(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粒度分布が一山分布でありピークが10〜20μmの範囲内にあるジルコニア粉末を遊星ボールミルにより粉砕して、粒径5〜15μmの範囲内に第1のピークを有し、粒径0.2〜0.8μmの範囲内に前記第1のピークよりも低い第2のピークを有し、かつ前記第2のピークの粒径をもつ粒子の体積に対する前記第1のピークの粒径をもつ粒子の体積の比が5〜15である二山分布になるように、粒度分布を調整する粉砕工程と、
前記粉砕工程で調整されたジルコニア粉末の粒子が気体中に分散したエアロゾルを密閉容器内で生成する生成工程と、
前記密閉容器よりも低圧の成膜室内に収容された基材に向けて、前記密閉容器から前記エアロゾルを噴射する噴射工程と、
を有することを特徴とするジルコニア膜の製造方法。
前記粉砕工程では、粒度分布が一山分布のジルコニア粉末を、遊星ボールミルにより、粉砕ボール100gに対して粉質量200gの割合で、湿度20〜30%の環境下において3〜15分間粉砕する、請求項1に記載のジルコニア膜の製造方法。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に常温でセラミックスの薄膜を形成する技術の1つとして、エアロゾルデポジション(AD)法が知られている。AD法は、密封容器に収容された原料の微粉末をガスによって巻き上げてエアロゾル化し、そのエアロゾルを、密封容器よりも低圧に維持された成膜室に搬送し、基材に衝突させて堆積させる成膜方法である。AD法には、(1)高温で焼結しなくても常温で緻密なセラミックスの膜が形成される、(2)成膜レートが5〜50μm/分と比較的大きい、(3)数100Pa〜大気圧程度の低真空で成膜される、(4)0.5μm〜数十μmの範囲の膜厚が得られる、(5)基材としてアルミニウム、チタン、銅、SUS(特殊用途用ステンレス鋼板)などを使用でき、基材の選択範囲が広い、(6)混合粉末および積層膜の形成が容易である、といった特徴がある。
【0003】
例えば、特許文献1,2には、エアロゾル化ガスデポジション法によってジルコニア膜を成膜する方法が記載されている。特許文献1では、平均粒子径が2〜4μmであり、かつ比表面積が4〜7m
2/gであるジルコニア微粒子を、特許文献2では、平均粒子径が1〜5μmであり、かつ比表面積が1〜4m
2/gであるジルコニア微粒子を、原料の微粉末として使用する。特許文献1,2では、ジルコニア微粒子を密閉容器に収容し、密閉容器にガスを導入することによって、ジルコニア微粒子のエアロゾルを生成し、密閉容器に接続された搬送管を介して、密閉容器よりも低圧に維持された成膜室にエアロゾルを搬送し、成膜室に収容された基材上にジルコニア微粒子を堆積させる。
【0004】
また、特許文献3には、基板への固着が可能な粒径を第1の平均粒径とする微粒子群からなる第1の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した第1の粉末を真空中で基板に向けて噴射する工程と、第1の平均粒径より小さな第2の平均粒径を有する第2の微粒子群からなり第1の粉末と同一組成の第2の粉末をエアロゾル化し、エアロゾル化した第2の粉末を真空中で第1の粉末が固着した基板に向けて噴射する工程とを有する成膜方法が記載されている。この成膜方法では、膜堆積の初期過程では大型の微粒子群からなる粉体を用いてアンカーを形成し、膜の成長過程では小型の微粒子群を用いて堆積膜の破壊を回避するので、従来のAD法に比べ、より厚い膜の成長が可能になり、粉体歩留まりが向上する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、ジルコニア膜の製造方法について詳細に説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0014】
以下で説明する製造方法は、粉砕工程、生成工程および噴射工程の3工程を有する。この製造方法では、まず粉砕工程でジルコニアの原料粉末を粉砕してジルコニア粒子の粒度分布を調整し、調整されたジルコニア粉末から生成工程でエアロゾルを生成し、そのエアロゾルを噴射工程で基材に向けて噴射することにより、AD法を用いて白色ジルコニア膜を厚く形成する。
【0015】
基材は、例えば、チタンなどの金属、ガラス、またはセラミックスなどの材料で構成された部材である。基材は、平坦なものに限らず、用途に応じて任意の形状を有してもよい。また、原料粉末は、予め脱気されたジルコニア微粒子の乾燥粉末である。原料粉末としては、例えば、ZrO
2+HfO
2の含有率が99.99%でありかつ平均粒子径D50が12.0〜13.5μmである第一稀元素化学工業株式会社製のDK−3CH酸化ジルコニウム(製品名)が用いられる。
【0016】
粉砕工程では、粒度分布が一山分布でありピークが10〜20μmの範囲内にあるジルコニア粉末を、遊星ボールミルにより、粉砕ボール100gに対して粉質量200gの割合で、湿度20〜30%の環境下において3〜15分間粉砕する。このようにジルコニアの原料粉末を粉砕することで、ジルコニア粒子の粒度分布が5〜15μmの範囲内と0.2〜0.8μmの範囲内にピークをもつ二山分布になるように調整する。
【0017】
図1(A)〜
図2(E)は、粉砕時間に応じたジルコニア粉末の粒度分布の違いを示すグラフである。各グラフの横軸は粒径d(μm)を示し、縦軸は粒子量r(%)を示す。粒径は、対象の粒子と同じ回折・散乱光のパターンを示す球体の直径として(すなわち、球相当径で)測定された値である。また、粒子量は、体積基準で測定された値であり、全粒子の体積の合計に対する、ある粒径の粒子の体積が占める割合である。
【0018】
図1(A)は、平均粒子径D50が12.0〜13.5μmであり、遊星ボールミルで処理していない未調整のジルコニア粉末の粒度分布を示す。また、
図1(B)〜
図2(E)は、
図1(A)のジルコニア粉末を、遊星ボールミルにより、粉砕ボール100gに対して粉質量200gの割合で、湿度20〜30%の環境下において粉砕して得られたものの粒度分布を示す。粉砕時間は、
図1(B)が3分、
図1(C)が10分、
図2(D)が30分、
図2(E)が60分である。以下では、便宜的に、
図1(A)〜
図2(E)に示す粒度分布またはそれに対応する粉末のことを、それぞれNo.1〜No.5の番号で表す。
【0019】
図3(A)〜
図3(D)は、粉砕されたジルコニア粉末の拡大写真である。このうち、
図3(A)は、
図1(A)に対応する未調整のジルコニア粉末(No.1)であり、
図3(B)〜
図3(D)は、それぞれ
図1(C)〜
図2(E)に対応する調整後のジルコニア粉末(No.3〜No.5)である。
【0020】
図1(A)に示すように、未調整のジルコニア粉末の粒度分布は、通常、13μm程度の平均粒子径にほぼ対応する1つのピークP1を有する一山分布である。一方、遊星ボールミルによりジルコニア粉末の粒子を粉砕すると、粉砕前の比較的大きい1次粒子から比較的小さい2次粒子が生成されるので、
図1(B)および
図1(C)などに示すように、1μm未満の範囲にも第2のピークP2が現れて二山分布になる。2次粒子は、概ね1次粒子の数十分の1程度の大きさであり、生成されると1次粒子の表面に付着する。
図3(B)〜
図3(D)に示す写真では、2次粒子は、細かい白色の点として写っている。粉砕時間が長くなるほど、1次粒子が減って2次粒子が多くなるので、13μm付近の第1のピークP1は次第に低くなり、第2のピークP2は次第に高くなる。
【0021】
図4は、粒度分布の特徴量を示す表である。
図4では、
図1(A)〜
図2(E)に示したNo.1〜No.5の粒度分布のそれぞれについて、第1のピークP1の粒径d1(μm)および体積r1(%)、第2のピークP2の粒径d2(μm)および体積r2(%)、ならびに粒径比d1/d2および体積(ピークの高さ)の比r1/r2を示す。
【0022】
特に、粒径が1μm未満である2次粒子の粒度分布は、粉砕時間に大きく依存する。後述するように、粉砕時間1〜60分まで実験した結果、膜厚が数十μm以上でありかつ白色のジルコニア膜を形成するためには、粉砕時間を3〜15分とする必要があることがわかった。そこで、粉砕工程では、粒度分布に
図1(B)のNo.2および
図1(C)のNo.3のような2つの山が形成されたところで粉砕を停止する。粉砕工程で調整されたジルコニア粉末の粒度分布は、粒径5〜15μmの範囲内に第1のピークP1を有し、粒径0.2〜0.8μmの範囲内に第1のピークP1よりも低い第2のピークP2を有する。第2のピークP2の粒径をもつ粒子の体積r2に対する第1のピークP1の粒径をもつ粒子の体積r1の比(ピークの高さの比)r1/r2は、5〜15である。後続の生成工程と噴射工程では、粉砕工程で得られたこのようなジルコニア粉末を、原料粉末として使用する。
【0023】
図5は、エアロゾルデポジション装置1の概略構成図である。エアロゾルデポジション装置1は、生成工程と噴射工程で使用される成膜装置であり、ガスボンベ2、エアロゾル発生器3、成膜室5および真空ポンプ9を有する。ガスボンベ2とエアロゾル発生器3の間は配管10により、エアロゾル発生器3と成膜室5の間は配管11により、成膜室5と真空ポンプ9の間は配管12により、それぞれ接続されている。
【0024】
ガスボンベ2は、エアロゾルを生成するためのキャリアガスとして、例えばN
2(窒素)、Ar(アルゴン)またはHe(ヘリウム)などの高圧ガスを、エアロゾル発生器3に供給する。エアロゾル発生器3は、原料粉末4を収容し、その内部でエアロゾルを生成するための密閉容器である。成膜室5は、真空ポンプ9によって減圧可能に構成されており、成膜対象の基材7を収容し、基材7をXYZ方向に移動可能かつ回転可能に保持するためのXYZθステージ8を有する。成膜室5内で基材7に対向する位置には、配管11の端部に設けられたノズル6が配置されている。ノズル6は、エアロゾル発生器3内で生成され、配管11を介して搬送されたエアロゾルを、基材7に向けて噴出する。真空ポンプ9は、例えば、直列に接続されたメカニカルブースターポンプ9Aとロータリーポンプ9Bで構成され、成膜室5を減圧する。
【0025】
生成工程では、粉砕工程で調整されたジルコニア粉末である原料粉末4から、エアロゾル発生器3内で、そのジルコニア粒子がキャリアガス中に分散したエアロゾルを生成する。その際は、まず、エアロゾル発生器3内に原料粉末4を収容するとともに、真空ポンプ9により成膜室5内を減圧する。また、ガスボンベ2から、配管10を介してエアロゾル発生器3にキャリアガスを導入する。すると、このキャリアガスによってエアロゾル発生器3内で原料粉末4が巻き上げられて、エアロゾルが生成される。
【0026】
噴射工程では、密閉容器よりも低圧の成膜室5内に収容された基材7に向けて、エアロゾル発生器3からエアロゾルを噴射する。このとき、エアロゾル発生器3よりも成膜室5の方が低圧であるため、生成されたエアロゾルは、キャリアガスとともに配管11に流入し、ノズル6から成膜室5内に噴出されて、基材7に衝突する。これにより、エアロゾルに含まれるジルコニア微粒子の運動エネルギーが熱エネルギーに変換されるため、粒子の全体または一部が溶融して基材7側に結合することで、膜が形成される。XYZθステージ8によりノズル6に対する基材7の相対位置を変化させることで、基材7の表面上にジルコニア膜が形成される。
【0027】
図6(A)および
図6(B)は、粉砕工程の有無による成膜状態の違いを示す模式的な断面図である。
図6(A)は、粉砕工程を実施せずに、
図1(A)のNo.1に相当する未調整のジルコニア粉末を原料として形成されたジルコニア膜20’を示す。
図6(B)は、
図1(B)のNo.2および
図1(C)のNo.3に相当する、適切な時間だけ粉砕工程が行われたジルコニア粉末を原料として形成されたジルコニア膜20を示す。
【0028】
未調整のジルコニア粉末で成膜した場合には、
図6(A)に示すように、基材7上に積層されたジルコニアの1次粒子21同士の間に、微細な隙間23が形成されている。一方、No.2,No.3の粒度分布のジルコニア粉末で成膜した場合には、
図6(B)に示すように、1次粒子21のスタック構造の内部に2次粒子22が入り込んで隙間23に丁度よく嵌るので、膜応力が緩和されて膜が剥がれにくくなる。さらに、
図6(B)の場合には、2次粒子22によって光の散乱が起こるため、
図6(A)の場合よりも膜は白く見える。
【0029】
なお、
図2(D)のNo.4および
図2(E)のNo.5のように、粉砕工程での粉砕時間が長過ぎると、2次粒子22は、隙間23に嵌るには細かくなり過ぎるため、膜応力の緩和効果と光の散乱効果は小さくなる。この場合、第1のピークP1の粒径d1と第2のピークP2の粒径d2がそれぞれ5〜15μmと0.2〜0.8μmから外れていることから、堆積物の密着性が悪く、圧粉体となる傾向があり、成膜は困難である。
【0030】
また、粉砕時間が短過ぎる場合にも、第1のピークP1の粒径d1が5〜15μmであるのに対し、第2のピークP2の粒径d2が0.2〜0.8μmから外れていることから、膜応力の緩和効果が得られず厚膜化は困難であり、白色度も低くなる。
【0031】
このため、本明細書の製造方法では、適切な時間だけ粉砕工程を行うことにより、従来法で成膜した場合よりも、ジルコニア膜を厚膜化しかつ白色化することが可能になる。以下では、粉砕工程の粉砕時間を変化させてジルコニア膜を成膜する実験を行った結果について説明する。
【実施例1】
【0032】
原料粉末として、ZrO
2+HfO
2の含有率が99.99%でありかつ平均粒子径D50が12.0〜13.5μmである第一稀元素化学工業株式会社製のDK−3CH酸化ジルコニウム(製品名)を使用した。粉砕工程では、粉砕ボールとしてボール径がφ10mmである株式会社ニッカトー製のYTZボール(製品名)を使用し、粉砕容器としてフリッチュ・ジャパン株式会社製のジルコニア500cc容器を使用して、上記の原料粉末を、遊星ボールミルにより、粉砕ボール100gに対して粉質量200gの割合で、湿度20〜30%程度の環境下において3分間粉砕した。すなわち、実施例1では、原料粉末として、
図1(B)に示すNo.2の粒度分布(第1のピークP1の粒径d1は11.08μm、第2のピークP2の粒径d2は0.62μm、ピークの高さの比r1/r2は6.78、粒径の標準偏差は0.40)のジルコニア粉末を使用した。さらに、キャリアガスとして窒素ガスを使用して、
図5に示したエアロゾルデポジション装置1により、常温で、流量0.5〜8.0L/分かつ真空度20〜500Paの成膜条件で、10mm×10mmの成膜領域に対して、生成工程および噴射工程を12分間行った。基材には、純チタン製で厚さがそれぞれ1.0mm、0.4mmの2枚の平板、およびチタン製の歯冠を使用した。
【0033】
なお、ジルコニア膜の密着性を高める目的で、生成工程および噴射工程の前に、基材の上にアンカー層を形成する予備工程を行った。この予備工程では、
図1(A)に示すNo.1の粒度分布をもつ未調整の原料粉末によるエアロゾルを基材に向けて2分間噴射したところ、基材上に1.5〜2.0μm程度の膜厚を有するアンカー層が形成された。
【0034】
アンカー層の形成後の噴射工程では、成膜時間12分で、平板基材において、膜厚115μmの白色のジルコニア膜が得られた。これらのジルコニア膜の色調をD65光源の下で測定したところ、L*a*b*表色系のL*値はいずれも84であった。また、得られたジルコニア膜のビッカース硬度は、いずれも400Hv程度であり、歯の表面層であるエナメル質と同等の硬度であった。なお、実施例1の条件では、成膜時間を12分よりも長くすると、250μmまでの膜厚で成膜できることが確認された。また、膜厚200μm以上で、L*値は91であることが確認された。
図7(A)および
図7(B)は、実施例1で成膜されたジルコニア膜の表面の拡大写真である。
図7(B)は、
図7(A)の一部を拡大したものである。
【実施例2】
【0035】
粉砕工程の粉砕時間を10分とし、その他の条件はすべて実施例1と同じにして、粉砕工程から噴射工程までを実施した。すなわち、実施例2では、原料粉末として、
図1(C)に示すNo.3の粒度分布(第1のピークP1の粒径d1は9.01μm、第2のピークP2の粒径d2は0.33μm、ピークの高さの比r1/r2は10.69、粒径の標準偏差は0.40)のジルコニア粉末を使用した。すると、成膜時間12分で、膜厚130μmの白色のジルコニア膜が得られた。このジルコニア膜の色調をD65光源の下で測定したところ、L*値は85であった。また、得られたジルコニア膜のビッカース硬度は300Hv程度であった。
【実施例3】
【0036】
粉砕工程の粉砕時間を15分とし、その他の条件はすべて実施例1と同じにして、粉砕工程から噴射工程までを実施した。実施例3では、原料粉末として、第1のピークP1の粒径d1が10μm、第2のピークP2の粒径d2が0.3μm、ピークの高さの比r1/r2が8の粒度分布のジルコニア粉末を使用した。すると、成膜時間12分で、膜厚135μmの白色のジルコニア膜が得られた。このジルコニア膜の色調をD65光源の下で測定したところ、L*値は85であった。また、得られたジルコニア膜のビッカース硬度は300Hv程度であった。
【実施例4】
【0037】
基材として、松浪硝子工業株式会社製の厚さ1.0〜1.2mmのスライドガラス(ガラス板)を使用し、その他の条件はすべて実施例1と同じにして、粉砕工程から噴射工程までを実施した。すなわち、実施例4では、原料粉末として、
図1(B)に示すNo.2の粒度分布(第1のピークP1の粒径d1は11.08μm、第2のピークP2の粒径d2は0.62μm、ピークの高さの比r1/r2は6.78、粒径の標準偏差は0.40)のジルコニア粉末を使用した。ガラス板は従来のAD法では成膜しにくい基材であるが、それでも、成膜時間12分で、膜厚45μmの白色のジルコニア膜が得られた。このジルコニア膜の色調をD65光源の下で測定したところ、L*値は84であった。また、得られたジルコニア膜のビッカース硬度は500Hv程度であった。
【0038】
(比較例1)
実施例1と同じ原料粉末を未調整のまま使用し、その他の条件はすべて実施例1と同じにして、生成工程と噴射工程のみを実施した。すなわち、比較例1では、粉砕工程を実施せず、原料粉末として、
図1(A)に示すNo.1の粒度分布(第1のピークP1の粒径d1は13.61μm、第2のピークP2なし、粒径の標準偏差は0.11)のジルコニア粉末を使用した。得られたジルコニア膜は灰色であり、膜厚は16μmであった。このジルコニア膜の色調をD65光源の下で測定したところ、L*値は38であった。また、得られたジルコニア膜のビッカース硬度は1200Hv程度であった。
図7(C)および
図7(D)は、比較例1で成膜されたジルコニア膜の表面の拡大写真である。
図7(D)は、
図7(C)の一部を拡大したものである。
【0039】
(比較例2)
粉砕工程の粉砕時間を1分とし、その他の条件はすべて実施例1と同じにして、粉砕工程から噴射工程までを実施した。比較例2では、原料粉末として、第1のピークP1の粒径d1が14μm、第2のピークP2の粒径d2が2μm、ピークの高さの比r1/r2が60の粒度分布のジルコニア粉末を使用した。すると、得られたジルコニア膜は灰色であり、膜厚は35μmであった。このジルコニア膜の色調をD65光源の下で測定したところ、L*値は57であった。また、得られたジルコニア膜のビッカース硬度は850Hv程度であった。
【0040】
(比較例3)
粉砕工程の粉砕時間を2分とし、その他の条件はすべて実施例1と同じにして、粉砕工程から噴射工程までを実施した。比較例3では、原料粉末として、第1のピークP1の粒径d1が13μm、第2のピークP2の粒径d2が1.5μm、ピークの高さの比r1/r2が25の粒度分布のジルコニア粉末を使用した。すると、得られたジルコニア膜は灰色であり、膜厚は62μmであった。このジルコニア膜の色調をD65光源の下で測定したところ、L*値は64であった。また、得られたジルコニア膜のビッカース硬度は720Hv程度であった。
【0041】
(比較例4)
粉砕工程の粉砕時間を30分とし、その他の条件はすべて実施例1と同じにして、粉砕工程から噴射工程までを実施した。すなわち、比較例4では、原料粉末として、
図2(D)に示すNo.4の粒度分布(第1のピークP1の粒径d1は13.61μm、第2のピークP2の粒径d2は0.33μm、ピークの高さの比r1/r2は1.90、粒径の標準偏差は0.64)のジルコニア粉末を使用した。すると、基材上の堆積物は圧粉体の状態であり、剥離が生じてしまって、膜は形成されなかった。
【0042】
(比較例5)
粉砕工程の粉砕時間を60分とし、その他の条件はすべて実施例1と同じにして、粉砕工程から噴射工程までを実施した。すなわち、比較例5では、原料粉末として、
図2(E)に示すNo.5の粒度分布(第1のピークP1の粒径d1は3.95μm、第2のピークP2の粒径d2は0.12μm、ピークの高さの比r1/r2は0.23、粒径の標準偏差は0.51)のジルコニア粉末を使用した。すると、基材上の堆積物は圧粉体の状態であり、剥離が生じてしまって、膜は形成されなかった。
【0043】
図8は、実施例1〜4と比較例1〜5の結果を示す表である。歯科用材料ではL*値で70〜90程度の白色が要求されるが、粉砕時間を3〜15分とすると、L*値はこの範囲内に収まり、かつチタンの基材では100μmを超える膜厚が得られた。一方、粉砕時間が3分よりも短いと、膜応力の緩和効果が小さくなるために100μmを超える膜厚は得られず、また、L*値も上記の範囲を下回り、白色膜にならなかった。また、粉砕時間が15分よりも長いと、原料粉末の粒子が細かくなり過ぎ、圧粉体となってしまい、膜は形成されなかった。
【0044】
また、1次粒子と2次粒子を意図的に出し入れすることなく、粉砕時間を調整するだけでは、第1のピークP1の粒径d1が15μmを超える粒度分布と、粒径d1が5μm以上でありかつ第2のピークP2の粒径d2が0.2μm未満である粒度分布と、粒径d1が5μm未満でありかつ粒径d2が0.2μm以上である粒度分布は、いずれも得られなかった。
【0045】
したがって、粉砕時間を3〜15分として、粒径5〜15μmの範囲内に第1のピークP1を有し、粒径0.2〜0.8μmの範囲内に第1のピークP1よりも低い第2のピークP2を有し、ピークの高さの比r1/r2が5〜15である二山分布の粒度分布の原料粉末を作製し、その原料粉末を用いてAD法で成膜することにより、金属基材上に膜厚が100μm以上の白色のジルコニア膜が得られることがわかった。
【0046】
なお、基材上にアンカー層を形成せずに生成工程と噴射工程を行った場合も、粉砕時間を3〜15分とすると、L*値は70〜90の範囲内に収まり、かつチタンの基材では100μmを超える膜厚が得られた。したがって、アンカー層なしでも、粒度分布がNo.2,No.3のような二山分布である原料粉末を用いてAD法で成膜することにより、金属基材上に膜厚が100μm以上の白色のジルコニア膜が得られることが確かめられた。