特許第6645652号(P6645652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日本無線株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6645652-MEMS素子の製造方法 図000002
  • 特許6645652-MEMS素子の製造方法 図000003
  • 特許6645652-MEMS素子の製造方法 図000004
  • 特許6645652-MEMS素子の製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6645652
(24)【登録日】2020年1月14日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】MEMS素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 19/04 20060101AFI20200203BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20200203BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20200203BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20200203BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   H04R19/04
   B81B3/00
   B81C1/00
   H04R31/00 C
   H01L29/84 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-26930(P2016-26930)
(22)【出願日】2016年2月16日
(65)【公開番号】特開2017-147545(P2017-147545A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晃
【審査官】 渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−217162(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0251285(US,A1)
【文献】 特開平02−039458(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/157122(WO,A1)
【文献】 特開2000−100926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00− 7/04
B81C 1/00−99/00
H01L 29/84
H04R 11/00−11/06
H04R 11/14
H04R 13/00−15/02
H04R 19/00−19/04
H04R 21/00−21/02
H04R 23/00−23/02
H04R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックチャンバーを備えた基板上に、第1のスペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置したMEMS素子の製造方法において、
前記基板上に第2のスペーサーを構成する絶縁膜を、前記基板を熱酸化した後、該基板に不純物をイオン注入し熱酸化することで、前記第2のスペーサー形成時のエッチングレートが、前記基板に接触する側の前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜のエッチングレートが後工程で形成する前記可動電極に接触する側の前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜のエッチングレートより速くなる膜となるように形成する工程と、
前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜上に、前記可動電極を形成する工程と、
前記可動電極上に、前記第1のスペーサーを構成する絶縁膜を形成する工程と、
前記第1のスペーサーを構成する絶縁膜上に、前記固定電極を形成する工程と、
前記固定電極に貫通孔を形成する工程と、
前記基板の一部を除去し、前記バックチャンバーを形成する工程と、
前記貫通孔から前記第1のスペーサーを構成する絶縁膜の一部をエッチング除去し、前記第1のスペーサーを形成し、前記固定電極と前記可動電極の間にエアーギャップを形成するとともに、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜の一部をエッチング除去し、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜と前記基板の接触部は、前記バックチャンバーより前記可動電極の中心方向と反対方向に後退し、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜と前記可動電極の接触部は、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜と前記基板の接触部より前記可動電極の中心方向に配置した構造となっている第2のスペーサーを形成する工程と、を含むことを特徴とするMEMS素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS素子の製造方法に関し、特にマイクロフォン、各種センサ、スイッチ等として用いられる容量型のMEMS素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体プロセスを用いたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子は、半導体基板上に固定電極、犠牲層(絶縁膜)および可動電極を形成した後、犠牲層の一部を除去することで、スペーサーを介して固定された固定電極と可動電極との間にエアーギャップ(中空)構造が形成されている。
【0003】
例えば、容量型のMEMS素子であるコンデンサマイクロフォンでは、音圧を通過させる複数の貫通孔を備えた固定電極と、音圧を受けて振動する可動電極(ダイアフラム膜)とを対向して配置し、音圧を受けて振動する可動電極の変位を電極間の容量変化として検出する構成となっている。
【0004】
このような構造のMEMS素子は、一般的に次のように形成される。まず。表面の結晶方位が(100)面のシリコン基板1を用意し、表面に熱酸化により厚さ0.2〜1.0μmの絶縁膜2aを形成する。さらに絶縁膜2a上にCVD(Chemical Vaper Deposition)法により厚さ0.2〜1.0μmのポリシリコン膜を形成し、通常のフォトリソグラフ法によりパターニングを行い、可動電極となるダイアフラム膜3を形成する(図3a)。
【0005】
その後、表面全面に、厚さ2〜4μmのUSG(Undoped Silicate Glass)膜4を積層する。このUSG膜は、犠牲層を構成する膜となる。さらにUSG膜4上に、固定電極となる厚さ0.1〜1.0μmのポリシリコン膜5を形成した後、表面全面に厚さ0.1〜2.0μmのシリコン窒化膜6を堆積形成する(図3b)。
【0006】
次に、先に形成したUSG膜4を後工程で除去するため、シリコン窒化膜6および固定電極となるポリシリコン膜5の一部をエッチング除去して複数の貫通孔7を形成し、USG膜4の表面の一部を露出させる(図3c)。
【0007】
可動電極となるダイアフラム膜3、固定電極となるポリシリコン膜5のそれぞれに接触する配線部8を形成する(図3d)。その後、シリコン基板1の裏面側から絶縁膜2aが露出するまでシリコン基板1を除去し、図3(e)に示すようにバックチャンバー9を形成する。
【0008】
その後、可動電極と固定電電極の間を中空構造とするため、USG膜4を貫通孔7からエッチングする。ここで使用するエッチング液は、配線部8を構成する配線材料とのエッチング選択比が高く、等方性エッチングを行うことができるフッ酸系の混酸水溶液を用いる。具体的にはフッ酸、フッ化アンモニウム、酢酸の混合液を用いる。
【0009】
その結果、図3(f)に示すように、可動電極となるダイアフラム膜3と固定電極となるポリシリコン膜5の間に、エアーギャップ10が形成され、USG膜4の一部が第1のスペーサー11として残ると同時に、シリコン基板1と可動電極となるダイアフラム膜3との間に形成された絶縁膜2aもエッチングされ、絶縁膜2aの一部が第2のスペーサー12aとして残ることになる。第1のスペーサー11および第2のスペーサー12aをエッチングにより形成する例は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014−233059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来提案されているMEMS素子では、可動電極を構成するダイアフラム膜3に圧力が加わると、図4に示すように、第2のスペーサー12aと可動電極を構成するダイアフラム膜3の接続点13に応力が集中し、この部分で、可動電極を構成するダイアフラム膜3に破壊が生じやすくなってしまうという問題点があった。
【0012】
さらにこのような応力集中が発生すると、第2のスペーサー12aと可動電極を構成するダイアフラム膜3の接触部の応力を緩和しようとして、ダイアフラム膜3が変形、変位し、MEMS素子の感度が低下したり、変動したりするという問題も発生してしまう。
【0013】
本発明は、上記問題点を解消し、MEMS素子の破壊を防止するとともに、感度の低下や変動を抑制することができるMEMS素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、バックチャンバーを備えた基板に、第1のスペーサーを挟んで固定電極と可動電極とを配置したMEMS素子の製造方法において、前記基板上に第2のスペーサーを構成する絶縁膜を、前記基板を熱酸化した後、該基板に不純物をイオン注入し熱酸化することで、前記第2のスペーサー形成時のエッチングレートが、前記基板に接触する側の前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜のエッチングレートが後工程で形成する前記可動電極に接触する側の前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜のエッチングレートより速くなる膜となるように形成する工程と、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜上に、前記可動電極を形成する工程と、前記可動電極上に、前記第1のスペーサーを構成する絶縁膜を形成する工程と、前記第1のスペーサーを構成する絶縁膜上に、前記固定電極を形成する工程と、前記固定電極に貫通孔を形成する工程と、前記基板の一部を除去し、前記バックチャンバーを形成する工程と、前記貫通孔から前記第1のスペーサーを構成する絶縁膜の一部をエッチング除去し、前記第1のスペーサーを形成し、前記固定電極と前記可動電極の間にエアーギャップを形成するとともに、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜の一部をエッチング除去し、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜と前記基板の接触部は、前記バックチャンバーより前記可動電極の中心方向と反対方向に後退し、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜と前記可動電極の接触部は、前記第2のスペーサーを構成する絶縁膜と前記基板の接触部より前記可動電極の中心方向に配置した構造となっている第2のスペーサーを形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によるMEMS素子は、可動電極に圧力が加わった場合に発生する応力が、基板と可動電極の間に形成されるスペーサーと可動電極との接続点のみに集中するのではなく、可動電極に分散させる構造となっているため、可動電極が破壊に至るのを防止することができる。また、特に基板と可動電極の間に形成されるスペーサーと可動電極との接触部に過度の応力集中することがないので、可動電極が変形、変位することもなく、感度の低下や変動を抑制することができるという利点がある。
【0021】
また本発明のMEMS素子の製造方法は、通常の半導体装置の製造工程で、一般的に用いられている工程のみで構成されているため、非常に安定的に、また安価にMEMS素子を形成することができるという利点がある。特に第2のスペーサーは非常に薄く、所望の形状を安定的に形成できる点で優れている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のMEMS素子の製造工程の説明図である。
図2】(a)は本発明によるMEMS素子の説明図である。(b)は(a)に示すA部分の拡大図である。
図3】従来のMEMS素子の製造工程の説明図である。
図4】(a)は従来のMEMS素子の説明図である。(b)は(a)に示すA部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るMEMS素子は、基板と可動電極の間に形成されるスペーサーが、所定の構造となる構成としている。即ち、基板との接触部がバックチャンバーよりエアーギャップの中心方向(固定電極の中心方向あるいは可動電極の中心方向)と反対側に後退し、可動電極との接触部が基板との接触部に比べて、エアーギャップの中心方向に配置する構成としている。
【0024】
このように構成すると、基板と可動電極の間に形成されるスペーサーの端部の断面形状が逆テーパー形状となり、このスペーサーと可動電極の接続点に発生していた応力集中が、可動電極に分散するようになる。その結果、可動電極の破損、あるいは可動電極が変形、変位することがなくなり、MEMS素子の感度の低下や変動を防止することが可能となる。以下、本発明のMEMS素子の製造方法に従い、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施例について説明する。まず、結晶方位(100)面のシリコン基板1上に、厚さ0.01〜0.1μm程度の熱酸化膜を形成する。そして、ボロンを注入エネルギーが30〜100eV、ドーズ量が1×1014〜1×1016cm-2の条件でイオン注入し、熱酸化により0.1〜1.0μmの絶縁膜2を形成する。このように形成した絶縁膜2は、シリコン基板1に近いほど、不純物濃度が高くなる。
【0026】
次に、絶縁膜2上に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により厚さ0.5〜1.0μmの導電性ポリシリコン膜を積層形成する。次に通常のフォトリソグラフ法によりパターニングし、可動電極となるダイアフラム膜3を形成する(図1a)。
【0027】
その後、従来同様、表面前面に、厚さ2.0〜4.0μmのUSG(Undoped Silicate Glass)膜4を積層する。このUSG膜は、犠牲層を構成する膜となる。さらにUSG膜4上に、固定電極となる厚さ0.1〜1.0μm程度の導電性ポリシリコン膜5を積層形成し、前面に厚さ0.2μmのシリコン窒化膜6を積層形成する(図1b)。
【0028】
次に、先に形成したUSG膜4を後工程で除去するため、シリコン窒化膜6および固定電極となるポリシリコン膜5の一部をエッチング除去して複数の貫通孔7を形成し、USG膜4の表面の一部を露出させる。また、固定電極あるいは可動電極にそれぞれ接触する配線膜の形成予定領域のシリコン窒化膜6の一部もエッチング除去する(図1c)。
【0029】
次に、ダイアフラム膜3の一部を露出させ、露出したダイアフラム膜3に接触する配線膜8および固定電極となるポリシリコン膜5に接触する配線膜8を、それぞれ形成する(図1d)。この配線膜8は、アルミニウム等の導体膜から構成されている。
【0030】
その後、シリコン基板1の裏面側から絶縁膜2が露出するまでシリコン基板1を除去し、バックチャンバー9を形成する(図1e)。
【0031】
その後、可動電極と固定電電極の間を中空構造とするため、USG膜4を貫通孔7からエッチングする。ここで使用するエッチング液は、配線部8を構成する配線材料とのエッチング選択比が高く、等方性エッチングを行うことができるフッ酸系の混酸水溶液を用いる。具体的にはフッ酸、フッ化アンモニウム、酢酸の混合液を用いる。このエッチング液は、不純物濃度に差があるとき、エッチングレート(速度)も変化する。即ち、不純物濃度が高いほどエッチングレートが速くなるエッチング液を用いることにする。
【0032】
このようなエッチング液を用いてエッチングを行うと、可動電極となるダイアフラム膜3と固定電極となるポリシリコン膜5の間に、エアーギャップ10が形成され、USG膜4の一部が第1のスペーサー11として残ると同時に、基板1とダイアフラム膜3との間に形成された絶縁膜2もエッチングされ、絶縁膜2の一部が第2のスペーサー12として残ることになる。
【0033】
特に本発明では、先に説明したように、絶縁膜2は、シリコン基板1に近いほど、不純物濃度が高くなるように形成しているため、上記エッチング液に対するエッチングレートがシリコン基板1に近いほど速くなる。その結果、図2に示すように、第2のスペーサー12の端部の断面形状を、逆テーパー形状に形成することができる(図1f)。
【0034】
このような構造により、可動電極を構成するダイアフラム膜3に圧力が加わると、従来構造では、第2のスペーサー12aと可動電極を構成するダイアフラム膜3の接続点に集中していた応力が可動電極を構成するダイアフラム膜3に分散し、破壊を防止することができることになる。また、可動電極を構成するダイアフラム膜3が変形、変位することがなくなり、MEMS素子の感度の低下や変動を防止することが可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施例について説明したが、絶縁膜に不純物濃度を持たせて、エッチングに対するエッチングレートを変更させる方法は、イオン注入法に限定されるものではなく、基板にN型あるいはP型の高濃度基板を用いて熱酸化する方法でもよい。またスペーサーの断面形状の逆テーパー形状の角度は、種々変更可能であり、ウエットエッチング方法は、所望のエッチング液を用いることも可能である。
【0036】
また、基板と可動電極の間に形成されるスペーサーとなる絶縁膜は、1層構造に限定されるものではなく、エッチングレートの異なる複数層で構成し、最下層のエッチングレートが最も速く、最上層のエッチングレートが最も遅くなるように積層すればよい。
【0037】
1:シリコン基板、2、2a:絶縁膜、3:ダイアフラム膜、4:USG膜、5:ポリシリコン膜、6:シリコン窒化膜、7:貫通孔、8:配線部、9:バックチャンバー、10:エアーギャップ、11:第1のスペーサー、12、12a:第2のスペーサー、13:接続点
図1
図2
図3
図4