汚泥(スラッジ)
13:高分子カチオン性ポリマー含有液
14:空気