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特許6647628シャフト一体型ボンド磁石の成形方法及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647628
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】シャフト一体型ボンド磁石の成形方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20200203BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20200203BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20200203BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20200203BHJP
【FI】
   H01F41/02 G
   H01F7/02 A
   H01F7/02 E
   B22F3/00 C
   B22F3/02 K
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-172094(P2016-172094)
(22)【出願日】2016年9月2日
(65)【公開番号】特開2018-37620(P2018-37620A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】592064394
【氏名又は名称】小林工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】真坂 卓也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 和宏
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開平1−220419(JP,A)
【文献】 特開平4−112504(JP,A)
【文献】 特開平1−107642(JP,A)
【文献】 特開昭54−36505(JP,A)
【文献】 米国特許第6423264(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/00−1/117、7/02、41/02
B22F 3/00−3/02
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸長方向の中央部が両端部よりも太径である円柱状のシャフトに、前記シャフトの前記中央部の全域及び前記両端部の前記中央部側の一部領域を覆って円筒状のボンド磁石が一体的に設けられているシャフト一体型ボンド磁石を成形する方法において、
円筒状のダイと、該ダイに上方向から挿通可能であって、円筒状の上パンチ及び該上パンチに挿通可能な円柱状の上コアからなる上側金型と、前記ダイに下方向から挿通可能であって、円筒状の第1下パンチ、該第1下パンチに挿通可能な第2下パンチ、及び該第2下パンチに挿通可能な円柱状の下コアからなる下側金型とを用いており、
前記第1下パンチを下降させて前記第2下パンチと前記ダイとの間に空間を形成する工程と、
前記空間内に前記ボンド磁石の材料を充填する工程と、
前記下コアを下降させて前記第2下パンチの内部を開放し、シャフトの一端部を挿入する工程と、
前記第2下パンチ及び下コアを下降させて、前記シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる工程と、
前記上コア及び下コアにて前記シャフトを挟持しながら、前記上パンチと前記第1下パンチ及び第2下パンチにて前記材料を圧縮成形する工程と
を有することを特徴とするシャフト一体型ボンド磁石の成形方法。
【請求項2】
前記第2下パンチ及び下コアを下降させて、前記シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる工程は、
前記上コアを前記シャフトの他端部に当接するまで下降させて前記上コア及び下コアによって前記シャフトを挟持する工程と、
前記第2下パンチを下降させながら、前記上コア及び下コアを連動して下降させて、前記シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる工程と
を含むことを特徴とする請求項1に記載のシャフト一体型ボンド磁石の成形方法。
【請求項3】
前記上コアを前記シャフトの他端部に当接するまで下降させて前記上コア及び下コアによって前記シャフトを挟持する工程は、
前記上パンチを前記シャフトの他端部の一部の領域を覆う位置まで下降させる工程を含むことを特徴とする請求項2に記載のシャフト一体型ボンド磁石の成形方法。
【請求項4】
前記第2下パンチを下降させながら、前記上コア及び下コアを連動して下降させて、前記シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる工程において、
前記上コア及び下コアを連動して下降させる際、前記上パンチをさらに連動して下降させることを特徴とする請求項3に記載のシャフト一体型ボンド磁石の成形方法。
【請求項5】
前記材料は、希土類系磁性粉末を含むことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のシャフト一体型ボンド磁石の成形方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載のシャフト一体型ボンド磁石の成形方法により成形された成形体に熱処理を施すことを特徴とするシャフト一体型ボンド磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種モータに利用されるシャフト一体型ボンド磁石を成形する成形方法、及び該成形方法を利用するシャフト一体型ボンド磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粉末と、該磁性粉末の結合剤としての樹脂とを固化成形してなるボンド磁石は、焼結磁石に比べて、寸法精度が高く、形状自由度が高いという利点がある。このような円筒状のボンド磁石にロータ軸となるシャフトを装入させて一体化したシャフト一体型ボンド磁石は、電子機器、カメラ、自動車などにおける各種モータに利用されている。
【0003】
シャフト一体型ボンド磁石の製造方法として、特許文献1には、圧縮成形装置の金型内に、ロータ軸が装入されたロータ継鉄からなる支持部材を配設し、支持部材周囲にネオジウム−鉄−ボロン系磁性粉末及びエポキシ系樹脂からなる磁性組成物を供給し、加圧成形することが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の方法によれば、シャフト一体型ボンド磁石を比較的容易に製造することができる。また、圧縮成形装置を用いるため、磁性粉末と結合剤とを混合してなる磁性組成物における磁性粉末の重量比率及び体積比率を高くすることができる。そのため、モータの小型化、高性能化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−140235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1によって得られるシャフト一体型ボンド磁石では、シャフトの軸方向中央の太径部分(ロータ鉄心に該当)の外周面のみにボンド磁石が配置されているため、シャフトとボンド磁石との間の軸方向への抜け強度が十分ではない。よって、ロータ鉄心の外周部表面にU溝などの加工を施すことにより抜け強度を向上させる必要があり、加工コストが増加するという問題がある。また、シャフトとボンド磁石との結合部になんらかの力が加わった場合、結合力が大幅に低下する可能性があるという問題もある。
【0007】
シャフト一体型ボンド磁石は、金型内に挿入したシャフト(ロータ軸を有するロータ鉄心)の周りに磁性粉末と樹脂との混合物を注入して一体化するいわゆるインサート成形や射出成形によって製造することも可能である。しかしながら、インサート成形や射出成形では、注入または射出する磁性粉末と樹脂との混合物の流動性を高めるために、混合物中における樹脂の重量比率及び体積比率を高くする必要がある。従って、磁性粉末の重量比率および体積比率が低くなるため、小型モータ用または高性能モータ用のシャフト一体型ボンド磁石を製造することは困難であるという問題がある。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、シャフトとボンド磁石との結合力が高く、シャフトとボンド磁石との間の軸方向への抜け強度に優れており、また、ボンド磁石における磁性粉末の重量比率及び体積比率が高いシャフト一体型ボンド磁石を、容易に成形できるシャフト一体型ボンド磁石の成形方法、及び、該成形方法を利用するシャフト一体型ボンド磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の成形方法は、軸長方向の中央部が両端部よりも太径である円柱状のシャフトに、前記シャフトの前記中央部の全域及び前記両端部の前記中央部側の一部領域を覆って円筒状のボンド磁石が一体的に設けられているシャフト一体型ボンド磁石を成形する方法において、円筒状のダイと、該ダイに上方向から挿通可能であって、円筒状の上パンチ及び該上パンチに挿通可能な円柱状の上コアからなる上側金型と、前記ダイに下方向から挿通可能であって、円筒状の第1下パンチ、該第1下パンチに挿通可能な第2下パンチ、及び該第2下パンチに挿通可能な円柱状の下コアからなる下側金型とを用いており、前記第1下パンチを下降させて前記第2下パンチと前記ダイとの間に空間を形成する工程と、前記空間内に前記ボンド磁石の材料を充填する工程と、前記下コアを下降させて前記第2下パンチの内部を開放し、シャフトの一端部を挿入する工程と、前記第2下パンチ及び下コアを下降させて、前記シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる工程と、前記上コア及び下コアにて前記シャフトを挟持しながら、前記上パンチと前記第1下パンチ及び第2下パンチにて前記材料を圧縮成形する工程とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明にあっては、外側の円筒状の上パンチと内側の円柱状の上コアとの二重構造である上側金型、外側から順に円筒状の第1下パンチと円筒状の第2下パンチと円柱状の下コアとの三重構造である下側金型、及び、上側金型及び下側金型が挿通されるダイを組み合わせた成形装置を利用する。
【0011】
まず、第1下パンチを下降させて第2下パンチとダイとの間に空間を形成して、その空間内にボンド磁石の材料(磁性粉末と結合剤(樹脂)との混合物)を充填する。次いで、下コアを下降させて第2下パンチの内部を開放し、開放した空間にシャフトの一端部を挿入する。次いで、第2下パンチ及び下コアを下降させて、シャフトの中央部及び両端部の一部をボンド磁石の材料に埋没させる。次いで、上コア及び下コアにてシャフトを挟持しながら、上パンチと第1下パンチ及び第2下パンチとによりボンド磁石の材料を上下方向から圧縮して、シャフト一体型ボンド磁石を成形する。
【0012】
本発明では、シャフト中央の太径部(ロータ鉄心)だけでなく、シャフト両端部の一部領域までボンド磁石で覆われたシャフト一体型ボンド磁石が得られる。よって、シャフトとボンド磁石との結合力は高く、シャフトとボンド磁石との間の軸方向への抜け強度に優れている。また、本発明では、圧縮成形であるため、インサート成形または射出成形のように材料(磁性粉末と結合剤(樹脂)との混合物)の流動性が要求されないので、混合物中における磁性粉末の重量比率及び体積比率を高くすることが可能となる。
【0013】
本発明にかかるシャフト一体型ボンド磁石の成形方法は、前記第2下パンチ及び下コアを下降させて、前記シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる工程は、前記上コアを前記シャフトの他端部に当接するまで下降させて前記上コア及び下コアによって前記シャフトを挟持する工程と、前記第2下パンチを下降させながら、前記上コア及び下コアを連動して下降させて、前記シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明にあっては、シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる際に、上コアをシャフトの他端部に当接するまで下降させて前記上コア及び下コアによって前記シャフトを挟持する工程と、前記第2下パンチを下降させながら、前記上コア及び下コアを連動して下降させる工程との2段階に分ける。よって、シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に確実に埋没させることができる。
【0015】
本発明にかかるシャフト一体型ボンド磁石の成形方法は、前記上コアを前記シャフトの他端部に当接するまで下降させて前記上コア及び下コアによって前記シャフトを挟持する工程は、前記上パンチを前記シャフトの他端部の一部の領域を覆う位置まで下降させる工程を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明にあっては、上コアをシャフトの他端部に当接するまで下降させて上コア及び下コアによってシャフトを挟持する際、上パンチをシャフトの他端部の一部の領域を覆う位置まで下降させる。よって、上パンチ及び上コアならびに第2下パンチ及び下コアによってシャフトを確実に保持することができる。
【0017】
本発明にかかるシャフト一体型ボンド磁石の成形方法は、前記第2下パンチを下降させながら、前記上コア及び下コアを連動して下降させて、前記シャフトの中央部及び両端部の一部を前記材料中に埋没させる工程において、前記上コア及び下コアを連動して下降させる際、前記上パンチをさらに連動して下降させることを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、第2下パンチを下降させながら、上コア及び下コアを連動して下降させて、シャフトの中央部及び両端部の一部を材料中に埋没させる際、上コア及び下コアを連動して下降させるとともに、上パンチをさらに連動して下降させる。よって、上パンチ及び上コアならびに第2下パンチ及び下コアによってシャフトを確実に保持することができる。
【0019】
本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の成形方法は、前記材料は、希土類系磁性粉末を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明にあっては、ボンド磁石の材料に含まれる磁性粉末として、希土類系磁性粉末を用いる。よって、小型であっても、磁気特性に優れたシャフト一体型ボンド磁石が得られる。
【0021】
本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の製造方法は、上述したようなシャフト一体型ボンド磁石の成形方法により成形された成形体に熱処理を施すことを特徴とする。
【0022】
本発明にあっては、上述した成形方法で得られた成形体を加熱し、樹脂を硬化させてシャフト一体型ボンド磁石を製造する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シャフトとボンド磁石との結合力が高く、シャフトとボンド磁石との間の軸方向への抜け強度に優れたシャフト一体型ボンド磁石を、容易に成形することができる。また、圧縮成形を用いるため、ボンド磁石における磁性粉末の重量比率及び体積比率を高くすることができるので、小型でも良好な磁気特性を有するシャフト一体型ボンド磁石を製造でき、適用される各種モータの小型化及び高性能化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の製造方法により製造されるシャフト一体型ボンド磁石を示す斜視図である。
図2】本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の製造方法により製造されるシャフト一体型ボンド磁石を示す断面図である。
図3】本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の成形方法の手順を示す断面図である。
図4】本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の成形方法の手順を示す断面図である。
図5】本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の成形方法の手順を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0026】
まず、本発明にて製造されるシャフト一体型ボンド磁石の構成について説明する。図1及び図2は、本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の製造方法により製造されるシャフト一体型ボンド磁石を示す斜視図及び断面図である。
【0027】
図1及び図2にあって、シャフト一体型ボンド磁石1は、シャフト2とボンド磁石3とを一体化して構成されている。シャフト2は、全体として円柱状をなしており、その軸長方向の中央部2aが両端部よりも太径となっている。シャフト2の太径の中央部2a(ロータ鉄心)の全域の外周面、ならびに、両端部(一端部2b及び他端部2c)の中央部側の一部の領域の外周面を覆う態様にて、ボンド磁石3が一体的に設けられている。
【0028】
このシャフト一体型ボンド磁石1がモータに適用される場合に、シャフト2は、ロータ軸を有するロータ鉄心の構成をなしており、太径の中央部2aがロータ鉄心として機能する。
【0029】
このようなシャフト2は、以下のようにして作製される。例えば、素材(丸棒など)からロータ鉄心及びロータ軸の一体物を加工(削りだしなど)または成形してシャフト2を作製する。または、ロータ鉄心の軸方向中心に貫通孔を形成し、この貫通孔にロータ軸を挿入して、シャフト2を作製しても良い。あるいは、ロータ鉄心の両端部に嵌合穴を形成し、これらの嵌合穴それぞれにロータ軸を嵌合して、作製しても良い。
【0030】
ロータ鉄心の材料としては、珪素鋼板の積層体、アルミニウム合金などを使用でき、ロータ軸の材料としては、アルミニウム合金、ステンレス鋼などを使用できる。ロータ鉄心とロータ軸とは、同一種の材料であっても良く、異なった材料であっても良い。また、ロータ鉄心及びロータ軸の材料として、樹脂あるいは樹脂と金属粉末や合金粉末との複合材料(樹脂鉄心)を用いても良い。
【0031】
ボンド磁石3は、材料となる磁性粉末及び樹脂の混合物(磁性組成物)を圧縮成形して形成される。なお、本発明で用いる磁性粉末及び樹脂の具体例については後述する。
【0032】
次に、本発明に係るシャフト一体型ボンド磁石の成形方法の工程について、その手順を示す図3図5を参照して説明する。
【0033】
図3Aは、本発明の成形方法において使用する成形装置の成形動作の開始位置(以下「定位置」という)を示している。この成形装置は、円筒状のダイ10と、上側金型20と、下側金型30とを備えている。
【0034】
上側金型20は、ダイ10の内径にほぼ等しい外径を有する長尺円筒状の上パンチ21と、上パンチ21の内径にほぼ等しい径を有する長尺円柱状の上コア22とを備えた二重構成であり、ダイ10内を上方向から挿通可能である。上パンチ21はダイ10内を上下方向に挿通可能であって、上コア22は上パンチ21内を上下方向に挿通可能である。上パンチ21の移動(上昇/下降)と、上コア22の移動(上昇/下降)とは、互いに独立して行える。
【0035】
下側金型30は、ダイ10の内径にほぼ等しい外径を有する長尺円筒状の第1下パンチ31と、第1下パンチ31の内径にほぼ等しい外径を有する長尺円筒状の第2下パンチ32と、第2下パンチ32の内径にほぼ等しい直径を有する長尺円柱状の下コア33とを備えた三重構成であり、ダイ10内を下方向から挿通可能である。第1下パンチ31はダイ10内を上下方向に挿通可能であって、第2下パンチ32は第1下パンチ31内を上下方向に挿通可能であり、下コア33は第2下パンチ32内を上下方向に挿通可能である。第1下パンチ31の移動(上昇/下降)と、第2下パンチ32の移動(上昇/下降)と、下コア33の移動(上昇/下降)とは、互いに独立して行える。
【0036】
まず、図3Bに示す如く、第1下パンチ31を下降させて第2下パンチ32とダイ10との間に空間41を形成する。次いで、図3Cに示す如く、この空間41内にボンド磁石3の材料42(磁性粉末及び樹脂の混合物(磁性組成物))を充填する。このときの下降距離d1(空間41の深さ)は、製造されるシャフト一体型ボンド磁石1におけるボンド磁石3の長さ(図2に示す長さL1)と、後述する圧縮成形工程での材料42の圧縮率とを考慮して決定される。
【0037】
次に、図4Aに示す如く、下コア33を下降させて第2下パンチ32の内部に開放部43を形成する。このときの下降距離d2(開放部43の長さ)は、シャフト一体型ボンド磁石1において外周面がボンド磁石3で覆われないシャフト2の一端部2bの領域の長さを考慮して決定される。すなわち、図2に示す長さL2及びL3と前記圧縮率とを考慮して決定される。
【0038】
次いで、図4Bに示す如く、予め準備しておいたシャフト2の一端部2bの一部を、開放部43に挿入する。この際、シャフト2は、シャフト2の一端部2bの一端面が下コア33に当接するまで下降させる。シャフト2は、自重によって下降させてもよいし、手動あるいは専用治具(専用装置)などを用いて下降させてもよい。
【0039】
次に、図4Cに示す如く、上パンチ21及び上コア22を下降させる。上コア22はシャフト2の他端部2cの一端面に当接するまで下降させて上コア22と下コア33によってシャフト2を挟持する。また、上パンチ21はシャフト2の他端部2cの一部の領域を覆う位置まで下降させる。上パンチ21の下降位置は、シャフト一体型ボンド磁石1において外周面がボンド磁石3で覆われないシャフト2の他端部2cの領域の長さを考慮して決定される。すなわち、図2に示す長さL5及びL6と前記圧縮率とを考慮して決定される。
【0040】
なお、図4Aから図4Bに基づく前記実施の形態に代えて、図4Aにおいて、下コア33を下降させて第2下パンチ32の内部に開放部43を形成する際、その下降距離d2(開放部43の長さ)を、シャフト一体型ボンド磁石1において外周面がボンド磁石3で覆われないシャフト2の一端部2bの領域の長さ(図2に示す長さL2)と外周面がボンド磁石3で覆われる領域の長さ(図2に示す長さL3)との合計に対応する長さとしても良い。このとき、図4Bにおいて、シャフト2の一端部2bの全部が開放部43に挿入されることとなり、結果として、シャフト2の一端部2b及び中央部2aの境界と、充填した材料42の上面と、第2下パンチ32の上面と、ダイ10の上面とは、上下方向で同じ位置になる。
【0041】
次いで、図4Dに示す如く、第2下パンチ32を下降させながら、上コア22及び下コア33を連動して下降させる。このとき、上パンチ21をさらに連動して下降させる。そして、図5Aに示す如く、シャフト2の一端部2bの一部、中央部2a及び他端部2cの一部を材料42中に埋没させる。このときの上コア22及び下コア33ならびに上パンチ21の下降距離(図4Cの上コア22及び下コア33並びに上パンチ21の位置から図5Aの上コア22及び下コア33並びに上パンチ21の位置までの距離)は、シャフト2の一端部2b及び他端部2cの外周面がボンド磁石3で覆われる領域の長さ(図2に示す長さL3及びL5)、及び前記圧縮率を考慮して決定される。
【0042】
図5Aに示す如く、上パンチ21は、材料42の上面に当接するまで、もしくはダイ10の上面まで下降させる。この結果、シャフト2及び材料42は、上側金型20と下側金型30とで封止された状態となる。
【0043】
なお、図4Cから図5Aに基づく前記実施の形態においては、第2下パンチ32を下降させる際、第1下パンチ31の下降位置まで下降(図3Bに示す下降距離d1だけ下降)させているが、シャフト一体型ボンド磁石の形状などに応じて、第2下パンチ32の下降位置を、第1下パンチ31の下降位置よりも上または下に位置させてもよい。
【0044】
また、図4Cから図5Aに基づく前記実施の形態において、予め上コア22と下コア33によってシャフト2を挟持して、第2下パンチ32を下降させながら、上コア22及び下コア33を連動して下降させて、シャフト2の一端部2bの一部、中央部2a及び他端部2cの一部を材料42中に埋没させる工程に代えて、予め上コア22と下コア33によってシャフト2を挟持せず、第2下パンチ32を下降させながら、下コア33のみを下降させて、下コア33上にシャフト2が載置された状態で自重によって下降させてもよい。また、シャフト2の下降は手動あるいは専用治具(専用装置)などを用いて行ってもよい。
【0045】
次いで、図5Bに示す如く、ダイ10を下降させるとともに、上コア22と下コア33によってシャフト2を挟持しながら上コア22と下コア33及び上パンチ21を下降させる。ダイ10の下降によって、第1下パンチ31及び第2下パンチ32が相対的に上昇することになる。そして、上パンチ21と第1下パンチ31及び第2下パンチ32とにより材料42を、下方向と上方向との2方向から圧縮して、シャフト2及び材料42を一体化して成形する。なお、ダイ10を下降させることとしたが、第1下パンチ31及び第2下パンチ32を、直接上昇させるようにしても良い。図5Bに基づく前記実施形態において、ダイ10の下降距離と上コア22と下コア33の下降距離は同じであってもよいし、異なっていてもよい。ダイ10、上コア22と下コア33、上パンチ21の下降距離、あるいは第1下パンチ31及び第2下パンチ32を上昇させる場合の上昇距離などは、後述する成形品44の形状などを考慮して決定すればよい。
【0046】
次に、図5Cに示す如く、ダイ10、上パンチ21、上コア22、第1下パンチ31、第2下パンチ32、及び下コア33を全て上昇させる。この際、ダイ10、第1下パンチ31、及び第2下パンチ32が定位置に戻るまで、上昇動作を行う。次いで、図5Dに示す如く、上パンチ21及び上コア22を更に上昇させて定位置まで戻す。その後、成形品44を下側金型30から取り出して、成形処理を終了する。なお、図5Bから図5Dに基づく前記実施の形態に代えて、ダイ10のみを下降させて成形品44を下側金型30から取り出した後、ダイ10、上パンチ21、上コア22、第1下パンチ31、第2下パンチ32、及び下コア33の全てを定位置に戻るように動作させてもよい。
【0047】
取り出された成形品44は、樹脂が硬化されていないので、取り出した成形品44に熱処理を施して、樹脂を硬化させる。これにより、所望の形状をなすシャフト一体型ボンド磁石1が得られる。
【0048】
以下、本発明のシャフト一体型ボンド磁石の成形方法に使用されるボンド磁石3の材料42に関して説明する。材料42は、前述したように、磁性粉末及び樹脂の混合物(磁性組成物)である。
【0049】
磁性粉末として、希土類系磁性粉末、フェライト磁性粉末などを使用することができる。希土類系磁性粉末としては、R−T−B系磁性粉末(Rは少なくとも一種の希土類元素であってNd、Prのいずれか一方を必ず含む、TはFeまたはFeとCo、Bは硼素であって一部をC(炭素)で置換できる)、R−T−N系磁性粉末(Rは少なくとも一種の希土類元素であってSmを必ず含む、Tは鉄族元素、Nは窒素である)などがあげられる。適用対象となるモータの小型化または高性能化を図るという目的を考慮すれば、優れた磁気特性を有するボンド磁石を製造することができる希土類系磁性粉末が適しており、特に、R−T−B系磁性粉末が適している。以下、R−T−B系磁性粉末を例にあげて、好ましい態様を説明する。
【0050】
R−T−B系磁性粉末の形状は、好ましくは扁平形状(例えば、粉末粒子の形状アスペクト比=短径/長径が0.3以下)である。扁平形状を有するR−T−B系磁性粉末を用いることにより、材料42(磁性粉末及び樹脂の混合物)の圧縮成形の際に、磁性粉末が積層し易くなる。また、成形時に磁性粉末間に空隙または樹脂溜まりができ難くなり、高密充填が可能となるので、密度が高く、機械的強度も高いシャフト一体型ボンド磁石を製造することができる。
【0051】
R−T−B系磁性粉末の平均粒子径は、好ましくは20μm以上300μm以下であり、より好ましくは40μm以上250μm以下である。
【0052】
一方、本発明に用いる樹脂は、一般的なボンド磁石に用いられる熱硬化性樹脂であって、好ましい樹脂として、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0053】
なお、開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1 シャフト一体型ボンド磁石
2 シャフト
2a 中央部
2b 一端部
2c 他端部
3 ボンド磁石
10 ダイ
20 上側金型
21 上パンチ
22 上コア
30 下側金型
31 第1下パンチ
32 第2下パンチ
33 下コア
41 空間
42 材料
43 開放部
44 成形品
図1
図2
図3
図4
図5