(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1HF発振器信号は少なくとも1つの周波数ランプを有し、前記第2HF発振器信号は対応する周波数ランプを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
前記第1HF発振器信号は第1周波数を有し、前記第2HF発振器信号は、前記第1周波数とは規定の周波数オフセット分だけ異なる第2周波数を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施形態は、レーダ受信機の文脈で説明を行う。しかし、ここで説明する様々な実施形態は、レーダ応用に限定されることはなく、別の分野、例えばHF通信装置のHF送受信機中でも採用可能である。様々な応用分野でのHF回路が、HF信号生成用の電圧制御発振器(VCO)を有することが可能である。あるいは、VCOの代わりに、デジタル制御発振器(DCO)を用いることも可能である。ここで説明した概念は、DCOをVCOに代えて用いる応用にも容易に移行可能である。
【0015】
図1は、FMCWレーダシステムを、物体からの距離および速度計測のためのセンサとして応用する場合を図解するが、この物体は、通常レーダ目標と称される。この例では、レーダ装置10は、別々の送信(TX)アンテナ5および受信(RX)アンテナ6(バイスタティックまたは疑似モノスタティックレーダ構成)を有する。しかし、同時に送信アンテナとしても受信アンテナとしても機能する単一のアンテナ(モノスタティックレーダ構成)を用いることもできる点に注意されたい。送信アンテナ5は、連続的なHF信号s
RF(t)を放射し、この信号は、例えばのこぎり波信号(周期的な線形のランプ信号)を用いて周波数変調されている。放射された信号s
RF(t)は、レーダ目標Tで後方散乱し、後方散乱された(反射された)信号y
RF(t)は、受信アンテナ6により受信される。
【0016】
図2は、信号s
RF(t)の上述の周波数変調の一例を図解する。
図2中に図示したように、信号s
RF(t)は、多くの「チャープ」が合わされ、すなわち、信号s
RF(t)は、上昇する(アップチャープ)または下降する(ダウンチャープ)周波数を有する正弦波信号形状(波形)シーケンスを含む(
図2中の上方の図参照)。この例では、チャープの瞬間周波数f(t)は、チャープ期間T
ランプ内で、開始周波数f
開始で始まって、終了周波数f
終了まで、線形で上昇する(
図2中の下方の図参照)。この種のチャープは、線形の周波数ランプとも称される。
図2中では、3つの同一の線形の周波数ランプが図示されている。しかし、パラメータf
開始、f
終了、T
ランプおよび個々の周波数ランプ間の休止期間は可変である点に注意されたい。周波数変動は、必ずしも線形である必要はない。実装形態に応じて、指数(指数チャープ)を有する送信信号または双曲線(双曲線チャープ)周波数変動を用いることもできる。
【0017】
図3は、レーダ装置1(レーダセンサ)の可能な構造の一例を例示したブロック図である。類似の構造は、例えばワイヤレス通信システムなどの別の応用中で用いられるHF送受信機中にも見られる。この図によれば、少なくとも1つの送信アンテナ5(TXアンテナ)と、少なくとも1つの受信アンテナ6(RXアンテナ)とが、HFフロントエンド10に連結されていて、このHFフロントエンドは、HF信号処理に必要となる全ての回路部品を含有しうる。この回路部品は、例えば局部発振器(LO)と、HF電力増幅器と、低雑音増幅器(LNA)、方向性結合器(例えば、ラットレースカプラ、サーキュレータなど)と、HF信号をベースバンドまたは中間周波数帯(ZF帯)にダウンミックスするための混合器とを含む。HFフロントエンド10は、場合によってはさらなる回路部品と共に、モノリシックマイクロ波集積回路(MMIC)中に集積されうる。図示したこの例は、別々のRXアンテナとTXアンテナとを備えたバイスタティック(または疑似モノスタティック)レーダシステムを示している。モノスタティックレーダシステムの場合は、単一のアンテナ(またはアレイアンテナ)が、電磁(レーダ)信号を放射するためにも受信するためにも用いられるであろう。この場合、方向性結合器(例えば、サーキュレータ)が、レーダチャンネル中に放射されるべきHF信号を、レーダチャンネルから受信されるHF信号(レーダエコー)から分離するために用いられうる。
【0018】
周波数変調連続波レーダシステム(FMCWレーダシステム)の場合は、TXアンテナ5を介して放射されたHF信号は、例えば、約20GHz〜81GHzの範囲にある(例えば、かなりの応用では77GHzである)。上述のように、RXアンテナ6で受信されたHF信号は、レーダエコー、すなわちいわゆるレーダ目標で後方散乱された信号成分を含む。受信されたHF信号y
RF(t)は、例えば、ベースバンドにダウンミックスされ、ベースバンドでアナログ信号処理を用いてさらに処理される(
図3、アナログベースバンド信号処理チェーン20参照)。ここで述べたアナログの信号処理は、実質的にベースバンド信号のフィルタリングと、場合によっては増幅とを含む。ベースバンド信号は、最終的にデジタル化され(
図3、アナログデジタル変換器30参照)、デジタル領域中でさらに処理される。デジタル信号処理チェーンは、少なくとも部分的にソフトウェアとして実現可能であり、これは、プロセッサ(
図3、DSP40参照)上で実施される。全システムは、通常、システムコントローラ50を用いて制御されるが、これも同様に少なくとも部分的には、プロセッサ例えばマイクロコントローラ上で実施可能であるソフトウェアとして実装可能である。HFフロントエンド10と、アナログベースバンド信号処理チェーン20とは、(任意選択的にアナログデジタル変換器30も)共に単一のMMIC(すなわち、HF半導体チップ)中に集積可能である。あるいは、個々の部品は、複数の集積回路上に分布していることも可能である。
【0019】
図4は、HFフロントエンド10の実装の一例を、その下流に接続されているベースバンド信号処理チェーン20と共に図解するが、これは、
図3のレーダセンサの一部分でありうる。
図4は、HFフロントエンドの基本的な構造を示す単純化した回路図である点に注意されたい。実際の実装は、具体的な応用に非常に依存することができ、当然、より複雑でありうる。HFフロントエンド10は、HF信号s
LO(t)を生成する局部発振器101(LO)を具備する。信号s
LO(t)は、上で
図2を参照して説明したように、周波数変調が可能であり、LO信号とも称される。レーダ応用では、LO信号は、通常SHF(超高周波、センチメートル波)またはEHF(極超高周波、ミリメートル波)帯にあり、例えば、自動車応用においては、76GHz〜81GHzの区間にある。
【0020】
LO信号s
LO(t)は、送信信号経路中でも受信信号経路中でも処理される。TXアンテナ5から放射される送信信号s
RF(t)(
図2参照)は、LO信号s
LO(t)を、例えばHF電力増幅器102を用いて増幅することにより生成される。増幅器102の出力は、(バイスタティックまたは疑似モノスタティックレーダ構成の場合)TXアンテナ5に結合可能である。受信信号y
RF(t)は、RXアンテナ6から提供され、混合器104のHFポートに供給される。この例では、HF受信信号y
RF(t)(アンテナ信号)は、増幅器103(増幅g)を用いて事前に増幅され、混合器104には、増幅されたHF受信信号g・y
RF(t)が供給される。この増幅器103は、例えばLNAでありうる。混合器104の基準ポートには、LO信号s
LO(t)が供給され、その結果混合器104は、(事前に増幅された)HF受信信号y
RF(t)をベースバンドにダウンミックスする。ダウンミックスされたベースバンド信号(混合器出力信号)は、y
BB(t)と称される。このベースバンド信号y
BB(t)は、まずアナログでさらに処理され、アナログのベースバンド信号処理チェーン20は、望ましくないサイドバンドおよびミラー周波数を抑えるために、実質的に増幅(増幅器22)と、フィルタリング(例えば、帯域通過フィルタ21)とを有する。結果として生じるアナログの出力信号は、アナログデジタル変換器に供給されることができ、y(t)と称される。出力信号(デジタルレーダ信号)のデジタルでのさらなる処理方法は、それ自体公知であり(例えばレンジ・ドップラー分析)、したがって、ここでさらに説明はしない。
【0021】
この例では、混合器104は事前に増幅されたHF受信信号g・y
RF(t)(すなわち、増幅されたアンテナ信号)をベースバンドにダウンミックスする。この混合は、一段で行われることも可能である(すなわち、HF帯から直接ベースバンドにする)が、または1つもしくは複数の中間段を介する(すなわちHF帯から中間周波数帯にして、さらにベースバンドにする)ことも可能である。
図4中で示した例の観点からは、レーダ計測の品質は、LO信号s
LO(t)の品質または精確さおよび位相位置に強く依存することは明らかである。とりわけ混合器104に(基準信号として)供給されるLO信号s
LO(t)の位相も、精確な計測にとって重要である。複数の受信チャンネル(RXチャンネル)を備えた複数チャンネルレーダシステムでは、発振器信号の位相位置は、RXチャンネルに基準信号として供給されていて、受信レーダ信号の入射角度(到来方向、DoA)の計測に有意な影響を与える。
【0022】
図5は、結合された(カスケード接続された)複数のMMICを備えたMIMOレーダシステムの一例を図示したブロック図である。図示した例では、3つのMMICが1つの担体、例えば回路基板(プリント回路基板、PCB)上に配置されている。各MMICは、(全てのチャンネルが
図5中には記入されていない場合であっても)複数の送信チャンネルTX01、TX02、TX03などと、複数の受信チャンネルRX01、RX02、RX03などとを有しうる。レーダシステムの作動には、MMICにより用いられるLO信号の位相がそろっていることが重要である。したがって、LO信号は、1つのMMIC、すなわちマスタMMIC11中のみで生成され、かつスレーブMMIC12および13に転送される。
【0023】
この図示した例では、各MMICは、TXチャンネルTX01、TX02、TX03などに割り当てられた出力ピンP
TX01、P
TX02、P
TX03などを有する。入力ピンP
RX01、P
RX02、P
RX03などは、RXチャンネルRX01、RX02、RX03などに割り当てられている(P
RX02とP
RX03とは
図5中では不図示である)。出力ピンP
TX01、P
TX02、P
TX03などと、入力ピンP
RX01、P
RX02、P
RX03などとは、それぞれ送信または受信アンテナに結合可能である。1つのMMICのみを用いる場合には、そのMMICの全てのRXおよびTXチャンネルは、アンテナと結合されうる。
図5中で図示した場合のように、複数のMMICが結合される場合には、1つのMMICがマスタとして、残りのMMICがスレーブとして作動する。マスタMMIC11は、全てのスレーブMMIC12、13のためにLO信号を生成する。図示したこの例では、マスタMMIC11中で生成されたLO信号s
LO(t)は、出力ピン、例えばピンP
TX03に出力され、配線を介してスレーブMMIC12に供給される。このスレーブMMIC12は、このLO信号を、配線(例えば、回路基板上に配置されたストリップライン)を介して入力ピンで受信する。LO信号s
LO(t)のために別個の入力ピンを設けることを回避するために、この例では、TXチャンネルTX01の出力ピンP
TX01が、入力ピンとして構成されている(したがって、P
TX01’と称される)。どのようにして、TXチャンネルの出力ピンが入力ピンとして構成されうるかは、後で詳細に説明する。あるいは、追加的に外部で生成されたLO信号を受信する入力ピンが設けられていてもよいが、これは、応用によっては望ましくない。
【0024】
スレーブMMICも「その」LO信号をさらなるスレーブに渡すことができるが、これにより、マスタMMICと複数のスレーブMMICとのカスケード接続が可能になる。
図5中で図示された例では、マスタMMIC11がLO信号を生成し、出力ピンP
TX03を介してスレーブMMIC12に(そのピンP
TX01’を介して)渡す。同様に、スレーブMMIC12は、(マスタMMIC11から受信した)LO信号を、さらなるスレーブMMIC13に渡し、これにより複数のMMICが直列接続され(カスケード接続され)うる。クロックパルス信号s
CLK(t)も同様に1つのMMICから別のMMICへと渡されるが、このために別個のクロックパルスピンが設けられている(
図9Cおよび
図15も参照)。この(システム)クロックパルス信号s
CLKのクロックパルス周波数は数MHzであるが、LO信号のLO周波数f
LOは、数GHzである(例えば、76〜81GHz)。クロックパルス信号s
CLKを生成する(不図示の)クロックパルス発振器は、例えばマスタMMIC11中に集積可能であり(例えば、
図9Cおよび
図15参照)、または別のチップ中に配置可能である。この場合、このクロック発振器は、例えば水晶発振子を含みうる。クロックパルス信号s
CLKまたはこれに由来するクロックパルス信号は、例えば、MMIC11、21、13中に配置された局部発振器のための基準クロックパルスになりうる(
図4、局部発振器101参照)。
【0025】
LO信号s
LO(t)を1つのMMICから次のMMICへ伝送するにあたっては、遅延時間が関連するが、この遅延時間はなかんずくMMIC間の配線の長さに依存する。
図5に図示した例では、MMIC11とMMIC12との間のLO信号s
LO(t)の伝搬遅延はτ
1と称され、MMIC12とMMIC13との間のLO信号s
LO(t)の伝搬遅延はτ
2と称される。伝搬遅延τ
1およびτ
2は、それぞれ配線長さl
1またはl
2と、位相シフトφ
1またはφ
2とに対応していて、一般的に位相シフトφは遅延時間τに比例している(φ=2π・f
LO・τ)。
【0026】
上述のように、スレーブMMICに供給されるLO信号s
LO(t)の位相位置は、正確なレーダ計測を実施するのに重要である。例えば、RXチャンネル中の混合器(
図4、混合器104参照)は、基準入力において、規定の位相を有するLO信号s
LO(t)を受信することが望ましい。実施形態によっては(例えば、複数のTXチャンネルが1つのチップ中で用いられる場合)、TXチャンネルに供給される送信信号を同時に同期化することも望ましい。
【0027】
図6は、回路基板上に配置された複数のMMICを備えたレーダシステムの一例を図解し、(理論的には)全てのMMIC中の全てのRXチャンネル(すなわち、RXチャンネル中の混合器)が、LO信号を同じ位相位置で「見る」ように、複数のMMICが結合されている。
図6の例によれば、マスタMMIC11は、LO信号s
LO(t)を、(
図5の例と同様に)出力ピンP
TX03で利用可能にするが、この出力ピンは、この例では出力チャンネルTX03に割り当てられている。したがって、出力チャンネルTX03は、レーダ信号を放射するためにアンテナと連結されているのではなく、LO信号s
LO(t)をスレーブMMICに伝送するために用いられる。LO信号を伝送するために出力チャンネルを使用することにより、利用可能なチャンネルの数は減少するが、これにより、設計変更が必須ではないとの利点がある。この理由は、TXチャンネルがHF周波数で設計されているので、したがって専用のHF信号出力ピンを作る必要はないからである。さらに、LO信号の伝送のためにTXチャンネルを使用することにより、レーダシステムの拡張性を達成することができる。しかし、MMICがカスケード接続された配置に置かれていない(例えば、スタンドアローン配置されている)限り、TXチャンネルは完全なTXチャンネルとして、レーダ信号をアンテナに伝送するために用いられうる。マスタMMIC11の出力ピンP
TX03は、HFスプリッタ150の入力に連結されていて、このスプリッタはMMICと同様、回路基板上に配置可能である。ピンP
TX03とHFスプリッタとの間の配線により、伝搬遅延τ
3,1が引き起こされる。
【0028】
このHFスプリッタは、LO信号s
LO(t)を分割し、スプリッタ出力において、各MMIC用にLO信号を利用可能にする。この際スプリッタ出力のうちの1つは、マスタMMIC11のフィードバック入力に結合されていて、このフィードバック入力はTX01’(あるいは、FB)と称されていて、かつ、これを介してLO信号s
LO(t)がマスタMMIC11に帰還される。さらなるスプリッタ出力は、スレーブMMICの対応する入力ピンと連結されているが、
図6中では、スレーブMMIC12のみが図示されている。HFスプリッタ150からマスタMMIC11への伝搬遅延は、τ
3,2と称されていて、HFスプリッタ150からスレーブMMIC12への伝搬遅延は、τ
3,3と称されている。スプリッタ150の出力からMMIC(すなわち、マスタMMIC11、スレーブMMIC12など)への配線が、等しい伝搬遅延を引き起こす(τ
3,2=τ
3,3)場合、LO信号は、(理論的には)同じ位相で全てのMMIC中のRXチャンネルに到来する。
【0029】
図7は、あるMMIC(例えば、マスタMMIC11)のTXチャンネルの実装の一例を示すが、この実装では、
図6で図示するように、さらなるMMICとの結合が可能である。これによれば、MMIC11は局部発振器101(LO)を含み、この局部発振器がLO信号s
LO(t)を生成する。このLO信号は、一方では第1HFスイッチ/スプリッタ110の入力へ、他方では第2HFスイッチ/スプリッタ111の入力へ供給されている。これらのHFスイッチ/スプリッタは、実質的に、選択可能な入力を備えたスプリッタ素子であり、これらの入力は図中でそれぞれaおよびbと称される。(電子)スイッチの位置に応じて、入力aまたは入力bにある信号が出力に転送される。電子スイッチ用の制御信号は、単純化するために図示していない。この例では、入力bが選択されると、LO信号s
LO(t)がTXチャンネルTX01、TX02、TX03などに転送されるように、HFスイッチ/スプリッタ111が切り替えられる。個々のTXチャンネルは、例えば
図4に図示したように実装されうる。
【0030】
図7中では、(
図6の例と似ていて)TXチャンネルTX03の出力がアンテナと連結されていず、外部のスプリッタ150と連結されているが、このスプリッタは、MMIC11と同じ担体上に配置可能である。スプリッタ150の出力で提供されるLO信号s
LO(t)は、様々なスレーブMMICに供給され、スプリッタ150の出力は、マスタMMICのフィードバックピンP
FBに帰還されている。フィードバックピンP
FBと結合されたMMIC11中のフィードバックチャンネルFBは、帰還されたLO信号s
LO(t)を第1HFスイッチ/スプリッタ110の第2入力(入力a)に向けるために形成されている。フィードバックチャンネルFBは、例えば緩衝増幅器(LO緩衝器)を有しうるが、これは図中では明瞭化するために図示していない。第1HFスイッチ/スプリッタ110の1つの出力は、第2HFスイッチ/スプリッタ111の入力(入力a)に連結可能で、逆に、第1HFスイッチ/スプリッタ110のこれ以外の出力は、LO信号をRXチャンネル用に提供する。
図7中で図示した伝搬遅延τ
3,1およびτ
3,2は、
図6中で図示した場合に相当する。
【0031】
図7は、上述したようにマスタMMIC11を示す。スレーブMMIC12(
図6参照)は、同一に構築可能であるが、スレーブMMIC12中では第2HFスイッチ/スプリッタ111中で他方の入力(入力a)が選択されている。この場合、スレーブMMIC12の内部のLO101は用いられず、フィードバックチャンネルFBを介して帰還されたLO信号s
LO(t)が、(HFスイッチ/スプリッタ110を介して)RXチャンネルへ供給され、また(HFスイッチ/スプリッタ111を介して)スレーブMMIC12のTXチャンネルにも供給される。MMIC11が「スタンドアローン」モードの場合(スレーブMMICが接続されていない場合)、第1HFスイッチ/スプリッタ110中で入力bが選択され、第2HFスイッチ/スプリッタ111中でも同様に入力bが選択され、フィードバックチャンネルFBは、非能動である。したがって同じタイプのチップを、カスケード接続されたレーダシステム中で用いることができ、この場合HFスイッチ/スプリッタ111が、LO信号を別のチップに伝送する。しかし、チップをスタンドアローンシステムで採用することも許されるが、この場合、全てのTXチャンネルが信号をアンテナに伝送するために用いられる。MMIC11が「スタンドアローン」モードである場合、厳格に言うと、第2HFスイッチ/スプリッタ111のスイッチ位置は重要ではないが、この理由は、どちらの位置でも、局部発振器101のLO信号が転送されるからである。
【0032】
図8は、
図7に類似の例を示すが、しかし、この場合、少なくとも1つのTXチャンネル(例えば、TXチャンネルTX01)をフィードバックチャンネルとして構成可能である。フィードバックチャンネルとして構成されたTXチャンネルTX01は、TX01’と称され、外部からLO信号を受信するが、このLO信号は、TX03チャンネルを介してHFスプリッタ150に送信された信号であり、このHFスプリッタから出力された信号は、再びTX01チャンネルに戻される。TXチャンネルをこのように構成できることにより、MMIC11の柔軟な使用が可能になり、追加的なフィードバックピンP
FBが不要になる。別個のフィードバックチャンネル(フィードバックピンP
FB)がない点を除けば、
図8中のMMIC11、12は、
図7のMMIC11に非常に類似している。実施形態によっては、LO信号のフィードバックが設けられている限り、局部発振器101で生成されたLO信号は、TXチャンネルに直接導かれることはなく、まず外側のスプリッタ150に導かれ、その後再びチップ中に帰還され、その結果、最後に(局部発振器101に直接存在するLO信号と比較すると)遅延したLO信号がアンテナに出力されるTX信号を生成するために用いられる。
【0033】
図8の例によれば、MMIC11は、LO信号s
LO(t)を生成する局部発振器101(LO)を含む。このLO信号は、一方では第1HFスイッチ/スプリッタ110の入力に、他方では第2HFスイッチ/スプリッタ111の入力に供給される。
図7の例と同様、このHFスイッチ/スプリッタは、実質的に選択可能な複数の入力を備えたスプリッタ素子で、これらの入力はそれぞれaおよびbと称されている。(電子)スイッチの位置に応じて、入力aまたは入力bに存在する信号が、出力に転送される。電子スイッチ用の制御信号は、単純化するために図示しない。この例では、入力bが選択され、LO信号s
LO(t)がLO101からTXチャンネルTX01、TX02、TX03などに転送されるように、マスタMMIC11中の第2HFスイッチ/スプリッタ111が切り替えられている。スレーブMMIC12では逆に、入力aが選択され、外部からチャンネルTX01’を介して供給されたLO信号がTXチャンネルに転送されるように、第2HFスイッチ/スプリッタ111が切り替えられている。前の
図7の例中と同様に、(双方のMMIC11、12中の)第1HFスイッチ/スプリッタ110は、外部からチャンネルTX01’を介して供給されたLO信号がRXチャンネルに転送され、また、第2HFスイッチ/スプリッタ111の入力に転送されるように、切り替えられている(スイッチ位置a)。第1HFスイッチ/スプリッタ110のスイッチ位置bは、スタンドアローンモード用にのみ必要とされ、この際、MMICには外部のLO信号は供給されない。
【0034】
以下では、TXチャンネルが、フィードバックチャンネルとして外部のLO信号を供給するためにいかに構成されうるかを説明する。この説明は、マスタMMIC11にもスレーブMMIC12にも関連する。この構成によれば、構成可能なTXチャンネルは、(この例では、TXチャンネルTX01’)は、出力経路と、入力経路とを有する。出力経路にはHF電力増幅器102が配置されている(
図4中の例と類似)。入力経路には緩衝増幅器105(LO緩衝器)が配置されている。HF電力増幅器102の出力と、緩衝増幅器105の入力とは、ピンP
TX01で連結されている。常に信号経路のいずれか1つのみ(入力経路または出力経路)が能動的である。このために、HF電力増幅器102と緩衝増幅器105とは、交互に非能動化され、その結果、緩衝増幅器105が非能動的であるときのみHF電力増幅器102は能動的であり、逆も当てはまる。HF電力増幅器102と緩衝増幅器105とを能動化および非能動化させる制御信号は、単純化するために、ここでは図示していない。
【0035】
あるMMICに外部からピンP
TX01’を介してLO信号s
LO(t)が供給される限り、関連するチャンネル(図示した例ではTX01’)は入力として構成可能で、緩衝増幅器105は能動である一方、HF電力増幅器102が非能動である。P
TX01’に供給されるLO信号s
LO(t)は、緩衝増幅器105を介してスプリッタの入力に導かれ、この場合HFスイッチ/スプリッタ110の入力aに導かれ、この入力aが、受信したLO信号をRXチャンネルに転送する。TXチャンネルが入力として構成されていない限り、緩衝増幅器105は非能動で、関連するTXチャンネルのHF電力増幅器102のみが能動であり、TXチャンネルは、通常の仕方で動作をし(
図4参照)、例えばアンテナと連結可能である。したがって、TXチャンネルTX01は、信号を外部へ(アンテナへ、またはLO信号として別のチップへ)出力するTXチャンネルとして用いられうるか、または、(入力として構成される限り)外部からLO信号を受信するように構成可能である。したがって、TXチャンネルTX01は、双方向性を有するように構成可能である。
【0036】
図8からわかるように、マスタMMIC11とスレーブMMIC12とは実質的に同一の構造を有する。第2HFスイッチ/スプリッタ111のスイッチ位置のみが、スレーブMMIC12ではマスタMMIC11の場合とは異なっている。マスタMMIC11中では、局部発振器101で生成されたLO信号s
LO(t)が直接TXチャンネルに導かれるはずであるので、第2HFスイッチ/スプリッタ111で入力bが選択されている。外部から供給され(スプリッタ150を介して帰還される)LO信号は、第1HFスイッチ/スプリッタ110でもって、RXチャンネルのみに分けられる。スレーブMMIC12では、外部から(スプリッタ150を介して)供給されたLO信号は、TXチャンネル用にもRXチャンネル用にも用いられうる。この理由からスレーブMMIC12中では、第2HFスイッチ/スプリッタ111で入力aが選択されている。
【0037】
伝搬遅延τ
3,2およびτ
3,3が等しい限り、マスタMMIC11のRXチャンネルと、スレーブMMIC12のRXチャンネルとは、(理論的には)等しい位相のLO信号s
LO(t)を「見る」。この位相が等しいという点は、
図7および
図8で示すマスタMMICとスレーブMMICとが対称的に連結される(すなわち、τ
3,2=τ
3,3=…)場合に理論的には当てはまるが、実践では十分な精確性でこれを達成するのは困難である。この理由は、温度変化があるがゆえに、RXチャンネルに到来するLO信号の伝搬遅延τ
3,2およびτ
3,3、したがって位相も時間の経過に応じて変化しうるからである。上述のように、わからない位相変化が、レーダ計測の結果に悪影響を与えうる。この理由から
図7および
図8によるマスタMMICとスレーブMMICとの間の対称的な連結に加えてまたはこれに代えて、結合された2つのMMIC間のLO信号s
LO(t)の伝搬遅延(または位相シフト)を計測し、その後計測された遅延をレーダ計測において考慮することが有意義でありえる。したがって、後述する伝搬時間の導出は、対称的に保たれた構造においても、非対称的な構造においても、すなわち、例えば、HFスプリッタ150が用いられない構造においても実施されうる。
【0038】
図9Aおよび
図9Bは、複数のTXチャンネルおよびRXチャンネルを備えたMMICの例を図示するが、この際、TXチャンネルは、第1MMIC(例えば、マスタMMIC11)と第2MMIC(例えば、スレーブMMIC12)との間の伝搬遅延τ
3または位相シフトを測定するために形成されていて、この伝搬遅延の測定は双方向性で(第1MMICから第2MMICへ、および逆方向で)行われうるが、これは、複数のMMICの温度が異なるがゆえに生じる、および、MMIC間でのクロックパルス信号s
CLK(t)の遅延があるゆえに生じる非対称性を取り除くため行われうる。
図9Aは、MMIC11からMMIC12へ配線L3を介して信号が伝送される場合に関し、
図9Bは逆の場合で、MMIC12からMMIC11へと信号が伝送される場合に関する。
図9中のMMIC11は、前の
図8の例と実質的に等しい構造となっているが、
図9中では、TXチャンネルは、それぞれ2つの復調器115および116ならびにカプラ117を有する。
【0039】
TXチャンネル中、カプラ117が、HF電力増幅器102と、各TXチャンネルの出力ピン(
図9中ではピンP
TX01およびP
TX03)との間に接続されている。さらに、カプラは、復調器115および116に連結されていて、これにより復調器115には、そのHF入力において、関連するTXチャンネルの出力信号の(電力)の一部分が(したがって、増幅器102の出力信号の一部分)が供給され、かつ復調器116にはそのHF入力において、各TXチャンネルの出力ピンに入射する信号の(電力)の一部分が供給されている。復調器115および116の基準入力には、スプリッタ110を介してLO信号s
LO(t)が供給されている。マスタMMICとスレーブMMICとは、実質的に同一に構築可能である。明瞭化するために、
図9Aおよび
図9Bでは、マスタMMIC11についてはTXチャンネルTX03のみを、スレーブMMIC12についてはTXチャンネルTX01のみを詳細に図示する。
図9の例では、TXチャンネルを
図8中のように入力として構成可能であるが、この点はこの例では任意選択的である。したがって、緩衝増幅器105を備えたフィードバック経路は破線で記入している。
【0040】
この例では、マスタMMIC11のHF増幅器102の出力信号はs
RF,MA(t)と称され、スレーブMMIC12のHF増幅器102の出力信号はs
RF,SL(t)と称される。同様にマスタMMIC11のLO信号はs
LO,MA(t)、スレーブMMIC12のLO信号はs
LO,SL(t)と称される。信号s
RF,MA(t)およびs
RF,SL(t)は、それぞれLO信号s
LO,MA(t)またはs
LO,SL(t)を増幅しかつ位相シフトしたバージョンである。スレーブMMIC12に到来したマスタMMIC11の信号はs
RF,MA’(t)と称される(
図9A参照)。同様に、マスタMMIC11に到来した、スレーブMMIC12の信号は、s
RF,SL’(t)と称される(
図9B参照)。s
RF,MA(t)とs
RF,MA’(t)との間の位相シフトは、実質的に伝搬遅延τ
3により決定される。同様に、s
RF,SL(t)とs
RF,SL’(t)との間の位相シフトは、実質的に伝搬遅延τ
3により決定される。伝搬遅延τ
3に加えて、クロックパルス信号s
CLKの遅延(
図5参照、MMIC12中のクロックパルスs
CLKは、MMIC11中のクロックパルスs
CLKに比較して少し遅延している)と、個々のMMIC11、12などの中の温度差とは重要であるが、この理由は、個々のMMIC内の温度変化も位相の変化につながりうるからである。
【0041】
MMIC11および12中の復調器115および116の出力信号は、制御ユニット(例えば、マイクロコントローラ、
図9A中では不図示)に供給されている。制御ユニットには(場合によってはアナログデジタル変換器を介して)復調器の出力信号が供給されていて、この制御ユニットは、伝搬遅延τ
3を導き出すのに必須の演算を実施するために形成されている。このために、制御ユニットはプロセッサを有し、上述の演算を実施するソフトウェア命令を用いてプログラミング可能である。制御ユニットは、MMICのうちの1つ(例えば、マスタMMIC11)中に配置されうるか、または別個の制御チップ(例えば、MMIC11、12と同じ回路基板上に配置されうるマイクロコントローラ)中に配置されうる。デジタルデータを交換するために、MMIC11、12と、制御ユニットとは、例えばシリアルデータ線で結合されうる。
【0042】
図9中に図示された回路構成を用いて伝搬遅延τ
3または関連する位相シフトを導き出すために、様々な可能性がある。この例によれば、マスタMMIC11中の局部発振器101を用いてチャープ信号がLO信号s
LO,MA(t)として生成される(周波数ランプ)。このチャープ信号は、マスタMMIC11中でスプリッタ110を介して、一方では復調器115の基準入力へと導かれ、スプリッタ110および111を介して、(なかんずく)TXチャンネルTX03中のHF増幅器102へと導かれる。増幅器102の出力信号s
RF,MA(t)は、カプラ117を介して、一方では復調器115のHF入力へ、他方ではマスタMMIC11のピンP
TX03へと導かれる。マスタMMIC11のピンP
TX03において出力された信号は、スレーブMMIC12のピンP
TX01で、遅延した信号s
RF,MA’(t)として到着し、スレーブMMIC12中で、スプリッタ117を介して復調器116へと転送される。この信号の流れは、
図9A中で示した場合に相当する。
図10中では、LO信号(チャープ信号)s
LO,MA(t)は実線で、信号s
RF,MA(t)は鎖線で、信号s
RF,MA’(t)は(太い)破線で記入されている(細い破線については、後に説明する)。
【0043】
図10中で図示したように、マスタMMIC11中の内部伝搬遅延(すなわち、LO101からスプリッタ117までの伝搬時間)はτ
iであり、マスタMMIC11中のスプリッタ117からスレーブMMIC12中のスプリッタ117までの外部伝搬遅延はτ
3である。全伝搬遅延は、したがってτ
i+τ
3である。マスタMMIC11中の復調器115を用いて、差周波数Δf
M1が導き出され、スレーブMMIC12中の復調器116を用いて、差周波数Δf
S1が導き出される(ビート周波数)。周波数ランプのランプ勾配K=df/dt(Hz/秒)を用いると、この差周波数Δf
M1およびΔf
S1は、対応する遅延時間τ
iおよびτ
i+τ
3に単純に換算可能である。この例では、伝搬遅延τ
3は方程式
τ
3=(Δf
S1−Δf
M1)/K (1)
から明らかになる。
【0044】
図11の図は、
図9とは逆の場合を図解している。この例によれば、スレーブMMIC12中の局部発振器101を用いて、チャープ信号がLO信号s
LO,SL(t)として生成される(周波数ランプ)。このチャープ信号は、スレーブMMIC12中でスプリッタ110を介して、一方では復調器115の基準入力へと導かれ、また、スプリッタ110および111を介して、(なかんずく)TXチャンネルTX01中のHF増幅器102へと導かれる。増幅器102の出力信号s
RF,SL(t)は、カプラ117を介して、一方では復調器115のHF入力へ、他方ではスレーブMMIC12のピンP
TX01へと導かれる。スレーブMMIC12のピンP
TX01で出力された信号は、マスタMMIC11のピンP
TX03で、遅延した信号s
RF,SL’(t)として到来し、マスタMMIC11中で、スプリッタ117を介して復調器116へと転送される。この信号の流れは、
図9B中で示した場合に相当する。
図11中では、LO信号(チャープ信号)s
LO,SL(t)を実線で、信号s
RF,SL(t)を鎖線で、信号s
RF,SL’(t)を(太い)破線で記入している。
【0045】
図11中で図示したように、スレーブMMIC12中の内部伝搬遅延(すなわち、LO101からスプリッタ117までの伝搬時間)はτ
iであり、スレーブMMIC12中のスプリッタ117からマスタMMIC11中のスプリッタ117までの外部伝搬遅延はτ
3である(全伝搬遅延はτ
i+τ
3)。スレーブMMIC12中の復調器115を用いて、復調されたベースバンド信号または中間周波数信号から、差周波数Δf
S2が導き出され、マスタMMIC11中の復調器116を用いて、復調されたベースバンド信号または中間周波数信号から、差周波数Δf
M2が導き出される(ビート周波数)。上述の例と同様、周波数ランプのランプ勾配Kを用いて、これらの差周波数Δf
S2およびΔf
M2は、これに応じて単純に遅延時間τ
iおよびτ
i+τ
3に換算されうる。この例では、伝搬遅延τ
3は、(方程式1に類似した)以下の方程式
τ
3=(Δf
M2−Δf
S2)/K (2)
から明らかになる。
【0046】
理論的には、双方の場合で(双方の信号の流れ方向について)伝搬遅延τ
3に関して同じ値が演算されねばならない。しかし、実践では、周波数ランプ(LO信号)s
LO,MA(t)およびs
LO,SL(t)は同時にはトリガされえず、スレーブMMIC12中の周波数ランプは、クロックパルス信号s
CLKの伝搬遅延τ
CLK(
図5参照)(これは、クロックディレイとも称される)がゆえにマスタMMIC11中の対応する周波数ランプよりも、常に遅くなることが無視できない。
図6中で図示したように、クロック信号は、別の配線を介して個々のMMICに分配される。このクロック信号は、したがって、スレーブMMIC中で、LO信号とは異なる伝搬遅延を有する。
図10では、細い破線はスレーブMMIC12中の信号s
LO,SL(t)を図示し、
図11中では、細い破線はマスタMMIC11中の信号s
LO,MA(t)を図示する。クロックディレイにより、マスタMMIC11中の差周波数Δf
M2(
図11参照)は体系的に大きくなりすぎ、スレーブMMIC12中の差周波数Δf
S1(
図10参照)は体系的に小さすぎて計測される。その結果、クロックディレイの効果は、FMCWレーダシステムを用いた距離計測におけるドップラー偏移の効果に非常に類似する。(
図9Aおよび
図9Bに応じた)双方向での伝搬時間計測の平均値形成により、上述の体系的な誤差を取り除くことができる。その結果、伝搬遅延τ
3は、方程式1と2とを平均化
τ
3=(Δf
S1+Δf
M2−Δf
M1−Δf
S2)/(2K) (3)
することにより得られる。方程式1と2との差から、類似の方法でクロックディレイτ
CLKが導き出されうる。伝搬遅延τ
3に属する位相シフトφ
3は、方程式φ
3=2π・f
LO・τ
3から得られる。
【0047】
伝搬遅延τ
3または位相シフトφ
3を測定するための上記に代わるアプローチ方法を、
図9のシステムを用いて以下で説明する。チャープ信号をLO信号として位相シフトφ
3(または伝搬遅延τ
3)を計測するために用いる前述の例とは異なり、次の例では、規定の周波数を有するLO信号を用いる。以下の例も、
図9に記載のシステムを用いて実施可能であり、信号の評価のみが前述の例とは異なる。
【0048】
この例では、マスタMMIC11中の局部発振器が周波数f
LO,MA=f
LO+Δfで作動し、これとは異なりスレーブMMIC12中の局部発振器は周波数f
LO,MA=f
LOで作動する。差周波数または周波数オフセットΔfは非常に小さく選択されるはずであるので、これに関連する波長λはMMIC11と12との間の配線長さL3よりも大きい。この波長は、λ=c/Δfにしたがって演算され、ここで、cは、MMIC11と12との間で回路基板上に配置された配線を介したLO信号の伝搬速度である。この伝搬速度と、おおよその配線長さL3とはわかっているので、周波数オフセットはこれに応じて設定することができる。したがって、Δf<c/L3が該当する。
【0049】
まず周波数オフセットとしてΔf=Δf
1を選択する。マスタMMIC11からスレーブMMIC12への信号の流れ方向を見ると(
図9A参照)、TXチャンネルTX03の出力において(すなわち、マスタMMIC11中のスプリッタ117において)出力される信号s
RF,MA(t)の位相が、復調器115を用いて計測され、これから、前述の例と同様に、チップ内部の伝搬遅延τ
iが導き出されうる。マスタMMIC11から送信されスレーブMMIC12に到着した信号s
RF,MA’(t)は、スレーブMMIC12中でTXチャンネルTX01中のスプリッタ117を介して復調器116に供給され、ここで、スレーブMMIC12中での復調は、LO信号s
LO,SL(t)(周波数f
LO,SL=f
LO,MA−Δf
1)で行われる。復調器116は、その出力に、差周波数Δf
1およびこれに関連する位相
Ψ
1=2π・Δf
1・(τ
i+τ
3) (4)
を有する出力信号を供給するが、これから、簡単に伝搬遅延τ
3が導き出されうる。この状態は、
図12の上方の図中に示されているが、この図中では、マスタMMIC11中で生成されてスレーブMMIC12で復調された信号が図示されている。この計測を検証するために、この計測は、別の周波数オフセットΔf=Δf
2で繰り返される(
図12中の下方の図参照)。この例では、周波数オフセットは25パーセント低減され、これにより、スレーブMMIC12中の変調器112の出力における位相
Ψ
2=2π・Δf
2・(τ
i+τ
3) (5)
も(
図9A参照)、相応に低減するが、この理由は、伝搬遅延(τ
i+τ
3)が等しくあり続けるからである。位相Ψ
2が周波数に比例して変化しない場合、360度から0度への位相跳躍が生じ、計測は明瞭ではない。これは、周波数オフセットΔfが配線長さL3に合っていない場合に生じうる。
【0050】
前述の例の場合と同様、この場合でも、計測は双方向性で行うことができ、スレーブMMIC12からマスタMMIC11への信号の流れ(
図9B参照)も考慮されうる。異なる信号の流れ方向について得られる計測結果を平均することにより、例えばMMIC11と12との中でのオンチップ伝搬遅延が等しくないことにより生じるエラーが補償されうる。
【0051】
信頼できる結果は、差分アプローチで得られる。すなわち位相変化のみが考慮される。方程式5と方程式4との間での差が形成されると、
Ψ
2−Ψ
1=2π・(Δf
2−Δf
1)・(τ
i+τ
3) (6)
が得られる。
異なる周波数オフセットで複数回の計測をする際には、方程式6に似た複数の方程式が得られ、これらは、実践では大抵過剰決定方程式系を形成するが、この理由は、これらの方程式は、ノイズ、計測エラーなどがゆえに、線形従属ではないであろうからである。この方程式系
Ψ
k−Ψ
1=2π・(Δf
k−Δf
1)・(τ
i+τ
3),fuer k=2,...N (7)
は、公知の方法で解かれうるが、これにより、例えば最も小さい平方誤差の概念に基づいて、伝搬遅延τ
i+τ
3についての解が得られる。別の例では、伝搬遅延τ
i+τ
3の結果は平均化されうる。
【0052】
図9Cは、
図9Bの例を単純化したバージョンであるが、この場合、方程式6および7による計測には必要ではない全ての要素を省いている。上述のように、双方のMMIC11および12中の局部発振器は、異なる周波数に設定されているが、この際、スレーブMMIC12中の局部発振器は、マスタMMIC11中の局部発振器の周波数f
LO,MAよりも周波数オフセットΔf
k分だけより小さい周波数f
LO,SLで振動する。増幅され(およびチップ内部の伝搬遅延τ
iがゆえに位相シフトした)局部発振器信号s
LO,SL(t)は、スレーブMMIC12によりHF信号s
RF,SL(t)としてチップ接点P
TX01(ピンまたははんだボール)において出力され、配線L3を介してマスタMMIC11のチップ接点P
TX03に伝送される。マスタMMIC11に到来したHF信号s
RF,SL’(t)は、配線L3の伝搬遅延τ
3がゆえに追加的に位相シフトされ、カプラ117を介して復調器116に供給され、この復調器は、信号s
RF,SL’(t)を、マスタMMIC11中で生成された局部発振器信号s
LO,MA(t)で復調する(復調器116)。この復調器116は、上述したように、周波数オフセットΔf
k用の、かつとりわけ位相Ψ
k用の計測値を供給する。これらの計測値は、伝搬遅延τ
i+τ
3を演算するために、方程式7により評価されうる。チップ内の伝搬遅延τ
iは、上述のように別に計測され、τ
3の演算についてはわかっていると見なされうる。この計測は、複数の周波数オフセットΔf
kについて繰り返し可能であり、マスタMMIC11とスレーブMMIC12とは役割を交換する。
【0053】
図13は、マスタMMIC11を図解し、このマスタMMIC11は、
図9Aの例と実質的に同一であるが、しかし、TXチャンネル中に追加的に、HF電力増幅器102より上流に接続された位相変調器106を有する。上で
図12に関連して述べた周波数オフセットΔfは、局部発振器の周波数自体を変えるではなく、LO信号s
LO,MA(t)の位相変調によっても達成可能である。この変調周波数Δfは、スレーブMMIC12中での復調の際に復調器の出力において生じ、関連する位相シフトは、求められる伝搬遅延τ
3についての情報を与える。
【0054】
図14は、第1(例えば、マスタ)MMICから第2(例えば、スレーブ)MMICへの伝送または逆方向の伝送におけるLO信号の伝搬遅延または位相シフトを測定する方法の一般的な例を、フローチャートに基づいて図解する。この方法は、例えば
図7〜
図9および
図13中に図示した、結合された複数のMMICを備えたレーダシステムで実施可能である。
図14によれば、この方法は、第1チップ中で第1HF発振器信号を生成する工程を含む(例えば、
図9A、MMIC11中のLO信号s
LO,MA(t)参照)。この第1HF発振器信号は、第1チップのTXチャンネルに供給される(
図14、工程S1参照)。TXチャンネルの出力では、第1HF発振器信号が、チップ内部の伝搬遅延に基づいてすでに位相シフトを有する。
図9A中では、TXチャンネルTX03の出力における、この位相シフトした第1HF発振器信号は、s
RF,MA(t)と称される。この方法は、さらに、第2チップ中で第2HF発振器信号を生成する工程を含む(
図14、工程S2、および例えば、
図9A、MMIC12中のLO信号s
LO,SL(t)参照)。この第1HF発振器信号は、第1チップから伝送線を介して第2チップまで伝送される(
図14、工程S3参照)。この伝送は伝搬遅延を有し、したがって結果として位相シフトも有する。
図9A中では、MMIC12に到来したこの第1HF発振器信号は、s
RF,MA’(t)と称される。最後に、この方法は、第2チップに到来した第1HF発振器信号の伝搬遅延を、第2HF発振器信号を用いた復調により導き出す工程を含む(
図14、工程S4参照)。
図9A中では、この復調は、例えば、スレーブMMIC12中の復調器116により実行される。上述の例では、求められる伝搬遅延はτ
3と称され、例えば、方程式3にしたがってまたは
図12中に図示された位相シフトから導き出されうる。
【0055】
図9Aおよび
図9Bに関連してすでに述べたように、この方法は双方向で行うことができる。この場合、第2HF発振器の信号は、それぞれ他方のチップのTXチャンネルに供給され、その結果第2HF発振器信号は、第2チップ(
図9B、MMIC12参照)から、同じ伝送線を介して第1チップ(
図9B、MMIC11参照)にまで伝送され、逆の場合も同様である。第1チップに到来した第2HF発振器信号の伝搬遅延は、第1HF発振器信号での復調により導き出される。
図9B中では、この復調は、例えばマスタMMIC11中の復調器116により実行される。実際の伝搬遅延は、異なる信号の流れ方向について事前に導き出された双方の伝搬遅延値に基づいて決定でき、例えば方程式3による平均値形成により行われる。
【0056】
第1および第2HF発振器信号は、(例えば、
図10および
図11中で図示されたような)チャープ信号か、または(例えば、
図12中で図示されたような)設定可能な一定の周波数を有するHF信号でありうる。チャープ信号の場合には、(例えば、マスタMMIC中で生成された)第1HF発振器信号は少なくとも1つの周波数ランプを含み、かつ、(例えば、マスタMMIC中で生成された)第2HF発振器信号は、少なくとも1つの対応する周波数ランプを含む。上述のように2つの対応する周波数ランプは互いに対して相対的に遅延を有し、この遅延はクロックディレイに相当する。第1伝搬遅延は、この場合、第1ビート周波数に基づいて導き出され、これは、第2チップに到来する第1HF発振器信号を第2HF発振器信号で復調した結果生じる。逆の信号の流れ方向については、伝搬遅延が起こり、平均値形成によりクロックディレイの効果を消すことができる。さらに平均のクロックディレイが決定可能であるが、これは、第1の場合と第2の場合との差を平均化することにより行われる。この方法は、FMCW三角測距方法において速度および距離を導き出す方法に似ている。この方法における距離はここでは伝搬遅延τ
3を示し、速度はクロックディレイを示す。
【0057】
静的な(設定可能な一定の)周波数を有するHF信号を使用する場合、第1HF発振器信号は第1周波数を有しえ、第2HF発振器信号は第2周波数を有しうるが、この第2周波数は第1周波数から規定の周波数オフセット分だけ異なる。この周波数オフセットは、双方のMMICのうちの1つの中で局部発振器が離調することにより生成されうる(
図9Aおよび
図9B、発振器101参照)か、または双方のHF発振器信号のうちの1つを位相変調することにより生成されうる(
図13の例、位相変調器106参照)。第1伝搬遅延は、この場合、周波数オフセットに割り当てられた位相に基づいて導き出されうるが、この位相は、第2チップに到来した第1HF発振器信号を第2HF発振器信号で復調した結果生じる。この計測は、少なくとも1つのさらなる周波数オフセットについて繰り返されうる。このために、周波数オフセットは変更可能で、相応に変更された位相が計測されうる(
図12、位相Ψ
1およびΨ
2参照)。この計測も双方向で実施されうる。
【0058】
以下に、ここで説明したレーダシステムのいくつかの態様をまとめる。これは完全な要約ではなく、技術的な特徴の一例となる要約にすぎないと理解される。レーダシステムの一例は、上述の方法を実現するために適している。この実施形態にしたがえば、このシステムは、第1HF接点を備えた第1チップ(例えば、
図9A、MMIC11、ピンP
TX03参照)と、第2HF接点を備えた第2チップ(例えば、
図9A、MMIC12、ピンP
TX01参照)とを具備する。第1チップ中には、第1HF発振器が集積されていて、この発振器は、少なくとも1つのTXチャンネルを介して第1HF接点と結合された出力を有する。第2チップ中には第2HF発振器が集積されている。このシステムは、さらに伝送線(例えば、
図9A、伝搬遅延τ
3を有する配線L3参照)を具備し、これは、第1チップにある第1HF接点を、第2チップにある第2HF接点と連結する。第2チップ中には、少なくとも1つの第1復調器が配置されている。この第1復調器は、第2HF接点と結合されたHF入力と、第2HF発振器の出力と結合された基準入力とを有する。第1HF発振器は、第1HF発振器信号を生成するために形成されていて、この第1発振器信号は、第1HF接点と、伝送線と、第2HF接点とを介して、第1復調器のHF入力にまで伝送される。制御ユニット(コントローラ)は、第2チップに到来した第1HF発振器信号の第1伝搬遅延を、第1復調器から得られる情報に基づいて(例えば方程式3にしたがって、または
図12中に図示された位相シフトに基づいて)導き出すために形成されている。
【0059】
さらなる一例となる実施形態は、
図6〜
図8中に図示された対称的に構築されたレーダシステムの例であって、LO信号がマスタMMICに帰還される例である。ここで説明した例によれば、レーダシステムは担体(例えば、導体基板、PCB)と、担体上に配置された第1チップおよび少なくとも1つの第2チップとを有する。第1チップはHF発振器を有し、このHF発振器は、HF発振器信号を生成しかつこのHF発振器信号を第1HF出力接点に出力するために形成されている。このシステムは、さらにこの担体上に配置されたHFスプリッタを有する。このHFスプリッタは、入力と、第1出力と、少なくとも1つの第2出力とを有する。第1伝送線は、第1チップのHF出力接点を、HFスプリッタの入力と連結する。第2伝送線は、HFスプリッタの第1出力を第1チップのHF入力と連結する(例えば、
図8、HF発振器信号のマスタMMIC11への帰還参照)。第3伝送線は、HFスプリッタの第2出力を、第2チップのHF入力と連結する(例えば、
図8、HF発振器信号のスレーブMMIC12への伝送参照)。第2および第3の伝送線は、作動中にHF発振器信号の伝送時に同じ伝搬遅延を引き起こすように構成されている。
【0060】
作動中では、HF発振器信号は、第1チップのHF出力接点と第1伝送線とを介してHFスプリッタに伝送され、かつ、第2伝送線と第1チップのHF入力を介して第1チップに帰還される。第1チップは、集積されたHFスプリッタを含み、これは、帰還されたHF発振器信号を第1チップ中に含まれた受信チャンネルに転送するために形成されている。同様に、第2チップは集積されたHFスプリッタを有し、これは、第2チップのHF入力を介して受信されたHF発振器信号を第2チップ中に含まれている受信チャンネルおよび送信チャンネルに転送するために形成されている。
【0061】
複数のMMICを備えた上述のレーダシステムの例に関して、スレーブMMIC中に到来した(およびマスタMMIC中で生成された)LO信号の電力の計測も望まれうる。
図9Aの例および以下に
図15中で示す例では、このスレーブMMIC12中に到来するLO信号はs
RF,MA’(t)と称される。
図15によれば、この到来したLO信号s
RF,MA’(t)は、スレーブMMIC12中で、スレーブMMIC12のチップ接点P
TX01の付近に配置されたカプラ117を介して、(なかんずく)電力検出器118に供給されるが、この電力検出器は、供給された信号の電力を表す計測値を、(例えば、直流電圧信号として)生成し出力するために形成されている。この種のHF電力検出器は、通常1つまたは複数のダイオードを含むが、それ自体公知であるので、ここではこれ以上の説明は行わない。
【0062】
実践では、スレーブMMIC12に到来した信号s
RF,MA’(t)の信号電力が小さすぎて、HF電力検出器118が信頼性のある(十分な信号ノイズ比を有する)計測値を生成することができないという状態が生じうる。この状態を改善するために、スレーブMMIC12中でも局部発振器101を能動化させ、この局部発振器がLO信号s
LO,SL(t)を生成し、この信号も同様にカプラ117に供給され、この際、双方のLO信号s
LO,SL(t)およびs
RF,MA’(t)の周波数f
LOは、この計測については等しい。カプラ117は、LO信号s
LO,SL(t)の電力の一部もHF電力検出器118に転送されるように設計されていて、この結果、LO信号s
LO,SL(t)とs
RF,MA’(t)とは、HF電力検出器118の入力で重畳する。和信号s
LO,SL(t)+s
RF,MA’(t)の平均電力は、双方の信号の位相差Δφに依存していて、この位相差は、例えば、マスタMMIC11のチャンネルTX03中の位相シフタ106を用いて変動させることができる。追加的にまたは代替的に、スレーブMMIC12のチャンネルTX01中で、位相差Δφを変動させるために位相シフタを用いることもできる。
【0063】
以下の考察のために、LO信号s
RF,MA’(t)およびs
LO,SL(t)を以下のようにモデル化可能であると仮定する。
SRF,MA‘(t)=A
MA cos(2π・f
LO・t+Δφ+φ
MA‘) (8)
SLO,SL(t)=A
SL cos(2π・f
LO・t+φ
SL) (9)
この際、位相φ
MA’およびφ
SLは、一般性を失うことなくゼロであると仮定することができる。和信号の瞬時電力は、和信号s
LO,SL(t)+s
RF,MA’(t)の二乗に比例していて、HF電力検出器118は、瞬時電力の時間的な平均値を計測する。この時間的な平均値は、
であり、逆に、マスタMMIC11からスレーブMMIC12に伝送されたLO信号s
RF,MA’(t)の求められる電力は、A
MA2に等しい。ここで注意すべきは、和信号の電力P
LOは、信号s
RF,MA’(t)のみの電力A
MA2よりも有意に高いという点である。さらに、電力P
LOは位相シフトΔφの関数である。以下に、電力A
MA2を一連の計測値P
LOから十分正確に導き出す技術を紹介するが、この際、計測値P
LOを異なる位相シフトで受け取る。一般的な例では、N個の計測値P
LOが受け取られ、各計測値の前で位相シフトΔφが2kπ/Nだけ高められる(kは1以上の整数値である)。以下の例では、k=1(1周期)およびN=8であると仮定する。この場合、8つの計測値が得られ、これらが、コサイン曲線の1周期に均等に分布している。これらの8つの計測値を、一例として
図16中で図示している。電力検出器118のアナログ出力電圧は、デジタルでのさらなる処理の前にデジタル化可能であると理解される。しかしながら。適切なアナログデジタル変換器は、図中では明瞭化するために図示していない。
【0064】
k=2およびN=8で、位相増加がそれぞれ90°(2・2・π/8rad)である8つの計測値と、したがってコサイン曲線の2つの周期とが得られる。これらの計測値から、離散フーリエ変換を用いて単純にコサイン項A
MA・A
SL・cos(Δφ)の振幅A
MA・A
SLを方程式10から演算することができる。計測値の数が2のべき乗(例えば、4、8、16、32など)である場合、演算はFFTアルゴリズム(高速フーリエ変換)を用いて効率的に行われうる。計測値がコサイン曲線の1周期のみ(k=1)を表す限り、求められる値は(例えば、FFTを用いて)演算されるスペクトルの第2の値である(第1の値は定常成分であろう)。周期が2つの場合(k=2)、求められる値は演算されるスペクトルの第3の値であるなどである。ここで、FFTは多くの可能なアルゴリズムのうちの1つの例にすぎないことを指摘する。しかしながらFFTアルゴリズムは、比較的単純にハードウェア中で実装可能である。
【0065】
図17は、レーダMMIC中で受信された第1HF発振器信号の電力を計測する方法の一例を図解するフローチャートである(
図17、工程S5参照)。この第1HF発振器信号は、例えば、マスタMMIC中で生成されスレーブMMICに伝送されるLO信号でありえる。スレーブMMICはこのLO信号を受信するが、この信号は
図15の例では、s
RF,MA(t)と称される。このレーダMMIC中では、第2HF発振器信号が局部発振器を用いて生成され、この際、第1HF発振器信号と第2HF発振器信号とは同じ周波数を有するが、互いに対して設定可能な位相シフトを有する(
図17、工程S6参照)。
図15の例では、この第2HF発振器信号は、スレーブMMIC12中で生成されたLO信号s
LO,SL(t)である。第1HF発振器信号と第2HF発振器信号とは、HF電力検出器の入力において重畳され、これにより和信号s
LO,SL(t)+s
RF,MA(t)が形成される(
図17、工程S7参照)。HF電力検出器(
図15、電力検出器118参照)を用いて、複数の計測値が生成され、これらは、和信号の電力を表し、ここで、計測値のそれぞれには、所定の位相シフトが割り当てられている(
図17、工程S8参照)。続いて、第1HF発振器信号の電力は、この複数の計測値に基づいて導き出される(
図17、工程S9参照)。これは、例えば、計測値のフーリエ変換を含む。ずっと上で
図16に関連してすでに述べたように、これらの計測値に割り当てられた位相シフトは等距離でありえ、1つまたは複数の完全な位相回転(すなわち、360°は2πradに相当する)にわたって均等に分布されていて、これによりこれらの計測値のさらなる処理を、フーリエ変換を用いて行うことができる。位相シフトが
図16の図中にあるように完全な位相回転(例えば、0°、45°、90°、135°、180°、225°、315°)にわたって分布している場合、第2「ビン」(スペクトル値)は、離散フーリエ変換で求められる電力値を表す(方程式10参照)。第1ビンは、ずっと上ですでに述べたように定常成分を表す。
【0066】
実施形態は1つ以上の実装形態に関連付けて説明および図示したが、図示した例には、変更および/または修正を行うことができ、これによって添付した請求項の精神および範囲から離れることはない。とりわけ、上述の部品または構造(ユニット、アセンブリ、装置、回路、システムなど)により実施される様々な機能に関しては、この種の部品を記述するために用いられる名称(「手段」との言及を含めて)は、記述された部品の特定の機能を実施する(すなわち、等価の機能を有する)これ以外の全ての部品または構造にも対応するべきであり、この点は、これらが、ここで図示した例示的な実装中でこの機能を実施する開示された構造とは、構造的には等価ではない場合でも該当する。