特許第6649741号(P6649741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6649741
(24)【登録日】2020年1月21日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】高平面度構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20200210BHJP
   B32B 3/08 20060101ALI20200210BHJP
   B32B 3/10 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   B32B5/28 Z
   B32B3/08
   B32B3/10
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-208239(P2015-208239)
(22)【出願日】2015年10月22日
(65)【公開番号】特開2017-80899(P2017-80899A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】玉木 裕士
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−248398(JP,A)
【文献】 特開2009−094111(JP,A)
【文献】 特開2005−243809(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/028107(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/133096(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0112287(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29B 11/16
15/08−15/14
C08J 5/04−5/10
5/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の炭素繊維強化プラスチック部材に板状のセラミックス部材を接合し、前記セラミックス部材の表面の平面度が5μm以下とされる平板状の構造体本体を備え、
前記構造体本体の、少なくとも、前記セラミックス部材にて被覆されていない前記炭素繊維強化プラスチック部材の露出した外周辺領域に、アルミニウムを所定形状に成形した、厚みが0.2〜1mmの被覆枠体を接着剤にて接着して設置したことを特徴とする高平面度構造体。
【請求項2】
前記高平面度構造体本体の外周辺領域に一体に接着して設置した被覆枠体が、複数の枠体部材を環状に接合して形成され、
前記各枠体部材は、枠体の長手方向に直交して取った断面にて、厚みが0.2〜1mmとされる薄板状のアルミニウムにて作製される、上片、下片及び前記上片、下片を連結する縦片を有し、「コ」字状とされ、内周側が開口しており、
前記構造体本体の前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面領域と、前記外周辺外側端面領域から前記炭素繊維強化プラスチック部材の中央部領域へと3〜10mmの領域とされる前記構造体本体の上面及び下面の外周辺平面領域と、に適合して、前記内周側が開口した断面コ字状とされる環状の前記被覆枠体を一体に嵌め込み、接着剤にて前記構造体本体の外周辺領域に固着し、前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面部への吸湿を防止すると共に、前記炭素繊維強化プラスチック部材の外周辺部分の応力解放による厚みの増加を防止することを特徴とする請求項1に記載の高平面度構造体。
【請求項3】
前記高平面度構造体本体の外周辺領域に一体に接着して設置した被覆枠体が、複数の枠体部材を環状に接合して形成され、
前記各枠体部材は、枠体の長手方向に直交して取った断面にて、厚みが0.2〜1mmとされる薄板状のアルミニウムにて作製される、下片と、前記下片と連結する垂直片を有し、「L」字状とされ、
前記構造体本体の前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面領域と、前記外周辺外側端面領域から前記炭素繊維強化プラスチック部材の中央部領域へと3〜10mmの領域とされる前記構造体本体の下面の外周辺平面領域と、に適合して、断面L字状とされる前記被覆枠体を一体に嵌め込み、接着剤にて前記構造体本体の外周辺領域に固着し、前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面部への吸湿を防止すると共に、前記炭素繊維強化プラスチック部材の外周辺部分の応力解放による厚みの増加を防止することを特徴とする請求項1に記載の高平面度構造体。
【請求項4】
前記高平面度構造体本体の外周辺領域に一体に接着して設置した被覆枠体が、複数の枠体部材を環状に接合して形成され、
前記各枠体部材は、枠体の長手方向に直交して取った断面にて、厚みが0.2〜1mmとされる薄板状のアルミニウムにて作製される縦片であって「I」字状とされ、
前記構造体本体の前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面領域に適合して、断面I字状とされる垂直片からなる前記被覆枠体を一体に貼り付け、接着剤にて前記構造体本体の外周辺領域に固着し、前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面部への吸湿を防止すると共に、前記炭素繊維強化プラスチック部材の外周辺部分の応力解放による厚みの増加を防止することを特徴とする請求項1に記載の高平面度構造体。
【請求項5】
前記高平面度構造体は、半導体素子製造装置用部材として使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高平面度構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック部材にセラミックス部材を接合し、セラミックス部材の表面を高い平面度に加工した、即ち、高精度の鏡面に形成した高精度鏡面材として、例えば、LSI等の製造装置における縮小投影型露光装置、ウエハ欠陥検査装置におけるシリコンウエハを保持し移動させるステージ、バーミラー、などとして使用される高平面度構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、LSI等の製造装置にて、例えば、縮小投影型露光装置、即ち、ステッパー、又は、ウエハ欠陥検査装置における、シリコンウエハを保持しつつ所望の位置にウエハを移動させるステージは、正確な位置決めするためその構成部材に高い平面度が要求される。また、高精度の位置決めを短時間で行うために剛性(ヤング率)が高く且つ軽量であること、即ち、比剛性(剛性/比重)が高いことが必要とされる。更に、温度変化により寸法変形を起こさないことが必要であり、熱膨張係数の小さいことが要求される。
【0003】
そこで、特許文献1は、熱膨張係数及び密度が小さく、且つ、比剛性が高い材料として炭素繊維強化プラスチック使用し、この炭素繊維強化プラスチック部材にセラミックス部材を接合した構造体であり、未硬化状態の接着力を使用するために、所謂、プリプレグ状態の炭素繊維強化プラスチック部材に対してセラミックス部材を接合し、その後、セラミックス部材の炭素繊維強化プラスチック部材との接合面でない面を研磨加工して、平面度が5μm以下とされた構造体を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5117911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の構造体は、表面の平面度に優れ、熱膨張が小さく、高い比剛性を有し、且つ軽量であるという特性を有している。
【0006】
しかしながら、本発明者は、特許文献1に記載の構造体の平面度の経年変化について3年以上にわたり調査研究を行った結果、平板状とされた構造体の中央部は、比較的経年変化の影響を受けなかったが、周辺部は中央に比べて経年変化の影響が大きく、徐々に厚みが増加し、凹面状に変形すること、及び、平面度が経年変化により劣化することが分かった。
【0007】
特許文献1には、構造体の、特に炭素繊維強化プラスチック部材における吸湿による膨潤変形及び他の部材との接触による発塵防止のために、炭素繊維強化プラスチック部材に対して、セラミックスや金属を溶射する方法、スパッタリングする方法、無電解メッキを施す方法にてコーティングを施すことを記載している。
【0008】
しかしながら、本発明者の研究実験の結果によると、
(1)溶射方法は、構造体における炭素繊維強化プラスチック部材のセラミックス部材が接合されていない極く限定された外周辺領域にセラミックスや金属を精度よく溶射することは困難であり、加工コストを大とし、また、場合によっては、溶射熱により炭素繊維強化プラスチック部材自体を劣化させ強度低下をきたす恐れがある。
(2)スパッタリング方法も又、上記溶射方法と同様の問題を有しており、更には、厚膜ができないといった問題がある。
(3)無電解メッキ方法は、メッキ厚は、5〜100μm程度とされ、100μmを超えるとクラックが発生することが知られている。また、5〜100μm程度の厚さでは、炭素繊維強化プラスチック部材の周辺部における、吸湿による膨潤変形のみならず端部の応力解放などに起因した経年変化による厚みの増加を阻止するには強度的に不十分である。
【0009】
本発明者は、上記従来の問題点(1)〜(3)について多くの研究実験を行った結果、炭素繊維強化プラスチック部材の周辺部分における変形が、材料の吸湿による膨潤変形のみに起因するものでなく、更に、炭素繊維強化プラスチック部材の周辺部分の応力解放などに起因して、中央部分に比べて経年変化の影響が大きく徐々に厚みが増加することが分かった。このような経年変化による変形を防止し、経年変化による平面度の低下を年100nm(0.1μm)以下に抑え、安定した特性の材料を得るためには、炭素繊維強化プラスチック部材の周辺部分を所定の厚さを有し、所定の剛性及び強度を備え、かつ、吸湿性のない金属又はセラミックスにより被覆して押さえ込み、炭素繊維強化プラスチック部材周辺部分の拡がりを制御することが必要であることを見出した。特に、金属としては、軽量性、加工性の点をも考慮すると薄板状のアルミニウム、アルミニウム合金(以下、単に「アルミニウム」という。)が最適であることが分かった。
【0010】
本発明は、斯かる本発明者による新規な知見に基づくものである。
【0011】
本発明の目的は、表面の平面度が5μm以下とされる平面度に優れ、熱膨張が小さく、高い比剛性を有し、且つ軽量であり、特に、経年変化による平面度の低下を著しく抑えることのできる安定した特性を有した高平面度構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は本発明に係る高平面度構造体にて達成される。要約すれば、本発明は、板状の炭素繊維強化プラスチック部材に板状のセラミックス部材を接合し、前記セラミックス部材の表面の平面度が5μm以下とされる平板状の構造体本体を備え、
前記構造体本体の、少なくとも、前記セラミックス部材にて被覆されていない前記炭素繊維強化プラスチック部材の露出した外周辺領域に、アルミニウムを所定形状に成形した、厚みが0.2〜1mmの被覆枠体を接着剤にて接着して設置したことを特徴とする高平面度構造体である。
【0013】
本発明の一実施態様によると、前記高平面度構造体本体の外周辺領域に一体に接着して設置した被覆枠体が、複数の枠体部材を環状に接合して形成され、
前記各枠体部材は、枠体の長手方向に直交して取った断面にて、厚みが0.2〜1mmとされる薄板状のアルミニウムにて作製される、上片、下片及び前記上片、下片を連結する縦片を有し、「コ」字状とされ、内周側が開口しており、
前記構造体本体の前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面領域と、前記外周辺外側端面領域から前記炭素繊維強化プラスチック部材の中央部領域へと3〜10mmの領域とされる前記構造体本体の上面及び下面の外周辺平面領域と、に適合して、前記内周側が開口した断面コ字状とされる環状の前記被覆枠体を一体に嵌め込み、接着剤にて前記構造体本体の外周辺領域に固着し、前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面部への吸湿を防止すると共に、前記炭素繊維強化プラスチック部材の外周辺部分の応力解放による厚みの増加を防止する。
【0014】
本発明の他の実施態様によると、前記高平面度構造体本体の外周辺領域に一体に接着して設置した被覆枠体が、複数の枠体部材を環状に接合して形成され、
前記各枠体部材は、枠体の長手方向に直交して取った断面にて、厚みが0.2〜1mmとされる薄板状のアルミニウムにて作製される、下片と、前記下片と連結する垂直片を有し、「L」字状とされ、
前記構造体本体の前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面領域と、前記外周辺外側端面領域から前記炭素繊維強化プラスチック部材の中央部領域へと3〜10mmの領域とされる前記構造体本体の下面の外周辺平面領域と、に適合して、断面L字状とされる前記被覆枠体を一体に嵌め込み、接着剤にて前記構造体本体の外周辺領域に固着し、前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面部への吸湿を防止すると共に、前記炭素繊維強化プラスチック部材の外周辺部分の応力解放による厚みの増加を防止する。
【0015】
本発明の他の実施態様によると、前記高平面度構造体本体の外周辺領域に一体に接着して設置した被覆枠体が、複数の枠体部材を環状に接合して形成され、
前記各枠体部材は、枠体の長手方向に直交して取った断面にて、厚みが0.2〜1mmとされる薄板状のアルミニウムにて作製される縦片であって「I」字状とされ、
前記構造体本体の前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面領域に適合して、断面I字状とされる垂直片からなる前記被覆枠体を一体に貼り付け、接着剤にて前記構造体本体の外周辺領域に固着し、前記炭素繊維強化プラスチック部材が露出した外周辺外側端面部への吸湿を防止すると共に、前記炭素繊維強化プラスチック部材の外周辺部分の応力解放による厚みの増加を防止する。
本発明の他の実施態様によると、前記高平面度構造体は、半導体素子製造装置用部材として使用する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高平面度構造体によれば、表面の平面度が5μm以下とされる平面度に優れ、熱膨張が小さく、高い比剛性を有し、且つ軽量であり、特に、経年変化による平面度の低下を、年100nm(0.1μm)以下に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(a)は、本発明の高平面度構造体の一実施例を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)の矢印A−Aに取った横断面図である。
図2図2(a)は、本発明の高平面度構造体の構造体本体の一実施例を示す斜視図であり、図2(b)は、図2(a)の矢印A−Aに取った横断面図である。
図3】本発明に使用する被覆枠体の一実施例を示す一部破断して断面を示す斜視図である。
図4図4(a)は、本発明の高平面度構造体の他の実施例を示す斜視図であり、図4(b)は、図4(a)の矢印A−Aに取った横断面図であり、図4(c)は、図4(b)と同様の本発明の高平面度構造体の他の実施例を示す横断面図である。
図5図5(a)は、本発明の高平面度構造体の他の実施例を示す斜視図であり、図5(b)は、図5(a)の矢印A−Aに取った横断面図である。
図6図6(a)は、本発明の高平面度構造体の他の実施例を示す斜視図であり、図6(b)は、図6(a)の矢印A−Aに取った横断面図であり、図6(c)は、図6(b)と同様の本発明の高平面度構造体の他の実施例を示す横断面図である。
図7図7(a)、(b)は、試験体表面の平面度測定方法を説明する試験体の表面及び裏面の平面図である。
図8図8(a)、(b)は、本発明に従った構成の試験体の表面の平面度の結果を示す図である。
図9図9(a)、(b)は、本発明に従った構成の試験体の裏面の平面度の結果を示す図である。
図10図10(a)、(b)は、比較例の試験体の表面の平面度の結果を示す図である。
図11図11(a)、(b)は、比較例の試験体の裏面の平面度の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る高平面度構造体を図面に則して更に詳しく説明する。
【0019】
実施例1
本発明の高平面度構造体は、基本的には、上記特許文献1に記載の構造体を改良したものであり、上記特許文献1に記載の構造体と同様の構成とされ、表面の平面度に優れ、熱膨張が小さく、高い比剛性を有し、且つ軽量であるという特性を有している。更に、本発明の高平面度構造体は、平面度の経年変化を著しく低下させた構造とされる。
【0020】
図1(a)、(b)、及び、図2(a)、(b)に、本発明に係る高平面度構造体1の一実施例を示す。本実施例によると、高平面度構造体1は、板状に成形された炭素繊維強化プラスチック部材2と、板状に成形されたセラミックス部材3とを備え、炭素繊維強化プラスチック部材2の天面(図面上で上面)2aにセラミックス部材3が一体に接合されて形成された構造体本体1Aを有している。通常、セラミックス部材3は未硬化のプリプレグ状態の炭素繊維強化プラスチック部材2に接着され、その後、プリプレグが硬化される。炭素繊維強化プラスチック部材2は、一般に、ヤング率が140〜200GPaであり、密度が1.6〜1.8g/cmとされる。
【0021】
更に、構造体本体1Aは、セラミックス部材3にて被覆されておらず、外気に露出した炭素繊維強化プラスチック部材2の露出領域Sc(Sca、Scb、Scc)に、アルミニウム又はセラミックスを所定形状に成形した被覆枠体10が設置され、炭素繊維強化プラスチック部材2の露出領域Scの全領域、或いは、露出領域Scの一部の領域を被覆している。斯かる本発明の特徴をなす被覆枠体10については、後で更に詳しく説明する。
【0022】
本発明の高平面度構造体1にて、炭素繊維強化プラスチック部材2及びセラミックス部材3は、接合面に平行な方向(図2でX−Y方向)の10〜40℃における熱膨張係数がそれぞれ−1.15×10−6/℃以上、1.15×10−6/℃以下であることが好ましい。
【0023】
なお、炭素繊維強化プラスチック部材2は、等方性でないため、接合面に平行な方向の熱膨張係数を微視的に見た場合、炭素繊維強化プラスチック部材2の厚み方向(図1でZ方向)において均一でないことがあるが、炭素繊維強化プラスチック部材2全体として平行方向の熱膨張係数の平均値が上記値の範囲にあればよい。
【0024】
また、本発明の高平面度構造体1にて、セラミックス部材3は、炭素繊維強化プラスチック部材2と接合された面3bとは反対側の表面(図面上で上面)3aの平面度が5μm以下、好ましくは、1μm以下、更に好ましくは、0.5μm以下とされる。平面度とは、ものの表面の平らさを表す指標である。平面度はJIS B 6191−1999の5.325に基づき3次元座標測定機を用いて測定されることが好ましく、具体的には、JIS B 6191−1999の5.31の定義に基づき、被測定体の基準平面を解析プログラムによって求め、この基準平面に対する偏差を算出し平面度とする。
【0025】
次に、本発明の高平面度構造体1を構成する炭素繊維強化プラスチック部材2及びセラミックス部材3について更に説明する。
【0026】
炭素繊維強化プラスチック部材2は、強化繊維としての炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させて硬化した炭素繊維強化プラスチックシート(CFRP)であり、炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維などを好適に使用し得る。また、炭素繊維は、連続繊維(長繊維)を長手方向に一方向に引き揃えた一方向炭素繊維シートの形態とされるか、或いは、繊維を二方向、三方向、あるいはそれ以上の方向に織り込んだ炭素繊維クロスの形態とし、これら一方向繊維シート状或いはクロス状とされた炭素繊維に樹脂を含浸させたものとすることができる。更には、長繊維を切断した短繊維を樹脂で混練したコンパウンドをシート状に成形したものでもよい。
【0027】
マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニールエステル樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂であるか、又は、メチルメタクリ―レート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等の熱可塑性樹脂とすることができる。中でも、炭素繊維強化プラスチック部材2を成形する際の成形性に優れるため熱硬化性樹脂が好ましく、特に、エポキシ樹脂が好適に使用される。
【0028】
炭素繊維強化プラスチック部材2における炭素繊維含有量は、40〜70体積%とされる。また、炭素繊維強化プラスチック部材2は、本発明の高平面度構造体1の構造体本体1Aにおける構造体基台となるものであり、詳しくは後述するように、使用される高平面度構造体1の用途、並びに、寸法、形状等にもよるが、所定の剛性、強度を提供するために、通常、厚さ(T2)は、5〜10mm程度とされる。また、板の形状は、セラミックス部材3を接合するに十分な寸法形状とされる。限定されるものではないが、本実施例では、後述するセラミックス部材3の形状と同様に四角形とされ、縦、横の各辺の幅(W21、W22)は、各々、50〜1000mmの四角形とされ、セラミックス部材3の形状、寸法に対応して適宜選定される。縦、横の各辺の幅(W21、W22)は同じでも良く、異なっていてもよい。
【0029】
セラミックス部材3は、セラミックスを成形して得られる。セラミックスとは、成形、焼成等の工程を経て得られる非金属性無機材料である。研削、ラッピング等により表面の平面度を向上させることができる。
【0030】
セラミックスとしては、例えば、2MgO・2Al・5SiO等のコーディライト系セラミックス;石英;β―スポジューメン(LiO・Al・4SiO);チタン酸アルミナ(TiO・Al);結晶化ガラス;ペタライト(LiO・Al・8SiO);LiO・Al・2SiO等のユークリプタイト系セラミックス;酸化チタン含有石英ガラス(SiO−TiO)が含まれる。これらは必要に応じて他の元素を含んでいてもよい。本発明では、コーディライト系セラミックスが好ましく、更に比剛性が高く、熱膨張係数が0/℃に近く、密度の低いセラミックスが好ましい。
【0031】
なお、セラミックス部材3の使用量が少ないほど構造体の比剛性は高くなるため、セラミックス部材3は薄い板状であることが好ましい。具体的には、厚み(T3)は3mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.6mm以下であることが更に好ましい。厚み(T3)が厚いと、接合面の残留応力が大きくなり、セラミックス部材3に研削や研磨等の加工を施した際に加工中に残留応力の解放が生じた部材に反りなどの変形が発生する。また、セラミックス部材3が薄いと構造体を軽量化できるという利点がある。また、板の形状は限定されないが、縦、横の各辺の幅(W31、W32)が50〜1000mmの四角形であることが好ましく、通常、各辺は200〜600mmの四角形とされる。縦、横の各辺の幅(W31、W32)は同じでも良く、異なっていてもよい。
【0032】
上述のように、本発明の高平面度構造体1、即ち、構造体本体1Aは、基本的には、上記特許文献1に記載の構造体と同様の構成とされ、表面の平面度に優れ、熱膨張が小さく、高い比剛性を有し、且つ軽量であるという特性を有している。
【0033】
一般に、上記構成の構造体のように異種材料が接合されている構造体は、一般に熱膨張係数の差から残留応力が発生し易い。残留応力が存在すると構造体の常温時の反りが大きくなり寸法精度が損なわれる。更に構造体の反りが大きいと、セラミックス部材3に研削や研磨等の加工を施した場合に、セラミックス部材表面の平面度を高めることができない。これに対して、本発明では、炭素繊維強化プラスチック部材2及びセラミックス部材3のこれらの接合面に平行な方向の熱膨張係数を、それぞれ−1.15×10−6/℃以上、1.15×10−6/℃以下とすることにより、接合後の構造体の反りを小さくする構成とされている。また、前記残留応力を低減させるためには接合する部分のセラミックス部材3の厚み(T3)は厚すぎないことが好ましく、上述したように、具体的には、3mm以下とされる。厚みが厚いと、接合面の残留応力が大きくなり、セラミックス部材に研削や研磨等の加工を施した際に、加工中に残留応力の解放が生じ部材に反りなどの変形が発生するからである。
【0034】
一方、本発明者が上記構成の構造体の平面度の経年変化について3年以上にわたり調査研究を行った結果、平板状とされた構造体の中央部は、比較的経年変化の影響を受けなかったが、周辺部は中央に比べて経年変化の影響が大きく、材料の吸湿や端部の応力解放等で拡がり、徐々に厚みが増加し、凹面状に変形することが分かった。また、平面度が経年変化により劣化することが分かった。
【0035】
また、特許文献1に記載する方法、即ち、構造体の、特に炭素繊維強化プラスチック部材における吸湿による膨潤変形及び他の部材との接触による発塵防止のために炭素繊維強化プラスチック部材に対して、セラミックスや金属を溶射する方法、スパッタリングする方法、無電解メッキを施す方法にてコーティングを施すことでは、経年変化に伴う構造体の変形防止に対しては、十分満足し得る結果を達成し得ないことが分かった。
【0036】
つまり、本発明者は、上記従来の方法の問題点について多くの研究実験を行った結果、上述したように、炭素繊維強化プラスチック部材2の露出領域Scの周辺部分における変形は、材料の吸湿による膨潤変形のみに起因するものではなく、更に、炭素繊維強化プラスチック部材の周辺部分の応力解放などに起因して、中央部分に比べて経年変化の影響が大きく徐々に厚みが増加することが分かった。このような経年変化による変形を防止するためには、炭素繊維強化プラスチック部材2の周辺部分を、所定の厚さを有し、所定の剛性、強度を備え、かつ、吸湿性のない金属又はセラミックスにより被覆して押さえ込むことが必要であることが分かった。特に、金属は、軽量性、加工性の点で、アルミニウムが好適である。
【0037】
本実施例の構造体本体1Aによれば、図1(a)、(b)、及び、図2(a)、(b)にて理解されるように、炭素繊維強化プラスチック部材2の露出領域Scは、炭素繊維強化プラスチック部材2の上面2aのセラミックス部材3で被覆されていない四角形環状の外周辺領域Sca、炭素繊維強化プラスチック部材2の外周面の端面領域Scc、及び、炭素繊維強化プラスチック部材2の下面2bの全領域Scbが外雰囲気に露出している。
【0038】
そこで、本実施例では、炭素繊維強化プラスチック部材2のセラミックス部材3で被覆されていない領域Sc(Sca、Scb、Scc)を剛性が高く、且つ、吸水性の低い材料、最も好ましくは、アルミニウム又はセラミックスにて形成された被覆枠体10で被覆する構成とされる。
【0039】
このとき、本発明者の実験研究の結果によると、特に、炭素繊維強化プラスチック部材2の上面2aの四角形環状の外周辺領域Sca、及び、炭素繊維強化プラスチック部材2の下面2bの領域Scbは、全ての領域において被覆するのが好ましいが、炭素繊維強化プラスチック部材2の形状が、上述したような、縦、横の各辺の幅(W21、W22)が50〜1000mmの四角形とされる場合には、炭素繊維強化プラスチック部材2の外周辺端面2cから所定の距離、即ち、幅Wca、Wcbの領域(図2(b)参照)を被覆することで所期の目的を達成し得ることが分かった。幅Wcaの領域は、外周辺領域Scaの幅と同じであってもよく(Wca=Sca)、異なっていても、即ち、小さくてもよい(Wca<Sca)。幅Wcbの領域は、端面2cからの所定幅の下面領域Scbとされ、下面領域Scb全面である必要はない。具体的には、この所定距離、即ち、幅(Wca、Wcb)は、3mm以上、好ましくは、5mm以上とされる。つまり、被覆枠体10は、炭素繊維強化プラスチック部材2の外周辺領域の外側端面部Scc、及び、前記端面部2cから構造体の内方(中央部領域)へと延在する平面領域Sca、Scbの所定距離(幅Wca、Wcb)の領域を被覆するものとされる。この構成によって、炭素繊維強化プラスチック部材の端部における吸湿を防止し、且つ、端部における応力解放に伴う炭素繊維強化プラスチック部材の拡がりを抑え込むことができる。そのための所定の強度及び剛性を得るには、幅(Wca、Wcb)は、3mm以上が必要とされ、通常、5〜10mm程度とされる。幅Wcaと幅Wcbは、同じであってもよく、異なっていてもよい。幅(Wca、Wcb)を3mm未満とし所定の効果を得るために、後述する被覆枠体10の厚み(t)を増やすことが考えられるが、枠体10の加工が困難となり、好ましくない。また、幅(Wca、Wcb)が10mmを超えるのは、構造体自体の重量が増し、好ましくない。
【0040】
また、アルミニウム又はセラミックスで形成される被覆枠体10の厚さ(t)は、上述したように、炭素繊維強化プラスチック部材2が、厚さ(T2)が3〜10mm、縦、横の各辺の幅(W21、W22)が50〜1000mmの四角形とされる場合には、0.2〜1mmとされる。厚さ(t)が、0.2mm未満では、強度が不足し、端部での応力解放を抑え込むには十分でない。厚み(t)が1mmを超えると重量が増大し、好ましくない。
【0041】
本発明の一実施例によると、被覆枠体10は、図1(a)、(b)、図3に示すように、4つの枠体部材10A、10B、10C、10Dを有している。各枠体部材10A、10B、10C、10Dは、各枠体部材の長手方向に直交して取った断面にて、上片10a、下片10b、及び、上下片10aと10bを連結する縦片10cを有し、断面が略「コ」字状に成形される。上片10aと下片10bの長さW10aとW10bは同じであってもよく、異なる寸法とすることもできる。各枠体部材の上片10a、下片10b、縦片10cの厚さta、tb、tcは、同じであってもよく、必要に応じて異ならせることもできる。また、各枠体部材10A、10B、10C、10Dの両端面は、斜め形状10Sに形成されて互いに密着接合可能とされる。
【0042】
従って、本実施例では、上片10a、下片10bの内側寸法W10a、W10bは、それぞれ、炭素繊維強化プラスチック部材2の外周辺露出領域の幅Wca、Wcbと同じか又は大とされる。従って、枠体10の「コ」字状とされた凹部10vに、炭素繊維強化プラスチック部材2の外周辺露出領域Scが適合して突入され、一体に設置される。これにより、炭素繊維強化プラスチック部材2の露出した外周辺領域Scの端面部の全領域、及び、上下平面部の少なくとも端面部から所定の幅(Wca、Wcb)の領域が被覆枠体10にて被覆される。
【0043】
上述したように、図1(a)、(b)、及び、図3に示す本実施例では、被覆枠体10は、断面「コ」字状の四角形枠体、所謂、額縁形状とされ、この枠体10の「コ」字状内部凹部10vに炭素繊維強化プラスチック部材2の外周辺露出領域Scを嵌め込んだ形状とされる。
【0044】
つまり、被覆枠体10は、炭素繊維強化プラスチック部材2の露出した外周辺領域Scの外側端面部2cである幅W10cの領域Scc、及び、前記端面部2cから構造体の内方(中央部領域)へと延在する所定距離W10a、W10bの平面領域Sca、Scbを被覆する。これにより、炭素繊維強化プラスチック部材2の露出した外周辺領域Scにおける吸湿を防止し、且つ、外周端部領域Scにおける応力解放に伴う炭素繊維強化プラスチック部材の拡がりを抑え込むことができる。
【0045】
図1に示す本実施例の構造体本体1Aでは、板状の四角形とされる炭素繊維強化プラスチック部材2の天面2aに、炭素繊維強化プラスチック部材2より小さい寸法形状の板状の四角形とされるセラミックス部材3が接合されており、炭素繊維強化プラスチック部材2の天面2aには、セラミックス部材3の外側周辺に四角形の環状の帯状とされる外側周辺領域Scaが形成されている。そのため、本実施例では、この外側周辺領域Scaの幅Wcaを3mm以上被覆するようにして、被覆枠体10が設置される。また、上述したように、下面2bは露出領域Scbを全領域被覆する構成としても良いが、少なくとも3mm以上被覆することにより、経年変化を著しく低下させ得ることが分かった。
【0046】
つまり、被覆領域は、好ましくは、露出外周辺領域の全領域とされるが、少なくとも炭素繊維強化プラスチック部材の外周辺領域の端面部近傍を被覆することにより、経年変化を著しく低下させ得ることが分かった。
【0047】
被覆枠体10と炭素繊維強化プラスチック部材3の外周辺露出領域Scとは接着剤20にて一体に接着するのが好ましく、接着剤20としては、炭素繊維強化プラスチック部材2に使用されたマトリクス樹脂と同じものが好適であるが、これに限定されるものではない。本実施例では、炭素繊維強化プラスチック部材2のマトリクス樹脂及び接着剤にエポキシ樹脂を使用して好結果を得ることができた。
【0048】
図1(a)、(b)、及び、図2(a)、(b)に示す上記実施例では、本発明の構造体本体1Aは、板状の四角形とされる炭素繊維強化プラスチック部材2の天面2aに、炭素繊維強化プラスチック部材2より小さい外形寸法の板状の四角形とされるセラミックス部材3が接合されていた。しかし、本発明の高平面度構造体1は、上記構成に限定されるものではなく、以下に説明する種々の変更実施態様が可能である。
【0049】
変更実施例1
本発明の変更実施例1では、即ち、図4(a)に示す変更実施態様では、構造体本体1Aは、板状の四角形とされる炭素繊維強化プラスチック部材2の天面(図面上で上面)2aに、炭素繊維強化プラスチック部材2と同じ寸法形状の板状の四角形とされるセラミックス部材3が接合されている。
【0050】
この場合には、炭素繊維強化プラスチック部材2の天面2aには、セラミックス部材3の外側周辺に四角形の環状の帯状とされる、外気に露出した外側周辺領域Scaが形成されることはない。従って、図4(a)、(b)に示すように、図3に示す断面が「コ」字状の被覆枠体10は、セラミックス部材3の図面上で天面(図面上で上面)3aにおける、端面3cから距離(即ち、幅W10a)の外周辺領域Scaと、炭素繊維強化プラスチック部材2及びセラミックス部材3の外周辺端面2c、3cの領域Sccと、炭素繊維強化プラスチック部材2のセラミックス部材3が接合されていない、図面上で下面2bの領域Scbの幅W10bの領域と、に位置するようにして設置される。
【0051】
図4(a)に示す実施例の構造体本体1Aにあっては、場合によっては、被覆枠体10は、図4(c)に示すように、断面が「L」字形とされ、即ち、図4(b)の「コ」字状枠体においては上片10aが切除され、下片10bと垂直片10cとにて形成される構成とすることができる。従って、この被覆枠体10は、セラミックス部材3の、図面上で天面(図面上で上面)3aには枠体は存在せず、炭素繊維強化プラスチック部材2及びセラミックス部材3の外周辺端面2c、3cの領域Sccと、炭素繊維強化プラスチック部材2の、図面上で下面領域Scbの所定距離領W10bと、に位置するようにして、接着剤20にて一体に設置される。
【0052】
変更実施例2
本発明の変更実施例2では、即ち、図5(a)に示す変更実施態様では、構造体本体1Aは、板状の四角形とされる炭素繊維強化プラスチック部材2の上下両面2a、2bに、炭素繊維強化プラスチック部材2より小さい寸法形状の板状の四角形とされるセラミックス部材3(3A、3B)が接合されている。
【0053】
そこで、本変更実施例2によれば、図5(a)、(b)に記載するように、構造体本体1Aにて、炭素繊維強化プラスチック部材2の、図面上で上面2a及び下面2bの外周辺に、それぞれ、セラミックス部材3A、3Bにて被覆されていない露出領域Scとして、四角形環状の外周辺領域Sca、Scb、及び、外周辺端面領域Sccが形成されている。
【0054】
そこで、上記実施例において説明した図1(a)、(b)、図3に示す、断面が「コ」字状に成形された一体の成形体とされる被覆枠体10を使用し、該枠体の「コ」字状とされた凹部10vに、図5(b)に示すように、炭素繊維強化プラスチック部材2のセラミックス部材3A、3Bにて被覆されていない外周辺領域Sca、Scbの幅W10a、W10bの領域が適合して突入され、一体に設置される。これにより、炭素繊維強化プラスチック部材2の露出した外周辺領域の端面部の領域Scc、及び、上下平面部2a、2bの露出した四角形環状の外周辺領域Sca、Scbの少なくとも端面2cから所定の幅(W10a、W10b)の領域、好ましくは、W10a、W10bが3mm以上とされる領域を被覆する。被覆領域幅W10a、W10bは、外周辺領域Sca、Scbと同じであってもよく、小さくてもよい。
【0055】
被覆枠体10と炭素繊維強化プラスチック部材2の外周辺領域とは、上記各実施例と同様に、接着剤20にて一体に接着する。接着剤としては、炭素繊維強化プラスチック部材2に使用されたマトリクス樹脂と同じものが好適であるが、これに限定されるものではない。
【0056】
変更実施例3
本発明の他の変更実施例3では、図6示すように、板状の四角形とされる炭素繊維強化プラスチック部材2の上下両面2a、2bに、炭素繊維強化プラスチック部材2と同じ外形寸法とされる板状の四角形のセラミックス部材3が接合されている。
【0057】
この場合には、変更実施例2と異なり、炭素繊維強化プラスチック部材2の、図面上で上面2a及び下面2bには、セラミックス部材3の外側周辺に四角形の環状の帯状とされる、露出した外側周辺領域Sca、Scbが形成されることはない。従って、図6(a)、(b)に示すように、図3に示す断面が「コ」字状とされる被覆枠体10は、セラミックス部材3Aの、端面3cからの距離(即ち、幅W10a)の外周辺領域Scaと、炭素繊維強化プラスチック部材2及びセラミックス部材3の外周辺領域端面2c、3cの領域Sccと、セラミックス部材3Bの、端面3cからの距離(即ち、幅W10b)の外周辺領域Scbと、に位置するようにして設置される。
【0058】
図6(a)に示す実施例の構造体本体1Aにあっては、場合によっては、被覆枠体10は、図6(c)に示すように、断面が「I」字形とされ、即ち、図6(b)の「コ」字状枠体においては上片10a及び下片10bが切除された垂直片10cのみにて形成される構成とすることができる。従って、この被覆枠体10は、セラミックス部材3A、3Bの、図面上で上面及び下面には枠体は存在せず、炭素繊維強化プラスチック部材2及びセラミックス部材3の外周辺領域端面2c、3cの領域Sccに位置するようにして接着剤20にて一体に設置される。
【0059】
上記実施例1、変更実施例1〜3を参照して説明した本発明の特徴ある構成を有することにより、本発明の高平面度構造体は、時間の経過と共に発生する、炭素繊維強化プラスチック部材の露出した外周辺領域における炭素繊維強化プラスチック部材の特に、樹脂における吸湿、更には、端部の応力解放等に起因した変形の原因を被覆枠体の剛性と強度により強制的に押え付け、炭素繊維強化プラスチック部材の端部の拡がりを制御し、端部の厚みの増加により、製作当初は平面状だった製品が時間経過により周辺部の厚みが増加し、その結果凹面状の製品に変化するのを著しく低下させることができ、特に、平面度の経年変化による低下を年100nm(0.1μm)以下に抑えることができる。
【0060】
従って、上記特徴ある構成を有した本発明の高平面度構造体は、半導体素子製造装置用部材として好適である。中でも、ステッパーや検査装置において、精密位置決め用に用いるステージ部材として好適である。あるいは、位置計測用ミラー、ウエハチャック、位置調整部材、精密測定治具に用いることもできる。
【0061】
次に、本発明の高平面度構造体の作用効果を立証するために行った実験例及び比較例について説明する。
【0062】
(試験体)
本実験例及び比較例にて使用した試験体の構造体本体1Aにおける炭素繊維強化プラスチック部材2及びセラミックス部材3は、次の構成とした。
【0063】
つまり、炭素繊維強化プラスチック部材2は、ピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー株式会社製:商品名「XN80」)を一方向に配列して作製した炭素繊維シートに、エポキシ樹脂を含浸させて(炭素繊維含有量43体積%)、厚さ0.2〜0.22mmのプリプレグを作製し、このプリプレグを積層して作製した。
【0064】
セラミックス部材3は、3mm厚のコーディライト系セラミックス(新日鉄住金マテリアルズ株式会社製:商品名「NEXCERA N113B」)を使用して、上記未硬化のプリプレグ積層体に接合した。プリプレグ硬化後の炭素繊維強化プラスチック部材2の厚さ(T2)は8mm、縦、横幅(W21、W22)は100mmの正方形とされた。接合されたセラミックス部材3は、その後、厚さ(T3)が2mm、平面度が23℃にて0.3μmとなるように平面研削にて仕上げた。
【0065】
なお、本発明の構成とされる実験例の試験体では、図5(a)、(b)に示す上記変更実施例2と同様の形状の構造体本体1Aを作製するべく、セラミックス部材3は、炭素繊維強化プラスチック部材2の両面に接合され、縦、横幅(W31、W32)が90mmの正方形とされた。
【0066】
本実験で使用した上記構成の構造体本体1Aの物性値は、熱膨張係数は、CTE=5.7×10−7/℃、剛性(ヤング率)は、Ex=196GPa、Ey=185GPaであった。
【0067】
また、本実験例としては、上記構造体本体1Aの外周面露出領域Sc(Sca、Scb、Scc)に、図3図5(a)、(b)に示すように、厚さ(t=ta、tb、tc)が0.5mmの断面「コ」字状のアルミニウム製の額縁形状とされる四角形の被覆枠体10を適合した試験体を使用した。枠体10は、構造体本体1Aの外周面露出領域Scに接着剤20にて接着され、接着剤としては、エポキシ樹脂を使用し、接着剤厚は、0.1〜0.3mmであった。なお、被覆枠体10の上片10a、下片10bの長さ、つまり、内側寸法W10a、W10bは、3.5mmとし、また、端面10cの内側寸法W10は、略8mm(8mm+接着剤厚さ)とした。
【0068】
一方、比較例としては、被覆枠体10を適合することなく上記構造体本体1Aを試験体とした。
【0069】
(平面度測定方法)
平面度は、セラミックス部材3の表面の凹凸をレーザー干渉式平面度測定器(ZYGO社製「GPI−XPO」)で測定した。光学系は横型なので、試験体は、光源に対して立てた状態で設置した。今回の実験では、図7(a)、(b)に示すように、ラベルの付いた面を表面、反対を裏面とした。試験体は正方形なので、ラベルが付いた辺が下に来る状態で測定した。
【0070】
プロファイルは対角線上で測定したA方向、B方向とした。測定範囲は、各々90*√2≒127mmの長さである。この範囲を試験体の中央点を中心に(−60、60)の範囲と見做して、中央点の高さの値を0として整理した。第1回目の測定結果を基準に対角線の中央値を定め、それ以降の測定値は、即ち、本実験では第1回目の測定の後3ヶ月後の第2回目の測定値は、第1回目のプロファイルを基準に極大、極小等を一致させて偏差を見た。平面度の経年変化はプロファイルの変化で判断した。
【0071】
従って、
(1)第1回目の測定値の位置情報の最小値Xminと最大値Xmaxより、第1回目の測定値の各位置情報は、
X=X0−(Xmin+Xmax)/2
X=0の点の高さ情報Yminより
Y=Y0−Ymin
である。
(2)第1回目以降の第2回目に測定されたデータXa、Yaは、第1回目のプロファイルと比較して、2本の曲線を特徴点(何処かの極大、極小が第1回目と一致した点)で一致させ、それをマスターカーブとして上記(1)と同様の操作をした。特徴点の座標を各々(X(第1回目)、Y(第1回目))、(Xa1、Ya1)とすると、
△X=Xa1−X(第1回目)
△Y=Ya1−Y(第1回目)
を用いて、マスターカーブ(Xm、Ym)は、
Xm=Xa−△X
Ym=Ya−△Y
となる。この曲線を上記(1)と同様の操作で処理する。
【0072】
(結果)
本実験例における本発明に従った構成の試験体の平面度の結果を図8(a)、(b)、図9(a)、(b)に示す。縦軸は基準面(位置情報の中央値を0とする。)からの高さ(nm)、横軸は位置情報(mm)である。
【0073】
第1回目と第2回目のプロファイルは非常に類似であることから、3ヶ月間の経時変化は小さく、中央点から±40mmの範囲では、同一位置情報での高さの変化は絶対値で500nm(0.5μm)以下であった。1年経過後においてもそれ以上の目立った経年変化は見られず、平面度の低下を100nm(0.1μm)以下に抑えることができた。
【0074】
これに対して、比較例における試験体の平面度の結果を図10(a)、(b)、図11(a)、(b)に示す。比較例に関しては、第1回目の測定から3ヵ月後の第2回目、及び、6ヶ月後の第3回目の測定結果をも示す。3ヶ月後の第2回目の測定結果は、3ヶ月間にてプロファイルは端部で大きく変化しており、プロファイル自体の形状も類似とは判断しがたい。3ヵ月後の第2回目の測定結果では、600nm以上、6ヶ月後の第3回目の測定結果では、800nm以上の変化が観察される。比較例の試験体の経年変化が小さい範囲(3ヶ月間で50nm以下の変化の範囲)は中央点から±10mm程度であり、1年経過後における平面度の経年変化を100nm(0.1μm)以下に抑えることはできなかった。
【0075】
(結論)
上記実験結果から分かるように、比較例の試験体に対して被覆枠体を設けた本実験例の試験体は、平面度の経年変化を防止する上で有効であることが分かった。
【符号の説明】
【0076】
1 高平面度構造体
1A 構造体本体
2 炭素繊維強化プラスチック部材
3 セラミックス部材
10 被覆枠体
10A〜10D 枠体部材
20 接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11