(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1電極と前記第1赤色用有機光電変換膜との間、又は、前記第1赤色用有機光電変換膜と前記第2電極との間に配設され、亜鉛フタロシアニンを含有する、第2赤色用有機光電変換膜をさらに含む、請求項1乃至3のいずれか一項記載の撮像素子。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の撮像素子を適用した実施の形態について説明する。
【0010】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1の撮像素子50の断面構成を示す図である。
図2は、撮像素子50の理想的な分光特性の一例を示す図である。
【0011】
撮像素子50は、ガラス基板10R、10G、10B、TFT(Thin Film Transistor)読み出し回路20R、20G、20B、光電変換部100R、光電変換部100G、及び光電変換部100Bを含む。読み出し回路はTFTだけではなく、バルクSiやSOI (Silicon on Insulator)を用いたトランジスターを用いてもよい。
【0012】
これらの構成要素は、ガラス基板10R、TFT読み出し回路20R、光電変換部100R、ガラス基板10G、TFT読み出し回路20G、光電変換部100G、ガラス基板10B、TFT読み出し回路20B、及び光電変換部100Bの順に積み重ねられている。なお、光電変換部100R、100G、および100Bの各層間が離れていることによる光学像のフォーカスぼけの影響を無くすため、ガラス基板10Gおよび10Bを例えば100nm〜10μm程度の薄い層間絶縁膜(酸化ケイ素や窒化ケイ素などの金属酸化物、金属窒化物、有機絶縁体材料)にして、光電変換部100R、100G、および100Bを近接配置することが望ましい。
【0013】
図1において、撮像素子50には、矢印で示すように上側から光が入射する。なお、以下では説明の便宜上、
図1における光入射側を上側と称し、光入射側とは反対側を下側と称す。しかしながら、この上下関係は説明の便宜上のものに過ぎず、普遍的な上下関係を表すものではない。
【0014】
ガラス基板10B、TFT読み出し回路20B、及び光電変換部100Bは、光の三原色のうちの青色に光感度を有する撮像部を構築する。ガラス基板10G、TFT読み出し回路20G、及び光電変換部100Gは、光の三原色のうちの緑色に光感度を有する撮像部を構築する。また、ガラス基板10R、TFT読み出し回路20R、光電変換部100Rは、光の三原色のうちの赤色に光感度を有する撮像部を構築する。
【0015】
撮像素子50の分光特性は、一例として、
図2に示す通りである。
図2において、横軸は波長(nm)、縦軸は、光電変換部100B、100G、100Rの光に対する応答信号量を任意単位(A.U.)で表したものである。
【0016】
図2に示すように、光電変換部100Bの分光感度(青色)は、約400nmから約520nmの範囲である。光電変換部100Gの分光感度(緑色)は、約460nmから約620nmの範囲である。光電変換部100Rの分光感度(赤色)は、約535nmから約700nmの範囲であり、分光感度のピーク値(最大値)を与える波長は、約600nmである。
【0017】
実施の形態1の撮像素子50は、赤色に分光感度を有する光電変換部100Rの最適化を行ったものである。このため、以下では、光電変換部100Rについて重点的に説明する。
【0018】
次に、
図1に示す各構成要素の詳細について説明する。まず、ガラス基板10R、TFT読み出し回路20R、及び光電変換部100Rについて説明する。
【0019】
ガラス基板10Rは、一方の表面(
図1中の上面)にTFT読み出し回路20Rが形成される。
図1では撮像素子50を簡略化して示すが、ガラス基板10Rは、光の入射方向から見て(平面視で)矩形状のガラス基板であり、マトリクス状に配列される複数の画素に対応する領域を有する。
【0020】
TFT読み出し回路20Rは、ガラス基板10Rの一方の表面(
図1中の上面)に配設されており、画素に対応して区分される複数の領域を有する。TFT読み出し回路20Rは、光電変換部100Rが光電変換して出力する電荷を画素毎に撮像信号として読み出す。
【0021】
光電変換部100Rは、陽極110R、正孔注入ブロック層120R、有機光電変換膜130R、電子注入ブロック層140R、及び陰極150Rを有する。なお、
図1では図示を省略するが、陽極110Rと陰極150Rの間には、直流電源が接続される。直流電源の正端子は陽極110Rに接続され、負端子は陰極150Rに接続される。
【0022】
陽極110Rは、有機光電変換膜130Rで発生する電荷のうちの電子を取り出す電極である。陽極110Rは、第1電極の一例である。
【0023】
陽極110Rは、透明性電極又は非透明性電極で構成される。透明性電極としては、酸化インジウム・酸化亜鉛複合体(IZO:Indium Zinc Oxide)、インジウムスズ酸化物、インジウム酸化物、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0024】
透明性電極でない場合は、アルミニウム、バナジウム、金、銀、白金、鉄、コバルト、炭素、ニッケル、タングステン、パラジウム、マグネシウム、カルシウム、スズ、鉛、チタン、イットリウム、リチウム、ルテニウム、マンガン等の金属、及び、これらの合金を用いることができる。
【0025】
正孔注入ブロック層120Rは、陽極110Rの上に配設される。正孔注入ブロック層120Rは、例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)で形成することができる。正孔注入ブロック層120Rは、陽極110Rから有機光電変換膜130Rへの正孔の注入を抑制し、有機光電変換膜130Rから陽極110Rに電子を流出させる。
【0026】
有機光電変換膜130Rは、正孔注入ブロック層120Rの上に配設される。有機光電変換膜130Rは、ホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)膜を用いる。
【0027】
ホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)膜は、電子を受容するドナー性と電子を与えるアクセプター性の両方の性質を持った、両極性有機半導体分子であることが知られており、光照射によりホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)膜内で発生した励起子が解離することにより生成される電荷対、すなわち電子および正孔を共に効率良く輸送できる性質を有している。
【0028】
このようなホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)膜は、膜厚又は印加電圧によって、光の三原色のうちの赤色に分光感度を有することが判明した。この詳細は、
図4乃至
図6を用いて後述する。
【0029】
なお、ここでは、有機光電変換膜130Rがホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)膜(1層)によって構成される形態について説明するが、有機光電変換膜130Rは、ホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)膜に加えて、他の組成の膜を含んでもよいし、ホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)に、他の組成の有機材料を混合した膜であってもよい。
【0030】
電子注入ブロック層140Rは、有機光電変換膜130Rの上に配設される。電子注入ブロック層140Rは、Spiro-2CBP (2,7-Bis(9-carbazolyl)-9,9-spirobifluorene)で形成することができる。電子注入ブロック層140Rは、陰極150Rから有機光電変換膜130Rへの電子の注入を抑制し、有機光電変換膜130Rから陰極150Rに正孔を流出させる。
【0031】
陰極150Rは、有機光電変換膜130Rで発生する電荷のうちの正孔を取り出す電極である。陰極150Rは、第2電極の一例である。
【0032】
陰極150Rは、有機光電変換膜130Rよりも光入射側にあるため、透明性電極で構成される。透明性電極としては、酸化インジウム・酸化亜鉛複合体(IZO:Indium Zinc Oxide)、インジウムスズ酸化物、インジウム酸化物、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0033】
なお、以上のような構成の光電変換部100Rは、例えば、ガラス基板10Rの上に半導体製造技術を利用してTFT読み出し回路20Rを形成した上に、陽極110R、正孔注入ブロック層120R、有機光電変換膜130R、電子注入ブロック層140R、及び陰極150Rを順次蒸着等することによって形成することによって作製することができる。
【0034】
次に、ガラス基板10G、TFT読み出し回路20G、及び光電変換部100Gについて説明する。
【0035】
ガラス基板10Gは、一方の表面(
図1中の上面)にTFT読み出し回路20Gが形成される。ガラス基板10Gとしては、ガラス基板10Rと同様のものを用いればよい。
【0036】
TFT読み出し回路20Gは、ガラス基板10Gの一方の表面(
図1中の上面)に配設される。TFT読み出し回路20Gとしては、TFT読み出し回路20Rと同様のものを用いればよい。
【0037】
光電変換部100Gは、陽極110G、正孔注入ブロック層120G、有機光電変換膜130G、電子注入ブロック層140G、及び陰極150Gを有する。これらは、この順に重ね合わされている。
図1では図示を省略するが、陽極110Gと陰極150Gの間には、直流電源が接続される。直流電源の正端子は陽極110Gに接続され、負端子は陰極150Gに接続される。
【0038】
陽極110G及び陰極150Gは、それぞれ、陽極110R及び陰極150Rに用いる透明性電極で構成すればよい。
【0039】
正孔注入ブロック層120Gは、陽極110Gの上に配設されており、例えば、フェナンスロリン系化合物、アルミニウムキノリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等で形成すればよい。
【0040】
有機光電変換膜130Gは、正孔注入ブロック層120Gの上に配設されており、例えば、キナクリドン系化合物(電子供与性材料)とペリレン系化合物(電子受容性材料)で形成すればよい。
【0041】
電子注入ブロック層140Gは、有機光電変換膜130Gの上に配設されており、例えば、トリフェニルアミン系化合物等で形成すればよい。
【0042】
このような光電変換部100Gは、
図2に示す約460nmから約620nmの範囲の緑色に対応した分光感度を有する。
【0043】
次に、ガラス基板10B、TFT読み出し回路20B、及び光電変換部100Bについて説明する。
【0044】
ガラス基板10Bは、一方の表面(
図1中の上面)にTFT読み出し回路20Bが形成される。ガラス基板10Bとしては、ガラス基板10Rと同様のものを用いればよい。
【0045】
TFT読み出し回路20Bは、ガラス基板10Bの一方の表面(
図1中の上面)に配設される。TFT読み出し回路20Bとしては、TFT読み出し回路20Rと同様のものを用いればよい。
【0046】
光電変換部100Bは、陽極110B、正孔注入ブロック層120B、有機光電変換膜130B、電子注入ブロック層140B、及び陰極150Bを有する。これらは、この順に重ね合わされている。
図1では図示を省略するが、陽極110Bと陰極150Bの間には、直流電源が接続される。直流電源の正端子は陽極110Bに接続され、負端子は陰極150Bに接続される。
【0047】
陽極110B及び陰極150Bは、それぞれ、陽極110R及び陰極150Rに用いる透明性電極で構成すればよい。
【0048】
正孔注入ブロック層120Bは、陽極110Bの上に配設されており、例えば、フェナンスロリン系化合物、アルミニウムキノリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等で形成すればよい。
【0049】
有機光電変換膜130Bは、正孔注入ブロック層120Bの上に配設されており、例えば、クマリン系化合物(電子供与性材料)とシロール系化合物(電子受容性材料)で形成すればよい。
【0050】
電子注入ブロック層140Bは、有機光電変換膜130Bの上に配設されており、例えば、トリフェニルアミン系化合物等で形成すればよい。
【0051】
このような光電変換部100Bは、
図2に示す約400nmから約520nmの範囲の青色に対応した分光感度を有する。
【0052】
なお、ここでは、光電変換部100B、100G、100Rに、それぞれ、TFT読み出し回路20R、20G、20Bが設けられる形態について説明したが、光電変換部100Rの下に1つのTFT読み出し回路を設けて光電変換部100B、100G、100Rとビア等で接続し、光電変換部100B、100G、100Rで得られる画像信号を読み出してもよい。
【0053】
図3は、実施の形態1の一実施例による光電変換部100Rの構成を示す図である。
【0054】
図3には、ガラス基板30の上に、陰極150R、電子注入ブロック層140R、有機光電変換膜130R、正孔注入ブロック層120R、及び陽極110Rの順に形成した光電変換部100Rを示す。光は、矢印で示すように、下側から入射する。また、
図3では、陽極110Rに電源160の正端子が接続され、陰極150Rに負端子が接続されている。
【0055】
陽極110R、正孔注入ブロック層120R、有機光電変換膜130R、電子注入ブロック層140R、及び陰極150Rとしては、以下の条件のものを用いた。ここでは、陰極150R、電子注入ブロック層140R、有機光電変換膜130R、正孔注入ブロック層120R、及び陽極110Rの順に説明する。
【0056】
陰極150Rとしては、ガラス基板30の上に予め形成されているIZO(酸化インジウム・酸化亜鉛複合体)(登録商標)薄膜を用いた。陰極150Rの膜厚は、150nmである。
【0057】
このような陰極150Rの上に、電子注入ブロック層140R、有機光電変換膜130R、正孔注入ブロック層120R、及び陽極110Rを真空蒸着法によって順次形成した。
【0058】
電子注入ブロック層140Rは、Spiro-2CBP (2,7-Bis(9-carbazolyl)-9,9-spirobifluorene)製であり、膜厚は30nmである。有機光電変換膜130Rは、ホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)製であり、膜厚は50nmである。正孔注入ブロック層120Rは、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)製であり、膜厚は30nmである。陽極110Rは、アルミニウム製の薄膜であり、膜厚は50nmである。
【0059】
このようにして作製した光電変換部100Rの陽極110Rと陰極150Rの間に電源160から電圧を印加して、光を照射し、外部量子効率を計測した。なお、照射光は、波長範囲が320nmから800nmの単色光であり、出力は50μW/cm
2で一定にした。
【0060】
図4は、
図3の光電変換部100Rで得られた外部量子効率の波長特性を示す図である。横軸は波長(nm)、縦軸は外部量子効率(%)を示す。なお、電源160から陽極110Rと陰極150Rの間に印加する電圧は、15Vに設定した。また、以下では、ホウ素サブナフタロシアニンクロリドをSubNcと称す。
【0061】
図4に示すように、有機光電変換膜130Rに50nmのSubNc膜を用いた光電変換部100Rは、約550nmから約730nmの波長帯域において大きな分光感度を有することが判明した。これは、光の三原色における赤色に相当する波長帯域である。
【0062】
外部量子効率のピーク値は約80%であり、高効率な赤色用有機光電変換膜として動作することを確認できた。また、電源160の出力電圧を15Vに設定したときの暗電流値は20nA/cm
2であり、撮像素子50として利用可能な、十分に低い値が得られた。
【0063】
また、電源160の出力電圧を変化させたところ、
図5に示すような外部量子効率の波長特性を得た。
【0064】
図5は、電源160の出力電圧に対する光電変換部100Rの外部量子効率の波長特性を示す図である。
【0065】
図5は、SubNc膜の膜厚が100nmの有機光電変換膜130Rを含む光電変換部100Rに対して、電源160から20Vの電圧を印加した特性(実線)と、電源160から15Vの電圧を印加した特性(破線)と、電源160から10Vの電圧を印加した特性(一点鎖線)とを示す。
【0066】
図5に示すように、電源160の電圧の増大に応じて、外部量子効率が増大することが判明した。また、電源160の電圧を変化させると、外部量子効率のピーク値を与える波長は多少変化するが、特性の形状は殆ど同一であった。外部量子効率のピーク値を与える波長は、すべて約600nm前後であり、電源160の電圧の増大に応じて、波長が少しずつ長波長側にシフトすることが分かった。
【0067】
以上の結果から、外部量子効率は、SubNc膜の印加電圧に大きく依存し、印加電圧を10Vから20Vまで増大させると、外部量子効率は増大することが分かった。また、波長に対する外部量子効率の分布は殆ど変化しないが、印加電圧の増大に応じて、ピーク値を与える波長は少しずつ長波長側にシフトすることが分かった。
【0068】
また、有機光電変換膜130Rとして用いるSubNc膜の膜厚が異なる光電変換部100Rを作製し、電源160の出力電圧を変化させたところ、
図6に示すような外部量子効率の波長特性を得た。
【0069】
図6は、有機光電変換膜130Rの膜厚と電源160の出力電圧に対する光電変換部100Rの外部量子効率の波長特性を示す図である。
【0070】
図6には、SubNc膜(有機光電変換膜130R)の膜厚を100nmにして電源160から20Vの電圧を印加した特性(実線)と、SubNc膜(有機光電変換膜130R)の膜厚を50nmにして電源160から15Vの電圧を印加した特性(破線)と、SubNc膜(有機光電変換膜130R)の膜厚を50nmにして電源160から10Vの電圧を印加した特性(一点鎖線)とを示す。
【0071】
図6に示すように、SubNc膜の膜厚と電源160の電圧とに応じて、外部量子効率のピーク値を与える波長が変化することが分かった。膜厚が100nmで印加電圧が20Vの場合には、約85%というピーク値は、約600nmで得られた。
【0072】
膜厚が50nmで印加電圧が15Vの場合には、約80%というピーク値は、約670nmで得られた。この特性は、
図4に示す特性と同一である。また、膜厚が50nmで印加電圧が10Vの場合には、約72%というピーク値は、約670nmで得られた。
【0073】
以上の結果から、外部量子効率のピーク値を与える波長は、SubNc膜の膜厚に大きく依存することが分かった。
【0074】
従って、有機光電変換膜130Rを撮像素子50に用いる場合に、赤色用の外部量子効率のピーク値が撮像素子50の赤色用の分光感度の特性に合うように、有機光電変換膜130Rの膜厚を設定すればよい。
【0075】
また、
図6に示す特性において、膜厚が50nmで印加電圧が15VのSubNc膜(破線)と、膜厚が50nmで印加電圧が10VのSubNc膜(一点鎖線)とを比べると、赤色用の波長帯域は、ともに約550nmから約730nmである。
【0076】
これに対して、膜厚が100nmで印加電圧が20VのSubNc膜(実線)の外部量子効率は、約550nmあたりの値が増大して、赤色用の波長帯域が拡がっている。この結果から、SubNc膜の膜厚を変更することにより、赤色用の波長帯域の幅を設定できることが分かった。
【0077】
従って、有機光電変換膜130Rを撮像素子50に用いる場合に、赤色用の波長帯域が撮像素子50の赤色用の分光感度の特性に合うように、有機光電変換膜130Rの膜厚を設定すればよい。
【0078】
以上、実施の形態1によれば、赤色用の有機光電変換膜130RとしてSubNc膜を用いるとともに、有機光電変換膜130Rの両側に正孔注入ブロック層120R及び電子注入ブロック層140Rを設けることにより、赤色の波長帯域における光電変換効率が非常に高い光電変換部100Rを実現することができる。
【0079】
また、青色用の光電変換部100Bと、緑色用の光電変換部100Gとは、上述のような組成の有機光電変換膜130Bと有機光電変換膜130Gとをそれぞれ含むことにより、非常に高い光電変換効率が得られることが分かっている。
【0080】
このような高効率な青色用の光電変換部100Bとしては、青色光に感度を持つクマリン30やクマリン誘導体と電子輸送性有機材料の混合膜が、緑色用の光電変換部100Gとしては緑色光に感度を持つキナクリドンやキナクリドン誘導体と電子輸送性有機材料の混合膜が挙げられ、共に光電変換効率60%以上の高い効率を得ることができる。混合する電子輸送性有機材料には、青色、緑色それぞれに適した材料を選択することができる。この電子輸送性有機材料のHOMOレベルとLUMOレベルはそれぞれ、光電変換部100Bまたは100Gの有機分子のHOMOレベルとLUMOレベルよりも低いことが望ましく、例えばフラーレンC
60、C
70、フラーレン誘導体、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)などが挙げられる。なお、暗電流を低減するために、100Bと電子・正孔ブロッキング層を組み合わせてもよい。
【0081】
このため、実施の形態1によれば、上述のような青色用の光電変換部100Bと緑色用の光電変換部100Gに、赤色用の光電変換部100Rを重ねて設けることにより、光電変換効率を改善した撮像素子50を提供することができる。
【0082】
また、有機光電変換膜130Rの両側に正孔注入ブロック層120R及び電子注入ブロック層140Rを設けることにより、暗電流を大幅に低減することができるので、暗電流によるノイズを大幅に低減した撮像素子50を提供することができる。
【0083】
なお、以上では、陰極150B、150G、150R側から光電変換部100B、100G、100Rに光が入射する形態について説明したが、陽極110B、110G、110R側から光電変換部100B、100G、100Rに光が入射するようにしてもよい。この場合には、陽極110Rを透明性電極で構成すればよく、陰極150Rについては非透明性電極であってもよい。
【0084】
<実施の形態2>
図7は、実施の形態2の一実施例による光電変換部200Rの構成を示す図である。
【0085】
実施の形態2の撮像素子は、実施の形態1の光電変換部100Rを光電変換部200Rに置き換えたものである。光電変換部200Rは、陽極110R、有機光電変換膜230R、及び陰極150Rを有する。光電変換部200Rは、実施の形態1の有機光電変換膜130Rを有機光電変換膜230Rに置き換えて、正孔注入ブロック層120R及び電子注入ブロック層140Rを取り除いた構成を有する。
【0086】
図7には、ガラス基板30の上に、陰極150R、有機光電変換膜230R、及び陽極110Rの順に形成した光電変換部200Rを示す。光は、矢印で示すように、下側から入射する。また、
図7では、陽極110Rに電源160の正端子が接続され、陰極150Rに負端子が接続されている。
【0087】
有機光電変換膜230Rとしては、以下の条件のものを用いた。なお、陽極110R及び陰極150Rは、実施の形態1の光電変換部100Rの陽極110R及び陰極150Rと同様であるため、説明を省略する。
【0088】
有機光電変換膜230Rとして、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)膜と、ホウ素サブナフタロシアニンクロリド(SubNc)膜とを用いた。なお、以下では、亜鉛フタロシアニンをZnPcと称し、ホウ素サブナフタロシアニンクロリドをSubNcと称す。
【0089】
有機光電変換膜230Rは、真空蒸着法によって、陰極150Rの上に、ZnPc膜とSubNc膜とを順次形成することによって作製した。ZnPc膜及びSubNc膜の膜厚は、ともに50nmである。
【0090】
このようにして作製した光電変換部200Rの陽極110Rと陰極150Rの間に電源160から電圧を印加して、光を照射し、外部量子効率を計測した。なお、実施の形態1と同様に、照射光は、波長範囲が320nmから800nmの単色光であり、出力は50μW/cm
2で一定にした。
【0091】
図8は、
図7の光電変換部200Rで得られた外部量子効率の波長特性を示す図である。横軸は波長(nm)、縦軸は外部量子効率(%)を示す。なお、電源160から陽極110Rと陰極150Rの間に印加する電圧は、2Vに設定した。
【0092】
図8に示すように、有機光電変換膜230Rに50nmのZnPc膜と50nmのSubNc膜とを用いた光電変換部200Rは、約550nmから約730nmの波長帯域において分光感度を有することが判明した。これは、光の三原色における赤色に相当する波長帯域である。
【0093】
また、外部量子効率のピーク値は約30%であった。なお、比較用に、膜厚が100nmのZnPc膜のみの有機光電変換膜を作製して、同様に外部量子効率を測定したところ、ピーク値は約8%であった。
【0094】
このため、ZnPc膜にSubNc膜を加えることにより、外部量子効率が大幅に改善されることが分かった。なお、実施の形態1の有機光電変換膜130Rに比べて外部量子効率が低いのは、有機光電変換膜230Rに印加した電圧が低いことと、正孔注入ブロック層120R及び電子注入ブロック層140Rを含まないこととによるものと思われる。
【0095】
また、有機光電変換膜230Rに50nmのZnPc膜と50nmのSubNc膜とを用いた光電変換部200Rにおいて、電源160の出力電圧が2Vのときの暗電流は、82nA/cm
2であった。
【0096】
なお、電源160の電圧をさらに増大させると、暗電流が急激に増大することが分かった。このため、電源160の出力電圧を例えば5V以上にするような場合には、正孔注入ブロック層120R及び電子注入ブロック層140Rを設けた方が良いことが分かった。
【0097】
ところで、
図8に示す外部量子効率の波長特性は、
図4に示す特性に比べて、約530nmから約600nmの範囲に、小高い丘のような形状の特性が生じていることが分かった。
【0098】
また、このような約530nmから約600nmの範囲の小高い丘のような特性は、実施の形態1の
図6に示したSubNc膜(50nm)に15Vを印加した特性(破線)と、SubNc膜(50nm)に10Vを印加した特性(一点鎖線)には生じていない。
【0099】
実施の形態1の
図6に示したSubNc膜(50nm)に15Vを印加した特性(破線)と、SubNc膜(50nm)に10Vを印加した特性(一点鎖線)とを比べて分かるように、膜厚が50nmのSubNc膜の外部量子効率のピークは、約670nmである。
【0100】
このため、
図8における約670nmで得られたピークは、有機光電変換膜230RのうちのSubNc膜(50nm)によって得られたものであると考えられる。
【0101】
一方、ZnPcは、約600nmあたりに外部量子効率のピーク値が存在する特性を有することが分かっている。
【0102】
従って、
図8に示す外部量子効率の波長特性における約530nmから約600nmの範囲の小高い丘のような特性は、有機光電変換膜230RのうちのZnPc膜(50nm)によって得られたものであると考えられる。
【0103】
以上より、実施の形態2によれば、ZnPc膜にSubNc膜を加えた構成の有機光電変換膜230Rを用いることにより、外部量子効率を大幅に改善できることが分かった。
【0104】
また、外部量子効率のピーク値をもたらす波長が互いに異なるZnPc膜とSubNc膜を用いることにより、外部量子効率の波長特性の分布を調整できることが分かった。すなわち、ZnPc膜だけでは外部量子効率が改善されない場合に、SubNc膜を加えれば、外部量子効率を大幅に改善することができる。また、外部量子効率の分布にSubNc膜だけではカバーしきれない波長領域がある場合には、ZnPc膜を加えることにより、外部量子効率を改善することができる。
【0105】
以上、実施の形態2によれば、赤色用の有機光電変換膜230RとしてZnPc膜とSubNc膜とを重ねた有機光電変換膜を用いることにより、赤色の波長帯域における光電変換効率を改善した光電変換部200Rを実現することができる。
【0106】
また、青色用の光電変換部100Bと緑色用の光電変換部100Gに、赤色用の光電変換部200Rを重ねて設けることにより、光電変換効率を改善した撮像素子を提供することができる。
【0107】
赤色用の光電変換部200Rとしては、フタロシアニン誘導体、アントラキノン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ピラゾロピリミジン誘導体が挙げられる。
【0108】
以上、本発明の例示的な実施の形態の撮像素子について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。