特許第6646515号(P6646515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6646515
(24)【登録日】2020年1月15日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】光偏向器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/29 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
   G02F1/29
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-94686(P2016-94686)
(22)【出願日】2016年5月10日
(65)【公開番号】特開2017-203847(P2017-203847A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2018年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000102739
【氏名又は名称】エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰己 詔子
(72)【発明者】
【氏名】山口 城治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 雄三
(72)【発明者】
【氏名】豊田 誠治
(72)【発明者】
【氏名】阪本 匡
(72)【発明者】
【氏名】牛山 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】米山 幸司
(72)【発明者】
【氏名】菅井 栄一
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−195916(JP,A)
【文献】 特表2000−515967(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/137408(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0204858(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104076573(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125
G02F 1/21−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学結晶と、前記電気光学結晶の対向する面に形成され前記電気光学結晶の内部に電界を発生させる正極と負極とからなる電極対とを備え、前記電界の方向と直交するように入射光の光軸が設定され、前記電極対の間に電圧を印加して、前記入射光を偏向させる光偏向器であって、
前記正極と接触し第1のサーミスタを備えた第1の導体保持部と、
前記負極と接触し第2のサーミスタを備えた第2の導体保持部とを備え、
前記第1のサーミスタのa℃におけるゼロ負荷抵抗値をR1、25℃における抵抗値をR25、前記第2のサーミスタのa℃におけるゼロ負荷抵抗値をR2、25℃における抵抗値をR25、a℃での絶対温度をTa、25℃での絶対温度をT25、およびB定数をBとしたとき、直列に接続された前記第1および前記第2のサーミスタの抵抗値R1+R2から、式
【数1】
により検出された温度に基づいて、温度制御手段により前記電気光学結晶を一定の温度に保持することを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
電気光学結晶と、前記電気光学結晶の対向する面に形成され前記電気光学結晶の内部に電界を発生させる正極と負極とからなる電極対とを備え、前記電界の方向と直交するように入射光の光軸が設定され、前記電極対の間に電圧を印加して、前記入射光を偏向させる光偏向器であって、
前記正極と接触し第1の温度検出器を備えた第1の導体保持部と、
前記負極と接触し第2の温度検出器を備えた第2の導体保持部とを備え
前記第1の温度検出器は、第1および第3のサーミスタを含み、前記第2の温度検出器は、第2および第4のサーミスタを含み、前記第1のサーミスタと前記第2のサーミスタとが直列に接続された組と、前記第3のサーミスタと前記第4のサーミスタとが直列に接続された組とが並列に接続され、
前記第1および前記第3のサーミスタのa℃におけるゼロ負荷抵抗値をR1、25℃における抵抗値をR25、前記第2および前記第4のサーミスタのa℃におけるゼロ負荷抵抗値をR2、25℃における抵抗値をR25、a℃での絶対温度をTa、25℃での絶対温度をT25、およびB定数をBとしたとき、前記第1および前記第2の温度検出器の合成抵抗、
【数2】
から、式
【数3】
により検出された温度に基づいて、温度制御手段により前記電気光学結晶を一定の温度に保持することを特徴とする光偏向器。
【請求項3】
前記第1の導体保持部および前記第2の導体保持部によって、前記正極が形成された面および前記負極が形成された面にそれぞれ垂直な方向に、前記電気光学結晶に対して所定の圧力を与える圧力付与手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の光偏向器。
【請求項4】
前記電気光学結晶は、ペロブスカイト型単結晶材料であることを特徴とする請求項1、2またはに記載の光偏向器。
【請求項5】
前記電気光学結晶は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)であることを特徴とする請求項に記載の光偏向器。
【請求項6】
前記正極および前記負極とは、前記電気光学結晶とオーミック接合が形成される材料からなることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の光偏向器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光偏向器に関し、より詳細には、光偏向器の安定動作に必要な温度制御機構をより安価にすることのできる光偏向器の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
光偏向器は、プリンタ、ディスプレイ、OCT等の検査用光学機器、生体観察用レーザ顕微鏡等幅広く用いられている。従来、ポリゴンミラー、ガルバノミラー、MEMSミラー等を用いた光偏向器が提案されている。近年、高速な光偏向器として電気光学結晶であるタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN:KTa1-xNbx3、0<x<1)結晶を用いた光偏向器が報告されている。KTN光偏向器は、いわゆる透過型の光偏向器である。KTN結晶への電子注入および電圧印加によりKTN結晶内部に電界を発生させ、KTN結晶内部に屈折率分布を発生させる。電界の方向と直交するように入射光の光軸が設定され、電界の印加により、結晶内部を透過する光を偏向させる。ガルバノミラー等のように駆動部分を持たない機構により、従来の光偏向よりも高速な光偏向を実現している。
【0003】
KTN光偏向器における偏向角θは、次式で表される(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【数1】
【0005】
nはKTNの屈折率、g11は電気光学定数、eは電気素量、Nは電子数、Lは結晶長、εは誘電率、Vは印加電圧、dは電極間距離である。KTNは、他の電気光学結晶よりも誘電率が大きいため広角な偏向が可能である。また、KTNの誘電率には温度依存性があり、正方晶と立方晶の相転移温度付近で極大となるため、広角及び安定な動作のためには、KTN結晶の温度を相転移温度付近で一定に保つ必要がある。KTNは、その大きな誘電率のため発熱が大きく、KTN結晶の温度を一定に保つには、KTN結晶からの発熱を考慮した温度制御機構が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−195916号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Miyazu, T. Imai, S. Toyoda, M Sasaura, S. Yagi, K. Kato, Y. Sasaki, and K. Fujiura, “New Beam Scanning Model for High-Speed Operation Using KTa1-xNbxO3 Crystals”, Appl. Phys. Express, vol. 4, no. 11, 111501, November 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
KTN結晶の温度を一定に保つ温度制御機構として、温度検出器としてサーミスタを、冷却加熱手段としてペルチェ素子を用いた機構が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
図1に、従来の光偏向器の温度制御機構の第1例を示す。KTN結晶1は、その上下面をグラファイトシート2a、2bで挟み込まれ、2つの金属ブロック3a、3bで保持されている。KTN結晶1の上下面には、制御電圧を印加するための電極が形成され、金属ブロック3a、3bを介して制御電圧源に電気的に接続されている。グラファイトシート2a、2bは、KTN結晶1に高周波制御電圧を印加する場合に、振動によるKTN結晶の破壊を防止するために挿入される。KTN結晶1の両脇には、KTN結晶1の位置決めと、2つの金属ブロックの温度を均一に保つための伝熱材としてアルミニウムナイトライド(AlN)4a,4bを挿入している。
【0010】
金属ブロック3aと支持板5との間にペルチェ素子6が配置され、金属ブロック3aの内部には、サーミスタ7が埋め込まれている。温度制御装置8は、サーミスタ7によって温度を検出して、ペルチェ素子6により金属ブロック3aを加熱して、KTN結晶1を適切な設定温度に維持する。
【0011】
図2に、第1例における環境温度に対するKTN結晶のキャパシタンスの変化を示す。KTN結晶1の上下面に設けた電極間のキャパシタンスを、環境温度に応じて測定した結果である。KTNのキャパシタンスは以下の式で表される。
【0012】
【数2】
【0013】
Sは、KTN結晶1に設けた電極面積である。式(2)に示すように、キャパシタンスは誘電率に比例するため、キャパシタンスの変動をみることにより誘電率の変化を捉えることができる。KTN光偏向器を用いるシステムに要求される誘電率の変動を、キャパシタンスに置き換えると、許容範囲は±0.02nFであるが、図2によれば、±0.2nFの変動が見られる。
【0014】
図3に、従来の光偏向器の温度制御機構の第2例を示す。誘電率の変動を抑制するために、2つのペルチェ素子6a,6bを、金属ブロック3aと支持板5aとの間、金属ブロック3bと支持板5bとの間にそれぞれ配置した。サーミスタ7a,7bも、金属ブロック3a,3bのそれぞれに2つ配置して、2つの温度制御装置8a,8bにより、KTN結晶1の上下両方から温度制御を行う。このような構成により、KTNの温度を一定に保ち、誘電率の変動を抑制する。
【0015】
しかしながら、第2例のKTN光偏向器では、ペルチェ素子を駆動させるための温度制御装置が2台必要になり、KTN光偏向器のサイズが大型となり、製造コストも大きくなってしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、1つの温度制御装置によりKTN結晶の温度を一定に保つことができる光偏向器を提供することにある。
【0017】
本発明は、このような目的を達成するために、一実施態様は、電気光学結晶と、前記電気光学結晶の対向する面に形成され前記電気光学結晶の内部に電界を発生させる正極と負極とからなる電極対とを備え、前記電界の方向と直交するように入射光の光軸が設定され、前記電極対の間に電圧を印加して、前記入射光を偏向させる光偏向器であって、前記正極と接触し第1のサーミスタを備えた第1の導体保持部と、前記負極と接触し第2のサーミスタを備えた第2の導体保持部とを備え、前記第1のサーミスタのa℃におけるゼロ負荷抵抗値をR1、25℃における抵抗値をR25、前記第2のサーミスタのa℃におけるゼロ負荷抵抗値をR2、25℃における抵抗値をR25、a℃での絶対温度をTa、25℃での絶対温度をT25、およびB定数をBとしたとき、直列に接続された前記第1および前記第2のサーミスタの抵抗値R1+R2から、式
【0018】
【数3】
【0019】
により検出された温度に基づいて、温度制御手段により前記電気光学結晶を一定の温度に保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、直列に接続された第1および第2の温度検出器により検出された温度に基づいて、電気光学結晶を一定の温度に保持するように制御するので、1つの温度制御手段によりKTN結晶の温度を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来の光偏向器の温度制御機構の第1例を示す図である。
図2】第1例における環境温度に対するKTN結晶のキャパシタンスの変化を示す図である。
図3】従来の光偏向器の温度制御機構の第2例を示す図である。
図4】本発明の実施例1にかかる光偏向器を示す図である。
図5】実施例1における環境温度に対するKTN結晶のキャパシタンスの変化を示す図である。
図6】本発明の実施例2にかかる光偏向器を示す図である。
図7】本発明の実施例3にかかる光偏向器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
図4に、本発明の実施例1にかかる光偏向器を示す。図4は、光の入射方向から見たKTN光偏向器である。KTN結晶11は、その上下面をグラファイトシート12a、12bで挟み込まれ、2つの金属ブロック(導体保持部)13a、13bで保持されている。KTN結晶11の対向する上下の面には、制御電圧を印加するための正極と負極とからなる電極対が形成され、それぞれに接触する金属ブロック13a、13bを介して制御電圧源に電気的に接続されている。制御電圧源からの電圧印加と、KTN結晶11への電子注入によりKTN結晶11内部に電界を発生させ、KTN結晶11内部に屈折率分布を発生させる。電界の方向と直交するように入射光の光軸が設定され、電極対の間に電圧を印加して、入射光を偏向させる。
【0024】
グラファイトシート12a、12bは、KTN結晶11に高周波制御電圧を印加する場合に、振動によるKTN結晶の破壊を防止するために挿入される。KTN結晶11の両脇には、KTN結晶11の位置決めと、2つの金属ブロックの温度を均一に保つための伝熱材としてアルミニウムナイトライド(AlN)14a,14bを挿入している。
【0025】
金属ブロック13aと支持板15との間にペルチェ素子16が配置され、金属ブロック13a,13bの内部には、それぞれサーミスタ(温度検出器)17a,17bが埋め込まれている。温度制御装置18は、サーミスタ17a,17bによって温度を検出して、ペルチェ素子16により金属ブロック13aを加熱または冷却して、KTN結晶11を適切な設定温度(一定温度)に維持する。
【0026】
ここで、温度制御装置18は、直列に接続されたサーミスタ17aとサーミスタ17bの抵抗値を測定することにより温度を検出する。すなわち、KTN結晶11の発熱による金属ブロック13a、13bの双方の温度上昇をフィードバックすることができる。また、KTN結晶11の発熱だけでなく、環境温度の変化による金属ブロック13a、13bの温度変化に対しても対応することができ、KTN結晶11の誘電率を一定に保つことができる。
【0027】
さらに、このような構成により、温度制御装置18およびペルチェ素子16を1組だけ使用することにより温度制御が可能となる。従って、KTN光偏向器の大型化を防ぎ、製造コストを抑制することができる。
【0028】
図5に、実施例1における環境温度に対するKTN結晶のキャパシタンスの変化を示す。KTN結晶11には、周波数20kHz、振幅600Vppの印加電圧を加える。環境温度を20−40℃の間で継時的に変化させ、金属ブロック13a、13bのKTN結晶のキャパシタンスを測定した。従来例の図2と比較すると、実施例1によれば、KTN結晶のキャパシタンスの変化が、許容範囲の±0.02nF以内に収まっており、環境温度が20℃変化しても殆ど影響を受けていないことがわかる。
【0029】
KTN結晶は、電圧印加の際に電歪が生じ、KTN結晶に加えられる圧力によって誘電率が変化する。このため、KTN結晶の電歪を吸収し、KTN結晶への圧力を一定に保つために、ばね等を利用したKTN結晶の保持機構が有効である(例えば、特許文献1参照)。例えば、2つの金属ブロック(導体保持部)13a、13bによって、正極が形成された面および負極が形成された面にそれぞれ垂直な方向に、KTN結晶に対して所定の圧力を与える圧力付与手段を備えることができる。このような保持機構の有無および形状・構成は、どのようなものでも構わない。また、上下の熱移動についても上下電極間の絶縁性が保持されていれば、どのような形状でも構わない。サーミスタの構成についても、上下電極それぞれの温度を検出できれば設置箇所・個数等を含めどのような構成になっていても構わない。
【実施例2】
【0030】
図6に、本発明の実施例2にかかる光偏向器を示す。実施例1の光偏向器がy軸方向の1軸の光偏向を行うのに対して、実施例2の光偏向器は、x軸とy軸の2軸の光偏向を行う。y軸方向の光偏向を行う前段の光偏向素子の構成は、実施例1の光偏向器と同じである。KTN結晶21は、その上下面をグラファイトシート22a、22bで挟み込まれ、2つの金属ブロック(導体保持部)23a、23bで保持されている。KTN結晶21の対向する上下の面には、制御電圧を印加するための正極と負極とからなる電極対が形成され、それぞれに接触する金属ブロック23a、23bを介して制御電圧源に電気的に接続されている。KTN結晶21の両脇には、KTN結晶21の位置決めと、2つの金属ブロックの温度を均一に保つための伝熱材としてアルミニウムナイトライド(AlN)24a,24bを挿入している。金属ブロック23aを伝熱板25の上面に載置し、伝熱板25の下面にペルチェ素子26が配置される。金属ブロック23a,23bの内部には、それぞれサーミスタ27a,27bが埋め込まれている。
【0031】
前段の光偏向素子と、x軸方向の光偏向を行う後段の光偏向素子との間には、半波長板29が挿入され、それぞれ同一の光軸上に配置され、前段の光偏向素子と後段の光偏向素子とは、光軸を中心軸として90度の角度を成すように、設置されている。前段の光偏向素子からの出射光は、半波長板29を透過して、後段の光偏向素子に入射される。
【0032】
後段の光偏向素子の構成も、実施例1の光偏向器の構成と同じである。KTN結晶31は、その左右の面をグラファイトシート32a、32bで挟み込まれ、2つの金属ブロック(導体保持部)33a、33bで保持されている。KTN結晶31の対向する左右の面には、制御電圧を印加するための正極と負極とからなる電極対が形成され、それぞれに接触する金属ブロック33a、33bを介して制御電圧源に電気的に接続されている。KTN結晶31の上下には、KTN結晶31の位置決めと、2つの金属ブロックの温度を均一に保つための伝熱材としてアルミニウムナイトライド(AlN)34a,34bを挿入している。金属ブロック33a,33bの一方の側面を伝熱板25の上面に載置する。金属ブロック33a,33bの内部には、それぞれサーミスタ37a,37bが埋め込まれている。
【0033】
温度制御装置28は、サーミスタ27a,27bによって前段の光偏向素子の温度を検出し、サーミスタ37a,37bによって後段の光偏向素子の温度を検出する。4つのサーミスタ27a,27b,37a,37bは直列に接続され、温度制御装置18は、これらの直列抵抗値を測定することにより、双方の光偏向素子の温度上昇をフィードバックすることができる。温度制御装置28は、ペルチェ素子26により金属ブロック23a,33a,33bを加熱して、KTN結晶21,31を適切な設定温度に維持する。
【0034】
実施例2によれば、前後段の光偏向素子を含む光偏向器全体を、1つの温度制御装置により制御することができる。なお、伝熱板の構成については、各金属ブロックと接することができ、ペルチェ素子を熱的に結合できる構成であればどのような形状でもよい。
【実施例3】
【0035】
複数のサーミスタを直列に接続した時の温度制御装置の設定について述べる。サーミスタによって検出される温度は以下の式から算出される。
【0036】
【数4】
【0037】
Taはa℃での絶対温度、Raはa℃でのゼロ負荷抵抗値、T25は25℃での絶対温度、R25は25℃でのサーミスタの抵抗値、BはB定数である。実施例1のようにサーミスタを2つ直列に接続したとき、それぞれの抵抗をR1、R2としたとき、検出される温度は、
【0038】
【数5】
【0039】
と近似した場合、次式となる。
【0040】
【数6】
【0041】
式(3)と比較すると、サーミスタの抵抗値R25を2倍にすることにより、RaとR1+R2とを同等に扱うことができる。すなわち、サーミスタの抵抗値R25を2倍に設定変更するだけにより、従来の単一のサーミスタを接続した場合と同様に、直複数のサーミスタを直列に接続した場合でも、ペルチェ素子を駆動させることができる。
【0042】
図7に、本発明の実施例3にかかる光偏向器を示す。KTN結晶41は、その上下面をグラファイトシート42a、42bで挟み込まれ、2つの金属ブロック(導体保持部)43a、43bで保持されている。KTN結晶41の対向する上下の面には、制御電圧を印加するための正極と負極とからなる電極対が形成され、それぞれに接触する金属ブロック43a、43bを介して制御電圧源に電気的に接続されている。KTN結晶41の両脇には、KTN結晶41の位置決めと、2つの金属ブロックの温度を均一に保つための伝熱材としてアルミニウムナイトライド(AlN)44a,44bを挿入している。金属ブロック43aと支持板45との間にペルチェ素子46が配置され、金属ブロック43aの内部には、複数のサーミスタ(複数の温度検出素子)47a,47cが、金属ブロック43bの内部には、複数のサーミスタ(複数の温度検出素子)47b,47dが、それぞれ埋め込まれている。
【0043】
サーミスタ47a(抵抗値R1)とサーミスタ47b(抵抗値R2)とが直列に接続され、サーミスタ47c(抵抗値R1)とサーミスタ47d(抵抗値R2)とが直列に接続され、前者のサーミスタの組と後者のサーミスタの組とが並列に接続され、温度制御装置48に接続されている。この場合、4つの合成抵抗は、
【0044】
【数7】
【0045】
となる。
【0046】
また、4か所の平均温度は、
【0047】
【数8】
【0048】
となる。
【0049】
このとき、温度制御装置48によって検出される温度は式(3)と同じになる。従って、温度制御装置48は、実施例2の温度制御装置38の設定を変更せずに、そのまま適用することができる。
【0050】
(電気光学材料)
本実施形態においては、電気光学結晶としてKTN結晶を例に説明したが、反転対称性を有するペロブスカイト型の結晶構造を有する単結晶材料を用いることもできる。KTNに関連する単結晶材料として、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含む材料を用いることができる。また、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、例えばリチウム、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。例えば、立方晶相のKLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3、0<x<1、0<y<1)結晶を用いることもできる。
【0051】
その他に、PbTi1-xZrx3(PZT)や、これにLaを添加したPLZTも、ペロブスカイト型結晶であり、組成と使用温度の選択により、反転対称性を持たせることができる。これらは、単結晶でなくても、多結晶の焼結体としても用いることができる。
【0052】
(電極材料)
電気光学結晶に高い電圧を印加すると、電極から電荷が注入され、結晶内に空間電荷が発生しうる。この空間電荷により電圧の印加方向に電界の大きさの傾斜が生じるために、屈折率の変調にも傾斜が生じる。従って、電気光学材料を本実施形態の光偏向器として機能させるため、所望の屈折率分布を得るためには、電気光学結晶に電圧を印加した際に、電気光学結晶の内部に高密度の空間電荷が形成されるのがよい。
【0053】
空間電荷の量は、キャリアの注入効率に依存する量である。電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数が小さくなるにつれて、電極と基板との間はオーミック接合に近づき、キャリアの注入効率は増加する。従って、本実施形態のKTN結晶の対向する面に形成された電極は、KTN結晶とオーミック接合が形成される材料であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV未満の電極材料として、Ti(3.84)等を用いることができる。()内は仕事関数を示し、単位はeVである。なお、Tiの単層電極は、酸化して高抵抗になるので、一般的には、Ti/Pt/Auを順に積層した電極を用いて、Tiの層と電気光学結晶とを接合させる。さらに、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnOなどの透明電極を用いることもできる。
【0054】
一方、電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが正孔の場合には、正孔を効率よく注入するために、電極材料の仕事関数は、5.0eV以上であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV以上の電極材料として、Co(5.0)、Ge(5.0)、Au(5.1)、Pd(5.12)、Ni(5.15)、Ir(5.27)、Pt(5.65)、Se(5.9)を用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
1,11,21,31,41 KTN結晶
2,12,22,32,42 グラファイトシート
3,13,23,33,43 金属ブロック
4,14,24,34,44 アルミニウムナイトライド(AlN)
5,15,45 支持板
6,16,26,46 ペルチェ素子
7,17,27,37,47 サーミスタ
8,18,28,48 温度制御装置
25 伝熱板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7