(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647556
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】コンタクト電極およびその形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20200203BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20200203BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20200203BHJP
H01L 21/288 20060101ALI20200203BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20200203BHJP
H01L 51/40 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
H01L29/78 616K
H01L21/28 301B
H01L21/288 E
H01L21/288 M
H01L29/28 100A
H01L29/28 370
H01L29/78 618B
H01L29/78 616V
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-32473(P2015-32473)
(22)【出願日】2015年2月23日
(65)【公開番号】特開2016-157711(P2016-157711A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228165
【氏名又は名称】日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162961
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真由美
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正浩
【審査官】
綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/015350(WO,A1)
【文献】
特開2006−005041(JP,A)
【文献】
特許第5649150(JP,B1)
【文献】
特開2014−205905(JP,A)
【文献】
特開2008−266689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
H01L 21/288
H01L 21/336
H01L 29/786
H01L 51/00−56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層上に配置された第一金属体および第二金属層からなるコンタクト電極の構造において、当該第一金属体は、あらかじめ還元析出された当該第一金属体のナノ粒子が当該有機半導体層上で30%〜70%の面積割合を占める網目状の構造であり、当該第二金属層は当該第一金属体と当該有機半導体層上に還元析出された被覆層であることを特徴とするコンタクト電極。
【請求項2】
上記第一金属体が銀(Ag)若しくは銅(Cu)であり、上記第二金属層が金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)若しくはコバルト(Co)であるか、または、上記第一金属体が金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)若しくはコバルト(Co)であり、上記第二金属層が銀(Ag)若しくは銅(Cu)であることを特徴とする請求項1に記載のコンタクト電極。
【請求項3】
上記有機半導体層は、一つの絶縁層上に混在して設けられているp型有機半導体層およびn型有機半導体層を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のコンタクト電極。
【請求項4】
有機半導体層上に無電解メッキ法によりコンタクト電極を形成する方法であって、有機半導体層上に、あらかじめ還元析出された第一金属体のナノ粒子からなる30%〜70%の面積割合の網目状の凝集体を形成する工程、および当該有機半導体層と当該第一金属体を第二金属で無電解メッキして被覆層を形成する工程からなることを特徴とするコンタクト電極の形成方法
【請求項5】
有機半導体層上に無電解メッキ法によりコンタクト電極を形成する方法であって、一つの絶縁層上にp型有機半導体層とn型有機半導体層を形成する工程、当該両有機半導体層上に、あらかじめ還元析出された第一金属体のナノ粒子からなる30%〜70%の面積割合の網目状の凝集体を形成する工程、当該有機半導体層と当該凝集体を第二金属で無電解メッキして被覆層を形成する工程、および当該被覆層及び前記凝集体をエッチングしてコンタクト電極を形成する工程からなることを特徴とするコンタクト電極の形成方法。
【請求項6】
上記第一金属体が銀(Ag)若しくは銅(Cu)であり、上記第二金属が金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)若しくはコバルト(Co)であるか、または、上記第一金属体が金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、若しくはコバルト(Co)であり、上記第二金属が銀(Ag)若しくは銅(Cu)であることを特徴する請求項4または請求項5に記載のコンタクト電極の形成方法。
【請求項7】
上記被覆層を形成する工程が、コロイド触媒を付与した後に前記無電解メッキを行うものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のコンタクト電極の形成方法。
【請求項8】
上記被覆層を形成する工程が、前記無電解メッキを複数回行うものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のコンタクト電極の形成方法。
【請求項9】
上記網目状の凝集体を形成する工程が、非水溶液で行うものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のコンタクト電極の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層上のコンタクト電極およびその形成方法に関し、特に一つのコンタクト電極の構造体をp型とn型有機半導体層の双方に共用するためのコンタクト電極およびその形成方法に関するものであり、例えば、pn混在型の有機半導体電界効果型トランジスタ(Organic field effect transistor(OFET))のソース電極およびドレイン電極の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス業界においては、シリコンなどの無機材料から作られた無機半導体のトランジスタから、有機材料を利用した、いわゆる有機半導体のトランジスタ開発が進められている。この有機材料を溶解した溶液を利用した有機FETは、印刷法、スピンコート法、浸漬法等の手段を用いることができるため大面積化が容易である。また、高温、高真空プロセスが不要となり、簡便に電子回路形成が可能になる結果、従来のSi系半導体より桁違いの低コストでトランジスタを製造することが期待されている。そして、有機FETは、プラスチック基材や樹脂フィルム上にも形成することができる結果、軽く薄い上に柔らかく曲げることができるフレキシブルディスプレイやフレキシブルセンサーなどのデバイスの実現が期待されている。
【0003】
このような有機FETのコンタクト電極の実用的な構造として、
図1に示すようなトップコンタクト・ボトムゲート型構造のトランジスタを例に挙げる。
図1(A)はトランジスタ1の平面図であり、
図1(B)は
図1(A)のB−B線に沿った断面図を表している。トランジスタ1は、半導体層に有機半導体材料を用いた電界効果型のトランジスタ、すなわち有機FETである。例えば、シリコンウェハー基板2を用いた場合、シリコンをゲート電極3とし、その上にゲート絶縁膜4としての酸化シリコン(SiO
2)膜が設けられ、その上に有機半導体層5が形成される。そして、この酸化シリコン(SiO
2)膜の上の有機半導体層5上には、キャリア注入用の2種類のコンタクト電極(例えば、ソース電極6Aおよびドレイン電極6B)が形成される。
【0004】
基板2は、例えば、PES(ポリエーテルスルフォン),PEN(ポリエチレンナフタレート),PET(ポリエチレンテレフタレート),PC(ポリカーボネート)あるいはPI(ポリイミド)等のエンジニアリングプラスチックにより構成することも知られている。この場合、基板2は銀(Ag)などのゲート電極3等を支持するものであり、ゲート電極3側の面は絶縁性のゲート絶縁膜4を有している。さらに、基板2はステンレス(SUS)等の金属箔の表面を樹脂でラミネートしたものを用いることも知られ、あるいは、ガラス基板を使用するようにしてもよいことが知られている。高いフレキシブル性(屈曲性)を得るためにはプラスチック基板を用いるのが一般的である。
【0005】
ゲート電極3は、トランジスタ1にゲート電圧を印加し、このゲート電圧により有機半導体層5中のキャリア密度を制御する役割を有する。ゲート電極3は基板2上の選択的な領域に設けられ、銀(Ag)以外に、例えば、金(Au),アルミニウム(Al),銅(Cu),白金(Pt)またはニッケル(Ni)等の金属単体、あるいはこれらの合金により構成することが知られている。ゲート電極3は、ニッケル(Ni)やクロム(Cr)などを含む無電解メッキまたは電気メッキの積層体にすることも提案されている。
【0006】
ゲート絶縁膜4の材料としては、例えば、既存の酸化シリコン(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)のような酸化物絶縁体や、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリビニルフェニレン、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のようなアクリル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素系樹脂、ポリビニルフェノールあるいはノボラック樹脂のようなフェノール系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテンなどのオレフィン系樹脂等を用いることが提案されている。
【0007】
他方、有機半導体層5の材料としては、例えば、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体、2,9−ジアルキルジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン誘導体、ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン誘導体、ジナフト[2,3−d:2’,3’−d’]ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン誘導体、TIPS−ペンタセン、TES−ADT、およびその誘導体、ペリレン誘導体、TCNQ、F4−TCNQ、F4−TCNQ、ルブレン、ペンタセン、p3HT、pBTTT、およびpDA2T−C16の結晶体のような単分子有機半導体材料や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ポリアリールアミン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂、フルオレン−ビチオフェン共重合体、フルオレン−アリールアミン共重合体またはこれらの誘導体のような高分子の有機半導体材料が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることが提案されている(特願2014−175244号明細書参照)。
【0008】
このような有機半導体材料は、結晶性が高い事から特有な電子雲の広がりが生まれ、キャリアの移動能が高く、低温での形成が可能といった点から、低コストかつ大面積の半導体薄膜をプラスティックフィルム上に形成することできる。さらに、分子構造を変化させることで容易に材料特性を変化させることができるため多様なバリエーションが可能となり、無機半導体材料ではなし得なかったような機能や素子を実現することが期待されている。
【0009】
有機トランジスタ1の特性を示すパラメータの一つとして、電流のオンオフ比(I
on/I
off)が挙げられる。このオン電流を大きくするためには、電界効果移動度を向上させること、コンタクト電極(例えば、ソース電極6Aおよびドレイン電極6B)の電極間距離を狭くすること、有機半導体層とコンタクト電極の接触抵抗を低くすること等が有効であることが理論的に知られている。
【0010】
しかし、有機半導体層5は、酸、アルカリ水溶液や有機溶剤に非常に敏感であるため、強酸や強アルカリの前処理液やメッキ液、またはフォトレジスト等に接触すると有機表面層の変質が起こる。特に1cm
2/Vsを超えるような高移動を誇る結晶性の高い有機半導体結晶では、大幅な移動度の低下が引き起こされやすいという欠点がある。
【0011】
よって、上記のような高キャリア移動度を与える有機半導体材料では、これまで有機FETの作製において真空蒸着法によりコンタクト電極を形成する方法が主流であった。これは、大気中でのインクジェット法やスクリーン印刷法やメッキ法では、有機半導体層5とコンタクト電極との界面における実際の接触抵抗を低くすることができなかったからである。真空蒸着法では、この界面における接触抵抗は数10から数100Ωcm程度であることが利点である。反面、コンタクト電極の形成に真空蒸着法を用いてしまうと、その処理が煩雑でありコストもかかるため、大気中で形成可能な有機半導体のメリットを大きく損ねてしまうことになる。
【0012】
一方、金属ペーストや金属インクにより作成する方法も報告されている。例えば、触媒溶液を印刷法によって電極パターン状に配した後に無電解メッキを施し、前記電極を設ける工程が開示されている。しかし、このように形成されたコンタクト電極と有機半導体層5の接触抵抗の値は100〜1000kΩcm程度となっており、これは従来型のSi−MOSFETの値と比較して3、4桁以上高くなっている。
【0013】
有機半導体層5と接触させるソース電極6Aまたはドレイン電極6Bでは、低い抵抗値を有するコンタクト電極が求められており、その形成方法が重要となる。本発明者は、「有機半導体層上のコンタクト電極の形成方法において、有機半導体層上に貴金属ナノ粒子を吸着させる前処工程、およびその後にpH=5〜9の無電解メッキ浴中で当該貴金属ナノ粒子上にメッキ金属を析出させること」により0.8kΩcmの接触抵抗の値を得ることに成功した(特願2014−175244号明細書参照)。
【0014】
無電解メッキ方法以外にも、コンタクト電極の形成方法には次のようなものが知られている。特許第4554881号公報(後述する特許文献1)の0032段落には、「塩化パラジウムの塩酸溶液をドットパターン…にスクリーン印刷し、ソース/ドレイン電極パターンを形成した。」とあり、同0033段落には、この「ソース/ドレイン電極パターンが形成されたガラス基板を…無電解ニッケルメッキ浴に浸漬して、膜厚110nmのニッケル薄膜からなるソース/ドレイン電極3Bを形成した。…次に、このガラス基板上に、有機半導体層5としてペンタセン薄膜を、基板温度50℃で平均膜厚150nm(水晶振動子により測定した膜厚)となるように成長させた」ことが記載されている。この技術は、上記の有機半導体層上にコンタクト電極を形成すると有機半導体層が破壊されるおそれがあるため、コンタクト電極上に有機半導体層5を真空中で形成しているものである。
【0015】
また、特開2007−73702号公報(後述する特許文献2)では、「電極層と半導体層との接触抵抗が低く、密着性と経時安定性に優れた酸化物半導体素子を提供すること」(0012段落)を目的とし、「酸化物半導体層と貴金属電極との間に、それらの間の密着性を向上させるための密着性向上層が分散して配置され、前記酸化物半導体層と貴金属電極が接触する部分を有することを特徴とする半導体素子」(請求項1)であって、「前記密着性向上層は、島状又はストライプ状に分散していることを特徴としている…半導体素子」(請求項2)が開示されている。
【0016】
しかしながら、特許文献2でも、この密着性向上層は「10nm以下の厚さを有すること」(請求項3)が好ましいとされ、「フォトリゾグラフィ法とリフトオフ法により、密着性向上層106及びソース・ドレイン電極103を形成した」(0038段落)と記載されているように、真空中でコンタクト電極を形成している。
【0017】
これら従来の特許文献に記載されている製造方法は、真空中でコンタクト電極を形成することが前提となっている。よって、装置が大掛かりとなり安価にコンタクト電極を大量に形成することは困難である。
【0018】
また、特開2008−263192号公報(後述する特許文献3)では、「有機発光ダイオード(OLED)及び高分子発光ダイオード(PLED)のような有機半導体材料の機能は、有機半導体材料の関連する高電荷注入抵抗によって限定される」(0003段落)ことから、「半導体材料と、上記半導体材料に電気的に接続された電極構造とを備える半導体デバイスであって、上記電極構造は、第1の仕事関数を有し、上記半導体材料と直接的に接触する第1の導体材料で形成された第1の部分と、上記第1の仕事関数と異なる第2の仕事関数を有し、上記電極構造の上記第1の部分と接合部を形成し、上記半導体材料と直接的に接触する第2の導体材料で形成された第2の部分とを備え、上記電極構造の上記第1の部分及び上記第2の部分は、第1の導体材料と第2の導体材料との間の接合部の端部からのフリンジ電界が上記半導体材料中へ広がるように配置される、半導体デバイス」(請求項1)の技術が開示されている。
【0019】
同公報には、また、「a)半導体材料の上面に第1の導体材料を配置し、第1の仕事関数を有する上記第1の導体材料は、上記半導体材料の上記上面の第1の領域だけを覆うステップと、b)上記第1の導体材料及び上記半導体材料の上面の第2の領域の上方に、上記第1の仕事関数と異なる第2の仕事関数を有する第2の導体材料の層を形成するステップとを備え、上記第1の導体材料及び上記第2の導体材料は、上記第1の導体材料と上記第2の導体材料との間の接合部の端部からのフリンジ電界が上記半導体材料に広がるように配置される電極構造を形成する、半導体デバイスの形成方法」(請求項15)が開示されている。さらに、「上記半導体材料の上記上面の上記第1の領域に複数の島のように上記第1の導体材料を配置するステップを含(ん)」(請求項16)でもよいことが開示され、また、上記ステップ(a)は、印刷や回転塗布技術を用いて半導体材料の上面に第1の導体材料を配置してもよい旨が記載されている(同請求項18)。
【0020】
しかしながら、この電極構造は、「フリンジ電界(回り込み電界)の電荷注入を備えるために設計された電極構造に関する」(0001段落)ものであり、コンタクト電極から有機半導体層5へ流入する電流を制御することができないものと考えられる。
【0021】
また、上記以外のコンタクト電極としては次のものが知られている。
例えば、特開2004−140052号公報には、真空中高温で行う方法として、「n型の窒化物系半導体層と、前記n型の窒化物系半導体層の一方表面上に形成されたAlからなる第1電極層、前記第1電極層の表面に接触するように形成されたPtからなる第2電極層、および、前記第2電極層の表面上に形成されたAuからなる第3電極層を含む電極とを備えた、電極構造」(請求項1)が開示されている。
【0022】
特開2013−84696号公報には、100℃以上の高温で焼成する材料として、「少なくとも1つの電極が、平均粒径が30nm以下であり、沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルアミンと沸点が100〜250℃の範囲内にある中短鎖アルキルジアミンを主成分とする保護分子により覆われた銀ナノ粒子からなることを特徴とする有機電子デバイス」(請求項2)が開示されている。
【0023】
特開2010−212587号公報には、電極を印刷法で形成した後に有機半導体層をインクジェット印刷する方法として、「基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、該ゲート絶縁膜よりも表面自由エネルギーの高いソース電極、該ゲート絶縁膜よりも表面自由エネルギーの高いドレイン電極、有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタの形成方法であって、有機半導体を第一の溶媒に溶解し、インクジェット法で滴下することで、該ソース電極と該ドレイン電極と該ゲート絶縁膜と、あるいは該ソース電極と該ドレイン電極と接触する島状有機半導体層を形成する段階と、該有機半導体を可溶な第二の溶媒をインクジェット法で該島状有機半導体層に滴下し、該ソース電極と該ドレインン電極と該ゲート絶縁膜と接触する島状有機半導体層を形成する段階を含み、第二の溶媒は第一の溶媒より表面張力が低く、かつ、第二の溶媒は第一の溶媒より沸点が低い、ことを特徴とする有機薄膜トランジスタの形成方法」(請求項1)が開示されている。
【0024】
特開2012−216676号公報には、電極上に有機半導体層をパターニングする方法として、「有機半導体材料を溶媒に含有させた有機半導体層形成用溶液に対して撥液性がある撥液部を有する基体と、前記基体上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記基体の撥液部の一部上に形成された遮蔽層とを有し、前記ソース電極及び前記ドレイン電極に金又は/及び白金が含まれている有機半導体素子用基板上に、前記有機半導体素子用基板のソース電極及びドレイン電極が形成されている側から、紫外線又は含酸素プラズマを前記有機半導体素子用基板に照射して、前記基体の撥液部の一部を前記有機半導体層形成用溶液に対して親液性がある親液部に変性する有機半導体素子用基板の形成工程と、前記遮蔽層を前記有機半導体素子用基板の基体上から除去し、前記有機半導体素子用基板上に前記有機半導体層形成用溶液を塗布し、前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接する前記有機半導体層を形成する有機半導体層の形成工程と、を有する有機半導体素子の製造方法」(請求項1)が開示されている。
【0025】
高度な電子デバイスを駆動させる目的で有機トランジスタを高速に動作させるためには、コンタクト電極(ソース電極、ドレイン電極)と有機半導体層との界面における接触抵抗を低くすることが必要となるが、これらの手法では工程が複雑になったり、100℃以上の高温処理を含むため手間暇がかかったり、有機半導体層が損なわれたりする。さらに、不均一な表面上で有機半導体層を形成するため、高結晶性かつ高移動度の有機半導体層を形成することは難しい。
【0026】
他方、既存のSi半導体等に適用される無電解メッキ方法を有機半導体層に応用することも検討されている。例えば、特開2009−293082号公報には、「(S23) つぎに、塩化パラジウム溶液…に基板11を1〜3分浸漬した後、純水で洗浄、乾燥を行い、触媒金属12bとしてPdを有機分子膜12aに触媒付与し、密着層12を形成した。(S24) 基板11をNi−Bの還元析出が可能な無電解めっき溶液…に浸漬し、密着層12上にNi−Bを還元析出させた。このとき、金属層13の膜厚は無電解めっき液への浸漬時間によって200nm程度となるように制御した。ついで無電解めっき溶液に浸漬した後、基板11を純水で洗浄し、ついで乾燥N
2によって乾燥させ」(0034段落)る方法が記載されており、0035段落には、Siの酸化膜除去処理によっても金属層が剥離することなく良好な密着性を有する旨が開示されている。
【0027】
また、特開2005−146400号公報には、「主として有機材料で構成される有機層に接触する電極を形成する電極形成方法であって、前記電極を形成するための金属の金属塩と還元剤とを含みアルカリ金属イオンを実質的に含まないメッキ液を用いて、無電解メッキにより前記電極を形成することを特徴とする電極形成方法」(請求項1)が開示され、その0046段落に、「触媒としてPdを用いる場合には、Sn−Pd等のPd合金のコロイド液…中に、基板2を浸漬することにより、Pd合金…を基板2の表面に吸着させる。その後、触媒に関与しない元素を除去することにより、Pdを基板2の表面に露出させる」こと、および、0112・0113段落に、「次に、Sn−Pdコロイド液(25℃)中に、ガラス基板を60秒間浸漬した。これにより、ガラス基板の表面にSn−Pdを吸着させた。その後、水を用いてガラス基板を洗浄した。次に、HBF
4とブドウ糖とを含む水溶液(25℃)中に、ガラス基板を60秒間浸漬した。これにより、ガラス基板の表面からSnを除去して、Pdをガラス基板の表面に露出させた。その後、水を用いてガラス基板を洗浄した。次に、Niメッキ液(80℃、pH8.5)中に、ガラス基板を60秒間浸漬した。これにより、ガラス基板の表面に、平均厚さ100nmのNiメッキ膜を形成した」ことが記載されている。
【0028】
さらに、特開2008−019457号公報の0016段落には、1%−塩化ステアリルトリメチルアンモニウム水溶液を含む暗褐色透明なパラジウムヒドロゾル中にポリエステル板を25℃、1時間浸漬したのち水洗して表面にパラジウムを付与し、つぎに、20mM−塩化金(III)酸水溶液(1ml)と0.5M−過酸化水素水溶液(1ml)を混合して得られる無電解金メッキ液中に、25℃、5分間浸漬して、外観が金色のポリエステル板を得、このポリエステル板が0.7%の金を含み良好な導電性を示した、旨が記載されている。
【0029】
しかしながら、高移動を誇る結晶性の高い有機半導体結晶の表面では、強酸や強アルカリや液温などによって結晶性状が大きく変わり、大幅な移動度の低下が引き起こされる。すなわち、一般的な塩化パラジウム溶液では塩酸によって表面が侵される。また、吸着させたSn−PdコロイドからSnを完全に除去する際などに結晶表面が大きく変わってしまう。さらに、過酸化水素水溶液でも発生期の酸素によって表面が侵される。
【0030】
そこで、本発明者は、真空蒸着並みに低接触抵抗のコンタクト電極を、真空環境を使用せずに形成するという、「有機半導体層上のコンタクト電極の形成方法において、有機半導体層上に貴金属ナノ粒子を吸着させる前処工程、およびその後にpH=5〜9の無電解メッキ浴中で当該貴金属ナノ粒子上にメッキ金属を還元析出させることを特徴とする電極形成方法」をすでに開発した(特願2014−175244号)。
【0031】
また、本発明者の一人は、「貴金属コロイドナノ粒子、糖アルコールおよび水とからなる無電解メッキ用前処理液において、当該コロイドナノ粒子は、金(Au)、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)のいずれかであり、糖アルコールの存在下に化学還元(第一スズ化合物による還元を除く。)することにより得られたもので、当該コロイドナノ粒子の平均粒径が5〜80ナノメートルであり、当該コロイドナノ粒子は金属質量として前処理液中に0.01〜10g/L含有し、当該糖アルコールは、トリトール、テトリトール、ペンチトール、ヘキシトール、ヘプチトール、オクチトール、イノシトール、クエルシトール、ペンタエリスリトールからなる群のうちの少なくとも1種以上を合計で前処理液中に0.01〜200g/L含有し、残部が水であることを特徴とする無電解メッキ用前処理液」をすでに開発した(特許第5649150号)。
【0032】
また、n型有機半導体材料においては、近年まで高移動度かつ大気中で安定な材料が開発されていなかった。最近になり、キャリア移動度が0.1cm
2/Vsを超えるような比較的高性能なn型有機半導体が開発され、CMOSのような高度な回路を搭載した有機半導体デバイスの可能性が示唆され始めた。
【0033】
しかし、n型有機半導体上のコンタクト電極形成については、真空蒸着法が用いられることが主流であり、真空環境を使用せずにn型有機半導体上にコンタクト電極を形成した例は少ない。
さらに、本発明のようなp型およびn型有機半導体が混在した基板上に、真空環境を使用せずに一括でコンタクト電極を形成する事は極めて困難とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特許4554881号公報
【特許文献2】特開2007−73702号公報
【特許文献3】特開2008−263192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明は、有機半導体において、真空環境を使用せずに真空蒸着法で形成されたコンタクト電極と同程度の低い接触抵抗を有する新規なコンタクト電極の構造体を提供することを目的とする。また、本発明は、活性な金属面で有機半導体と幅広く接触することにより、有機半導体との接触抵抗を大幅に低減するコンタクト電極の構造を提供することを目的とする。特に、本発明は、p型およびn型有機半導体が混在した基板上に一括で形成できるコンタクト電極の構造体を提供することを目的とする。すなわち、有機半導体上に仕事関数の異なる金属を含むコンタクト電極を配置することで、p型およびn型有機半導体の双方を駆動し得るコンタクト電極を提供することを目的とする。
【0036】
また、本発明は、有機半導体において、真空環境を使用せずに真空蒸着法で形成されたコンタクト電極と同程度の低接触抵抗を有する新規なコンタクト電極の形成方法を提供することを目的とする。また、本発明は、OFETにおいてコンタクト電極と有機半導体との接触抵抗を大幅に低減するコンタクト電極を大気中で形成する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、有機半導体結晶の特性を劣化させることなく大気中でコンタクト電極を形成する方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、広い表面積の有機半導体層上に均一な厚さのOFET用コンタクト電極を形成する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、繰り返して無電解メッキを行っても一定の品質のメッキ電極が安定して量産化できるOFET用コンタクト電極を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の課題を解決するためのコンタクト電極は、有機半導体層上に配置された第一金属体および第二金属層からなるコンタクト電極の構造において、当該第一金属体が、あらかじめ還元析出された当該第一金属体のナノ粒子が当該有機半導体層上で30%〜70%の面積割合を占める網目状の構造であり、当該第二金属層が、当該第一金属体と当該有機半導体層上に還元析出された被覆層であることを特徴とする。
【0038】
他方、本発明の課題を解決するためのコンタクト電極の一つの形成方法は、有機半導体層上に無電解メッキ法によりコンタクト電極を形成する方法であって、有機半導体層上にあらかじめ還元析出された当該第一金属体のナノ粒子を30%〜70%の面積割合で網目状の凝集体に形成する工程、および、当該有機半導体層と当該第一金属体を第二金属で無電解メッキして被覆層を形成する工程からなることを特徴とする。
【0039】
また、本発明の課題を解決するためのコンタクト電極のもう一つの形成方法は、有機半導体層上に無電解メッキ法によりコンタクト電極を形成する方法であって、一つの絶縁層上にp型有機半導体層とn型有機半導体層を形成する工程、当該両有機半導体層上にあらかじめ還元析出された当該第一金属体の粒子を30%〜70%の面積割合で網目状の凝集体に形成する工程、当該有機半導体層と当該第一金属体を第二金属で無電解メッキして被覆層を形成する工程、および当該被覆層をエッチングして当該p型有機デバイスと当該n型有機デバイスを分離する工程からなることを特徴とする。
【0040】
本発明において、第一金属体が有機半導体層上で30%〜70%の面積割合を占めることとしたのは、有機半導体層と還元金属との界面面積を広くするためである。理論的には50%が最も望ましいが、有機半導体層から第一金属体または第二金属被覆層への電流の流れやすさ、あるいは、第一金属体または第二金属被覆層から有機半導体層への電流の流れやすさを考慮して、第一金属体が有機半導体層上で30%〜70%の面積割合を占めることとした。安定した有機半導体層を使用する場合は、50%内外、すなわち40%〜60%の面積割合を占めることが好ましい。
【0041】
また、本発明において、第一金属体が有機半導体層上で網目状の構造であることとしたのは、第一金属体の電流が流れた複数の箇所と流れない複数の箇所とを連結して、すべての電極界面を同電位に保つためである。これにより、有機半導体層の界面全体にわたり安定した低抵抗が実現できる。
【0042】
なお、本発明において、第一金属体のナノ粒子および第二金属の被覆層が還元析出したものに限定しているのは、有機半導体層との界面抵抗を低くするためである。
第一金属体は、還元析出したナノ粒子を用いる事で、粒子表面への不純物の付着や、化合物膜(酸化)形成が抑えられ、粒子表面が清浄な金属結晶面となる。これにより、本来の金属と有機半導体の接触界面が形成され、界面抵抗が低くなる。
また、第二金属の被覆膜を有機半導体上で還元析出させることにより、第一金属上で反応した無電解めっき液中の還元剤が放出した電子が微量ながらも有機半導体層を通過し、有機半導体表面から電子の供給を受けて第二金属が析出する。そのため、第二金属と有機半導体の接触界面に不要物が挟まる事がなく、本来の金属と有機半導体の接触界面が形成され、界面抵抗が低くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明のコンタクト電極の構造体、または、p型およびn型有機半導体が混在した基板上のコンタクト電極の構造体において、好ましい実施態様は以下のとおりである。
【0044】
上記第一金属が銀(Ag)若しくは銅(Cu)であり、上記第二金属が金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)若しくはコバルト(Co)であるか、または、上記第一金属が金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)若しくはコバルト(Co)であり、上記第二金属が銀(Ag)若しくは銅(Cu)であることが好ましい。つまり、第一金属と第二金属は仕事関数の差の大きな金属を選択するという意味である。
【0045】
これらの第一金属は、水溶液または非水溶液で還元析出されたナノ粒子(平均粒径が1〜50nm)であることが好ましい。ナノ粒子は粒径がそろっていること(ナノ粒子群の90%以上が平均粒径の1/2〜2の範囲にあること)がより好ましい。電流を均一に流すためである。
【0046】
また、上記有機半導体層が、一つの絶縁層上にp型有機半導体層およびn型有機半導体層を構成していることが好ましい。
【0047】
本発明のコンタクト電極構造体の形成方法において、好ましい実施態様は以下のとおりである。
【0048】
上記第一金属が銀(Ag)若しくは銅(Cu)であり、上記第二金属が金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)若しくはコバルト(Co)であるか、または、上記第一金属が金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)若しくはコバルト(Co)であり、上記第二金属が銀(Ag)若しくは銅(Cu)であることが好ましい。
【0049】
上記被覆層を形成する工程が、コロイド触媒を付与した後に無電解メッキすることが好ましい。第一金属体に対して第二金属の無電解メッキを良好に行うためである。
【0050】
上記被覆層を形成する工程が、複数回の無電解メッキであることが好ましい。例えば、第二金属塩の濃度を変えたり、還元剤の種類を変えたりすることにより有機半導体層に応じて良好な被覆層を形成することができる。
【0051】
また、第一金属体の凝集体は親水性の非水有機溶媒相から形成することが好ましい。
さらに付言すれば、本発明の無電解メッキ工程では、前記した本願発明者による先願発明の特願2014−146991号(特許5649150号)に係る無電解メッキの前処理浴や特願2014−175244号に係る電極形成方法、更には上述した先行技術などを組み合わせて実施することができる。
【0052】
また、近年では有機半導体の開発と並行して酸化物半導体の開発も活発に行われている。In
2O
3、SnO
2およびZnO等を代表とするn型半導体材料や、Cu
2O、Ag
2OおよびSnO等を代表とするp型半導体材料が開発されている。酸化物半導体においては特にn型半導体の開発が先行しており、IGZOのように実用化に至っている物もある。
【0053】
そこで、p型半導体の開発が先行している有機半導体とn型半導体の開発が先行している酸化物半導体を組み合わせる、p型有機半導体とn型酸化物半導体の両方を使用したハイブリッドデバイスの研究も活発に行われている。
【0054】
また、真空環境を使用しない低温プロセスによる酸化物半導体の形成技術についても研究が行われており、湿式めっき法によりZnOを形成した例が報告されている(特開2000−8180号公報)。
【0055】
本発明のコンタクト電極は、上記のようなp型有機半導体とn型酸化物半導体の両方を使用したハイブリッドデバイスの電極としても適用する事が出来る。特に、真空環境を使用しない低温プロセスにより半導体層を形成するデバイスには有効である。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0056】
本発明のコンタクト電極によれば、有機半導体表面からコンタクト電極への界面抵抗およびコンタクト電極から有機半導体表面への界面抵抗が真空蒸着で得られたと同等の低抵抗の接合構造体を得ることができる。しかも、有機半導体層の表面性状を変質させないので、有機半導体の移動度を低下させることはない。このため、接触抵抗が低く安定した長寿命のpn混在型有機半導体電界効果型トランジスタ回路を含むデバイス等を得ることができる。
【0057】
また、本発明のコンタクト電極構造体の形成方法によれば、真空プロセスを用いずにコンタクト電極を大気中で形成することができ、コンタクト電極の作製費用を大幅に削減することができる。さらに、本発明の形成方法によれば、広い表面積の有機半導体層上に均一な区画を有し、均一な厚さのOFET用コンタクト電極を形成することができる。また、本発明は、繰り返して無電解メッキを行っても一定の品質のメッキ電極が安定して量産化できる。また、本発明のコンタクト電極構造体の形成方法によれば、有機半導体層とソース・ドレイン電極がナノ粒子を介して金属が無電解メッキされているため、実際の接触抵抗も低く安定した長寿命のデバイスを得ることができる。また、1枚の基板上にp型とn型の有機半導体層を配置すれば、p型FETまたはn型FETに適したコンタクト電極を安価に大量に製造することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1に示すようなボトムゲート・トップコンタクトタイプのOFETを作製した。
トランジスタ1の基板2は、熱酸化により厚さ100nmの酸化シリコン(SiO
2)が形成されたシリコン(Si)基板を用い、シリコン(Si)をゲート電極3、酸化シリコン(SiO
2)をゲート絶縁膜4とした。この基板2をアセトンに浸漬し超音波洗浄により脱脂した後、紫外線(UV)照射とオゾン処理を行い清浄な表面を得た。次に真空蒸着法により有機半導体層5を堆積した。有機半導体材料は2,9−ジデシル−ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン用い、平均厚さ30nmの有機半導体層5を得た。
【0059】
次に、銀(Ag)ナノ粒子を調整した。具体的には、硝酸銀のアルコール水溶液から還元析出させた銀(Ag)ナノ粒子を、アルコールの非水溶媒に分散させ、銀(Ag)ナノ粒子の非水溶液を得た(Agとして8g/L)。この銀(Ag)ナノ粒子の平均粒径は15nmで90%以上が10〜20nmの範囲(d=15±5nm)に入っていた。
次いで、銀(Ag)ナノ粒子の有機半導体上への吸着処理を行った。有機半導体層5まで形成された基板2に、上記の銀(Ag)ナノ粒子溶液を滴下し、スピンコーターにて2000回転/分の速度で30秒間回転させ、有機半導体表面に銀(Ag)ナノ粒子を吸着させた。その結果、
図2の走査電子顕微鏡写真に示すような網目状体を得た。有機半導体層5上の銀(Ag)の面積は50%であった。
【0060】
次に、銀(Ag)粒子を吸着させた基板2を非シアン系自己還元型無電解金メッキ浴(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製、商品名プレシャスファブACG 3000EX、金(Au)濃度2g/L、pH=7.5)に65℃で5分間浸漬し、平均膜厚50nmの金(Au)被覆層を得た。
【0061】
次に、フォトリソグラフィーにより金(Au)被覆層上に電極パターンを形成した。その後ヨウ素系エッチング液(関東化学株式会社製、商品名オーラム)により不要部分の金(Au)および銀(Ag)を除去し、電極パターンを形成した。その結果、
図3に示すような、チャネル幅が2000μmで、チャネル長がそれぞれ、5、10、20、50および100μmの金(Au)・銀(Ag)混合のコンタクト電極をもつOFETを得た。この場合、第一金属体が銀(Ag)で第二金属層が金(Au)である。
【0062】
作製した素子の評価としてp型トランジスタとしてのキャリア移動度を測定したところ、約2.6cm
2/Vsであった。またコンタクト電極の接触抵抗の評価としてTML法(Transfer Line Method)により接触抵抗を見積もったところ、0.6kΩcmであった。
【0063】
〔実施例2〕
有機半導体層5の形成方法を塗布結晶化法に変更した以外は実施例1(銀(Ag)の面積=50%)と同様にして、
図1に示すようなボトムゲート・トップコンタクトタイプのOFETを作製した。この場合も銀(Ag)の面積は、50%であった。次いで、前記プレシャスファブACG 3000EXの1/10希釈液(金(Au)濃度0.2g/L、pH=7.5)に75℃で2分間浸漬した後、同じプレシャスファブACG 3000EX希釈液に65℃で2分間浸漬し、平均膜厚50nmの金(Au)被覆層を得た。
【0064】
作製した素子の評価として、p型トランジスタとしてのキャリア移動度を測定したところ、約9.0cm
2/Vsであった。またコンタクト電極の接触抵抗の評価として同様にTML法により接触抵抗を見積もったところ、0.1kΩcmであった。
【0065】
〔実施例3〕
銀(Ag)ナノ粒子の平均粒径を30±8nmとした以外は、実施例1と同様にしてコンタクト電極を作製し、p型トランジスタとしてのキャリア移動度を測定したところ、約2.0cm
2/Vsであった。また接触抵抗を見積もったところ、0.8kΩcmと実施例1と同等の結果を得た。
【0066】
〔実施例4〕
有機半導体材料をN,N‘−1H,1H−Perfluorobutyldicyanoperylene Carboxydi-imide(PDIF−CN2)に変更した以外は実施例1と同様にコンタクト電極を作製し、n型トランジスタとしての評価を行ったところ、n型トランジスタとしての駆動が確認された。
【0067】
〔基準例〕
実施例1(銀(Ag)の面積=50%)での銀(Ag)・金(Au)混合層の代わりに、真空蒸着法を用いて金(Au)層を形成した。金(Au)層形成後に実施例1と同様の処理を行い、OFETを得た。作製した素子の評価としてp型トランジスタとしてのキャリア移動を測定したところ、約3.1cm
2/Vsであった。また、コンタクト電極の接触抵抗は0.3kΩcmであった。
【0068】
すなわち、湿式法で作製した実施例1での金(Au)・銀(Ag)混合層を電極としたOFETのキャリア移動度約2.6cm
2/Vsは、真空蒸着法で形成した金(Au)層を電極としたOFETのキャリア移動約3.1cm
2/Vsとそん色なく、また、コンタクト電極の接触抵抗も0.6kΩcmに対し0.3kΩcmと同程度であることがわかる。すなわち、製造工程を変えなくても種々の有機半導体層上にコンタクト電極を多量に製造することができる。また、実施例1と同一の金(Au)・銀(Ag)混合電極でn型トランジスタの駆動も確認されたことから、1枚の基板上にp型とn型の有機半導体層を構成すれば、p型FETまたはn型FETに適したコンタクト電極を安価に大量に製造することができることがわかる。
【0069】
〔比較例1〕
実施例1(銀(Ag)の面積=50%)の第一金属体(銀)の網目状体形成方法をインクジェット印刷法での形成に変更した以外は実施例1と同様に実施した。
【0070】
有機半導体層5まで形成された基板2に、実施例1と同様の銀(Ag)ナノ粒子の非水溶液をインクジェット印刷により、線幅約100μmで線間隔約90μmの格子状に銀(Ag)ナノ粒子を配置した。インクジェット印刷法の精度により実施例1のようなナノスケールでの網目構造は作り出せなかった。
その後、実施例1と同様の処理を行い、チャネル幅が2000μmで、チャネル長がそれぞれ、500、1000および2000μmの金(Au)・銀(Ag)混合のコンタクト電極をもつOFETを得た。
【0071】
作製した素子の評価としてp型トランジスタとしてのキャリア移動度を測定したところ、約0.1cm
2/Vsであった。また、コンタクト電極の接触抵抗を見積もったところ90kΩcmであった。
【0072】
〔比較例2〕
実施例1(銀(Ag)の面積=50%)の第一金属体の網目状体形成方法を銀(Ag)ペーストを用いたスクリーン印刷法に変更した以外は実施例1と同様に実施した。
【0073】
銀(Ag)ペースト用粉体(平均粒径0.2〜1.0μm:田中貴金属工業製)をアルコールの非水溶媒と混合し、銀(Ag)ペーストを得た。
次いで有機半導体層5まで形成された基板2に、得られた銀(Ag)ペーストをスクリーン印刷法により印刷し、線幅約100μmで線間隔約100μmの格子状に銀(Ag)粒子を配置した。
その後、実施例1と同様の処理を行い、チャネル幅が2000μmで、チャネル長がそれぞれ、500、1000および2000μmの金(Au)・銀(Ag)混合のコンタクト電極をもつOFETを得た。
【0074】
作製した素子の評価としてp型トランジスタとしてのキャリア移動度を測定したところ、約0.003cm
2/Vsであり、接触抵抗の評価はできなかった。
【0075】
〔比較例3〕
実施例1(銀(Ag)の面積=50%)の無電解金メッキ液を無電解銅メッキ液に変更した以外は実施例1と同様に実施した。
すなわち、硫酸銅(II)五水和物9.4g/L、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム50.0g/Lおよび50%グリオキシル酸水溶液30g/Lを含有する無電解銅(Cu)メッキ液に水酸化ナトリウムを添加してpH=11に調整した。このメッキ液に25℃で4分間浸漬し、平均膜厚50nmの銅(Cu)膜を得た。
【0076】
作製した素子の評価としてp型トランジスタとしての特性を評価したところ、トランジスタとしての特性は示したものの、キャリア移動度は約0.0002cm
2/Vsと非常に小さく、接触抵抗の評価はできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、真空環境を使用せずに低接触抵抗なコンタクト電極を形成することができるので、大気中で信頼性の高い有機半導体デバイスを得ることが可能となる。また、有機半導体層の種類に無関係に有機半導体電界効果型トランジスタのコンタクト電極を安価に多量に製造することができる。本発明は、発光素子、受光素子、電子デバイス等の半導体素子、液晶表示装置、PDP(プラズマディスプレイパネル)、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの電極等、別の分類では、薄膜トランジスタ、配線基板、表示装置および電子機器、フレキシブルディスプレイ、電子信号系、光起電性パネル、メンブレンキーボード、RFID(radiofrequency identification tag)、電子センサ、および集積電子回路に適用でき、さらには、PN接合を含む半導体デバイスに用いることができる。より具体的には、PN接合ダイオード、PN接合トランジスタ、PNPN接合のサイリスタ、太陽電池等に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【
図1】一般的な有機トランジスタの概略図であり、
図1(A)はトランジスタ1の平面(上面)構成、
図1(B)は
図1(A)のB−B線に沿った断面図である。
【
図2】本発明の有機トランジスタにおける第一金属の網目状体の走査電子顕微鏡写真である。
【
図3】本発明の有機トランジスタにおける電極回路を示す概略図である。
【符号の説明】
【0079】
1:トランジスタ
2:基板
3:ゲート電極
4:ゲート絶縁膜
5:有機半導体層
6A:ソース電極
6B:ドレイン電極