(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のエポキシ樹脂組成物(硬化性組成物)は、前記したように、チオール系硬化剤(成分(A))、多官能エポキシ樹脂(成分(B))、架橋密度調節剤(成分(C))及び硬化触媒(成分(D))を必須の成分として含む。これらの成分(A)〜(D)につき以下に説明する。
なお本明細書においては、エポキシ樹脂の分野における慣例に倣い、硬化前のエポキシ樹脂組成物を構成する成分に対して、通常は高分子(特に合成高分子)を指す用語「樹脂」を含む名称を、その成分が高分子ではないにも関わらず用いる場合がある。
【0020】
(1)チオール系硬化剤(成分(A))
本発明において用いるチオール系硬化剤(成分(A))は、後述の多官能エポキシ樹脂(成分(B))や架橋密度調節剤(成分(C))中のエポキシ基と反応するチオール基を3つ以上有する多官能チオール化合物を少なくとも1種含む。成分(A)は、3官能及び/又は4官能のチオール化合物を含むことが好ましい。チオール当量は、90〜150g/eqであることが好ましく、90〜140g/eqであることがより好ましく、90〜130g/eqであることがさらに好ましい。なお、3官能及び4官能のチオール化合物とは、それぞれ、チオール基を3つ及び4つ有するチオール化合物のことである。
【0021】
本発明のある態様において、前記多官能チオール化合物としては、硬化物の耐湿性を向上させる観点から、エステル結合等の加水分解性の部分構造を有しない、非加水分解性多官能チオール化合物を含む成分(A)を用いることが好ましい。非加水分解性多官能チオール化合物は、高温多湿環境下においても加水分解が起こりにくい。
本発明の別の態様においては、成分(A)は、分子中にエステル結合を有するチオール化合物と、分子中にエステル結合を有しないチオール化合物とを含む。また、低T
g化の観点から、成分(A)は、尿素結合の無いチオール樹脂を含むことが好ましい。
【0022】
加水分解性の多官能チオール化合物の例としては、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製:TMMP)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(SC有機化学株式会社製:TEMPIC)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製:PEMP)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製:EGMP−4)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(SC有機化学株式会社製:DPMP)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(昭和電工株式会社製:カレンズMT(登録商標)PE1)、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン(昭和電工株式会社製:カレンズMT(登録商標)NR1)等を挙げることができる。
【0023】
本発明において用いうる好ましい非加水分解性多官能チオール化合物は、下記式(1):
【化1】
(式中、
R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基又はフェニル基からなる群より選択され、
R
3、R
4、R
5及びR
6は、各々独立に、メルカプトメチル基、メルカプトエチル基及びメルカプトプロピル基からなる群より選択される)
で表される化合物である。式(1)で表される化合物の例には、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル(商品名:TS−G、四国化成工業株式会社製)、(1,3,4,6−テトラキス(3−メルカプトプロピル)グリコールウリル(商品名:C3 TS−G、四国化成工業株式会社製)、1,3,4,6−テトラキス(メルカプトメチル)グリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(メルカプトメチル)−3a−メチルグリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)−3a−メチルグリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(3−メルカプトプロピル)−3a−メチルグリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(メルカプトメチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(3−メルカプトプロピル)−3a,6a−ジメチルグリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(メルカプトメチル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル、1,3,4,6−テトラキス(3−メルカプトプロピル)−3a,6a−ジフェニルグリコールウリル等が含まれる。これらは、それぞれ単独で用いることも、また二種以上を混合して用いても良い。これらのうち、1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル及び1,3,4,6−テトラキス(3−メルカプトプロピル)グリコールウリルが特に好ましい。
【0024】
本発明において用いうる他の好ましい非加水分解性多官能チオール化合物は、下記式(2):
(R
8)
m−A−(R
7−SH)
n (2)
(式中、
Aは、n+m個の水酸基を有する多価アルコールの残基であって、前記水酸基に由来するn+m個の酸素原子を含み、
各々のR
7は独立に、炭素数1〜10のアルキレン基であり、
各々のR
8は独立に、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であり、
mは、0以上の整数であり、
nは、3以上の整数であり、
前記R
7及びR
8は各々、前記酸素原子を介して前記Aと結合している)
で表される化合物である。式(2)で表される化合物を2種以上組み合わせて用いてもよい。式(2)で表される化合物の例には、ペンタエリスリトールトリプロパンチオール(商品名:PEPT、SC有機化学製)、ペンタエリスリトールテトラプロパンチオール等が含まれる。これらのうち、ペンタエリスリトールトリプロパンチオールが特に好ましい。
【0025】
非加水分解性多官能チオール化合物としては、分子内にスルフィド結合を2つ以上有する3官能以上のポリチオール化合物を使用することもできる。このようなチオール化合物としては、例えば、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2−メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3−メルカプトプロピルチオメチル)メタン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,1,5,5−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−3−チアペンタン、1,1,6,6−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−3,4−ジチアヘキサン、2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エタンチオール、3−メルカプトメチルチオ−1,7−ジメルカプト−2,6−ジチアヘプタン、3,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、3−メルカプトメチルチオ−1,6−ジメルカプト−2,5−ジチアヘキサン、1,1,9,9−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−5−(3,3−ビス(メルカプトメチルチオ)−1−チアプロピル)3,7−ジチアノナン、トリス(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)メタン、トリス(4,4−ビス(メルカプトメチルチオ)−2−チアブチル)メタン、テトラキス(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)メタン、テトラキス(4,4−ビス(メルカプトメチルチオ)−2−チアブチル)メタン、3,5,9,11−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−1,13−ジメルカプト−2,6,8,12−テトラチアトリデカン、3,5,9,11,15,17−ヘキサキス(メルカプトメチルチオ)−1,19−ジメルカプト−2,6,8,12,14,18−ヘキサチアノナデカン、9−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−3,5,13,15−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−1,17−ジメルカプト−2,6,8,10,12,16−ヘキサチアヘプタデカン、3,4,8,9−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−1,11−ジメルカプト−2,5,7,10−テトラチアウンデカン、3,4,8,9,13,14−ヘキサキス(メルカプトメチルチオ)−1,16−ジメルカプト−2,5,7,10,12,15−ヘキサチアヘキサデカン、8−[ビス(メルカプトメチルチオ)メチル]−3,4,12,13−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−1,15−ジメルカプト−2,5,7,9,11,14−ヘキサチアペンタデカン、4,6−ビス[3,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−7−メルカプト−2,6−ジチアヘプチルチオ]−1,3−ジチアン、4−[3,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−7‐メルカプト−2,6−ジチアヘプチルチオ]−6−メルカプトメチルチオ−1,3−ジチアン、1,1−ビス[4−(6−メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアニルチオ]−1,3−ビス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1−[4−(6−メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアニルチオ]−3−[2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル]−7,9−ビス(メルカプトメチルチオ)−2,4,6,10−テトラチアウンデカン、3−[2−(1,3−ジチエタニル)]メチル−7,9−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,11−ジメルカプト−2,4,6,10−テトラチアウンデカン、9−[2−(1,3−ジチエタニル)]メチル−3,5,13,15−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−1,17−ジメルカプト−2,6,8,10,12,16−ヘキサチアヘプタデカン、3−[2−(1,3−ジチエタニル)]メチル−7,9,13,15−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−1,17−ジメルカプト−2,4,6,10,12,16−ヘキサチアヘプタデカン等の脂肪族ポリチオール化合物;4,6−ビス[4−(6−メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアニルチオ]−6−[4−(6‐メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアニルチオ]−1,3−ジチアン、4−[3,4,8,9‐テトラキス(メルカプトメチルチオ)−11−メルカプト−2,5,7,10−テトラチアウンデシル]−5−メルカプトメチルチオ−1,3−ジチオラン、4,5−ビス[3,4−ビス(メルカプトメチルチオ)−6−メルカプト−2,5−ジチアヘキシルチオ]−1,3−ジチオラン、4−[3,4−ビス(メルカプトメチルチオ)−6−メルカプト−2,5−ジチアヘキシルチオ]−5−メルカプトメチルチオ−1,3−ジチオラン、4−[3−ビス(メルカプトメチルチオ)メチル−5,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−8−メルカプト−2,4,7−トリチアオクチル]−5−メルカプトメチルチオ−1,3−ジチオラン、2−{ビス[3,4−ビス(メルカプトメチルチオ)−6−メルカプト−2,5−ジチアヘキシルチオ]メチル}−1,3−ジチエタン、2−[3,4−ビス(メルカプトメチルチオ)−6−メルカプト−2,5−ジチアヘキシルチオ]メルカプトメチルチオメチル−1,3−ジチエタン、2−[3,4,8,9−テトラキス(メルカプトメチルチオ)−11−メルカプト−2,5,7,10−テトラチアウンデシルチオ]メルカプトメチルチオメチル−1,3−ジチエタン、2−[3−ビス(メルカプトメチルチオ)メチル−5,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−8−メルカプト−2,4,7−トリチアオクチル]メルカプトメチルチオメチル−1,3−ジチエタン、4−{1−[2−(1,3−ジチエタニル)]−3−メルカプト−2−チアプロピルチオ}−5−[1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)−4−メルカプト−3−チアブチルチオ]−1,3−ジチオラン等の環式構造を有するポリチオール化合物が挙げられる。
【0026】
(2)エポキシ樹脂(成分(B))
本発明において用いるエポキシ樹脂(成分(B))は、少なくとも1種の多官能エポキシ樹脂を含む限り特に制限はない。したがって、従来常用されているエポキシ樹脂を、成分(B)として用いることができる。前記したように、多官能エポキシ樹脂とは、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を指す。本発明のある態様においては、成分(B)は2官能エポキシ樹脂を含む。
多官能エポキシ樹脂は、脂肪族多官能エポキシ樹脂と芳香族多官能エポキシ樹脂に大別される。
【0027】
脂肪族多官能エポキシ樹脂の例としては、
−(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレンエーテルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサン型ジグリシジルエーテル、ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテルのようなジエポキシ樹脂;
−トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシ樹脂;
−ビニル(3,4−シクロヘキセン)ジオキシド、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−5,1−スピロ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−m−ジオキサンのような脂環式エポキシ樹脂;
−テトラグリシジルビス(アミノメチル)シクロヘキサンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;
−1,3−ジグリシジル−5−メチル−5−エチルヒダントインのようなヒダントイン型エポキシ樹脂;及び
−1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのようなシリコーン骨格を有するエポキシ樹脂
などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
前記の例のうち、「シクロヘキサン型ジグリシジルエーテル」とは、2個のグリシジル基が、各々エーテル結合を介して、1個のシクロヘキサン環を母体構造として有する2価の飽和炭化水素基に結合した構造を有する化合物を意味する。「ジシクロペンタジエン型ジグリシジルエーテル」とは、2個のグリシジル基が、各々エーテル結合を介して、ジシクロペンタジエン骨格を母体構造として有する2価の飽和炭化水素基に結合した構造を有する化合物を意味する。脂肪族多官能エポキシ樹脂は、そのエポキシ当量が90〜450g/eqであるものが好ましい。また、シクロヘキサン型ジグリシジルエーテルとしては、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0029】
本発明のある態様においては、成分(B)は、脂肪族多官能エポキシ樹脂を含む。成分(B)として脂肪族多官能エポキシ樹脂を用いる場合、組み合わせる成分(A)は、グリコールウリル骨格あるいはイソシアヌル骨格を有する、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物を含むことが好ましい。脂肪族多官能エポキシ樹脂についてのエポキシ官能基当量の、グリコールウリル骨格あるいはイソシアヌル骨格を有するチオール化合物に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)は、0.40〜0.85であることが好ましい。
本発明のある態様においては、成分(A)は、グリコールウリル骨格あるいはイソシアヌル骨格を有する、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物を含む。成分(A)として、グリコールウリル骨格あるいはイソシアヌル骨格を有する、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物を用いる場合、成分(B)としては、シクロヘキサン型ジグリシジルエーテルやシリコーン骨格を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましい。特に、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルや1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンを用いることが好ましい。
また、本発明のある態様においては、成分(A)は、グリコールウリル骨格あるいはイソシアヌル骨格を有しない、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物(具体的には、ポリエーテル骨格、ポリスルフィド骨格、あるいはポリエステル骨格を有する、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物)を含む。E”が極大となる温度を所望の範囲とするため、エポキシ樹脂組成物中における、脂肪族多官能エポキシ樹脂と、グリコールウリル骨格あるいはイソシアヌル骨格を有しない、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物との総量は、10質量%以上55質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
芳香族多官能エポキシ樹脂は、ベンゼン環等の芳香環を含む構造を有する多官能エポキシ樹脂である。ビスフェノールA型エポキシ樹脂など、従来頻用されているエポキシ樹脂にはこの種のものが多い。芳香族多官能エポキシ樹脂の例としては、
−ビスフェノールA型エポキシ樹脂;
−p−グリシジルオキシフェニルジメチルトリスビスフェノールAジグリシジルエーテルのような分岐状多官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂;
−ビスフェノールF型エポキシ樹脂;
−ノボラック型エポキシ樹脂;
−テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂;
−フルオレン型エポキシ樹脂;
−ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂;
−1,4−フェニルジメタノールジグリシジルエーテルのようなジエポキシ樹脂;
−3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジグリシジルオキシビフェニルのようなビフェニル型エポキシ樹脂;
−ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;及び
−ナフタレン環含有エポキシ樹脂
などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。チオール化合物との相溶性の観点からは、成分(B)は脂肪族多官能エポキシ樹脂よりも、芳香族多官能エポキシ樹脂を含むことがさらに好ましい。芳香族多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましく、中でもそのエポキシ当量が90〜200g/eqであるものが特に好ましく、エポキシ当量が110〜190g/eqであるものが最も好ましい。
成分(B)として芳香族多官能エポキシ樹脂を使用する場合、組み合わせる成分(A)としては、ポリエーテル骨格、ポリスルフィド骨格、あるいはポリエステル骨格を有する、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物であることが好ましい。芳香族多官能エポキシ樹脂についてのエポキシ官能基当量の、ポリエーテル骨格、ポリスルフィド骨格、あるいはポリエステル骨格を有するチオール化合物に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)は、0.30〜1.10であることが好ましい。また、成分(A)として、ポリエーテル骨格、ポリスルフィド骨格、あるいはポリエステル骨格を有する、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物を用いる場合、成分(B)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびナフタレン環含有エポキシ樹脂の少なくともひとつを用いることが好ましい。
また、E”が極大となる温度を所望の範囲とするため、エポキシ樹脂組成物中における、芳香族エポキシ樹脂(単官能および多官能の芳香族エポキシ樹脂)と、グリコールウリル骨格あるいはイソシアヌル骨格を有する、3官能チオール化合物あるいは4官能チオール化合物との総量は、45質量%以上90質量%以下であることが好ましく、50質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
(3)架橋密度調節剤(成分(C))
本発明において用いる架橋密度調節剤(成分(C))は、少なくとも1種の芳香族単官能エポキシ樹脂を含む限り特に制限はない。単官能エポキシ樹脂は、エポキシ基を1個有するエポキシ樹脂であり、従来より反応性希釈剤としてエポキシ樹脂組成物の粘度調整に用いられている。単官能エポキシ樹脂は、脂肪族単官能エポキシ樹脂と芳香族単官能エポキシ樹脂に大別される。揮発性の観点から、成分(C)は、エポキシ当量が180〜400g/eqであることが好ましい。本発明では、粘度と低揮発性の観点から、成分(C)は芳香族単官能エポキシ樹脂を含むことが好ましい。さらに、成分(C)は実質的に芳香族単官能エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0032】
成分(C)に含まれる芳香族単官能エポキシ樹脂の例としては、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−s−ブチルフェニルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、o−フェニルフェノールグリシジルエーテル、p−フェニルフェノールグリシジルエーテル、N−グリシジルフタルイミド等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル及びフェニルグリシジルエーテルが好ましく、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテルが特に好ましい。脂肪族単官能エポキシ樹脂の例としては、n−ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、α−ピネンオキシド、アリルグリシジルエーテル、1−ビニル−3,4−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシ−4−(2−メチルオキシラニル)−1−メチルシクロヘキサン、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ネオデカン酸グリシジルエステル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
(4)硬化触媒(成分(D))
本発明において用いる硬化触媒(成分(D))は、エポキシ樹脂(前記成分(B))の硬化触媒であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。成分(D)は、潜在性硬化触媒であることが好ましい。潜在性硬化触媒とは、室温では不活性の状態で、加熱することにより活性化されて、硬化触媒として機能する化合物であり、例えば、常温で固体のイミダゾール化合物;アミン化合物とエポキシ化合物の反応生成物(アミン−エポキシアダクト系)等の固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化触媒;アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物の反応生成物(尿素型アダクト系)等が挙げられる。前記成分(D)を用いることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物を低温条件下でも短時間で硬化させることができる。
【0034】
潜在性硬化触媒の市販品の代表的な例としては、アミン−エポキシアダクト系(アミンアダクト系)としては、「アミキュアPN−23」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「アミキュアPN−40」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「アミキュアPN−50」(味の素ファインテクノ(株)商品名)、「ハードナーX−3661S」(エー・シー・アール(株)商品名)、「ハードナーX−3670S」(エー・シー・アール(株)商品名)、「ノバキュアHX−3742」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHX−3721」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA9322HP」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA3922HP」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA3932HP」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA5945HP」(旭化成(株)商品名)、「ノバキュアHXA9382HP」(旭化成(株)商品名)、「フジキュアーFXR1121」(T&K TOKA(株)商品名)などが挙げられ、また、尿素型アダクト系としては、「フジキュアーFXE−1000」(T&K TOKA(株)商品名)、「フジキュアーFXR−1030」(T&K TOKA(株)商品名)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。成分(D)は、単独でも2種以上を併用してもよい。成分(D)としては、ポットライフ、硬化性の観点から、固体分散型アミンアダクト系潜在性硬化触媒が好ましい。
【0035】
なお成分(D)には、多官能エポキシ樹脂に分散された分散液の形態で提供されるものがある。そのような形態の成分(D)を使用する場合、それが分散している多官能エポキシ樹脂の量も、本発明のエポキシ樹脂組成物における前記成分(B)の量に含まれることに注意すべきである。
【0036】
チオール官能基当量とは、注目する成分又は組成物に含まれるチオール化合物のチオール基の総数を意味し、注目する成分又は組成物に含まれるチオール化合物の質量(g)を、そのチオール化合物のチオール当量で割った商(チオール化合物が複数含まれる場合は、各チオール化合物についてのそのような商の合計)である。チオール当量は、ヨウ素滴定法により決定することができる。この方法は広く知られており、例えば、特開2012−153794号の段落0079に開示されている。この方法ではチオール当量を求めることができない場合には、そのチオール化合物の分子量を、そのチオール化合物1分子中のチオール基数で割った商として算出しても良い。
【0037】
一方、エポキシ官能基当量とは、同成分又は組成物に含まれるエポキシ樹脂(前記成分(B)及び(C))のエポキシ基の総数を意味し、注目する成分又は組成物に含まれるエポキシ樹脂の質量(g)を、そのエポキシ樹脂のエポキシ当量で割った商(エポキシ樹脂が複数含まれる場合は、各エポキシ樹脂についてのそのような商の合計)である。エポキシ当量は、JIS K7236に記載されている方法により求めることができる。この方法ではエポキシ当量を求めることができない場合には、そのエポキシ樹脂の分子量を、そのエポキシ樹脂1分子中のエポキシ基数で割った商として算出しても良い。
【0038】
エポキシ樹脂に対しチオール系硬化剤が過剰であるエポキシ樹脂組成物は、初期T
g(硬化直後のT
g)の低い硬化物を与える。しかし、このようにエポキシ樹脂に対しチオール系硬化剤が過剰である場合は、エポキシ基と反応せず、未反応のまま硬化物中に残るチオール基が多くなる。本発明者らは、特許文献1にて、耐熱試験後にT
gの変化が小さい組成物を開示したが、その後、そのような組成物では、耐湿信頼性試験(特に85℃85%の環境下で100時間)においては、試験後に、過剰のチオール基同士による新たな架橋が生じてしまう可能性があることを見出した。この架橋の進行は、チオール系硬化剤に対してエポキシ樹脂が過剰なときに比べれば穏やかであるものの、T
gの上昇をもたらす。本発明のある態様においては、このため、前記成分(B)及び(C)についてのエポキシ官能基当量の合計の、前記成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)は、0.70以上、1.10以下であることが好ましく、0.75以上、1.10以下であることがより好ましく、0.80以上1.05以下であることが特に好ましい。このような硬化性組成物においては、その未反応チオール基を減少させる前記成分(C)に含まれるエポキシ基が存在するので、それらの間での反応の結果、未反応チオール基の大半が消失する。前記成分(B)に含まれる多官能エポキシ樹脂は、前記成分(A)に含まれる多官能チオール化合物2分子を連結させて、ポリマー鎖を延長させるか、又はポリマー鎖間の架橋を形成する機能を有する。しかし、前記成分(C)に含まれる単官能エポキシ樹脂はそのような機能を有しないので、前記成分(A)と(C)の間での反応により、硬化物のT
gを上昇させる新たな架橋が生じることを抑制できる。したがって、このような硬化性組成物が与える硬化物は、新たな架橋を形成しうる官能基の含有量が少ないため、硬化後に長時間経過しても、新たな架橋の形成に伴うT
gの上昇がほとんど認められない。
【0039】
本発明のある態様においては、前記成分(B)及び(C)についてのエポキシ官能基当量の合計の、前記成分(A)についてのチオール官能基当量に対する比(〔エポキシ官能基当量〕/〔チオール官能基当量〕)が、0.70以上、1.10以下であると、同組成物中のエポキシ基とチオール基の両者について、エポキシ基とチオール基の間の反応に関与するものが一定以上の割合となるので、得られる硬化物の特性が適切なものとなる。前記の比が0.70未満であると、エポキシ基に対しチオール基が過剰であるため、未反応のまま硬化物中に残るチオール基が多くなり、そのようなチオール基間の反応に伴う硬化物のT
g上昇が抑制されにくくなる。一方、前記の比が1.10超であると、チオール基に対しエポキシ基が過剰であるため、エポキシ基とチオール基の間の反応に加え、過剰なエポキシ基間の反応(ホモ重合)が進行する。この結果、得られる硬化物にはこれら両方の反応による分子間架橋が形成されるので、架橋密度が高くなりすぎ、T
gが上昇する。あるいは、80℃で1時間といった、低温硬化が困難となる。
【0040】
本発明の硬化性組成物は、所望であれば、上記(A)〜(D)成分以外の任意成分、例えば以下に述べるものを必要に応じて含有してもよい。
【0041】
・安定剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、安定剤を添加することができる。安定剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物に、その貯蔵安定性を向上させ、ポットライフを長くするために添加することができる。エポキシ樹脂を主剤とする一液型接着剤の安定剤として公知の種々の安定剤を使用することができるが、貯蔵安定性を向上させる効果の高さから、液状ホウ酸エステル化合物、アルミキレート及び有機酸からなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0042】
液状ホウ酸エステル化合物の例としては、2,2'−オキシビス(5,5'−ジメチル−1,3,2−オキサボリナン)、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ−n−プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ−n−ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2−エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10−テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13−ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7−トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ−o−トリルボレート、トリ−m−トリルボレート、トリエタノールアミンボレート等が挙げられる。液状ホウ酸エステル化合物は常温(25℃)で液状であるため、配合物粘度を低く抑えられるため好ましい。アルミキレートとしては、例えばアルミキレートA(川研ファインケミカル株式会社製)を用いることができる。有機酸としては、例えばバルビツール酸を用いることができる。
【0043】
安定剤を添加する場合、その添加量は、成分(A)〜(D)の合計量100質量部に対して、0.01〜30質量部であることが好ましく、0.05〜25質量部であることがより好ましく、0.1〜20質量部であることが更に好ましい。
【0044】
・充填剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、充填剤を添加することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物を一液型接着剤として使用する場合、これに充填剤を添加すると、接着した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性が向上する。充填剤の添加により耐サーマルサイクル性が向上するのは、硬化物の線膨張係数が減少する、即ちサーマルサイクルによる硬化物の膨張・収縮が抑制されるためである。
【0045】
充填剤は、線膨張係数を減少させる効果を有するものである限り特に限定されず、各種充填剤を使用することができる。充填剤の具体的な例としては、シリカフィラー、アルミナフィラー、タルクフィラー、炭酸カルシウムフィラー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィラー等が挙げられる。これらの中でも、充填量を高くできることから、シリカフィラーが好ましい。
【0046】
充填剤を添加する場合、本発明のエポキシ樹脂組成物における充填剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物全体において、5〜80質量%であることが好ましく、5〜65質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることが更に好ましい。
【0047】
・カップリング剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、カップリング剤を添加することができる。カップリング剤、特にシランカップリング剤の添加は、接着強度向上の観点から好ましい。カップリング剤としては、エポキシ系、アミノ系、ビニル系、メタクリル系、アクリル系、メルカプト系等の各種シランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8−グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、カップリング剤の添加量は、接着強度向上の観点から、成分(A)〜(D)の合計量100質量部に対して0.01質量部から50質量部であることが好ましく、0.1〜30質量部であることがより好ましい。
【0049】
・その他の添加剤
本発明のエポキシ樹脂組成物には、所望であれば、本発明の趣旨を損なわない範囲で、その他の添加剤、例えばカーボンブラック、チタンブラック、イオントラップ剤、レベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、揺変剤、粘度調整剤、難燃剤、着色剤、溶剤等を添加することができる。各添加剤の種類、添加量は常法通りである。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、損失弾性率(E”)が極大となる温度が20℃以上、55℃以下の範囲にある硬化物を与える。損失弾性率は、物体の動的弾性率を複素数で表した複素弾性率の虚数部にあたり、動的挙動中における粘弾性の消失エネルギーを示すものである。本明細書においては、損失弾性率は、特に断りのない限り、周波数10Hz、昇温速度3℃/分、ひずみ振幅5.0μm、引張法にて動的粘弾性測定(DMA)で測定した値を意味する。
当業者であれば、本発明のエポキシ樹脂組成物を構成する成分(A)〜(D)等の量を適宜調節して、この組成物の与える硬化物が所定の損失弾性率を有するように調整できる。また、損失弾性率の測定方法は公知であり、当業者であれば、従来の動的粘弾性測定装置を用いて、損失弾性率を容易に測定することができる。
【0051】
上記のように、本発明のエポキシ樹脂組成物が与える硬化物では、このような損失弾性率(E”)が極大となる温度が、20℃以上、55℃以下の範囲にある。この温度が上記の範囲にないエポキシ樹脂組成物では、硬化物のプル強度、即ち耐落下衝撃性が十分向上しない。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、損失弾性率が極大となる温度が、好ましくは20℃以上、50℃以下、より好ましくは20℃以上、45℃以下の範囲にある硬化物を与える。
【0052】
硬化物の動的粘弾性特性を以上のようなものにするという観点から、本発明のエポキシ樹脂組成物において、成分(B)と成分(A)のモル数比(B)/(A)は、好ましくは1.15以上、1.45以下である。
また同じ理由で、本発明のエポキシ樹脂組成物において、成分(C)と成分(A)のモル数比(C)/(A)は、0.55以上、1.65以下である。
前記成分(B)と成分(A)のモル数比(B)/(A)の関係は、チオール基を3つ以上有するチオール化合物を含む成分(A)の架橋点を減らし、例えばチオール基を4つ有するチオール化合物であれば2官能チオール化合物や3官能チオール化合物であるかのように使用することを意味する。前記の比が1.15未満であると、架橋成分である多官能エポキシ樹脂が少なすぎるため、得られる硬化物が、高温下で溶融してしまうといった熱可塑性樹脂のような性質を示すおそれがある。一方、前記の比が1.45超であると、架橋成分である多官能エポキシ樹脂が多すぎるため、得られる硬化物には成分(A)と(B)の反応による分子間架橋が過剰に形成されて、架橋密度が高くなりすぎ、プル強度が小さくなるおそれがある。
前記成分(C)と成分(A)のモル数比(C)/(A)の関係は、前記成分(C)に含まれるエポキシ基の数(量)に対し、前記成分(A)のチオール基が適度に過剰であることを意味する。この関係を満足することにより、成分(A)と(B)の反応により形成される架橋の密度が適切なものとなる硬化物が得られるので好ましい。
前記成分(B)と成分(A)のモル数比(B)/(A)、および、成分(C)と成分(A)のモル数比(C)/(A)の関係を満たすことにより、成分(B)と反応しなかった成分(A)のチオール基が成分(C)と反応し、硬化物中に残る未反応チオール基が少なくなるため、得られる硬化物の特性が適切なものとなる。
本発明のエポキシ樹脂組成物が与える硬化物は、特に、LCP(液晶ポリマー)、PC(ポリカーボネート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、SUS、アルミナ、ニッケル(表面にニッケルめっきがされたものを含む)の中から選択される被着体に対して、優れたプル強度を発揮する。これらはプラズマなどで表面処理されていてもよい。本明細書において、「プル強度」とは、典型的には、これらの被着体がこれらの材質である場合のプル強度を意味する。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、成分(A)〜(D)及び所望であればその他の添加剤を、適切な混合機に同時に、または別々に導入して、必要であれば加熱により溶融しながら撹拌して混合し、均一な組成物とすることにより、本発明のエポキシ樹脂組成物を得ることができる。この混合機は特に限定されないが、撹拌装置及び加熱装置を備えたライカイ機、ヘンシェルミキサー、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0054】
このようにして得られたエポキシ樹脂組成物は熱硬化性であり、温度80℃の条件下では、5時間以内に硬化することが好ましく、1時間以内に硬化することがより好ましい。また、温度150℃で数秒といった、高温・超短時間での硬化も可能である。本発明の硬化性組成物を、高温条件下で劣化する部品を含むイメージセンサモジュールの製造に使用する場合、同組成物を60〜90℃の温度で、30〜120分熱硬化させる、あるいは120〜200℃の温度で1〜300秒熱硬化させることが好ましい。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、低温条件下でも短時間で硬化して、T
gが低い硬化物を与える。本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は、T
gが65℃以下であることが好ましく、60℃以下であることがより好ましく、50℃以下であることがさらに好ましい。また、密着性の観点から、硬化物のT
gは、30℃以上であることが好ましく、32℃以上であることがより好ましい。本発明において、T
gは、動的熱機械測定装置(DMA)を用いて、−20℃〜110℃の範囲、周波数1〜10Hz、昇温速度1〜10℃/min、ひずみ振幅5.0μm、引張法で求めることができる。好ましい周波数は10Hz、好ましい昇温速度は3℃/minである。T
gは、損失弾性率(E”)/貯蔵弾性率(E’)から求められる損失正接(tanδ)のピーク温度から求められる。
【0056】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば、種々の電子部品を含む半導体装置や、電子部品を構成する部品同士を固定、接合又は保護するための接着剤、封止材、ダム剤、又はその原料として用いることができる。
【0057】
本発明においては、本発明のエポキシ樹脂組成物を含む封止材も提供される。本発明の封止材は、例えば、モジュールや電子部品などを保護や固定するためのフィル材として好適である。
また、本発明においては、本発明のエポキシ樹脂組成物又は封止材を硬化させることにより得られる硬化物も提供される。
本発明においてはさらに、本発明の硬化物を含む電子部品も提供される。
【実施例】
【0058】
以下、本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお以下の実施例において、部、%は、断りのない限り質量部、質量%を示す。
【0059】
実施例1〜9、比較例1〜3
表1〜2に示す配合に従って、3本ロールミルを用いて所定の量の各成分を混合することにより、エポキシ樹脂組成物を調製した。表1〜2において、各成分の量は質量部(単位:g)で表されている。
【0060】
・チオール系硬化剤(成分(A))
実施例及び比較例において、成分(A)として用いた化合物は、以下の通りである。
(A−1):1,3,4,6−テトラキス(2−メルカプトエチル)グリコールウリル(商品名:TS−G、四国化成工業株式会社製、チオール当量:100)
(A−2):トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(商品名:TMMP、SC有機化学株式会社製、チオール当量:133)
(A−3):ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(商品名:PEMP、SC有機化学製、チオール当量:122)
【0061】
・エポキシ樹脂(成分(B))
実施例及び比較例において、成分(B)として用いた化合物は、以下の通りである。
(B−1):ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名:YDF−8170、新日鐵住金株式会社製、エポキシ当量:159)
(B−2):ビスフェノールF型エポキシ樹脂・ビスフェノールA型エポキシ樹脂混合物(商品名:EXA−835LV、DIC株式会社製、エポキシ当量165)
(B−3):ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(商品名:EP4088L、株式会社ADEKA製、エポキシ当量165)
(B−4):1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(商品名:CDMDG、昭和電工株式会社製、エポキシ当量:133)
(B−5):1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(商品名:TSL9906、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、エポキシ当量:181)
【0062】
・架橋密度調節剤(成分(C))
実施例及び比較例において、成分(C)として用いた化合物は、以下の通りである。
(C−1):p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル(商品名:ED509S、株式会社ADEKA製、エポキシ当量:205)
(C−2):フェニルグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX141、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ当量:151)
(C−3):2−エチルヘキシルグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX121、ナガセケムテックス株式会社製 、エポキシ当量:187)
【0063】
・硬化触媒(成分(D))
実施例及び比較例において、成分(D)として用いた化合物は、以下の通りである。
(D−1)アミン−エポキシアダクト系潜在性硬化触媒(商品名:ノバキュアHXA9322HP、旭化成株式会社製)
【0064】
前記潜在性硬化触媒(D−1)は、微粒子状の潜在性硬化触媒が、エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物(エポキシ当量:170))に分散されてなる分散液(潜在性硬化触媒/ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物=33/67(質量比))の形態で提供される。表1〜2の(D−1)は、潜在性硬化触媒を含む分散液の質量部である。この分散液を構成するエポキシ樹脂は、成分(B)の一部をなすものとして扱われる。よって表1〜2の「(B)/(A)(モル数比)」の(B)には、(D−1)中のエポキシ樹脂の量が含まれている。
【0065】
・その他の成分(成分(E))
実施例及び比較例において、成分(E)として用いた化合物は、以下の通りである。
(E−1):シリカフィラー1(商品名:SE2300、平均粒径0.6μm、株式会社アドマテックス製)
(E−2):シリカフィラー2(商品名:SO−E5、平均粒径2.0μm、株式会社アドマテックス製)
【0066】
実施例及び比較例においては、エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の特性を、以下のようにして測定した。
(硬化物の作製)
実施例1〜9及び比較例1〜3の樹脂組成物を、各々80℃で120分間加熱することにより、硬化物を得た。
【0067】
〈硬化物の損失弾性率(E”)〉
日本工業規格JIS C6481のT
gの測定法を利用して行った。具体的には、まず、厚さ3mmのガラス板の表面にテフロン(登録商標)シートを貼り、その上に、硬化した際の膜厚が400±150μmとなるようにスペーサー(耐熱テープを重ねたもの)を2箇所に配置した。次に、スペーサー間に樹脂組成物を塗布し、気泡を巻き込まないように、表面にテフロン(登録商標)シートを貼った別のガラス板で挟み込み、80℃で120分間硬化させて硬化物を得た。最後に、この硬化物をテフロン(登録商標)シートを貼ったガラス板から剥がした後、カッターで所定寸法(10mm×40mm)に切り取り、試験片を得た。なお、切り口はサンドペーパーで滑らかにした。この硬化物を、動的熱機械測定装置(DMA)(セイコーインスツル社製)を用いて、−20℃〜110℃の範囲、周波数10Hz、昇温速度3℃/min、ひずみ振幅5.0μm、引張法で、硬化物の損失弾性率(E”)を測定し、E”が極大となる温度(℃)を求めた。結果を表1〜2に示す。
【0068】
〈硬化物の実測プル強度及び校正プル強度〉
たて20mm×よこ20mm×厚さ1.6mmのアルミナ板上に、スペーサー(150μm厚の耐熱テープ)を2箇所に配置した。次に、スペーサー間に、1mgの樹脂組成物を塗布した。塗布した樹脂組成物に接するように、スペーサーの上に、9mm□の正方形の光沢ニッケルめっきで処理された厚板(2.5g)を載せた。その後、80℃で120分間、加熱硬化することにより、試験体を得た。この試験体の厚板上部に湿気硬化型接着剤を用いてナットを貼りあわせ、プル強度測定の際に厚板とナットの間で剥離が生じないようにするため、12時間放置して厚板とナットを十分に接合した。その後、接着面が水平になるように、アルミナ板を精密荷重測定器(アイコーエンジニアリング製、型番:1605HTP)に固定したのちに、ナットの輪に紐を通し、この紐をジグに取り付け、23℃において、鉛直方向に12mm/分の速度で、引っぱり荷重を加えた。アルミナ板と厚板とが分断されるまでに加えた最大荷重を、アルミナ板と厚板の接着面積で割った値を、実測プル強度とした(N=6)。単位は、N/mm
2である。さらに、この実測プル強度から、実施例1及び2の比較から導出された下記式を用いて校正プル強度を求めた。単位は、N/mm
2である。結果を表1〜2に示す。
校正プル強度=実測プル強度/((100−成分(E)含有量(wt%)×1.2)/100)
【0069】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて成分(E)(フィラー)を添加して用いることができるが、実施例1と2の比較から分かるように、成分(E)(フィラー)の含有量が増加すると硬化物の実測プル強度は減少する傾向にある。上記校正プル強度は、このような成分(E)の影響を相殺したプル強度である。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表1〜2より明らかなように、実施例1〜9のいずれにおいても、硬化後のプル強度(特に校正プル強度)は満足な値であった。
これに対し、硬化物のE”が極大となる温度が所定の範囲にない比較例1〜2及び成分(C)を含まない比較例3では、硬化後のプル強度が不十分であった。比較例3からわかるように、所定の組成を有していないエポキシ樹脂組成物では、硬化物のE”が極大となる温度が所定の範囲にあっても、硬化後のプル強度が十分向上しない。
表1〜2の校正プル強度とE”のピーク温度(極大値)との関係を
図1に示した。
図1において、IとIIの直線の関係より、成分(A)のチオール官能基当量に対する成分(C)のエポキシ官能基当量が多くなるにつれ、プル強度が高くなることがわかる。
)が低く、プル強度の高い硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物、それを含む封止材、それを硬化させて得られる硬化物及びその硬化物を含む電子部品に関する。本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化後にT