(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6644512
(24)【登録日】2020年1月10日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20200130BHJP
C22C 38/28 20060101ALI20200130BHJP
C22C 38/30 20060101ALI20200130BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/28
C22C38/30
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-199627(P2015-199627)
(22)【出願日】2015年10月7日
(65)【公開番号】特開2017-71829(P2017-71829A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】妙瀬田 真理
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−214348(JP,A)
【文献】
特開昭61−117251(JP,A)
【文献】
特開平04−072040(JP,A)
【文献】
特開2016−079437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 6/00、 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の析出量が0.20体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Cu:0.01〜2.00%およびCo:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の析出量が0.20体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、V:0.01〜1.00%、Ta:0.01〜1.00%およびZr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の析出量が0.20体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Cu:0.01〜2.00%およびCo:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種を含有し、さらに、V:0.01〜1.00、Ta:0.01〜1.00%、Zr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の析出量が0.20体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の析出量が0.20体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項6】
質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Cu:0.01〜2.00%、Co:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種を含有し、さらに、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の析出量が0.20体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項7】
質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらにV:0.01〜1.00%、Ta:0.01〜1.00%、Zr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上を含有し、さらにCa:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の析出量が0.20体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【請求項8】
質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Cu:0.01〜2.00%、Co:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種を含有し、さらに、V:0.01〜1.00%、Ta:0.01〜1.00%、Zr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上を含有し、さらにCa:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の析出量が0.20体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レキュペレータやあるいは他の熱収支を高める熱交換器用などの高温かつ腐食性燃焼ガス環境下において、優れた耐酸化性と耐サルファアタック性を有するとともに高温クリープ強度に優れたフェライト系耐熱鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレキュペレータにおいて、その鋼材の温度は最高で約750℃位となるので、DIN規格の1.4762などの耐熱鋼が使用されている。ところで、レキュペレータの熱効率をより一層に向上させるために、レキュペレータの使用環境温度の高温化が求められている。使用環境温度の高温化に伴い鋼材の温度も800℃以上に高温化するが、このような高温環境下では酸化や腐食による鋼材の減肉量の増加や、鋼材のクリープ強度が低下する問題がある。そこで、レキュペレータ管として800℃以上の高温で使用される鋼材としては、従来の鋼材よりも一層に耐高温酸化性や耐サルファアタック性、高温クリープ強度を向上させた耐熱鋼が必要である。
【0003】
従来の技術として、これらの耐熱鋼において、600℃以上の温度域における高温クリープ強度を大幅に改善し、靱性、加工性および溶接性においても既存の低合金鋼と同等以上の性能を有し、オーステナイトステンレス鋼に代替できる新しいCrフェライト鋼が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この提案のCrフェライト鋼は、650℃を超える温度域におけるクリープ強度について考慮されていない上に、化学成分にレアメタルを多種使用しており、原料の安定供給性に欠くものである。
【0004】
また、Cr量が比較的低いフェライト系ステンレス鋼で、700〜950℃における高温酸化特性およびスケール密着性に優れ、自動車のエキゾーストマニホールドや火力発電システムの高温排ガス管路部の材料が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この提案では鋼材のクリープ強度について考慮されていない。
【0005】
さらに、耐食性、高温強度に優れ、かつ従来のものに比して耐高温酸化性を格段に上昇させたフェライト系ステンレス鋼が特許されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、この特許は、クリープ強度について全く考慮されていない。ところで、MoやWは耐サルファアタック性を低下させる元素であると知られており、この特許では化学成分にMoおよびWを合わせて4.3%以上含有させていることから、耐サルファアタック性については充分ではく、またMoやWは高価な合金元素であることからコストも高くなる。
【0006】
さらに、自動車の排気系部材、加熱炉、ボイラー、タービン、熱交換器、原子力設備、化学工業装置、あるいは燃料電池などの各種の耐熱部品に好適な耐酸化性に優れた耐熱材料で、特にNiを含まず、かつ低Alの成分組成を有し、製造性が良好で、高温で高強度でかつ耐酸化性に優れた耐熱材料が特許されている(例えば、特許文献4参照。)。しかし、この耐熱材料は、800℃を超える温度域での耐酸化性や高温クリープ強度について考慮されていない。
【0007】
さらに、800℃以上の領域における高温クリープ強度を改善し、耐高温酸化性における既存のフェライト系ステンレス鋼と同等以上の性能を有し、特に復熱装置であるレキュペレータ用の熱交換器の熱効率向上および超寿命化への要求を満足するフェライト系ステンレス鋼が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。しかし、この提案のフェライト系ステンレス鋼では、耐サルファアタック性については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−061342号公報
【特許文献2】特開平11−256287号公報
【特許文献3】特許第4206836号公報
【特許文献4】特許第4259151号公報
【特許文献5】特開2014−214348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高温かつ腐食性燃焼ガス環境下において、優れた耐酸化性と耐サルファアタック性を有し、高温クリープ強度に優れ、また、経済的に優れたフェライトステンレス鋼からなる鋼材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、第1の手段では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
【0011】
第2の手段では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Cu:0.01〜2.00%およびCo:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
【0012】
第3の手段では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、V:0.01〜1.00%、Ta:0.01〜1.00%およびZr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
【0013】
第4の手段では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Cu:0.01〜2.00%およびCo:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種を含有し、さらに、V:0.01〜1.00、Ta:0.01〜1.00%、Zr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
【0014】
第5の手段では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
【0015】
第6の手段では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Cu:0.01〜2.00%、Co:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種を含有し、さらに、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
【0016】
第7の手段では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらにV:0.01〜1.00%、Ta:0.01〜1.00%、Zr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上を含有し、さらにCa:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
【0017】
第8の手段では、質量%で、C:0.040%以下、Si:0.40〜1.20%、Mn:0.01〜0.50%、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Cr:22.50〜27.50%、Al:0.60〜1.40%、Ti:0.10〜0.90%、N:0.0500%以下、Nb:0.10〜0.90%を含有し、さらに、Cu:0.01〜2.00%、Co:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種を含有し、さらに、V:0.01〜1.00%、Ta:0.01〜1.00%、Zr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上を含有し、さらにCa:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種を含有し、これらの化学成分において、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%であり、残部Feおよび不可避不純物からなり、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上であることを特徴とする高温腐食性および高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。
【発明の効果】
【0018】
上記の手段における本発明のフェライト系ステンレス鋼は、従来の鋼材に比して、優れた耐酸化性と耐サルファアタック性を有するとともに高温クリープ強度に優れるため、レキュペレータやあるいは他の熱収支を高める熱交換器などの鋼材寿命を大幅に増大できる。また、レキュペレータ使用温度の高温化が可能となり、レキュペレータの熱効率の向上に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について説明するに先立って、初めに、本発明におけるフェライトステンレス鋼の化学成分の含有量の限定理由を、各成分ごとに順次説明する。なお、含有量における%は質量%である。
【0020】
C:0.040%以下
Cは、高温でのクリープ強度を向上させる元素であるが、その含有量が0.040%より多い場合には、鋼材の耐酸化性および靱性が低下する。したがって、本成分系においてはCは0.040%以下で低いことが望ましい。そこで、Cは0.040%以下とする。
【0021】
Si:0.40〜1.20%
Siは、製鋼の際に脱酸剤として用いられるとともに、製造および溶接の差の溶鋼の流動性を高め、さらに耐酸化性を高めるとともにクリープ強度を向上させるLaves相の形成に必要な元素で、0.40%以上が必要である。しかし、Si含有量が多い場合、硬さが上昇して靱性の低下を招くので、1.20%以下とする。そこで、Siは0.40〜1.20%とする。
【0022】
Mn:0.01〜0.50%
Mnは、Siと同様に製鋼の際に脱酸剤として用いられる元素であり、このためには0.01%以上が必要である。しかし、Mnの含有量が多い場合、オーステナイト相が形成されて異常酸化の起点を招くとともに、オーステナイト相は熱膨張係数がフェライト相に比較して大きいため、寸法変化が生じる恐れがあるので、0.50%以下とする。そこで、Mnは0.01〜0.50%とする。
【0023】
P:0.040%以下
Pは、鋼中に含有される不純物元素であり、多く含有されると熱間加工性が低下する。そこで、Pは0.040%以下とする。
【0024】
S:0.030%以下
Sは、鋼中に含有される不純物元素であり、多く含有されると熱間加工性が低下する。そこで、Sは0.030%以下とする。
【0025】
Cr:22.50〜27.50%
Crは、フェライト系ステンレス鋼の基本組成である。ところで、Crは耐サルファアタック性すなわち耐高温硫化腐食を確保するためには22.50%以上を含有することが必要である。しかし、Crは27.50%より多いときは、鋼の靱性が低下する。そこで、Crは22.50〜27.50%とする。
【0026】
Al:0.60〜1.40%
Alは、脱酸能の高い元素であり、SiおよびMn同様に製鋼の際に脱酸剤として用いられるとともに、高温酸化性環境下で表面に緻密な酸化被膜を形成することにより、耐酸化性を向上させる元素である。Alは酸化被膜を形成させ、十分な耐酸化性向上の効果を得るために0.60%以上が必要である。しかし、Alは1.40%より過剰になると、鋼の靱性が低下するため、Alの上限を1.40%とした。そこで、Alは0.60〜1.40%とする。
【0027】
Ti:0.10〜0.90%
Tiは、固溶強化によりクリープ強度を向上させる元素であるが、Tiと後記するNbの複合添加によるLaves相の形成により、クリープ強度を向上させる効果はより大きくなる。Tiの単独添加のみではLaves相の析出は困難であり、十分な高温強度向上の効果が得られないため、Tiと後記するNbとの複合添加が必要である。しかし、TiはNbとともに強力な炭窒化物の形成元素であるため、これらの元素が炭窒化物の形成を助長すると、固溶強化およびLaves相形成に関与するTi量が減少し、クリープ強度向上の効果が得られない。そこでTiは0.10%以上とする。しかし、Tiの添加量が多くなって0.90%を超える場合、炭窒化物の量が多くなり、マトリックス中の固溶強化に寄与するCおよびNの量が減ってクリープ強度の低下が生じるか、あるいは多量の炭窒化物が異常酸化の起点となり、耐酸化性が劣化するため、Tiの上限を0.90%とした。そこで、Tiは0.10〜0.90%とする。
【0028】
Nb:0.10〜0.90%
Nbは、前記したTiと同様に固溶強化によりクリープ強度を向上させる元素で、Nbと前記したTiの複合添加によるLaves相の形成により、クリープ強度を向上させる効果はより大きくなる。Nbの単独添加のみではLaves相の析出は困難であり、十分なクリープ強度向上の効果が得られないため、Nbと前記したTiとの複合添加が必要である。しかし、NbはTiとともに強力な炭窒化物の形成元素であるため、これらの元素が炭窒化物の形成を助長すると、固溶強化およびLaves相形成に関与するNb量が減少し、クリープ強度向上の効果が得られない。そこで、Nbは0.10%以上とする。しかし、Nbの添加量が多くなって0.90%を超える場合、炭窒化物の量が多くなり、マトリックス中の固溶強化に寄与するCおよびNの量が減ってクリープ強度の低下が生じるか、あるいは多量の炭窒化物が異常酸化の起点となり、耐酸化性が劣化するため、Nbの上限を0.90%とした。そこで、Nbは0.10〜0.90%とする。
【0029】
N:0.0500%以下
Nは、高温でのクリープ強度を向上させる元素であるが、その含有量が0.0500%より多い場合には、鋼材の耐酸化性および靱性が低下する。したがって、本成分系においてはNは0.0500%以下と低いことが望ましい。そこで、Nは0.0500%以下とする。
【0030】
Cu:0.01〜2.00%またはCo:0.01〜2.00%のいずれか1種または2種
CuまたはCoは、それぞれが鋼の高温引張強さを改善する元素である。このためにはCuまたはCoのそれぞれは0.01%以上が必要である。しかし、CuまたはCoのそれぞれが2.00%より多いときは鋼の熱間加工性が低下する。そこで、CuまたはCoはそれぞれ0.01〜2.00%とする。ただし、CuまたはCoは、それぞれの範囲で1種または2種以上を含有するものとする。
【0031】
V:0.01〜1.00%、Ta:0.01〜1.00%、Zr:0.01〜1.00%のいずれか1種または2種以上
V、TaまたはZrは、それぞれが鋼の高温引張強さを改善する元素である。このためにはV、TaまたはZrはそれぞれ0.01%以上であることが必要である。しかし、V、TaまたはZrのそれぞれが1.00%より多いときは鋼の熱間加工性が低下する。そこで、V、TaまたはZrのそれぞれは0.01〜1.00%とする。ただし、V、TaまたはZrは、それぞれの範囲で1種または2種以上を含有するものとする。
【0032】
Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下のいずれか1種または2種
CaまたはMgのそれぞれは、製鋼の際に脱酸剤として用いられるとともに、熱間加工性を改善する元素である。しかし、CaまたはMgのそれぞれは0.01%より多いと熱間加工性の低下を招くので、それぞれは0.01%以下とする。そこで、Caは0.01%以下、およびMgは0.01%以下のいずれか1種または2種を含有するものとする。
【0033】
(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14):0.004〜0.025%
クリープ強度を向上させるためには(Fe、Cr、Si)
2(Nb、Ti)からなる析出強化相であるLaves相の形成が有効であるが、Laves相の形成元素であるNbおよびTiはいずれも強力な炭窒化物形成元素であるため、CおよびNが多量に含有される場合には炭窒化物の形成が促進され、Laves相形成に関与するTiおよびNb量が減少することから、Laves相量が低減し、クリープ強度を向上させるための十分な効果が得られない。そこで(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14)は0.004以上とする必要がある。しかし、TiおよびNbの含有量が多くなると、Laves相量が多くなりクリープ強度の向上に対しては望ましいが、Laves相形成元素であるCrは基地成分における耐酸化性およびフェライト安定化元素であるため、Laves相量が多くなることはすなわち基地のCr含有量が低下し、基地の耐酸化性の低下を招く。そこで、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14)は0.025%以下とする。したがって、本成分系においては、(Ti/48+Nb/93)−(C/12+N/14)は0.004〜0.025%とする。
【0034】
850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)以上
Laves相がクリープ中に析出することで転位の運動を阻害し、回復や再結晶を妨げることでクリープ強度が向上する。しかしながら、850℃、9MPaでクリープ破断試験を実施
後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により算出した際のLaves相の
析出量が0.20
体積率(%)未満の場合には、優れたクリープ強度は得られないため、850℃、9MPaでクリープ破断試験実施した際の破断までのLaves相の
析出量は0.20
体積率(%)以上とする。
【0035】
ここで、本発明の実施するための形態について、以下に説明する。本発明では、NbとTiの複合添加によって(Fe、Cr、Si)
2(Nb、Ti)で表される析出強化相のLaves相を鋼材温度(800℃以上)で析出させることで、クリープ強度を向上させた鋼であり、さらに、Cr量を適正化することで、耐サルファアタック性を、C、Si、Mn、Cr、Nb、TiおよびN量を適正化することで耐酸化性を向上させた鋼である。
【0036】
そこで、実施例として、100kg真空誘導炉により、表1に示す化学成分からなる請求項1〜請求項8(すなわち第1の手段〜第8の手段)に係る発明鋼のNo.1〜25および表2に示す化学成分からなる比較鋼のNo.26〜56を溶解し、1100℃に加熱して、径15mmに鍛伸し、これらを1100℃で15分間加熱した後に水冷する熱処理を施して、評価試験に供した。なお、表2において、比較鋼における数値の下部に付した下線はその数値が請求項に係る発明の範囲外であることを示す。
【0039】
次いで、先ず、耐高温酸化性の試験として、上記で作製した表1および表2の化学成分を有する鍛伸熱処理材から径12mm、長さ21mmの試験片を切り出し、試験片をカンタル炉を用いて大気雰囲気で1100℃に100時間保持し、保持後の酸化による酸化増量(mg/cm
2)である質量増分を測定し、表3に発明鋼および表4に比較鋼を示した。
【0040】
さらに、高温クリープ強度の試験として、上記で作製した表1および表2の化学成分を有する鍛伸熱処理材から、JIS Z2271に基づく、平行部の径6mmのクリープ試験片を形成し、これを用いて、850℃にて9.0MPaの引張応力を負荷させ、破断するまでの時間を測定して表3に発明鋼および表4に比較鋼を示した。
【0041】
さらに、Laves相
析出量として、上記の高温クリープ強度試験における破断後の試験片を電子顕微鏡で写真に撮影して画像解析により、Laves相の
析出量を体積率(%)として算出して、その値を表3に発明鋼および表4に比較鋼を示した。
【0042】
また、さらに、耐サルファアタック性試験として、上記で作製した表1および表2の化学成分を有する鍛伸熱処理材から径12mm、長さ21mmの試験片を切り出し、試験片を750℃の溶融塩(90%Na
2SO
4+10%NaCl)に20時間浸漬し、浸漬後の質量の減少量を測定して、腐蝕減量(mg/cm
2)として、表3に発明鋼および表4に比較鋼を示した。
【0043】
さらに、靭性評価として、上記で作製した表1および表2の化学成分を有する鍛伸熱処理材から角10mm、長さ55mmの2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を切り出し、試験片を150℃の油漕に30分保持した後に直ちにシャルピー衝撃試験を実施し衝撃値(J/cm
2)を測定し、表3に発明鋼および表4に比較鋼を示した。
【0044】
さらに、熱間加工性評価として、上記で作製した表1および表2の化学成分を有する鍛伸熱処理材から径8mm、長さ100mmの棒状試験片を切り出し、グリーブル試験機により試験温度1100℃、ストローク速度50mm/secでの熱間引張試験を行い、絞り(%)を測定し、表3に発明鋼および表4に比較鋼を示した。
【0047】
表3および表4において、上記の耐高温酸化性、高温クリープ強度、Laves相
析出量、耐サルファアタック性の各試験の評価を、各試験項目における評価の欄および総合評価の欄に、○および×で示した。
【0048】
耐高温酸化性は、酸化増量が1cm
2当り、5.00mg以下のものを○とし、5.00mgより多いものを×とした。
【0049】
高温クリープ強度は、破断時間が200時間以上のものを○とし、200時間未満のものを×とした。
【0050】
Laves相
析出量は、体積率が0.20
体積率(%)以上のものを○とし、0.20
体積率(%)未満のものを×とした。なお、表4の比較鋼におけるNo.26、No.30、No.31およびNo.34は、体積率
(容量%)が0.00
体積率(%)であるが、これらは小数点三位以下を4捨5入した結果を示している。したがって、これらは体積率が全く0ではない。
【0051】
耐サルファアタック性は、腐食減量が1cm
2当り50.0mg以下のものを○とし、50.0mgより多いものを×とした。
【0052】
靭性は、衝撃値が150J/cm
2以上のものを○とし、150J/cm
2未満のものを×とした。
【0053】
熱間加工性は、絞りが90%以上のものを○とし、90%未満のものを×とした。
【0054】
総合評価は、耐高温酸化性、高温クリープ強度、Laves相
析出量、耐サルファアタック性、靭性および熱間加工性の個別評価のすべてが○と評価されたものを○と評価し、個別評価のいずれかの一つでも×と評価されたものを×として評価した。表3から明らかなように、本願の請求項1〜8に係る発明鋼の表3のNo.1〜25の全ての個別評価は○であり、総合評価は○であった。したがって、これらのものは耐高温酸化性および耐サルファアタック性すなわち高温腐食性に優れ、かつ、高温クリープ強度に優れたフェライト系ステンレス鋼である。これに対して、本願発明の比較鋼である表4のNo.26〜36は個別評価のいずれかの評価に×が1個〜4個あるので、総合評価は×であり、したがって、これらのものは、耐高温酸化性および耐サルファアタック性すなわち高温腐食性と高温クリープ強度のいずれかあるいは全てにおいて劣るフェライト系ステンレス鋼である。また、本願発明の比較鋼である表4のNo.37〜56は耐高温酸化性、高温クリープ強度、Laves相
析出量、および耐サルファアタック性の個別評価は○であるが、Si、Cr、Al、Cu、Co、V、Ta、Zr、Ca、Mgの元素のうちの1つまたは複数の値が請求項に規定するSi、Cr、Al、Cu、Co、V、Ta、Zr、Ca、Mgの上限値を超えているので、鋼の靱性、熱間加工性のいずれかあるいは複数の評価が×となり、総合評価が×となったため発明外とする。