(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
井戸水、工業用水、水道水などを原水とする用水処理においては、原水に凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質、コロイダル成分や有機物質等を凝結かつ粗大化させた後、沈殿、浮上、濾過、膜濾過等により固液分離する方法や、膜濾過単独で除濁・除菌して処理水を回収することが行われている。
【0003】
従来、凝集処理には、塩化第二鉄やPACなどの無機凝集剤が用いられてきたが、例えば、塩鉄(塩化第二鉄)のみの凝集では原水水質によっては鉄コロイドが発生し、除濁膜汚染に繋がることもある。
【0004】
また、逆浸透(RO)膜における膜閉塞を引き起こす、被処理水中のUV−260成分を低減させるために、無機凝集剤の添加量を増やす必要があり、汚泥発生量の増加の問題がある。逆浸透膜の洗浄頻度の目安としては6ヶ月に一回程度である。洗浄頻度が3ヶ月以内に一回であった場合、コストが高くなること、洗浄により膜の劣化が生じるリスクが高くなる。
【0005】
この問題を解決するものとして、無機凝集剤の添加に先立ちフェノール性水酸基を有する高分子化合物を添加する方法が提案されている。フェノール性水酸基を有する高分子化合物を添加することで、無機凝集剤の添加量を低減するとともに、凝集処理水の水質を向上させることができる(特許文献1)。
【0006】
フェノール性水酸基を有する高分子化合物と無機凝集剤とを用いた凝集処理を行う場合、低分子成分が凝集処理水中に残存して、逆浸透膜を閉塞させる可能性がある。また、凝集処理水を除濁膜で除濁処理した後、RO処理する場合であっても、フェノール性水酸基を有する高分子化合物を添加した後に、除濁膜にて直接処理しようとすると、該高分子化合物等が除濁膜に付着して濾過性能が急激に悪化したり、また、除濁膜からリークしてRO膜を閉塞させることがある。
【0007】
特許文献2には、被処理水にフェノール性水酸基を有する高分子化合物と無機凝集剤を添加した後、固有粘度0.23dL/g以上のカチオン性高分子凝集剤を添加することで低分子成分のリークをおさえることが記載されている。しかし、新たにカチオン性高分子凝集剤を添加すると、凝集剤は3剤となり、コスト面でも、凝集剤添加制御面でも困難が予想される。
【0008】
特許文献3,4には、被処理水にノボラック型フェノール樹脂系凝集剤を添加した後、無機凝集剤を添加し、RO処理することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、被処理水に凝集剤としてフェノール性水酸基を有する高分子化合物と鉄系凝集剤を添加する工程と、この凝集水を除濁用濾過器で濾過する工程と、この濾過水を逆浸透膜処理する工程とを有する用水処理方法において、良好なフロックが形成され、除濁膜への付着汚染、鉄リーク、低分子リークが抑制されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は次の通りである。
【0012】
[1] 被処理水に凝集剤としてフェノール性水酸基を有する高分子化合物と鉄系凝集剤を添加する工程と、この凝集水を除濁用濾過器で濾過する工程と、この濾過水を逆浸透膜処理する工程とを有する用水処理方法において、
鉄系凝集剤の添加量を原水および/または処理水の水質に応じて制御し、フェノール性水酸基を有する高分子化合物の添加量を鉄系凝集剤に対して予め設定した所定の比率となるように添加することを特徴とする用水処理方法。
【0013】
[2] [1]において、フェノール性水酸基を有する高分子化合物の添加濃度と鉄系凝集剤の添加濃度との比が0.01〜0.25となるように凝集剤の添加を制御すること特徴とする用水処理方法。
【0015】
[
3] [1]
又は[
2]において、フェノール性水酸基を有する高分子化合物添加濃度は1〜15mg/Lであることを特徴とする用水処理方法。
【0016】
[
4] [1]〜[
3]のいずれかにおいて、前記凝集水を直接に前記除濁用濾過器に供給することを特徴とする用水処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、被処理水に凝集剤としてフェノール性水酸基を有する高分子化合物と鉄系凝集剤を添加する工程と、この凝集水を除濁用濾過器で濾過する工程と、この濾過水を逆浸透膜処理する工程とを有する用水処理方法において、最初にフェノール性水酸基を有する高分子化合物の添加濃度と鉄系凝集剤の添加濃度との比を決定し、この比が一定となるようにフェノール性水酸基を有する高分子化合物及び鉄系凝集剤の添加量を制御する。これにより、良好なフロックが形成され、除濁膜への付着汚染、鉄リーク、低分子リークが抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明では、
図1のように、被処理水に必要に応じ酸化剤を添加した後、フェノール性水酸基を有する高分子化合物と鉄系凝集剤とを添加した後、除濁処理し、次いで逆浸透膜処理(以下、RO処理ということがある。)を行う。
【0020】
被処理水としては、水道水、工業用水、井戸水などが挙げられる。工業用水としては、河川水、湖沼水などが例示される。本発明では、被処理水中のTOC濃度は0.1〜5.0mg/L程度が好適である。
【0021】
フェノール性水酸基を有する高分子化合物としては、ノボラック型フェノール樹脂にレゾール型の2次反応を行って得られた反応物であり、アルカリ溶液の形態のものが用いられ、特許文献3,4に記載のものが好ましい。
【0022】
このフェノール性水酸基を有する高分子化合物は、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させて得られたノボラック型フェノール系樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してレゾール型の2次反応を行って得られるフェノール系樹脂のアルカリ溶液よりなる水処理凝集剤であって、好ましくは該フェノール類がメチルフェノール類を含む。
【0023】
レゾール型2次反応の原料となるノボラック型フェノール系樹脂は、常法に従って、反応釜において、フェノール類及びアルデヒド類を、酸性触媒の存在下で付加縮合反応させた後、常圧及び減圧下で、脱水と未反応フェノール類の除去を行って製造される。
【0024】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、グリオキザールなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。これらのアルデヒド類は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0025】
これらのうち、実用的な物質は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドである。
【0026】
レゾール型2次反応の原料となるノボラック型メチルフェノール系樹脂の融点に制限はないが通常、原料フェノール類としてクレゾール等のメチルフェノール類を主体とするものは60〜135℃である。
【0027】
レゾール型2次反応の原料となるノボラック型メチルフェノール系樹脂の分子量に制限はないが、分子量のより高い樹脂の方が、2次反応終了後に、凝集に関与しないだけでなく凝集処理水中に残留して処理水を汚染する低分子量成分含有率が少なくなるため、好ましい。このため、用いるノボラック型メチルフェノール系樹脂は、重量平均分子量で1000以上であることが好ましく、特に2000以上であることが好ましい。ノボラック型メチルフェノール系樹脂の分子量の上限に制限はないが、通常、重量平均分子量で8000程度である。
【0028】
この2次反応メチルフェノール系樹脂の重量平均分子量は5,000以上が好ましく、さらに好ましくは10000以上である。一方、重量平均分子量が50000を超える場合は、一部分子量100万以上の分子が生成し、粘度が高く、時間経過でさらに架橋し、不溶物が発生する可能性が高いため、2次反応メチルフェノール系樹脂の重量平均分子量は50000以下、特に30000以下であることが好ましい。
【0029】
このレゾール型2次反応で得られるメチルフェノール系樹脂のアルカリ溶液は、ポンプ薬注可能な液体であり、市販品(例えば、栗田工業株式会社製クリバーターBP−201)を使用することができる。
【0030】
鉄系凝集剤としては、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、ポリ硫酸第二鉄などを用いることができる。
【0031】
本発明では、鉄系凝集剤の添加濃度を原水水質(例えばTOC濃度)、または/および処理水水質(例えばTOC濃度)に応じて変動させ、この鉄系凝集剤の添加濃度に追従して添加濃度が一定となるようにフェノール性水酸基を有する高分子化合物の添加量を制御することが好ましい。例えば、TOC濃度が0.1〜5.0mg/Lの範囲で変動するような場合、鉄系凝集剤は5〜300mg/Lの範囲で制御する。具体的には、TOC濃度0.1mg/Lに対して、鉄系凝集剤を5〜50mg/L(好ましくは10〜30mg/L)、TOC濃度2mg/Lに対し、鉄系凝集剤を40〜120mg/L(好ましくは50〜100mg/L)、TOC濃度5mg/Lに対し、鉄系凝集剤を150〜300mg/L(好ましくは200〜250mg/L)程度添加する。なお、これらの数値は、処理水質や運転状況を見ながら適宜変更されるものであり、これらの範囲に限られるものではない。
【0032】
フェノール性水酸基を有する高分子化合物は、[フェノール性水酸基を有する高分子化合物の添加濃度]/[鉄系凝集剤の添加濃度]比(以下、凝集剤比ということがある。)が一定値、特に0.01〜0.25とりわけ0.01〜0.2の間から選ばれた一定値となるように添加されることが好ましい。
【0033】
フェノール性水酸基を有する高分子化合物は、添加濃度が20mg/L以下となるように添加されることが好ましい。各凝集剤添加後の凝集反応時間は各々1〜30分程度、好ましくは4〜15分程度となるように反応される。フェノール性水酸基を有する高分子化合物と鉄系凝集剤との添加順序はどちらが先でもよいが、フェノール性水酸基を有する高分子化合物が先のほうが望ましい。
【0034】
凝集pHは4.5〜6、特に5〜5.5が好ましい。pH4.5未満では鉄リークにより逆浸透膜閉塞のおそれがある。pH6超では凝集不良の可能性がある。
【0035】
被処理水にFe
2+イオンが存在する場合、ROを詰まらせるため、Fe
2+イオンからFe
3+イオンにして凝集及び除濁処理で除去しやすくするため、凝集剤を添加する前の被処理水に酸化剤(好ましくは次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系酸化剤)を添加してもよい。この添加濃度は0.3〜1.0mg/LasCl
2程度が好ましい。
【0036】
凝集水は、前処理することなく除濁処理することが好ましい。除濁器としては、一般的な重力濾過器、圧力濾過器、または除濁膜を用いることができる。除濁膜としては、耐薬品性の点からPVDF製のものが好ましく、孔径0.02〜0.1μmのUF膜、MF膜などが好ましい。除濁膜装置は、クロスフロー方式のものであっても全量濾過方式のものであってもよい。
【0037】
除濁膜装置を用いた除濁処理は、除濁膜への通水、エアバブリング、逆洗、水張りの工程により行われる。濾過通水時間は20〜40分程度が好ましい。差圧(入口圧力−出口圧力)は0.02〜0.04MPa程度が好ましい。差圧が0.07〜0.10MPaに上昇した場合、定置洗浄する。
【0038】
除濁処理水を逆浸透膜処理する際の好ましい条件は次の通りである。
(1) ブライン量は3.6m
3/h以上が好ましい。
(2) 逆浸透膜は、標準圧力0.735MPaの超低圧膜が好ましい。膜面積は35〜41m
2が好ましい。
(3) 初期純水フラックスは1.0m/d(25℃以上、0.735MPa)が好ましい。初期脱塩率は98%以上が好ましい。
(4) カルシウム硬度ランゲリア指数が0以下となるように回収率を設定することが好ましい。また、ブライン水中のシリカ濃度がシリカの溶解度以内となるように回収率を設定することが好ましい。回収率は50〜80%が好ましい。
【0039】
RO処理水をさらに電気脱イオン装置やイオン交換器で脱イオン処理してもよい。ROから残留塩素がリークする可能性がある場合は、これらの機器の前段に活性炭濾過器や保安フィルターを設けることが好ましい。
【実施例】
【0040】
[実験例1〜6]
井戸水を種々の凝集剤比で凝集処理した後、濾過処理し、凝集効果を試験した。
【0041】
フェノール性水酸基を有する高分子化合物としては、栗田工業株式会社製クリバーターBP−201(レゾール型)を用いた。鉄系凝集剤としては塩化第二鉄(塩鉄)を用いた。
【0042】
井戸水は、UV−260が0.221mg/L、TOCが1.0mg/Lである。
【0043】
凝集処理は、ジャーテスターを用い、pH5.5で行った。
【0044】
凝集剤比は、表1の通り、0、0.01、0.1、0.2、0.5、1とした。
【0045】
濾過には、No.5A濾紙を用いた。濾過水質(UV−260,TOC)を測定し、結果を表1に示した。
【0046】
【表1】
【0047】
<考察>
表1の通り、凝集剤比を0.01〜0.5とした実験例2〜5は、凝集剤比が0の実験例1よりもTOC濃度が低い。
【0048】
凝集剤比が1である実験例6は、実験例1に比べてTOCが高い。これは、フェノール性水酸基を有する高分子化合物中の低分子成分(不純物)の一部がリークしたためであると考えられる。
【0049】
[実施例1,2、比較例1,2]
<実験条件>
原水(野木町水:TOC0.9mg/L)に対して、フェノール性水酸基を有する高分子化合物(クリバーターBP−201(レゾール型))を表2の添加量にて添加後、塩化第二鉄を表2の添加量にて添加した。その後、孔径0.02μmの除濁膜にて濾過し、RO処理した。RO処理条件は以下の通りである。
<RO処理条件>
処理水量3.8L/min
循環水量15L/min
回収率65%
【0050】
なお、フェノール性水酸基を有する高分子化合物(クリバーターBP−201(レゾール型))の添加濃度は、塩化第二鉄の略16%(凝集剤比([フェノール性水酸基を有する高分子化合物/鉄系凝集剤]=略0.16))となるようにした。凝集pHは5.5に調整した。
【0051】
2週間通水して除濁膜差圧、RO膜のフラックス挙動(フラックス低下係数)を評価した。結果を表2に示す。洗浄頻度、洗浄回復性の観点から、フラックス低下係数は0.030以下を許容値とした。なお、フラックス低下係数はF=F
0×T
mにおけるmの値である。
F:フラックス
F
0:初期フラックス
T:時間
m:フラックス低下係数
【0052】
【表2】
【0053】
<考察>
表2のとおり、凝集剤比が同じであっても、フェノール性水酸基を有する高分子化合物の添加濃度が多くなると、差圧の上昇、又はフラックスの低下が認められた。これは、除濁膜への付着による差圧上昇、フェノール性水酸基を有する高分子化合物中の低分子成分の一部がROへリークして膜閉塞を引き起こしたものと考えられる。
【0054】
[実施例3〜6、比較例3〜6]
実施例1において、カナディアンフルボを添加してTOCを表3の通りとした条件で、RO処理運転した。その際、フェノール性水酸基を有する高分子化合物と鉄系凝集剤は、凝集剤比を0.16に固定した条件(実施例3〜6)、鉄系凝集剤の濃度を変化させ、フェノール性水酸基を有する高分子化合物の濃度を固定した条件(比較例3〜6)で行った。なお、カナディアンフルボの添加は1週間に一度行い、1週間通水して除濁膜差圧、RO膜のフラックス挙動(フラックス低下係数)を評価した。結果を表3に示す。なお、TOCを添加する際、一旦RO膜の運転を停止した。各フラックス低下係数は、それぞれTOCを追添加する前のフラックスを初期フラックスとして換算している。
【0055】
【表3】
【0056】
<考察>
実施例3〜6と比較例3〜6とでは、鉄系凝集剤とフェノール性水酸基を有する高分子化合物それぞれの総添加量は同じである。凝集剤の添加量はいずれも適正範囲である。
【0057】
表3より、凝集剤比を固定した実施例では差圧の上昇やフラックス低下係数の変化は見られなかった。また、除濁膜の差圧は凝集剤比を固定した場合とフェノール性水酸基を有する高分子化合物の添加量を固定した場合とで変化はない。このことは、除濁膜への付着は抑制されていると考えられる。
【0058】
一方、比較例では、ROのフラックス低下係数は実施例に比較して、より低下する傾向がみられた。
【0059】
これは、凝集剤比及び添加濃度が適正範囲(表1、表2)であるにもかかわらず、フェノール性水酸基を有する高分子化合物の添加量変化に対し、塩化第二鉄の添加効果の追従性が悪かったためであると考えられる。そのため、比較例において凝集剤比を0.24に変化させた場合には、フェノール性水酸基を有する高分子化合物から低分子成分がROへリークし、また、凝集剤比を0.12に変化させた場合には、鉄イオンやTOC成分がROへリークしやすい状況となり、フラックス低下係数がより低下する傾向を示したと考えられる。
【0060】
なお、実験例及び実施例、比較例では、TOCを指標として凝集剤の添加制御を行ったが、UV−260の測定値や鉄イオン濃度、濁度等を制御指標としても良い。また、原水や処理水に設けたセンサからの測定値に基づいて自動で薬注制御を行う制御ユニットを設け、本発明の処理方法を実施するシステムを構築しても良い。