特許第6647209号(P6647209)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6647209ポリエステル系弾性体の水性分散体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647209
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】ポリエステル系弾性体の水性分散体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20200203BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20200203BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20200203BHJP
   C08J 3/03 20060101ALI20200203BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20200203BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20200203BHJP
   B29C 41/00 20060101ALI20200203BHJP
   B29C 39/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08L29/04
   C08L71/02
   C08J3/03CFD
   C08L29/14
   C08K5/541
   B29C41/00
   B29C39/00
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-556604(P2016-556604)
(86)(22)【出願日】2015年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2015080435
(87)【国際公開番号】WO2016068206
(87)【国際公開日】20160506
【審査請求日】2018年6月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-220661(P2014-220661)
(32)【優先日】2014年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】杉原 範洋
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 泰暢
(72)【発明者】
【氏名】藤原 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】坂井 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋輔
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−310944(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/137370(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/043510(WO,A1)
【文献】 米国特許第05925701(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C08J 3/00− 3/28
99/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、ノニオン系界面活性剤とポリエステル系弾性体とを含み、
前記ノニオン系界面活性剤を、前記ポリエステル系弾性体100質量部に対して1〜20質量部含む、ポリエステル系弾性体の水性分散体であって、前記ポリエステル系弾性体は、ポリエステルブロック共重合体(A)、ポリビニルアセタール樹脂及び/又はポリビニルブチラール樹脂(B)並びにシランカップリング剤(C)を含み、前記ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂及び/又はポリビニルブチラール樹脂(B)1〜30質量部並びにシランカップリング剤(C)0.01〜5.0質量部含有することを特徴とするポリエステル系弾性体の水性分散体
【請求項2】
前記ノニオン系界面活性剤が、ポリビニルアルコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系弾性体の水性分散体。
【請求項3】
前記ポリエステルブロック共重合体(A)は、ハードセグメント(a1)及びソフトセグメント(a2)を含み、前記ハードセグメント(a1)が、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸及び/又はジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位とからなる請求項1又は2に記載のポリエステル系弾性体の水性分散体。
【請求項4】
高分子分散安定剤をさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のポリエステル系弾性体の水性分散体。
【請求項5】
前記ポリエステル系弾性体の平均粒子径が0.1〜20μmである請求項1〜のいずれか1項に記載のポリエステル系弾性体の水性分散体。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリエステル系弾性体の水性分散体を用いて作製された、成形品。
【請求項7】
ポリエステル系弾性体とノニオン系界面活性剤と水性媒体との混合液を調製する工程と、
前記混合液を前記ポリエステル系弾性体の融点より40℃低い温度と前記融点より100℃高い温度との間の温度に設定して前記ポリエステル系弾性体を乳化させる工程とを含み、
前記ポリエステル系弾性体100質量部に対して前記ノニオン系界面活性剤を1〜20質量部用いる、ポリエステル系弾性体の水性分散体の製造方法であって、前記ポリエステル系弾性体は、ポリエステルブロック共重合体(A)、ポリビニルアセタール樹脂及び/又はポリビニルブチラール樹脂(B)並びにシランカップリング剤(C)を含み、前記ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対して、ポリビニルアセタール樹脂及び/又はポリビニルブチラール樹脂(B)1〜30質量部並びにシランカップリング剤(C)0.01〜5.0質量部含有することを特徴とするポリエステル系弾性体の水性分散体の製造方法
【請求項8】
請求項に記載の製造方法に従い製造したポリエステル系弾性体の水性分散体から得られる成形品。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリエステル系弾性体の水性分散体を、基材へ塗布するか、型枠内へ流し込む工程、及び
塗布した又は流し込んだ前記ポリエステル系弾性体の水性分散体を乾燥させる工程を含む、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子弾性体の水性分散体及びその製造方法、特に、ポリエステル系弾性体の水性分散体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子弾性体は、基本的に、軟質高分子構造を有するもの、又は、硬質高分子部位と軟質高分子部位とを組み合わせた構造を有するものである。このような高分子弾性体は、常温でゴム弾性を示し、高温では熱可塑性プラスチックと同様に可塑化することから機械的成形が可能であるので、幅広い工業分野で使用されている。代表的な高分子弾性体としては、スチレン系、オレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリ塩化ビニル系及びポリアミド系などのものが挙げられる。
【0003】
これらの高分子弾性体は、通常、押し出し成形等の機械的操作により成形品として提供される。一方、各種材料へのコーティング剤、粘接着剤、バインダー、熱融着剤、エマルジョン等の改質剤及び繊維の収束剤等に使用される場合においては、水性分散体での使用が望ましい。
【0004】
高分子弾性体の水性分散体については、これまでに多くの検討がなされており、実用品として、スチレン系弾性体の水性分散体が提供されている。スチレン系弾性体の水性分散体は、通常、スチレン系弾性体を有機溶剤に溶解した有機相と、乳化剤(界面活性剤)を水性媒体に溶解した水相とを混合し、ホモミキサー等を用いて混合液を乳化した後に、有機溶剤を除去して製造されている(例えば、特開昭51−23532号公報、特開2003−253134号公報)。
【0005】
しかし、スチレン系弾性体の水性分散体により得られる成形品は、一般に、耐磨耗性、耐屈曲性、耐油性及び耐候性が劣る。これに対し、ポリエステル系弾性体は、これらの特性において優れているだけではなく、耐熱性、柔軟性、低温特性、高機械強度においても優れた特性を有する成形品を製造することができる。ポリエステル系弾性体は、例えば、ホース、ベルト、パッキン等の機械、機器分野、CVJブーツ、ドアラッチ等の自動車部品、コネクター、センサー類のシール剤、コード被覆、アンテナカバー等の電気・電子部品を製造するための材料として有用である。
【0006】
一般に、スチレン系弾性体などの高分子弾性体の水分散体は、高分子弾性体を有機溶剤に溶解させた有機相と、乳化剤を水性媒体に溶解させた水相とを混合し、ホモミキサー等を用いて混合液を乳化した後に、有機溶剤を除去する方法、又は、高分子弾性体と、乳化剤を水性媒体に溶解させた水相とを混合し、高分子弾性体の融点以上の温度にて、混合物に機械的なせん断を加えて乳化する方法により得られる。しかし、前者は、有機溶剤を使用するので、環境への負荷が大きい等の問題を有する。また、後者は、高分子弾性体への熱履歴による樹脂の分解及び使用する乳化剤により接着性に悪影響が生じる等の問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51−23532号公報
【特許文献2】特開2003−253134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ポリエステル系弾性体の特性を有する成形品、特に、ノニオン系界面活性剤のブリードが生じにくく、各種材料への接着性が良好な成形品を製造可能なポリエステル系弾性体の水性分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水性媒体と、ノニオン系界面活性剤とポリエステル系弾性体とを含み、ノニオン系界面活性剤を、ポリエステル系弾性体100質量部に対して1〜20質量部含む、ポリエステル系弾性体の水性分散体を提供する。
【0010】
また、本発明は、水性媒体と、ノニオン系界面活性剤とポリエステル系弾性体とを含むポリエステル系弾性体の水性分散体から得られるポリエステル系弾性体の成形品を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、ポリエステル系弾性体とノニオン系界面活性剤と水性媒体との混合液を調製する工程と、
得られた混合液をポリエステル系弾性体の融点より40℃低い温度と融点より100℃高い温度との間の温度に設定してポリエステル系弾性体を乳化させる工程とを含み、
ポリエステル系弾性体100質量部に対してノニオン系界面活性剤を1〜20質量部用いる、ポリエステル系弾性体の水性分散体の製造方法を提供する。また、本発明は、前記した製造方法に従い製造したポリエステル系弾性体の水性分散液により得られる成形品も提供する。
さらに、本発明は、ポリエステル系弾性体の水性分散体から成形品を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散液は、ノニオン系界面活性剤のブリードが生じにくく、各種材料への接着性が良好な成形品の製造を可能にする。
本発明において、ブリードとは、例えば、ポリエステル系弾性体の水性分散体から得られた皮膜の表面に、ノニオン系界面活性剤が分離して、粉がふいた状態、又は皮膜表面が粘着性を有する状態を意味する。
【0013】
さらに、本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体の製造方法は、ポリエステル系弾性体の融点より40℃低い温度と融点より100℃高い温度との間の温度に設定して乳化させる工程を含むことにより、ポリエステル系弾性体の水性媒体中における安定した乳化を可能にする。
【0014】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体を用いて作製された成形品、及び本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体の製造方法に従い製造したポリエステル系弾性体の水性分散体から得られる成形品は、ノニオン系界面活性剤のブリードもなく、接着性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体(「本発明の水性分散体」と称する場合がある)は、水性媒体と、ノニオン系界面活性剤とポリエステル系弾性体とを含む。
【0016】
本発明の水性分散体において用いられるノニオン系界面活性剤は、例えば、ポリビニルアルコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた少なくとも1種である。ここで、ノニオン系界面活性剤は、ポリエステル系弾性体100質量部に対して1〜20質量部で用いられる。
【0017】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、例えば、ポリエステルブロック共重合体(A)を含む。
【0018】
本発明の水性分散体において用いられるポリエステル系弾性体は、例えば、ポリエステルブロック共重合体(A)に加えて、ポリビニル樹脂(B)及び/又はシランカップリング剤(C)をさらに含有し、ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対して、ポリビニル樹脂(B)を1〜30質量部及び/又はシランカップリング剤を(C)0.01〜5.0質量部含有する。
【0019】
また、ポリエステルブロック共重合体(A)は、例えば、ハードセグメント(a1)及びソフトセグメント(a2)を含み、ハードセグメント(a1)が、例えば、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸及び/又はジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位とからなる。
【0020】
本発明の水性分散体において、ポリエステル系弾性体の粒子は、通常、平均粒子径が例えば0.1〜20μmの粒子である。ポリエステル系弾性体の粒子は、例えば球状粒子である。また、この水性分散体は、高分子分散安定剤を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、ポリエステル系弾性体に対して所定の割合でノニオン系界面活性剤を含んでいるため、ポリエステル系弾性体の特性を有する成形品、特に、ノニオン系界面活性剤のブリードが生じにくく各種材料への接着性が良好な成形品を製造できる。
【0022】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体の製造方法は、ポリエステル系弾性体とノニオン系界面活性剤と水性媒体との混合液を調製する工程と、得られた混合液をポリエステル系弾性体の融点より40℃低い温度と前記融点より100℃高い温度との間の温度に設定してポリエステル系弾性体を乳化させる工程とを含む。ここで、ノニオン系界面活性剤は、ポリエステル系弾性体100質量部に対して1〜20質量部の割合で用いられる。
【0023】
本発明のポリエステル系弾性体の成形品は、前記したポリエステル系弾性体の水性分散体から得られる。また、前記したポリエステル系弾性体の水性分散体の製造方法から得られた水性分散体を用いることにより、本発明のポリエステル系弾性体の成形品を得ることができる。
また、本発明の成形品の製造方法は、前記したポリエステル系弾性体の水性分散体を基材へ塗布するか、型枠内へ流し込む工程、及び、塗布した又は流し込んだポリエステル系弾性体の水性分散体を乾燥させる工程を含む。
【0024】
本発明の他の目的及び効果を、以下において詳細に説明する。
【0025】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、水性媒体と、ノニオン系界面活性剤とポリエステル系弾性体とを含んでいる。本発明において用いられる水性媒体は、特に限定されないが、好ましくは水である。水は、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水及び純水などの各種の水であればよく、純水が好ましい。また、この水は、本発明の目的を阻害しない範囲において、必要に応じ、pH調整剤、消泡剤、粘度調整剤、防かび剤、着色剤及び酸化防止剤等が適宜添加されていてもよい。
【0026】
水性媒体の使用量は、特に限定されるものではないが、ポリエステル系弾性体100質量部に対して10〜1,000質量部に設定するのが好ましく、10〜250質量部に設定するのがより好ましい。このような範囲で水性媒体を使用することにより、分散安定性などが良好な水性分散体を得ることができる。さらに、生産性及び実用性に優れた水性分散体を得ることができる。
【0027】
本発明において用いるポリエステル系弾性体は、特に限定されないが、例えば、ポリエステルブロック共重合体(A)であり、例えば、主として芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)と、例えば、主として脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)である。
【0028】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)のハードセグメント(a1)は、例えば、主として芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、ジオール又はそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルである。
【0029】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、及び3−スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。本発明において、例えば、主として前記した芳香族ジカルボン酸を用いるが、芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、及び/又はアジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。
【0030】
芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、例えば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、及び酸ハロゲン化物等も、上記芳香族ジカルボン酸と同等に用い得る。
【0031】
本発明においては、上記芳香族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体成分を2種以上用いることが好ましく、例えば、テレフタル酸とイソフタル酸、テレフタル酸とドデカンジオン酸、テレフタル酸とダイマー酸等の組み合わせが挙げられる。芳香族ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体成分を2種以上使用することで、ハードセグメントの結晶化度や融点を下げることができ、柔軟性を付与することも可能で、かつ他の熱可塑性樹脂との熱接着性を向上できる。
【0032】
ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環族ジオール、及びキシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル,4,4’−ジヒドロキシ−p−クォーターフェニル等の芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えば、アセチル体、及びアルカリ金属塩等の形でも用い得る。これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分及びその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0033】
ハードセグメント(a1)の好ましい例は、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸及び/又はジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるもの、及びその両者の共重合体が好ましく用いられ、特に好ましくは、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートとイソフタル酸及び/又はジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート/イソフタレート単位からなるものが使用される。
【0034】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)のソフトセグメント(a2)は、例えば、脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位である。
【0035】
脂肪族ポリエーテルとしては、例えば、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール等が挙げられる。
【0036】
脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリ(ε−力プロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。
【0037】
これらの脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位のうち、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が好ましく、これらの中でも、特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、及び、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールが好ましい。また、これらのソフトセグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
【0038】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)のソフトセグメント(a2)の共重合量は、ポリエステルブロック共重合体(A)100質量%に対して、例えば、20〜95質量%であり、好ましくは25〜90質量%である。このような範囲において(a1)と(a2)の共重合比を設定することができる。
【0039】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の融点は、例えば、105℃〜225℃であり、好ましくは125℃〜205℃である。
【0040】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができ、特に限定されない。この製造方法の具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、及び低融点重合体セグメント成分を、触媒の存在下、エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ジカルボン酸と過剰量のグリコール及び低融点重合体セグメント成分を、触媒の存在下、エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法等のいずれの方法をとってもよい。
【0041】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、東レ・デュポン株式会社製ハイトレル(登録商標)3046(ショアーD硬度=27D)、東レ・デュポン株式会社製ハイトレル(登録商標)4057N(ショアーD硬度=40D)、東レ・デュポン株式会社製ハイトレル(登録商標)2300X06(ショアーD硬度=41D)、東レ・デュポン株式会社製ハイトレル(登録商標)4767N(ショアーD硬度=47D)等が挙げられる。
【0042】
本発明で用いられるポリエステル系弾性体においては、ポリエステルブロック共重合体(A)を1種あるいは2種以上混合して用いてもよい。ポリエステル系弾性体を2種以上混合する場合、複数のポリエステル系弾性体の混合比は特に限定されない。
【0043】
これらのポリエステル系弾性体が、ポリエステルブロック共重合体(A)に加えて、ポリビニル樹脂(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を含有する場合、特に、ポリエステルブロック共重合体(A)に加えて、ポリビニル樹脂(B)及びシランカップリング剤(C)を含むものであってもよい。この場合、得られる水性分散体は優れた接着力を発現できる。
【0044】
本発明に用いられるポリビニル樹脂(B)としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、好ましくはポリビニルブチラール樹脂及びポリビニルアセタール樹脂が好適に使用される。ポリビニル樹脂(B)は、一般的に、水に不溶性の樹脂である。
ポリビニル樹脂(B)のうち、例えば、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドと反応させて得られる、例えば、ビニルアルコール/酢酸ビニル/ビニルブチラールからなる樹脂であり、通常は水に不溶性の樹脂である。
ポリビニル樹脂(B)の市販品としては、例えば、積水化学工業株式会社製エスレック(登録商標)BL−1、BX−L、BM−S、KS−3等、電気化学工業株式会社製デンカブチラール(登録商標)3000−1、3000−2、3000−4、4000−2等があるが、これらに限定されない。
【0045】
ポリビニル樹脂(B)の配合量は、ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対して、通常1〜30質量部であり、好ましくは3〜20質量部である。ポリビニル樹脂(B)をこのような配合量で用いることにより、接着強度を高めることができ、得られるポリエステル系弾性体の機械強度を高めることもできる。
【0046】
本発明に用いられるシランカップリング剤(C)としては、特に限定されないが、好ましくは、1分子中にアミノ基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、スルフィド基等を有するものであり、なかでも、エポキシ基を有するシランカップリング剤が好適に使用される。シランカップリング剤(C)の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アクリロイルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等があり、好ましくは、エポキシ基含有化合物であり、これらのうち1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0047】
本発明のシランカップリング剤(C)の配合量は、ポリエステルブロック共重合体(A)100質量部に対して、通常0.01〜5.0質量部であり、好ましくは0.05〜3.0質量部であり、さらに好ましくは0.1〜1.5質量部である。シランカップリング剤(C)をこのような配合量で使用することにより、接着強度や引張破断伸びなどの機械的性質を向上でき、グルーミングの発生を防ぐことができ、さらに、優れた熱安定性を有することができる。加えて、接着力をさらに向上させることができる。
【0048】
本発明のシランカップリング剤(C)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製Z−6040、Z−6043(いずれもエポキシ基含有化合物)等が挙げられる。
【0049】
ポリエステルブロック共重合体(A)とポリビニル樹脂(B)及び/又はシランカップリング剤(C)の混合方法は、特に限定されないが、例えば、スクリュー型押出機にポリエステルブロック共重合体(A)、ポリビニル樹脂(B)及び/又はシランカップリング剤(C)を供給し、溶融混練する方法等を適宜採用することができる。溶融混練の温度は、特に限定されないが、例えば、200℃以上に加熱するのが好ましい。
【0050】
さらに、ポリエステル系弾性体には、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、公知の結晶核剤や滑剤等の成形助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系化合物等の耐候剤、耐加水分解改良剤、顔料、染料等の着色剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、補強剤、無機フィラー、充填剤、可塑剤、離型剤等を任意に含有することができる。
【0051】
本発明の水性分散体におけるポリエステル系弾性体は、例えば、ポリエステルブロック共重合体(A)と、ポリビニル樹脂(B)及び/又はシランカップリング剤(C)との混合物を意味するものであってもよい。この場合、本発明の水性分散体は、ポリエステル系弾性体とノニオン系界面活性剤のほか、さらに、後述の高分子分散安定剤や上記添加剤等を含んでいてもよい。
【0052】
本発明において用いられるノニオン系界面活性剤は、特に限定されるものではないが、一般的に、水に溶解可能で乳化安定化力を有する。ノニオン系界面活性剤には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド及びポリグリセリンエステル等を挙げることができる。これらの中でも、乳化安定化力を有し、耐熱性が優れているといった観点からポリビニルアルコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体が好ましい。
本発明においてノニオン系界面活性剤として用いられるポリビニルアルコールは、例えば、ビニルアルコール/酢酸ビニルからなる共重合体であり、通常、水に溶解可能で乳化安定化力を有する。
本発明において、ノニオン系界面活性剤は、単独あるいは2種以上のものが併用されてもよい。
【0053】
ポリビニルアルコールは、例えば、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0054】
【化1】
一般式(1)において、m、nは、それぞれ付加モル数を示し、mは1〜3000の整数、nは1〜1000の整数を示している。これらは、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0055】
ポリビニルアルコールの重合度は、特に限定されないが、重合度は300〜3000であることが好ましく、より好ましくは500〜2500である。
【0056】
ポリビニルアルコールのケン化度は、特に限定されないが、70〜99モル%であることが好ましく、より好ましくは85〜95モル%である。
【0057】
エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体は、例えば、下記一般式(2)で示される化合物である。
【0058】
【化2】
一般式(2)において、p、q及びrは、それぞれ付加モル数を示し、pは2〜300の整数、qは10〜150の整数、rは2〜300の整数を示している。これらは、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0059】
エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体の質量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、3,000〜30,000、好ましくは6,000〜25,000、特に好ましくは8,000〜20,000である。また、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体中のエチレンオキシド(エチレンオキシド由来のモノマー単位)の含有割合は、特に限定されないが、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体100質量部に対して、例えば、40〜95質量%、好ましくは45〜90質量%、特に好ましくは50〜85質量%である。
【0060】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体において、ノニオン系界面活性剤の使用量は、ポリエステル系弾性体100質量部に対して1〜20質量部であり、好ましくは3〜12質量部である。ノニオン系界面活性剤の割合は、ポリエステル系弾性体100質量部に対して1質量部以上であり、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上である。また、ノニオン系界面活性剤の割合は、ポリエステル系弾性体100質量部に対して20質量部以下、好ましくは12質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。ノニオン系界面活性剤の割合が、ポリエステル系弾性体100質量部に対して1〜20質量部の範囲内である限り、ノニオン系界面活性剤の割合を適切に設定でき、例えば、前記した上限値と下限値を組み合わせてもよい。ノニオン系界面活性剤をこのような配合量で使用することにより、安定な水性分散体が得られ、乳化を容易に行え、さらに、ポリエステル系弾性体の水性分散体を用いて形成される成形品において、ポリエステル系弾性体によりもたらされる各種物性を保持できる。
【0061】
本発明においてノニオン系界面活性剤は、室温で固体状のものがよく、好ましくは、融点が50℃以上のものである。このような特性を有することにより、成形品の表面でノニオン系界面活性剤のブリードが発生することを抑制でき、ポリエステル系弾性体による各種材料への高い接着性をもたらすことができる。
【0062】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、本発明の目的を阻害しない範囲において、必要に応じ、エチレン/エチレン性不飽和カルボン酸共重合体、酸化ポリエチレンワックス、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸エステルの塩及びアルギン酸ナトリウム等の高分子分散安定剤を含んでいてもよい。これらの高分子分散安定剤を用いることにより乳化が容易になり、分散体がより小粒径である、安定した水性分散体を得ることができる。
【0063】
高分子分散安定剤の使用量は特に制限はないが、ポリエステル系弾性体100質量部に対して、例えば、0.1〜10質量部であり、好ましくは0.2〜5質量部である。
【0064】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体において、ポリエステル系弾性体の平均粒子径は、例えば、0.1〜20μmであり、好ましくは0.2〜15μmであり、より好ましくは0.3〜12μmである。粒子がこのような範囲に平均粒子径を有することにより、水性分散体の静置安定性は高まり、取扱い、特に、成形品の製造に適した粘度をもたらすことができるので、機械的特性に優れた成形品を提供できる。
平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法により測定される。
【0065】
また、粒子の形状は特に限定されないが、球状粒子が好ましい。例えば、真球状粒子、楕円状粒子や棒球状粒子などが含まれる。このなかでも真球状粒子が特に好ましい。球状粒子であることにより、粒子の中に、突起状をもつ異形粒子が少なくなり、粒子の表面積を小さくできるので、水性分散体の粘度が著しく高くなることを抑制できる。
【0066】
本発明は、さらに、ポリエステル系弾性体の水性分散体の製造方法を提供する。本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、ポリエステル系弾性体を、ノニオン系界面活性剤の存在する水性媒体中で乳化分散させる方法により製造できる。本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、例えば、以下の方法により製造できる。
【0067】
まず、反応装置内にポリエステル系弾性体、ノニオン系界面活性剤及び水性媒体を投入し、これらの混合液を調製する。反応装置内にポリエステル系弾性体、ノニオン系界面活性剤及び水性媒体を投入する順序は限定されない。
【0068】
前記したとおり、ポリエステル系弾性体に対するノニオン系界面活性剤の割合はポリエステル系弾性体100質量部に対して1〜20質量部であり、好ましくは3〜12質量部である。ノニオン系界面活性剤の割合は、ポリエステル系弾性体100質量部に対して1質量部以上であり、好ましくは3質量部以上、より好ましくは4質量部以上である。また、ノニオン系界面活性剤の割合は、ポリエステル系弾性体100質量部に対して20質量部以下、好ましくは12質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。ノニオン系界面活性剤の割合が、ポリエステル系弾性体100質量部に対して1〜20質量部の範囲内である限り、ノニオン系界面活性剤の割合を適切に設定でき、例えば、前記した上限値と下限値を組み合わせてもよい。ノニオン系界面活性剤をこのような配合量で使用することにより、安定な水性分散体が得られ、乳化を容易に行え、さらに、ポリエステル系弾性体の水性分散体を用いて形成される成形品において、ポリエステル系弾性体によりもたらされる各種物性を保持できる。
【0069】
また、水性媒体の使用量は、特に限定されるものではないが、ポリエステル系弾性体100質量部に対して、例えば、10〜1,000質量部に設定し、好ましくは10〜250質量部に設定する。このような範囲で水性媒体を使用することにより、分散安定性などが良好な水性分散体を得ることができる。さらに、生産性及び実用性に優れた水性分散体を得ることができる。
【0070】
混合液の調製及び乳化において用いる装置は、例えば、ポリエステル系弾性体の溶融する温度以上、又はポリエステル系弾性体の融点より低い温度に加熱できる加熱手段と、内容物にせん断力を与えることのできる撹拌手段とを備えた装置が好ましい。例えば、撹拌機付きの耐圧オートクレーブ、二軸押出機、ニーダー等を用いるのが好ましい。
【0071】
次に、混合液をポリエステル系弾性体の溶融する温度以上、又はポリエステル系弾性体の融点より低い温度に加熱して撹拌し、混合液を乳化させる。そして、これにより得られた乳濁液を室温まで冷却すると、目的とするポリエステル系弾性体の水性分散体が得られる。ここで、ポリエステル系弾性体に熱を加える方法は、特に限定はなく、ヒーターなどを用いる加熱に加えて、機械的な強いせん断力を与えることで熱を加えることができる。加熱温度は、特に限定されないが、ポリエステル系弾性体への熱履歴を少なくする点から、例えば、ポリエステル系弾性体の融点より40℃低い温度と融点より100℃高い温度との間の温度でポリエステル系弾性体を乳化する。好ましくは、ポリエステル系弾性体の融点より30℃低い温度と融点より60℃高い温度のとの間の温度でポリエステル系弾性体を乳化する。具体的には、ポリエステル系弾性体の乳化は、例えば、65℃〜325℃の範囲で行われる。
本発明においては、特に融点より低い温度で乳化すると、ポリエステル系弾性体の熱履歴による分解をおさえることができる。
【0072】
撹拌時の回転数や撹拌時間、温度等を適宜調節し、ポリエステル系弾性体の平均粒子径が、例えば、0.1〜20μmの範囲となるよう設定する。なお、ポリエステル系弾性体の平均粒子径は、撹拌機の回転数や撹拌時間などの調節の他、ノニオン系界面活性剤の選択や使用量の調節により既述の範囲に設定することもできる。
なお、高分子分散安定剤を含むポリエステル系弾性体の水性分散体を調製する場合、高分子分散安定剤を添加する方法は特に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル系弾性体、ノニオン系界面活性剤及び水性媒体の混合液を調製する際に添加してもよく、あるいは、室温まで冷却した乳濁液に対して添加してもよい。
【0073】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体を用いて、成形体を作製することができる。本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、優れた静置安定性及び成形加工性を有するものであるため、各種の成形品を製造するための材料として有用である。
成形品の製造方法は、特に限定されないが、例えば、本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体を、基材へ塗布するか、型枠内へ流し込む工程、及び塗布した又は流し込んだポリエステル系弾性体の水性分散体を乾燥させる(すなわち、水分を除去する)工程を含む。このような工程を含む成形品の製造方法により、ノニオン系界面活性剤とポリエステル系弾性体とを含む皮膜、フィルム若しくはシート状等の各種の形態の成形品を得ることができる。
【0074】
成形品の製造に用いる基材は、特に限定されないが、例えば、アルミや銅などの金属、ガラス、木質、ゴム、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、さらにそれらを強化繊維やフィラーなどで強化した樹脂などから製造される。基材の厚みおよび形状などは特に限定されない。
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体を基材に塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、はけ、ヘラ、ローラー、コーキングガンなどを利用した塗布方法、及びエア・スプレー、ノズルスプレー、ロールコーター、ビード等を用いる塗布方法が挙げられる。
基材へのポリエステル系弾性体の水性分散体の塗布量は、目的に応じて適宜設定され、例えば、本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体の厚みが0.001mm〜5mmとなるように塗布される。
型枠内へポリエステル系弾性体の水性分散体を流し込む方法は、特に限定されない。
ポリエステル系弾性体の水性分散体を基材へ塗布するか、型枠内へ流し込んだ後、水分を除去する。水分を除去する工程における乾燥温度は、特に限定されないが、通常、40〜300℃に設定される。
乾燥時間は特に限定されず、例えば、100℃にて乾燥を行う場合、0.2〜2時間である。
【0075】
このようにして得られた成形品(基材に塗布し、乾燥させて得られた成形品)におけるポリエステル系弾性体の水性分散体の塗布側と、更なる基材とを合わせて、例えば、ホットプレスを用いて120〜300℃にて、必要により0.1〜100MPaに加圧し、1〜500秒間加熱することにより、基材を層状に接合させた成形品を製造できる。接合させる基材は異なる種類の基材であっても、同種の基材であってもよい。
【0076】
本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、ノニオン系界面活性剤とポリエステル系弾性体との相溶性に優れているため、上述のようにして得られる成形品は、ノニオン系界面活性剤のブリードが実質的に認められず、しかも、ポリエステル系弾性体が本質的に有する各種の特性、すなわち、異種材料への接着性、耐熱性、耐油性、衝撃強度、引張強度、制振性、柔軟性、低温特性、屈曲特性が損なわれない。
【0077】
したがって、本発明のポリエステル系弾性体の水性分散体は、自動車部品、スポーツ関連製品及び医療器具等を製造するための材料、紙及びフィルム等のコーティング剤、フォームラバー用原料、合成繊維、天然繊維、ガラス繊維及び炭素繊維等の繊維材料の収束剤、表面処理剤(熱接着剤、RFL処理剤)及びコーティング剤、あるいはホース、チューブ、ベルト、ガスケット及びパッキング等の製造用材料、コネクター、センサー類のシール剤、熱接着剤、コード被覆、アンテナカバー等の電気・電子部品を製造するための材料等の広い用途において活用することができる。
【実施例】
【0078】
以下に記載のポリエステル系弾性体を使用した。
(P−1)東レ・デュポン株式会社製ハイトレル4057N(融点 163℃)
(P−2)ポリエステルブロック共重合体(A):ハイトレル4057N 89.5質量%、
ポリビニル樹脂(B):積水化学工業株式会社製ポリビニルアセタール
エスレックBX−L 10質量%、
シランカップリング剤(C):東レ・ダウコーニング株式会社製Z−6040
0.5質量%を、
ドライブレンドし、二軸押出機を用いて210℃の温度設定で溶融混練した後ペレット化したもの(融点 163℃)
(P−3)ポリエステルブロック共重合体(A):ハイトレル2300X06
(融点142℃) 89.5質量%、
ポリビニル樹脂(B):積水化学工業株式会社製ポリビニルブチラール
エスレックBL−1 10質量%、
シランカップリング剤(C):東レ・ダウコーニング株式会社製Z6043 0.5質量%を、
ドライブレンドし、二軸押出機を用いて200℃の温度設定で溶融混練した後ペレット化
したもの(融点 142℃)
【0079】
実施例1
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、ポリエステル系弾性体(P−1) 160g、脱イオン水221g及びエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化株式会社の商品名“プルロニックF108”:質量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)19gを仕込み、密閉した。次に、撹拌機を始動し、500rpmの回転数で撹拌しながらオートクレーブ内部を180℃まで昇温した。内温を180℃に保ちながらさらに15分間撹拌した後、内容物を室温まで冷却し、ポリエステル系弾性体の水性分散体を得た。
【0080】
実施例2
直径15mmの二軸押出機(L/D=60)のバレル温度を140℃、撹拌機を750rpmに設定し、ポリエステル系弾性体(P−2)1.0kg/hr、脱イオン水1.4kg/hr、及びエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化株式会社の商品名“プルロニックF108”:質量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)0.05kg/hrとなるように連続的に仕込み、攪拌後冷却することで、ポリエステル系弾性体の水性分散体を得た。
【0081】
実施例3
直径15mmの二軸押出機(L/D=60)のバレル温度を140℃、撹拌機を750rpmに設定し、ポリエステル系弾性体(P−2)1.0kg/hr、脱イオン水1.4kg/hr、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化株式会社の商品名“プルロニックF108”:質量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)0.05kg/hr、及びエチレンアクリル酸共重合体0.05kg/hrとなるように連続的に仕込み、攪拌後冷却することで、ポリエステル系弾性体の水性分散体を得た。
【0082】
実施例4
直径15mmの二軸押出機(L/D=60)のバレル温度を140℃、撹拌機を750rpmに設定し、ポリエステル系弾性体(P−2)1.0kg/hr、脱イオン水1.4kg/hr、及びポリビニルアルコール(株式会社クラレの商品名 ポバールPVA420)0.07kg/hrとなるように連続的に仕込み、攪拌後冷却することで、ポリエステル系弾性体の水性分散体を得た。
【0083】
実施例5
実施例4において、ポリエステル系弾性体(P−2)に代えてポリエステル系弾性体(P−3)を用い、バレル温度を130℃とした以外は実施例4と同様の操作を行い、ポリエステル系弾性体の水性分散体を得た。
【0084】
実施例6
実施例1において、ポリエステル系弾性体(P−1)に代えてポリエステル系弾性体(P−2)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリエステル系弾性体の水性分散体を得た。
【0085】
実施例7
直径50mmのタービン型撹拌羽根を備えた内容積1リットルの耐圧オートクレーブ中に、ポリエステル系弾性体(P−2) 160g、脱イオン水213g及びエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化株式会社の商品名“プルロニックF108”:質量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)19g、エチレンアクリル酸共重合体 8gを仕込み、密閉した。次に、撹拌機を始動し、500rpmの回転数で撹拌しながらオートクレーブ内部を180℃まで昇温した。内温を180℃に保ちながらさらに15分間撹拌した後、内容物を室温まで冷却し、ポリエステル系弾性体の水性分散体を得た。
【0086】
比較例1
ノニオン系界面活性剤としてエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化株式会社の商品名“プルロニックF108”:質量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)を1g用いた点を除いて実施例1と同様に操作した。しかし、得られた生成物におけるポリエステル系弾性体は塊状物となり、水性分散体を得ることができなかった。
【0087】
比較例2
ノニオン系界面活性剤としてエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体(旭電化株式会社の商品名“プルロニックF108”:質量平均分子量15,500、エチレンオキシド含有量80質量%)を40g用いた点を除いて実施例1と同様に操作しポリエステル系弾性体の水性分散体を得た。
【0088】
比較例3
実施例4において、バレル温度を110℃とした以外は実施例4と同様の操作を行った。しかし、得られた生成物におけるポリエステル系弾性体は塊状物となり、水性分散体を得ることができなかった。
【0089】
比較例4
実施例4において、バレル温度を270℃とした以外は実施例4と同様の操作を行った。しかし、二軸押出機出口液が噴出し、水分散体を得ることができなかった。
【0090】
評価
実施例1〜7及び比較例2で得られた水性分散体について平均粒子径を測定し、またこれらの水性分散体から得られた成形品の接着性について評価した。各項目の測定方法及び評価方法は次の通りである。結果を表1に示す。
【0091】
(平均粒子径)
レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製の商品名“SALD−2000J”)を用いて測定した。
【0092】
(ブリード)
接着性の評価において得られた皮膜について、ノニオン系界面活性剤のブリード状態を下記の基準に従い目視で評価した。
○:皮膜の表面からノニオン系界面活性剤がブリードしていない。
×:皮膜の表面からノニオン系界面活性剤が少しブリードしている。
【0093】
(接着性)
実施例1〜7及び比較例2で得られた水性分散体をアルミ板(A5052)表面に塗工後(エマルジョン厚み 約0.25mm) 、100℃で1時間乾燥した。未処理のアルミ板をエマルジョン塗工側とあわせて、ホットプレスを用いて 200℃、2MPa、15秒加熱した。(接着面積 20mm×10mm) 冷却後、オートグラフ(島津製作所の商品名“AGS−J”)を用いて、引張速度50mm/minの条件で、引張せん断試験を行った。その結果、実施例1〜7で得られた水性分散体を用いた試験片については、引張せん断強度が2MPa以上であるので、実施例1〜7で得られた水性分散体は、接着性に優れているといえる。
【0094】
【表1】
【0095】
表1から、実施例1〜7で得られたポリエステル系弾性体の水性分散体から得られた成形品は、ノニオン系界面活性剤のブリードもなく、接着性に優れていることがわかる。一方、比較例2で得られたポリエステル系弾性体の水性分散体から得られた成形品は、ノニオン系界面活性剤のブリードもあり、接着性も低い結果となった。