【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例について説明し、本発明の効果を検証する。
LZ37溶液(LaZrO:La/Zr=3/7)の調製:
0.0006molの酢酸ランタン(関東化学(株)製)と0.0014molのブトキシジルコニウム(ゲレスト(Gelest)社製)をプロピオン酸液に加えて10gのLZ37溶液を調製し、110℃のホットプレート上に30分攪拌後、静置した。
LZ37溶液のオートクレーブ処理:
上記10gのLZ37溶液をポリ4フッ化エチレン製の容器中に入れ、180℃・2時間の条件でオートクレーブ処理を行った。室温まで冷却後、0.2μmのフィルターを用いて溶液を濾過した。
オートクレーブ処理後、沈殿物が観察されず、薄黄色状態の絶縁膜形成用前駆体溶液となった。
【0025】
前述の絶縁膜形成用前駆体溶液について吸光度の波長依存性を測定した結果を
図2に示す。
図2に示す紫外線・可視光吸収スペクトルの測定結果によると溶液の紫外線吸収では処理前溶液の252nmから347nmへ大きなシフトが検出された。
また、オートクレーブ処理において、160℃・2時間、180℃・5時間、180℃・12時間の各条件にて処理した場合に得られた個々の絶縁膜形成用前駆体溶液について吸光度の波長依存性を測定した結果を
図2に併せて示す。
【0026】
図2に示すようにいずれの条件においても溶液の紫外線吸収では処理前溶液から処理後の溶液へ大きなシフトが検出された。
このことから、オートクレーブ処理前の溶液が短波長領域の紫外線しか吸収しないのに対し、オートクレーブ処理後の絶縁膜形成用前駆体溶液は、長波長領域の紫外線を吸収するようになることがわかる。
【0027】
図3は、LZ55溶液(LaZrO:La/Zr=5/5)とLZ73(LaZrO:La/Zr=7/3)溶液について、前記と同様の手順で調製し、それぞれの溶液について180℃・5時間の条件でオートクレーブ処理を施して絶縁膜形成用前駆体溶液を得、各溶液について吸光度の波長依存性を測定した結果を示す。
いずれの濃度の絶縁膜形成用前駆体溶液であっても、溶液の紫外線吸収では処理前溶液から処理後の溶液へ大きなシフトが検出された。
図2、
図3に示す各溶液においてオートクレーブ処理後の紫外線吸収の長波長シフト幅は異なっているが、LZ73溶液が最小値であり、280nmより長波長の紫外線吸収が現れている。このことは、オートクレーブ処理後の前駆体溶液の紫外線吸収端波長が280nm以上であり、組成に応じて、280〜380nmの範囲であることを示している。
【0028】
図4はLZ37溶液について、オートクレーブ処理前後の質量分析結果(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計「FT-ICR MR」による分析結果)を示す。オートクレーブ処理については、180℃・2時間処理と、180℃・5時間処理の結果について併記した。
図5はLZ55溶液に対するオートクレーブ処理前後の質量分析結果を示し、
図6はLZ73溶液に対するオートクレーブ処理前後の質量分析結果を示す。
【0029】
図4〜
図6に示す質量分析の結果、オートクレーブ処理後の溶液においてオートクレーブ処理前の溶液に対し分子質量が明らかに上昇したことがわかる。
一例として、平均分子量ピーク507.07、791.03、865.07、1149.02の値が上昇し、横軸に示す平均分子量の多い領域にオートクレーブ処理後により多くのピークが出現している。これは、溶液中の金属錯体分子同士が反応することで平均分子量の多いクラスター構造体の形成が促進されたものと推定できる。
【0030】
質量分析の結果において、Ac:CH
3COO−、PrA:CH
3CH
2COO−、Buto:CH
3(CH
2)
3O−、PrA/Buto:PrAあるいはButoと表記すると各ピークは以下の組成であると推定できる。
質量分析結果のピーク507.07は、La
0〜1Zr
2〜1(Ac)
0〜2(PrA/Buto)
4〜1O
2〜0(OH)
0〜4(H
2O)
0〜3 が可能な組成となる。
質量分析結果のピーク791.03は、La
2〜3Zr(Ac)
1〜6(PrA/Buto)
3〜0O
0〜4(OH)
0〜4(H
2O)
0〜2 が可能な組成となる。
質量分析結果のピーク865.07は、La
1〜3Zr
2〜1(Ac)
0〜6(PrA/Buto)
7〜1O
0〜4(OH)
0〜4(H
2O)
3〜0 が可能な組成となる。
質量分析結果のピーク1149.02は、La
0〜3Zr
3〜1(Ac)
2〜6(PrA/Buto)
8〜3O
0〜2(OH)
0〜4(H
2O)
3〜0 が可能な組成となる。
【0031】
図7(A)はLZ37溶液について、オートクレーブ処理前後におけるTG−DTAの測定による熱分析結果を示し、
図8(A)はLZ55溶液について、オートクレーブ処理前後での熱分析結果を示す。
いずれの溶液についても、オートクレーブ処理後では前駆体構造の単一化及び熱分解の高温化を示した。溶液の質量分析によると処理後溶液の分子質量が明らかに上昇した。
また、
図7(A)、
図8(A)に示す結果から明らかなように、オートクレーブ処理を施すことで室温〜300℃までの温度域において計測される有機成分の含有量が減少していることが分かる。このことから、La錯体とZr錯体を含む溶液にオートクレーブ処理を施すことで、室温〜300℃領域で熱分析により計測される有機成分含有量が50%を超えていた状態から50%以下に遷移していることがわかる。
【0032】
図7(B)はLZ37溶液について、オートクレーブ処理していない溶液とオートクレーブ処理後の溶液の熱分解挙動の変化を対比して示すグラフである。オートクレーブ処理は160℃で2時間処理した溶液と、180℃で2時間処理した溶液と180℃で5時間処理した溶液についてそれぞれ
図7(B)に示す。
図7(B)に示す結果から明らかなように、オートクレーブ処理していない溶液は3つのピークを示すので、熱分解温度の異なる複数の分子構造体が溶液中に存在すると想定できるのに対し、オートクレーブ処理後の溶液はいずれも1つのピークのみ現れている。このことから、オートクレーブ処理後の溶液は分子構造体の単一化と構造の安定化が推進されていると想定できる。
図8(B)はLZ55溶液について、オートクレーブ処理していない溶液とオートクレーブ処理後の溶液の熱分解挙動の変化を対比して示すグラフである。オートクレーブ処理は180℃で5時間処理した溶液について
図8(B)に示す。
図8(B)に示す結果からも分るように、オートクレーブ処理していないLZ55溶液には4つのピークが現れ、熱分解温度が異なった複数の分子構造体が溶液中に存在することが示唆された。一方、オートクレーブ処理後の溶液には、高温側へ大幅にシフトした1つの強い熱分解ピークと極弱いショルダーピークが現れている。このことからもオートクレーブ処理後のLZ55溶液は分子構造体の単一化と構造の安定化が推進されていると推測できる。
【0033】
図9はLZ37溶液とLZ55溶液に対しオートクレーブ処理して得られた絶縁膜形成用前駆体溶液と、La化合物溶液及びZr化合物溶液について高エネルギーX線回折測定(HEXRD)による構造解析を行い、二体相関関数を求めた結果を示すグラフである。
図9の各グラフにおける縦軸T(r)は構造体実空間の全相関関数を示し、横軸r(Å)は周期の長さを示す。
図9においてLa-Oの構造秩序性とZr-Oの構造秩序性とZr-Zrの構造秩序性がわかるが、La-Oの構造秩序性とZr-Oの構造秩序性が明らかに向上していると推定できる。
【0034】
図10はLZ37溶液とLZ55溶液にオートクレーブ処理して得られた絶縁膜形成用前駆体溶液について各溶液から得られた絶縁膜の構造解析を(高エネルギーX線回折測定(HEXRD))を用いて行い、二体相関関数を求めた結果を示すグラフである。
図10の矢印部分に示すように絶縁膜の構造は明らかに変わっており、オートクレーブ処理後の溶液を熱処理して絶縁膜を形成することで、絶縁膜の構造も変化していることがわかる。
【0035】
図11は、LZ37溶液と該溶液をオートクレーブ処理(180℃・5時間)した後の絶縁膜形成用前駆体溶液に対しそれぞれ500℃に1時間加熱する条件で熱処理して得られた絶縁膜について高エネルギーX線回折測定結果の解析による構造因子を示すグラフである。
図11において縦軸のS(Q)は全構造因子を示し、横軸のQ(Å
-1)はX線散乱スペクトルを示す。
図11においてピークが大きいほど結晶度が高いことを示しており、オートクレーブ処理後溶液中のクラスターはLa−OとZr−Oに関わる微細構造の秩序性が著しく向上したことが示唆されている。LZ37溶液は、Laの含有量が少ないため、オートクレーブ処理後に全てのLaイオンがZrO
2結晶格子に入ることで安定なZrO
2立方晶ドメインが生じ、余計な構造がほぼ完全に消失していると推定できる。
図11に示すデータを解析すると以下の表1のように対比することができる。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、LZ37−500の絶縁膜試料において、6.966、5.905、2.208、2.052、1.694のピークはLZ37−AC180−5h−500の絶縁膜試料では消失している。XRDの各ピークの位置において消失したピークを除いてZr
0.8Y
0.2O
1.9立方晶の参照データと対比するとほぼ一致している。
以上のことからオートクレーブ処理した溶液から得た絶縁膜(高温焼成体)はZr
0.8Y
0.2O
1.9立方晶に類似する構造を有することが示唆される。
【0038】
図12はLZ55溶液と該溶液をオートクレーブ処理(180℃・5時間)した後の絶縁膜形成用前駆体溶液に対しそれぞれ500℃に1時間加熱する条件で熱処理して得られた絶縁膜について高エネルギーX線回折測定結果の解析による構造因子を示すグラフである。
図12から、LZ55溶液では過剰な量のLaが存在していたため、オートクレーブ処理後にZrO
2立方晶の形成が促進されることに伴い、余計な構造が若干残留したと推定できる。
【0039】
次に、オートクレーブ処理後のLZ37溶液を白金膜付きシリコンウェーハー上にスピンコート(2000rpm)で5層製膜し、400℃・酸素雰囲気中にて10分間焼成して絶縁膜を得た。また、オートクレーブ処理後のLZ55溶液を白金膜付きシリコンウェーハー上にスピンコート(2000rpm)で5層製膜し、600℃・酸素雰囲気中にて10分間焼成して絶縁膜を得た。
また、比較のために、オートクレーブ処理なしのLZ37溶液とLZ55溶液を白金膜付きシリコンウェーハー上にスピンコート(2000rpm)で5層製膜し、400℃・酸素雰囲気中にて10分間焼成して絶縁膜を得た。また、オートクレーブ処理なしのLZ55溶液を白金膜付きシリコンウェーハー上にスピンコート(2000rpm)で5層製膜し、600℃・酸素雰囲気中にて10分間焼成して絶縁膜を得た。
【0040】
図13にオートクレーブ処理済み(160℃・2時間あるいは180℃・2時間)のLZ37溶液を用いた絶縁膜の薄膜リーク電流を測定した結果を示し、
図14にオートクレーブ処理済み(180℃・5時間)のLZ55溶液を用いた絶縁膜の薄膜リーク電流を測定した結果を示す。また、
図13と
図14にオートクレーブ処理なしのLZ37溶液あるいはLZ55溶液から得られた従来法による絶縁膜の薄膜リーク電流測定結果も併せて示す。用いたゲート電極は、Ptからなる直径0.3mm、膜厚120nmの電極を使用した。
【0041】
図13と
図14に示す結果から、LZ37とLZ55のいずれの溶液であってもオートクレーブ処理済みの絶縁膜形成用前駆体溶液から得られた絶縁膜の方が従来法による絶縁膜よりも3桁程度リーク電流を低減することができた。
即ち、LaZrO酸化物溶液をオートクレーブ処理して得た絶縁膜形成用前駆体溶液を熱処理して得た絶縁膜であるならば、LaZrO酸化物溶液を単に熱処理して得た従来の絶縁膜に対しリーク電流を大幅に低減することができた。
【0042】
図15はLZ37溶液にオートクレーブ処理(180℃・5時間)を施した絶縁膜形成用前駆体溶液から作製した膜厚125nmのゲート絶縁膜とInO(燃焼法による成膜温度250℃)からなる膜厚20nmの半導体層を備えた、
図1(A)に示すボトムゲート構造の薄膜トランジスタをSi基板上に作製し、トランジスタ特性を測定した結果を示す。
図15に示す特性の薄膜トランジスタは、移動度:86cm
2/Vs、On/off電流比(ドレイン比):5.7E-6、Vth:1.77V、SS-factor:0.38V/dec、Off電流1.64E-10、Ig(リーク電流):3.2×10
-10A(Vg=10V)の優秀な値を示した。
これらに対し従来法による絶縁膜のリーク電流はVg=10Vの場合に10
-7レベルであり、本実施例の試料の方が2〜3桁良好となる。また、移動度:86cm
2/Vsも良好な値であり、実施例の薄膜トランジスタは優れた特性を有する。
【0043】
図16はオートクレーブ処理済み(180℃・5時間)のLZ55溶液を用いて600℃で高温焼成し、半導体層としてIn
2ZnO層を形成し、半導体層形成後処理として400℃熱処理した薄膜トランジスタ試料について、IV特性を測定した結果を示す。
この薄膜トランジスタのVd=4V、εr=25、W/L=60/20μmであり、移動度588.5cm
2/Vs、Ig(リーク電流)=8.2×10
-10(4V)を示し、優れた薄膜トランジスタであることを確認できた。
【0044】
図17は、LZ37溶液あるいはLZ55溶液を用い、オートクレーブ処理後の絶縁膜形成用前駆体溶液を用いてなる絶縁膜とオートクレーブ処理していないLZ37溶液あるいはLZ55溶液を用いてなる絶縁膜(いずれも膜厚約140nm)について、比誘電率の周波数依存性を測定した結果を示す。絶縁膜形成用前駆体溶液の焼成温度は400℃に設定し、従来法による絶縁膜の熱処理温度は600℃に設定している。
図17に示す結果から、オートクレーブ処理した後の絶縁膜形成用前駆体溶液を用いて製造した絶縁膜の方が、広い周波数領域で安定した比誘電率を示している。これに対し、従来法による絶縁膜においては、低周波数帯域において比誘電率が大きく変動している。
このことから、オートクレーブ処理した絶縁膜形成用前駆体溶液から得られた絶縁膜の比誘電率について、従来の絶縁膜に対し周波数依存性を改善できることがわかる。
【0045】
図18はLaZrO酸化物溶液に代えて、La
5Zr
3Hf
2Oの組成式で示されるLaZrHfO酸化物溶液を用いてオートクレーブ処理(180℃・5時間)を施し、絶縁膜形成用前駆体溶液を作製した場合、得られた絶縁膜形成用前駆体溶液の紫外線吸収スペクトルを測定した結果を示す。
図18に示すように、LaZrHfO酸化物溶液においてLaZrO酸化物溶液の場合と同様な波長シフトが認められた。
このことから、LaとZrとHfの錯体を含む溶液において、オートクレーブ処理前の溶液が短波長領域の紫外線しか吸収しないのに対し、オートクレーブ処理後の絶縁膜形成用前駆体溶液は、長波長領域の紫外線を吸収するようになることがわかる。
このことから、LaとZrとHfの錯体を含む溶液においてLaとZrの錯体を含む溶液と同等の紫外光照射による低温作製の効果を得ることができると想定できる。
【0046】
図19はオートクレーブ処理済み(180℃・5時間)のLaZrHfO酸化物溶液を用いた絶縁膜の薄膜リーク電流を測定した結果を示す。薄膜リーク電流の測定方法は
図13、
図14に示す実施例の場合と同等である。
図19に示す結果から、LaZrHfO酸化物溶液であってもオートクレーブ処理済みの絶縁膜形成用前駆体溶液から得られた絶縁膜の方が従来法による絶縁膜よりも2〜3桁程度リーク電流を低減することができた。
【0047】
以下の表2に、これまで用いたLZ37溶液とLZ55溶液とLZ73溶液について、オートクレーブ処理の条件と熱処理の温度条件における密度の変化を示す。密度(g/cm
2)はX線反射率法(XRR)によって測定した結果である。
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示す結果からLZ37溶液、LZ55溶液、LZ73溶液をそれぞれ原液のまま塗布してから400〜600℃に加熱して得られた絶縁膜の密度よりも、180℃で2時間あるいは5時間、オートクレーブ処理した後の溶液から得られた絶縁膜の密度が明らかに向上していることがわかる。このことから、得られる絶縁膜の密度をオートクレーブ処理により向上できることがわかる。
【0050】
図20はLZ55溶液にオートクレーブ処理を施した絶縁膜形成用前駆体溶液について、熱処理する場合にオゾン雰囲気において紫外線照射を行い、熱処理温度を低く設定して絶縁膜を得るとともに、その絶縁膜を備えた薄膜トランジスタを作製し、該薄膜トランジスタのI-V特性を測定した結果を示す。
熱処理温度は250℃に設定し、中心波長253.7nmの紫外光を用いてオゾン(濃度50.0PPM)雰囲気において基板加熱することにより熱処理を施した。
図20に示す結果から、250℃という低温で熱処理することにより、良好な絶縁特性を示し、薄膜トランジスタに適用可能な絶縁層を得ることができ、この絶縁膜を用いて良好なI-V特性を示す薄膜トランジスタを250℃という低温で形成できることがわかる。
【0051】
前記の各例において、LZ37溶液をオートクレーブ処理(180℃、5時間)後に400℃で焼成した絶縁膜の組成は、La
0.40Zr
3.26C
0.24H
0.6であり、LZ37溶液をオートクレーブ処理することなく400℃で焼成して得られた絶縁膜の組成は、La
0.39Zr
2.71C
0.29H
0.51であった。
LZ55溶液をオートクレーブ処理(180℃、5時間)後に600℃で焼成した絶縁膜の組成は、La
0.87Zr
4.05C
0.16H
0.23であった。
LZ37溶液をオートクレーブ処理(180℃、5時間)後に200℃でUV光を焼成した絶縁膜の組成は、La
0.38Zr
4.18C
0.58H
0.6であった。
【0052】
図21はLZ37溶液とこの溶液をオートクレーブ処理した絶縁膜形成用前駆体溶液を用いて形成した絶縁膜の表面形態をAFM観察した結果を示す。
LZ37−AC180−5hは、LZ37溶液を180℃で5時間、オートクレーブ処理した溶液を用いて製造した絶縁膜を示す。UV150はオゾン雰囲気において150℃でUV照射した絶縁膜を示し、UV200はオゾン雰囲気において200℃でUV照射した絶縁膜を示す。
図21に示すAFMの表面観察像によると、絶縁膜の表面にナノサイズの高密度粒子が均一に分布している状態を確認できた。このことから、低温でUV照射して得た絶縁膜であっても、緻密で密度の高い絶縁膜が得られていると推定できる。
【0053】
図22(A)はLZ37溶液あるいはLZ55溶液を用い、オゾン雰囲気でUV照射とともに低温加熱あるいは高温加熱により作製した絶縁膜の密度と高温加熱のみによって熱処理した絶縁膜の密度を対比して示す。
図22(B)は、Z37溶液あるいはLZ55溶液を用い、オートクレーブ処理後、オゾン雰囲気でUV照射とともに低温加熱あるいは高温加熱により作製した絶縁膜の密度と高温加熱のみによって熱処理した絶縁膜の密度を対比して示す。各図において、UV200は、200℃に基板加熱しながら紫外線照射をオゾン雰囲気中で行った絶縁膜試料であり、UV250−500は、250℃で基板加熱しながら紫外線照射処理を行い、大気中500℃で焼成して得られた絶縁膜試料の結果である。
図22(A)、(B)に示す密度の対比から明らかなように、LZ37溶液あるいはLZ55溶液にオートクレーブ処理を行うことにより、いずれの場合であっても密度を向上できることがわかる。また、低温でUV照射することにより、密度が向上しているので、リーク電流を低減できる緻密な絶縁膜を低温で作製できることがわかる。
【0054】
図23はLZ37溶液、LZ55溶液、あるいは、LZ73溶液を用い、オートクレーブ処理して得た絶縁膜形成用前駆体溶液から作製した絶縁膜について、膜厚を測定した結果を示す。
図23に示す膜厚の対比から、UV照射を行うことなく低温(250℃)で熱処理すると高温(500℃)で熱処理した絶縁膜に対し膜厚変動が大きいが、UV照射とともに低温(150℃、200℃)で熱処理した絶縁膜は高温(500℃)で熱処理した絶縁膜と殆ど膜厚が変わらないことがわかる。
【0055】
図24はLZ37溶液と該LZ37溶液にオートクレーブ処理(180℃・5時間)を施した絶縁膜形成用前駆体溶液について、250℃オゾン雰囲気において紫外線照射を行って得た絶縁膜と、大気中において250℃で熱処理して得た絶縁膜のそれぞれについて各絶縁膜を備えた薄膜トランジスタを作製し、該薄膜トランジスタのI-V特性を測定した結果を示す。ゲート電極に見立てたPt電極の直径は0.3mm、膜厚は約50nmとした。
図24に示す結果から、LZ37溶液をオートクレーブ処理して250℃という低温で熱処理することにより、良好な絶縁特性を示し、薄膜トランジスタに適用可能な絶縁層を得ることができ、この絶縁膜を用いて良好なI-V特性を示す薄膜トランジスタを形成できることがわかる。
【0056】
図25はLZ55溶液と該LZ55溶液にオートクレーブ処理(180℃・5時間)を施した絶縁膜形成用前駆体溶液について、250℃オゾン雰囲気において紫外線照射を行って得た絶縁膜と、大気中において250℃で熱処理して得た絶縁膜のそれぞれについて各絶縁膜のI-V特性を測定した結果を示す。ゲート電極に見立てたPt電極の直径は0.3mm、膜厚は約50nmとした。
図25に示す結果から、LZ55溶液をオートクレーブ処理して250℃という低温で熱処理することにより、良好な絶縁特性を示し、薄膜トランジスタに適用可能な絶縁層を得ることができ、この絶縁膜を用いて良好なI-V特性を示す薄膜トランジスタを形成できることがわかる。
【0057】
図26はオートクレーブ処理済み(180℃・5時間)のLZ37溶液、LZ55溶液、LZ73溶液を用いてオゾン雰囲気においてUV光を照射しながら200℃で熱処理して得た絶縁膜のI-V特性を示す。ゲート電極に見立てたPt電極は、直径0.5mm、膜厚約150nmである。
図26に示す結果から、LZ37とLZ55とLZ73のいずれの溶液であってもオートクレーブ処理済みの絶縁膜形成用前駆体溶液から200℃の低温で良好な絶縁膜を得ることができ、この絶縁膜を用いて良好なI-V特性を示す薄膜トランジスタを形成できると推定できる。
【0058】
図27はLZ37溶液を用い、オートクレーブ処理(180℃・5時間)した後、Ptのゲート電極を形成した基板上にスピンコート法により塗膜を形成し、この塗膜に紫外線を照射しつつ250℃で熱処理することで絶縁膜を形成し、その後、InOからなる半導体層(半導体層形成後の熱処理は350℃)とPtからなるソース電極及びドレイン電極を形成してなる薄膜トランジスタのI-V特性を測定した結果を示す。
図27に示すように絶縁膜形成用前駆体溶液を熱処理して得た絶縁膜を備えた優れた特性の薄膜トランジスタを製造できることがわかった。
【0059】
図28はLZ37溶液を用い、オートクレーブ処理(180℃・5時間)した後、Cuのゲート電極を形成した基板上にスピンコート法により塗膜を形成し、この塗膜に紫外線を照射しつつ250℃で熱処理することで絶縁膜を形成し、その後、InOからなる半導体層(半導体層形成後の熱処理は350℃)とPtからなるソース電極及びドレイン電極を形成してなる薄膜トランジスタのI-V特性を測定した結果を示す。
図28に示すように優れた特性の薄膜トランジスタを製造できることがわかった。この結果から、Cuのゲート電極を備えた薄膜トランジスタを製造できることがわかった。
【0060】
図29はLn系元素であるTmとZrで構成した酸化物溶液の紫外線吸収変化を示すグラフである。
図29に示すようにTmZrOで示す溶液に対し、TmZrOで示す溶液に180℃、5時間のオートクレーブ処理を施して得た前駆体溶液の方が、紫外線の吸収率が向上している。このことから、Ln系元素であるTmとZrで構成した酸化物溶液においても、先のLZ溶液と同様な紫外線吸収変化が得られることがわかった。
このため、本願のオートクレーブ処理は、LaZrO系の溶液に限らず、LnZrO系の溶液一般に適用できると思われる。
LnZrO系の溶液とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのいずれかから選択される希土類元素とZrの酸化物溶液を意味し、希土類元素は置換可能性が高い元素であるので、本発明をLaZrO系の溶液に限らず、LnZrO系の溶液一般に適用できると考えられる。
【0061】
図30はLZ37溶液について、オートクレーブ処理を行わずに高温焼成して得た膜(500℃、1時間加熱)とオゾン雰囲気において紫外線を照射して250℃熱処理により作製して得た膜のX線光電子分光スペクトル(XPS)を示す。
図31は、LZ37溶液について、オートクレーブ処理(180℃、5時間)を行った後に高温焼成して得た膜(500℃、1時間加熱)とオゾン雰囲気において紫外線を照射して250℃熱処理により作製して得た膜のX線光電子分光スペクトル(XPS)を示す。
【0062】
図30と
図31の比較から、オートクレーブ処理前後の溶液を用いることで成膜後、高温焼成する場合には薄膜構造上に大きな差が示されてないが、低温焼成(UV/O
3処理)の場合には、薄膜の構造を反映するXPS(X線光電子分光スペクトル)のZr
3dとO
1sからみると、オートクレーブ処理前後の溶液を用いた薄膜中にZrとOの結合状態が異なることが分った。
オートクレーブ処理後の溶液は、膜中のZrとOがより低エネルギー方向にシフトしたことが分った。これは、前駆体溶液中に有機組成の光分解が促進されたことでZr−Oの結合が十分に進んだことによるものであると考えられる。
【0063】
以上説明した各実施例の結果から以下のことがわかった。
LZ37〜LZ73溶液をオートクレーブ処理することで絶縁膜形成用前駆体溶液を得ることができ、その絶縁膜形成用前駆体溶液の紫外線吸収スペクトルは長波長側へシフトすることを確認できた。
LZ37〜LZ73溶液をオートクレーブ処理することで絶縁膜形成用前駆体溶液を得ることができ、その絶縁膜形成用前駆体溶液を熱処理して得た絶縁膜の密度を高くすることができた。
LZ37〜LZ73溶液をオートクレーブ処理することで絶縁膜形成用前駆体溶液を得ることができ、該絶縁膜形成用前駆体溶液を熱処理して得た絶縁膜について、誘電率の周波数依存性を著しく改善できた。
LZ37〜LZ73溶液をオートクレーブ処理することで絶縁膜形成用前駆体溶液を得ることができ、該絶縁膜形成用前駆体溶液を高温熱処理して得た絶縁膜について、有機成分残留量を低減することができた。
【0064】
高エネルギーX線回折測定結果の解析によりLZ37〜LZ73溶液のオートクレーブ処理後の溶液にクラスター構造秩序性の向上が見られ、500℃で焼成した絶縁膜に顕著な秩序性の変化を生じたことがわかった。
LZ37〜LZ73溶液をオートクレーブ処理することで絶縁膜形成用前駆体溶液を得ることができ、この絶縁膜形成用前駆体溶液を用いて作製した絶縁膜を用いて薄膜トランジスタを製造することによりリーク電流を2桁以上低減することができた。
【0065】
LZ37〜LZ73溶液をオートクレーブ処理することで絶縁膜形成用前駆体溶液を得ることができ、この絶縁膜形成用前駆体溶液を用いて作製した絶縁膜を用いて薄膜トランジスタを製造することによりゲート電流を1桁以上低減できた。
LZ37〜LZ73溶液をオートクレーブ処理することで絶縁膜形成用前駆体溶液を得ることができ、この絶縁膜形成用前駆体溶液を熱処理して絶縁膜を作製する場合、溶液の紫外線吸光特性を利用することで薄膜トランジスタの低温作製に成功し、Cu膜をゲート電極の構成材料とした薄膜トランジスタを実現できた。