(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6642624
(24)【登録日】2020年1月8日
(45)【発行日】2020年2月5日
(54)【発明の名称】湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/54 20060101AFI20200127BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20200127BHJP
C02F 1/24 20060101ALI20200127BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20200127BHJP
B05B 14/462 20180101ALI20200127BHJP
B05B 16/00 20180101ALI20200127BHJP
【FI】
C02F1/54 G
C02F1/56 G
C02F1/24 A
C02F1/24 B
B01D21/30 A
B05B14/462
B05B16/00
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-99815(P2018-99815)
(22)【出願日】2018年5月24日
(65)【公開番号】特開2019-202280(P2019-202280A)
(43)【公開日】2019年11月28日
【審査請求日】2019年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恒行
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴大
【審査官】
片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−170528(JP,A)
【文献】
特開2015−027637(JP,A)
【文献】
特開2008−173562(JP,A)
【文献】
特開2011−072866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/24、52−56
B01D 21/00−34
B05B 12/16−16/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式塗装ブース循環水中の塗料の不粘着化、凝集ないしは浮上のための処理薬剤の該循環水への薬注制御方法であって、
前記処理薬剤が、フェノール系樹脂および有機凝結剤、或いはフェノール系樹脂、有機凝結剤および高分子凝集剤であり、
前記循環水の濁度を測定し、該濁度の測定値が予め設定した所定値A以上となったときに前記処理薬剤の添加を開始し、前記濁度の測定値が予め設定した所定値B以下となったときに前記処理薬剤の添加を停止することを特徴とする湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御方法。
【請求項2】
湿式塗装ブース循環水中の塗料の不粘着化、凝集ないしは浮上のための処理薬剤の該循環水への薬注制御装置であって、該循環水の濁度を測定する濁度計と、該濁度計の測定値が入力され、該測定値に基づいて、該循環水への該処理薬剤の添加を制御する制御手段とを有し、
前記処理薬剤が、フェノール系樹脂および有機凝結剤、或いはフェノール系樹脂、有機凝結剤および高分子凝集剤であり、
前記制御手段は、前記濁度計の測定値が予め設定した所定値A以上となったときに、前記処理薬剤の添加を開始する信号を出力し、前記濁度計の測定値が予め設定した所定値B以下となったときに前記処理薬剤の添加を停止する信号を出力することを特徴とする湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式塗装ブース循環水処理薬剤を適正に薬注制御する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車工業や家庭電器、金属製品製造業等の塗装工程では、様々な塗料がスプレー塗装されている。工業的に使用されている塗料は溶剤型塗料と水性塗料とに大別され、各塗料は単独又は併用で使用されている。
【0003】
水性塗料は、水可溶型、ディスパージョン型、エマルジョン型の3つに大別されるが、いずれも水を溶媒とするため(一部溶剤を併用する場合もある)、引火性がなく、安全かつ衛生的であり、溶剤による公害発生の恐れがないなどの利点を有することから、近年、特にその応用範囲が拡大されつつある。
【0004】
各種工業等における塗装工程では、一般に被塗装物に噴霧された塗料の歩留りは必ずしも100%ではなく、例えば自動車工業においては、60〜80%程度であり、使用塗料の40〜20%は次工程で除去すべき余剰塗料である。この過剰に噴霧された余剰塗料を捕集するために湿式塗装ブース内での水洗が行われており、水洗水は循環使用される。
【0005】
この場合、水性塗料は水に可溶ないし分散し、固液分離が難しいために、この湿式塗装ブースの循環水に残留して蓄積し、次のような問題を引き起こす。
(a) 循環水は高粘性、高粘稠となり、循環ポンプの負荷を増大させ、著しい場合には循環不可能となり、操業が停止する。
(b) 析出して不溶化した塗料や、塗料以外のゴミ、SS成分が、ノズルや配管系の閉塞障害や、水膜板等への付着障害を引き起こす。
(c) 発泡障害を生じる。
(d) 循環水が高COD、高BODとなるため腐敗し、腐敗臭により、作業環境が悪化する。
(e) 高COD、高BODのため、廃水処理が困難となり、処理装置の負荷が増大する。
【0006】
このような問題を解決するために、従来、循環水に処理薬剤を添加して循環水中の余剰塗料を凝集分離することが行われている。
特許文献1には、水性塗料及び/又は溶剤型塗料を含む湿式塗装ブース循環水中の塗料を効率的に凝集処理するための処理薬剤として、フェノール系樹脂とカチオン系ポリマーとを併用することが記載されている。フェノール系樹脂とカチオン系ポリマーとの併用により、次のようなメカニズムで効果的な処理を行える。
【0007】
即ち、フェノール系樹脂をアルカリ水溶液等に溶解させて湿式塗装ブース循環水に注入すると、フェノール系樹脂は、溶解状態又はコロイド状で分散する。このとき、カチオン系ポリマーが存在するとフェノール系樹脂は荷電中和されて凝結、不溶化する。一方、循環水中に溶解又はコロイド状に分散している塗料もカチオン系ポリマーにより、荷電中和されて凝結、不溶化するが、フェノール系樹脂がカチオン系ポリマーで不溶化するとき、この凝結した塗料を巻き込んだ形でフロック化して凝集する。塗料を巻き込んだ形で凝集したフェノール系樹脂のフロックは、ある程度の大きさの粒子となるので、循環水から分離除去され易く、浮上分離、遠心分離、濾過などの方法で容易に分離除去することができる。
【0008】
湿式塗装ブース循環水の処理においては、循環水中に含まれる塗料量に対して処理薬剤を適正な薬注量で添加することが重要である。そのために、従来は、
(1) 塗装している時間帯として製品を載せたコンベアーが動いている間だけ薬注する
(2) 生産数をカウントしながらその量に合った薬注を行う
(3) 塗料を廃棄する時間が決まっているため、(1)、(2)とは別にこの時間帯は薬注する
といった方法が行われている。これらは事前に予期できる情報をもとに薬注する方法でありフィードフォワード制御といえる。
また、実際に薬剤が吐出されているのか、タンクの残量はあるのかという情報も適正な薬注を確保する上で重要であり、センサーで、薬剤の吐出量や残量を記録することを上記のフィードフォワード制御と合わせて実施するのが望ましいとされている。
【0009】
一方、塗料の種類の変更や塗料やシンナーの廃棄や捨て吹きなど、事前に予測しにくい条件変動もあり、これらの変動に対しては、フィードフォワード制御では適正な薬注制御を行うことができない。
このようなことから、湿式塗装ブース循環水の水質等を常時計測し、その変動に対して循環水処理薬剤の薬注制御(フィードバック制御)も合わせて実施できれば、より安定した薬注制御となり、循環水の安定処理が可能となると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−337671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
水性塗料や水性塗料と溶剤塗料混合塗料を用いた湿式塗装ブース循環水系では、予期せず循環水中の塗料量が急激に増加する場合があり、この場合、従来のフィードフォワード制御では、この急激な塗料量の増大に対応できず、循環水が発泡したり、循環水を取水してスラッジ回収装置へ送った水の高分子凝集剤による凝集処理が不良となり、スラッジ回収量が減ったりする。
なお、循環水槽からスラッジ回収装置へ送給される水やスラッジ回収装置から循環水槽に戻される水の濁度又は懸濁物質濃度を測定し、この測定値をもとに高分子凝集剤を薬注制御することは従来より行われてきたが、この方法では、湿式塗装ブース循環水の予期せぬ塗料負荷の増大に対応して塗料の適正処理(不粘着、凝集(一次凝集)、ピットでの浮上)を行うことはできず、塗料負荷増大時の循環水処理薬剤量の不足の根本対策にはならない。
一方で、循環水処理薬剤を塗料負荷の上昇を見越して常時過剰に添加することは薬剤コストが高くつき、好ましくない。
【0012】
本発明は上記従来技術の問題点を解決し、湿式塗装ブース循環水の予期せぬ塗料負荷の増大に的確に対応し、適正な処理薬剤の薬注制御を行うことができる方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、湿式塗装ブース循環水の塗料負荷の増大を循環水の濁度又は懸濁物質濃度の上昇で検知し、この濁度又は懸濁物質濃度の上昇に応じて循環水処理薬剤の薬注制御を行うことで、塗料の適正処理を行えることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0014】
[1] 湿式塗装ブース循環水中の塗料の不粘着化、凝集ないしは浮上のための処理薬剤の該循環水への薬注制御方法であって、該循環水の濁度又は懸濁物質濃度に基づいて、該循環水への該処理薬剤の添加を制御することを特徴とする湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御方法。
【0015】
[2] 前記循環水の濁度又は懸濁物質濃度を測定し、該濁度又は懸濁物質濃度の測定値が予め設定した所定値A以上となったときに前記処理薬剤の添加を開始するか或いは前記処理薬剤の添加量を増量することを特徴とする[1]に記載の湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御方法。
【0016】
[3] 前記濁度又は懸濁物質濃度の測定値が予め設定した所定値B以下となったときに前記処理薬剤の添加を停止するか或いは前記処理薬剤の添加量を減量することを特徴とする[2]に記載の湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御方法。
【0017】
[4] 前記処理薬剤が、フェノール系樹脂および有機凝結剤、或いはフェノール系樹脂、有機凝結剤および高分子凝集剤であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御方法。
【0018】
[5] 湿式塗装ブース循環水中の塗料の不粘着化、凝集ないしは浮上のための処理薬剤の該循環水への薬注制御装置であって、該循環水の濁度を測定する濁度計又は懸濁物質濃度を測定するSS計と、該濁度計又はSS計の測定値が入力され、該測定値に基づいて、該循環水への該処理薬剤の添加を制御する制御手段とを有することを特徴とする湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御装置。
【0019】
[6] 前記制御手段は、前記濁度計又はSS計の測定値が予め設定した所定値A以上となったときに、前記処理薬剤の添加を開始するか或いは前記処理薬剤の添加量を増量する信号を出力することを特徴とする[5]に記載の湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御装置。
【0020】
[7] 前記制御手段は、前記濁度計又はSS計の測定値が予め設定した所定値B以下となったときに前記処理薬剤の添加を停止するか或いは前記処理薬剤の添加量を減量する信号を出力することを特徴とする[6]に記載の湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御装置。
【0021】
[8] 前記処理薬剤が、フェノール系樹脂および有機凝結剤、或いはフェノール系樹脂、有機凝結剤および高分子凝集剤であることを特徴とする[5]ないし[7]のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、湿式塗装ブース循環水の予期せぬ塗料負荷の増大に的確に対応して適正な処理薬剤の薬注制御を行えるので、処理の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1で用いた湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御装置を示す系統図である。
【
図2】実施例1における循環水の懸濁物質濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明の湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御方法は、湿式塗装ブース循環水中の塗料の不粘着化、凝集ないしは浮上のための処理薬剤の該循環水への薬注制御方法であって、該循環水の濁度又は懸濁物質濃度(以下、単に「濁度等」と記載する場合あり)に基づいて、該循環水への該処理薬剤の添加を制御する。
本発明の湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御装置は、湿式塗装ブース循環水中の塗料の不粘着化、凝集ないしは浮上のための処理薬剤の該循環水への薬注制御装置であって、該循環水の濁度を測定する濁度計又は懸濁物質濃度を測定するSS計(以下、両測定センサを併せて単に「濁度計等」と記載する場合がある)と、該濁度計等の測定値が入力され、該測定値に基づいて、該循環水への該処理薬剤の添加を制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0026】
本発明における循環水処理薬剤の薬注制御は、具体的には、循環水の濁度等を測定し、該濁度等の測定値が予め設定した所定値A(以下「上限値A」と称す場合がある。)以上となったときに処理薬剤の添加を開始するか或いは処理薬剤の添加量を増量し、濁度等の測定値が予め設定した所定値B(以下「下限値B」と称す場合がある。)以下となったときに処理薬剤の添加を停止するか或いは処理薬剤の添加量を減量することで行うことが好ましい。
【0027】
ここで、所定値A,Bとしては特に制限はなく、循環水の水質や、塗料負荷の変動幅等に応じて適宜決定される。特に制限されるものではないが、例えば、濁度の場合には、所定値Aは100〜1000の範囲で設定され、所定値Bは10〜200の範囲で設定される。そして、懸濁物質濃度の場合には所定値Aは50〜500の範囲で設定され、所定値Bは5〜200の範囲で設定される。
なお、濁度計としては、一般的なレーザー式の濁度センサ等を用いることができる。濁度の単位はNTUである。
また、SS計としては、透過式や散乱子式の光学的SS計等を用いることができる。具体的にはオプテックス社のSSチェッカーを用いることができる。懸濁物質濃度の単位はmg/Lである。
【0028】
濁度計等による循環水の濁度等の測定は、循環水系のいずれの箇所で行ってもよく、例えば、湿式塗装ブースから循環水槽に返送される循環水、或いは循環水槽内の循環水について濁度等を測定することができるが、循環水処理薬剤の薬注効果を迅速に把握することができることから、循環水槽内の循環水の濁度等を測定することが好ましい。この場合、濁度計等のセンサは、循環水槽内の水深の半分程度となるような位置に設けることが、水位変動や、堆積スラッジの影響を少なくする点で好ましい。
【0029】
循環水の濁度等は、循環水中の塗料が処理薬剤による処理で浮上又は沈降することで低下するが、塗料が沈降することは好ましくないため、本発明で用いる循環水処理薬剤は、塗料を浮上させる薬剤が好ましく、後述のフェノール系樹脂とカチオン系ポリマー等の有機凝結剤との併用が好ましい。これらに更に高分子凝集剤を併用することにより、より処理の安定性を向上させることができ好ましい。
【0030】
以下に本発明の好適態様について更に詳述する。
【0031】
<フェノール系樹脂>
本発明で使用されるフェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等の一価フェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒドとの縮合物或いはその変性物であって、架橋硬化する前のフェノール系樹脂が挙げられる。具体的には次のようなものが挙げられる。
【0032】
[1] フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物
[2] クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物
[3] キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物
[4] 上記[1]〜[3]のフェノール系樹脂をアルキル化して得られるアルキル変性フェノール系樹脂
[5] ポリビニルフェノール
【0033】
これらのフェノール系樹脂はノボラック型であってもレゾール型であっても良い。なお、フェノール系樹脂は重量平均分子量が1,000〜10,000程度のものを好適に用いることができる。
【0034】
これらのフェノール系樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0035】
このようなフェノール系樹脂は水に難溶であるので、水に溶解可能な溶媒に溶解ないし分散させるなどして溶液状又はエマルジョンとして用いるのが好ましい。使用される溶媒としてはアセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール等の水溶性有機溶媒、アルカリ水溶液、アミン等が挙げられるが、好ましくは、苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH)等のアルカリ剤に溶解して用いる。
【0036】
フェノール系樹脂をアルカリ性水溶液として用いる場合、このアルカリ性水溶液はアルカリ剤濃度1〜25質量%、フェノール系樹脂濃度1〜50質量%の範囲とすることが好ましい。なお、フェノール系樹脂濃度が高い場合、70〜80℃程度に加温してフェノール系樹脂を溶解させるようにしても良い。
【0037】
本発明において、フェノール系樹脂を循環水の濁度等に応じて薬注制御する場合、フェノール系樹脂は、循環水の濁度等に応じてON・OFF制御で、濁度等の測定値が上限値A以上となった場合にフェノール系樹脂の添加を開始し、下限値B以下となった場合にフェノール系樹脂の添加を停止するようにしてもよく、フェノール系樹脂を常時添加し、濁度等の測定値が上限値A以上となったときにフェノール系樹脂の添加量を増量し、下限値B以下となったときにフェノール系樹脂の添加量を減量するようにしてもよい。
【0038】
循環水へのフェノール系樹脂の添加量は、制御方法や循環水の水質(循環水中の塗料の種類や塗料含有量等)によっても異なるが、例えば、ON・OFF制御の場合、濁度等の測定値が上限値A以上となった場合は、有効成分量(フェノール系樹脂の固形分量)として循環水に対して1〜100mg/Lの添加を開始し、下限値B以下となった場合は、フェノール系樹脂の添加を停止することが好ましい。
また、フェノール系樹脂添加量を増減する場合は、有効成分量として循環水に対して1〜100mg/Lの添加量の範囲で濁度等の測定値が上限値A以上となった場合は添加量を増量し、下限値B以下となった場合は添加量を減量することが好ましい。
【0039】
<有機凝結剤>
有機凝結剤としては、カチオン性のものが好ましく、例えば、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、ポリエチレンイミン、アルキレンジクロライド・ポリアルキレンポリアミン縮合物、ジシアンジクロライド・ポリアルキレンポリアミン縮合物、DMA(ジメチルアミノエチルメタクリレート)、DADMAC(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)等のカチオン系ポリマーが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0040】
これらの有機凝結剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0041】
本発明において、有機凝結剤を循環水の濁度等に応じて薬注制御する場合、有機凝結剤は、循環水の濁度等に応じてON・OFF制御で、濁度等の測定値が上限値A以上となった場合に有機凝結剤の添加を開始し、下限値B以下となった場合に有機凝結剤の添加を停止するようにしてもよく、有機凝結剤を常時添加し、濁度等の測定値が上限値A以上となったときに有機凝結剤の添加量を増量し、下限値B以下となったときに有機凝結剤の添加量を減量するようにしてもよい。
【0042】
循環水への有機凝結剤の添加量は、制御方法や循環水の水質(循環水中の塗料の種類や塗料含有量等)によっても異なるが、例えば、ON・OFF制御の場合、濁度等の測定値が上限値A以上となった場合は、有機凝結剤は、有効成分量として循環水に対して0.2〜20mg/Lの添加を開始し、下限値B以下となった場合は、有機凝結剤の添加を停止することが好ましい。
また、有機凝結剤添加量を増減する場合は、有効成分量として循環水に対して0.2〜20mg/Lの添加量の範囲で濁度等の測定値が上限値A以上となった場合は添加量を増量し、下限値B以下となった場合は添加量を減量することが好ましい。
【0043】
<高分子凝集剤>
本発明では、上記フェノール系樹脂及び有機凝結剤と共に、重量平均分子量が、通常100万超、好ましくは500万以上の水溶性高分子よりなる高分子凝集剤を併用添加してフェノール系樹脂および有機凝結剤による塗料の凝集フロックを高分子凝集剤で更に粗大化することが好ましい。
この場合、高分子凝集剤としては、公知のアニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤、両性高分子凝集剤などの1種又は2種以上を用いることができる。
【0044】
高分子凝集剤を用いる場合、その添加量は、有効成分量として余剰塗料に対して0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜2質量%の範囲で、良好な凝集効果が得られるように適宜決定すればよい。
なお、高分子凝集剤についても、フェノール系樹脂および有機凝結剤と同様に、循環水の濁度等に応じて薬注制御してもよいが、通常は高分子凝集剤は定量添加で十分な効果を得ることができる。
【0045】
<薬注箇所>
フェノール系樹脂および有機凝結剤の薬注箇所としては特に制限はなく、循環水系のどのような箇所に添加してもよいが、通常の場合、循環水槽又は湿式塗装ブースから循環水槽への戻り水配管、或いはこれらの双方に添加される。また、フェノール系樹脂と有機凝結剤とは同じ箇所に添加してもよく、別々の箇所に添加してもよい。
【0046】
高分子凝集剤については、通常、スラッジ回収装置或いは循環水槽からスラッジ回収装置への循環水の送水配管に添加される。後述の実施例の項に示されるように、スラッジ回収装置への取水ポンプに注入してもよい。
【0047】
なお、凝集処理系のpHは、設備の腐食防止の点と、有機凝結剤として添加するカチオン系ポリマーのpHに関する効果特性の点から、6.0〜8.5程度であることが好ましい。従って、pHがこの範囲を外れ低くなる場合には、アルカリ剤を添加してpH調整を行うことが好ましい。通常、実機では高pH側に範囲が外れることはないが、極端に外れる場合はpH調整が必要になることがある。
【0048】
<凝集フロックの回収>
フェノール系樹脂と有機凝結剤の添加、更には高分子凝集剤の添加により、循環水中の塗料は速やかに不粘着化、凝集、浮上してフロックを生成する。凝集により生成したフロックの分離回収には、浮上分離、ウェッジワイヤ、ロータリースクリーン、バースクリーン、サイクロン、遠心分離機、濾過装置などによる方法を採用することができる。
【0049】
このような方法で分離回収されたスラッジは、重力脱水後、或いは通常の方法で脱水後、焼却、埋立処理される。
【0050】
<適用循環水>
本発明は、水性塗料を含む湿式塗装ブース循環水、或いは水性塗料と溶剤型塗料を含む湿式塗装ブース循環水のように、塗料負荷の急激な上昇で濁度等が大きく上昇する循環水の処理に効果的に適用することができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
なお、以下において、循環水の処理薬剤としては、以下のものを用いた。
【0053】
フェノール系樹脂のアルカリ溶液:フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物(重量平均分子量8,000)のNaOH水溶液(フェノール系樹脂濃度:30質量%、NaOH濃度:10質量%、pH:12〜13)(以下「フェノール系樹脂溶液」と記載する。)
カチオン系ポリマー:アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物(重量平均分子量:10万)の水溶液(カチオン系ポリマー濃度:50質量%)
高分子凝集剤:アクリルアミド・2(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド共重合物(重量平均分子量700万)のW/O型エマルション(有効成分濃度40質量%)
【0054】
[実施例1]
図1に示す湿式塗装ブース循環水の処理装置において、本発明に従って、循環水の懸濁物質濃度に基づく処理薬剤の薬注制御を行った。
この湿式塗装ブース循環水処理薬剤の薬注制御装置は、水性塗料と溶剤塗料を用いた、循環水量10m
3/minで、平均的な循環水塗料濃度100mg/Lの湿式塗装ブース循環水の処理装置であり、塗料の捨て吹きや廃棄で不定期的に塗料負荷が急激に上昇することがある。
【0055】
図1において、1は循環水槽であり、湿式塗装ブースからの余剰塗料を捕集した水が配管11を経て返送される。
循環水槽1内の循環水は、処理薬剤が添加されて不粘着化、凝集、浮上処理され、スクリーン2を透過した凝集処理水がポンプ12Pにより配管12を経て湿式塗装ブースに送水される。
【0056】
また、循環水槽1内の浮上、凝集フロックを含む水が取水ポンプ3で取水され、配管13を経てスラッジ回収装置4に送給される。スラッジ回収装置4で、凝集フロックのスラッジが固液分離され、回収されたスラッジは、回収スラッジ貯槽5に貯留される。一方、分離された処理水は、配管14を経て循環水槽1に戻される。
【0057】
この処理装置では、薬注ポンプ15Pを有する配管15よりフェノール系樹脂溶液が、循環水槽1内の循環水に添加される。そして、薬注ポンプ17Pを有する配管17よりカチオン系ポリマーが、循環水槽1内の循環水に添加される。また、高分子凝集剤は、配管16より取水ポンプ3の薬注口より注入される。
【0058】
循環水槽1内には槽内の循環水の懸濁物質濃度を測定するSS計6が水深の中間からやや上方の位置に設けられており、SS計6の測定値は、制御盤7に入力される。この制御盤7は入力されたSS計6の測定値に基づいて、薬注ポンプ15P,17PのON/OFF信号が制御される。
【0059】
本実施例では、高分子凝集剤は有効成分量として0.5質量%対余剰塗料で定量添加とし、フェノール系樹脂のアルカリ溶液とカチオン系ポリマーの添加を下記の制御基準でON・OFF制御した。
SS計6の測定値が200mg/L以上の時:ON
SS計6の測定値が100mg/L以下の時:OFF
即ち、循環水槽1内の懸濁物質濃度の上昇で懸濁物質濃度が200mg/L以上になったときに薬注ポンプ15P,17PをONとして薬注を開始し、薬注により循環水の懸濁物質濃度が低下し、100mg/L以下となったときに薬注ポンプ15P,17PをOFFとして薬注を停止する。
薬注ON時は、フェノール系樹脂溶液を有効成分量として10mg/L、カチオン系ポリマーを有効成分量として2.0mg/L添加することとした。
【0060】
まず、運転開始時は、フェノール系樹脂溶液とカチオン系ポリマーについて薬注制御を行わず、フェノール系樹脂溶液を有効成分量として5.0mg/L、カチオン系ポリマーを有効成分量として1.0mg/Lで定量注入し、高分子凝集剤を有効成分量として0.5質量%対余剰塗料で定量添加とした。この時、
図2の破線に示すように、塗料の捨て吹きや廃棄で不定期的に循環水の塗料負荷が急激に上昇するが、薬注制御を行っていなくても、高分子凝集剤の添加で懸濁物質濃度は徐々に低下してゆく。ただし、この懸濁物質濃度の低下は非常になだらかである。
【0061】
薬注制御なしの処理後、高分子凝集剤の薬注はそのままで、フェノール系樹脂溶液とカチオン系ポリマーについて、前述のON・OFFによる薬注制御を開始したところ、
図2の実線に示すように、循環水の懸濁物質濃度の上昇で薬注ON、懸濁物質濃度の低下で薬注OFFとすることで、上昇した循環水の懸濁物質濃度は速やかに低下するようになった。
即ち、懸濁物質濃度が200mg/L以上になるとフェノール系樹脂溶液とカチオン系ポリマーの薬注が開始され、これらの薬剤と循環水中の塗料とが反応して浮上するため、循環水槽1内の循環水の懸濁物質濃度は速やかに低下する。懸濁物質濃度が100mg/L以下となった場合には、薬注を停止するため、薬剤の無駄を省くことができる。
このように、本発明によれば、必要最低限の薬注量で効果的な処理を行えることが分かる。なお、単位時間当たりの循環水処理薬剤コストは、ON・OFF制御を行うことで、制御を行わない場合の約0.8倍に削減することができた。
【符号の説明】
【0062】
1 循環水槽
2 スクリーン
3 取水ポンプ
4 スラッジ回収装置
5 回収スラッジ貯槽
6 SS計
7 制御盤