(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上に、反射層、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第1導電型クラッド層、発光中心波長が1000〜2200nmの半導体発光層、およびInおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第2導電型クラッド層が順次設けられ、前記第2導電型クラッド層を光取出し側とする半導体発光素子であって、
前記第2導電型クラッド層の光取り出し面の表面は、表面粗さRaが0.03μm以上0.142μm以下であり、スキューネスRskが−1以上であり、かつ、凹凸パターンがランダムな粗面であることを特徴とする半導体発光素子。
支持基板上に、金属接合層、反射層、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第1導電型クラッド層、発光中心波長が1000〜2200nmの半導体発光層、およびInおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第2導電型クラッド層が順次設けられ、前記第2導電型クラッド層を光取出し側とする半導体発光素子であって、前記第2導電型クラッド層の光取出し面の表面は、表面粗さRaが0.03μm以上0.142μm以下であり、スキューネスRskが−1以上であり、かつ、凹凸パターンがランダムな粗面であることを特徴とする半導体発光素子。
前記保護膜の厚さが100nm以上700nm以下であり、前記保護膜の表面の表面粗さRaが0.02μm以上であり、かつ、スキューネスRskが−1以上である、請求項4に記載の半導体発光素子。
基板上に、反射層、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第1導電型クラッド層、発光中心波長が1000〜2200nmの半導体発光層、およびInおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第2導電型クラッド層を順次形成し、前記第2導電型クラッド層を光取出し側とする半導体発光素子の製造方法において、
前記第2導電型クラッド層を形成した後、前記第2導電型クラッド層の光取り出し面の表面を、表面粗さRaが0.03μm以上0.142μm以下であり、前記光取出し面の表面のスキューネスRskを−1以上となるよう、かつ、凹凸パターンがランダムな粗面となるよう粗化する粗面化処理工程を含むことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
成長用基板上に、In、GaおよびAsを含むIII−V族化合物半導体エッチングストップ層、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第2導電型クラッド層、発光中心波長が1000〜2200nmの半導体発光層、ならびに、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第1導電型クラッド層を順次形成する半導体層形成工程と、
前記第1導電型クラッド層上に、前記半導体発光層から放射される光を反射する反射層を形成する反射層形成工程と、
支持基板を、金属接合層を介して前記反射層に接合する接合工程と、
前記成長用基板を除去する基板除去工程と、
該基板除去工程の後、前記第2導電型クラッド層の光取り出し面の表面を、表面粗さRaが0.03μm以上0.142μm以下であり、前記光取出し面の表面のスキューネスRskを−1以上となるよう、かつ、凹凸パターンがランダムな粗面となるよう粗化する粗面化処理工程と、を含むことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
前記光取り出し面を除く第2導電型クラッド層の上面電極形成領域において、前記第2導電型クラッド層上に前記エッチングストップ層を介して第2導電型の電極を形成する上面電極形成工程をさらに含む、請求項8に記載の半導体発光素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。まず、本明細書において組成比を明示せずに単に「InGaAsP」と表記する場合は、III族元素(In,Gaの合計)と、V族元素(As,P)との化学組成比が1:1であり、かつ、III族元素であるIn及びGaの比率と、V族元素であるAs及びPの比率とがそれぞれ不定の、任意の化合物を意味するものとする。この場合、III族元素にIn及びGaのいずれか一方が含まれない場合を含み、また、V族元素にAs及びPのいずれか一方が含まれない場合を含むものとする。ただし、「In及びPを少なくとも含む」InGaAsPと明示的に記載する場合、III族元素にInが0%超100%以下含まれ、かつ、V族元素にPが0%超100%以下含まれものとする。また、「InGaP」と表記する場合は、上記「InGaAsP」にAsが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味し、「InGaAs」と表記する場合には、上記「InGaAsP」にPが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味する。同様に、「InAsP」と表記する場合は、上記「InGaAsP」にGaが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味し、「GaAsP」と表記する場合には、上記「InGaAsP」にInが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味する。そして、「InP」と表記する場合は、上記「InGaAsP」にGa及びAsが製造上不可避な混入を除いては含まれないことを意味する。なお、InGaAsPやInGaAsなどの各成分組成比は、フォトルミネッセンス測定及びX線回折測定などによって測定することができる。また、ここで言う「製造上不可避な混入」とは、原料ガスを用いる製造装置上の不可避な混入のほか、結晶成長時や、その後の熱処理に伴う各層界面での原子の拡散現象などを意味する。
【0029】
また、本明細書において、電気的にp型として機能する層をp型層と称し、電気的にn型として機能する層をn型層と称する。一方、ZnやS、Sn、C,P,Ga,As,Si,Al等の特定の不純物を意図的には添加しておらず、電気的にp型またはn型として機能しない場合、「i型」または「アンドープ」と言う。アンドープのInGaAsP層には、製造過程における不可避的な不純物の混入はあってよく、具体的には、キャリア密度が小さい(例えば4×10
16/cm
3未満)場合、「アンドープ」であるとして、本明細書では取り扱うものとする。また、ZnやSn等の不純物濃度の値は、SIMS分析によるものとする。
【0030】
また、形成される各層の厚み全体は、光干渉式膜厚測定器を用いて測定することができる。さらに、各層の厚みのそれぞれは、光干渉式膜厚測定器および透過型電子顕微鏡による成長層の断面観察から算出できる。また、超格子構造のように各層の厚みが小さい場合にはTEM−EDSを用いて厚みを測定することができる。なお、断面図において、所定の層が傾斜面を有する場合、その層の厚みは、当該層の直下層の平坦面からの最大高さを用いるものとする。
【0031】
本明細書において用いる表面粗さRaとは、測定距離における算術平均粗さ(μm)を表す。また、スキューネスRskとは、平均線を中心としたときの山部と谷部の対称性を示す値である。Rskがゼロでは平均線に対して上下対称(正規分布)であり、正であれば平均線に対して下側(谷側)に偏っていることを示し、負であれば平均線に対して上側(山側)に偏っていることを示す。表面粗さRaおよびスキューネスRskの定義は、ISO 4287−1997に従う。さらに、本明細書において用いる表面粗さSaとは、上記表面粗さRaと同様に算術平均粗さ(μm)を示す値であり、ISO 25178に従う。またさらに、スキューネスSskとは、上記スキューネスRskと同様に平均線を中心としたときの山部と谷部との対称性を示す値であり、ISO 25178に従う。表面粗さRa及びスキューネスRskは、ISO 4287−1997に従う二次元輪郭曲線方式による測定値であるのに対して、表面粗さSaおよびスキューネスSskは、ISO 25178に従う三次元表面性状による測定値である。
【0032】
表面粗さRaおよびスキューネスRskの測定方法は、触針式の段差計(例えば、Tencor社製の接触式段差計「P−6」)を用いて測定することができる。用いる針の形状は触針先端半径2μmとし、触針圧2mgでスキャン速度2μm/secとし、サンプリング周波数は50Hzとすれば良い。測定距離(基準長さ)は、200μmとする。また、表面粗さSaおよびスキューネスSskの測定方法は、非触針式の形状解析レーザ顕微鏡(KEYENCE社製 VK−X1000/1100)を用いて測定することができる。本明細書の実施例(実験例2)における測定条件については、レンズ倍率を150倍とし、画素数を2048×1536とした。
【0033】
また、本明細書において「ランダムな粗面」とは、光取出し側の表面について、上記の接触式段差計による測定結果において、周期的に溝が形成された形状が観察され、溝が形成されていない部分の表面粗さRaが0.010μm以下である場合を除くものである。なお、溝が形成されていない部分の表面粗さRaが0.010μm以下である表面形状は、周期的に孔を有するマスクを光取出し側の表面に形成した後で表面をエッチングして凹部を形成することにより得られる表面形状が該当する。このようにして形成された光取出し側の表面形状を発光素子に適用しても、この表面形状による光の反射角の分散性が不十分になることがあり、本発明の効果である単一ピークにする効果を十分に得られないことがある。
【0034】
(半導体発光素子1)
図1に示すように、本発明の一実施形態に従う半導体発光素子1は、基板8上に、第1導電型クラッド層3a、半導体発光層3c、および第2導電型クラッド層3bが順次設けられ、第2導電型クラッド層3bを光取出し側とする半導体発光素子である。そして、半導体発光素子1は、支持基板8と、第1導電型クラッド層3aとの間に、半導体発光層3cから放射される光を反射する反射層6をさらに有する。
【0035】
そして、第1導電型クラッド層3a、および第2導電型クラッド層3bは、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPであり、最も好ましくはInPである。また、半導体発光層3cは発光中心波長が1000〜2200nmの光を放出する発光層であり、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる層であることが好ましい。さらに、半導体発光素子1において、第2導電型クラッド層3bの光取り出し面の表面は、表面粗さRaが0.03μm以上であり、かつ、凹凸パターンがランダムな粗面である。なお、半導体発光素子1において、第2導電型クラッド層3bには、パッド部9aおよび配線部9bを含む上面電極を形成してもよく、さらに支持基板の裏面に裏面電極を形成してもよい(裏面電極は図示せず)。
【0036】
半導体発光素子1において、半導体発光層3cから放射される光は、第2導電型クラッド層3bに向かう光L
1と、第1導電型クラッド層3aに向かう光L
2とに大別される。本実施形態では、L
1とL
2が外部(主に大気)に放出される第2導電型クラッド層3bの表面における上面電極9aおよび9bを除く領域を「光取り出し面」と呼ぶ。すなわち、本実施形態における「光取り出し面」は、
図1に図示されるように、上面電極が形成される面と同じ面(上面)において、光が外部に放出される面をいう。なお、半導体発光素子1の側面からも光は取り出される。しかし、側面からの光取り出しは、マルチピークの発生に対する影響が小さいため、側面は粗化が行われていても行われていなくてもよい。なお、発光出力向上のためには側面も粗化が行われていることが好ましい。
【0037】
この半導体発光素子1は、第2導電型クラッド層3bの「光取り出し面」が粗面である。光取り出し面の表面の表面粗さRaが0.03μm以上である。そして、スキューネスRskが−1以上であることがより好ましい。より好ましくはRa≧0.04μm、Rsk≧−0.5である。第2導電型クラッド層3bの表面の平坦部分の上に上面電極9aおよび9bが設けられる。
【0038】
本発明者らの実験によれば、光取出し面の表面が、凹凸パターンがランダムでなく、規則的な粗面であると、発光スペクトル中のマルチピークを減らし、単一ピークにすることができないことが実験的に確認された。より具体的には、スキューネスRskが正であっても、凹凸の深さが浅く表面粗さRaが0.03μmより小さければ、単一ピークにすることができないことが確認された。そのため、表面粗さRaが0.03μm以上が好ましく0.04μm以上であることが、単一ピークとするためにはより好ましい。また、表面粗さRaが0.03μm以上であっても、スキューネスRskが−1より負に大きく(Rsk<−1)、光取り出し側の頂部に平坦面または平坦に近い部分が多く形成されると、発光スペクトル中のマルチピークを減らし、単一ピークにすることができないことが分かった。そのため、スキューネスRskは−1〜0または正(すなわちRsk≧−1)であることが好ましく。−0.5〜0.5(すなわち−0.5≦Rsk≦0.5)であることがより好ましい。
【0039】
また、発光素子の出力の向上に適した粗面形状と、マルチピークを減らすのに適した粗面形状とは、必ずしも一致しないことが、本発明者の実験により判明した。マルチピークを減らすのに適した粗面形状は表面粗さRaが0.03μm以上かつスキューネスRskが−1.0以上の場合であり、マルチピークを減らし、かつ、発光出力向上の効果も高い粗面形状は、表面粗さRaが0.04μm以上かつスキューネスRskが−0.5以上0.5以下の場合である。なお、表面粗さRaの上限は、少なくとも粗化を行う第2導電型クラッド層の厚さ未満であり、例えば4μmである。マルチピークを減らすのに適したスキューネスRskの上限としては、特に限定されないが、例えば2である。また、上記と同様の理由により、光取出し面の表面の表面粗さSaは、0.05μm以上であることが好ましい。さらには、光取出し面の表面のキューネスSskは、−0.5以上が好ましい。
【0040】
なお、第1導電型クラッド層3aの導電型をn型とする場合、第2導電型クラッド層3bはp型とする。逆に、第1導電型クラッド層3aの導電型をp型とする場合、第2導電型クラッド層3bはn型とする。
【0041】
また、図示しないが、エッチングストップ層を、第2導電型クラッド層3bと、パッド部9aおよび配線部9bを含む上面電極との間に残すことも好ましい形態である。
【0042】
また、
図2に示すように、上面電極(パッド部9aおよび配線部9b)の上を除き、第2導電型クラッド層3b上に、半導体発光素子1がさらに保護膜PF
1を有することも好ましい。保護膜PF
1はSiO
2、SiN、ITOおよびAlNなどを用いることができ、特に、SiO
2からなることが好ましい。保護膜PF
1は、第2導電型クラッド層3bと、空気間の屈折率差を抑制して、光取出しを高める効果を有する。
【0043】
さらに、原因は不明であるが、本発明に従う「ランダムな粗面」を形成した後に保護膜を形成すると、連続通電による出力の低下を抑制する効果が大きいことが分かった。例えば、100mAを連続1000時間通電した後の発光出力に対する初期の発光出力(以下、「発光出力維持率」)が、当該「ランダムな粗面」を形成した場合で94%であった半導体発光素子に対して、保護膜を形成すると、当該出力維持率を99〜100%まで向上することができる(後述の実験例3参照)。一方、粗面を形成しない場合や、本発明条件を満足しない粗面の場合、発光出力維持率は94%であり。これらに同じ厚さの保護膜を形成しても97%程度にしかならない。
【0044】
保護膜PF
1の厚さは100nm以上であることが好ましく、215nm以上であることがより好ましい。また、保護膜PF
1のは、700nm以下であることが好ましく、650nm以下がより好ましい。PF
1の厚さがこれら範囲内であると、波長1000〜2200nm帯の光取出しを向上させることができる。
【0045】
保護膜PF
1を形成する際に、保護膜PF
1は基本的に下地となる第2導電型クラッド層3bの表面凹凸に応じて被覆する。プラズマCVD法など、表面に薄膜を析出させる装置を使用する場合には、保護膜PF
1で覆われることにより、第2導電型クラッド層3bの凹凸状態に比べて保護膜PF
1の凹凸状態は僅かになだらかになり、保護膜PF
1を含めて表面状態を測定すると、表面粗さRaが小さくなる場合がある。そのため、保護膜を含む表面粗さとして、表面粗さRaが0.02μm以上であり(Ra≧0.02μm)、かつ、スキューネスRskが−1以上(Rsk≧−1)であることが好ましい。
【0046】
なお、
図2に示すように、第1導電型クラッド層3a、半導体発光層3c、および第2導電型クラッド層3bの側面を保護する保護膜PF
2を設けてもよい。保護膜PF
2の材料は、保護膜PF
1と同じでもよいし異なっていてもよい。
【0047】
また、
図1,2に示した半導体発光素子1の基板1に替えて、支持基板の表面に金属接合層が設けられ、当該金属接合層が反射層と接合する接合型の半導体発光素子としてもよい。
【0048】
以下、本発明の好適実施形態に従う接合型の半導体発光素子100を製造するための各工程を順次説明することにより、本発明に従う半導体発光素子1の各構成の詳細を説明する。なお、半導体発光素子1の各構成と、半導体発光素子100の各構成との対応関係は以下のとおりである。すなわち、第1導電型クラッド層3aがp型クラッド層37に相当し、半導体発光層3cが半導体発光層35に相当し、第2導電型クラッド層3bがn型クラッド層31に相当し、反射層6が反射層60に相当し、支持基板8が支持基板80に相当する。
【0049】
(半導体発光素子100の製造方法)
本発明の一実施形態に従う半導体発光素子100の製造方法は、以下に詳細を後述する半導体層形成工程、コンタクト層工程、誘電体層形成工程、反射層形成工程、接合工程、基板除去工程および粗面化処理工程を含むことが好ましい。
【0050】
まず、半導体層工程では、成長用基板10上に、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20を形成し、次いで、n型クラッド層31、半導体発光層35、およびp型クラッド層37を順次形成した半導体積層体30を形成する(
図3(A),(B))。
【0051】
コンタクト部形成工程では、まず、半導体積層体30上にIII−V族化合物半導体からなるコンタクト層41を形成する(
図3(C))。次いで、コンタクト層41上の一部にオーミック金属部43を形成すると共に、コンタクト層41の表面に露出領域E1を残す(
図4(A))。さらに、露出領域E1におけるコンタクト層41を、半導体積層体30の表面が露出するまで除去して、オーミック金属部43およびコンタクト層41aからなるコンタクト部40を形成すると共に、半導体積層体30の露出面E2を形成する(
図4(B))。
【0052】
誘電体層形成工程では、半導体積層体30の露出面E2上の少なくとも一部に誘電体層50を形成する(
図4(C))。反射層形成工程では、誘電体層50およびコンタクト部40上に、半導体発光層35から放射される光を反射する反射層60を形成する(
図5(A))。接合工程では、金属接合層70が表面に設けられた支持基板80を、金属接合層70を介して反射層60に接合する(
図5(B))。そして、基板除去工程では、成長用基板10を除去する(
図6(A))。
【0053】
その後、上面電極の形成領域をマスクした後、p型クラッド層31の表面に複数の凹凸31Cを形成する粗面化処理工程を行う(
図6(B))。その後、第2導電型クラッド層上に上面電極を形成する工程を行う。こうして、本発明の好適実施形態に従う半導体発光素子100を製造することができる。なお、上面電極の形成は粗面化処理工程の前に行ってもよい。こうして、本発明の好適実施形態による半導体発光素子100を製造することができる(
図7)。以下、各工程の詳細を順次説明する。
【0054】
<半導体層形成工程>
半導体層形成工程では、成長用基板10上に、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20を形成し、次いで、n型クラッド層31、半導体発光層35、およびp型クラッド層37を順次形成した半導体積層体30を形成する(
図3(A),(B))。
【0055】
半導体層形成工程では、
図3(A)に示すように、まず成長用基板10を用意する。本実施形態ではp型クラッド層31およびn型クラッド層31を形成するため、成長用基板10としてInP基板を用いることが好ましい。なお、InP基板としては、一般的に入手可能なn型InP基板、高抵抗(半絶縁性とも呼ばれる)のInP基板(例えばFeドープ、比抵抗1×10
6Ω・cm以上)、p型InP基板のいずれを用いることもできる。以下、説明の便宜のため、成長用基板10としてn型InP基板を用いる好適実施形態を説明する。
【0056】
次に、成長用基板10上に、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20を形成する。既述のとおり、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20は、成長用基板10に対してエッチング選択性があればよく、InP基板に対しては、例えばInGaAsをエッチングストップ層に用いることができ、他にも、InGaAsPをエッチングストップ層に用いることもできる。このIII−V族化合物半導体エッチングストップ層20は、基板除去工程において成長用基板10をエッチングにより除去する際に用いることができる。成長用基板10としてn型InP基板を用いる場合、導電型を成長用基板と合わせてIII−V族化合物半導体エッチングストップ層20をn型とすることが好ましい。InGaAsをIII−V族化合物半導体エッチングストップ層20に用いる場合、n型InP基板とInGaAsとを格子整合させるため、III族元素におけるIn組成比を0.3〜0.7とすることが好ましく、より好ましくはIn組成比を0.5〜0.6としたInGaAsを用いることが好ましい。
【0057】
続いて、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20上にn型クラッド層31、半導体発光層35、およびp型クラッド層37を順次形成した半導体積層体30を形成する。半導体発光層35はp型クラッド層37およびn型クラッド層31に挟持されるため、InおよびPを少なくとも含むInGaAsP系III−V族化合物半導体からなる層であることが好ましい。半導体積層体30は、半導体発光層35を、p型クラッド層37およびn型クラッド層31で挟持したダブルヘテロ(DH)構造または多重量子井戸(MQW)構造とすることができる。結晶欠陥抑制による光出力向上のため、半導体発光層35が多重量子井戸構造を有することがより好ましい。多重量子井戸構造は、井戸層35Wおよび障壁層35Bを交互に繰り返した構造により形成することができ、井戸層35WをInGaAsPとすることができ、障壁層35Bを、井戸層35Wよりもバンドギャップの大きなInGaAsPまたはInPとすることが好ましい。このような半導体積層体30を設けることにより、半導体発光素子100の発光波長を、所望の近赤外領域の波長とすることができる。例えば、InGaAsP系III−V族化合物の組成変更により発光ピーク波長を1000〜1650nmとすることができ、MQW構造の場合であればInGaAsP系III−V族化合物の組成変更に加えて井戸層と障壁層の組成差を調整し井戸層にひずみを加えることにより発光ピーク波長を1000〜1900nmとすることができ、さらにひずみを加えて1000〜2200nmとすることもできる。また、井戸層35Wの成分組成をIn
xwGa
1−xwAs
ywP
1−ywと表す場合、0.5≦xw≦1、かつ、0.5≦yw≦1とすることができ、0.6≦xw≦0.8、かつ、0.3≦yw≦1とすることが好ましい。
【0058】
半導体積層体30の全体の厚みは制限されないが、例えば2μm〜15μmとすることができる。また、p型クラッド層31の厚みも制限されないが、例えば1μm〜5μmとすることができる。さらに、半導体発光層35の厚みも制限されないが、例えば100nm〜1000nmとすることができる。また、n型クラッド層31の厚みも制限されないが、例えば0.8μm〜10μmとすることができる。半導体発光35が量子井戸構造を有する場合、井戸層35Wの厚みを3nm〜15nmとすることができ、障壁層35Bの厚みを5〜15nmとすることができ、両者の組数を3〜50とすることができる。
【0059】
また、半導体積層体30は、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなるp型キャップ層39をp型クラッド層37上に有することも好ましい。p型キャップ層39を設けることで、格子不整合を緩和することができる。p型キャップ層39の厚みは制限されないが、例えば50〜200nmとすることができる。以下の実施形態では、説明の便宜上、半導体積層体30の最表層がp型キャップ層39であるとして説明するが、p型キャップ層39は任意の構成であるため、例えば半導体積層体30の最表層をp型クラッド層37としてもよい。
【0060】
なお、図示しないが、半導体積層体30は、n型クラッド層31および半導体発光層35の間と、半導体発光層35およびp型クラッド層37の間とに、それぞれi型InPスペーサ層を有することも好ましい。i型InPスペーサ層を設けることで、ドーパントの拡散を防止することができる。なお、i型InPスペーサ層の厚みは制限されないが、例えば50〜400nmとすることができる。また、半導体積層体30は、n型クラッド層31と、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20との間に、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20と組成比の異なるn型InGaAsP層をさらに有してもよい。
【0061】
ここで、半導体積層体30の各層は、エピタキシャル成長により形成することができ、例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法や分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、スパッタ法などの公知の薄膜成長方法により形成することができる。例えば、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、Ga源としてトリメチルガリウム(TMGa)、As源としてアルシン(AsH
3)、P源としてホスフィン(PH
3)を所定の混合比で用い、これらの原料ガスを、キャリアガスを用いつつ気相成長させることにより、成長時間に応じてInGaAsP層を所望の厚みで形成することができる。なお、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20などの、エピタキシャル成長させる他のInGaAsP層についても、同様の方法により形成することができる。各層をp型またはn型にドーパントする場合は、所望に応じてドーパント源のガスをさらに用いればよい。
【0062】
<コンタクト部形成工程>
コンタクト部形成工程では、まず、半導体積層体30上にIII−V族化合物半導体からなるコンタクト層41を形成する(
図3(C))。例えば、
図3(C)に示すように、p型キャップ層39上にp型のコンタクト層41を形成することができる。p型のコンタクト層41は、オーミック金属部43に接し、オーミック金属部43と半導体積層体30との間に介在する層であって、半導体積層体30に比べてオーミック金属部43との間のコンタクト抵抗が小さくなる組成であればよく、例えばp型のInGaAs層を用いることができる。コンタクト層41の厚みは制限されないが、例えば50nm〜200nmとすることができる。
【0063】
次いで、コンタクト層41上の一部にオーミック金属部43を形成すると共に、コンタクト層41の表面に露出領域E1を残す(
図4(A))。オーミック金属部43は、所定のパターンで島状に分散させて形成することができる。p型のコンタクト層41としてp型のInGaAs層を用いる場合、オーミック金属部43として例えばAu、AuZn、AuBe、AuTiなどを用いることができ、これらの積層構造を用いることも好ましい。例えば、Au/AuZn/Auをオーミック金属部43とすることができる。オーミック金属部43の厚み(または合計厚み)は制限されないが、例えば300〜1300nm、より好ましくは350nm〜800nmとすることができる。
【0064】
ここで、例えば、コンタクト層41の表面にレジストパターンを形成し、オーミック金属部43を蒸着させ、レジストパターンをリフトオフして形成することにより、コンタクト層41の表面に露出領域E1を残すことができる。また、コンタクト層41の表面全面に所定の金属層を形成し、当該金属層上にマスクを形成し、エッチングするなどして、オーミック金属部43を形成してもよい。いずれの場合も、
図4(A)に示すように、コンタクト層41上の一部にオーミック金属部43が形成され、コンタクト層41の表面には、オーミック金属部43が接触しない表面、すなわち、露出領域E1を形成することができる。
【0065】
なお、オーミック金属部43の形状は、
図4(A)に示すように断面図において台形状となることがあるが、これは模式的な例示に過ぎない。オーミック金属部43の形状は、断面図において矩形状に形成されても構わないし、角部に丸みを有していても構わない。
【0066】
さらに、コンタクト部形成工程において、露出領域E1におけるコンタクト層41を、半導体積層体30の表面が露出するまで除去して、オーミック金属部43およびコンタクト層41aからなるコンタクト部40を形成すると共に、半導体積層体30の露出面E2を形成する(
図4(B))。すなわち、先に形成したオーミック金属部43以外の場所におけるコンタクト層41を、半導体積層体30の最表層であるp型キャップ層39の表面が露出するまでエッチングし、コンタクト層41aとする。例えば、オーミック金属部43およびその近傍(2〜5μm程度)にレジストマスクを形成し、酒石酸−過酸化水素系などによりコンタクト層41の露出領域E1をウェットエッチングすればよい。他にも、無機酸−過酸化水素系および有機酸−過酸化水素系のエッチング液などによってもウェットエッチングは可能である。また、露出領域E1を形成する際に、上記所定の金属層上にマスクを形成し、エッチングによりオーミック金属部43を形成した場合は、エッチングを連続して行ってもよい。
【0067】
なお、コンタクト部40の厚みは、コンタクト層41(41a)およびオーミック金属部43の合計厚みに相当し、350nm〜1500nm、より好ましくは400〜1000nmとすることができる。
【0068】
<誘電体層形成工程>
誘電体層形成工程では、半導体積層体30の露出面E2上の少なくとも一部に誘電体層50を形成する(
図4(C))。このような誘電体層50は、例えば以下のようにして形成することができる。
【0069】
まず、半導体積層体30およびコンタクト部40を被覆するように、半導体積層体30上の全面に誘電体層を成膜する。成膜法としては、プラズマCVD法およびスパッタ法などの、公知の手法が適用可能である。そして、成膜した誘電体層表面の、コンタクト部40の上方において、誘電体層50にコンタクト部上の誘電体が形成される場合には、所望に応じてマスクを形成し、エッチング等により当該コンタクト部上の誘電体を除去すればよい。例えば、バッファードフッ酸(BHF)などを用いてコンタクト部上の誘電体をウェットエッチングすることができる。
【0070】
なお、
図8に示すように、半導体積層体30の露出面E2上の一部に誘電体層50を形成すると共に、コンタクト部40の周囲を露出部E3とすることも好ましい。このような誘電体層50および露出部E3は、例えば以下のようにして形成することができる。まず、半導体積層体30上の全面に誘電体層を成膜し、成膜した誘電体層表面の、コンタクト部40の上方において、コンタクト部を完全に取囲む窓パターンをレジストで形成する。この場合、窓パターンは、コンタクト部の幅方向および長手方向の長さに対してそれぞれ1〜5μm程度拡がりを持たせることが好ましい。こうして形成したレジストパターンを用いて、コンタクト部周辺の誘電体をエッチングにより除去することで、誘電体層50が形成されると共に、コンタクト部40の周囲が露出部E3となる。
【0071】
この形状を確実に得るためには、露出部E3の幅Wを0.5μm以上5μm以下とすることが好ましく、1μm以上3.5μm以下とすることがより好ましい(
図8参照)。
【0072】
ここで、誘電体層50が半導体積層体30と接触する接触面積率を、80%以上95%以下とすることも好ましい。コンタクト部40の面積を減らして、誘電体層50の面積を増やすことにより、コンタクト部による光吸収を抑制することができるからである。なお、接触面積率は、ウエハの状態で測定することができるし、個片化後の半導体発光素子の状態から接触面積率を逆算する場合は、個片化の際に除去された半導体層(誘電体層が存在していた領域)の幅を片幅20〜30μm(両幅40〜60μm)と仮定して算出してもよい。
【0073】
なお、誘電体層形成工程により形成される誘電体層50の厚みH
1と、コンタクト部40の厚みH
2との関係は特に制限されないが、
図8に示すように、誘電体層50の厚みをH
1、コンタクト部の厚みをH
2と表した場合、H
1≧H
2とすることができ、H
1>H
2とすることも好ましい。この条件の下、誘電体層50の厚みを、例えば360nm〜1600nm、より好ましくは410nm〜1100nmとすることができる。また、誘電体層の厚みH
1と、コンタクト部40の厚みH
2との差H
1−H
2を10nm以上100nm以下とすることも好ましい。
【0074】
また、誘電体層50としては、SiO
2、SiN、ITOおよびAlNなどを用いることができ、特に、誘電体層50がSiO
2からなることが好ましい。SiO
2は、BHF等によるエッチング加工が容易だからである。
【0075】
<反射層形成工程>
反射層形成工程では、誘電体層50およびコンタクト部40上に、半導体発光層35から放射される光を反射する反射層60を形成する(
図5(A))。なお、誘電体層形成工程において露出部E3を形成している場合は、反射層60は露出部E3上にも形成される。反射層60には、DBRや金属反射層、フォトニック結晶、部分的な空隙等による屈折率差などがいずれも利用可能であるものの、製造が容易であり放射光に対して適切な反射率とするため、金属反射層を用いることが好ましい。金属反射層には、Au,Al,Pt,Ti、Agなどを用いることができるが、Auを主成分とすることが特に好ましい。この場合、金属反射層の組成においてAuが50質量%超を占めることが好ましく、より好ましくはAuが80質量%以上である。金属反射層は、複数層の金属層を含むことができるが、Auからなる金属層(以下、「Au金属層」)を含む場合には、金属反射層の合計厚みのうち、Au金属層の厚みを50%超とすることが好ましい。例えば、金属反射層はAuのみからなる単一層であってもよいし、金属反射層にAu金属層が2層以上含まれていてもよい。後続の接合工程における接合を確実に行うため、金属反射層の最表層(半導体積層体30と反対側の面)を、Au金属層とすることが好ましい。例えば、誘電体層50、露出部E3およびコンタクト部40上に、Al、Au、Pt、Auの順に金属層を成膜し、金蔵反射層とすることができる。金属反射層におけるAu金属層の1層の厚みを、例えば400nm〜2000nmとすることができ、Au以外の金属からなる金属層の厚みを、例えば5nm〜200nmとすることができる。金属反射層60は、蒸着法などの一般的な手法により、誘電体層50、露出部E3およびコンタクト部40上に成膜して形成することができる。
【0076】
<接合工程>
接合工程では、金属接合層70が表面に設けられた支持基板80を、金属接合層70を介して反射層60に接合する(
図5(B))。支持基板80の表面には、予め金属接合層70を、スパッタ法や蒸着法などにより形成しておけばよい。この金属接合層70と、反射層60を対向配置して貼り合せ、250℃〜500℃程度の温度で加熱圧縮接合を行うことで、両者の接合を行うことができる。
【0077】
反射層60と接合する金属接合層70には、Ti、Pt、Auなどの金属や、金と共晶合金を形成する金属(Snなど)を用いることができ、これらを積層したものとすることが好ましい。例えば、支持基板80の表面から順に、厚み400nm〜800nmのTi、厚み5nm〜20nmのPt、厚み700〜1200nmのAuを積層したものを金属接合層70とすることができる。なお、反射層60と金属接合層70との接合を容易にするため、金属接合層70側の最表層をAu金属層とし、反射層60の、金属接合層70側の金属層もAuとして、Au−Au拡散によるAu同士での接合を行うことが好ましい。
【0078】
なお、支持基板80には、例えば導電性のSi基板を用いることができ、他にも、導電性のGaAs基板、またはGe基板を用いてもよい。また、上述の半導体基板以外に、金属基板を用いることもできるし、焼成AlNなどの放熱性絶縁基板を用いたサブマウント基板であっても良い。支持基板80の厚みは、用いる材料によっても異なるが、100μm以上500μm以下とすることができ、Si基板やGaAs基板であれば、180μm未満の厚みとしてもハンドリング可能である。放熱性や脆性、コストを考慮すると、Si基板が特に好ましい。
【0079】
<基板除去工程>
基板除去工程では、成長用基板10を除去する(
図6(A))。成長用基板10は、例えば塩酸希釈液を用いてウェットエッチングにより除去することができ、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20を当該ウェットエッチングの終点とすることができる。なお、III−V族化合物半導体エッチングストップ層20を除去する際には、例えば硫酸−過酸化水素系のエッチング液でウェットエッチングすればよい。
【0080】
<粗面化処理工程>
粗面化処理工程では、n型クラッド層31の光取り出し面の表面(平坦面31F以外の表面)を、表面粗さRaが0.03μm以上であり、かつ、凹凸パターンがランダムな粗面となるよう粗化し、ランダムな凹部31Cを形成する(
図6(B))。光取出し面の表面のスキューネスRskを−1以上となるように粗化することが好ましい。上面電極領域のマスクおよび粗面化加工を順次行うことで、粗面化加工工程を行うことができる。
図9(A)〜(D)を参照しつつ、粗面化処理工程およびその後に行うことが好適な保護膜形成工程を説明する。
【0081】
<<上面電極領域のマスク>>
まず、基板除去工程により露出したエッチングストップ層20上または第2導電型クラッド層(n型クラッド層31)上の、上面電極の形成領域31F上にフォトレジストPR1等を用いてマスクを行う(
図9(A))。後述するように、粗面化加工におけるIII−V族化合物半導体エッチングストップ層20をエッチングしてパターン形成する際の、電極領域の保護のための第1工程と同時に行ってもよい。なお、上面電極を粗面化処理工程の前に形成する場合には、上面電極を形成した後に、上面電極上にフォトレジストを用いてマスクを行えばよい。上面電極は第2導電型クラッド層(n型クラッド層31)上に形成しても良いが、エッチングストップ層20上に形成することで電極の信頼性を高めることができる。
図9(A)〜(D)は、エッチングストップ層20上に上面電極を形成する態様の模式図である。
【0082】
そして、粗面化加工は、機械加工による粗面化、ウェットエッチング、ドライエッチングと、を単独または組み合わせて行うことができる。p型クラッド層31の凹凸パターンの表面粗さRaが0.03μm以上であり、かつ、ランダムな粗面となるよう粗化する限り、好ましくは、スキューネスRskが、Rsk≧−1となるように形成できる限りは、いかなる組み合わせも可能である。
【0083】
以下、粗面化加工処理工程の好適な態様が含む第1工程乃至第3工程と、その後に行うことが好ましい保護膜形成工程の一例をする。下記以外にも、異なる方法によっても粗面化加工は可能である。
【0084】
<<第1工程(電極領域の保護)>>
前述の
図6(A)は、成長用基板10を除去した後の状態に相当する。この後、第1工程では、成長用基板10を除去した後、n型クラッド層31の平坦領域31F上であって、上面電極を形成する予定の場所または上面電極を形成した後の電極)について、後の機械加工による粗面化においても耐えられる材料による保護を行う。材料としては機械加工(すなわち研削加工)における砥粒の硬さと同等またはより硬い材料であって、成膜とパターニングが容易であればよく、例えば、SiO
2、SiN、TiN、等が選択できる。
パターニングには、フォトリソグラフ法を用いて、エッチングまたはリフトオフを行えばよい。
【0085】
<<第2工程(機械加工による粗化)>>
第1工程に続き、第2工程では上面電極を形成する予定の場所以外の表面(光取り出し面)について、研削を行う(
図9(B))。支持板にウエハ裏面をワックス等で貼り付け、研磨シート、または、砥粒を含むスラリーを流しながら特定の回転数でラップ盤を用いて表面を粗く削ることにより、ランダム形状の凹凸を作成することで、こうした研削が可能である。
この際、研削開始時においてエッチングストップ層20は有ってもよいし、あらかじめエッチングにより除去しておいてもよい。エッチングストップ層20を除去しない場合は、研削時にエッチングストップ層20の厚さ分を必ず研削するようにラップ時間を調整すればよい。
【0086】
<<第3工程(エッチング工程)>>
第2工程により凹凸を生じた表面に対し、表面の歪を除去して清浄化し、かつ、凹凸を急峻化させる目的で、エッチングを行う。
エッチングには、例えば、塩酸−酢酸系のエッチング液(塩酸:酢酸=1:2)や、林純薬工業株式会社製のPureEtchF106、などの市販のエッチング液を用いることができる。
第2工程による凹凸の量や、第3工程におけるエッチング液やエッチング条件(温度、時間、撹拌等)は、任意に組み合わせることができる。他の化合物半導体に比べると、InPはエッチングによって凹凸を形成することは比較的難しい材料であるものの、n型クラッド層31の表面粗さがRa≧0.03、かつ、Rsk≧−1となるように凹凸を形成すればよい。
【0087】
<保護膜形成工程>
上面電極の中央部をレジストによりマスクした後に、保護膜PF
1をp型クラッド層31の凹凸面上を含む全面に成膜する(
図9(C))。その後、レジストをリフトオフして上面電極を露出させる(
図9(D))。
成膜法としては、プラズマCVD法およびスパッタ法などの、公知の手法が適用可能である。そして、上面電極にあらかじめレジストを形成しない場合は、保護膜の成膜後にマスクを形成し、バッファードフッ酸(BHF)などを用いたエッチング等により当該上面電極上の保護膜を除去すればよい。
【0088】
なお、図示しないが、本実施形態に従う製造方法は、支持基板80の厚みを80μm以上200μm未満の範囲内に研削する研削工程を更に有することも好ましい。本実施形態では、支持基板80としてSi基板を用いることができ、この場合、支持基板80を厚み200μm未満に研削しても破損が生じることがない。さらに、支持基板80の厚みを150μm以下にまで研削することもできるし、100μm以下にまで研削することもできる。ただし、支持基板80の厚みを80μm未満にまで研削すると、Si基板であっても破損が生じ得るため、厚みの下限を80μmとすることが好ましい。また、支持基板80の厚みが80μm以上であれば、半導体発光素子100を十分にハンドリング可能である。
【0089】
また、本発明の好適実施形態に従う製造方法では、
図7に示すように、半導体発光素子100を作製した後、半導体積層体30の表面に上面電極93を形成する工程をさらに有してもよい。また、支持基板80が導電性の場合、支持基板80の裏面に裏面電極91を形成する工程をさらに有してもよい。上面電極93は、配線部93aおよびパッド部93bを含んでもよい。このような工程を行うことで、半導体発光素子100’を作製することができる。裏面電極91および上面電極93の形成は公知の手法を用いることができ、例えばスパッタ法、電子ビーム蒸着法、または抵抗加熱法などを用いることができる。
【0090】
本実施形態は、説明の便宜のため、成長用基板10としてn型のInP基板を用いる実施形態としたため、成長用基板10上に形成される各層のn型およびp型については上記のとおりとしたが、各層の導電型のn型/p型が逆転可能であるのは当然に理解される。
【0091】
さらに、
図1、
図2の半導体発光素子に示すように、ダイシングに先立ちエピタキシャル形成した半導体層3a,3b,3cをメサエッチングしてもよい。
【0092】
なお、上述の製造方法の実施形態では、接合型の半導体発光素子100の作製を前提に説明したが、本発明は接合型の半導体発光素子に限定されない。本発明による半導体発光素子の製造方法は、基板上に、反射層、InおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第1導電型クラッド層、発光中心波長が1000〜2200nmの半導体発光層、およびInおよびPを少なくとも含むInGaAsPからなる第2導電型クラッド層を順次形成し、前記第2導電型クラッド層を光取出し側とする前記第2導電型クラッド層を形成した後、前記第2導電型クラッド層の光取り出し面の表面を、表面粗さRaが0.03μm以上であり、かつ、凹凸パターンがランダムな粗面となるよう粗化する粗面化処理工程を含むことができる。そして、この前記粗面化処理工程において、前記光取出し面の表面のスキューネスRskを−1以上となるように粗化することが好ましい。
【実施例】
【0093】
(実験例1)
(実施例1)
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
図3〜
図6,
図9に示したフローチャートに従って、実施例1に係る半導体発光素子を作製した。具体的には以下のとおりである。
【0094】
まず、n型InP基板の(100)面上に、n型In
0.57Ga
0.43Asエッチングストップ層(20nm)、n型InPクラッド層(厚み:3.5μm)、i型InPスペーサ層(厚み:300nm)、発光波長1300nmの量子井戸構造の半導体発光層(合計130nm)、i型InPスペーサ層(厚み:300nm)、p型InPクラッド層(厚み:4.8μm)、p型In
0.8Ga
0.20As
0.5P
0.5キャップ層(厚み:50nm)、p型In
0.57Ga
0.43Asコンタクト層(厚み:100nm)をMOCVD法により順次形成した。なお、量子井戸構造の半導体発光層層の形成にあたり、In
0.73Ga
0.27As
0.5P
0.5井戸層(厚み:5nm)およびInP障壁層(厚み:8nm)を10層ずつ交互に積層した。
【0095】
p型In
0.57Ga
0.43Asコンタクト層上に、
図10(A)に示すように、島状に分散したp型オーミック電極部(Au/AuZn/Au、合計厚み:530nm)を形成した。このパターン形成にあたっては、レジストパターンを形成し、次いでオーミック電極を蒸着し、レジストパターンのリフトオフにより形成した。この状態で光学顕微鏡を用いてウエハの半導体層を上面視で観察したところ、p型オーミック電極部の、半導体層への接触面積率は4.5%であった。なお、
図10(A)の外形サイズは380μm角である。
【0096】
次に、オーミック電極部をマスクとして用い、オーミック電極部を形成した場所以外のp型In
0.57Ga
0.43Asコンタクト層を、酒石酸−過酸化水素系のウェットエッチングにより除去した。その後、プラズマCVD法によりp型In
0.80Ga
0.20As
0.50P
0.50キャップ層上の全面にSiO
2からなる誘電体層(厚み:700nm)を形成した。そして、p型オーミック電極部の上方領域に、幅方向および長手方向に幅3μmを付加した形状の窓パターンをレジストで形成し、p型オーミック電極部およびその周辺の誘電体層を、BHFによるウェットエッチングにより除去し、p型In
0.80Ga
0.20As
0.50P
0.50キャップ層を露出させた。このとき、p型In
0.80Ga
0.20As
0.50P
0.50キャップ層上の誘電体層の高さH
1(700nm)は、p型コンタクト層(厚み:130nm)とp型オーミック電極部(厚み:530)からなるコンタクト部の高さH
2(630nm)より、70nm高い。なお、この状態で光学顕微鏡を用いてウエハの半導体層を上面視で観察したところ、誘電体層(SiO
2)の接触面積率は90%であった。
【0097】
次に、金属反射層(Al/Au/Pt/Au)を、p型In
0.80Ga
0.20As
0.50P
0.50キャップ層上の全面に蒸着により形成した。金属反射層の各金属層の厚みは、順に10nm、650nm、100nm、900nmである。
【0098】
一方、支持基板となる導電性Si基板(厚み:300μm)上に、金属接合層(Ti/Pt/Au)を形成した。金属接合層の各金属層の厚みは、順に650nm、10nm、900nmである。
【0099】
これら金属反射層および金属接合層を対向配置して、300℃で加熱圧縮接合を行った。そして、InP基板を塩酸希釈液によりウェットエッチングして除去した。
【0100】
次に、n型InPクラッド層の光取出し面の表面に対して粗面化処理を行った。まず、ポジ型のフォトレジストを用いて上面電極形成領域を除く場所のエッチングストップ層上をマスクし、プラズマCVDによりSiO
2膜を50nm形成し、当該SiO
2膜上にTiN膜を100nm成膜して、上面電極形成領域をSiO
2膜とTiN膜により保護した。フォトレジストを溶解して上面電極形成領域を除く場所のSiO
2膜とTiN膜をリフトオフにより除去し、続いて、アルミナ砥粒(#4000 平均粒径3μm)と潤滑剤と混合したスラリーを流しながら、ラップ定盤により、保護されていない部分のエッチングストップ層およびn型InPクラッド層のラッピングを行った。その際、エッチングストップ層の厚さは20nmであり、エッチングストップ層が無くなるまでラップ時間を調整して研削し、n型InPクラッド層表面に機械的な加工による凹凸を形成した。その後、塩酸−酢酸系のエッチング液(塩酸:酢酸=1:2)を用いてn型InPクラッド層表面の凹凸をさらにエッチングした。
【0101】
次に、上記の粗面化処理において保護に用いたTiN膜を、硫酸と過酸化水素水の混合溶液により除去し、SiO
2膜をBHFにより除去し、露出した上面電極形成領域のエッチングストップ層上に、上面電極の配線部として、n型電極(Au(厚み:10nm)/Ge(厚み:33nm)/Au(厚み:57nm)/Ni(厚み:34nm)/Au(厚み:800nm)/Ti(厚み:100nm)/Au(厚み:1000nm))を、レジストパターン形成、n型電極の蒸着、レジストパターンのリフトオフにより、
図10(B)に示すように形成した。さらに、パッド部(Ti(厚み:150nm)/Pt(厚み:100nm)/Au(厚み:2500nm))をn型電極上に形成し、上面電極のパターンを
図10(B)に示すとおりとした。なお、
図10(A)と同様、
図10(B)の外形サイズは380μm角である。
【0102】
最後に、メサエッチングにより各素子間(幅60μm)の半導体層を除去してダイシングラインを形成した。そして、Si基板の裏面側への裏面電極(Ti(厚み:10nm)/Pt(厚み:50nm)/Au(厚み200nm))を形成し、ダイシングによるチップ個片化を行って、実施例1に係る半導体発光素子を作製した。なお、チップサイズは350μm×350μmである。
【0103】
(実施例2、実施例3)
実施例1におけるメサエッチングにより各素子間(幅60μm)の半導体層を除去してダイシングラインを形成した後に、プラズマCVDを用いて、上面電極のボンディング領域(中央の円形部)以外において粗面化処理後のn型InPクラッド層上および素子の側面を覆うようにSiO
2保護膜を形成し、実施例2および実施例3に係る半導体発光素子を作製した。実施例2,3を作製する際のSiO
2保護膜の形成時間のみを調整した結果、実施例2,実施例3でのSiO
2保護膜の厚さは、それぞれ215nm、645nmであった。
【0104】
(実施例4〜7)
実施例1における粗面化処理における塩酸−酢酸系のエッチング時間をそれぞれ変化させて、表面粗さの制御を行った以外は、実施例1と同様にして実施例4〜7に係る半導体発光素子を作製した。
【0105】
(比較例1)
n型InPクラッド層表面へ粗面化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る半導体発光素子を作製した。
【0106】
(比較例2)
以下に説明する粗面化処理を行った以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る半導体発光素子を作製した。まず、n型InPクラッド層の粗面化処理を行う際に、まず、ポジ型のフォトレジストPR2によるパターン形成を行った。フォトレジストPR2のパターンは
図11に示すように、各凹部の中心点を二等辺三角格子状に2次元配列し、<011>方位および<011>方位と垂直方向での中心点の間隔は6.6μmとした。また、各凹部の形状は正六角形(1辺2μm)とした。続いて、酒石酸−過酸化水素水系のエッチング液を用いてn型In
0.57Ga
0.43Asエッチングストップ層にパターン転写を行った(
図12(A)〜(C))。その後、フォトレジストPR2を洗浄除去し(
図12(D))、n型InPクラッド層における電極形成領域の上面にさらに別のフォトレジストPR3を形成した(
図13(A))。その後、塩酸−酢酸系のエッチング液(塩酸:酢酸=1:2)を用いてn型InPクラッド層をエッチングし(
図13(B))、さらに、n型In
0.57Ga
0.43Asエッチングストップ層を硫酸−過酸化水素系のエッチング液(硫酸:過酸化水素:水=3:1:1)を用いてウェットエッチングして除去した(
図13(C))。この結果、結晶方位依存性のある凹凸パターンが形成される。
【0107】
(比較例3)
比較例2と同様にして半導体発光素子を作製し、さらに、実施例2と同様にして粗面化処理後のn型InPクラッド層上および素子の側面を覆うようにSiO
2保護膜(膜厚:500nm)を形成して、比較例3に係る半導体発光素子を作製した。
【0108】
(比較例4〜7)
比較例2における粗面化処理のうち、パターンの径およびピッチを変更することで粗面の状態を変えた以外は、比較例2と同様にして比較例4〜7に係る半導体発光素子を作製した。
【0109】
<粗面の粗さ測定>
粗面化処理後のウエハ(ダイシング前)を用いて、Tencor社製の接触式段差計「P−6」を用いて、n型クラッド層表面の粗面形状の測定を行った。用いる針の形状は触針先端半径2μmとし、触針圧2mgでスキャン速度2μm/secとし、サンプリング周波数は50Hzとした。測定距離(基準長さ)は、200μmとした。表面粗さRaの値とスキューネスRskの値は、当該段差計により自動的に算出される
【0110】
実施例1〜7における段差計のデータを
図14A〜
図14Gにそれぞれ示す。比較例については、マスクを用いて粗面化を行った比較例2〜7におけるそれぞれの段差計のデータを
図15A〜
図15Fにそれぞれ示す。なお、SiO
2保護膜を形成した実施例2,3と、比較例3については、保護膜形成前のn型InPクラッド層表面と、保護膜形成後の保護膜表面のそれぞれを測定した。図中ではn型InPクラッド層表面の測定結果を示している。
【0111】
実施例1〜7では、いずれもランダムな形状の凹凸が形成され、山も谷も尖っているのに対し、比較例2〜7ではパターン形成を行っているために、凹凸のピッチが揃っており、凹部の谷も深い。なお、比較例1では粗面化処理していないので平坦である。なお、段差計のデータ測定時において、ISO 4287−1997に基づくAmplitude parameters (Rp、Rv、Rz、Rc、Rt、Ra、Rq、Rsk、Rku)が自動的に算出される。その中のRaとRskについて、下記表1に示す。また、実施例1〜7および比較例1〜7における表面粗さRaと、スキューネスRskとの対応関係を示すグラフを
図16に示す。また、例えば比較例4,5,7の段差計のデータ(
図15C,D,F)を参照すると、マスク起因により溝が形成されていない部分(平坦パターン部分)において僅かな高さピークが観察され得るものの、当該平坦パターン部分の表面粗さRaはいずれも0.004μmであった。溝が形成されていない部分のRaが0.010μm以下であり、比較例の光取り出し側の表面は「ランダムな粗面」ではないと評価される。各平坦面のピッチは、それぞれ比較例2:6.6μm、比較例3:6.6μm、比較例4:4.0μm、比較例5:4.0μm、比較例6:8.0μm、比較例7:8.0μmである。そして、実施例1〜7は、光取り出し側の表面において比較例のような溝が形成されていない部分が観察されないため、「ランダムな粗面」であると評価される。
【0112】
【表1】
【0113】
<出力とVfの評価>
実施例1〜7および比較例1〜7のそれぞれの半導体発光素子を、トランジスタアウトラインヘッダー(TO−18)上に銀ペーストを用いてマウントし、金ワイヤを用いて上面電極をボンディングした。そして、実施例1〜7および比較例1〜7の発光出力(Po)および順方向電圧(Vf)を、それぞれ電流20mAを流すことで測定した。なお、発光出力(Po)の測定には積分球を用いた。また、順方向電圧(Vf)は、20mAを流すときの定電流電圧装置(エーディーシー社製:型番6243))の電圧値とした。10個を測定したときの平均値を、表1に併せて示す。
【0114】
<発光スペクトルの評価>
電流20mAを流し、大塚電子製の分光器(型番:MCPD−9800、受光素子:InGaAs、1chあたりの波長幅:5.5nm、スリット幅:50μm、波長精度:±2nm)を用いて、測定条件:露光時間1msec、積算回数60回として、実施例1〜7および比較例1〜7の発光素子の波長1000〜1600nmの範囲の発光スペクトルをそれぞれ測定した。なお、測定結果に対しスムージングはかけていない。
【0115】
測定された発光スペクトルを、以下の基準で評価した。なお、ここで言う「肩」とは、曲線上での接線の傾きの符号(プラス、マイナス)は維持されるが、接線の傾きが大から小、あるいは、小から大に変化する点が明瞭に観察される場所を指す。
発光スペクトルの縦軸(発光強度)を、最大強度を1とした相対強度で線形軸表示とした場合の、相対強度が0.1以上の発光強度をもつ波長域において、発光スペクトルの中で発光強度が最大となる中心波長の発光ピーク以外にも発光ピーク(傾きが0となる極大値)が見られマルチピークである場合を×とした。
中心波長の発光ピーク以外に発光ピークが見られず単一ピークであるが、肩と呼ばれる部分が見える場合を○とした。
単一ピークであり肩と呼ばれる部分もみられない場合を◎とした。
【0116】
代表例として実施例1および実施例7の発光スペクトルを
図17A、
図17Bに示し、比較例1〜3の発光スペクトルを
図18A〜
図18Cにそれぞれ示す。また、発光中心波長(λp)を測定した。発光中心波長(λp)を表1に示す。
【0117】
表1および
図14A〜
図14G、
図15A〜
図15Fの結果から、実施例1〜7のように、発光素子の光取り出し面に見られる凹凸形状であれば、発光スペクトルは単一ピークになることが分かった。そして、その凹凸形状の表面粗さRaおよびスキューネスRskがそれぞれRa≧0.03μm、Rsk≧−1を満たすと、確実に単一ピークになることも確認できた。また、スキューネスRskが、−0.5≦Rsk≦0.5であることで、単一ピークでありかつ発光出力が大きいことが確認できた。
【0118】
(実験例2)
上記実験例1において作製した実施例1,2,3,5,7および比較例1〜6について、粗面の粗さの3次元情報を以下のとおりにして取得した。
【0119】
<3次元での粗面の粗さ測定>
形状解析レーザ顕微鏡(KEYENCE社製 VK−X1000/1100)を用いて、粗面化処理後のウエハ(ダイシング前)におけるn型クラッド層表面の粗面形状の測定を行った。なお、SiO
2保護膜を形成した実施例2、3と、比較例3については、保護膜形成後の保護膜表面を測定した。レンズ倍率は150倍とし、画素数は2048×1536とした。
【0120】
データ測定時において、ISO 25178に基づく面粗さのパラメータ(Sa、Sz、Str、Spc、Sdr、Sskなど)が自動的に算出される。それらの値を下記表2に示す。また、代表例として、実施例1および比較例2におけるn型クラッド層表面の3次元画像を
図19Aおよび
図19Bにそれぞれ示す。
図19Aに示すように、実施例1のn型クラッド層の表面には、ランダムな粗面が形成されていることが観察された。一方、比較例2のn型クラッド層の表面においては、平坦パターン部分(Raが0.010μm以下)と溝部とが特定のパターンで配列していることが観察され、ランダムな粗面ではないことが確認された。
【表2】
【0121】
表1に記載の2次元評価による測定結果と表2に記載の3次元評価による測定結果とから、スキューネスRskとスキューネスSskの相間関係を検討した結果を
図20に示す。この
図20のグラフを踏まえると、マルチピークを無くすためには、3次元測定では表面粗さSaが0.05μm以上、かつ、光取出し面の表面のスキューネスSskが−0.5以上であることが好ましいことが分かった。また、展開面積(表面積)の大きさを示すSdrの値とPoとは、Sdrの値に対しPoも大きくなる傾向を示すことが分かった。
【0122】
(実験例3)
実験例1において作製した実施例1,3および比較例1〜3に係る半導体発光素子を作製した直後の積分球による初期の発光出力を測定した。その後、当該半導体発光素子に室温で100mAを1000時間連続して通電した後に積分球による発光出力を測定し、発光出力維持率を求めた。結果は下記表3のとおりであった。したがって、本発明条件を満足するランダムな粗面に保護膜を形成すると、連続通電による出力の低下を抑制する効果が大きいことが確認された。
【0123】
【表3】