(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明の一実施形態に係る化学除染システムの全体構成図を示す。化学除染システム1は、化学除染装置2及び溶離回収装置3より構成される。化学除染装置2は、配管又は配管に接続される弁あるいはポンプ等の機器を含む化学除染対象20、弁17、ポンプ4、加熱器27、冷却器28、弁16、サージタンク24、ポンプ5及び弁11は、配管40により接続され、1つの閉ループを形成可能に構成される。配管40を流れる溶液は、ポンプ4により加熱器27、冷却器28、弁16、サージタンク24の順で流れ、ポンプ5により、弁11、化学除染対象20、弁17、ポンプ4の順に流れる。
弁16を挟み、冷却器28の下流とサージタンク24の上流を配管42で接続し、配管42に弁14、混合樹脂塔22、弁12が設置されている。混合樹脂塔22には、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を、1:1又は1:2の割合で混合したイオン交換樹脂が充填されている。更に、冷却器28の下流とサージタンク24の上流を配管43で接続し、配管43に弁15、陽イオン交換樹脂塔21、弁13が設置されている。陽イオン交換樹脂塔21には、陽イオン交換樹脂が充填されている。すなわち、化学除染対象20、配管40、弁17、加熱器27、冷却器28、弁16、サージタンク24、ポンプ5及び弁11にて、形成される1つの閉ループに対し、冷却器28及びサージタンク24との間に、陽イオン交換樹脂塔21及び混合樹脂塔22が弁12〜15を介して並列に接続可能な構成としている。
【0012】
ポンプ5の下流と弁11の上流の配管40に一端が接続され、弁33、触媒塔26、弁18を介して他端が配管40に接続される配管44が敷設されている。触媒塔26には、過酸化水素と有機酸との化学反応を促進する触媒、例えば0.5%Ru担持活性炭が充填されている。なお、触媒塔26に替えて紫外線照射装置を設置する構成としても良い。弁33の下流且つ触媒塔26の上流側の配管44には、ポンプ7、弁19、過酸化水素タンク25が設置されている。ポンプ5の下流と弁11の間の配管40には、配管40より分岐する配管41が敷設され、ポンプ6、弁10及び化学除染剤タンク23が配管41により接続される。化学除染剤タンク23には、化学除染のために使用する化学薬品が貯蔵される。複数の化学薬品を使用する場合、その都度、これらポンプ6、弁10及び化学除染剤タンク23を洗浄して使用する。なお、使用する化学薬品の数に応じて、複数の、配管41、ポンプ6、弁10及び化学除染剤タンク23を、配管40に並列に接続する構成としても良い。サージタンク24には給排水管50が設けられ、給排水管50に弁34が設置されている。
【0013】
溶離回収装置3は、陽イオン交換樹脂塔21の下流と弁13の間の配管43に一端が接続される配管46により接続される弁36、ポンプ8、弁35及び溶離液タンク32を備える。また、溶離回収装置3は、陽イオン交換樹脂塔21の上流と弁15の間の配管43に一端が接続される配管45により接続される弁37及び溶離液回収タンク31を備える。溶離液回収タンク31の下流に、ポンプ9及び電析回収装置30が設置され、電析回収装置30は、配管48によりポンプ9を介して溶離液回収タンク31に接続される。また、電析回収装置30の下流側は、配管49により溶離液回収タンク31に接続される。溶離液回収タンク31には排水管51が設けられ、排水管51に弁38が設置されている。
【0014】
次に、溶離回収装置3を構成する溶離液タンク32より弁35、ポンプ8、弁36を介して陽イオン交換樹脂21に供給される溶離液について説明する。
図2は、陽イオン交換樹脂に吸着されたFeイオンをギ酸ヒドラジン混合溶液に溶離する場合のギ酸濃度とFeイオン溶離率との関係図である。試験条件として、Feイオンの吸着容量が総吸着容量の約80%となるように硫酸鉄(FeSO
4)水溶液を通水して、Feイオンを吸着させた陽イオン交換樹脂を使用した。溶離液として、ヒドラジンによりpHを4.7に調整したギ酸とヒドラジンの混合液(以下、ギ酸ヒドラジン混合液と称する)400mLを用意し、陽イオン交換樹脂200mLに400mL/hで通水し、Feイオンを溶離した。更に、純水100mLを通水して、陽イオン交換樹脂中のギ酸ヒドラジン混合液を溶出させた。温度は室温(25℃±5℃)である。
この時の結果を表1に示す。表1では、ギ酸濃度M(mol/L)毎の、Feイオン吸着量(g)、Feイオン溶離量(g)及びFeイオン溶離率(%)を示している。
【0016】
ここで、Feイオン溶離量(g)の測定及びFeイオン溶離率(%)の算定について説明する。
図3に、
図2に示すFeイオン溶離率を求めるための工程説明図を示す。
図3の左図に示すように、先ず、ヒドラジンによりpH4.7に調整したギ酸ヒドラジン混合液を溶離液としてV
1mL用意し、配管46を介し陽イオン交換樹脂塔21へ通水する。陽イオン交換樹脂塔21に吸着されたFeイオンが溶離液中に溶離された溶離液を、配管45を介して溶離液回収タンク31に回収する。溶離液回収タンク31内に回収された溶離液中のFeイオン濃度C
1を測定し、溶離液の液量V
1よりFeイオン溶離量をC
1・V
1にて求める。
次に、
図3の右図に示すように、水と3.5重量%HClを1:1の容量比で混合したHCl水溶液(塩酸)をV
2mL用意し、配管46を介し陽イオン交換樹脂塔21へ通水する。これにより、先に溶離液により溶離されず陽イオン交換樹脂塔21に残存するFeイオンを溶離し、HCl水溶液と共に、配管45を介して溶離液回収タンク31に回収する。溶離液回収タンク31内に回収されたHCl水溶液中のFeイオン濃度C
2を測定し、HCl水溶液の液量V
2よりFeイオンの残存量をC
2・V
2にて求める。
【0017】
表1におけるFeイオン吸着量は(C
1・V
1+C
2・V
2)として得られ、Feイオン溶離量はC
1・V
1として得られる。また、Feイオン溶離率(%)は次式(1)にて求められる。
Feイオン溶離率=(C
1・V
1)/(C
1・V
1+C
2・V
2)×100・・・(1)
図2は、横軸にギ酸ヒドラジン混合液中のギ酸濃度(M:mol/L)、縦軸にFeイオン溶離率(%)をとり、表1に示す結果をプロットしたものである。
図2より、ギ酸濃度を1mol/L以上にするとFeイオンを90%以上溶離できることが分かった。更に、ギ酸濃度を1mol/L以上にしてもFeイオンの溶離率は同程度であることが分かった。
【0018】
ギ酸ヒドラジン混合液を使用する場合、Feイオンはヒドラジンイオン(N
2H
5+)により溶離される。陽イオン交換樹脂塔21に吸着された陽イオンは、別の陽イオンと置き換わることにより溶離される。ギ酸(HCOOH)の解離は次式(2)で生じ、次式(2)の平衡定数が2.88×10
−4であるため、仮にギ酸1mol/Lとしても陽イオンである水素イオン(H
+)の濃度は0.02mol/Lである。
HCOOH = H
+ + HCOO
−・・・(2)
一方、ヒドラジン(N
2H
4)の解離は次式(3)で生じ、次式(3)の平衡定数が1.07×10
−6であるため、ヒドラジン1mol/Lに対して陽イオンであるヒドラジンイオン(N
2H
5+)の濃度は0.001mol/Lである。陽イオン濃度を高くするためには、ギ酸、あるいはヒドラジン濃度を高くする必要があるが、濃度を高くすると、無害化のために使用済みの溶離液を過酸化水素と反応させて、窒素、二酸化炭素、水に分解する溶離液分解工程の処理時間がかかる。あるいは、設備規模が大きくなるため好ましくない。
少ないギ酸、ヒドラジン濃度で陽イオン濃度を高めるためには、ギ酸とヒドラジンを混合して化学反応(次式(3))により陽イオンであるヒドラジンイオンの濃度を高くすれば良い。
HCOOH + N
2H
4 = N
2H
5+ + HCOO
−・・・(3)
図4に、1mol/Lのギ酸にヒドラジンを添加した場合の、ヒドラジン濃度と、陽イオン濃度及びpHとの関係図を示す。ギ酸濃度1mol/L一定として、ヒドラジン濃度を0.0から1.5mol/Lまで増加させた場合の陽イオン濃度の計算結果を示す。なお、ここでの陽イオン濃度は、水素イオン(H
+)濃度とヒドラジンイオン(N
2H
5+)濃度の総和である。
図4において、実線は、ヒドラジン濃度と陽イオン濃度との関係を示し、矢印は参照すべき縦軸が陽イオン濃度(mol/L)であることを示す。また、点線は、ヒドラジン濃度とpHとの関係を示し、矢印は参照すべき縦軸がpHであることを示す。
例えば、ギ酸が1mol/L、ヒドラジン濃度が0.95mol/L(pHが4.8)となるようにギ酸とヒドラジンを混合すると水素イオンとヒドラジンイオンの総和で0.95mol/Lの陽イオンを生成することができる。すなわち、ギ酸やヒドラジンを各々単独で1mol/Lとする場合よりも50倍以上の陽イオン濃度とすることができる。従って、鉄イオンの溶離に使用されるヒドラジンイオン(N
2H
5+)濃度を高くするためには、pHを高くする必要がある。よって、pHは4以上とすることが望ましい。本試験ではpH4.7に調整したが、pHは4〜5の範囲に調整することが好適である。水素イオン濃度を低減する観点からpHを中性付近にすることが好ましいがpHを6より大きくすると溶離したFeイオンが陽イオン交換樹脂中で鉄酸化物として析出するため、溶離が困難となる。また
図4に示されるように、pHが5を超えると少ないヒドラジン濃度でpHが大きく変化する(急激に上昇する)ためギ酸ヒドラジン混合溶液のpHを調整することが困難である。従って、pHは5以下とすることが望ましい。
【0019】
図5に、陽イオン交換樹脂に吸着されたFeイオンをギ酸ヒドラジン混合液に溶離する場合の混合液のpHとFeイオン溶離率との関係図を示す。
試験条件として、ギ酸の濃度2mol/L一定とし、ヒドラジンに添加したギ酸ヒドラジン混合液240mLを溶離液として使用した。この溶離液を、陽イオン交換樹脂20mLに40mL/hで通水した。陽イオン交換樹脂の交換容量(吸着容量)は、0.46meq/mL−Resinである。ここで、meq/mL−Resinとは、陽イオン交換樹脂1mLで何ミリ当量のイオンを交換できるかを示す単位である。温度は室温(25℃±5℃)である。また、pHを3.7〜7.8まで変化させた。
この時の結果を表2に示す。表2では、pH毎の、Feイオン吸着量(mg)、Feイオン溶離量(mg)及びFeイオン溶離率(%)を示している。
【0021】
ここで、Feイオン吸着量(mg)、Feイオン溶離量(mg)及びFeイオン溶離率(%)の算定については、上述の
図3と同様である。
図5に示すように、pHを3.7〜7.8間で変化させた場合、pHが4〜5の範囲でFeイオン溶離率が95%以上となり溶離に好適であることが実験からも確認された。
【0022】
続いて、
図6に、
図1に示す溶離回収装置を構成する電析回収装置の概略構成図を示し、
図7に、
図6に示す電析回収装置により回収される溶離液中のFeイオン濃度の経時変化を示す。
図6に示すように、溶離したFeイオンを電極表面に回収するための電析回収装置30は、電解槽300が陽イオン交換膜301により間仕切り(隔離)され、間仕切り(隔離)された各々の領域、すなわち、陰極室304内に陰極302が、また、陽極室305内に陽極303が設置されている。陰極302は導線308を介して、また、陽極303は導線309を介して直流電源310に接続されている。
陰極302が設置された陰極室304には配管48が接続され、配管48には溶離液回収タンク31、ポンプ9が接続されている。溶離液回収タンク31内に、陽イオン交換樹脂塔21を通水後に回収された溶離液は、ポンプ9により電解槽300の下部から陰極室304に通水され、陰極室304の上部から抜き出され、配管49を介して再び溶離液回収タンク31へと還流する。一方、陽極303が設置された陽極室305には配管311が接続され、配管311には電解液タンク306、ポンプ307が接続されている。電解液タンク306内の電解液は、ポンプ307により電解槽300の下部から陽極室305に通水され、陽極室305の上部から抜き出され、再び電解液タンク306へと還流する。更に、陰極室304の下部には、陰極室304の下部から溶離液を電析回収装置30外へと排出する排水管314が接続され、排出管314には、弁38、フィルタ312及び弁313が設置されている。フィルタ312として、例えば、固液分離可能な多孔質フィルタ、あるいは平膜等の膜フィルタ等が用いられる。溶離液回収タンク31及び電解液タンク306には各々ガス放出口(図示せず)がタンク上部に設置されている。
【0023】
試験条件として、
図6に示す電析回収装置30の溶離液回収タンク31に、鉄イオンを溶離した溶離液(Feイオン濃度:7.3g/L)を1L充填し、電解液タンク306にギ酸1mol/Lを1L充填した。陰極302として、ステンレス製鋼板の電極(10cm×10cm)を使用し、陽極303として、白金を蒸着させたチタン製鋼板の電極(10cm×10cm)を使用した。直流電源310により一定電流(9A)を通電し、鉄イオンを溶離した溶離液を適宜採水して、鉄イオンを溶離した溶離液中の鉄イオン濃度の経時変化を分析した。なお、陰極室304及び陽極室305の体積は250mLとし、陰極室304に170mL/minの溶離液を通水し、陽極室305に170mL/minの電解液を通水した。
【0024】
この時の結果を表3に示す。表3では、通電時間(h)毎の溶離液中におけるFeイオン濃度を溶離液中鉄濃度(g/L)として示している。通電時間は0.0〜5.9hとし、通電時間2.7hの時点で、一度、電析回収装置30を停止し、陰極302を別の新たなステンレス製電極に交換した。
【0026】
表3及び
図7に示すように、5.9hの通電で、鉄イオン濃度が0.57g/Lまで低下した。すなわち90%以上の鉄イオンを回収できた。
【0027】
電流利用率は、回収した鉄量を、電気量が全て鉄回収に利用された場合の鉄量で除した値の百分率で定義する。通電時間5.9hでの電流利用率は12%と計算される。ここで、回収した鉄量は次式(4)により求められ、通電量から計算される鉄量は次式(5)により求められる。
(回収した鉄量:mol)={(初期値:7.3g/L)−(終了値:0.57g/L)}×(溶離液量:1L)÷55.847g/mol = 0.12mol・・・(4)
(電気量が全て鉄回収に利用された場合の鉄量:mol)=(電流値:9C/s)×(通電時間:6h)×(単位換算:3600s/h)÷(鉄の価数:2)÷(ファラデー定数:96500C/mol)=1.0mol・・・(5)
ここで、式(4)における55.847g/molは、Feの原子量であり、式(5)においては、通電時間5.9hを6hとして計算した。
【0028】
Feイオン濃度が0.96g/L以下となる通電時間4.6hから5.9hまでのデータを用いて電流利用率を計算すると3.1%と計算される。化学除染中の除染液中のFeイオン濃度は0.01〜0.1g/L程度であるので、直接、化学除染中の除染液中からFeイオンを回収する従来手法に比べ、本実施形態によれば、数倍電流効率を向上させることができる。すなわち、従来手法では、Feイオン濃度が低いため、通電時間を長くする必要があり、電流利用率は低下する。
【0029】
本実施形態では、
図6に示すように、電解槽300を、陽イオン交換膜301により陰極室304及び陽極室305に隔離する構造とした。比較のため、電解槽300に陽イオン交換膜301を設置することなく、陽極及び陰極を設置し通電した。この場合、Feイオンを溶離した溶離液は茶褐色、黒色と変化し、Feイオンの電極での回収が阻害された。この原因は、次式(6)及び(7)に示すように、陽極の表面で2価のFeイオンが3価に酸化され、2価のFeイオンとの反応により酸化鉄が生成したためと推定される。
Fe
2+ = Fe
3+ + e
−・・・(6)
Fe
2+ + 2Fe
3+ + 4H
2O = Fe
3O
4 + 8H
+・・・(7)
従って、鉄イオンを溶離した溶離液が、陽極303と接触せぬよう陽イオン交換膜301を設置することが重要となる。
【0030】
通電時間2.7hの時点での陰極302の表面の平均の鉄付着量(g/cm
2)及び平均の鉄付着厚さ(cm)は、それぞれ次式(8)及び式(9)にて計算できる。
(平均の鉄付着量(g/cm
2))={(初期値:7.3g/L)−(2.7hでの値:3.2g/L)}×(溶離液量:1L)÷(陰極表面積:100cm
2)=0.04g/cm
2・・・(8)
(平均の鉄付着厚さ(cm))=(平均の鉄付着量:0.04g/cm
2)÷(鉄の密度7.8g/cm
3)=0.005cm・・・(9)
1L(1000cm
3)で1.8eqの陽イオンを吸着できる陽イオン交換樹脂を使用した場合、以下の式(10)に示すように、1000cm
3でFe
2+イオンを約50g吸着できる。
(陽イオン交換樹脂塔21のFe
2+吸着量(g/1000cm
3))=(陽イオン吸着容量(1.8eq))÷(Fe
2+イオンの価数:2)×(Feの質量数:55.847g/mol)=50g/1000cm
3・・・(10)
これに対して、今回使用した陰極302(10cm×10cm×0.1cm、体積10cm
3)は平均の鉄付着量が0.04g/cm
2であったので、以下の式(11)に示すように、1000cm
3あたり約400gのFe
2+イオンを電着できると計算できる。
(Fe
2+イオン電着量(g/1000cm
3))=(単位体積:1000cm
3)÷(陰極1枚の体積:10cm
3)×(平均の鉄付着量:0.04g/cm
2)×陰極1枚の面積:100cm
2)=400g/1000cm
3・・・(11)
なお、電着した鉄又は鉄酸化物の平均厚さは0.005cmで、陰極の0.1cmと比較して十分小さいので鉄又は鉄酸化物の平均厚さを無視して計算した。この計算より陽イオン交換樹脂塔21を使用する場合より、電着した方が化学除染の二次廃棄物量を1/8程度に少なくできることが分かる。
【0031】
しかしながら、今回使用した陰極302の厚さは0.1cmであり、平均の鉄付着厚さは陰極302の厚さの5%であり陰極302が二次廃棄物に占める割合が大きい。そこで発明者らは陰極302が二次廃棄物に占める割合を低減する方法を検討した。
これに対して、陰極302として金属箔(厚さ0.02cm以下)を使用すると1000cm
3あたりの鉄量を向上させることができる。具体的には、陰極302を金属箔にすることを考えたが、そのままでは固定することが困難であることから、金属箔を固定し、外部からの電流を金属箔に伝えることができる平板状の金属箔固定部材501と、その平板状の金属箔固定部材501を被覆する金属箔502から構成される陰極302を検討した。
【0032】
具体的には
図8に示すように、陰極302としてステンレス製の平板状の金属箔固定部材501(10cm×10cm×0.1cm)の外面を覆うように金属箔502(厚さ約0.002cm)を使用した。ここで、金属箔502として市販のアルミ箔を用いた。ここで、金属箔固定部材501を覆うよう金属箔502を設置する工程について説明する。
図8は、
図6に示す電析回収装置30の陰極302を金属箔固定部材501及び金属箔(アルミ箔)502にて構成し、金属箔固定部材501に金属箔(アルミ箔)502を設置する方法を表す図である。まず
図8の左上図に示すように、導線308の一端が接続された平板状の金属箔固定部材501を用意する。また、
図8の右上図に示すように、点線にて折り目を示す金属箔(アルミ箔)502を用意する。その後、
図8の左下図に示すように、平板状の金属箔固定部材501に対し金属箔(アルミ箔)502を位置付け、金属箔(アルミ箔)502の上辺及び下辺を、白抜き矢印にて示すよう
図8に向かって奥側から手前側へと折り畳む。その後、白抜き矢印にて示すように金属箔(アルミ箔)502の右辺及び左辺を、
図8に向かって奥側から手前側へ折り畳む。これにより、金属箔(アルミ箔)502の上辺、下辺、右辺、及び左辺は、
図8の右下図に点線にて示すように位置付けられ、金属箔(アルミ箔)502が平板状の金属箔固定部材501の全面を覆う。なお、この状態では未だ平板状の金属箔固定部材501に対し金属箔(アルミ箔)502は固定されていない。よって
図8の右下図に示すように、上述の点線にて示される金属箔(アルミ箔)502の折合わせ部、すなわち、折り畳まれた金属箔(アルミ箔)502の上辺、下辺、右辺、及び左辺を覆うよう、貼り合わせ面が接着性を有するアルミテープ506にて貼り合わせ、陰極302が得られる。なお、このようにして得られた陰極302は、
図6に示す電析回収装置30の陰極室304に設置される際、上述のアルミテープ506にて金属箔(アルミ箔)502が貼り合わせられた面と反対側の面が、陽イオン交換膜301に対向するよう陰極室304に配される。換言すれば、アルミテープ506によって金属箔(アルミ箔)502が貼り合わせられた面と反対側の面が、陽極303に対向するよう陰極室304内に配される。
【0033】
図6に示す電析回収装置30の溶離液回収タンク31に、鉄イオンを溶離した溶離液(Feイオン濃度:7.3g/L)を1L充填し、電解液タンク306にギ酸1mol/Lを1L充填した。陽極303として、白金を蒸着させたチタン製鋼板の電極(10cm×10cm)を使用した。直流電源310により一定電流(6A)を約3h通電し陰極302の表面に鉄又は鉄酸化物が電着するか確認した。
【0034】
その結果を、
図9を用いて説明する。
図9は、
図8に示す金属箔(アルミ箔)502を設置した金属箔固定部材501を陰極302として使用した場合の、鉄又は鉄酸化物の電着状況を表す図である。
図9の左上図は、
図8に示したアルミテープ506を剥離し、金属箔502を取り外したときの平板状の金属箔固定部材501の状態を示している。
図9の左上図に示されるように、平板状の金属箔固定部材501の表面及び裏面には鉄又は鉄酸化物が電着していなかった。
一方、
図9右上図に示すように、平板状の金属箔固定部材501から取り外した金属箔(アルミ箔)502を展開したところ、金属箔(アルミ箔)502のうち、陽極303に対向するよう陰極室304内に配されていた領域(陽極と向かい合う面)及び、平板状の金属箔固定部材501の両側部にて折り返されていた側の端部0.5cm程度の領域(陽極と反対側の面の端部)に、鉄又は鉄酸化物が付着することが分かった。更に、陰極室304の下部に鉄の薄膜が存在していた。これは、金属箔(アルミ箔)502を平板状の金属箔固定部材501に設置したときに凹凸が生じたため剥離しやすい部分が生じ、通電停止後に剥離して陰極室304の下部に沈積したものと考えられる。
【0035】
陰極302を構成する金属箔固定部材501に被覆したアルミ箔(10cm×10cm×0.002cm)を廃棄物とし、アルミ箔(0.002cm)と電着鉄の厚さ(0.005cm)を含めて上述の式(11)と同様に計算すると、Fe
2+イオン電着量(g/1000cm
3)は5700g/cm
3となり大幅に二次廃棄物に含まれる鉄又は鉄酸化物の量を向上できる。
(Fe
2+イオン電着量(g/1000cm
3))=(単位体積:1000cm
3)÷(陰極1枚の体積:10cm×10cm×(0.002cm+0.005cm)=0.7cm
3)×(平均の鉄付着量:0.04g/cm
2)×陰極1枚の面積:100cm
2)=5700g/1000cm
3
上述の
図8に示した陰極302の構成とすることで、金属イオン及び/又は放射性核種は、陰極302を構成する平板状の金属箔固定部材501に被覆された金属箔(アルミ箔)502上に析出されるため、この金属箔(アルミ箔)502のみを廃棄できることから電析による廃棄物量を低減できると共に、陰極302を構成する平板状の金属箔固定部材501を再利用することが可能となる
図10は、金属箔固定部材501に金属箔(アルミ箔)502を設置する方法の変形例を表す図である。上述の
図9に示した結果では、金属箔(アルミ箔)502のうち、平板状の金属箔固定部材501の両側部にて折り返され、陽極303に対向する側の面とは反対側の面の端部(陽極と反対側の面の端部)0.5cm程度のみに鉄又は鉄酸化物が付着していた。そこで、
図10に示すように、金属箔(アルミ箔)502の上辺、下辺、右辺、及び左辺の折り返し部の幅を約0.5cm程度とし、金属箔(アルミ箔)502の折り返し部の四隅を、貼り合わせ面が接着性を有するアルミテープ506a,506b,506c,506dにて、平板状の金属箔固定部材501の裏面(陽極303に対向する面と反反対側の面)に固定し陰極302を構成した。換言すれば、平板状の金属箔固定部材501のうち、陽極302に対向する面及び反対側の面の端部0.5cm程度を金属箔(アルミ箔)502で被覆する構成とした。陰極302を
図10に示す構成とすることで、上述の
図8に示した陰極302の構成に比べ、更に、二次廃棄物の量を低減することが可能となる。具体的には、金属イオン及び/又は放射性核種は、陰極302を構成する平板状の金属箔固定部材501に被覆された金属箔(アルミ箔)502上に電着により析出されるため、この金属箔(アルミ箔)502のみを廃棄できることから電析による廃棄物量を、
図8に示した陰極302の構成に比べ更に低減できると共に、陰極302を構成する平板状の金属箔固定部材501については再利用することが可能となる。
なお、
図8及び
図10に示した陰極302を構成する平板状の金属箔固定部材501をステンレス製としたが、これに限られず、例えば、磁性体の金属であるマルテンサイトステンレス鋼製としても良い。この場合、金属箔502として用いたアルミ箔を平板状の金属箔固定部材501へ、貼り合わせ面が接着性を有するアルミテープ506、506a〜506dにて固定する構成に替えて、磁石を用いても良い。磁石とマルテンサイトステンレス鋼製の平板状の金属箔固定部材501との間に、非磁性のアルミ箔が介在するものの、アルミ箔の厚さは0.02cm以下であり、望ましくは0.002cm程度の厚さであることから、磁力による固定に特に問題とはならない。
【0036】
図11は、平板状の金属箔固定部材501に金属箔(アルミ箔)502を設置する方法の変形例を表す図である。まず
図11の左上図にように、導線308の一端が接続された平板状の金属箔固定部材501を用意する。本図において、平板状の金属箔固定部材501の面は、
図6に示す電析回収装置30の陰極室304に配される際、陽極303及び陽イオン交換樹脂301に対向する面(陽極側の面)である。
また、
図11の上図中央に示すように、平板状の金属箔固定部材501のうち、上記陽極303及び陽イオン交換樹脂302に対向する面と反対側の面(陽極と反対側の面)には、四隅に金属棒固定部材504a,504b,504c,504dが配されている。
また、
図11の右上図に示すように、金属箔(アルミ箔)502の両側部、すなわち左右の両端部に、円柱状の金属製の棒状部材503a,503bを、金属箔(アルミ箔)502の両側部の上端部から下端部に亘り延伸するよう配される金属箔(アルミ箔)502を用意する。
【0037】
その後、
図11の下図に示すように、平板状の金属箔固定部材501のうち陽極側の面が全て覆われるよう金属箔(アルミ箔)502が位置付けられ、金属製の棒状部材503a,503bと共に、平板状の金属箔固定部材501の両側部にて折り返される。
図11の下図に示すように、平板状の金属箔固定部材501の陽極と反対側の面内において、金属箔(アルミ箔)502は、点線で示される2本の金属製の棒状部材503a,503bを覆い、金属箔(アルミ箔)502の折り返し後の左右の端部が僅かに金属製の棒状部材503a,503bより内側に位置する。この状態にて、金属棒固定部材504a〜504dを、金属箔(アルミ箔)502を介在させつつ金属製の棒状部材503a,503bに嵌合させる。これにより、金属棒固定部材504a〜504dは、金属箔(アルミ箔)502を介在させつつ金属製の棒状部材503a,503bと緊合し、金属箔(アルミ箔)502が平板状の金属箔固定部材501に固定される。
図11に示した陰極302の構成においても、上述の
図8に示した陰極302の構成に比較し、更に二次廃棄物の量を低減することが可能となる。
【0038】
また、
図12は、平板状の金属箔固定部材501に金属箔(アルミ箔)502を設置する方法の変形例を表す図である。
図12に示すように、平板状の金属箔固定部材501は、中央部を含む領域に開口を有する点が、上述の
図11に示した陰極302と異なる。その他の構成は、上述の
図11に示した陰極302の構成と同様であるため、以下では説明を省略する。
【0039】
なお、
図11及び
図12においては、4個の金属棒固定部材504a〜504dにて、金属箔(アルミ箔)502を介在させつつ金属製の棒状部材503a,503bと緊合し、金属箔(アルミ箔)502を平板状の金属箔固定部材501に固定する構成としたが、必ずしもこれに限られるものではない。使用する金属棒固定部材の個数は適宜設定すれば良い。また、金属製の棒状部材503a,503bを円柱状とする例を説明したが、これに限られるものではなく、例えば、金属製の棒状部材503a,503bの横断面が半円形の棒状体としても良く、更には、横断面が多角形状を有する棒状体としても良い。この場合、角部を面取りすることが望ましい。
【0040】
図13に、平板状の金属箔固定部材501に金属箔(アルミ箔)502を設置する方法の更なる変形例を示す。
図13に示すように、平板状の金属箔固定部材501のうち、陽極側の面と反対側の面であって、その両側部に金属製の棒状部材503a,503bを配し、これら金属製の棒状部材503a,503bにて金属箔(アルミ箔)502を巻き取り(アルミ箔巻き取り部505)、貼り合わせ面が接着性を有するアルミテープ(図示せず)にて、アルミ巻き取り部505の端部を金属製の棒状部材503a,503bの側面に貼り付け固定し陰極302を構成する。
図13に示す陰極302の構造とすることで、金属箔(アルミ箔)502を平板状の金属箔固定部材501より取り外すことが容易となる。
【0041】
なお、本実施形態では、溶離液としてギ酸とヒドラジンの混合液としたが、これに限らず、グリコール酸とヒドランジンの混合液又はマロン酸とヒドラジンとの混合液としても良い。また、少なくともギ酸、グリコール酸及びマロン酸のうち何れか1つとヒドラジンとの混合液でも良い。すなわち、例えば、ギ酸及びグリコール酸を所定の濃度で混合しヒドラジンを添加し混合液としても良く、また、ギ酸及びマロン酸を所定の濃度で混合した後、ヒドラジンを添加し混合液としても良い。
また、陽イオン交換樹脂塔21より溶離する金属イオンとしてFeイオンを例に説明したが、これに限られない。例えば、陽イオンとして、Co,Ni等としても良い。
また、金属箔502としてアルミ箔を用いる例を示したがこれに限られず、例えば、ニッケル箔、チタン箔、又はステンレス箔を金属箔502として用いても良い。
本実施形態によれば、上述のとおり、陽イオン交換樹脂塔に吸着された金属イオン及び/又は放射性核種を高電流利用率にて電析回収することが可能となると共に、金属イオン及び/又は放射性核種の電析により発生する廃棄物量を低減できる。
例えば、金属イオン及び/又は放射性核種は、陰極を構成する平板状の金属箔固定部材に被覆された金属箔上に析出されるため、当該金属箔のみを廃棄できることから電析による廃棄物量を低減できると共に、陰極を構成する平板状の金属箔固定部材を再利用することが可能となる。
【0042】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例においても、陽イオン交換樹脂塔21より溶離する金属イオンとして、Feイオンを一例とし、また、溶離液としてギ酸とヒドラジンの混合液を用いる場合を例に説明する。なお、以下の実施例においては、電析回収装置30を構成する電解槽300の陰極室304に配される陰極302の構成は、上述の
図8、
図10から
図13に示した構成のうち、何れであっても良い。
【実施例1】
【0043】
図14及び
図15に、本発明の一実施例に係る実施例1の化学除染システムの動作説明図を示す。本実施例における、化学除染装置2及び溶離回収装置3よりなる化学除染システム1は、上述の
図1に示す構成と同様であり、また、溶離回収装置3を構成する電析回収装置30は、上述の
図6に示す構成と同様であるため、以下では説明を省略する。
【0044】
以下では、化学除染対象20である配管や機器が、ステンレス鋼あるいはニッケル基合金である場合における、本実施例の化学除染システム1による化学除染工程を説明する。
図14及び
図15において、白抜きで表される弁は開状態を、また、黒く塗りつぶされた弁は閉状態を示している。先ず化学除染システム1を動作可能な状態とする準備工程について説明する。
【0045】
(1)準備工程
まず、
図14の上図に示すように、弁10、19、36及び37を閉状態とする。その他の弁は全て開状態とする。この状態でサージタンク24に接続される給排水管50より、イオン交換水を導入する。必要量のイオン交換水導入後、
図14の下図に示すように、給排水管50に設置された弁34を閉状態にすると共に、更に弁12、13、14、15、18及び33を閉状態にする。これにより、化学除染対象20、弁17、ポンプ4、加熱器27、冷却器28、弁16、サージタンク24、ポンプ5及び弁11は、これらを接続する配管40により1つの閉ループが形成される。
上記閉ループが形成された状態で、ポンプ4及びポンプ5を起動し、化学除染装置2及び化学除染対象20である配管あるいは機器に充填された水(以下、系統水と呼ぶ)を閉ループ内で循環させる。なお、ここで系統水とは、例えば、化学除染剤タンク23より供給される薬剤が添加された後の水も含め、化学除染装置2内に存在する水をいう。
上記閉ループ内を循環する系統水は、加熱器27により所定の温度まで昇温され、その後所定温度を維持するよう制御される。ここで、所定温度は、90±5℃とすることが望ましい。準備工程終了後、酸化除染工程に移行する。
【0046】
(2)酸化除染工程
酸化除染工程では、
図14の下図に示す各弁の開閉状態にて、化学除染剤(酸化除染剤)を化学除染剤タンク23に充填する。酸化除染剤の充填終了後、弁10を開状態とし、ポンプ6を起動する。この時の各弁の開閉状態は、
図15に示す状態となる。ポンプ6の起動により、化学除染剤タンク23内に充填された酸化除染剤は、配管41を介して上記閉ループを形成する配管40へ注入される。ここで、酸化除染剤として、過マンガン酸カリウムあるいは過マンガン酸が好適である。閉ループ内を循環する系統水中の過マンガン酸イオン濃度が200〜500mg/Lとなるよう、ポンプ6を介して化学除染剤タンク23より過マンガン酸カリウムや過マンガン酸を配管40へ注入する。
酸化除染剤の注入が完了した後、ポンプ6を停止して弁10を閉状態とする。この時、各弁の開閉状態は
図14の下図に示す状態に戻り、そして、ポンプ4及びポンプ5により、2〜6h(時間)酸化除染剤を化学除染対象20である配管あるいは機器(例えば、弁あるいはポンプ)に循環させる。次に、酸化除染剤分解工程に移行する。
【0047】
(3)酸化除染剤分解工程
酸化除染剤分解工程では、
図14の下図に示す各弁の開閉状態にて、過マンガン酸イオンをマンガンイオンに還元する化学薬品を化学除染剤タンク23に充填する。過マンガン酸イオンをマンガンイオンに還元する化学薬品として、例えば、シュウ酸が好適である。シュウ酸と過マンガン酸イオンは、次式(12)に示す反応を生じる。
2MnO
4− + 5(COOH)
2
= 2Mn
2+ + 6OH
− + 10CO
2 + 2H
2O・・・(12)
従って、過マンガン酸イオンの2.5倍モル以上のシュウ酸を準備する。
【0048】
弁10を開状態とし、ポンプ6を起動する。この時、各弁の開閉状態は
図15に示す状態となる。ポンプ6の起動により、化学除染剤タンク23内に充填された過マンガン酸イオンをマンガンイオンに還元する化学薬品を、配管41を介して配管40へ注入する。
過マンガン酸イオンをマンガンイオンに還元する化学薬品の配管40への注入が完了した後、ポンプ6を停止すると共に弁10を閉状態とする。これにより、各弁の開閉状態は、
図10の下図に示す状態となる。その後、サージタンク24内の系統水を作業員による目視にて、過マンガン酸イオンの紫色が透明になったことを確認した後、酸化除染剤分解工程は完了する。酸化除染剤分解工程完了後、次に、還元除染工程へ移行する。
【0049】
(4)還元除染工程
還元除染工程では、
図14の下図に示す各弁の開閉状態から、弁13及び弁15を開状態とし、陽イオン交換樹脂塔21に系統水を循環させる。また、還元除染剤を化学除染剤タンク23に充填する。還元除染剤の充填完了後、弁10を開状態とすると共にポンプ6を起動する。ポンプ6の起動により、化学除染剤タンク23内に充填された還元除染剤は、配管41を介して配管40へ注入される。ここで、還元除染剤として、例えば、シュウ酸又はシュウ酸とヒドラジンの混合液が好適である。配管40及び配管43により化学除染対象20及び陽イオン交換樹脂塔21を循環する系統水中のシュウ酸濃度が、2000〜3000mg/Lとなるよう、ポンプ6により化学除染剤タンク23からシュウ酸を配管40へ注入する。また、同様に、系統水中のヒドラジン濃度が400〜600mg/Lとなるよう、ヒドラジンを配管40へ注入する。
還元除染剤の配管40への注入が完了した後、ポンプ6を停止すると共に弁10を閉状態とする。そして、ポンプ4及びポンプ5により、6〜12h化学除染対象20である配管あるいは機器に還元除染剤を循環させる。その後、還元除染剤分解工程へ移行する。
(5)還元除染剤分解工程
還元除染剤分解工程では、過酸化水素タンク25に過酸化水素を充填する。この時、弁19は閉状態にある。また、弁18及び弁33を開状態とし、触媒塔26に系統水を循環させる。
続いて、弁19を開状態とすると共にポンプ7を起動する。ポンプ7の起動により、過酸化水素タンク25内に充填された過酸化水素は、配管44を介し、開状態にある弁33を通流し配管40へ注入される。過酸化水素の注入濃度は、還元除染剤との反応当量の1〜2倍が好適である。還元除染剤がシュウ酸、ヒドラジンの場合は、それぞれ次式(13)、(14)に示すように過酸化水素と反応する。
(COOH)
2 + H
2O
2 = 2CO
2 + 2H
2O・・・(13)
N
2H
4 + 2H
2O
2 = N
2 + 4H
2O・・・(14)
シュウ酸濃度が3000ppmの場合は、過酸化水素の反応当量は1133ppmであり、ヒドラジン濃度が600ppmの場合は、過酸化水素の反応当量は1275ppmである。なお、還元除染剤の分解に伴い過酸化水素注入濃度を変えても良いし、還元除染剤の初期濃度で計算した過酸化水素濃度で一定のままとしても良い。
式(13)及び式(14)の反応により、シュウ酸濃度及びヒドラジン濃度が、検出限界(10mg/L)に到達した時点で、ポンプ7を停止して、弁10、18及び33を閉状態とする。これにより、過酸化水素タンク25内に充填された過酸化水素の配管40への注入は終了する。還元除染剤分解工程終了後、次に、追加除染の要否判定工程へ移行する。
【0050】
(6)追加除染の要否判定工程
追加除染の要否判定工程では、化学除染対象20である配管あるいは機器の放射線量が目標値以下になっている場合や、経済的または時間的要求により追加除染できない場合は、浄化工程に移行する。上記以外の場合は、弁13及び弁15を閉状態とし、すなわち、各弁の開閉状態を
図14の下図の状態とし、(2)酸化除染工程へ戻り、以降の工程を繰り返す。
【0051】
(7)浄化工程
浄化工程では、加熱器27での加熱を停止し、冷却器28による冷却を開始する。化学除染対象20、弁17、ポンプ4、加熱器27、冷却器28、弁16、サージタンク24、ポンプ5、弁11、及びこれらを接続する配管40により形成される閉ループ内を循環する系統水の温度が60℃以下となった時点で、弁12及び弁14を開状態とする。これにより、系統水は、配管40及び配管42を介して混合樹脂塔22へ流入し、その後、化学除染対象20へと流れ循環する。サージタンク24で適宜系統水の電気伝導率を測定する。サージタンク24での系統水の電気伝導率が1mS/m以下になるまで浄化(系統水の循環)を続ける。サージタンク24での系統水の電気伝導率が1mS/m以下となった時点で、ポンプ4及びポンプ5を停止して、弁18、33、34を開状態とし、給排水配管50から化学除染装置2内の系統水を排水する。これにより、化学除染工程を終了する。
【0052】
次に、化学除染対象20である配管あるいは機器が炭素鋼や低合金鋼である場合における、本実施例の化学除染システム1による化学除染工程を説明する。
【0053】
(1’)準備工程
まず、
図14の上図に示すように、弁10、19、36及び37を閉状態とする。その他の弁は全て開状態とする。この状態でサージタンク24に接続される給排水管50より、イオン交換水を導入する。必要量のイオン交換水導入後、
図14の下図に示すように、給排水管50に設置された弁34を閉状態にすると共に、更に弁12、13、14、15、18及び33を閉状態にする。これにより、化学除染対象20、弁17、ポンプ4、加熱器27、冷却器28、弁16、サージタンク24、ポンプ5及び弁11は、これらを接続する配管40により1つの閉ループが形成される。
上記閉ループが形成された状態で、ポンプ4及びポンプ5を起動し、化学除染装置2及び化学除染対象20である配管あるいは機器に充填された系統水を閉ループ内で循環させる。上記閉ループ内を循環する系統水は、加熱器27により所定の温度まで昇温され、その後所定温度を維持するよう制御される。ここで、所定温度は、90±5℃とすることが望ましい。準備工程終了後、有機酸除染工程に移行する。
【0054】
(2’)有機酸除染工程
有機酸除染工程では、
図14の下図に示す各弁の開閉状態から、弁13及び弁15を開状態とし、陽イオン交換樹脂塔21に系統水を循環させる。次に、有機酸除染剤を化学除染剤タンク23に充填する。有機酸除染剤の充填完了後、弁10を開状態とし、ポンプ6を起動する。ポンプ6の起動により、化学除染剤タンク23内に充填された有機酸除染剤は、配管41を介して配管40へ注入される。ここで、有機酸除染剤として、マロン酸又はマロン酸とシュウ酸の混合液が好適である。系統水中のマロン酸濃度が2000〜6000mg/Lとなるよう、ポンプ6により化学除染剤タンク23からマロン酸を配管40へ注入する。また、同様に、系統水中のシュウ酸濃度が50〜400mg/Lとなるよう、シュウ酸を配管40へ注入する。
有機酸除染剤の配管40への注入が完了した後、ポンプ6を停止すると共に弁10を閉状態とする。そして、ポンプ4及びポンプ5により、6〜12h化学除染対象20である配管あるいは機器に有機酸除染剤を循環させる。その後、有機酸除染剤分解工程へ移行する。
【0055】
(3’)有機酸除染剤分解工程
有機酸除染剤分解工程では、過酸化水素タンク25に過酸化水素を充填する。この時、弁19は閉状態にある。また、弁18及び弁33を開状態とし、触媒塔26に系統水を循環させる。
続いて、弁19を開状態とすると共にポンプ7を起動する。ポンプ7の起動により、過酸化水素タンク25内に充填された過酸化水素は、配管44を介し、開状態にある弁33を通流し配管40へ注入される。過酸化水素の注入濃度は、有機酸除染剤との反応当量の1〜2倍が好適である。有機酸除染剤がシュウ酸、マロン酸の場合は、それぞれ次式(15)、(16)に示すように過酸化水素と反応する。
(COOH)
2 + H
2O
2 = 2CO
2 + 2H
2O・・・(15)
C
3H
4O
4 + 4H
2O
2 = 3CO
2 + 6H
2O・・・(16)
シュウ酸濃度が400ppmの場合は、過酸化水素の反応当量は151ppmであり、マロン酸濃度が6000ppmの場合は、過酸化水素の反応当量は2794ppmである。有機酸除染剤の分解に伴い過酸化水素注入濃度を変えても良いし、有機酸除染剤の初期濃度で計算した過酸化水素濃度で一定のままとしても良い。
式(15)及び式(16)の反応により、シュウ酸濃度及びマロン酸濃度が、検出限界(10mg/L)に到達した時点で、ポンプ7を停止して、弁10、18及び33を閉状態とする。これにより、過酸化水素タンク25内に充填された過酸化水素の配管40への注入は終了する。有機酸除染剤分解工程終了後、次に追加除染の要否判定に移行する。
【0056】
(4’)追加除染の要否判定工程
追加除染の要否判定工程では、化学除染対象20である配管あるいは機器の放射線量が目標値以下になっている場合や、経済的または時間的要求により追加除染できない場合は、浄化工程に移行する。上記以外の場合は、(2’)有機酸除染工程へ戻り以降の工程を繰り返す。
【0057】
(5’)浄化工程
浄化工程では、加熱器27での加熱を停止し、冷却器28による冷却を開始する。化学除染対象20、弁17、ポンプ4、加熱器27、冷却器28、弁16、サージタンク24、ポンプ5、弁11、及びこれらを接続する配管40内を循環する系統水の温度が60℃以下となった時点で、弁12及び弁14を開状態とする。これにより系統水は、配管40及び配管42を介して混合樹脂塔22に流入し、その後、化学除染対象20へと流れ循環する。サージタンク24で適宜系統水の電気伝導率を測定する。サージタンク24での系統水の電気伝導率が1mS/m以下になるまで浄化(系統水の循環)を続ける。サージタンク24での系統水の電気伝導率が1mS/m以下となった時点で、ポンプ4及びポンプ5を停止し、弁18、33及び34を開状態とする。弁34が開状態とされることにより給排水配管50から化学除染装置2内の系統水が排水される。これにより、化学除染工程が終了する。
【0058】
次に、本実施例の溶離回収装置3を用いて、陽イオン交換樹脂塔21から金属イオンと放射性核種を溶離し、金属又は金属酸化物として電極表面に析出させ、金属イオンと放射性核種を回収する溶離回収工程について説明する。
【0059】
(1)金属イオンの溶離工程
金属イオンの溶離工程では、弁35を閉状態とし、溶離液を溶離液タンク32に充填する。ここで、本実施例では、溶離液として、ギ酸濃度が1〜2mol/Lであり、ヒドラジンによりpHを4〜5に調整したギ酸ヒドラジン混合液を用いる。なお、溶離液はギ酸ヒドラジン混合液に限らず、例えば、グリコール酸ヒドラジン混合液、あるいはマロン酸ヒドラジン混合液を溶離液として用いても良い。
溶離液タンク32へ溶離液の充填が完了した後、弁13、15、36及び37を開状態とし、排水管51に設置される弁38を閉状態とする。その後、弁35を開状態とすると共にポンプ8を起動する。ポンプ8の起動により、溶離液は、配管46を流れ陽イオン交換樹脂塔21へ流入する。陽イオン交換樹脂塔21を通流後の溶離液は、配管45を流れ溶離液回収タンク31に流入し回収される。ここで、陽イオン交換樹脂塔21に充填された陽イオン交換樹脂量と同量の溶離液が0.5〜1時間で通水できるよう、ポンプ8によりSV1〜2[l/h]通水量を調整する。陽イオン交換樹脂量の2倍量の溶離液を、陽イオン交換樹脂塔21へ通水した後、ポンプ8を停止すると共に弁35を閉状態とする。
【0060】
次に、イオン交換水を溶離液タンク32に充填する。溶離液タンク32へのイオン交換水の充填が完了した後、再び、弁35を開状態とすると共にポンプ8を起動する。ポンプ8の起動により、イオン交換水は、配管46を流れ陽イオン交換樹脂塔21へ流入する。陽イオン交換樹脂塔21を通流後のイオン交換水は、配管45を流れ溶離液回収タンク31へ流入し回収される。ここで、陽イオン交換樹脂塔21に充填された陽イオン交換樹脂量と同量のイオン交換水が0.5〜1時間で通水できるよう、ポンプ8によりSV1〜2[l/h]通水量を調整する。陽イオン交換樹脂量0.5〜1倍量のイオン交換水を、陽イオン交換樹脂塔21へ通水した後、ポンプ8を停止すると共に、弁35及び弁37を閉状態とする。これにより金属イオンの溶離工程は終了し、次に、金属イオンの回収工程へ移行する。
【0061】
(2)金属イオンの回収工程
金属イオンの回収工程では、
図6に示す電析回収装置30内の電解液タンク306に、1〜2mol/Lのギ酸を電解液として充填する。なお、本実施例では、電解液としてギ酸を用いる場合を例に説明するがこれに限られない。電解液として、他の電気伝導性を有する溶液であれば良い。電解液タンク306への電解液の充填完了後、ポンプ9及びポンプ307を起動する。ポンプ9の起動により、溶離液回収タンク31内の溶離液は、電解槽300の下部から陰極室304へ配管48を介して通水される。また、陰極室304へ通水された溶離液は、陰極室304の上部より抜き出され、再び、配管49を流れ溶離液回収タンク31へと還流する。一方、ポンプ307の起動により、電解液タンク306内に充填された電解液は、電解槽300の下部から陽極室305へ配管311を介して通水される。また陽極室305へ通水された電解液は、陽極室305の上部より抜き出され、再び、配管311を流れ電解液タンク306へと還流する。
直流電源310を起動し、陰極302及び陽極303に通電する。ここで、通電量は1〜10A/dm
2とするのが好ましい。陰極302及び陽極303に通電することにより、Feイオン等の金属イオン(陽イオン)を、陰極302の表面に析出させ回収する。
適宜、溶離液回収タンク31内の溶離液の放射能濃度、金属イオン濃度を分析し、初期濃度の1/10以下になるまで通電を継続する。初期濃度の1/10以下となった時点で、溶離液の再利用工程に移行する。
【0062】
(3)溶離液の再利用工程
溶離液の再利用工程では、弁38、弁313を開状態とし、排水管314より陰極室304内の溶離液を排出する。その際に、陰極室304の下部に沈積した鉄又は鉄酸化物の破片はフィルタ312で回収する。また、排水管51より溶離液回収タンク31内の溶離液を排出する。排出された溶離液を、溶離液タンク32に導入し、pHが4〜5となるようヒドラジンを添加する。これにより金属イオンが回収された後の溶離液を、再度、(1)金属イオンの溶離工程にて使用することが可能となる。
【0063】
(4)溶離液の分解工程
溶離液の分解工程では、溶離液(ギ酸ヒドラジン混合液)を過酸化水素と化学反応させ、次式(17)に示す反応によりギ酸を分解する。ヒドラジンについても、同様に過酸化水素と化学反応させることにより分解する。
HCOOH + H
2O
2 = CO
2 + 2H
2O・・・(17)
(5)金属箔(アルミ箔)の取り外し、再設置工程
陰極室304から溶離液を排水後、陰極302を構成する平板状の金属箔固定部材501から金属箔(アルミ箔)502を取り外し、新たな金属箔(アルミ箔)502を設置する。
【0064】
本実施例によれば、陽イオン交換樹脂塔に吸着された金属イオン及び/又は放射性核種を高電流利用率にて電析回収することが可能となると共に、金属イオン及び/又は放射性核種の電析により発生する廃棄物量を低減できる。
例えば、金属イオン及び/又は放射性核種は、陰極を構成する平板状の金属箔固定部材に被覆された金属箔上に析出されるため、当該金属箔のみを廃棄できることから電析による廃棄物量を低減できると共に、陰極を構成する平板状の金属箔固定部材を再利用することが可能となる。
また、本実施例によれば、金属イオンや放射性核種を溶離した陽イオン交換樹脂塔21内に充填された陽イオン交換樹脂を再度化学除染に利用できるため、化学除染による二次廃棄物量を低減できる。
また、本実施例によれば、金属イオンや放射性核種の濃度が高く、且つ、水素イオン濃度が低い溶液から金属イオンや放射性核種を電極表面に回収するため、電流効率良く金属イオンや放射性核種を電極表面に金属又は金属酸化物として回収することができる。
また、溶離に使用したギ酸ヒドラジン混合液は、二酸化炭素、窒素、水に分解することで無害化できるため、溶離に硫酸などの無機酸を使用する場合と比較して二次廃棄物を少なくできる。
【実施例2】
【0065】
図16に、本発明の他の実施例に係る実施例2の化学除染システムの全体構成を示す。実施例1では、配管あるいは機器等の化学除染対象20を化学除染装置2内に設置する構成としたのに対し、本実施例では、化学除染タンク60を化学除染装置2内に設け、化学除染タンク60内に化学除染対象となる配管あるいは機器(弁あるいはポンプ等)を浸漬させ、化学除染を行う構成とした点が異なる。
図16において、
図1、
図14及び
図15に示す構成要素と同一の構成要素に同一の符号を付している。
【0066】
図16に示すように、本実施例の化学除染システム1aは、化学除染装置2a及び溶離回収装置3より構成される。化学除染装置2aは、配管又は配管に接続される弁あるいはポンプ等の機器を含む化学除染対象を浸漬する化学除染タンク60、弁17、ポンプ4、加熱器27、冷却器28、弁16、及び弁11は、配管40により接続され、1つの閉ループを形成可能に構成される。配管40を流れる溶液は、ポンプ4により加熱器27、冷却器28、弁16、弁11、化学除染タンク60の順で流れる。
また、弁16を挟み、冷却器28の下流と化学除染タンク60の上流を配管42で接続し、配管42に弁14、混合樹脂塔22、弁12が設置されている。混合樹脂塔22には、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を、1:1又は1:2の割合で混合したイオン交換樹脂が充填されている。更に、冷却器28の下流と化学除染タンク60の上流を配管43で接続し、配管43に弁15、陽イオン交換樹脂塔21、弁13が設置されている。陽イオン交換樹脂塔21には、陽イオン交換樹脂が充填されている。
【0067】
弁16の下流と弁11の上流の配管40に一端が接続され、弁33、触媒塔26、弁18を介して他端が配管40に接続される配管44が敷設されている。触媒塔26には、過酸化水素と有機酸との化学反応を促進する触媒、例えば0.5%Ru担持活性炭が充填されている。なお、触媒塔26に替えて紫外線照射装置を設置する構成としても良い。弁33の下流且つ触媒塔26の上流側の配管44には、ポンプ7、弁19、過酸化水素タンク25が設置されている。弁18を介して配管44の他端が接続される位置と弁11の間の配管40には、配管40より分岐する配管41が敷設され、ポンプ6、弁10及び化学除染剤タンク23が配管41により接続される。化学除染剤タンク23には、化学除染のために使用する化学薬品が貯蔵される。複数の化学薬品を使用する場合、その都度、これらポンプ6、弁10及び化学除染剤タンク23を洗浄して使用する。
【0068】
溶離回収装置3は、実施例1と同様であるため、ここでは説明を省略する。本実施例の化学除染装置2aでは、化学除染タンク60に給排水管62が接続され、給排水管62には弁61が設置される。化学除染の準備工程では、弁10、19、36及び37を閉状態とし、その他の弁は全て開状態とする。この状態で化学除染タンク60に接続される給排水管62より、イオン交換水を導入する。必要量のイオン交換水導入後、弁61を閉状態とし、更に、弁12、13、14及び15を閉状態とすると共にポンプ4を起動し、系統水を上記閉ループ内で循環させることにより、化学除染タンク60内の化学除染対象となる配管あるいは機器を系統水に浸漬させる。以降、実施例1で説明した(2)酸化除染工程〜(7)浄化工程、又は、(2’)有機酸除染工程〜(5’)洗浄工程が実行され、化学除染工程が終了する。化学除染工程終了後、実施例1で説明した(1)金属イオンの溶離工程〜(5)金属箔(アルミ箔)の取り外し、再設置工程が実行され、溶離回収工程を終了する。
【0069】
本実施例によれば、実施例1の効果に加え、サージタンク24及びポンプ5を不要とできることから、化学除染システム1aを構成する化学除染装置2aの部品点数を低減することが可能となる。
【実施例3】
【0070】
図17に、本発明の他の実施例に係る実施例3の化学除染システムの全体構成を示す。実施例2では、化学除染装置2aと溶離回収装置3とを、化学除染装置2a内に設置された陽イオン交換樹脂塔21の流入側(上流側)及び流出側(下流側)にそれぞれ一端が接続される配管45及び配管46により接続する構成とした。これに対し、本実施例では、化学除染装置2と溶離回収装置3とを配管により接続することなく、それぞれ独立に設置する構成とした点が実施例2と異なる。
図17において、
図1、
図14、
図15及び
図16に示す構成要素と同一の構成要素に同一の符号を付している。
【0071】
図17に示すように、本実施例の化学除染システムは、化学除染装置2及び溶離回収装置3より構成され、化学除染装置2及び溶離回収装置3は配管等で接続されることなく、それぞれ独立に離間して設置される。
化学除染装置2は、配管又は配管に接続される弁あるいはポンプ等の機器を含む化学除染対象を浸漬する化学除染タンク60、弁17、ポンプ4、加熱器27、冷却器28、弁16及び弁11は、配管40により接続され、1つの閉ループを形成可能に構成される。配管40を流れる溶液は、ポンプ4により、加熱器27、冷却器28、弁16、弁11、化学除染タンク60の順で流れる。
また、弁16を挟み、冷却器28の下流と化学除染タンク60の上流を配管42で接続し、配管42に弁14、混合樹脂塔22、弁12が設置されている。混合樹脂塔22には、実施例1または実施例2と同様に、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を、1:1又は2:1の割合で混合したイオン交換樹脂が充填されている。更に、冷却器28の下流と化学除染タンク60の上流を配管43で接続し、配管43に設置される上流側の弁15と下流側の弁13との間に、着脱自在に陽イオン交換樹脂塔21aが設置されている。
図17では、陽イオン交換樹脂塔21bが設置された状態を示しているが、これは後述する、金属イオン吸着後の陽イオン交換樹脂塔21aを、同様の特性を有する他の新たな陽イオン交換樹脂塔21bに交換した後の状態を示しているためである。これら、陽イオン交換樹脂塔21a及び21bには、陽イオン交換樹脂が充填されている。
【0072】
また、実施例2と同様に、弁16の下流と弁11の上流の配管40に一端が接続され、弁33、触媒塔26、弁18を介して他端が配管40に接続される配管44が敷設されている。触媒塔26には、過酸化水素と有機酸との化学反応を促進する触媒、例えば0.5%Ru担持活性炭が充填されている。なお、触媒塔26に替えて紫外線照射装置を設置する構成としても良い。弁33の下流且つ触媒塔26の上流側の配管44には、ポンプ7、弁19、過酸化水素タンク25が設置されている。弁18を介して配管44の他端が接続される位置と弁11の間の配管40には、配管40より分岐する配管41が敷設され、ポンプ6、弁10及び化学除染剤タンク23が配管41により接続される。化学除染剤タンク23には、化学除染のために使用する化学薬品が貯蔵される。複数の化学薬品を使用する場合、その都度、これらポンプ6、弁10及び化学除染剤タンク23を洗浄して使用する。
【0073】
溶離液回収装置3は、上記金属イオン吸着後の陽イオン交換樹脂塔21aを装着可能に構成されている。この陽イオン交換樹脂塔21aには、溶離液の流れの方向を基準に、上流側に弁36、下流側に弁37がそれぞれ配管46、配管45に設置されている。一端が陽イオン交換樹脂21aに接続される配管46には、溶離液の流れの方向を基準として、弁36の上流側に、ポンプ8、弁35、溶離液タンク32がそれぞれ順に接続される。また、一端が陽イオン交換樹脂塔21aに接続される配管45には、弁37の下流側に溶離液回収タンク31が接続され設置されている。溶離液回収タンク31の下流に、ポンプ9及び電析回収装置30が設置される。その他、溶離液回収装置3の構成は、実施例1及び実施例2と同様であり、電析回収装置30の構成は、上述の
図6に示す構成と同様である。
【0074】
本実施例の化学除染装置2では、化学除染タンク60に給排水管62が接続され、給排水管62には弁61が設置される。初期段階で陽イオン交換樹脂塔21aが配管43に設置される弁13及び弁15との間に設置された状態であることを想定する。化学除染の準備工程では、弁10及び弁19を閉状態とし、その他の化学除染装置2内に設置される弁は開状態とする。この状態で化学除染タンク60に接続される給排水管62よりイオン交換水を導入する。必要量のイオン交換水導入後、弁61を閉状態とし、更に弁12、13、14及び15を閉状態とすると共にポンプ4を起動する。これにより、系統水は、ポンプ4、加熱器27、冷却器28、弁16、弁11、化学除染タンク60の順に循環する。これにより、化学除染タンク60内の化学除染対象である配管あるいは機器は系統水に浸漬する。以降、実施例1で説明した(2)酸化除染工程〜(7)浄化工程、又は(2’)有機酸除染工程〜(5’)洗浄工程が実行され、化学除染工程が終了する。
【0075】
化学除染工程終了後、化学除染装置2内の弁13及び弁15を閉状態とし、金属イオン及び/又は放射性核種を吸着した陽イオン交換樹脂塔21aを配管43との接続を解除することで取り外し、運搬用の台車400に載置し、化学除染装置2と離間配置される溶離回収装置3へ運搬する。なお、陽イオン交換樹脂塔21a取り外し後、配管43に新たに陽イオン交換樹脂塔21bを設置する。金属イオンまたは放射性核種を吸着した陽イオン交換樹脂塔21aを、溶離回収装置3内の配管46に設置される弁36及び配管45に設置される弁37との配管接続部に設置する。これにより、溶離液タンク32内に充填された溶離液を、ポンプ8により陽イオン交換樹脂塔21aへ通水可能な状態となる。その後、実施例1で説明した(1)金属イオンの溶離工程〜(5)金属箔(アルミ箔)の取り外し、再設置工程が実行される。
【0076】
なお、本実施例では、化学除染工程終了後、すなわち、洗浄工程終了後に、化学除染装置2より金属イオンまたは放射性核種を吸着した陽イオン交換樹脂塔21aを取り外す手順を説明したが、必ずしもこれに限られず、化学除染対象である配管や機器が、ステンレス鋼あるいはニッケル基合金である場合では、(4)還元除染工程終了後に、陽イオン交換樹脂塔21aを取り外す手順としても良い。
また、化学除染対象である配管あるいは機器が炭素鋼や低合金鋼である場合では、(2’)有機酸除染工程終了後に。陽イオン交換樹脂塔21aを取り外す手順としても良い。
【0077】
本実施例によれば、実施例2の効果に加え、離間配置される化学除染装置2および溶離回収装置3間で、金属イオンまたは放射性核種を吸着した陽イオン交換樹脂塔を化学除染装置2より取り外し、新たな陽イオン交換樹脂塔を装着し、取り外された陽イオン交換樹脂塔を溶離回収装置に装着する構成であることから、化学除染工程と溶離回収工程を並行して実施することが可能となる。これにより、化学除染から溶離回収までの一連の工程を短時間で実行することが可能となる。
【0078】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。