特許第6647211号(P6647211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647211
(24)【登録日】2020年1月16日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20200203BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20200203BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20200203BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20200203BHJP
【FI】
   H01M10/0525
   H01M4/36 D
   H01M4/587
   H01M10/0567
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-558981(P2016-558981)
(86)(22)【出願日】2015年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2015080745
(87)【国際公開番号】WO2016076145
(87)【国際公開日】20160519
【審査請求日】2018年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-229054(P2014-229054)
(32)【優先日】2014年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小関 和徳
(72)【発明者】
【氏名】田川 和樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕知
(72)【発明者】
【氏名】矢野 亨
(72)【発明者】
【氏名】横溝 智史
(72)【発明者】
【氏名】野原 雄太
【審査官】 森 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−118168(JP,A)
【文献】 特開平11−246209(JP,A)
【文献】 特開2008−210769(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/017321(WO,A1)
【文献】 特開2010−238506(JP,A)
【文献】 特開2011−175919(JP,A)
【文献】 特開2013−173663(JP,A)
【文献】 特開2014−053268(JP,A)
【文献】 特開平7−192724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 4/00−4/62
H01M 10/0567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)負極活物質として、真比重1.60−2.20g/cmの炭素材料と、真比重が2.23g/cm以上の黒鉛との混合物を含み、真比重1.60−2.20g/cm3の炭素原料が前記混合物に対して5質量%以上20質量%以下である負極、(B)正極活物質として遷移金属とリチウムを含む化合物を含有する正極、(C)リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液、及び(D)分離膜を具備してなる非水電解液二次電池において、
(C)リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液中に下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする非水電解液二次電池(但し負極活物質として、黒鉛とハードカーボンとの複合体の表面を炭素の焼成体でコーティングした炭素材を用いるものを除く。
また負極活物質が、少なくとも黒鉛と焼成炭素との混合物からなり、且つ該焼成炭素は窒素ガスのBET吸着法によるポア分布が、直径8Å未満のポアが2×10−4CC/g以上、直径8〜18Åのポアが15×10−4CC/g以下であり、黒鉛と焼成炭素とからなる混合物中に占める焼成炭素の割合が20〜80重量%である非水系二次電池用炭素質負極活物質であるものを除く)
【化1】
(式中、R1は2価の炭素原子数2〜6の不飽和炭化水素基、炭素原子数6〜12のアリ
ーレン基又は2価の炭素原子数3〜12の複素環含有基を表し、R2〜R7はそれぞれ独立して炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基又は炭素原子数2〜6のアルキニル基を表す。)
【請求項2】
(C)リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が、下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【化2】
(式中、R8〜R15はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、若しくはベンジル基、又は、フッ素、塩素、臭素若しくは炭素原子数1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基、フェノキシ基、若しくはベンジル基を表わす。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関し、特定の炭素材料を含む負極活物質と特定の多価カルボン酸エステル化合物を含有する非水電解液を有する非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯用パソコン、ハンディビデオカメラ、情報端末等の携帯電子機器の普及に伴い、高電圧、高エネルギー密度を有する非水電解液二次電池が電源として広く用いられるようになった。また、環境問題の観点から、電池自動車や電力を動力の一部に利用したハイブリッド車の実用化が行われている。
【0003】
近年においては、ハイブリッド車の更なる高性能化の観点から、非水電解液二次電池に対してもさらなる高性能化が求められており、その性能の向上が急務となっている。具体的には、ハイブリッド車のエネルギー源である電流を十分に供給できるように、放電容量が重要な特性として挙げられる。加えて、短時間での充電を可能とすべく、非水電解液二次電池は高電流密度まで高い充電容量を維持することが好ましく、充電容量維持率が高いことも要求されている。
さらに、携帯電子機器と比べてハイブリッド車には長期的な信頼性、すなわち、長期間使用後の容量劣化が少ないことも必要である。
この様なハイブリッド車に適した非水電解液二次電池を提供するためには、負極活物質としてこれまで携帯用パソコン、ハンディビデオカメラ、情報端末等の携帯電子機器に使用されてきた人造黒鉛、天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料では炭素層間距離が小さいためスムーズなリチウムイオンの挿入脱離がし難く高い充電容量維持率を満足することができない。
このため、スムーズなリチウムイオンの挿入脱離が可能である低結晶性炭素材料に注目が集まっている。
【0004】
一方で非水電解液二次電池は、初回充電時に高結晶性炭素、低結晶性炭素を問わず、炭素材料からなる負極活物質表面で電解液の還元分解が生じることで、負極活物質の表面にSEI(Solid Electrolyte Interface:固体電解質膜)と呼ばれる被膜が形成される。この被膜は負極における電解液の分解を抑制する効果を持っているが、被膜の安定性が低いと充放電の繰り返しによって電解液の還元分解が生じ、電池容量の劣化を引き起こすという問題があった。
【0005】
このため、非水電解液二次電池では、非水電解液二次電池の安定性や電気特性の向上のために、非水電解液用の種々の添加剤が提案されている。このような添加剤として、1,3−プロパンスルトン(例えば、特許文献1を参照)、ビニルエチレンカーボネート(例えば、特許文献2を参照)、ビニレンカーボネート(例えば、特許文献3を参照)、1,3−プロパンスルトン、ブタンスルトン(例えば、特許文献4を参照)、ビニレンカーボネート(例えば、特許文献5を参照)、ビニルエチレンカーボネート(例えば、特許文献6を参照)等が提案されており、中でも、ビニレンカーボネートは効果が大きいことから広く使用されている。これらの添加剤は、負極の表面にSEIと呼ばれる安定な被膜を形成し、この被膜が負極の表面を覆うことにより、電解液の還元分解を抑制するものと考えられている。その他、シリルベンゼン系添加剤(例えば、特許文献8を参照)、多価カルボン酸シリルエステル系添加剤(例えば、特許文献9を参照)等が開示されている。
しかし、これまで報告されている電解液添加剤は人造黒鉛、天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料へ適用した電解液添加剤であり、低結晶性の炭素材料についての効果についてはこれらの先行文献中で詳しく触れられていない。
黒鉛のような結晶性の高い炭素材料は負極活物質表面の電位が高いため電解液や添加剤との反応性が高くSEIが形成され易いのに対し、低結晶性の炭素材料は負極活物質表面の電位が低いため電界液との反応性が低い。そのため安定かつ表面を十分に被覆するようなSEIが形成され難い。
このため、これまでは充分なSEIを活物質表面に形成できず、故に保存特性を改善することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−102173号公報
【特許文献2】特開平4−87156号公報
【特許文献3】特開平5−74486号公報
【特許文献4】特開平10−50342号公報
【特許文献5】米国特許第5626981号公報
【特許文献6】米国特許第6919145号公報
【特許文献7】米国特許公開2004/0043300号公報
【特許文献8】米国特許公開2004/0106039号公報
【特許文献9】米国特許公開2015/0044551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、非水電解液二次電池において、容量劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を行なった結果、特定の炭素材料を含む負極活物質と特定の構造の多価カルボン酸エステル化合物を含有する非水電解液を使用することで上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、(A)負極活物質として、真比重1.60−2.20g/cm3の炭素材料を含む負極、(B)正極活物質を含む正極、(C)リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液、及び(D)分離膜を具備してなる非水電解液二次電池において、
(C)リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液中に下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする非水電解液二次電池を提供するものである。
【0010】
【化1】
(式中、R1は2価の炭素原子数2〜6の不飽和炭化水素、炭素原子数6〜12のアリーレン基又は2価の炭素原子数3〜12の複素環含有基を表し、R2〜R7はそれぞれ独立して炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数2〜6のアルケニル基又は炭素原子数2〜6のアルキニル基を表す。)
【0011】
また、本発明は、(C)リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が、下記一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする前記の非水電解液二次電池を提供するものである。
【化2】

(式中、R8〜R15はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、若しくはベンジル基、又は、フッ素、塩素、臭素若しくは炭素原子数1〜6のアルキル基で置換されたフェニル基、フェノキシ基、若しくはベンジル基を表わす。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、非水電解液二次電池の容量劣化抑制が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の非水電解液二次電池のコイン型電池の構造の一例を概略的に示す縦断面図である。
図2図2は、本発明の非水電解液二次電池の円筒型電池の基本構成を示す概略図である。
図3図3は、本発明の非水電解液二次電池の円筒型電池の内部構造を断面として示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の非水電解液二次電池について好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
<(A)負極活物質としての真比重1.60−2.20g/cm3の炭素材料を含む負極>
本発明の非水電解液二次電池用負極活物質は、真比重が1.60〜2.20g/cm3の範囲にある炭素材料である。このような真比重を与える炭素材料は、石炭系及び/又は石油系(石炭系等)の生コークス、又は、石炭系等のか焼コークスを単独で、或いは混合して焼成して得ることが出来る(本明細書中において「石炭系等」と言う場合は「石炭系及び/又は石油系」、すなわち、石炭系、石油系の何れか一方であってもよく、両者の混合系であってもよいことを指す。)。上記真比重が1.60g/cm3に満たないと、リチウムイオン二次電池に適用した場合、充放電の際に副反応が発生し、容量や効率の低下につながる。また、上記真比重が2.20g/cm3を超えると、電池に適用した場合、入出力特性や容量維持率の特性が低下することとなる。尚、石炭系等生コークスとは、石油系及び/又は石炭系重質油を例えばディレードコーカー等のコークス化設備を用い、最高到達温度が400℃〜700℃程度の温度で24時間程度、熱分解・重縮合反応を実施して得たものを意味し、石炭系等か焼コークスとは、石炭系等生コークスに対してか焼処理を施したものを意味し、最高到達温度が800℃〜2000℃程度でか焼した石油系及び/又は石炭系のコークスを意味する。
【0015】
真比重が上記範囲を与える非水電解液二次電池池用負極活物質を得る方法について詳述すれば、最初に、石炭系等重質油を例えばディレードコーカー等のコークス化設備を用い、最高到達温度が400℃〜700℃程度の温度で24時間程度、熱分解・重縮合反応を進めることによって石炭系等生コークスを得る。その後、得られた石炭系等生コークスの塊を所定の大きさに粉砕する。粉砕には、工業的に用いられる粉砕機を使用することができる。具体的にはアトマイザー、レイモンドミル、インペラーミル、ボールミル、カッターミル、ジェットミル、ハイブリダイザー、オリエントミル等を挙げることができるが、特にこれに限定されるものではない。また粉砕の工程においてこれらの装置を2種類以上用いて粉砕してもよいし、1種類の装置で複数回粉砕して用いてもよい。
【0016】
ここで使用される石炭系等重質油は、石油系重質油であっても石炭系重質油であっても構わないが、石炭系重質油の方が芳香属性に富んでおり、S、V、Fe等の不純物が少なく、揮発分も少ないため、石炭系重質油を使用する方が好ましい。
【0017】
またここで使用される非水電解液二次電池用負極活物質は、石炭系及び/又は石油系(石炭系等)の生コークス、又は、石炭系等のか焼コークスを単独で、或いは混合して焼成して得ることが出来るが、その過程において、複数回の焼成及び/又はその過程での造粒等の形状制御工程、及び/又は表面を異なる有機、無機成分で改質、コートする工程、及び/又は異なる金属成分を表面に均一又は分散して形成する工程等を経て、得てもよい。
【0018】
また、上記のようにして得た石炭系等生コークスを最高到達温度800℃〜2000℃で、か焼して、石炭系等か焼コークスを製造する。石炭系等生コークスの焼成には、大量熱処理が可能なリードハンマー炉、シャトル炉、トンネル炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルン或いはマイクロウェーブ等の設備を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。また、これらの焼成設備は、連続式及びバッチ式のどちらでもよい。次いで、得られた石炭系等か焼コークスの塊を、上記同様に、工業的に用いられるアトマイザー等の粉砕機を用いて所定の大きさに粉砕する。また粉砕したコークス粉は分級により微粉をカットしたり、粗粉を篩等で除去したりすることによって所定の粒度に整粒することができる。
【0019】
なお、焼成温度は、最高到達温度で800℃以上2000℃以下とすることがよい。焼成温度が上限を超えると、コークス材料の結晶成長が過剰に促進され、真比重を2.20g/cm3以下とすることが困難となる。真比重が2.20g/cm3を超えると、焼成時にコークスの結晶構造が黒鉛のように配向していき、結晶層間距離が狭くなってしまい、上記のように入出力特性や容量維持率等の構造起因の特性が低下してしまうことになる。また、焼成温度が下限を下回ると、結晶構造が未発達となり、真比重が1.60g/cm3以下となるだけでなく、原料由来の官能基(OH基やCOOH基等)がコークス表面に残存し、上記したように電池として充放電した際に副反応が発生することになり容量や効率の低下につながる。
【0020】
上記の真比重の測定については、液相置換法(別名ピクノメータ法)により、測定する。具体的にはピクノメータに負極活物質の粉体を入れ、蒸留水等の溶媒液を加え、真空脱気等の方法により粉体表面の空気と溶媒液を置換し、正確な粉体重量と体積を求めることで真比重値を算出する。
(なお、炭素材料における真比重は、結晶性(黒鉛化)の程度を示す指標の一つであり、一般的に真比重が2.20g/cm3以上の炭素材料を高結晶性炭素、2.23g/cm3以上を黒鉛と言う。)
【0021】
負極電極は、集電体上(一般的に銅箔)に真比重1.60−2.20g/cm3の範囲の炭素材料を含む負極活物質と導電材、結着剤とを混合して形成される合材層とからなる。負極活物質の真比重は1.60−2.20g/cm3が好ましく、2.05−2.20g/cm3が更に好ましい。
【0022】
非水電解液二次電池用負極活物質は、上記の方法により真比重を1.60〜2.20g/cm3の範囲とした炭素材料をそのまま用いてもよく、また、上記の方法により真比重を1.60〜2.20g/cm3の範囲とした炭素材料と、真比重が2.20g/cm3以上の炭素材料とを混合してもよい。
後者の混合物を用いる場合、上記の方法により真比重を1.60〜2.20g/cm3の範囲とした炭素材料と、真比重が2.20g/cm3以上の炭素材料との質量比率は、真比重を1.60〜2.20g/cm3の範囲とした炭素材料が、混合物に対して好ましくは5wt%以上、より好ましくは10wt%以上とする。
真比重を1.60〜2.20g/cm3の範囲とした炭素材料が5wt%より少ない場合、電池全体への容量劣化効果が小さくなり、本電解液添加剤の効果が充分得られない。
【0023】
結着剤(バインダー)には、一般には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂粉末或いはポリイミド(PI)系樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の水溶性粘結剤が用いられるがこれらに限定されない。負極の結着剤の使用量は、負極活物質100質量部に対し、0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部が更に好ましい。
【0024】
負極の導電材としては、グラファイトの微粒子、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素の微粒子等、カーボンナノファイバー等が使用されるが、これらに限定されない。負極の導電材の使用量は、負極活物質100質量部に対し、0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部が更に好ましい。
【0025】
集電体上への合材層の形成は、上述の負極活物質とバインダーを、溶媒を用いて、スラリーを作製し、集電体上(一般的に銅箔)に塗布、乾燥し、その後、任意の条件でプレスすることにより行なうことができる。用いられる溶媒は、特に限定されるものではないが、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアムド或いは、水、アルコール等が用いられる。
負極電極の溶媒は、溶媒として水を使用する場合は増粘剤を併用することが好ましい。溶媒の量は、ペーストが集電体に塗布しやすいような粘度となるように調整される。
負極電極の集電体としては、例えば、ステンレス箔、ニッケル箔、銅箔、ニッケルメッシュ又は銅メッシュ等が挙げられる。
【0026】
<(B)正極活物質を含む正極電極>
本発明で用いられる正極電極としては、通常の二次電池と同様に、正極活物質、結着剤、導電材等を有機溶媒又は水でスラリー化したものを集電体に塗布し、乾燥してシート状にしたものが使用される。正極活物質は、遷移金属とリチウムを含有するものであり、1種の遷移金属とリチウムを含有する物質が好ましく、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物等が挙げられ、これらを混合して用いてもよい。
上記リチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属としてはバナジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等が好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2等のリチウムコバルト複合酸化物、LiNiO2等のリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO2、LiMn24、Li2MnO3等のリチウムマンガン複合酸化物、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の主体となる遷移金属原子の一部をアルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、リチウム、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、ガリウム、ジルコニウム等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
置換されたものの具体例としては、例えば、LiNi0.5Mn0.52、LiNi0.80Co0.17Al0.032、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiMn1.8Al0.24、LiMn1.5Ni0.54等が挙げられる。
上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、バナジウム、チタン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO4等のリン酸鉄類、LiCoPO4等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をアルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、リチウム、ニッケル、銅、亜鉛、マグネシウム、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ等の他の金属で置換したもの等が挙げられる。
【0027】
正極電極の結着剤及びスラリー化する溶媒としては、上記負極電極で用いられるものと同様である。正極電極の結着剤の使用量は、正極活物質100質量部に対し、0.001〜20質量部が好ましく、0.01〜10質量部が更に好ましく、0.02〜8質量部が最も好ましい。正極電極の溶媒の使用量は、正極活物質100質量部に対し、30〜300質量部が好ましく、50〜200質量部が更に好ましい。
正極電極の導電材としては、グラファイトの微粒子、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素の微粒子等、カーボンナノファイバー等が使用されるが、これらに限定されない。
正極電極の導電材の使用量は、正極活物質100質量部に対し、0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部が更に好ましい。
正極電極の集電体としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が使用される。
【0028】
<(C)リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液>
本発明で用いられるリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液(以下、単に「非水電解液」ともいう)について説明する。非水電解液は、上記一般式(1)で表される化合物を含有する。以下、この化合物について説明する。
一般式(1)におけるR1が表す2価の炭素原子数2〜6の不飽和炭化水素としては基中に不飽和二重結合又は三重結合を含む2価の炭化水素基であれば特に限定されないが、具体的な例としては、ビニレン、プロペニレン、イソプロペニレン、ブテニレン、ペンテニレン、ヘキセニレン、1−プロペニレン−2,3−ジイル、エチニレン、プロピニレン、ブチニレン、ペンチニレン、ヘキシニレン等が挙げられ、炭素原子数6〜12のアリーレン基としては、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等が挙げられ、2価の炭素原子数3〜12の複素環含有基としては、下記の構造のものが挙げられる。
【0029】
一般式(1)におけるR2〜R7が表す炭素原子数1〜6のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル等が挙げられ、炭素原子数2〜6のアルケニル基としては、ビニル、アリル、3−ブテニル、イソブテニル、4−ペンテニル、5−ヘキセニル等が挙げられ、炭素原子数2〜6のアルキニル基としては、エチニル、2−プロピニル、2−ブチニル、3−ブチニル等が挙げられる。
2〜R7としては、変質し難い耐久性の高い表面構造とすることができることから、メチル、エチル、プロピル、ブチル、及びビニルが好ましく、メチルが最も好ましい。
【0030】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、ビス(トリメチルシリル)アセチレンジカルボキシレート、ビス(エチルジメチルシリル)アセチレンジカルボキシレート、ビス(ジメチルプロピルシリル)アセチレンジカルボキシレート、ビス(ジメチルブチルシリル)アセチレンジカルボキシレート、ビス(ジメチルビニルシリル)アセチレンジカルボキシレート、フマル酸ビス(トリメチルシリル)、マレイン酸ビス(トリメチルシリル)、フタル酸ビス(トリメチルシリル)、イソフタル酸ビス(トリメチルシリル)、テレフタル酸ビス(トリメチルシリル)、イタコン酸ビス(トリメチルシリル)等が挙げられる。
【0031】
非水電解液において、上記一般式(1)で表される化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
また、本発明の非水電解液において、上記一般式(1)で表わされる化合物の含有量が、あまりに少ない場合には十分な効果を発揮できず、またあまりに多い場合には、配合量に見合う増量効果は得られないばかりか、却って非水電解液の特性に悪影響を及ぼすことがあることから、一般式(1)で表される化合物の含有量は、非水電解液中、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜8質量%が更に好ましく、0.03〜5質量%が最も好ましい。
【0032】
本発明で用いる非水電解液が上記一般式(2)で表される化合物を含む場合、本発明の効果が顕著に表れるため好ましい。以下、一般式(2)で表される化合物について説明する。
一般式(2)におけるR8〜R15が表す炭素原子数1〜6のアルキル基としては、上記R2が表す炭素原子数1〜6のアルキル基が表すものとして挙げたものと同様の基であり、R8〜R15が表す炭素原子数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ、s−ブチルオキシ、t−ブチルオキシ、ペントキシ、イソペンチルオキシ、シクロペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ等が挙げられる。
フェニル基、フェノキシ基、ベンジル基を置換する炭素原子数1〜6のアルキル基としては、前記列挙の炭素原子数1〜6のアルキル基が挙げられる。
8〜R10が表す基の中でも、炭素原子数1〜6のアルキル基であるものが好ましく、R11〜R15が表す基の中でも、水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であるものが好ましい。
【0033】
一般式(2)で表される化合物の具体例としては、トリメチルフェニルシラン、トリエチルフェニルシラン、1−トリメチルシリル−4−メチルベンゼン、エトキシ(メチル)ジフェニルシラン、モノメチルトリフェニルシラン等が挙げられる。
【0034】
非水電解液において、上記一般式(2)で表される化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記一般式(2)で表させる化合物を使用する場合、一般式(2)で表される化合物の含有量は、非水電解液中、0.001〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%が更に好ましく、0.1〜5質量%が最も好ましい。
【0035】
本発明で用いる非水電解液は、更に、分子内にジフルオロシリル基を2つ以上含有するフルオロシラン化合物、不飽和基を有する環状カーボネート化合物、鎖状カーボネート化合物、不飽和ジエステル化合物、環状硫酸エステル、環状亜硫酸エステル、スルトン、不飽和リン酸エステル化合物、ハロゲン化環状カーボネート化合物又は上記一般式(2)で表される化合物以外の芳香族シラン化合物を添加することができる。
【0036】
上記の分子内にジフルオロシリル基を2つ以上含有するフルオロシラン化合物としては、ビス(ジフルオロメチルシリル)メタン、1,2−ビス(ジフルオロメチルシリル)エタン、1,3−ビス(ジフルオロメチルシリル)プロパン、1,4−ビス(ジフルオロメチルシリル)ブタン、1,4−(ビスジフルオロメチルシリル)ベンゼン、トリス(ジフルオロメチルシリル)メタン、テトラキス(ジフルオロメチルシリル)メタン等が挙げられ、1,2−ビス(ジフルオロメチルシリル)エタン、1,3−ビス(ジフルオロメチルシリル)プロパン、1,4−ビス(ジフルオロメチルシリル)ブタン、及びトリス(ジフルオロメチルシリル)メタンが好ましく、
上記不飽和基を有する環状カーボネート化合物としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、プロピリデンカーボネート、エチレンエチリデンカーボネート、エチレンイソプロピリデンカーボンート等が挙げられ、ビニレンカーボネート及びビニルエチレンカーボネートが好ましく、
上記鎖状カーボネート化合物としては、ジプロパルギルカーボネート、プロパルギルメチルカーボネート、エチルプロパルギルカーボネート、ビス(1−メチルプロパルギル)カーボネート、ビス(1−ジメチルプロパルギル)カーボネート等が挙げられる。
上記不飽和ジエステル化合物としては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジペンチル、マレイン酸ジヘキシル、マレイン酸ジヘプチル、マレイン酸ジオクチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジペンチル、フマル酸ジヘキシル、フマル酸ジヘプチル、フマル酸ジオクチル、アセチレンジカルボン酸ジメチル、アセチレンジカルボン酸ジエチル、アセチレンジカルボン酸ジプロピル、アセチレンジカルボン酸ジブチル、アセチレンジカルボン酸ジペンチル、アセチレンジカルボン酸ジヘキシル、アセチレンジカルボン酸ジヘプチル、アセチレンジカルボン酸ジオクチル等が挙げられ、
上記環状硫酸エステルとしては、1,3,2-ジオキサチオラン−2,2−ジオキサイド、1,3−プロパンジオールシクリックスルフェート、プロパン−1,2−シクリックスルフェート等が挙げられ、
上記環状亜硫酸エステルとしては、亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン等が挙げられ、
上記スルトンとしては、プロパンスルトン、ブタンスルトン、1,5,2,4−ジオキサジチオラン−2,2,4,4−テトラオキサイド等が挙げられる。
上記不飽和リン酸エステル化合物としては、トリス(2−プロピニル)フォスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルフォスフェート等が挙げられる。上記ハロゲン化環状カーボネート化合物としては、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。
上記一般式(2)で表される化合物以外の芳香族シラン化合物としては、1,1,2,2−テトラメチル−1,2−ジフェニルジシラン、1,4−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン、1,2−ビス(トリメチルシリル)ベンゼン等が挙げられる。
これら添加剤の中では、1,2−ビス(ジフルオロメチルシリル)エタン、1,4−ビス(ジフルオロメチルシリル)ブタン、トリス(ジフルオロメチルシリル)メタン、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジプロパルギルカーボネート、アセチレンジカルボン酸ジメチル、アセチレンジカルボン酸ジエチル、プロパンスルトン、ブタンスルトン、トリス(2−プロピニル)フォスフェート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートが好ましく、1,2−ビス(ジフルオロメチルシリル)エタン、1,4−ビス(ジフルオロメチルシリル)ブタン、トリス(ジフルオロメチルシリル)メタン、ビニレンカーボネート、ジプロパルギルカーボネート、アセチレンジカルボン酸ジメチル、プロパンスルトン、及びフルオロエチレンカーボネートが更に好ましく、1,2−ビス(ジフルオロメチルシリル)エタン、1,4−ビス(ジフルオロメチルシリル)ブタン、トリス(ジフルオロメチルシリル)メタン、ビニレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネートが最も好ましい。
【0037】
これらの添加剤は1種のみを使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。非水電解液において、これらの添加剤の含有量は通常、非水電解液中の合計で20質量%以下で用いられ、好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以下である。
【0038】
非水電解液に用いられる有機溶媒としては、非水電解液に通常用いられているものを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。具体的には、飽和環状カーボネート化合物、飽和環状エステル化合物、スルホキシド化合物、スルホン化合物、アマイド化合物、飽和鎖状カーボネート化合物、鎖状エーテル化合物、環状エーテル化合物、飽和鎖状エステル化合物及び含リン有機溶媒等が挙げられる。
【0039】
上記有機溶媒のうち、飽和環状カーボネート化合物、飽和環状エステル化合物、スルホキシド化合物、スルホン化合物及びアマイド化合物は、比誘電率が高いため、非水電解液の誘電率を上げる役割を果たし、特に飽和環状カーボネート化合物が好ましい。
斯かる飽和環状カーボネート化合物としては、例えば、エチレンカーボネート、1,2−プロピレンカーボネート、1,3−プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、1,3−ブチレンカーボネート、1,1,−ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
上記飽和環状エステル化合物としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−ヘキサノラクトン、δ−オクタノラクトン等が挙げられる。
上記スルホキシド化合物としては、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジプロピルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、チオフェン等が挙げられる。
上記スルホン化合物としては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン(テトラメチレンスルホンともいう)、3−メチルスルホラン、3,4−ジメチルスルホラン、3,4−ジフェニメチルスルホラン、スルホレン、3−メチルスルホレン、3−エチルスルホレン、3−ブロモメチルスルホレン等が挙げられ、スルホラン、テトラメチルスルホランが好ましい。
上記アマイド化合物としては、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
上記有機溶媒のうち、飽和鎖状カーボネート化合物、鎖状エーテル化合物、環状エーテル化合物及び飽和鎖状エステル化合物は、非水電解液の粘度を低くすることができ、電解質イオンの移動性を高くすることができる等、出力密度等の電池特性を優れたものにすることができる。また、低粘度であるため、低温での非水電解液の性能を高くすることができ、中でも、飽和鎖状カーボネート化合物が好ましい。
斯かる飽和鎖状カーボネート化合物としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、t−ブチルプロピルカーボネート等が挙げられる。
上記の鎖状エーテル化合物又は環状エーテル化合物としては、例えば、ジメトキシエタン(DME)、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジオキサン、1,2−ビス(メトキシカルボニルオキシ)エタン、1,2−ビス(エトキシカルボニルオキシ)エタン、1,2−ビス(エトキシカルボニルオキシ)プロパン、エチレングリコールビス(トリフルオロエチル)エーテル、プロピレングリコールビス(トリフルオロエチル)エーテル、エチレングリコールビス(トリフルオロメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(トリフルオロエチル)エーテル等が挙げられ、これらの中でも、ジオキソランが好ましい。
上記飽和鎖状エステル化合物としては、分子中の炭素原子数の合計が2〜8であるモノエステル化合物及びジエステル化合物が好ましく、具体的な化合物としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、マロン酸メチル、マロン酸エチル、コハク酸メチル、コハク酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールジアセチル、プロピレングリコールジアセチル等が挙げられ、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、及びプロピオン酸エチルが好ましい。
上記含リン有機溶媒としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類;亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステル類;トリメチルホスフィンオキシド、トリエチルフォスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類やホスファゼン類等が挙げられる。
【0040】
その他、有機溶媒としてアセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタンやこれらの誘導体を用いることもできる。
【0041】
有機溶媒に溶解させるリチウム塩としては、従来公知のリチウム塩が用いられ、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiB(CF3SO34、LiB(C242、LiBF2(C24)、LiSbF6、LiSiF5、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlF4、LiAlCl4、及びこれらの誘導体等が挙げられ、これらの中でも、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、及びLiC(CF3SO23並びにLiCF3SO3の誘導体、及びLiC(CF3SO23の誘導体からなる群から選ばれる1種以上を用いるのが、電気特性に優れるので好ましい。
【0042】
上記リチウム塩は、本発明の非水電解液中の濃度が、0.1〜3.0mol/L、特に0.5〜2.0mol/Lとなるように、上記有機溶媒に溶解することが好ましい。該リチウム塩の濃度が0.1mol/Lより小さいと、充分な電流密度を得られないことがあり、3.0mol/Lより大きいと、非水電解液の安定性を損なう恐れがある。上記リチウム塩は、2種以上のリチウム塩を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
また、非水電解液には、難燃性を付与するために、ハロゲン系、リン系、その他の難燃剤を適宜添加することができる。難燃剤の添加量が、あまりに少ない場合には十分な難燃化効果を発揮できず、またあまりに多い場合は、配合量に見合う増量効果は得られないばかりか、却って非水電解液の特性に悪影響を及ぼすことがあることから、本発明の非水電解液を構成する有機溶媒に対して、1〜50質量%であることが好ましく、3〜10質量%であることが更に好ましい。
ハロゲン系難燃剤の具体例としては、ジ(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、ジ(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)カーボネート、ジ(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)カーボネート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル等が挙げられ、リン系難燃剤の具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート等が挙げられる。
【0044】
<(D)分離膜>
本発明の非水電解液二次電池では、正極電極と負極電極との間に分離膜を用いる。該分離膜としては、通常用いられる高分子の微多孔フィルムを特に限定なく使用できる。該フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド等のポリエーテル類、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等の種々のセルロース類、ポリ(メタ)アクリル酸及びその種々のエステル類等を主体とする高分子化合物やその誘導体、これらの共重合体や混合物からなるフィルム等が挙げられる。これらのフィルムは、単独で用いてもよいし、これらのフィルムを重ね合わせて複層フィルムとして用いてもよい。更に、これらのフィルムには、種々の添加剤を用いてもよく、その種類や含有量は特に制限されない。これらのフィルムの中でも、本発明の非水電解液二次電池には、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホンからなるフィルムが好ましく用いられる。
【0045】
これらのフィルムは、電解液がしみ込んでイオンが透過し易いように、微多孔化がなされている。この微多孔化の方法としては、高分子化合物と溶剤の溶液をミクロ相分離させながら製膜し、溶剤を抽出除去して多孔化する「相分離法」と、溶融した高分子化合物を高ドラフトで押し出し製膜した後に熱処理し、結晶を一方向に配列させ、更に延伸によって結晶間に間隙を形成して多孔化をはかる「延伸法」等が挙げられ、用いられるフィルムによって適宜選択される。
【0046】
本発明の非水電解液二次電池において、正極材料、非水電解液及び分離膜には、より安全性を向上する目的で、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードアミン化合物等を添加してもよい。
【0047】
<非水電解液二次電池の構造>
上記(A)〜(D)の構成からなる本発明の非水電解液二次電池は、その形状には特に制限を受けず、コイン型、円筒型、角型等、種々の形状とすることができる。 図1は、本発明の非水電解液二次電池のコイン型電池の一例を、 図2及び 図3は円筒型電池の一例をそれぞれ示したものである。
【0048】
図1に示すコイン型の非水電解液二次電池10において、1は正極電極、1aは正極集電体、2は負極活物質として真比重1.60−2.20g/cm3の炭素材料含む負極電極、2aは負極集電体、3はリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液、4はステンレス製の正極ケース、5はステンレス製の負極ケース、6はポリプロピレン製のガスケット、7はポリエチレン製の分離膜である。
【0049】
また、図2及び図3に示す円筒型の非水電解液二次電池10'において、11は負極電極、12は負極集電体、13は正極電極、14は正極集電体、15は本発明の非水電解液、16は分離膜、17は正極端子、18は負極端子、19は負極板、20は負極リード、21は正極板、22は正極リード、23はケース、24は絶縁板、25はガスケット、26は安全弁、27はPTC素子である。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、以下の実施例等により本発明は何等制限されるものではない。尚、実施例中の「部」や「%」は、特にことわらないかぎり質量によるものである。
【0051】
〔実施例1〜14及び比較例1〜13〕非水電解液二次電池の作製及び評価
実施例及び比較例において、非水電解液二次電池(リチウム二次電池)は、以下の作製手順に従って作製された。
【0052】
<各構成の作製>
〔負極電極(A1)の作製〕
活物質として真比重2.01の炭素材料94.5質量部、導電材としてアセチレンブラック1.0重量部、及びバインダーとしてスチレンブタジエンゴム 3.0質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース 1.5質量部を混合し、水50質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーを銅製の負極集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この負極電極を所定の大きさにカットし、円盤状負極電極A1を作製した。
【0053】
〔負極電極(A2)の作製〕
活物質として真比重2.14の炭素材料94.5質量部、導電材としてアセチレンブラック1.0質量部、及びバインダーとしてスチレンブタジエンゴム 3.0質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース 1.5質量部を混合し、水50質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーを銅製の負極集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この負極電極を所定の大きさにカットし、円盤状負極電極A2を作製した。
【0054】
〔負極電極(A’1)の作製〕
活物質として真比重2.23の人造黒鉛96.0質量部、導電材としてアセチレンブラック1.0質量部、及びバインダーとしてスチレンブタジエンゴム 1.5質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース 1.5質量部を混合し、水120質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーを銅製の負極集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この負極電極を所定の大きさにカットし、円盤状負極電極A’1を作製した。
【0055】
〔負極電極(A3)の作製〕
活物質として真比重2.23の天然黒鉛47.5質量部及び真比重2.14の炭素材料47.5質量部(人造黒鉛/炭素材料=5/5)、及びバインダーとしてスチレンブタジエンゴム3.0質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース1.5質量部を混合し、水50質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーを銅製の負極集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この負極電極を所定の大きさにカットし、円盤状負極電極(A3)を作製した。
【0056】
〔負極電極(A4)の作製〕
活物質として真比重2.23の天然黒鉛76質量部及び真比重2.14の炭素材料19質量部(人造黒鉛/炭素材料=8/2)、及びバインダーとしてスチレンブタジエンゴム3.0質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース1.5質量部を混合し、水50質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーを銅製の負極集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この負極電極を所定の大きさにカットし、円盤状負極電極(A4)を作製した。
【0057】
〔正極電極(B1)の作製〕
活物質としてLiNiMnCoO2(NMC)88質量部、導電材としてアセチレンブラック5質量部、及びバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)7質量部を混合した後、N−メチルピロリドン(NMP)50質量部に分散させてスラリー状とした。このスラリーをアルミニウム製の集電体に塗布し、乾燥後、プレス成型した。その後、この正極電極を所定の大きさにカットして円盤状正極電極B1を作製した。
【0058】
〔電解質溶液の調製〕
エチレンカーボネート30体積%、エチルメチルカーボネート40体積%、及びジメチルカーボネート30体積%からなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解し電解質溶液Aを調製した。
【0059】
〔非水電解液(C)の調製〕
電解液添加剤として、上記一般式(1)で表される化合物(下記に示す化合物C1−1、C1−2、C1−3)、上記一般式(2)で表される化合物(下記に示す化合物C2−1)、下記に示す化合物C’1を〔表1〕に示す割合で電解質溶液に溶解し、非水電解液(C)を調製した。尚、〔表1〕中の( )内の数字は、非水電解液における濃度(質量%)を表す。
【0060】
〔化合物C1−1〕
フマル酸ビス(トリメチルシリル)
〔化合物C1−2〕
イタコン酸ビス(トリメチルシリル)
〔化合物C1−3〕
チオフェン−2,5−ジカルボン酸ビス(トリメチルシリル)
〔化合物C2−1〕
フェニルトリメチルシラン
〔化合物C’1〕
ビニレンカーボネート
【0061】
〔電池の組み立て〕
得られた円盤状負極電極(A)と円盤状正極電極(B)を、厚さ25μmのポリプロピレン製の微多孔フィルム((D)分離膜)をはさんでケース内に保持した。その後、上記で調整した非水電解液(C)が表1となるように、それぞれの非水電解液をケース内に注入し、ケースを密閉、封止して、実施例1〜13及び比較例1〜14の非水電解液二次電池(φ20mm、厚さ3.2mmのコイン型)を製作した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
実施例1〜1及び比較例1〜1の非水電解液二次電池を用いて、下記試験法により、電池劣化による容量損失率を評価した。結果を表1及び表2に示す。
非水電解液二次電池作製後、25℃で充放電を5サイクル行い、5回目の放電容量を「保存前の容量」とした。その後、満充電状態で60℃の恒温槽に2週間静置した。2週間経過した後、25℃で充放電を5サイクル行い、5回目(電池作製後計10回目)の放電容量を「保存後の容量」とした。下記式に示すように、電池劣化による容量損失を「保存前の容量」を100とした場合の割合として求めた。
容量損失率(%)=[1−[(保存後の容量)/(保存前の容量)]]×100
【0065】
〔表1〕及び〔表2〕の結果から明らかなように、(A)負極活物質として真比重1.60−2.20g/cm3の炭素材料含む負極を用いた非水電解液二次電池において、非水電解液に上記一般式(1)で表される化合物を加えた場合、電池の保存劣化が抑制され、さらに上記一般式(2)で表される化合物を加えた場合、より顕著に保存劣化が抑制される。
【0066】
以上から、本発明の非水電解液二次電池は、長期にわたり安定した電池容量を維持することが出来るため有用なものである。
【符号の説明】
【0067】
1 正極
1a 正極集電体
2 負極
2a 負極集電体
3 電解液
4 正極ケース
5 負極ケース
6 ガスケット
7 分離膜
10 コイン型の非水電解液二次電池
10' 円筒型の非水電解液二次電池
11 負極
12 負極集電体
13 正極
14 正極集電体
15 電解液
16 分離膜
17 正極端子
18 負極端子
19 負極板
20 負極リード
21 正極
22 正極リード
23 ケース
24 絶縁板
25 ガスケット
26 安全弁
27 PTC素子
図1
図2
図3