(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647587
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元装置および還元方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/40 20170101AFI20200203BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20200203BHJP
B01J 21/18 20060101ALI20200203BHJP
C25B 11/12 20060101ALI20200203BHJP
C25B 1/00 20060101ALI20200203BHJP
C25B 9/00 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
C01B32/40
B01J35/02 J
B01J35/02 311Z
B01J21/18 M
C25B11/12
C25B1/00 Z
C25B9/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-234066(P2015-234066)
(22)【出願日】2015年11月30日
(65)【公開番号】特開2017-100901(P2017-100901A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】寺島 千晶
(72)【発明者】
【氏名】平野 裕衣里
(72)【発明者】
【氏名】中田 一弥
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 昭
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 真
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】栗山 晴男
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
【審査官】
青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2013/0192977(US,A1)
【文献】
特開2011−174139(JP,A)
【文献】
特開2015−151285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/40
C01B 32/25
B01J 35/02
B01J 35/00
C25B 11/12
C25B 1/00
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を還元してCOを生成する二酸化炭素還元方法であって、
二酸化炭素を溶媒に溶解させ、
sp3結晶構造である炭素同素体を含むプレート状の固体炭素から成る炭素材を、光触媒として前記溶媒に入れ、
前記炭素材に対し、前記炭素同素体を励起させる紫外光を照射するとともに、前記炭素材を電源の負極に繋いで電圧を印加することにより、前記溶媒中の二酸化炭素を還元し、COを生成し、
前記固体炭素が、sp3結晶構造である炭素同素体から成り、
前記溶媒が、硫酸ナトリウム水溶液であることを特徴とする二酸化炭素還元方法。
【請求項2】
前記電源の正極に繋いだアノードを、前記溶媒に入れることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素還元方法。
【請求項3】
前記炭素材と前記アノードとの間に、イオン交換膜を配置することを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素還元方法。
【請求項4】
紫外光の波長が、200nm〜260nmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の二酸化炭素還元方法。
【請求項5】
前記炭素材が、ホウ素濃度0.1原子%〜5原子%のボロンドープダイヤモンド構造を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の二酸化炭素還元方法。
【請求項6】
二酸化炭素を還元してCOを生成する二酸化炭素還元装置であって、
容器と、
前記容器に収容される溶媒に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給器と、
前記容器内に配置され、sp3結晶構造である炭素同素体を含むプレート状の固体炭素から成る炭素材と、
前記炭素同素体を励起させる紫外光を、前記炭素材に照射する光源と、
前記炭素材と負極において接続し、電圧を印加する給電装置とを備え、
前記固体炭素が、sp3結晶構造である炭素同素体から成り、
前記溶媒が、硫酸ナトリウム水溶液であることを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項7】
前記容器内に配置され、前記給電装置の正極と接続するアノードをさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項8】
前記炭素材と前記アノードとの間に配置されるイオン交換膜をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項9】
前記光源が、200nm〜260nmの範囲の波長をもつ紫外光を照射することを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項10】
前記炭素材が、ホウ素濃度原子0.1%〜原子5%のボロンドープダイヤモンド構造を有することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の二酸化炭素還元装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元装置および還元方法に関し、特に、光触媒を用いた二酸化炭素還元に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素還元方法としては、光触媒の存在の下、紫外線、太陽光などの光を照射して二酸化炭素を還元する方法が知られている(特許文献1参照)。そこでは、酸化チタン、酸化亜鉛などの光触媒の存在下において光を照射し、化学的反応によって二酸化炭素を固定化する。
【0003】
また、sp
3結晶構造である炭素同素体を含む炭素材を光触媒として利用することで、二酸化炭素を還元することが可能である(特許文献2参照)。二酸化炭素を溶解させた溶媒に設置されたプレート状の炭素材に紫外光を照射すると、高い光エネルギーによって光触媒が励起し、二酸化炭素が還元されてCOが生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−62321号公報
【特許文献2】特開2015−151285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光触媒を用いた二酸化炭素還元は、二酸化炭素をより多く還元できることが課題であり、炭素材を用いた二酸化炭素還元においても、さらなる還元効率の向上が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の二酸化炭素還元方法は、二酸化炭素を溶媒に溶解させ、sp
3結晶構造である炭素同素体を含むプレート状の炭素材を、光触媒として溶媒に入れる。そして、炭素材に対し、炭素同素体を励起させる紫外光を照射するとともに、炭素材を電源の負極に繋いで電圧を印加することにより、溶媒中の二酸化炭素を還元し、CO(一酸化炭素)を生成する。
【0007】
本発明では、通常の電気分解ではCOを生成する二酸化炭素還元反応が生じない炭素材に対し、紫外光によって炭素同素体が励起した状態で負の電圧を印加することにより、CO生成量が増加することを初めて見出し、炭素材を光触媒として使用し、かつ電気分解のカソードとして機能させることでCO生成に有効であることを導き出した。
【0008】
プレート状の炭素材は、一体的な個体炭素であればよく、形状も典型的な薄板形状に限定されず、長手方向に延在するものであればよい。例えば炭素材は、ホウ素濃度0.1%〜5%のボロンドープダイヤモンド構造を有する基板で構成することが可能である。紫外光の波長は、200nm〜260nmの範囲に定めるのがよい。
【0009】
電解槽を構成する場合、炭素材の対極としてアノードを溶媒に入れ、電源の正極に繋いで電圧を印加すればよい。また、炭素材とアノードとの間に、イオン交換膜を配置することも可能である。例えば、バブリングで二酸化炭素を溶解させる場合、二酸化炭素を炭素材傍に留めるため、気泡発生器を還元槽に配置することができる。
【0010】
本発明の他の態様における二酸化炭素還元装置は、容器と、容器に収容される溶媒に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給器と、容器内に配置され、sp
3結晶構造である炭素同素体を含むプレート状の炭素材と、炭素同素体を励起させる紫外光を、炭素材に照射する光源と、炭素材と負極において接続し、電圧を印加する給電装置とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、二酸化炭素還元装置において、二酸化炭素を効率よく還元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態である二酸化炭素還元装置を模式的に示した図である。
【
図2】実施例である二酸化炭素還元装置のCO生成量の比較グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本実施形態である二酸化炭素還元装置を模式的に示した図である。
【0015】
二酸化炭素還元装置10は、容器15、気泡発生器17、炭素材20、光源ユニット35、二酸化炭素供給器50、および循環ポンプ(図示せず)を備え、容器15には溶媒40が注入されている。二酸化炭素供給器50は、配管25を介して二酸化炭素を気泡発生器17へ送り込む。
【0016】
光源ユニット35のランプ30は、200nm〜260nmの波長をもつ紫外光を放射する長尺管状の紫外線ランプ(例えば、エキシマランプ)であり、溶媒40の液面下で容器深さ方向に沿って配置される。ランプ30は、ガラス管などの管状保護部材32に収容されており、溶媒40とランプ30との間には、溶媒40が入り込まない密閉空間が形成されている。
【0017】
溶媒40は、電解質を溶解した水溶液が用いることが可能であり、それ以外にも、有機溶液、イオン性溶媒などが適用可能である。ここでは、硫酸ナトリウム水溶液が溶媒40として用いられている。溶媒40に対する二酸化炭素の溶解は、バブリングによって行われる。
【0018】
光触媒として用いられる炭素材20は、固体炭素であり、ここでは容器深さ方向に延びる一枚のプレート形状によって構成されている。炭素材20は、sp
3結晶構造の炭素同素体から成り、例えばホウ素濃度0.1〜5.0%のボロンドープダイヤモンド(BDD)によって構成される。
【0019】
溶媒40には、炭素材20に加え、導電性の金属板21が設置されている。電源36は、炭素材20、金属板21と接続されており、炭素材20は負極に、金属板21は正極に接続されている。ここでは、金属板21は白金基板(以下、白金基板21ともいう)によって構成されている。
【0020】
炭素材20と金属板21との間には、イオン交換膜60が配置されている。イオン交換膜60は、陽イオンのみを透過させる陽イオン交換膜によって構成されている。イオン交換膜60によって、炭素材20の配置された還元槽と、金属板21の配置された酸化槽とが、溶媒40において区画される。
【0021】
このような二酸化炭素還元装置10において、以下の動作を行うことによって二酸化炭素が還元される。循環ポンプを作動させることにより、気泡発生器17によって気泡が生じ、二酸化炭素が溶媒40に溶解する。二酸化炭素が溶解した状態で、光源用電源(図示せず)から紫外線ランプ30に対して電力を供給すると同時に、電源36によって炭素材20、白金基板21に対して電圧をかける。炭素材20には負の電圧、白金基板21には正の電圧が印加される。
【0022】
紫外線ランプ30から放射された紫外線が炭素材20に照射されると、sp
3結晶構造の炭素同素体が励起し、電子が放出される。この電子放出に伴って生じる比較的高い光エネルギーが二酸化炭素のC=O結合を切り離し、一酸化炭素(CO)が生成される。生成された一酸化炭素は、気相中に放出される。
【0024】
一方、電解質の溶媒40に浸された炭素材20と金属板21に対して所定電圧が印加されることにより、COを生成する二酸化炭素還元反応が生じる。このCO生成の二酸化炭素還元反応は、光触媒に基づく還元反応(光化学反応)が生じている状態でしか実質的に生じない。
【0025】
つまり、炭素材20と白金基板21とをそれぞれカソード(陰極)、アノード(陽極)として酸化還元反応を生じさせる電気分解を行っても、紫外光によってsp
3結晶構造の炭素同素体が励起していなければ、CO生成の二酸化炭素還元反応は生じない。ここでの電気分解は、あくまでも光触媒下でCO生成を促進させる付随的な化学処理といえる。炭素材20に印加する負の電圧は、CO生成の二酸化炭素還元反応が効果的に生じる電圧に設定すればよく、(マイナス)数ボルト程度でよい。
【0026】
イオン交換膜60は、例えば、ナフィオン膜(登録商標)が適用可能である。電気分解によって硫酸イオン(S
2O
42-)、ナトリウムイオン(Na
+)、水素イオン(H
+)などが生成されるが、ナトリウムイオン、水素イオンなどの陽イオンのみイオン交換膜60を通過することができる。
【0027】
また、陰イオンとともに、溶媒40に溶解された二酸化炭素、そして二酸化炭素から生成される炭酸イオン(CO
32-など)も、イオン交換膜60を通過することができない。これにより、還元槽に設置された気泡発生器17によって溶媒40に溶解した二酸化炭素が還元槽に留められることになり、CO生成が促進される。
【0028】
このように本実施形態によれば、二酸化炭素還元装置10において、光源ユニット35、sp
3結晶構造の炭素同素体から成るプレート状炭素材20を、二酸化炭素の溶解した溶媒40内に配置する。さらに、炭素材20とともに白金基板21を容器15内に配置し、炭素材20、白金基板21をそれぞれ電源36の負極、正極に接続する。そして、紫外線ランプ30から紫外光を溶媒40に向けて照射するとともに、炭素材20、白金基板21に対して電圧を印加する。光触媒である炭素材20に対して紫外光照射とともに電圧印加を行うことにより、より多くのCOが生成される。
【0029】
なお、白金基板以外のアノードを炭素材の対極として設置してもよい。あるいは、炭素材のみを設置し、負の電圧を印加するように構成してもよい。
【0030】
以下、実施例を用いて、光触媒に対する光照射および電圧印加の同時プロセスの有効性を説明する。
【実施例1】
【0031】
実施例1である二酸化炭素還元装置は、本実施形態に対応する装置である。炭素材は、ホウ素濃度0.1%をドープさせたBDD基板によって構成される。また、溶媒は、硫酸ナトリウム水溶液で構成される。酸化槽と還元槽とを区画するイオン交換膜にはナフィオン膜(登録商標)が用いられている。ランプは、222nmの紫外光を照射するエキシマランプによって構成される。
【0032】
このような二酸化炭素還元装置に対し、条件を変えながら二酸化炭素還元によるCO生成量を時間経過とともに測定した。具体的には、紫外光照射しなかった場合と、紫外光照射のみ行った場合と、紫外光照射と電圧印加両方を行った場合について、CO生成量を測定した。実験では、CO
2を溶媒40に1.4g/l濃度となるようにバブリングし、BDD基板に対し−1.8V、白金電極に対して+1.8Vの電圧を印加した。また、CO生成量の測定は、ガスクロマトグラフィによって行った。
【0033】
図2は、CO生成量を示したグラフである。
図2に示すように、電圧印加だけではCO生成が生じていないことが明らかになっている。これは、BDD基板のような炭素材をカソードとして用いた電気分解を行っても、CO生成の還元反応が生じないことを示している。
【0034】
一方、炭素材に対する紫外光照射と電圧印加両方の処理によって、CO生成量が著しく増加した。励起されたsp
3結晶構造の炭素材へ電圧を印加することが光触媒下のCO生成(光化学反応)を促進させることが証明されている。
【符号の説明】
【0035】
10 二酸化炭素還元装置
15 容器
17 気泡発生器
20 炭素材
21 金属板/白金基板(アノード)
30 ランプ
35 光源ユニット
36 電源
40 溶媒
50 二酸化炭素供給器
60 イオン交換膜