【実施例】
【0076】
以下、本発明に係る実施例を示す。本実施例では、以下のプロセスによりサンプル1〜12を作製した。
【0077】
[予備成形体の製造]
はじめに予備成形体を作製した。まず、VGCF粉末体(強化材)とMP粉末体(架橋材)とNaCl粒子(スペーサ粒子)とを所定の容器内に混入し、撹拌棒で約10分間撹拌して混合材料を形成した(
図8参照)。本実施例で用いたVGCFの形状およびその物性を表1および
図14に示す。同様に、MP粉末の大きさおよびその物性を表2および
図15に示す。なお、サンプル1〜12に関し、混合材料における各構成材料の重量比およびNaCl粒子の粒子径に関する詳細については後述する。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
混合材料を形成した後、所定の加圧器に上記混合材料を封入し、75MPaの圧力を加えて混合材料を固体状の混合体に成形した(
図9参照)。その後、固体状の混合体を加熱器内に入れて、約500℃の温度で約1時間加熱処理を行い、大気雰囲気下で混合体を冷却した(
図10参照)。この後、スペーサ処理により、蒸留水が満たされた容器内に上記混合体を浸し、その混合体内に含有されているNaCl粒子を溶解除去した(
図11参照)。これにより、残留したVGCFおよびMPからなる基体を生成し、この基体内に複数の気孔同士が互いに連通した連続気孔を形成した。NaCl粒子が蒸留水に完全に溶けた後、容器内から基体を取り出して、基体に残っている蒸留水を乾燥により除却した。
【0081】
[NaCl粒子とMP粉末体およびVGCF粉末体との重量比]
ここで、混合材料を形成する過程において、NaCl粒子とMP粉末体およびVGCF粉末体との重量比が異なる3種類のサンプル1〜3および5を作製した。各サンプルにおける重量比の詳細を表3に示す。なお、サンプル1〜3および5では、粒子径が180〜355μmの範囲に含まれるNaCl粒子を用いた。
【0082】
【表3】
【0083】
図16、
図18および
図20は、サンプル1〜3のそれぞれについて、スペーサ処理前の加熱処理された混合体の状態を示している。
図16、
図18および
図20に示すように、サンプル1〜3は、スペーサ処理前の加熱処理された混合体の状態において、いずれも円柱形状を維持していた。また、
図17A、
図19Aおよび
図21は、サンプル1〜3のそれぞれについて、スペーサ処理を行った後の基体の状態を示している。
【0084】
図17A、
図19Aおよび
図21に示すように、サンプル1〜3は、スペーサ処理後であっても混合体の外形(円柱形状)が崩れることなく、加熱処理後における混合体の外形が維持されていた。また、
図17Bおよび
図19Bに示すように、スペーサ処理で得られたサンプル1および2の電子顕微鏡写真による組織状態を観察すると、組織内に大きな亀裂や欠損は見られず、適切な連続気孔が形成されていた。特に、サンプル3と同じ条件で作製されたサンプル5の電子顕微鏡写真による組織状態(
図25A参照)を確認したところ、組織内に大きな亀裂や欠損は見られず、各々の大きさがほぼ均等な連続気孔が適切に形成されていた。
【0085】
このように、NaCl粒子とMP粉末体およびVGCF粉末体との重量比が90:10〜70:30の範囲であれば、NaCl粒子の混入量が適切となって、基体内に占める連続気孔の気孔率が適切な範囲に抑えられることにより、基体が脆くならず、スペーサ処理後でも基体の外形が健全に維持された。特に、NaCl粒子とMP粉末体およびVGCF粉末体との重量比が70:30であれば、より健全な基体を得ることができることがわかった。
【0086】
[MPとVGCFとの重量比]
次に、混合材料を形成する過程において、NaCl粒子とMP粉末体およびVGCF粉末体との重量比を上述した適正な範囲の中から70:30に固定した上で、MPとVGCFとの重量比が異なる5種類のサンプル4〜8を作製した。表4にサンプル4〜8におけるそれぞれの重量比を示す。なお、サンプル4〜8では、粒子径が180〜355μmの範囲に含まれるNaCl粒子を用いた。
【0087】
【表4】
【0088】
サンプル4〜8は、サンプル1〜3と同様、スペーサ処理前の加熱処理された混合体の状態で円柱形状を維持していた。その後、スペーサ処理で得られた各サンプル(基体)の状態における写真および電子顕微鏡写真による組織状態を
図22〜
図30にそれぞれ示す。さらに、各サンプルにおけるスペーサ処理後の基体の形状および判定結果を表5に示す。
【0089】
【表5】
【0090】
サンプル4(MPとVGCFとの重量比が100:0)では、
図22に示すように、スペーサ処理後に大きな亀裂や欠損は見られなかった。しかし、
図23Aに示すように、スペーサ処理によって連続気孔が形成されていたものの、各気孔の大きさにバラツキが見られた。なお、サンプル4にはVGCFが混入されていないことから、基体内にMPしか存在しておらず(
図23B参照)、この点においてサンプル4は本発明に係る金属基複合材料の予備成形体として不適である。
【0091】
サンプル5(MPとVGCFとの重量比が70:30)では、
図24に示すように、スペーサ処理後において、問題になるような大きな亀裂や欠損は見られなかった。そして、
図25Aに示すように、スペーサ処理によって適切な連続気孔が形成されており、各気孔の大きさもほぼ均等に形成されていた。また、
図25Bに示すように、サンプル5では、VGCF同士がMPにより適切に架橋されていることが確認できた。このため、サンプル5では、後述するサンプル6および7よりも基体内の組織が緻密かつ強固になり、スペーサ処理後であっても亀裂や欠損が生じることなく加熱処理後における混合体の外形を維持することができた。
【0092】
サンプル6(MPとVGCFとの重量比が50:50)では、
図26に示すように、スペーサ処理後において、大きな亀裂や欠損は見られなかった。そして、
図27Aに示すように、サンプル6でも、スペーサ処理によって適切な連続気孔が形成されており、各気孔の大きさもほぼ均等に形成されていた。ただし、サンプル6では、サンプル5と比較してMPの混入量が相対的に増えていることから、
図27Bに示すように、MPにより適切に架橋されていないVGCFがわずかだが確認された。
【0093】
サンプル7(MPとVGCFとの重量比が30:70)では、
図28に示すように、スペーサ処理後において、大きな亀裂や欠損は見られなかった。そして、
図29Aに示すように、サンプル7でも、スペーサ処理により適切な気孔が形成されており、各気孔の大きさもほぼ均等に形成されていた。ただし、サンプル7では、サンプル5および6と比較してMPの混入量が相対的に増えているため、
図29Bに示すように、MPにより適切に架橋されていないVGCFが確認された。
【0094】
サンプル8(MPとVGCFとの重量比が0:100)は、MPが混入されていないため、本発明に係る金属基複合材料の予備成形体として不適である。なお、サンプル8は、VGCF同士が架橋されていないため、
図30に示すように、基体内の組織が非常に脆くなっており、その結果としてスペーサ処理後に混合体の外形(円柱形状)が保たれなかった。
【0095】
このように、粒子径が適正な範囲に含まれるNaCl粒子を用いた場合、MP粉末体とVGCF粉末体との重量比を70:30〜30:70の範囲にすれば、亀裂や欠損が生じないような適切な予備成形体を得ることができ、スペーサ処理により各気孔の大きさにバラツキが生じないような適切な連続気孔を形成することができることがわかった。特に、MP粉末体とVGCF粉末体との重量比を70:30にすると、基体内の組織が緻密かつ強固になり、スペーサ処理後であっても基体の外形を健全に維持できることがわかった。
【0096】
[NaCl粒子の粒子径]
次に、混合材料を形成する過程において、混入されるNaCl粒子の粒子径が異なる3種類のサンプル9〜11を作製した。表6にそれぞれのNaCl粒子の粒子径を示す。また、各粒子径におけるNaCl粒子の電子顕微鏡写真を
図31〜
図33にそれぞれ示す。
【0097】
【表6】
【0098】
サンプル9〜11のいずれも、上述した適正な範囲の中から、NaCl粒子とMP粉末体およびVGCF粉末体との重量比が70:30であって、MP粉末体とVGCF粉末体との重量比が70:30となるようにそれぞれを混合した。さらに、サンプル9〜11の組織状態を表した電子顕微鏡写真を
図34A〜
図36にそれぞれ示す。
【0099】
サンプル9では、
図34Aに示すように、スペーサ処理により適切な連続気孔が形成されていることが確認できた。また、
図34Bを参照して、気孔間の内壁における組織状態を観察すると、MPがVGCF同士を適切に架橋していた。
【0100】
サンプル10では、
図35Aに示すように、スペーサ処理により適切な連続気孔が形成されていた。より具体的には、サンプル10は、サンプル9に形成された連続気孔よりも緻密な連続気孔が形成されており、かつ、各気孔の大きさもほぼ均等に形成されていた。また、サンプル10では、気孔間における内壁の厚みが薄く形成されており、サンプル9よりも基体内の組織がより緻密に構成されていた。さらに、
図35Bを参照して、気孔間の内壁における組織状態を観察すると、MPがVGCF同士を適切に架橋していた。
【0101】
サンプル11では、
図36に示すように、スペーサ処理により理想的な連続気孔が形成されていた。すなわち、サンプル11は、サンプル9および10に形成された連続気孔よりも緻密な連続気孔が形成されており、かつ、各気孔の大きさもほぼ均等に形成されていた。また、サンプル11では、気孔間における内壁の厚みがより薄く形成されていた。
【0102】
このように、スペーサ処理に用いられるNaCl粒子の粒子径をより小さくすることによって、連続気孔における各気孔を微細化できかつ基体内の組織を緻密化できることがわかった。さらに、混合材料を生成する過程で混入されるNaCl粒子の粒子径を適宜変えることにより、上記製造プロセスにより生成される基体の組織状態および連続気孔の大きさを調整できることもわかった。
【0103】
[ニッケル無電解めっき処理]
次に、サンプル9および10に無電解めっき処理を行った。具体的には、温度343kの水(すなわち約70℃のお湯)が満たされた容器内に無電解ニッケルめっき浴槽を浸し、めっき浴の温度が343k(約70℃)かつ水素イオン指数(PH)の値が6.5となるように調整した。そして、サンプル9および10を無電解ニッケルめっき浴槽に約5分間浸漬させた(
図12参照)。これにより、サンプル9および10における基体の外表面ないし連続気孔の表面にニッケル無電解めっき層を形成した。
【0104】
[ニッケル無電解めっき層におけるNi含有率]
上記ニッケル無電解めっき処理を行ったサンプル10(粒子径180〜355μmのNaCl粒子を用いてスペーサ処理した予備成形体)の電子顕微鏡写真を
図37A〜
図38Cに示す。
図37Aおよび
図37Bに示すように、サンプル10に形成されたニッケル無電解めっき層は、基体の外表面から約350μmの深さまで入り込んでいた。
【0105】
また、
図38A〜
図38Cに示すように、サンプル10に形成されたニッケル無電解めっき層は、連続気孔を構成する気孔の表面から約30μmの深さまで入り込むように形成されていた。ここで、ニッケル無電解めっき処理を行ったサンプル10に関し、
図38Bに示した『1』地点および
図38Cに示した『2』地点におけるニッケル原子(Ni)と炭素原子(C)との含有比率の計測結果を表7に示す。
【0106】
【表7】
【0107】
表7に示すように、基体(MPおよびVGCF)組織内に約17%のニッケル原子(Ni)が含有されていた。すなわち、サンプル10では、基体内にニッケルが入り込むようにしてニッケル無電解めっき層が形成されていることを確認した。
【0108】
一方、上記ニッケル無電解めっき処理を行ったサンプル9(粒子径600〜700μmのNaCl粒子を用いてスペーサ処理した予備成形体)の電子顕微鏡写真を
図39〜
図40Bに示す。
図39に示すように、サンプル9に形成されたニッケル無電解めっき層は、基体の外表面から約970μmの深さまで入り込んでいた。すなわち、サンプル9では、サンプル10の計測結果よりも2倍以上の深さまで基体内にニッケルが入り込んでいた。
【0109】
また、ニッケル無電解めっき処理を行ったサンプル9に関し、
図40Aに示した『1』地点および
図40Bに示した『2』地点におけるニッケル原子(Ni)と炭素原子(C)との含有比率を調べた結果を表8に示す。
【0110】
【表8】
【0111】
表8に示すように、基体の組織内において、約10〜13%の範囲でニッケル原子(Ni)が含有されていた。すなわち、サンプル9でも、基体内にニッケルが入り込むようにしてニッケル無電解めっき層が形成されていることを確認した
。このように、基体にニッケル無電解めっき処理を行うことによって、基体の外表面上ないし連続気孔の表面上に積層されるのではなく、基体内にニッケルが浸透することにより、基体の外表面ないし連続気孔の表面から所定の深さまでニッケルが入り込むようにニッケル無電解めっき層が形成されることがわかった。そして、ニッケル無電解めっき処理の前後にかかわらず、各気孔の大きさが変化せず、予備成形体内における連続気孔の気孔率が維持されるようになる。
【0112】
[金属基複合材料の作製]
次に、上記ニッケル無電解めっき処理を行ったサンプル9および10と、ニッケル無電解めっき処理を行わなかったサンプル12とを用いて、低圧含浸法により金属基複合材料を作製した。なお、サンプル12は、ニッケル無電解めっき処理を行う前のサンプル10と同じ構成の予備成形体(すなわちニッケル無電解めっき処理がされていない基体)を用いた。ここで、表9に本実施例による低圧含浸法の作製条件を示す。
【0113】
【表9】
【0114】
具体的には、低圧鋳造装置(
図13参照)の黒鉛鋳型内に上記予備成形体を設置し、その予備成形体の上から母材金属となる溶融アルミニウムを黒鉛鋳型内に流し込んだ。その後、黒鉛からなる封止体により黒鉛鋳型を封止して、アルゴンガスを黒鉛鋳型内に注入し、鋳型内の温度が973k(700℃)になるように黒鉛鋳型を加熱した。この高温かつ不活性ガス雰囲気下で、低圧鋳造装置の押圧具により封止体に約0.8MPaの圧力を鋳型内の予備成形体(サンプル9および10)および溶融アルミニウムに加えて、約10分間(0.6ks)保持した。加圧処理が終了した後、黒鉛鋳型内の加熱状態を解除し、黒鉛鋳型内で冷却処理した。このような低圧含浸法により、予備成形体の連続気孔内にアルミニウムが充填された金属基複合材料が製造された。
【0115】
サンプル12の電子顕微鏡写真を
図41A〜
図43に示す。特に、
図42Aおよび
図42Bに示すように、サンプル12では、母材金属となるアルミニウムと予備成形体との界面付近にマイクロポアが観察された。これは、無電解めっき処理がされていないMPおよびVGCFからなる基体と母材金属(アルミニウム)との濡れ性が低いことに起因し、低圧含浸法のような低圧条件下ではアルミニウムが予備成形体に十分に密着しなかった。
【0116】
次に、サンプル10の電子顕微鏡写真を
図44A〜
図45に示す。同様に、サンプル9の電子顕微鏡写真を
図46〜
図47Bに示す。
図45に示すように、サンプル10では、予備成形体内に入り込んだニッケル無電解めっき層が確認された。また、
図46および
図47Bに示すように、サンプル9でも、予備成形体内に入り込んだニッケル無電解めっき層が確認された。そして、サンプル9および10のいずれも、サンプル12に見られたようなマイクロポアは全く存在しなかった。
【0117】
このように、MPおよびVGCFからなる基体にニッケル無電解めっき処理を行った予備成形体を用いることによって、予備成形体に対する母材金属(アルミニウム)の濡れ性が大幅に改善され、低圧含浸法のような低圧条件下であっても、ニッケル無電解めっき層を介してアルミニウムが予備成形体に十分に密着することがわかった。