特許第6648814号(P6648814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6648814
(24)【登録日】2020年1月20日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】蒸留塔の差圧解消方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/34 20060101AFI20200203BHJP
   C10G 7/08 20060101ALI20200203BHJP
   C10G 7/12 20060101ALI20200203BHJP
   C07C 215/40 20060101ALN20200203BHJP
【FI】
   B01D3/34
   C10G7/08
   C10G7/12
   !C07C215/40
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-245549(P2018-245549)
(22)【出願日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年2月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】辛木 景亮
(72)【発明者】
【氏名】南 宏明
(72)【発明者】
【氏名】江守 建太
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4271033(JP,B2)
【文献】 特表2017−532388(JP,A)
【文献】 特開2000−096067(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/163475(WO,A1)
【文献】 特開平07−180073(JP,A)
【文献】 特開2004−211195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 3/00
C10G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留における塩の再析出に由来する差圧発生を解消する方法であって、該塩が前記蒸留における原油中の不純物由来で生じる塩であり、下記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を塩除去剤として用いる、差圧解消方法。
【化1】
(式〔1〕中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式〔1〕中、R、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜3の炭化水素基であり、nが1〜4の整数である、請求項1に記載の差圧解消方法。
【請求項3】
前記第4級アンモニウム化合物が、β−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイドである、請求項1又は2に記載の差圧解消方法。
【請求項4】
前記蒸留が、石油精製プロセス又は石油化学プロセス用である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の差圧解消方法。
【請求項5】
記蒸留塔と接触し得るプロセス流体に、前記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を含有させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の差圧解消方法。
【請求項6】
蒸留における塩の再析出に由来する差圧発生を解消する差圧解消剤であって、該塩が前記蒸留における原油中の不純物由来で生じる塩であり、下記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を含有する、差圧解消剤。
【化2】
(式〔1〕中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留塔の差圧解消方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プロセス、石油化学プロセス又は石炭化学プロセス等の蒸留設備の蒸留塔では、塩化アンモニウムに代表される塩の析出により、プロセスの流れが妨げられることで圧力損失(以降、「差圧」ということがある。)が発生し、設備使用効率の低下が問題となっている。また、析出した塩が吸湿することにより、設備内で激しい局所腐食が発生する問題がある。
このような中、塩の析出による差圧発生を抑制する方法として、通常、昇華運転法や、塔内への洗浄水適用法が用いられている。
昇華運転法とは、蒸留塔の温度を上昇させることで、析出した塩を昇華させ、蒸留塔頂系へ排出する運転法のことである。昇華運転により、析出した塩は速やかに除去することができる。
洗浄水適用法は、蒸留塔のトップリフラックスラインへ洗浄水を供給することにより、塩の析出により差圧の発生している箇所に洗浄水を供給し、塩を溶解除去する処理法である。洗浄水の供給により、短時間で差圧の解消が可能である。
例えば、非特許文献1には、蒸留塔の温度を短期的に上昇させることで析出した塩を昇華させ、蒸留塔頂系へ排出する昇華運転法が記載されている。
また、例えば、特許文献1には、水溶性塩類を含む炭化水素油の蒸留処理において、蒸留塔に水を導入する炭化水素油の蒸留方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−096067号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】GRACE DAVISION CATALAGRAM,ISSUE,2010年,No.107,p.34−39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、昇華運転法を一時的に適用する場合には、通常運転よりも高い温度域で運転するため、蒸留塔で精製される留分(石油製品基材)の沸点範囲が変わってしまい、製品として規格外となることがある。この場合、歩留まりを改善するために、昇華運転時の留分の多くを再精製することになる。また、恒久的に適用する場合には軽質分の回収率を犠牲にしなければならない。いずれにせよ、結果的に生産効率の低下に繋がってしまう。
また、洗浄水適用法では、塩の溶解に用いたドレン水を適切に排出することができなければ、塩の再析出や腐食生成物により差圧が再び生じてしまう恐れがある。また、腐食の進行により設備自体の寿命を短縮させる恐れがある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、製品の品質や生産効率に悪影響のないように、蒸留設備における原料中の不純物由来で生じる塩によって発生する圧力損失(差圧)を運転中に解消する差圧解消方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、特定の第4級アンモニウム化合物を蒸留設備に供給し、析出した塩に接触させることにより、塩を流動性の高い中和塩とし、系外に容易に排出することで、課題を解決できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
(1)蒸留設備における塩の析出に由来する差圧発生を解消する方法であって、下記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を塩除去剤として用いる、差圧解消方法。
【化1】
(式〔1〕中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
(2)前記一般式〔1〕中、R、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜3の炭化水素基であり、nが1〜4の整数である、上記(1)に記載の差圧解消方法。
(3)前記第4級アンモニウム化合物が、β−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイドである、上記(1)又は(2)に記載の差圧解消方法。
(4)前記蒸留設備が、石油精製プロセス、石油化学プロセス、又は石炭化学プロセス用設備である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の差圧解消方法。
(5)前記蒸留設備内の蒸留塔と接触し得るプロセス流体に、前記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を含有させる、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の差圧解消方法。
(6)蒸留設備における塩の析出に由来する差圧発生を解消する差圧解消剤であって、下記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を含有する、差圧解消剤。
【化2】
(式〔1〕中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製品の品質や生産効率に悪影響のないように、蒸留設備における原料中の不純物由来で生じる塩によって発生する圧力損失(差圧)を運転中に解消する差圧解消方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る蒸留設備の差圧解消方法を説明するためのフロー図である。
図2】本発明の実施例に用いた机上試験装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[差圧解消方法]
本発明の差圧解消方法は、蒸留設備における塩の析出に由来する差圧発生を解消する方法であって、下記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を塩除去剤として用いることを特徴とする。
【化3】
(式〔1〕中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
本発明は、蒸留設備内、例えば、蒸留塔内において、原料中の不純物由来で生じる塩によって発生する圧力損失(本明細書においては、単に「差圧」ということがある。)を、前記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を塩除去剤として用いることにより解消させることができる。該塩除去剤は、高塩基性を有するため、析出した塩と接触させることにより、塩の塩基部分を置換し、中和塩にすることができる。この中和塩は、吸湿性が高く、流動性に優れるため、結果として、プロセスの流れにより塩を蒸留塔の系外へ排出することが可能となる。また、本発明の差圧解消法には、塩の発生のない状態で、定常的に塩除去剤を蒸留塔内に供給することで、蒸留塔の系内で塩が堆積しにくくし、差圧の発生自体を防止する場合も含まれる。
本発明は、精製する留分への影響がなく、また、生産性の低下や設備への影響もない。
【0012】
本発明では、塩除去剤として、下記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を用いる。
【化4】
式〔1〕中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数を表す。
前記一般式〔1〕における炭素数1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等の直鎖状又は分岐状のアルキル基等が挙げられる。
前記第4級アンモニウム化合物の具体例としては、ヒドロキシメチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ヒドロキシメチルトリエチルアンモニウムハイドロオキサイド、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド、(2−ヒドロキシエチル)トリエチルアンモニウムハイドロオキサイド、(3−ヒドロキシプロピル)トリメチルアンモニウムハイドロオキサイド等が挙げられる。その他、1,8‐ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン‐7等の超強塩基化合物を用いてもよい。
これらの第4級アンモニウム化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0013】
、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜3の炭化水素基であることが好ましく、nが1〜4の整数であることが好ましい。
第4級アンモニウム化合物が低分子量であると、水への溶解性に優れ、低添加量でも差圧解消効果を発揮しやすくなる。
第4級アンモニウム化合物としては、R、R及びRがメチル基であり、nが2であるβ−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムハイドロオキサイド(別名:コリン)が特に好ましい。
【0014】
第4級アンモニウム化合物である塩除去剤としてのコリンは、解離度が高く塩基性が強いため、下記の化学反応式に示すように、塩化アンモニウム等の塩分と反応して塩化コリンを生成する。
NHCl+(HC)OH−OH
→NHOH+(HC)OHCl
塩化コリンは、加熱によって分解するが、分解によって主に生成されるのは、トリメチルアミンやN,N−ジメチルアミノエタノールに代表されるアミン類と、塩化メチルであり、塩化水素はほとんど発生しない。
また、塩化コリンは、吸湿性が高く流動性が優れるため、結果として、プロセスの流れにより塩を蒸留塔の系外へ排出することが容易となる。さらに、金属腐食性が他のアミン塩酸塩に比べ極めて低いため、塩の堆積による蒸留設備の装置内の金属腐食や経路阻害等のリスクが少ない。
【0015】
第4級アンモニウム化合物は、通常、取り扱いの観点を含め、水溶液として用いることが好ましく、水溶液中の含有量は特に限定されるものではないが、水溶液中に1質量%以上100質量%未満、好ましくは5質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上30質量%以下である。第4級アンモニウム化合物の含有量が上記の範囲にあると、塩を容易に溶解しやすくでき、析出した塩を中和塩とし短時間で蒸留塔の系外に排出することができる。
【0016】
本発明に用いる塩除去剤として、第4級アンモニウム化合物を単独で用いてもよいし、第4級アンモニウム化合物の他にアンモニア、中和性アミン類等の他の成分等を含有させて用いてもよい。
【0017】
本発明の差圧発生の対象となる塩の種類としては、特に限定されないが、例えば、塩化アンモニウム、水硫化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る蒸留設備(常圧蒸留装置1塔式)の差圧解消方法を説明するためのフロー図である。当該フロー図に従って、本発明の差圧解消方法の一実施形態を説明する。
【0019】
蒸留設備1において、例えば、原料油はライン2を通って、加熱炉(図示せず)で通常350℃以上の温度まで加熱された後、蒸留塔3に連続的に供給され、重質油留分、重質軽油留分、軽油留分、重質ナフサ留分、ナフサ留分及びガス留分等に分留される。
【0020】
例えば、沸点範囲が概ね35〜80℃と低い、蒸留塔3の塔頂部から排出されたナフサは、ライン4を通り、空冷式冷却器5、水冷式冷却器6により凝縮され、ナフサ受槽(オーバーヘッドレシーバの一例)7に集められる。このナフサ受槽7では気液が分離され、ガス留分として燃料ガス又は液化石油ガス等がライン8から取り出され、液体留分としてのナフサ留分がライン9から取り出される。また、ナフサ受槽7の最下部に溜まる水(オーバーヘッドレシーバ水)は、ナフサ受槽7の排水部10から排水される。
同様に、例えば、沸点が概ね350℃以上である重質油留分は塔底部で分留されライン13から取り出される。また、例えば、沸点が概ね240〜350℃である重質軽油留分はライン14から取り出される。さらに、例えば、沸点が概ね170〜250℃である軽油留分はサイドストリッパー12を介しライン15から取り出され、沸点が、例えば、沸点が概ね80〜180℃である重質ナフサ留分はサイドストリッパー12を介しライン16から取り出される。
なお、図1において、加熱器11は、精留の観点から、蒸留塔から分留された留分の一部を塔内へ還流するために用いられる。
【0021】
塩除去剤の添加(注入)は、特に限定されるものではないが、析出した塩を効率良く中和塩にし、蒸留塔の系外に短時間に排出する観点から、常圧蒸留装置のトップリフラックスのライン(塔の最も高い位置に塔頂系より還流するプロセス流体)、トップポンプアラウンドの戻りライン(重質ナフサ,ガソリン留分に相当する留分;循環・冷却されるプロセス流体)、又はトップポンプアラウンドの抜出ライン(重質ナフサ,ガソリン留分に相当する留分;循環・冷却されるプロセス流体)に、添加(注入)することが好ましく、トップリフラックスラインがさらに好ましい。また添加(注入)は、いずれかのラインを組み合わせて、複数ラインにしてもよい。
【0022】
例えば、図1において、塩除去剤は、以下、塩除去剤注入ライン17a、17b、又は17cのいずれかのラインまたは複数のラインに対し添加(注入)することが好ましい。
塩除去剤注入ライン17a:トップリフラックスの流体
塩除去剤注入ライン17b:トップポンプアラウンドの戻りの流体
塩除去剤注入ライン17c:トップポンプアラウンドの抜出の流体
注入ラインでは、プロセス流体への分散性の観点から、クイルノズルを使用することが好ましい。
【0023】
前記原油常圧蒸留法については、1塔式の一例によるものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、1塔式の別の例による原油常圧蒸留法であっても、2塔式等による原油常圧蒸留法であっても、上記と同様の方法によって差圧解消又は差圧発生を防止することが可能である。
【0024】
前記蒸留設備は、特に制限されないが、石油精製プロセス、石油化学プロセス、又は石炭化学プロセス用設備であることが好ましい。
【0025】
前記蒸留設備内の蒸留塔と接触し得るプロセス流体に、前記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を含有させることが好ましい。
プロセス流体に、式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を含有させることで、蒸留設備、例えば、蒸留塔内、付帯の槽、ライン等に流れるプロセス流体由来の塩の発生を効率良く抑制することができ、蒸留塔内における差圧を解消、又は防止できる。
前記プロセス流体としては、特に制限されることはなく、例えば、ナフサ留分〜灯油、軽油相当留分等が挙げられる。
【0026】
[差圧解消剤]
本発明の差圧解消剤は、蒸留設備における塩の析出に由来する差圧発生を解消する差圧解消剤であって、下記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を含有することを特徴とする。
【化5】
(式〔1〕中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
【0027】
前記一般式〔1〕における炭素数1〜4の炭化水素基、それらの具体例、また、R、R及びRの好ましい基、nの好ましい整数、さらに前記第4級アンモニウム化合物の具体例、特に好ましい例は、前述した差圧解消法に用いた塩の除去剤に関する一般式〔1〕において記載したものと同様である。
また、差圧解消剤は、第4級アンモニウム化合物を単独で用いてもよいし、第4級アンモニウム化合物の他にアンモニア、中和性アミン類等の他の成分等を含有させて用いてもよい。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0029】
実施例、比較例における、析出塩の溶解性、再析出、及びトラップへの塩排出に関する評価(排出物の成分中の塩化物の分析含む)を以下の方法で行った。
【0030】
(a)析出塩の溶解性
実施例及び比較例において、差圧解消試験中に、分留管内の壁面及びガラス製不規則充填物表面を目視にて観察し、析出塩が溶解しているかどうか、以下の判定条件により評価した。
〇:析出塩が確認できず、ガラス製不規則充填物の透明度が上昇、又は透明になる。
×:析出塩が確認でき、ガラス製不規則充填物の透明度が低下、又は不透明になる。
【0031】
(b)再析出
試験中に、分留管内の壁面及びガラス製不規則充填物表面を目視にて観察し、溶解した塩が再析出しているかどうか、以下の判定条件により評価した。
〇:溶解した塩の再析出が確認できず、ガラス製不規則充填物の透明度が上昇、又は透明になる。
×:溶解した塩の再析出が確認でき、ガラス製不規則充填物の透明度が低下、又は不透明になる。
【0032】
(c)トラップへの塩排出
試験中に、分留管内の下部トラップ内を目視にて排出物の有無を観察し、かつ排出物中の塩化物の分析を行うことにより、使用した塩が排出しているかどうか、以下の判定条件により評価を行った。
〇:排出物が確認でき、かつ排出物に塩化物が含まれていることを分析により特定できる。
×:排出物が確認できない、又は、排出物が確認できるが、排出物に塩化物が含まれていることを分析により特定できない。
塩化物の分析は以下の方法により行った。
〈塩化物の分析方法〉
キャピラリー電気泳動分析装置(アジレント・テクノロジー社製、Agilent 7100)を用いて、排出物の成分中の塩素イオン量を分析し評価した。
【0033】
<吸湿性試験>
(実験例1)
塩化アンモニウム及び塩化コリンについて、以下の吸湿性試験により吸湿性を調べた。
【0034】
吸湿性試験は、105℃2時間以上で蒸発乾固させた塩化アンモニウム、及び105℃2時間以上で蒸発乾固させた塩化コリンを、それぞれ5gずつシャーレーに入れ、シャーレーを含むそれぞれの質量を測定した。その後、以下の条件で調湿されたデシケータ内に入れ、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間及び24時間経過ごとに、塩化アンモニウム、又は塩化コリンを含む、それぞれのシャーレーの質量を測定することにより、吸水量を算出した。
調湿条件:25℃相対湿度35%;デシケータ内に硝酸亜鉛6水和物飽和水溶液を入れ1
2時間静置
25℃相対湿度60%;デシケータ内に酢酸マグネシウム4水和物飽和水溶液
を入れ12時間静置
各経過時間における試験前後の質量増加率の変化(%/時間)を評価することにより、塩化アンモニウム及び塩化コリンの吸湿性を評価した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から、塩化コリンは塩化アンモニウムに比べ、はるかに高い吸湿能力を有していることがわかる。
【0037】
<実験室レベルでの差圧解消試験>
石油プロセス設備等において、塩の析出が発生する蒸留設備の条件を模擬し、析出塩の溶解性、再析出、及びトラップへの塩排出に関する評価(排出物の成分中の塩化物の分析含む)を行うために、図2に示す机上試験装置を試作した。
本装置では石油精製設備の蒸留塔にて塩の析出が一般的に発生する温度条件(トップポンプアラウンド〜塔頂部の90〜140℃相当領域)を再現した。
図2は、机上試験装置のブロック図である。
机上試験装置21では、下部にヒーター(B)26で温度制御される、塩31を含む塩導入管32、排出された塩化物を受ける下部トラップ33、分留管22内を温度制御するヒーター(C)27及びヒーター(D)28、並びに、ガラス製不規則充填物30を備えた分留管22において、塩導入管32内の塩31が、流量計24を介しヒーター(A)25で所定の温度で加熱されたキャリアガスとしての窒素23により、溶解、蒸発し、分留管22の下部から導入される。一方、分留管22の頂部からタンク29内の塩除去剤29a又は洗浄水29bが、ポンプ34を介し導入される。なお、各ヒーター部の温度は、各温度計35〜38を用いモニターする。
【0038】
(実施例1)
試験条件及び使用した塩、差圧解消剤を以下に示す。
机上試験装置及び充填物材質:耐熱硝子
キャリアガス:窒素
分留管:直径内寸15cm、高さ内寸40cm
キャリアガス温度(ヒーター(A)):設定温度200℃
塩の加熱温度(ヒーター(B)):設定温度180℃
ヒーター(C):設定温度120℃
ヒーター(D):設定温度90℃
使用した塩:塩化アンモニウム(キシダ化学社製、特級:99.5%)5g
差圧解消剤:コリン水溶液(40質量%以上)3g/分
【0039】
前記机上試験装置を用い、以下(a)〜(d)のプロセスを経ることにより、析出塩の溶解性、再析出、及びトラップへの塩排出に関する評価(排出物の成分中の塩化物の分析含む)を行った。結果を表2に示す。
(a)塩を加熱し、加熱された窒素ガスの気流により分留管に供給する。
(b)分留管の頂部と末端部(下部トラップ)を除き、加温する。
加温により、頂部と末端部との間の領域での塩の析出を回避する。
(c)分留管の開放部分の充填物に塩を析出させる。
(d)分留管の頂部から、塩除去剤を添加する。
【0040】
(比較例1)
実施例1のプロセス(d)において、塩除去剤としてコリンを滴下する代わりに純水を添加(2mL/分)した以外は実施例1と同様にして、析出塩の溶解性、再析出、及びトラップへの塩排出に関する評価(排出物の成分中の塩化物の分析含む)を行った。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2から、差圧解消剤として用いたコリンにより、塩の再析出がなく、トラップに蒸留塔内で差圧を生じさせる要因となる塩化物が排出されることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の差圧解消方法によれば、蒸留設備内における原料中の不純物由来で生じる塩によって発生する圧力損失(差圧)を運転中に解消することができ、設備使用効率の向上、また、設備の長寿命化が実現できる。さらに、精製する留分への影響がないことから、歩留まり向上を含め、製造コストの削減が期待できる。さらにまた、本発明は生産や設備への悪影響がないため、定常的に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1:蒸留設
2,4,8,9:ライン
3:蒸留塔
5:空冷式冷却器
6:水冷式冷却器
7:ナフサ受槽
10:排水部
11:加熱器
12:サイドストリッパー
13,14,15,16:ライン
17a,17b,17c:塩除去剤注入ライン
21:机上試験装置
22:分留管
23:窒素
24:流量計
25:ヒーター(A)
26:ヒーター(B)
27:ヒーター(C)
28:ヒーター(D)
29:タンク
29a:塩除去剤
29b:洗浄水
30:ガラス製不規則充填物
31:塩
32:塩導入管
33:下部トラップ
34:真空ポンプ
35,36,37,38:温度計
【要約】
【課題】製品の品質や生産効率に悪影響のないように、蒸留設備における原料中の不純物由来で生じる塩によって発生する圧力損失(差圧)を運転中に解消する差圧解消方法を提供する。
【解決手段】蒸留設備における塩の析出に由来する差圧発生を解消する方法であって、下記一般式〔1〕で表される第4級アンモニウム化合物を塩除去剤として用いる、差圧解消方法。
(式〔1〕中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4の炭化水素基を表し、nは1〜10の整数を表す。)
【選択図】なし
図1
図2