【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)総務省 平成26年度戦略的情報通信研研究開発推進事業(SCOPE)電波有効利用促進型研究 「波形選択性の原理構築と無線通信応用に向けた基礎研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
大山 修毅 他,EM級電力増幅回路によるEPWM送信機のドレーン効率に関する基礎検討 ,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.111 No.145 ,日本,社団法人電子情報通信学会,2011年 7月14日,第111巻,pp.157-162
【文献】
安在 大祐 他,波形選択メタサーフェスを用いたOFDM伝送方式に関する一検討,映像情報メディア学会技術報告 Vol.40 No.4,日本,(一社)映像情報メディア学会,2016年 2月11日,第40巻,pp.9-12
【文献】
H.Wakatsuchi et al,Experimental demonstration of nonlinear waveform-dependent metasurface absorber with pulsed signals,ELECTRONICS LETTERS 12th December 2011,2011年12月12日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電波の励振時間であるパルス幅を特定のパルス幅に制御して前記電波を送信する送信側通信端末と、前記送信側通信端末が送信した前記電波を受信する受信側通信端末と、を備え、前記受信側通信端末は、波形選択フィルタおよび受信部を有し、前記波形選択フィルタは、前記特定のパルス幅の前記電波を選択的に透過または反射し、前記受信部は、前記波形選択フィルタが透過した前記特定のパルス幅の前記電波を受信する、通信システム。
前記送信側通信端末は、前記電波のパルス幅を前記特定のパルス幅に制御するパルス時間波形制御器と、周波数領域での多重化を行う送信側周波数変換器と、を有し、前記送信側通信端末によって送信される前記電波は、前記パルス時間波形制御器によって前記特定のパルス幅に制御され、かつ、前記送信側周波数変換器によって周波数領域での多重化が行われており、前記受信側通信端末は、前記波形選択フィルタが透過した前記特定のパルス幅の前記電波のうち、特定の周波数領域の信号を選択的に受信する受信側周波数変換器を有することを特徴とする請求項1または2に記載の通信システム。
前記送信側通信端末は、前記電波のパルス幅を前記特定のパルス幅に制御するパルス時間波形制御器と、拡散符号領域での多重化を行う符号拡散器と、を有し、前記送信側通信端末によって送信される前記電波は、前記パルス時間波形制御器によって前記特定のパルス幅に制御され、かつ、前記符号拡散器によって拡散符号領域での多重化が行われており、前記受信側通信端末は、前記波形選択フィルタが透過した前記特定のパルス幅の前記電波のうち、特定の拡散符号で信号拡散された信号を選択的に受信する符号逆拡散器を有することを特徴とする請求項1または2に記載の通信システム。
電波の励振時間であるパルス幅を特定のパルス幅に制御して前記電波を送信する送信側通信端末から、前記電波を受信する受信側通信端末であって、波形選択フィルタおよび受信部を有し、前記波形選択フィルタは、前記特定のパルス幅の前記電波を選択的に透過し、前記受信部は、前記波形選択フィルタが透過した前記特定のパルス幅の前記電波を受信する、受信側通信端末。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
図1(a)に、波形選択メタサーフェス20(以下、波形選択フィルタ20という)の効果を模式的に示す。
図1(a)の左側に示す電波は、波形選択フィルタ20への入力側の電波であり、周波数は等しいがパルス幅が異なる。ここでパルス幅は、
図1に示すように、電波の発生している時間単位の電波(パルス)の長さである。また、パルス幅は、電波のエネルギーが発生している時間の長さ(電波の励振時間)でもある。
図1(a)の中央に示すのは、同一周波数の電波でも、電波の波形(具体的には電波の発生している時間単位の電波(パルス)の長さである)に応じて選択的に吸収、透過できるようにする電磁特性を持った波形選択フィルタ20である。ここでは、短いパルス幅の電波を吸収し長いパルス幅の電波を透過する短波吸収波形選択フィルタ22で示す。
図1(a)右側に示す電波は、短いパルス幅の電波を吸収し長いパルス幅の電波を透過することを示す。
図1(b)に、波形選択フィルタ20の構造を模式的に示す。金属板27の上に誘電体26があり、誘電体26の上に複数の導電性部材25が配置された平面状の基本形状をしている。2次元の平面状を基本としている。また、同じ部分に積層された金属板27、誘電体26、および導電性部材25の曲率を、それぞれ同じとすることにより、波形選択フィルタ20を全体として半円柱状、半球状、円錐状、またはパラボラアンテナ状を基本とした3次元形状にすることができる。ここで、上記のように金属板27を有する場合は反射型であり、一方、金属版27が廃された波形選択フィルタ20は透過型となる。波形選択フィルタ20は透過型であっても反射型であってもよい。
【0012】
図2および
図3に、波形選択フィルタ20の4つの類型の模式構造図と特性を示す。
短いパルス幅の電波を吸収し長いパルス幅の電波を透過するキャパシタ型波形選択フィルタ22(短いパスス幅の電波吸収)の、模式構造図を
図2(a)、特性を
図3(a)に示す。
図2(a)は、導電性部材25の2箇所(すなわち、左側の導電性部材25と右側の導電性部材25)を繋ぐ整流回路と、整流回路内に配置されてRC回路を有する。RC回路には、整流回路によって整流された電流が流れる。このRC回路は、キャパシティブな成分を持つ回路素子Cおよび抵抗成分を持つ回路素子Rcを有する。回路素子Cと回路素子Rcは並列に接続されている。
ここで、
図3(b)中の吸収曲線の飽和するパルス幅は使用される回路素子の時定数τ(τ=R
cC)によって決定される。
長いパルス幅の電波を吸収し短いパルス幅の電波を透過するインダクタ型波形選択フィルタ21(長いパスス幅の電波吸収)の、模式構造図を
図2(b)、特性を
図3(b)に示す。
図2(b)は、導電性部材25の2箇所を繋ぐ整流回路と、整流回路内に配置されたRL回路を有する。RL回路には、整流回路によって整流された電流が流れる。このRL回路は、インダクティブな成分を持つ回路素子Lおよび抵抗成分を持つ回路素子Rlを有する。回路素子Lと回路素子Rlは直列に接続されている。
ここで、
図3(b)中の吸収曲線の飽和するパルス幅は使用される回路素子の時定数τ(τ=L/R
l)によって決定される。
次に、パラレル結合型波形選択フィルタ23の、模式構造図を
図2(c)、特性を
図3(c)に示す。これは、短いパルス幅の電波および長いパルス幅の電波を吸収し、その中間に位置するパルス幅の電波を透過する凹形の吸収特性を持っている。
図2(c)は、導電性部材25の2箇所を繋ぐ整流回路と、整流回路内に並列に接続されたRL回路およびRC回路を示す。RL回路およびRC回路には、整流回路によって整流された電流が流れる。RL回路は、インダクティブな成分を持つ回路素子Lおよび抵抗成分を持つ回路素子Rlを直列に有する。RC回路は、キャパシティブな成分を持つ回路素子Cおよび抵抗成分を持つ回路素子Rcを並列に有する。
ここで、
図3(c)中の吸収曲線はそれぞれ独立した長いパルス幅の電波吸収波形選択フィルタと短いパルス幅の電波吸収波形選択フィルタに使用される回路素子の時定数τ(L/R
l、R
cC)によって決定される。
次に、シリーズ結合型波形選択フィルタ24の、模式構造図を
図2(d)、特性を
図3(d)に示す。これは、短いパルス幅の電波および長いパルス幅の電波を透過し、その中間に位置するパルス幅の電波を吸収する凸形の吸収特性を持っている。
図2(d)は、導電性部材25の2箇所を繋ぐ整流回路と、整流回路内に直列に接続されたRL回路およびRC回路を有する。RL回路およびRC回路には、整流回路によって整流された電流が流れる。RL回路は、インダクティブな成分を持つ回路素子Lおよび抵抗成分を持つ回路素子Rlを直列に有する。RC回路は、キャパシティブな成分を持つ回路素子Cおよび抵抗成分を持つ回路素子Rcを並列に有する。
ここで、
図3(d)中の吸収曲線はそれぞれ独立した長いパルス幅の電波収波形選択フィルタと短いパルス幅の電波吸収波形選択フィルタに使用される回路素子の時定数τ(L/R
l、R
cC)によって決定される。
以上より、波形選択フィルタは、導電性部材25と、導電性部材25の2箇所を繋ぐ整流回路と、整流回路内に、インダクティブな成分を持つ回路素子Lおよび抵抗成分を持つ回路素子Rを有するRL回路、またはキャパシティブな成分を持つ回路素子Cおよび抵抗成分を持つ回路素子Rを有する含むRC回路、またはRL回路およびRC回路と、を備えた電波の波形によって電波の吸収率が異なるフィルタである。
なお、抵抗成分を持つ回路素子Rとは、必ずしも抵抗である必要は無く、MOSFETなどで代用することもできる。また、キャパシティブな成分を持つ回路素子Cは、必ずしもキャパシタである必要は無く、バラクタダイオードで代用することもできる。
【0013】
図4(a)は、シミュレーション評価モデルを示しており、送信機から出力された無線信号はフィルタ上を伝搬し、受信機へ入力される。
図4(b)の上の信号波形は、
図4(a)の「★1」の位置における受信機アンテナ31へ入力された信号を示しており、フィルタによる吸収を受け、パルス幅に応じた吸収が実現されている。
図4(b)の下の信号波形は、
図4(a)の「★2」の位置における信号を示しており、受信機アンテナ31から入力された信号は増幅器(アンプ)により増幅される過程で熱雑音(ガウス性雑音)が付加され、その様子を示している。
図4(c)は、シミュレーション評価の環境を示している。シミュレーション環境は大きく分けて、送信部51、チャネル部52と受信部53の3つの部分から構成される。送信部51では送信ビット系列を基に信号変調を行い、変調された無線信号の生成を行っている。本シミュレーションでは簡易な狭帯域パルス変調の1つであるパルス位置変調(Pulse Position Modulation: PPM)を採用している。PPMでは、ビット情報はパルスの前半、または、後半の時間的な位置により表現される変調方式である。なお、パルス生成部511では、本発明で用いる波形選択フィルタの効果を確認するため、キャリア信号発生に加えてパルス幅を整形する時間領域信号処理も行う。
次に、チャネル部52では送信された無線信号が無線チャネルで受ける影響をシミュレートしている。送信された無線信号はまず波形選択フィルタ20による吸収を受けるが、本シミュレーションでは事前に電磁界シミュレーションにより波形選択フィルタ20の吸収効果を算出し、そのデータを用いている。雑音源としては加法性白色ガウシアンノイズ(Additive White Gaussian Noise: AWGN)を仮定し、波形選択フィルタ20による吸収を受けたのちにAWGNの付加を行う。
最後に、受信部53において検波を行った後に復調を行い、ビット誤り率の算出を行う。本シミュレーションでは検波方式としてエネルギー検波を採用する。受信部53では、まず受信信号からパルスの位置に対応した2つのエネルギー値を算出し、この2つの出力エネルギー値は比較器531へ順次入力される。シンボルタイミング部532によって得られたシンボルタイミングを比較器531へ入力し、比較器531では適切なタイミングにおいて入力された2つのエネルギー値の比較を行うことで、受信ビット判定を行う。
【0014】
図5は、パルス変調方式による特性評価を示す。
本発明者らが発明した波形(パルス幅)選択フィルタ20を用いた波形(パルス幅)選択性による多重化の基礎的な評価を実施した。
図5(a)および
図5(b)のグラフは、横軸にEb/N0を示しており、これは送信信号のエネルギーEbと雑音のエネルギーN0のスペクトル密度の比である。Eb/N0が大きくなるほど送信信号のエネルギーEbが雑音エネルギーN0と比較して増大していることを示す。
図5(a)、
図5(b)のグラフは、縦軸はビット誤り率特性(BER: Bit error rate)を示しており、ディジタル伝送においてどれだけの割合でビットの誤り(エラー)が生じているかを示す。例えば、BER=0.01は100ビット中1ビット平均してエラーが発生していることを示しており、BERが小さいほど高品質な通信であるといえる。
ここで、基準となるのは「X」で示す波形選択フィルタ20なしのときの特性(W/O SUT)である。波形選択フィルタ20を用いた特性が、この「X」で示す特性と同等ならば、同品質の通信である。評価したパルス幅は3水準で、パルス幅の短い順に、「黒四角」のパルス幅0.02us、「黒丸」のパルス幅2us、および「黒三角」のパルス幅20usである。
図5(a)は、短いパルスを吸収し長いパルスを透過するキャパシタ型波形選択フィルタ22(
図2(a)及び
図3(a))を用いた場合の通信特性を示す。「黒四角」で示す0.02usのパルス幅のBER特性は、基準である「X」で示すキャパシタ型波形選択フィルタ22なしのときの特性(W/O SUT)から大きく劣化している。即ち、短いパルス幅(0.02us)の電波は、キャパシタ型波形選択フィルタ22により選択的に吸収されている。
一方、「黒丸」で示すパルス幅2usや「黒三角」で示す20usのパルス幅のBERの特性は、「X」で示すキャパシタ型波形選択フィルタ22なしのときの特性(W/O SUT)ほとんど同じで特性劣化していない。即ち、「黒丸」で示すパルス幅2usや「黒三角」で示す20usのパルス幅の電波は、短いパルスを吸収し長いパルスを透過するキャパシタ型波形選択フィルタ22を使用しても、キャパシタ型波形選択フィルタ22を利用しない場合の特性と同等となっている。
このことから、本実施形態により、波形選択フィルタは、長いパルス幅の信号を大きな劣化なく透過させ、短いパルス幅の信号を遮断できている。
図5(b)は、逆に長いパルス幅の電波を吸収し短いパルス幅の電波を透過するインダクタ型波形選択フィルタ21(
図2(b)及び
図3(b))を用いた場合の通信特性を示す。また、インダクタ型波形選択フィルタ21なしのときの特性(W/O SUT)を「X」で示す。「黒丸」で示すパルス幅2usや「黒三角」で示すパルス幅20usのBERの特性は、[X]で示すインダクタ型波形選択フィルタ21なしのときの特性(W/O SUT)から大きく劣化している。一方、「黒四角」で示す0.02usのパルス幅のBER特性は、[X]で示すインダクタ型波形選択フィルタ21なしのときの特性(W/O SUT)とほとんど同じで特性劣化していない。即ち、「黒四角」で示す0.02usのパルス幅の電波は、長いパルスを吸収し短いパルスを透過するインダクタ型波形選択フィルタ21を使用しても、インダクタ型波形選択フィルタ21を利用しない場合の特性とほぼ同等となっている。このことから、本実施形態により、インダクタ型波形選択フィルタ21は、大きな劣化なく短いパルス幅の信号を透過させ、長いパルス幅の信号を遮断できている。したがって、インダクタ型波形選択フィルタ21を調整することで、
図5(a)とは逆の特性を達成することが可能である
図5(a)および
図5(b)の結果を総合的に考えると、各ユーザに適切なパルス幅を設定し、任意のユーザの信号だけを透過(ユーザ多重化)することが基礎的なシミュレーション検討から明らかになった。
【0015】
図11に、パルス変調方式による方法(単一周波数)の構成例を示す。ビット系列生成器は送信するビット系列を生成し、その出力系列はPPM (Pulse Position Modulation)変調器に入力される。PPM変調器では、ビット情報に応じたパルスの時間的位置を用いて変調が行われ、変調信号が生成される。なお、本来のPPM変調ではキャリア信号(正弦波信号)をそのまま利用して変調が実現されるが、
図11でのPPM変調においては、キャリア発振器で生成された正弦波信号をパルス時間波形制御器10により波形選択フィルタ20の吸収特性に応じたパルス幅となるように励振時間が制御され、その出力結果を用いたPPM変調を行う。変調信号は無線通信路を通し受信側へ送信される。受信側では、まず波形選択フィルタ20を通された後に、フロントエンドであるアンプやバンドパスフィルタなどの無線通信の前段処理部分を通して受信される。受信信号検波器はフロントエンド出力信号から受信信号の検出(復調)を行い、受信ビット系列を出力する。
図11中、フロントエンド、受信信号検波器が、受信部に相当する。
【0016】
図12に、シミュレーション結果(単一周波数の場合)を示す。横軸はE
b/N
0、縦軸はビット誤り率特性(BER特性)をそれぞれ示す。
図12の結果は前述の
図5の結果と同様の傾向の結果となっていることを示している。
即ち、
図5(a)と
図12(a)は、短いパルス幅の電波吸収するキャパシタ型波形選択フィルタ22の場合であり、
図5(b)と
図12(b)は、長いパルス幅の電波吸収するインダクタ型波形選択フィルタ21の場合である。
図12(c)は、凹形の吸収特性を持つパラレル結合型波形選択フィルタ23の場合である。[X]で示すパラレル結合型波形選択フィルタ23なしのときのBER特性(W/O SUT)に対して、「黒丸」で示すパルス幅2usは、殆ど劣化していないが、「黒三角」で示すパルス幅20usおよび「黒四角」で示すパルス幅0.02usは大きく劣化している。即ち、パルス幅が小さい電波(0.02us)と大きい電波(20us)を吸収し、その間のパルス幅の電波(2us)を透過している。
図12(d)は、凸形の吸収特性を持つシリーズ結合型波形選択フィルタ24の場合である。[X]で示すシリーズ結合型波形選択フィルタ24なしのときのBER特性(W/O SUT)に対して、[黒三角」で示すパルス幅20usおよび「黒四角」で示すパルス幅0.02usは殆ど劣化していないが、「黒丸」で示すパルス幅2usは大きく劣化している。即ち、パルス幅が小さい電波(0.02us)と大きい電波(20us)を透過し、その間のパルス幅の電波(2us)を吸収している。
【0017】
図13に、OFDM (Orthogonal Frequency Division Multiplexing) による方法(複数の周波数)の構成例を示す。送信ビットデータはS/Pによりシリアルパラレル変換が行われ、並列的にQPSK変調器(4相位相シフトキーイング変調器)に入力される。その後、IFFT部(逆フーリエ変換器)により周波数領域の信号を時間領域信号に変換され、GI部によりガードインターバルが付加される。D/Aでは生成されたディジタル信号をアナログ信号に変換するが、ここにSubcarrier Mapper(サブキャリアマッパ)によるサブキャリアの調整を行うことでパルス幅が適切に制御される。
具体的な実施形態の1つとしては、サブキャリアの周波数間隔とパルス幅は反比例の特性があるため、サブキャリアの周波数間隔を制御することによりパルス幅を任意に設定できる。なお、受信側のSubcarrier Demapper (サブキャリアデマッパ)ではこの逆の操作を行い、任意のパルス幅に対応するようにサブキャリアの周波数間隔を制御する。
LO(局発発振器)により発振された信号によりパンドパス信号に変換され、BPF(帯域濾波器)により周波数帯域を調整し送信信号が生成される。送信信号は単一周波数と同様に無線通信路を経由し、波形選択フィルタを通した後に受信部へ入力される。受信部については送信部の処理を逆手順で順次行われることで実現される。
【0018】
図14は、
図13で示したOFDMによる方法におけるパルス時間波形制御の原理を示す。
図14より、OFDM信号の時間領域波形のパルス幅Tはサブキャリア間隔Δfの逆数で決定されることがわかる。
図13のサブキャリアマッパでは、このΔfを調整することで生成されるOFDM信号のパルス幅を制御し、波形選択フィルタに適したパルス幅のOFDM信号を生成する。これは、複数の周波数が存在する帯域のパルス幅の電波を対象としている。
【0019】
図15に、シミュレーション結果(複数の周波数が存在する帯域)を示す。横軸はE
b/N
0、縦軸はビット誤り率特性(BER特性)をそれぞれ示す。
図15の結果は、前述の
図5や
図12の結果と同様の傾向の結果となっていることを示している。
即ち、
図15(a)は、短いパルス幅の電波吸収するキャパシタ型波形選択フィルタ22の場合である。[X]で示すキャパシタ型波形選択フィルタ22なしのときのBER特性(W/O SUT)に対して、「上黒三角」で示すパルス幅20usは、殆ど劣化していない。一方、「下黒三角」で示すパルス幅1us、「黒丸」で示すパルス幅500ns、および「黒四角」で示すパルス幅10nsは大きく劣化している。即ち、パルス幅が短い電波(1us、500ns、10ns)を吸収し、長いパルス幅の電波(20us)を透過している。
図15(b)は、長いパルス幅の電波吸収するインダクタ型波形選択フィルタ21の場合である。[X]で示すインダクタ型波形選択フィルタ21なしのときのBER特性(W/O SUT)に対して、「黒四角」で示すパルス幅10nsは、殆ど劣化していない。一方、「上黒三角」で示すパルス幅20us、「下黒三角」で示すパルス幅1us、および「黒丸」で示すパルス幅500nsは大きく劣化している。即ち、即ち、パルス幅が短い電波(10ns)を透過し、長いパルス幅の電波(1us、500ns、20us)を吸収している。
図15(c)は、凹形の吸収特性を持つパラレル結合型波形選択フィルタ23の場合である。[X]で示すパラレル結合型波形選択フィルタ23なしのときのBER特性(W/O SUT)に対して、「下黒三角」で示すパルス幅1usおよび「黒丸」で示すパルス幅500nsは、殆ど劣化していないが、「黒四角」で示すパルス幅1nsおよび「上黒三角」で示すパルス幅20ussは大きく劣化している。即ち、パルス幅が小さい電波(10ns)と大きい電波(20us)を吸収し、その間のパルス幅の電波(1us、500ns)を透過している。
図15(d)は、凸形の吸収特性を持つシリーズ結合型波形選択フィルタ24の場合である。[X]で示すシリーズ結合型波形選択フィルタ24なしのときのBER特性(W/O SUT)に対して、[黒三角」で示すパルス幅20usおよび「黒四角」で示すパルス幅0.02usは殆ど劣化していないが、「黒丸」で示すパルス幅2usは大きく劣化している。即ち、パルス幅が小さい電波(10ns)と大きい電波(20us)を透過し、その間のパルス幅の電波(1us、500ns)を吸収している。
以上より、複数の周波数が存在する帯域のパルス幅の電波も、波形選択フィルタ20はパルス幅に応じて選択的に吸収、透過させることができる。
【0020】
(第1実施形態)
図16に、第1実施形態の波形選択フィルタによる多重化方式(送信側)を示す。
送信側通信端末2は、変調器12に続いて、パルス時間波形制御器10を有する。通信端末で入力されたビット情報は、変調器12で変調される。生成された変調信号は、続いてパルス時間波形制御器10に入力され、各送受信者のペアに割り当てられた固有パルス幅の無線電波に変形される時間領域の波形制御が行われる。その後、無線電波は、多重アクセス通信路30へ発信される。
【0021】
図17に、第1実施形態の波形選択フィルタによる多重化方式(受信側)を示す。
受信側通信端末2は、多重アクセス通信路30を経た電波を、波形選択フィルタ20で受信することを想定する。波形選択フィルタ20では、特定のパルス幅の電波を透過し、その他の電波は吸収する。従って、波形選択フィルタ20により送受信者に割り当てられた固有パルス幅の電波のみ透過され、特定のパルス幅の無線電波が選択的にアンテナ6で受信される。その後、受信電波は復調器16に入力されることで復調が行われ、特定の送信者に対する受信ビット情報を得る。なお、
図17では、復調器16が受信部に相当する。
【0022】
図6に、同一周波数帯または複数の周波数が存在する帯域において波形選択フィルタによる多重化を行う通信システム1の構成を模式的に示す。この通信システム1では、N組の送信者および受信者(以下、送受信者)のペアに対して、固有のパルス幅をそれぞれ割り当てることで、同一周波数帯または複数の周波数が存在する帯域の無線チャンネルにおける多重化を実現している。送信者#1と受信者#1のペアを例に挙げれば、送信者#1は、特定の固有パルス幅の電波で受信者#1と通信する。同様に、送信者#1、2、3、…、Nは、ペアを組む受信者#1、2、3、…、Nに、それぞれ異なる特定の固有パルス幅で通信している。
送信側通信端末は、変調器12続いて、パルス時間波形制御器10、次にアンテナ6を有する。通信端末で入力されたビット情報は、変調器12で変調される。生成された変調信号は、続いてパルス時間波形制御器10に入力され、各送受信者のペアに割り当てられた固有パルス幅の無線電波に変形される時間領域の波形制御が行われる。その後、アンテナ6により無線電波は、多重アクセス通信路30へ発信される。
多重アクセス通信路30は、通常の無線通信空間(無線通信路)であり、複数電波によって多重にアクセスされている。
受信側通信端末は、多重アクセス通信路30を経た電波を、まず波形選択フィルタ20を有するアンテナ6で受信することを想定する。波形選択フィルタ20では、特定のパルス幅の電波を透過し、その他の電波は吸収する。従って、波形選択フィルタ20により送受信者に割り当てられた固有パルス幅の電波のみ透過され、特定のパルス幅の無線電波が選択的にアンテナ6で受信される。その後、受信電波は復調器16に入力されることで復調が行われ、特定の送信者に対する受信ビット情報を得る。なお、
図6では、アンテナ6および復調器16が受信部に相当する。
ここで、パルス時間波形制御器10は、パルス変調器12から出力された変調信号のパルス幅を制御する形で構成され、時間領域での波形制御の機能を持つ。パルス時間の定義としては、単一周波数の信号(正弦波信号)の場合では、「正弦波信号の励振時間」を「パルス幅」として定義する。このため、パルス幅の簡易な制御機構で実現可能であり、パルス時間波形制御器はスイッチや簡易なディジタル回路素子によって構成可能である。その一方で、ある周波数帯域幅を持つ信号(複数の正弦波信号の組み合わせで表現される信号)のパルス幅も「ある一定の信号強度以上で信号が存在している持続時間」で定義される。簡易な変調方式ではスイッチや簡易なディジタル回路素子による制御機構で実現できるが、後述のようなOFDM変調ではスイッチなどの簡易な機構では実現が困難である。
以上、第1実施形態によれば、従来の通信システムにおいて、送信側にパルス時間波形制御器10、および送信側に波形選択フィルタ20を設置することにより、同一周波数帯または複数の周波数が存在する帯域においてパルス幅による波形選択による多重化した通信システム1を提供することができる。
【0023】
(第2実施形態)
図18に、波形選択フィルタによる多重化に、周波数分割多元アクセス(FDMA)を導入した方式(送信側)を示す。
送信側通信端末2は、変調器12に続いて周波数変換器14(送信側周波数変換器)、続いてパルス時間波形制御器10を有する。
通信端末2で入力されたビット情報は、変調器12で変調され、続いて周波数変換器14において割り当てられた周波数帯上の信号に変換される。続いて、パルス時間波形制御器10で、割り当てられた特定のパルス幅の電波に変換される。生成された無線電波は、多重アクセス通信路30へ発信される。
ここで、周波数変換器14により、周波数分割多元アクセス(FDMA)による周波数領域での多重化をおこなう。加えてパルス時間波形制御器10により、パルス幅による波形選択による多重化をおこなう。
【0024】
図19に、波形選択フィルタによる多重化にFDMAを導入した方式(受信側)を示す。
受信側通信端末2は、多重アクセス通信路30を経た電波を、まず波形選択フィルタ20で受信する。波形選択フィルタ20では、各送受信ペアに割り当てられた特定のパルス幅の無線電波を透過し、その他の無線電波は吸収される。本部分により、割り当てられたパルス幅の無線電波の選択的な受信を実現している。なお、
図19では、周波数変換器14、復調器16が受信部に相当する。
【0025】
図7に、周波数分割多元アクセス(FDMA)による周波数領域での多重化方式と波形選択による多重化方式を組み合わせた通信システム1の構成例を模式的に示す。本構成例において、N組の送受信者のペアは周波数領域とパルス幅の領域において二次元的な多重化が実現されている。送信者#1と受信者#1のペアを例に挙げれば、送信者#1は、特定の周波数帯と特定のパルス幅が割り当てられ送信者#1と通信する。同様に、送信者#1、2、3、…、Nは、ペアを組む受信者#1、2、3、…、Nに、それぞれの特定の周波数帯とパルス幅が割り当てられ通信を行う。
送信側通信端末2は、変調器12に続いて周波数変換器14(受信側周波数変換器)、続いてパルス時間波形制御器10、次にアンテナ6を有する。
ビット情報は、変調器12で変調され、続いて周波数変換器14において割り当てられた周波数帯上の信号に変換される。続いて、パルス時間波形制御器10で、割り当てられた特定のパルス幅の電波に変換される。生成された無線電波は、アンテナ6により多重アクセス通信路30へ発信される。
ここで、周波数変換器14により、周波数分割多元アクセス(FDMA)による周波数領域での多重化をおこなう。加えてパルス時間波形制御器10により、パルス幅による波形選択による多重化をおこなう。
多重アクセス通信路30は、通常の無線通信空間であり、複数の無線電波が多重的にアクセスするチャネルである。
受信側通信端末は、多重アクセス通信路30を経た電波を、まず波形選択フィルタ20を有するアンテナ6で受信することを想定する。波形選択フィルタ20では、各送受信ペアに割り当てられた特定のパルス幅の無線電波を透過し、その他の無線電波は吸収される。本部分により、割り当てられたパルス幅の無線電波の選択的な受信を実現している。さらに、アンテナ6で受信された信号は、周波数変換器14において特定の周波数領域のみを選択的に受信する変換が行われる。周波数領域とパルス幅領域において選択的に抽出された無線信号のみを復調器16に入力され、特定の送信者に対する受信ビット情報が出力される。なお、
図7では、アンテナ6、周波数変換器14、復調器16が受信部に相当する。
以上、第2実施形態によれば、従来のFDMA方式(周波数分割多元アクセス方式)の通信システムにおいて、送信側にパルス時間波形制御器10、および送信側に波形選択フィルタ20を設置することにより、同一周波数帯または複数の周波数が存在する帯域においてパルス幅による波形選択による多重化した通信システム1を提供することができる。
【0026】
(第3実施形態)
図20に、波形選択フィルタによる多重化にTDMAを導入した方式(送信側)の構成例を示す。
送信側通信端末2は、変調器12に続いてアクセス時間制御器17(送信側アクセス時間制御器、続いてパルス時間波形制御器10を有する。
通信端末2で入力されたビット情報は、変調器12で変調され、続いてアクセス時間制御器17において割り当てられた周波数帯上の信号に変換される。続いて、パルス時間波形制御器10で、割り当てられた特定のパルス幅の電波に変換される。生成された無線電波は、多重アクセス通信路30へ発信される。
ここで、アクセス時間制御器17により、時間分割多元アクセス(TDMA)によるアクセス時間での多重化を行う。加えてパルス時間波形制御器10により、パルス幅による波形選択による多重化も実現される。
【0027】
図21に、波形選択フィルタによる多重化にTDMAを導入した方式(受信側)の構成例を示す。
受信側通信端末2は、多重アクセス通信路30を経た電波を、まず波形選択フィルタ20で受信する。波形選択フィルタ20では、各送受信ペアに割り当てられた特定のパルス幅の無線電波を透過し、その他の無線電波は吸収される。本部分により、割り当てられたパルス幅の無線電波の選択的な受信を実現している。
続いて、アクセス時間制御器17(受信側アクセス時間制御器)により各ユーザに対応した特定のアクセス時間の信号の抽出を行う。
続いて、復調器16では受信信号の復調が行われ受信ビット系列が出力される。なお、
図21では、アクセス時間制御器17、復調器16が受信部に相当する。
【0028】
(第4実施形態)
図22に、波形選択フィルタによる多重化にCDMA(符号分割多元接続方式)を導入した方式(送信側)の構成例を示す。
送信側通信端末2は、変調器12に続いて符号拡散器18、続いてパルス時間波形制御器10を有する。
通信端末2で入力されたビット情報は、変調器12で変調され、続いて符号拡散器18において各ユーザに対応した拡散符号を用いた信号拡散が行われる。続いて、パルス時間波形制御器10で、割り当てられた特定のパルス幅の電波に変換される。生成された無線電波は、多重アクセス通信路30へ発信される。
ここで、符号拡散器18により、符号分割多元アクセス(CDMA)による拡散符号領域での多重化をおこなう。加えてパルス時間波形制御器10により、パルス幅による波形選択による多重化をおこなう。
【0029】
図23に、波形選択フィルタによる多重化にCDMAを導入した方式(送信側、別形態)の構成例を示す。なお、
図23では直接拡散方式(DSSS方式)を例としている。
送信側通信端末2は、変調器12に続いて符号拡散器18を有する。更に、これに並行にCDMA拡散符号生成器18−1に続いてパルス時間波形制御器10(チップレート調整器)に続いて符号拡散器18を有する。生成器18−1は各ユーザに対応した拡散符号を出力し、この拡散符号を10に通すことで拡散信号が生成される。パルス時間波形制御器10では拡散信号のチップレートを調整することで波形選択フィルタにより選択的に透過・吸収される信号となるように送信信号のパルス幅を制御する。すなわち、1チップ幅(チップレートの逆数)をパルス幅と見なし、このチップ幅を制御することで波形選択性の効果を得る。
符号拡散器18において生成された無線電波は、多重アクセス通信路30へ発信される。
【0030】
図24に、波形選択性による多重化にCDMAを導入した方式(受信側)を示す。
受信側通信端末2は、多重アクセス通信路30を経た電波を、まず波形選択フィルタ20で受信する。波形選択フィルタ20では、各送受信ペアに割り当てられた特定のパルス幅の無線電波を透過し、その他の無線電波は吸収される。本部分により、割り当てられたパルス幅の無線電波の選択的な受信を実現している。
続いて、符号逆拡散器19により各ユーザに対応した拡散信号を用いて逆拡散を行い、それぞれのユーザの受信信号の抽出を行う。
続いて、復調器16では受信信号を復調し、受信ビット系列を出力する。なお、
図24では、符号逆拡散器19、復調器16が受信部に相当する。
【0031】
(第5実施形態)
図8に、通信端末2に、パルス時間波形制御器10および波形選択フィルタ20を装着した例を示す。通信端末2は、アンテナ6、通信端末内基板2aを有する。パルス時間波形制御器10は、構成部品が少ないので、通信端末2内の基板2aの一部に、実装されている。また、アンテナ6の外側に、波形選択フィルタ20を装着する。この通信端末2は、上述の受信側通信端末および送信側通信端末として使用可能である。ここで、波形選択フィルタ20は透過型を使用されている。
一方の送信側の通信端末2では、通信端末内基板2aに実装されている変調器12、周波数変換器14で生成した連続した信号を、パルス時間波形制御器10にて、特定の固有パルス幅の信号となるように時間領域での波形制御を行い、通信端末内配線2bを介してアンテナ6に電気信号として伝える。この電気信号が、アンテナ6にて電波に形態を変えて多重アクセス通信路30(空間)へ送信される。他方の受信側の通信端末2では、まず波形選択フィルタ20にて、特定のパルス幅の電波を透過し、その他の電波は吸収する。続いて、アンテナ6は、特定のパルス幅の電波のみを選択的に受信して、通信端末内基板2aに実装されている、周波数変換器14、復調器16へ受信した信号を伝える。
ここで、通信端末2に内蔵したアンテナ6に対して、波形選択フィルタ20を外側に取り付けた例で示したが、通信端末2に内装しても良い。すなわち、波形選択フィルタ20は、アンテナ6とは、所謂電磁波を介して接続して通信機能として一体に構成される。よって、パルス時間波形制御器10および波形選択フィルタ20は、アンテナ6に対して直接機械的に締結している必要はない。パルス時間波形制御器10および波形選択フィルタ20は、アンテナ6は、通信端末2の外郭部等に固定すれば良いからである。
第3実施形態によれば、従来の通信端末のアンテナ6に、波形選択フィルタ20を所謂電磁波を介して通信機能として一体に構成することにより、同一周波数帯または複数の周波数が存在する帯域においてパルス幅による波形選択による多重化した通信端末2を提供することができる。
【0032】
図25に、波形選択フィルタ20による多重化の効果を通信路容量の観点で示す。横軸はSNR(信号対雑音電力比)縦軸は各ユーザの通信路容量(通信速度の理論的な限界値)をそれぞれ示す。なお、比較方式として、
図25はFDMAのみによる従来方式の結果(「黒ひし形」で表示)も合わせて示している。波形選択フィルタ20のパーセンテージの記載は波形選択フィルタによる不要電波の信号残存率を示しており、例えば「1%」は排除する(不要な)パルス幅の信号の減衰率が99%であり、残りの1%の電波が透過することを示す。ここで、ユーザ数は100で設定されている。SNRが増加すると(通信状態が良好になると)、通信路容量が増加しているが、どのSNRに設定した場合でも波形選択フィルタによる多重化により各ユーザの通信路容量が増加することが示されている。さらには、不要電波の吸収率は各ユーザの通信路容量へ大きな影響を与え、つまり、吸収しきれなかった不要電波は必要電波へ干渉を与え通信路容量の悪化を招いている。したがって、不要電波を効率的に吸収できているので格段に通信路容量が増加できている。例えば、SNRが20dBの場合では約10倍の通信路容量(周波数利用効率)の増加が確認された。即ち、通信路容量は、「黒ひし形」の6Mbits/sが、信号吸収率0.1%時の「黒四角」では57.56Mbits/sに増加している。
【0033】
図26に、波形選択フィルタ20による多重化の効果をユーザ数の観点で示す。全ユーザ信号の周波数帯域は固定としているため、収容するユーザ数が増加すると、各ユーザの通信路容量は減少している。その一方で、どのようなユーザ数に設定した場合においても波形選択フィルタによる多重化を行うことで各ユーザの通信路容量は増加することが示されている。また、各ユーザに30Mbpsの通信路容量を確保しようとした場合、従来のFDMA方式(「黒ひし形」で表示)では10ユーザしか収容できないのに対し、波形選択フィルタによる方式(信号吸収率0.1%時の「黒四角」または1%時の「黒丸」で表示)では100ユーザまで収容ユーザ数を増加可能であることが示唆されている。
【0034】
図9に、波形選択フィルタ20による多元アクセス方式の想定利用例(無線LANネットワークの例)を示す。
図9(a)は従来の例を示す。3人のユーザごとに異なる3つの周波数f1、f2、f3(3チャネル)を割り当てることで干渉を回避している。尚、同一周波数(同一チャネル)では干渉が生じる。即ち、ユーザの数の周波数が必要である。例えば、周波数f2を使用しているユーザは、PC400を使い、中継器800を使用している。
図9(b)は、実施形態を示す。3つ周波数毎に、3つの異なるパルス幅を割当ることにより、同一周波数(チャネル)での干渉回避が可能となる。3つの周波数と3つのパルス幅を用いることにより、9人のユーザが使用できることを示している。例えば、周波数f2を使用する場合、3種類の長さのパルス幅を使用することにより、3人のユーザがPC4a、PC4b、およびPC4cを使用することができる。この場合、PC4a、PC4b、およびPC4c、および中継器8には、それぞれパルス時間波形制御器10および波形選択フィルタ20が装着されている。
従って、パルス幅を用いることにより、周波数利用効率が飛躍的に向上する。
【0035】
以上、実施形態により、従来の通信システムにおける周波数、時間、符号の3軸に、パルス幅選択性の概念(波形軸)を導入し、同一周波数帯または複数の周波数が存在する帯域においてパルス幅による波形選択を行う波形選択フィルタ20を用いた多重化した通信システム1および通信端末2(例えば携帯端末)を提供する。
発明1は、電波の励振時間であるパルス幅を特定のパルス幅に制御して電波を送信する送信側通信端末2と、送信側通信端末2が送信した電波を受信する受信側通信端末2と、を備え、受信側通信端末2は、波形選択フィルタ20および受信部を有し、波形選択フィルタ20は、特定のパルス幅の電波を選択的に透過または反射し、受信部は、波形選択フィルタ20が透過した特定のパルス幅の電波を受信する、通信システムである。
発明1によれば、電波の励振時間であるパルス幅を特定のパルス幅に制御して電波を送信する送信側通信端末2と、送信側通信端末2が送信した電波を受信する受信側通信端末2と、を備え、受信側通信端末2は、波形選択フィルタ20および受信部を有し、波形選択フィルタ20は、特定のパルス幅の電波を選択的に透過または反射し、受信部は、波形選択フィルタ20が透過した特定のパルス幅の電波を受信する多重化した通信システム1を提供することができる。即ち、受信側で特定のパルス幅を選択的に受信することを特徴する。
発明2は、波形選択フィルタ20は、導電性部材25と、導電性部材25の2箇所を繋ぐ整流回路と、RL回路およびRC回路のうち一方または両方を備え、RL回路は、インダクティブな成分を持つ回路素子および抵抗成分を持つ回路素子を有し、RC回路は、キャパシティブな成分を持つ回路素子および抵抗成分を持つ回路素子を有し、波形選択フィルタ20は、電波の励振時間であるパルス幅によって電波の吸収率が異なることを特徴とする。
発明2によれば、波形選択フィルタ20の具体的な構成を特定する。
発明3は、送信側通信端末2は、電波のパルス幅を特定のパルス幅に制御するパルス時間波形制御器10と、周波数領域での多重化を行う送信側周波数変換器14と、を有し、送信側通信端末2によって送信される電波は、パルス時間波形制御器10によって特定のパルス幅に制御され、かつ、送信側周波数変換器14によって周波数領域での多重化が行われており、受信側通信端末2は、波形選択フィルタ20が透過した特定のパルス幅の電波のうち、特定の周波数領域の信号を選択的に受信する受信側周波数変換器14を有することを特徴とする。
発明3によれば、周波数分割であるFDMA方式の通信システムにおいて、送信側に周波数変換器14およびパルス時間波形制御器10、受信側に波形選択フィルタ20、周波数変換器14を設置することにより、パルス幅による波形選択による多重化した通信システムを提供することができる。
発明4は、送信側通信端末2は、電波のパルス幅を特定のパルス幅に制御するパルス時間波形制御器10と、アクセス時間での多重化を行う送信側アクセス時間制御器17と、を有し、送信側通信端末2によって送信される電波は、パルス時間波形制御器10によって特定のパルス幅に制御され、かつ、送信側アクセス時間制御器17によってアクセス時間での多重化が行われており、受信側通信端末2は、波形選択フィルタ20が透過した特定のパルス幅の電波のうち、特定のアクセス時間の信号を選択的に受信する受信側アクセス時間制御器17を有することを特徴とする。
発明4によれば、時間分割であるTDMA方式の通信システムにおいて、送信側にアクセス時間制御器17およびパルス時間波形制御器10、受信側に波形選択フィルタ20、アクセス時間制御器17を設置することにより、パルス幅による波形選択による多重化した通信システムを提供することができる。
発明5は、送信側通信端末2は、電波のパルス幅を特定のパルス幅に制御するパルス時間波形制御器10と、拡散符号領域での多重化を行う符号拡散器18と、を有し、送信側通信端末2によって送信される電波は、パルス時間波形制御器10によって特定のパルス幅に制御され、かつ、符号拡散器18によって拡散符号領域での多重化が行われており、受信側通信端末2は、波形選択フィルタ20が透過した特定のパルス幅の電波のうち、特定の拡散符号で信号拡散された信号を選択的に受信する符号逆拡散器19を有することを特徴とする。
発明5によれば、符号分割であるCDMA方式の通信システムにおいて、送信側に、符号拡散器18およびパルス時間波形制御器10、受信側に波形選択フィルタ20、符号逆拡散19を設置することにより、パルス幅による波形選択による多重化した通信システムを提供することができる。
発明6は、電波の励振時間であるパルス幅を特定のパルス幅に制御して電波を送信する送信側通信端末2から、電波を受信する受信側通信端末2であって、波形選択フィルタ20および受信部を有し、波形選択フィルタ20は、特定のパルス幅の電波を選択的に透過し、受信部は、波形選択フィルタ20が透過した特定のパルス幅の電波を受信する、受信側通信端末2である。
発明6によれば、波形選択フィルタ20を搭載した受信側通信端末2を提供することができる。
発明7は、送信する電波の励振時間であるパルス幅を制御するパルス時間波形制御器10を備えたことを特徴とする。
発明7によれば、送信機能も受信機能も有する受信側通信端末2を提供することができる。
発明8は、電波の励振時間であるパルス幅が特定のパルス幅となっている電波を選択的に受信する受信側通信端末2に電波を送信する送信側通信端末2であって、電波のパルス幅を特定のパルス幅に制御して電波を送信する送信側通信端末2である。
発明8によれば、電波のパルス幅を特定のパルス幅に制御して電波を送信する送信側通信端末2を提供することができる。
以上、本発明の通信システム1および通信端末2により、これまでの通信理論の限界を超える周波数利用効率の実現し、枯渇しつつある無線周波数資源の飛躍的拡張をおこなうことができる。