(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複合金属化合物とリチウム化合物との混合物、又は複合金属化合物とリチウム化合物との反応物を含む原料を、焼成手段を用いて焼成する焼成工程において、前記混合物中のリチウム化合物の含有率が5質量%以下であり、
前記焼成手段は、材質母材が金属である内壁を有し、
前記金属は、ニッケルの含有率が51質量%以上70質量%以下であり、鉄の含有率が14質量%以下であり、かつクロムの含有率が18質量%以上27質量%以下であることを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記リチウム化合物は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物の少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程において、複合金属化合物とリチウム化合物との混合物、又は複合金属化合物とリチウム化合物との反応物を含む原料を、特定の温度で一定時間保持する段階を複数有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程は、焼成温度が異なる複数の焼成段階を有し、前記焼成段階のうち、少なくとも1つの焼成段階の温度を550℃以上750℃以下で行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程は、焼成温度が異なる複数の焼成段階を有し、前記焼成段階のうち、温度が最も高い焼成段階の焼成温度を650℃以上890℃以下で行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程において、少なくとも1つの焼成段階の焼成手段として、ロータリーキルンを用いる、請求項1〜9のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記金属のクロムの含有率が20質量%以上24質量%以下であり、かつ鉄の含有率が2質量%以下である、請求項1〜13のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記金属のクロムの含有率が23質量%以上27質量%以下であり、かつ鉄の含有率が7.5質量%以上11.5質量%以下である、請求項1〜13のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程において、最高保持温度に達する加熱段階の昇温速度が10℃/時間以上、500℃/時間以下である、請求項1〜15のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程において、最高保持温度からの被焼成物の降温速度が10℃/時間以上、500℃/時間以下である、請求項1〜16のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<リチウム二次電池用正極活物質の製造方法>
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、複合金属化合物とリチウム化合物との混合物を、焼成手段を用いて焼成する焼成工程を有する。焼成工程において、前記混合物中のリチウム化合物の含有率が5質量%以下であり、前記焼成手段は、材質母材が金属である内壁を有し、前記金属は、ニッケルの含有率が51質量%以上70質量%以下であり、鉄の含有率が14質量%以下であり、かつクロムの含有率が18質量%以上27質量%以下である。
【0012】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、前記焼成工程の前に、ニッケル、コバルト、マンガンを含む複合金属化合物の製造工程を備えることが好ましい。
【0013】
リチウム二次電池用正極活物質を製造するにあたり、まず、リチウム以外の金属、すなわち、Ni、Co及びMnから構成される必須金属、並びに、Fe、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVのうちいずれか1種以上の任意金属を含む複合金属化合物を調製する。その後、当該複合金属化合物を適当なリチウム塩と焼成する。
複合金属化合物としては、複合金属水酸化物又は複合金属酸化物が好ましい。
【0014】
(複合金属化合物の製造工程)
複合金属化合物は、通常公知のバッチ共沈殿法又は連続共沈殿法により製造することが可能である。以下、金属として、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む複合金属水酸化物を例に、その製造方法を詳述する。
【0015】
まず共沈殿法、特に特開2002−201028号公報に記載された連続法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を反応させ、ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物を製造する。
【0016】
上記ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの何れかを使用することができる。上記コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、及び塩化コバルトのうちの何れかを使用することができる。上記マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び塩化マンガンのうちの何れかを使用することができる。以上の金属塩は、前記式(I)の組成比に対応する割合で用いられる。また、溶媒として水が使用される。
【0017】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケル、コバルト、及びマンガンのイオンと錯体を形成可能なものである。例えばアンモニウムイオン供給体(硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等)、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシンが挙げられる。
【0018】
バッチ共沈殿法又は連続共沈殿法に際しては、水溶液のpH値を調整するため、必要ならばアルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)を添加する。
【0019】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給させると、ニッケル、コバルト、及びマンガンが反応し、ニッケルコバルトマンガン複合金属水酸化物が製造される。
反応に際しては、反応槽の温度が例えば20℃以上80℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下の範囲内で制御する。
【0020】
反応槽内のpH値は例えば水溶液の温度が40℃の時にpH9以上pH13以下、好ましくはpH11以上pH13以下の範囲内で制御される。このpHを上記の範囲に制御することにより、本発明の所望の中心部の空隙割合が高い二次粒子を製造することができる。
【0021】
反応槽内の物質は適宜撹拌される。上記反応槽の温度を40℃以上に保持し、かつ前記アルカリ金属水酸化物の質量に対する前記ニッケル、コバルト、及びマンガンの金属としての質量の比が0.9以上となる条件下で各溶液を混合し、撹拌することによって、二次粒子の球形度を本発明の所望の範囲に制御することができる。反応槽は、形成された反応沈殿物を分離するためオーバーフローさせるタイプのものを用いることができる。
【0022】
また反応槽内は、不活性雰囲気を保ちつつも、適度な酸素含有雰囲気または酸化剤存在下とすることで、本発明の所望の中心部の空隙割合が高い二次粒子を製造することができる。反応槽内を酸素含有雰囲気とするには、反応槽内に酸素含有ガスを導入すればよい。酸素含有ガスとしては、酸素ガス、空気、又はこれらと窒素ガスなどの酸素非含有ガスとの混合ガスが挙げられる。酸素含有ガス中の酸素濃度を調整しやすい観点から、上記の中でも混合ガスであることが好ましい。
【0023】
反応槽に供給する金属塩の濃度、攪拌速度、反応温度、反応pH、及び後述する焼成条件等を適宜制御することにより、最終的に得られるリチウム二次電池用正極活物質を所望の物性に制御することができる。
【0024】
以上の反応後、得られた反応沈殿物を水で洗浄した後、乾燥し、ニッケルコバルトマンガン複合化合物としてのニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を単離する。また、必要に応じて弱酸水や水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを含むアルカリ溶液で洗浄してもよい。なお、上記の例では、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造しているが、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物を調製してもよい。ニッケルコバルト任意金属Mの複合水酸化物からニッケルコバルト任意金属Mの複合酸化物を調整する際は、300℃以上800℃以下の温度で1時間以上10時間以下の範囲で焼成し、酸化物化する酸化物化工程を実施してもよい。
【0025】
(リチウム複合金属酸化物の製造工程)
・混合工程
上記複合金属酸化物又は水酸化物を乾燥した後、リチウム化合物と混合する。
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物からなる群より選択される1種以上を使用する。これらのリチウム化合物は、ロータリーキルンを焼成手段として用いた場合に、ロータリーキルンの円筒内壁の合金を腐食する原因となりうる。本実施形態においては、焼成工程を特定の条件で実施することにより、ロータリーキルンの内壁の合金の腐食を防止できる。
【0026】
複合金属酸化物又は水酸化物の乾燥後に、適宜分級を行ってもよい。以上のリチウム塩と複合金属水酸化物とは、最終目的物の組成比を勘案して決定する。例えば、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を用いる場合、リチウム塩と当該複合金属水酸化物は、後述する式(I)の組成比に対応する割合で用いられる。
【0027】
・焼成工程
焼成工程は、複合金属化合物とリチウム化合物との混合物を焼成し、前記混合物に含まれるリチウム化合物の含有率を5質量%以下とする工程である。
焼成工程により、混合物に含まれるリチウム化合物の含有量を4.9質量%以下とすることが好ましく、4.8質量%以下とすることが特に好ましい。
【0028】
焼成工程において、混合物中のリチウム化合物量を低減することで、ロータリーキルンを焼成手段として用いた場合に、ロータリーキルンの内壁の合金の腐食を防止できる。これにより、製造される正極活物質への不純物の混合を防止できる。
【0029】
焼成工程は、複合金属化合物とリチウム化合物との混合物、又は複合金属化合物とリチウム化合物との反応物を含む原料を、特定の温度で一定時間保持する段階を複数有することが好ましい。
【0030】
ここで、「特定の温度」とは、550℃以上890℃以下を意味し、560℃以上880℃以下であることが好ましく、570℃以上870℃以下であることがより好ましい。
【0031】
「一定時間」とは、1時間以上20時間以下を意味し、1.1時間以上19時間以下が好ましく、1.2時間以上18時間以下がより好ましい。
【0032】
焼成段階の温度及び時間は、上記の範囲で適宜組み合わせることができる。
本実施形態においては、550℃以上870℃以下の温度で1時間以上20時間以下焼成することが好ましい。
【0033】
焼成工程は、焼成温度が異なる複数の焼成段階を有することが好ましい。例えば、第1の焼成段階と、第1の焼成段階よりも高温で焼成する第2の焼成段階を有することが好ましい。さらに焼成温度及び焼成時間が異なる焼成段階を有していてもよい。
【0034】
本実施形態においては、焼成段階のうち少なくとも1つの焼成段階の焼成温度を550℃以上750℃以下で実施することが好ましい。
【0035】
本実施形態においては、焼成段階のうち焼成温度が最も高い焼成段階の焼成温度を650℃以上890℃以下で行うことが好ましい。
【0036】
ニッケルコバルトマンガン複合金属酸化物又は水酸化物及びリチウム化合物の混合物を焼成することによって、リチウム−ニッケルコバルトマンガン複合金属酸化物が得られる。なお、焼成には、所望の組成に応じて乾燥空気、酸素雰囲気、不活性雰囲気等が用いられる。
【0037】
本実施形態において焼成手段は、材質母材が金属である内壁を有する。内壁は、焼成工程において被焼成物が直接接する部分である。前記金属は、ニッケルの含有率が51質量%以上70質量%以下であり、鉄の含有率が14質量%以下であり、かつクロムの含有率が18質量%以上27質量%以下の合金である。
【0038】
焼成手段の被焼成物と接する部分の材質母体である合金のうち、ニッケル、鉄、クロムの含有率が上記の範囲であると、リチウムの腐食を受けにくく、正極活物質中への不純物の混合を防止できる。
【0039】
本実施形態において、焼成段階のうち焼成温度が最も高い焼成段階以外の焼成に用いる焼成手段の被焼成物と接する部分の材質母体が金属であり、前記金属のニッケル含有量が95質量%以下であり、クロム含有率が1質量%以上であり、前記金属がFe、Al、Ti、W、Mo、Cu、Y、Zr、Co、Si、Mnのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0040】
本実施形態において、焼成工程において、少なくとも1つの焼成段階の焼成手段として、ロータリーキルンを用いることが好ましい。以下、ロータリーキルンを用いる場合の例について説明する。
【0041】
本実施形態において、ロータリーキルンの円筒内壁は合金である。
前記合金は、ニッケルの含有率が51質量%以上70質量%以下であり、鉄の含有率が14質量%以下であり、かつクロムの含有率が18質量%以上27質量%以下である。
ニッケルの含有率は、52質量%以上69質量%以下が好ましい。
鉄の含有率は0質量%であってもよい。鉄を含有する場合には、その含有率は7.5質量%以上11.5質量%以下が好ましい。
クロムの含有率は23質量%以上27質量%以下が好ましい。
【0042】
本実施形態において、ロータリーキルンの円筒内壁の合金は、クロムの含有率が20質量%以上24質量%以下であり、かつ鉄の含有率が2質量%以下であることが好ましい。
【0043】
本実施形態において、ロータリーキルンの円筒内壁の合金は、クロムの含有率が23質量%以上27質量%以下であり、かつ鉄の含有率が7.5質量%以上11.5質量%以下であることが好ましい。
【0044】
ロータリーキルンの円筒内壁の合金のうち、ニッケル、鉄、クロムの含有率が上記の範囲であると、リチウムの腐食を受けにくく、正極活物質中への不純物の混合を防止できる。
【0045】
本実施形態においては、ロータリーキルンの円筒内壁の合金はAl、Ti、W、Mo、Cu、Y、Zrのうち少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0046】
ロータリーキルンを用い、焼成工程を第1の焼成段階と、第1の焼成段階の焼成温度よりも高い温度で焼成する第2の焼成段階とを有する場合について説明する。
第2の焼成段階の焼成温度としては、第1の焼成段階の焼成温度よりも高温であれば特に制限はないが、650℃以上890℃以下であることが好ましく、660℃以上880℃以下であることがより好ましい。ここで焼成温度とは、第2の焼成段階での保持温度の最高温度を意味する。以下、第2の焼成段階での保持温度の最高温度を「最高保持温度」と記載する。
【0047】
第2の焼成段階において、焼成時間は、1時間以上50時間以下が好ましい。焼成時間が50時間以内であると、リチウムの揮発による電池性能の劣化を防止できる。焼成時間が1時間以上であると、結晶の発達が進み、電池性能が良好となる。
【0048】
本実施形態において、焼成工程の最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は10℃/時間以上、500℃/時間以下好ましい。
最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から後述の保持温度に到達するまでの時間から算出される。
昇温速度を上記特定の範囲とすることにより、リチウムによるロータリーキルン円筒内壁の合金の腐食を防止できる。
本実施形態においては、昇温速度が上記範囲内であれば、そのレートは一定であってもよく、変更してもよい。
【0049】
本実施形態において、焼成工程の最高保持温度からの、被焼成物の降温速度が10℃/時間以上、500℃/時間以下であることが好ましい。
被焼成物の降温速度は、焼成装置において、最高温度より下がり始めた時間から装置外に排出されるまでの時間から算出される。
本実施形態においては、降下速度が上記範囲内であれば、そのレートは一定であってもよく、変更してもよい。
【0050】
本実施形態において、焼成工程の焼成雰囲気の酸素濃度が10体積%以上であることが好ましい。
【0051】
本実施形態において、焼成工程のロータリーキルンの回転速度が100mm/分間以上20m/分間以下であることが好ましい。
【0052】
本実施形態に用いるロータリーキルンは、金属と付着した被焼成体を分離するための機構を備えることが好ましい。
機構の例としては、ロータリーキルンの内側に取り付けられたスクレーパーや、ロータリーキルン外壁を打ち、衝撃で付着物を落とすノッカー等が挙げられる。
【0053】
・洗浄工程
焼成後に、得られた焼成物を洗浄してもよい。洗浄には、純水やアルカリ性洗浄液を用いることができる。
アルカリ性洗浄液としては、例えば、LiOH(水酸化リチウム)、NaOH(水酸化ナトリウム)、KOH(水酸化カリウム)、Li
2CO
3(炭酸リチウム)、Na
2CO
3(炭酸ナトリウム)、K
2CO
3(炭酸カリウム)および(NH
4)
2CO
3(炭酸アンモニウム)からなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
【0054】
洗浄工程において、洗浄液とリチウム複合金属化合物とを接触させる方法としては、各洗浄液の水溶液中に、リチウム複合金属化合物を投入して撹拌する方法が挙げられる。また、各洗浄液の水溶液をシャワー水として、リチウム複合金属化合物にかける方法が挙げられる。また、該洗浄液の水溶液中に、リチウム複合金属化合物を投入して撹拌した後、各洗浄液の水溶液からリチウム複合金属化合物を分離し、次いで、各洗浄液の水溶液をシャワー水として、分離後のリチウム複合金属化合物にかける方法が挙げられる。
【0055】
本実施形態により製造されるリチウム二次電池用正極活物質は、下記の一般式(I)で表されることが好ましい。
Li[Li
x(Ni
(1−y−z−w)Co
yMn
zM
w)
1−x]O
2 …(I)
(−0.1≦x≦0.2、0<y≦0.5、0≦z≦0.8、0≦w≦0.1、y+z+w<1、Mは、Cu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の元素を表す。)
【0056】
サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるxは0を超えることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.02以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるxは0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.06以下であることがさらに好ましい。
xの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
本明細書において、「サイクル特性が高い」とは、放電容量維持率が高いことを意味する。
【0057】
前記組成式(1)におけるyは0.005以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.05以上であることがさらに好ましい。また、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるyは0.4以下であることが好ましく、0.35以下であることがより好ましく、0.33以下であることがさらに好ましい。
yの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0058】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるzは0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましい。また、高温(例えば60℃環境下)での保存特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるzは0.4以下であることが好ましく、0.38以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましい。
zの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0059】
前記組成式(1)におけるwは0を超えることが好ましく、0.0005以上であることがより好ましく、0.001以上であることがさらに好ましい。また、高い電流レートにおいて放電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、前記組成式(1)におけるwは0.09以下であることが好ましく、0.08以下であることがより好ましく、0.07以下であることがさらに好ましい。
wの上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。
【0060】
前記組成式(1)におけるMはCu、Ti、Mg、Al、W、B、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga及びVからなる群より選択される1種以上の元素を表す。
【0061】
また、サイクル特性が高いリチウム二次電池を得る観点から、組成式(1)におけるMは、Ti、Mg、Al、W、B、Zrであることが好ましく、熱的安定性が高いリチウム二次電池を得る意味では、Al、W、B、Zrであることが好ましい。
【0062】
本実施形態により製造されるリチウム二次電池用正極活物質は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°付近に観測される(003)面のピークの半値幅が2θで0.25°以下であることが好ましい。
本実施形態において、(003)面のピーク半値幅は、CuKαを線源とし、かつ回折角2θの測定範囲を18.7±1°とする粉末X線回折測定を行い、(003)面のピークを決定し、その半値幅を算出することにより得ることができる。
(003)面の半値幅が上記の範囲であると、結晶性が高い正極活物質であることを意味する。
【0063】
<リチウム二次電池>
次いで、リチウム二次電池の構成を説明しながら、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を、リチウム二次電池の正極活物質として用いた正極、およびこの正極を有するリチウム二次電池について説明する。
【0064】
本実施形態のリチウム二次電池の一例は、正極および負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0065】
図1A及び
図1Bは、本実施形態のリチウム二次電池の一例を示す模式図である。本実施形態の円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0066】
まず、
図1Aに示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、および一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0067】
次いで、
図1Bに示すように、電池缶5に電極群4および不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7および封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0068】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形、角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0069】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0070】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、ペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0071】
以下、各構成について順に説明する。
(正極)
本実施形態の正極は、まず正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を調整し、正極合剤を正極集電体に担持させることで製造することができる。
【0072】
(導電材)
本実施形態の正極が有する導電材としては、炭素材料を用いることができる。炭素材料として黒鉛粉末、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。カーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量を正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率および出力特性を向上させることができるが、多く入れすぎるとバインダーによる正極合剤と正極集電体との結着力、および正極合剤内部の結着力がいずれも低下し、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。
【0073】
正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して5質量部以上20質量部以下であると好ましい。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0074】
(バインダー)
本実施形態の正極が有するバインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;を挙げることができる。
【0075】
これらの熱可塑性樹脂は、2種以上を混合して用いてもよい。バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤全体に対するフッ素樹脂の割合を1質量%以上10質量%以下、ポリオレフィン樹脂の割合を0.1質量%以上2質量%以下とすることによって、正極集電体との密着力および正極合剤内部の結合力がいずれも高い正極合剤を得ることができる。
【0076】
(正極集電体)
本実施形態の正極が有する正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。なかでも、加工しやすく、安価であるという点でAlを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0077】
正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、正極合剤を正極集電体上で加圧成型する方法が挙げられる。また、有機溶媒を用いて正極合剤をペースト化し、得られる正極合剤のペーストを正極集電体の少なくとも一面側に塗布して乾燥させ、プレスし固着することで、正極集電体に正極合剤を担持させてもよい。
【0078】
正極合剤をペースト化する場合、用いることができる有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン系溶媒;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸メチルなどのエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)などのアミド系溶媒;が挙げられる。
【0079】
正極合剤のペーストを正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法および静電スプレー法が挙げられる。
【0080】
以上に挙げられた方法により、正極を製造することができる。
(負極)
本実施形態のリチウム二次電池が有する負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、および負極活物質単独からなる電極を挙げることができる。
【0081】
(負極活物質)
負極が有する負極活物質としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属又は合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。
【0082】
負極活物質として使用可能な炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体を挙げることができる。
【0083】
負極活物質として使用可能な酸化物としては、SiO
2、SiOなど式SiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO
2、TiOなど式TiO
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V
2O
5、VO
2など式VO
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe
3O
4、Fe
2O
3、FeOなど式FeO
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO
2、SnOなど式SnO
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO
3、WO
2など一般式WO
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li
4Ti
5O
12、LiVO
2などのリチウムとチタン又はバナジウムとを含有する複合金属酸化物;を挙げることができる。
【0084】
負極活物質として使用可能な硫化物としては、Ti
2S
3、TiS
2、TiSなど式TiS
x(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V
3S
4、VS
2、VSなど式VS
x(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe
3S
4、FeS
2、FeSなど式FeS
x(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo
2S
3、MoS
2など式MoS
x(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS
2、SnSなど式SnS
x(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS
2など式WS
x(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb
2S
3など式SbS
x(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se
5S
3、SeS
2、SeSなど式SeS
x(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物;を挙げることができる。
【0085】
負極活物質として使用可能な窒化物としては、Li
3N、Li
3−xA
xN(ここで、AはNiおよびCoのいずれか一方又は両方であり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。
【0086】
これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、1種のみ用いてもよく2種以上を併用して用いてもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、結晶質又は非晶質のいずれでもよい。
【0087】
また、負極活物質として使用可能な金属としては、リチウム金属、シリコン金属およびスズ金属などを挙げることができる。
【0088】
負極活物質として使用可能な合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Si、Li−Sn、Li−Sn−Niなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金;Cu
2Sb、La
3Ni
2Sn
7などの合金;を挙げることもできる。
【0089】
これらの金属や合金は、例えば箔状に加工された後、主に単独で電極として用いられる。
【0090】
上記負極活物質の中では、充電時に未充電状態から満充電状態にかけて負極の電位がほとんど変化しない(電位平坦性がよい)、平均放電電位が低い、繰り返し充放電させたときの容量維持率が高い(サイクル特性がよい)などの理由から、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、又は微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0091】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンおよびポリプロピレンを挙げることができる。
【0092】
(負極集電体)
負極が有する負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を挙げることができる。なかでも、リチウムと合金を作り難く、加工しやすいという点で、Cuを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0093】
このような負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様に、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法が挙げられる。
【0094】
(セパレータ)
本実施形態のリチウム二次電池が有するセパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができる。また、これらの材質を2種以上用いてセパレータを形成してもよいし、これらの材料を積層してセパレータを形成してもよい。
【0095】
本実施形態において、セパレータは、電池使用時(充放電時)に電解質を良好に透過させるため、JIS P 8117で定められるガーレー法による透気抵抗度が、50秒/100cc以上、300秒/100cc以下であることが好ましく、50秒/100cc以上、200秒/100cc以下であることがより好ましい。
【0096】
また、セパレータの空孔率は、好ましくは30体積%以上80体積%以下、より好ましくは40体積%以上70体積%以下である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0097】
(電解液)
本実施形態のリチウム二次電池が有する電解液は、電解質および有機溶媒を含有する。
【0098】
電解液に含まれる電解質としては、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(COCF
3)、Li(C
4F
9SO
3)、LiC(SO
2CF
3)
3、Li
2B
10Cl
10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。なかでも電解質としては、フッ素を含むLiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2およびLiC(SO
2CF
3)
3からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0099】
また前記電解液に含まれる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、又はこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。
【0100】
有機溶媒としては、これらのうちの2種以上を混合して用いることが好ましい。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒および環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。このような混合溶媒を用いた電解液は、動作温度範囲が広く、高い電流レートにおける充放電を行っても劣化し難く、長時間使用しても劣化し難く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという多くの特長を有する。
【0101】
また、電解液としては、得られるリチウム二次電池の安全性が高まるため、LiPF
6などのフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテルなどのフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、高い電流レートにおける充放電を行っても容量維持率が高いため、さらに好ましい。
【0102】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi
2S−SiS
2、Li
2S−GeS
2、Li
2S−P
2S
5、Li
2S−B
2S
3、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
2S−SiS
2−Li
2SO
4、Li
2S−GeS
2−P
2S
5などの硫化物を含む無機系固体電解質が挙げられ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これら固体電解質を用いることで、リチウム二次電池の安全性をより高めることができることがある。
【0103】
また、本実施形態のリチウム二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【0104】
本実施形態のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、焼成に供する混合物中のリチウムの含有量が低く、さらにロータリーキルンの円筒内壁の金属材質が、リチウムの腐食を受けにくい組成であることを特徴とする。
これによりロータリーキルンの円筒内壁のリチウムによる腐食を抑制できる。本実施形態によれば、大量生産に好適なロータリーキルンを用いて、不純物の少ない高品質の正極活物質を製造することができる。
【実施例】
【0105】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0106】
<組成分析>
後述の方法で製造されるリチウム二次電池用正極活物質粉末の組成分析は、得られたリチウム金属複合酸化物の粉末を酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて行った。
【0107】
<リチウム二次電池用正極活物質中のクロム含有量の測定>
最終焼成物の組成分析は金属酸化物の粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発行分析装置(パーキンエルマー製、Optima 7300DV)を用いて行った。
【0108】
<リチウム二次電池用正極活物質の粉末X線回折測定>
リチウム二次電池用正極活物質の粉末X線回折測定は、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、Ultima IV、試料水平型)を用いて行った。得られたリチウム複合金属酸化物を専用の基板に充填し、Cu−Kα線源を用いて、回折角2θ=10°〜90°の範囲にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を得た。該粉末X線回折図形から2θ=18.7±1°の範囲内のピーク(003面)の半値幅を算出した。
【0109】
<水酸化リチウム量の測定>
原料のリチウム化合物20gと純水100gを100mlビーカーに入れ、5分間撹拌した。撹拌後、リチウム化合物を濾過し、残った濾液の60gに0.1mol/L塩酸を滴下し、pHメーターにて濾液のpHを測定した。pH=8.3±0.1時の塩酸の滴定量をAml、pH=4.5±0.1時の塩酸の滴定量をBmlとして、下記の計算式より、原料リチウム化合物中に残存する水酸化リチウム濃度を算出した。下記の式中、水酸化リチウムの分子量は、各原子量を、H;1.000、Li;6.941、O;16、として算出した。表1及び表2中、「リチウム化合物含有率」は、水酸化リチウムの含有率を意味する。
水酸化リチウム濃度(%)=
0.1×(2A−B)/1000×23.941/(20×60/100)×100
【0110】
<金属の耐久試験>
各種組成の金属と、被焼成粉体が接触する状態で、所定の条件で焼成し、焼成前後の質量から、焼成前後の質量減少率を算出した。
【0111】
・質量増加率
質量増加率は、後述する焼成工程を繰り返し20回実施し、各焼成工程を行った後にそれぞれ金属の質量を測定した。一次焼成と二次焼成を行う場合には、二次焼成を行った後に金属の質量を測定した。焼成前後の質量変化率(焼成前質量基準)の積算値をプロットし、20回までの時点での積算質量変化率の最高値を表中に記載する。「焼成前後」とは、焼成工程を繰り返し実施する場合の各焼成工程の直前の状態を「焼成前」とする。例えば、初回の焼成工程の場合、未焼成の状態が「焼成前」であり、1回焼成した後を「焼成後」として質量変化率を測定する。2回目の焼成工程の場合、1回焼成した状態が「焼成前」となり、2回目の焼成が完了した状態を「焼成後」として質量変化率を測定する。以降も同様に焼成前後の質量変化率を測定した。
【0112】
・リチウムの腐食連続質量減少率幅
リチウムの腐食連続質量減少率は、後述する焼成工程を繰り返し20回実施し、各焼成工程ごとに金属の質量を測定した。一次焼成と二次焼成を行う場合には、二次焼成を行った後に金属の質量を測定した。焼成前後の質量変化率(焼成前質量基準)の積算値をプロットし、20回までの時点で、質量変化率が減少する挙動にあったものについて、質量変化率が連続で減少した際の始点と終点の質量変化率の差を表中に記載する。「焼成前後」とは、焼成工程を繰り返し実施する場合の各焼成工程の直前の状態を「焼成前」とする。例えば、初回の焼成工程の場合、未焼成の状態が「焼成前」であり、1回焼成した後を「焼成後」として質量変化率を測定する。2回目の焼成工程の場合、1回焼成した状態が「焼成前」となり、2回目の焼成が完了した状態を「焼成後」として質量変化率を測定する。以降も同様に焼成前後の質量変化率を測定した。
【0113】
(実施例1〜4、比較例1〜2)
[混合工程]
リチウム化合物(水酸化リチウム含有量18.2質量%)とニッケルコバルトアルミニウム複合金属水酸化物(NiCoMnAl(OH)
2)とを、Li:Ni:Co:Alのモル比が53:38:7:2となるよう秤量し、これらを乾式混合して混合物を得た。
【0114】
[一次焼成工程]
次いで、該混合物を下記表1に示す組成の金属と接触させた状態で、表1に示す各温度条件及び焼成時間で焼成した。
【0115】
[二次焼成工程]
続いて、一次焼成工程で得られた被焼成物を下記表1に示す組成の金属と接触させた状態で、表1に示す各温度条件及び焼成時間で焼成し、リチウム複合金属酸化物(リチウム二次電池用正極活物質)を得た。表1に、リチウム複合金属酸化物のクロム含有量、粉末X線回折を、表2に、二次焼成後の金属の質量増加率、連続質量減少率をそれぞれ示す。
【0116】
(比較例3〜8)
一次焼成を、表1に示す各温度条件及び焼成時間とし、下記表1に示す組成の金属と接触させた状態で焼成する以外は実施例1〜4、比較例1〜2と同様の方法により、リチウム複合金属酸化物(リチウム二次電池用正極活物質)を得た。表1に、リチウム複合金属酸化物のクロム含有量、粉末X線回折を、表2に、二次焼成後の金属の質量増加率、連続質量減少率をそれぞれ示す。
【0117】
(比較例9)
一次焼成を、表1に示す各温度条件及び焼成時間とし、該混合物を炉内壁が下記表1に示す組成の金属を材質母材とする内壁を有するロータリーキルンに入れ、650℃で2時間焼成を行った。表1に、リチウム複合金属酸化物のクロム含有量、粉末X線回折を、表2に、二次焼成後の金属の質量増加率、連続質量減少率をそれぞれ示す。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
上記表1〜2に示す結果の通り、本発明によれば、不純物量の少ないリチウム二次電池用正極活物質を製造することができた。
【解決手段】複合金属化合物とリチウム化合物との混合物を、焼成手段を用いて焼成する焼成工程において、前記混合物中のリチウム化合物の含有率が5質量%以下であり、前記焼成手段は、材質母材が金属である内壁を有し、前記金属は、ニッケルの含有率が51質量%以上70質量%以下であり、鉄の含有率が14質量%以下であり、かつクロムの含有率が18質量%以上27質量%以下であることを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。