【実施例】
【0062】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0063】
実施例1.大脳皮質神経細胞のアポトーシス抑制作用
メチルコバラミンを用いて、大脳皮質神経細胞のアポトーシス抑制作用をTUNELアッセイで調べた。具体的には以下のとおりである。
【0064】
<実施例1-1.大脳皮質神経の調製>
大脳皮質神経は定法に従って採取培養した。Sprague Dawley(SD)ラット(妊娠18日目)の胎仔から大脳皮質を切離し、10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有し、氷冷したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に回収した。軟膜及び血管を除去し、DMEM(FBS未添加、1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有)へ移して剪刀で1 mm大に細断した。細胞混合液にパパイン(最終濃度2 mg/ml)を添加し、37℃で30分間反応させた。Dnase I(70 U/ml)を添加し30秒間反応させたのち、10% FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有したDMEMを添加し反応を停止させた。細胞混合液を800rpmで遠心分離したのち、10% FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有したDMEMで再懸濁し、Poly-L lysine(PLL)でコーティングしたdishに播種した。細胞播種4時間後に、培地をNeurobasal 培地(10% B27サプリメント、1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有)に交換した。
【0065】
<実施例1-2.TUNELアッセイ>
PLLコーティングした8 well chamber slideで培養した大脳皮質神経(実施例1-1)に20mMのグルタミン酸、10μMのメチルコバラミン(MeCbl)を添加し、18時間後にPromega deadend fluorometric TUNEL systemでアポトーシス細胞割合を評価した。4%パラホルムアルデヒド(PFA)で4℃25分間固定した。0.2% TritonX-100で5分間透過処理を行った後、incubation bufferを添加して37℃遮光下に60分間置き、標識を行った。核はDAPIで標識した。全細胞数、TUNEL陽性細胞数を計測した。
【0066】
<実施例1-3.結果>
結果を
図1に示す。また、
図1の数値を表1に表す。TUNELアッセイにおいて、メチルコバラミン単独添加ではアポトーシス細胞割合(%)はコントロールと同様であった。グルタミン酸単独添加ではアポトーシス細胞割合の有意な増加が見られたが、グルタミン酸にメチルコバラミンを併用することにより、コントロールレベルまで有意にアポトーシス細胞割合が減少した。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例2.大脳皮質神経細胞のネクローシス抑制作用
メチルコバラミンを用いて、大脳皮質神経細胞のネクローシス抑制作用をLDHアッセイで調べた。具体的には以下のとおりである。
【0069】
<実施例2-1.LDHアッセイ>
PLLコーティングした6 well chamber slideで培養した大脳皮質神経(実施例1-1)に、酸素−グルコース欠乏(OGD)負荷を行う30分前に10μMのメチルコバラミンを添加した。基準となる高コントロールにはN−メチル−Dアスパラギン酸(NMDA)を添加した。培地をearle’s balanced salt solution(EBSS)に交換し、酸素濃度1%の環境下に3時間のOGD負荷を行った。通常の培地、酸素濃度環境下に戻し24時間後に上清を採取、cytotoxicity detection kit plus(SIGMA)を用いてLDH活性を測定した。コントロール群、メチルコバラミン添加群のLDH活性度は、高コントロールのLDH活性に対する割合(%)で算出した。
【0070】
<実施例2-2.結果>
結果を
図2に示す。また、
図2の数値を表2に表す。OGD負荷によるLDHアッセイにおいて、ネクローシスの指標となるLDH活性の高コントロールに対しての割合が、メチルコバラミン添加群でコントロール群に比し有意な低下が見られた。
【0071】
【表2】
【0072】
実施例3.大脳皮質神経細胞の軸索伸展促進作用
メチルコバラミンを用いて、大脳皮質神経細胞の軸索伸展促進作用を神経突起伸展アッセイで調べた。具体的には以下のとおりである。
【0073】
<実施例3-1.神経突起伸展アッセイ>
大脳皮質神経(実施例1-1)を播種して24時間後に各種薬剤を添加した。添加薬剤濃度はメチルコバラミン(1nM、10nM、100nM、1μM、10μM、100μM)とした。細胞播種72時間後に、抗TuJ1抗体で免疫蛍光染色し、軸索長(the longest neurite length per neuron)を計測した。ただし、別の神経と接していない細胞のみ計測し、各評価において少なくとも30個以上の神経軸索を測定し、その平均値を算出し計測値とした。
【0074】
<実施例3-2.結果>
結果を
図3に示す。また、
図3の数値を表3に表す。神経突起伸展アッセイにおいて、10μM濃度をピークに濃度依存性に軸索伸展が促進される傾向を認め、1μM及び10μMにおいては薬剤未添加のコントロール群と比較し、有意差を持って軸索伸展の促進を認めた。
【0075】
【表3】
【0076】
実施例4.脳梗塞体積の縮小作用
メチルコバラミンを用いて、脳梗塞体積の縮小作用をTTC(2,3,5-Triphenyltetrazolium chloride)染色法で調べた。具体的には以下のとおりである。
【0077】
<実施例4-1.一時的中大脳動脈閉塞(tMCAO)モデルの作製、及び薬剤投与>
8-9週齢の雄のC57BL/6Jマウス(24g前後)を使用した。右頭蓋骨上にレーザードプラ血流計用のプローブを装着し、中大脳動脈の血流をモニタリングできるようにした。右頚部を展開し、外頚動脈を結紮後、総頸動脈に切開を加えナイロン糸を挿入、血流モニタを見ながら先端を進めた。先端が中大脳動脈分岐部まで進み血流が低下したのを確認し、その状態で1時間、直腸温37℃で待機した後、ナイロン糸を抜去し総頚動脈を結紮した。メチルコバラミンは持続投与のため、浸透圧ミニポンプを背部皮下に留置し1mg/kg/dayの用量でモデル完成後に投与した。未治療群では同様の方法で生食を投与した。術後は麻酔から覚醒するまで直腸温37℃で維持した。
【0078】
<実施例4-2.TTC染色法>
術後2日のマウス(実施例4-1)をサクリファイスし、大脳を摘出した。1mm毎に冠状断でスライスし、2% TTC溶液に30分漬けた。実体顕微鏡で撮影した後、それぞれのスライスの梗塞面積を算出、全大脳スライスの梗塞面積を加える事で梗塞体積を算出した。1つのスライスでの梗塞面積は、(健側半球面積−患側健常部面積)で計算した。
【0079】
<実施例4-3.結果>
結果を
図4に示す。また、
図4の数値を表4に表す。マウスに対するtMCAO手術後2日に、TTC染色で脳梗塞体積を評価した。メチルコバラミン投与群ではコントロール群に比し、1/2程度の有意な梗塞体積の縮小が見られた。
【0080】
【表4】
【0081】
実施例5.M2マクロファージ誘導促進作用及びM1マクロファージ誘導抑制作用
メチルコバラミンを用いて、M2マクロファージ誘導促進作用及びM1マクロファージ誘導抑制作用を、ウエスタンブロット法及び免疫組織学的評価法により調べた。具体的には以下のとおりである。
【0082】
<実施例5-1.マクロファージ細胞株の準備>
マウス由来マクロファージ細胞株J774A.1(JCRB9108)を、大阪府のJCRB細胞バンク(培養資源研究室)より購入した。培養は10% FBS 及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有したDMEMで行った。
【0083】
<実施例5-2.ウエスタンブロット法>
J774A.1細胞(実施例5-1)を直径6cmのディッシュに播種し、4日後にprotease inhibitor cocktailを溶解したcell lysis bufferを用いてタンパク質を収集した。BCAアッセイでタンパク質濃度を測定した後、サンプル50μgずつをSDS-PAGEで電気泳動し、polyvinylidene difluoride membraneに転写した。Blocking bufferで1時間のblockingを行った後、一次抗体と4℃ over nightで反応させた。二次抗体は室温で1時間反応させ、ECLウェスタンブロッティング検出システムで検出した。M1マーカーであるiNOS及びIL-1βの検出時は、タンパク質収集の24時間前にリポ多糖(LPS)(100ng/ml)及びメチルコバラミンを添加した。M2マーカーであるArg1及びCD206の検出時は、タンパク質収集の72時間前にIL-4(20ng/ml)及びメチルコバラミンを添加した。
【0084】
一次抗体は抗IL-1βウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz)、抗iNOSウサギモノクローナル抗体(Abcam)、抗Arg1ウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz)、抗CD206ウサギモノクローナル抗体(Abcam)、二次抗体はanti-rabbit IgG horseradish peroxidase linked whole antibody from donkey(GE Healthcare Life Sciences)を使用した。
【0085】
<実施例5-3.免疫組織学的評価法>
J774A.1細胞(実施例5-1)を直径6cmのディッシュに播種し、4日後に4% PFAで20分間固定した。30分間ブロッキングし、一次抗体は4℃ over nightで反応させた。二次抗体は室温で1時間反応させ、核をDAPIで標識した。M1マーカーであるiNOSの検出時は、細胞固定の24時間前にLPS(100ng/ml)及びメチルコバラミンを添加した。M2マーカーであるArg1の検出時は、細胞固定の72時間前にIL-4(20ng/ml)及びメチルコバラミンを添加した。
【0086】
一次抗体は抗iNOSウサギモノクローナル抗体(Abcam)、抗Arg1ウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz)、二次抗体はAlexa 488標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Lifetechnologies)もしくはAlexa 568標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Lifetechnologies)を使用した。
【0087】
<実施例5-4.結果>
ウエスタンブロット法の結果を
図5及び6に示す。また、
図5の数値を表5に、
図6の数値を表6に表す。M1マーカーではLPS単独添加に比し、IL-1βは100nM、iNOSは100nMから10μMで有意なタンパク質量の減少が見られた。M2マーカーではIL-4単独添加に比し、Arg1は100nMと1μMで有意なタンパク質量の増加が見られた。CD206では100nMから1μMをピークとした傾向が見られた。
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
免疫組織学的評価法の結果を
図7に示す。また、
図7の数値を表7に表す。M1マーカーであるiNOSではLPS単独添加に比し、メチルコバラミンを10nMから100μMを加えたもので、iNOS陽性細胞率が有意に減少した。またM2マーカーであるArg1では、IL-4単独添加に比し、メチルコバラミン10nMから1μMを加えたもので、Arg1陽性細胞率が有意に増加した。
【0091】
前述のウエスタンブロットと同様に、免疫蛍光染色においても100nM付近をピークにM2方向へのシフトが見られた。
【0092】
【表7】
【0093】
実施例6.マクロファージ誘導作用のメカニズムの解析
メチルコバラミンによるマクロファージ誘導作用(実施例5)のメカニズムを解析した。具体的には、IL-4、メチルコバラミン(100nM及び1mM)を添加後30分のAkt-mTOR経路(M2遺伝子を誘導する主なシグナル経路の一つ)におけるAkt、4EBP1及びS6Kの活性化をウエスタンブロットで評価した。該経路においては、上流からのシグナルによって、Aktのリン酸化が起こり、さらに下流でmTORC1を介して、4EBP1のリン酸化及びS6Kのリン酸化が起こる。S6Kのリン酸化はシグナル上流にネガティブフィードバック作用をもたらす。ウエスタンブロットは、タンパク質収集の30分前にIL-4(20ng/ml)、メチルコバラミン、RAD001(200nM)を添加し、検出する一次抗体を変える以外は、実施例5-2と同様にして行った。
【0094】
結果を
図8−1、
図8−2、及び
図8−3に示す。また、
図8−1、
図8−2、及び
図8−3の数値を表8に表す。IL-4添加によりAkt、下流の4EBP1、S6Kとも活性化を認めた。IL-4とメチルコバラミン100nMを併用すると、IL-4単独添加の場合よりそれぞれの活性化が増強したが、メチルコバラミンを1mMにすると、4EBP1とS6Kの活性化に反し、上流のAktの活性は低下した。これに更にmTORの抑制剤であるRAD001を添加すると、上流のAktの活性はレスキューされ、下流の4EBP1及びS6K活性の抑制が見られた。以上より、高濃度メチルコバラミン添加では下流からのネガティブフィードバック機構により、M2遺伝子誘導に向かう上流Akt活性が抑制される機構が示唆された。
【0095】
【表8】
【0096】
実施例7.坐骨神経損傷後のマクロファージ動態の解析
坐骨神経損傷後のマクロファージ動態にメチルコバラミンが与える影響を免疫組織学的評価法で解析した。具体的には、坐骨神経損傷後1、3、7、14日での近位2.5mm、損傷部、遠位2.5mm、5.0mm、7.5mmの神経横断切片で、蛍光免疫染色でマクロファージを評価した。なお、近位は軸索上の損傷部から細胞体側を意味し、遠位は軸索上の損傷部から軸索末端側を意味し、それぞれの距離は損傷部からの距離を示す(実施例8においても同様である)。マクロファージはCD68、M1マーカーとしてiNOS、M2マーカーとしてCD206で標識した。M1マクロファージ割合(%)=M1マーカー陽性マクロファージ数(個/mm
2 )/マクロファージ数(個/mm
2)×100で算出した。より具体的には以下のとおりである。
【0097】
<実施例7-1.外科的処置(坐骨神経圧挫損傷モデルラット)>
6週齢の雄のWistarラット(200 g前後)を使用した。左坐骨神経を展開し、坐骨神経の近位側に鑷子で圧挫損傷を加えた。圧挫時間は10秒間、圧挫回数は3回とし、圧挫操作の間隔は10秒間とした。筋膜及び皮膚を3-0 nylonで縫合した。坐骨神経展開のみを行った非損傷群と未治療群、メチルコバラミン投与群を比較検討した。メチルコバラミンは持続投与のため、浸透圧ミニポンプを背部皮下に留置し1mg/kg/dayの用量で投与した。未治療群では同様の方法で生食を投与した。
【0098】
<実施例7-2.Morphological and histological analysis>
術後1日、3日、7日、14日経過したラットを麻酔薬で鎮静をかけ、左坐骨神経を採取して4% PFAで7日間、20%スクロースで24時間固定後に凍結包埋した。包埋した組織を神経短軸方向に5μm厚でスライスしglass slideに置いた。スライス部位として損傷の近位2.5mm、損傷部位、遠位2.5mm、遠位5.0mm、遠位7.5mmの5箇所で行った。1時間乾燥させて、95%メタノールで30分間固定した。ブロッキング後に1次抗体を4℃ over nightで反応させた。二次抗体は室温で1時間反応させ、核をDAPIで標識した。
【0099】
一次抗体は抗CD68マウスモノクローナル抗体(Abcam)、抗iNOSウサギモノクローナル抗体(Abcam)、抗CD206ウサギモノクローナル抗体(Abcam)、抗neurofilament 200(NF200)ウサギポリクローナル抗体(SIGMA)及び抗myelin Basic Protein(MBP)マウスモノクローナル抗体(CALBIOCHEM)、二次抗体はAlexa 488標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Lifetechnologies)、Alexa 488標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Lifetechnologies)、Alexa 568標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Lifetechnologies)及びAlexa 568標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Lifetechnologies)を使用した。
【0100】
<実施例7-3.結果>
結果を
図9及び10に示す。また、
図9の数値を表9−1、表9−2、及び表9−3に、
図10の数値を表10−1、表10−2、及び表10−3に表す。メチルコバラミン投与群は未治療群と比較して、損傷部においては術後3、7、14日で集積マクロファージ数の有意な減少を認めた。遠位では損傷部に遅れるようにマクロファージ数が増加していったが、術後14日で有意差を認めた。
【0101】
M1マクロファージ数は全評価日でメチルコバラミン投与群で有意な減少を認めた。遠位は術後7、14日で有意差を認めた。M1マクロファージ割合も同様の傾向が見られた。
【0102】
M2マクロファージ数は損傷部においては、術後1、7、14日のメチルコバラミン投与群で有意な増加を認め、遠位5mmでは術後7日、遠位7.5mmでは術後7及び14日で有意差を認めた。M2マクロファージ割合も同様の傾向が見られた。
【0103】
【表9-1】
【0104】
【表9-2】
【0105】
【表9-3】
【0106】
【表10-1】
【0107】
【表10-2】
【0108】
【表10-3】
【0109】
実施例8.坐骨神経損傷後の神経再生動態の解析
坐骨神経損傷後の神経再生動態にメチルコバラミンが与える影響を免疫組織学的評価法で解析した。具体的には、坐骨神経損傷2週後の損傷坐骨神経の横断切片を評価した。評価部位はマクロファージ評価と同様に、近位2.5mm、損傷部、遠位2.5mm、5.0mm、7.5mmとした。再生軸索はNF200で標識、髄鞘をMBPで標識した。再生軸索の髄鞘化率を計算するため、髄鞘化率(%)=髄鞘化軸索数(個/mm
2)/軸索数(個/mm
2)×100として算出した。より具体的には、実施例7と同様の方法で行った。
【0110】
結果を
図11に示す。また、
図11の数値を表11−1、表11−2、及び表11−3に表す。損傷部では軸索数及び髄鞘化軸索数においてメチルコバラミン投与群で有意な改善を認め、軸索数では遠位5.0mm及び7.5mmで、髄鞘化軸索数では遠位2.5mm、5.0mm及び7.5mmで、髄鞘化率では遠位5.0mm及び7.5mmで有意差が見られた。この結果と実施例7の結果より、メチルコバラミンが実際の神経再生過程においてM1マクロファージを減少させ、M2マクロファージを増加させて、抗炎症性に働くことによって、神経再生を促進していることが示唆された。
【0111】
【表11-1】
【0112】
【表11-2】
【0113】
【表11-3】
【0114】
実施例9.脊髄損傷の治療作用
メチルコバラミンを用いて、脊髄損傷の治療作用をBBB(Basso-Beattie-Bresnahan)スコア、及びThermal algesimetry testにより調べた。具体的には以下のとおりである。
【0115】
<実施例9-1.ラット脊髄損傷モデル(Lateral Hemisection model)の作製、及び薬剤投与>
6週齢、メスのWistarラットを使用した。ラットは日本チャールスリバー(横浜市、日本)から購入した。麻酔方法は3種混合麻酔薬を生理食塩水で1:10に希釈して腹腔内注射にて投与した。1回当たりの麻酔投与量はミダゾラム0.2mg/kg、メデトミジン0.015mg/kg、ブトルファノール0.25mg/kgとした。手術台に腹臥位に置き、背部正中を展開した。T10椎弓を切除し脊髄後面を露出させ、スピッツメスで左脊髄を半切した。皮膚を4-0ナイロン糸で縫合し手術を終了した。メチルコバラミン投与群、未治療群およびSham群の3群を比較した。メチルコバラミン投与群、未治療群は術直後に左背部皮下にそれぞれメチルコバラミン(1mg/kg/day)、生理食塩水を充填した浸透圧ミニポンプを留置した。Sham群はTh10椎弓の切除のみを行った。
【0116】
<実施例9-2.BBBスコアの測定>
ラットを個別にケージ内に入れ自由に歩かせ、5分間観察した。定法に従って、左下肢の機能で0点(運動なし)から21点(通常の運動)の間でスコアリングを行った。評価は術前、術後1, 7, 14, 21, 28日に行った。
【0117】
<実施例9-3.Thermal algesimetry test>
ラットを個別に専用のケージ内に入れ、右足底に赤外線熱刺激を与え、熱さで後肢を引くまでの時間を測定した。皮膚へのダメージを避けるため、刺激時間は最大15秒とした。評価は術前、術後7, 14, 21, 28日に行った。
【0118】
<実施例9-4.結果>
BBBスコアを
図12に示す。また、
図12の数値を表12に表す。メチルコバラミン投与群において未治療群に比し、術後14, 21, 28日目に左下肢運動機能の有意な改善を認めた。
【0119】
【表12】
【0120】
Thermal algesimetry testの結果を
図13に示す。また、
図13の数値を表13に表す。メチルコバラミン投与群で術後21, 28日目に右下肢知覚過敏の有意な改善を認めた。
【0121】
【表13】
【0122】
実施例10.M2ミクログリア誘導促進作用及びM1ミクログリア誘導抑制作用
メチルコバラミンを用いて、M2ミクログリア誘導促進作用及びM1ミクログリア誘導抑制作用を、ウエスタンブロット法により調べた。具体的には以下のとおりである。
【0123】
<実施例10-1.ウエスタンブロット法>
ミクログリア細胞株(6-3細胞)に対し、LPS(100ng/ml)、抗炎症性サイトカインとしてIL-4(20ng/ml)を添加し、そこへ各種濃度(1nM〜1mM)に調整したメチルコバラミンを加え、それぞれ添加後1日、3日でタンパク質を回収した。電気泳動、メンブレンへの転写を行い、ブロッキング後、それぞれM1マーカー(iNOS, IL-1β)、M2マーカー(Arg1, CD206)に対する1次抗体を4℃ over nightで反応させた。二次抗体は室温で1時間反応させ、検出器でバンド検出を行った。
【0124】
一次抗体は抗iNOS抗体、抗IL-1β抗体、抗Arg1抗体、抗CD206抗体(Mannose Receptor)、二次抗体はAnti-Rabbit IgG, HRP-Linked Whole Ab Sheepを使用した。
【0125】
<実施例10-2.結果>
ウエスタンブロット法の結果を
図14〜15に示す。また、
図14の数値を表14に、
図15の数値を表15に表す。ミクログリアの炎症性(M1)マーカーではLPS単独添加に比し、IL-1βは1μM、iNOSは10nM以上のメチルコバラミン添加で有意な蛋白質量の減少が見られた。抗炎症性(M2)マーカーではIL-4単独添加に比し、Arg1は1nMから10μMのメチルコバラミン添加で有意な蛋白質量の増加が見られた。CD206では10nMから100nMのメチルコバラミン添加で有意な増加が見られた。
【0126】
【表14】
【0127】
【表15】
【0128】
実施例11.M2マクロファージ誘導促進作用及びM1マクロファージ誘導抑制作用
メチルコバラミンを用いて、M2マクロファージ誘導促進作用及びM1マクロファージ誘導抑制作用を調べた。具体的には以下のとおりである。
【0129】
<実施例11-1.免疫蛍光染色>
実施例9-1のラット脊髄損傷モデルについて、術後7、14、28日経過したラットを麻酔薬で鎮静をかけ、4% PFAで灌流固定の後、損傷部を含んだ脊髄を採取して、20%スクロースで24時間固定後に凍結包埋した。包埋した組織を神経短軸方向に5μm厚でスライスしglass slideに置いた。1時間乾燥させて、100%メタノールで30分間固定した。ブロッキング後に1次抗体を4℃ over nightで反応させた。二次抗体は室温で1時間反応させ、核をDAPIで標識した。
【0130】
損傷部より頭側2mm、頭側1mm、尾側1mm、尾側2mmにおける患側脊髄横断切片で、単位面積あたりのマクロファージ数、M1(炎症性タイプ)マクロファージ数、M1マクロファージ割合、M2(抗炎症性タイプ)マクロファージ数、M2マクロファージ割合、M1/M2比を計測した。
【0131】
一次抗体は抗CD68抗体、抗iNOS抗体、抗Arg1抗体、二次抗体はAlexa 488標識ヤギ抗ウサギIgG抗体とAlexa 568標識ヤギ抗マウスIgG抗体を使用した。
【0132】
<実施例11-2.結果>
免疫蛍光染色の結果を
図16〜22に示す。
図16〜18は、単位面積あたりのマクロファージ数、M1(炎症性タイプ)マクロファージ数、M1マクロファージ割合、M2(抗炎症性タイプ)マクロファージ数、M2マクロファージ割合についての部位による変化を表し、
図19〜20はこれらの術後の経過日数による変化を表す。
図21は、M1/M2比についての術後の経過日数による変化を表し、
図22はこの部位による変化を表す。また、
図16〜18の数値を、順に、表16〜18に表し、
図22の数値を表19に表す。
【0133】
メチルコバラミン投与群では未治療群に比し、単位面積あたりの集積マクロファージ数が少ない傾向にあり、またそのphenotypeにおいてはM1マクロファージが減少し、M2マクロファージが増加している傾向にあった。一部では有意差を認めた。
【0134】
【表16】
【0135】
【表17】
【0136】
【表18】
【0137】
【表19】
【0138】
実施例12.光凝固脳梗塞モデルにおけるメチルコバラミンの機能回復促進効果について
<実施例12-1.対象と方法>
8-10週齢の雄のC57BL/6Jマウス(24g前後)を使用し、ローズベンガルを投与後、レーザー光を照射することによる光凝固脳梗塞モデルを作製した。このモデルにおいては、マウスの頭蓋骨を大泉門より外側2mmを中心として、頭蓋骨にドリルを用いて穴を開け開頭し、光感受性色素であるローズベンガルの投与5分後に右運動野中心にレーザー光を照射し、右側運動野に脳梗塞を作製する。このように脳梗塞を作製した直後より、浸透圧ポンプ(ALZET Osmotic pumps:2週間用)を埋め込み、メチルコバラミン投与群(N=3)と未治療群(N=4)に分けて、脳梗塞術後、2日後、4日後、7日後、9日後、11日後、14日後にロタロッドテスト(accelerating velocity:加速方式)を施行した。マウスが、ロタロッドから落ちるまでの時間を計測し、Max 300秒をbaselineとして、その比率を算出した。
【0139】
<実施例12-2.結果>
結果を
図23に示す。また、
図23の数値を表20に表す。脳梗塞術後2,4,9日後において、メチルコバラミン投与群は未治療群に比して、有意にロタロッドテストによる脳機能改善を認めた。
【0140】
【表20】