(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のハーブ含有食品は、生のハーブを油脂によりブランチング処理することによって製造される。
ハーブ原料としては、特に限定されず、例えば、バジル、ルッコラ、セルバチカ、紫蘇、ローズマリー、タイム、チャービル、セージ、ディル、ミント、イタリアンパセリ、パセリ、パクチー、オレガノ、マジョラム、フェンネル、セイボリー、コリアンダー、タラゴン、チャイブ及びレモングラス等から選択される1種以上を用いることができる。
本発明においては、これらのハーブ原料を細断前に油脂によるブランチング処理に供する。ブランチング処理を行う前に葉を予め細断すると、細断中又は細断後に褐変しやすくなる。ハーブ原料は、茎部分を取り除き、葉を用いることが好ましい。なお、ブランチング処理する生のハーブ原料は、適当な大きさに切ったものを含んでいてもよい。また、生のハーブ原料は、生のハーブが有する香り、色調を一部でも残していれば、加熱等の処理が施されたものであってもよい。
上記ハーブ原料の栽培期間は限定されない。本発明においては、通常用いられる2ヶ月程度の短い栽培期間で収穫されたものだけでなく、例えば5ヶ月以上の比較的長い栽培期間で収穫されたものを用いた場合でも、好ましい香り及び色調を有するハーブ含有食品を得ることができる。
【0008】
本発明において用いるブランチング処理は、油脂による加熱処理を意味する。油脂によるブランチング処理は、加熱した油脂中にハーブを投入して一定の温度及び時間で加熱処理する方法である。つまり、ハーブを油脂中にくぐらせることによって加熱処理する方法である。ハーブは、ブランチング処理中静置状態でもよく又は攪拌してもよい。本発明の油脂によるブランチング処理によれば、ハーブに含まれる酵素を効果的に不活化することができ、褐変を防ぐことができる。したがって、本発明によれば、生のハーブの鮮やかな色調を呈し、かつ生のハーブの香りを十分に残存させたハーブ含有食品を得ることができる。
ブランチング処理に用いる油脂の種類は、食用油であれば特に限定されないが、オリーブ油、菜種油、コーン油、大豆油、紅花油、バター、ラード及び牛脂等が挙げられる。製造時や喫食時の取扱いのしやすさの観点からは、常温で液体であるものが好ましく、なかでもオリーブ油、菜種油及び大豆油が好ましい。
ブランチング処理に用いる設備は、油を用いた食品の調理で用いる通常の器具を用いることができ、フライヤー、平型釜及び半球型釜等が挙げられる。連続式の設備として、リテーナコンベアの回転移動により順次フライヤーの油槽にハーブを導入する形式のフライヤー等、バッチ式の設備として、加熱手段を備えた横軸ニーダー等が挙げられる。
ブランチング処理に用いる油脂の量は、生のハーブ原料の量や装置の容量等に応じて適宜決定すればよいが、例えば生のハーブ100重量部に対して50重量部以上10,000重量部以下とすることができ、好ましくは生のハーブ100重量部に対して100重量部以上5,000重量部以下とすることができる。
ブランチング処理は、ハーブに含まれる褐変に寄与する酵素を不活化するのに十分で、かつ生のハーブの香りが実質的に失われない条件で行う。ブランチング処理の条件は、生のハーブ原料の量や装置の容量等に応じて適宜決定すればよいが、具体的には、連続式の設備を用いる場合は、70℃以上140℃以下、好ましくは80℃以上120℃以下の油脂に、生のハーブを5秒以上10分以下、好ましくは10秒以上5分以下の間浸漬させることにより行うとよい。バッチ式の設備を用いる場合は、70℃以上140℃以下、好ましくは80℃以上120℃以下の油脂に、生のハーブを5秒以上20分以下、好ましくは10秒以上5分以下の間浸漬させることにより行うとよい。ブランチング処理を70℃未満の温度や上記処理時間よりも短い時間で行った場合には、十分に失活せずに残った酵素が褐変の原因となることがあり、また、140℃を超える温度や上記処理時間よりも長い時間で行った場合には、ハーブに含まれる褐変に寄与する酵素以外の成分が逸失してしまう可能性がある。
【0009】
本発明においては、生のハーブを油脂によりブランチング処理した後に細断する。ハーブの細断方法は、特に限定されないが、コミトロール、カッターミキサー、マスコロイダー及びラインミル等の細断設備を用い、ハーブの大きさが例えば1mm
2以上9mm
2以下程度となるように行えばよい。細断する大きさは限定されない。ハーブを細断(切断を含む)する際に褐変するのであれば、当該細断は本発明でいう細断に含まれる。なお、細断は、本発明のハーブ含有食品が油脂及び必要に応じて食塩等の原料を含む場合、ブランチング処理した後のハーブとこれらの原料の全部又は一部とを混合して行ってもよい。実質的にハーブ及び油脂からなる系、あるいはハーブ、油脂及び食塩からなる系で細断すれば、細断の際にハーブの香気成分が失われにくいことから、これらの系で細断することが望ましい。
【0010】
本発明のハーブ含有食品は、上記処理で得られた細断したハーブを含み、ハーブの種類や目的とする食品に応じて、任意の様々なハーブ含有食品として調製することができる。
本発明のハーブ含有食品の形態としては、ハーブを含有する食品であって、固形状、ペースト状及び液状等いずれであってもよい。ペースト状及び液状の食品とすることが好ましく、ハーブを含む原料の全部を細断したペースト状の食品とすることが特に好ましい。またハーブを含むこれらのペースト状又は液状等の食品を、菓子、パン類、麺類及び米飯類等に含めた食品であってもよい。食品の種類としては、菓子、パン類、麺類、米飯類、クリーム、ジャム、ハーブペースト、カレー類、ソース、ケチャップ、マヨネーズ及びドレッシング等の調味料、飲料ならびにスープ等が挙げられる。
本発明のハーブ含有食品に配合するハーブの量は、目的とする食品に応じて適宜決定することができる。ブランチング処理して細断したハーブの含有量は、生のハーブの重量換算で、ハーブ含有食品中1重量%以上90重量%以下、好ましくは2重量%以上70重量%以下となるように配合することができる。また、例えば本発明のハーブ含有食品をハーブペースト等のペースト状食品とする場合には、生のハーブの重量換算で、ハーブ含有食品中30重量%以上80重量%以下、好ましくは40重量%以上70重量%以下とすることができる。
【0011】
本発明のハーブ含有食品は、油脂を含んでいてもよい。ブランチング処理して細断したハーブと共に配合する油脂の種類としては、上記のブランチング処理に用いる油脂の種類と同様のものが挙げられる。配合する油脂は、上記のブランチング処理に用いた後の油脂を含むことが望ましい。ブランチング処理に用いた後の油脂とは別の油脂を配合してもよく、あるいは配合する油脂の一部をブランチング処理に用いた後の油脂としてもよい。
ブランチング処理に用いた後の油脂を用いることにより、油脂中に溶出したハーブの油溶性成分をハーブ含有食品に配合することができ、ブランチング処理したハーブが有する香気・風味に、油脂中に溶出したハーブの油溶性成分由来の香気・風味が加わった、ハーブの香りがより一層高められた製品を得ることができる。また、ブランチング処理に用いた後の油脂は、ブランチング処理に供する生のハーブと油脂との比率やブランチング処理の条件に応じて、様々な濃度で、様々な香気・風味のハーブの油溶性成分を含みうる。よってこのブランチング処理に用いた後の油脂を用いることにより、ハーブが有する香気・風味成分を様々に活用することができる。なお、ハーブと共に配合するブランチング処理後の油脂は、当該ハーブのブランチング処理に用いた油脂に限らず別の種類のハーブのブランチング処理に用いた後の油脂、あるいはこれに別の種類の油脂を加えたものであってもよい。
なお、酵素失活の目的で生のハーブを水(湯)によりブランチング処理する場合は、ブランチング処理の際に湯中に香気成分が溶出してしまう。したがって、上記の効果は、ハーブを油脂によりブランチング処理する本発明の方法により特有に達成されるものである。
ハーブ含有食品に配合する油脂の量は、目的とする食品に応じて適宜決定すればよい。油脂の含有量は、ハーブ含有食品中0重量%以上80重量%以下、好ましくは1重量%以上50重量%以下とすることができる。また、例えば本発明のハーブ含有食品をハーブペースト等のペースト状食品とする場合には、油脂の含有量は、ハーブ含有食品中20重量%以上70重量%以下、好ましくは30重量%以上60重量%以下とすることができる。さらに、配合する油脂がブランチング処理に用いた後の油脂を含む場合には、配合油脂全量に対するブランチング処理に用いた後の油脂の量は、目的とする食品に応じて適宜決定すればよいが、例えば20重量%以上100重量%以下、好ましくは50重量%以上100重量%以下とすることができる。
【0012】
本発明のハーブ含有食品は、さらに食塩を含んでいてもよい。食塩の含有量は、ハーブ含有食品中0重量%以上20重量%以下、好ましくは0.5重量%以上10重量%以下であればよい。またハーブペースト等のペースト状食品では、食塩の含有量は当該食品中0重量%以上10重量%以下、好ましくは1重量%以上5重量%以下とすればよい。
本発明のハーブ含有食品は、目的に応じて適宜他の原料を含んでいてもよい。例えば、調味成分、澱粉類、香料及び増粘剤等を含んでいてもよい。これらの原料は、本発明の効果が損なわれない範囲で含むことができる。本発明のハーブ含有食品は、実質的にハーブに含まれる水分以外に水分を含まないものであることが望ましい。
【0013】
以上のようにして得られる本発明のハーブ含有食品は、容器に充填し、適宜加熱殺菌処理を行ってもよい。加熱殺菌処理は、60℃以上130℃以下、好ましくは70℃以上100℃以下の温度で、3分以上120分以下、好ましくは10分以上60分以下の時間行うことができる。容器は内容物を取り出し可能なものであれば特に限定されないが、例えばパウチ状容器、口栓付きパウチ、チューブ状容器、ボトル状容器、缶及び瓶容器等を利用することができる。加熱殺菌処理後のハーブ含有食品は、適宜凍結させて冷凍ハーブ含有食品としてもよい。
このようにして得られる本発明のハーブ含有食品は、ハーブの好ましい香気・風味と色調を有するものとなる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
<ハーブペースト>
(実施例1〜8)
生のハーブ原料として、バジル、ルッコラ及びイタリアンパセリを用い、ハーブから茎を取り除き、葉を水洗いして水切りしたものを用いた。バジルについては、栽培期間の異なるものを用いた。
フライヤーの油槽に菜種油50Kgを入れて加熱した。生のハーブの葉45Kgを、リテーナコンベアの回転移動により順次フライヤーの油槽に導入し、特定の温度と時間油槽に浸漬されるようにして加熱処理(連続式の設備によるブランチング処理)した。ブランチング処理後、ハーブの葉を油を切って回収した。実施例5においては、生のバジルの葉90Kgを菜種油50Kgに導入して同様にブランチング処理を行って回収し、このうちの半量を用いてバジルペーストを調製した。
ブランチング処理後のハーブの葉と、菜種油50Kgと、食塩5Kgとをコミトロールに導入し、ハーブの葉が約4mm
2となるように細断してハーブペーストを製造した。ここで前記のハーブペーストに配合した菜種油としては、実施例1においては新しい菜種油を配合し、実施例2〜8においてはブランチング処理に用いた後の菜種油を用いた。
このようにして調製したハーブペースト200gをパウチに充填し、85℃の湯に10分間浸漬して低温加熱殺菌処理を行った。これを−20℃に冷凍して冷凍ハーブペーストとした。
(実施例9)
ベルトコンベアを備えたフライヤーに代えて撹拌装置を備えた加熱釜を用いてブランチング処理(バッチ式の設備によるブランチング処理)を行った以外は実施例2と同様にして冷凍ハーブペーストを製造した。ブランチング処理は、菜種油50Kgを入れて加熱した前記加熱釜に、栽培期間5ヶ月の生のバジルの葉45Kgを投入し、菜種油とバジルの葉とが混合されるように撹拌装置で撹拌しながら、85℃で5分間加熱処理することにより行った。ブランチング処理後のハーブの葉と、ブランチング処理に用いた後の菜種油を用いて冷凍ハーブペーストを製造した。
(比較例1及び2)
実施例と同様に栽培期間の異なる生のバジルの葉を用いた。生のバジルの葉45Kg、菜種油50Kg及び食塩5Kgをコミトロールに導入し、バジルの葉が約4mm
2となるように細断してバジルペーストを製造した。このバジルペースト1Kgをパウチに充填し、75℃の湯に50分間浸漬して低温加熱殺菌処理した。これを冷凍して冷凍バジルペーストを製造した。
(比較例3)
油脂によるブランチング処理を水(湯)によるブランチング処理に変更した以外は実施例1と同様にして冷凍バジルペーストを製造した。すなわち、フライヤーの油槽に菜種油50Kgに代えて水50Kgを入れて加熱した。
(比較例4)
栽培期間5ヶ月の生のバジルの葉45Kgを、バジルの葉が約4mm
2となるように細断した。網目を細かくしたリテーナコンベアを有するフライヤーの油槽に菜種油50Kgを入れて加熱し、上記の細断したバジルの葉を導入してブランチング処理を行った。ブランチング処理後のハーブの葉、ブランチング処理に用いた後の菜種油50Kg及び食塩5Kgを混合してバジルペーストを製造した。このようにして調製したバジルペーストを、実施例と同様にしてパウチに充填し、冷凍バジルペーストとした。
表1に実施例及び比較例のハーブ含有食品を調製した際の条件を示す。
【0015】
上記のとおり製造した実施例及び比較例の冷凍ハーブペーストを、8週間冷凍保存した後室温まで解凍し、以下の基準を用いてハーブの香気・風味及び色調について評価した。結果を表1に示す。
[香気・風味評価]
◎:非常に強く良好なハーブの香りがあり、青臭さはない
○:良好なハーブの香りがあり、青臭さはあまりない
△:ハーブの香りが弱い、又は少し青臭さが残っている
×:ハーブの香りに乏しい、又は青臭さが残っている、又は褐変臭がある
[色調評価]
◎:非常に鮮やかな緑色を呈している
○:鮮やかな緑色を呈している
△:ややくすんだ緑色を呈している
×:褐変により暗い濃緑色を呈している
【0016】
【表1】
【0017】
実施例1〜9で得られたハーブペーストは、生のハーブ原料が有する青臭さが抜ける一方、ハーブの好ましい香りを有し、かつバジルは鮮やかな緑色を、ルッコラは深い濃緑色を、イタリアンパセリは鮮やかな黄緑色を呈していた。特に、ブランチング処理に用いた後の油脂を配合した実施例2〜9のハーブペーストは、より一層豊かなハーブの香りを有する高品質のものであった。なかでも実施例5のハーブペーストは、ハーブの香りがとりわけ強く感じられた。また、各々のハーブペーストを調製する工程でハーブを細断し、充填した後に加熱処理を施した場合に、ハーブが褐変することがなく、また加熱処理したハーブペーストは、こもり臭がなく、生のハーブの色調と香気・風味を有する高品質のものであった。
一方、栽培期間5ヶ月のバジルを用い、油脂によるブランチング処理を行わなかった比較例1では、細断時にハーブが著しく褐変してしまい、パウチ充填後のハーブペーストに褐変に伴う色調の劣化が生じ、褐変臭、こもり臭が生じて、香り及び色調ともに好ましくなかった。栽培期間2ヶ月のバジルを用いた比較例2では、比較例1に比べて細断時の褐変は発生しなかったが、青臭さ、こもり臭が生じていた。湯を用いてブランチング処理を行った比較例3では、褐変は抑制されたものの、バジルの香りが非常に弱いものであった。また、予め細断した生のバジルをブランチング処理した比較例4においては、生のハーブの葉を細断する際に著しい褐変が生じ、ブランチング処理を行っても、鮮やかな緑色を回復させることはできなかった。
【0018】
<ハーブ含有ドレッシング>
(実施例10)
実施例2と同様にしてブランチング処理した後、油を切って回収したバジルの葉を、コミトロールに導入し、バジルの葉が約4mm
2となるように細断した。
実施例7と同様にしてブランチング処理した後、油を切って回収したルッコラの葉を、コミトロールに導入し、ルッコラの葉が約4mm
2となるように細断した。
実施例8と同様にしてブランチング処理した後、油を切って回収したイタリアンパセリの葉を、コミトロールに導入し、イタリアンパセリの葉が約4mm
2となるように細断した。
上記の細断して得られたバジルの葉4Kg、ルッコラの葉4Kg、イタリアンパセリの葉4Kg、醸造酢100Kg、醤油65Kg、砂糖5Kg、食塩2Kg及び調味成分10Kgを85℃で10分間加熱混合し、冷却した後、ボトルに充填してドレッシングを製造した。
得られたドレッシングは、各々本来の色調をもつ3種類のハーブの葉が含まれて美感に優れ、ハーブのこもり臭がなく、生のハーブの新鮮な香気・風味を有する高品質のものであった。
(実施例11)
醸造酢100Kgに代えて、醸造酢70Kg、バジルの葉、ルッコラの葉及びイタリアンパセリの葉のブランチング処理に用いた後のそれぞれの菜種油10Kg(合計30Kg)を用いた以外は、実施例10と同様にしてドレッシングを製造した。
得られたドレッシングは、各々本来の色調をもつ3種類のハーブの葉が含まれて美感に優れ、ハーブのこもり臭がなく、生のハーブの新鮮な香気・風味を有する高品質のものであった。また、油脂の部分にハーブの複合した深い香気・風味が含まれていた。