特許第6651172号(P6651172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6651172バイオマス熱分解ガスからの水素回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6651172
(24)【登録日】2020年1月24日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】バイオマス熱分解ガスからの水素回収方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/56 20060101AFI20200210BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20200210BHJP
   C01B 3/38 20060101ALI20200210BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20200210BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20200210BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20200210BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20200210BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20200210BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20200210BHJP
   H01M 8/04791 20160101ALI20200210BHJP
   F17C 11/00 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   C01B3/56 Z
   C01B3/02 Z
   C01B3/38
   C01B3/00 A
   B09B3/00 302Z
   B09B3/00ZAB
   H01M8/00 Z
   H01M8/04 N
   H01M8/0612
   H01M8/04746
   H01M8/04791
   F17C11/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-535964(P2018-535964)
(86)(22)【出願日】2016年8月23日
(86)【国際出願番号】JP2016074542
(87)【国際公開番号】WO2018037481
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2019年8月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502229565
【氏名又は名称】株式会社ジャパンブルーエナジー
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113033
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 精孝
(72)【発明者】
【氏名】堂脇 清志
(72)【発明者】
【氏名】片山 昇
(72)【発明者】
【氏名】堂脇 直城
(72)【発明者】
【氏名】亀山 光男
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/014277(WO,A1)
【文献】 米国特許第04836833(US,A)
【文献】 特開2012−171851(JP,A)
【文献】 特開2002−343405(JP,A)
【文献】 特開2004−362786(JP,A)
【文献】 特開2007−269526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−3/58
B09B 3/00
F17C 11/00
H01M 8/00
H01M 8/04
H01M 8/04746
H01M 8/04791
H01M 8/0612
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスから水素を回収する方法であって、上記熱分解ガスから、加圧下において二酸化炭素を主として含むガスを吸着除去して、該熱分解ガスを精製する第1精製段階、及び、第1精製段階から得た精製ガスを、第1精製段階における圧力以下の圧力で、該精製ガスから、加圧下において二酸化炭素を含むガスを更に吸着除去して精製することにより、該精製ガスから水素を主として含むガスを回収する第2精製段階を含み、かつ、第2精製段階から回収された、水素を主として含むガスを、水素吸蔵合金が充填された容器に供給して、該容器中に高純度水素を貯蔵する水素貯蔵段階を更に含み、かつ、上記第1精製段階、第2精製段階及び水素貯蔵段階における圧力が、いずれも、0.15MPa以上0.6MPa以下の範囲内であることを特徴とする水素回収方法。
【請求項2】
上記の水素吸蔵合金が充填された容器が、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として、そのまま使用可能なカートリッジ形式である、請求項1記載の水素回収方法。
【請求項3】
上記の水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器が、自動車、バックアップ電源、無線機、携帯電話機、無人航空機及び家庭用熱電気供給システムより成る群から選ばれる、請求項2記載の水素回収方法。
【請求項4】
上記第1精製段階における圧力と、上記第2精製段階における圧力との差圧が、0〜0.3MPaである、請求項1〜のいずれか一つに記載の水素回収方法。
【請求項5】
上記熱分解ガスが、バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスを、更に、スチーム改質して得たガスを包含する、請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス熱分解ガスからの水素回収方法に関し、更に詳しくは、バイオマスを熱処理することにより得られる熱分解ガスから水素を精製して回収し、同時に精製した水素を、例えば、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として、そのまま使用可能な容器に貯蔵する方法に関する。本発明において、「熱分解ガス」と言うときは、上記のバイオマスを熱処理して得られる熱分解ガスのみならず、該熱分解ガスを、更にスチーム改質して得られるガスを含む。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池を応用した製品が普及し始めており、その一つとして、固体高分子型燃料電池を活用した家庭用熱電気供給システムが挙げられる。また、その他の例としては、燃料電池自動車が挙げられる。それに伴って、水素の製造技術、貯蔵技術及び輸送技術の研究開発が活発化してきている。
【0003】
一方、携帯電話やスマートフォンのような携帯端末機器も普及してきている。その電源としては、リチウムイオンバッテリーが使用されている。そして、該携帯端末の電池寿命の長寿命化を図るためにリチウムイオン電池の高性能化が推進されている。携帯端末機器の使用時間を延長するための方策としてリチウムイオン電池の高性能化が挙げられるが、それ以外の方法として、小型燃料電池と水素貯蔵容器(例えば、カートリッジ)とを一体化した携帯端末電源用機器も開発され、市場化されようとしている。その水素貯蔵容器として、水素吸蔵合金や、炭素・多孔性材料、無機錯体系材料、有機ケミカルハイドライド等の容器が研究されている。このように、近年、水素は種々の産業において注目されつつあり、その需要は大きく増大することが予想されている。
【0004】
従来から知られている水素を製造する方法としては、例えば、コークス炉ガスから水素を分離回収する方法、高炉ガスから水素を分離回収する方法、石油精製コンビナートで発生するナフサ改質ガスから水素を分離回収する方法、塩電界から発生する水素を分離回収する方法、水の電気分解により水素を製造する方法等が挙げられる。また、最近では、メタノール改質ガスから水素を分離回収する方法、あるいは天然ガス及びメタンガス改質から水素を分離回収する方法等の技術が確立し実用化されている。
【0005】
最近の新しい取り組みとしては、水素発酵菌を使用した藻類による水素製造方法、パワートゥガス(Power to Gas)と呼ばれる太陽光発電、風力発電及び小水力発電からの電力を利用した水の電気分解による水素製造方法、並びに、バイオマスの熱分解ガスにより得られた水素の分離回収方法等が提案されており、一部実証化されている。
【0006】
水素の貯蔵技術及び輸送技術としては、高圧ガスボンベに充填して貯蔵、輸送する方法、及び、ナフタレン又はトルエン等の有機溶剤を水素化して、例えば、ナフタレンであればテトラリンとして、トルエンであればメチルシクロヘキサンとして輸送し、需要先で、夫々、ナフタレンと水素、又は、トルエンと水素とに化学的に分離して、水素を使用する方法等が提案されている。
【0007】
上記のような水素を製造する方法においては、水の電気分解以外の方法では、得られた水素を他のガス、例えば、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン等の炭化水素ガス、又はトルエン、ナフタレン等から分離回収する必要がある。そして、このような水素ガスを他のガスから分離回収する方法が種々提案されている。
【0008】
二酸化炭素、窒素、水素及び一酸化炭素を含む高炉ガスについてのガス分離方法であって、二酸化炭素の吸着容量が最も大きく、かつ水素の吸着容量が一酸化炭素及び窒素の各々の吸着容量よりも小さい吸着剤、例えば、活性炭が充填された複数の吸着塔を用いて行う圧力変動吸着式ガス分離法、例えば、PSA(Pressure Swing Adsorption)により、高圧状態で、高炉ガス中の主として二酸化炭素を上記の吸着剤に吸着させ、非吸着ガスとして、主として水素を回収する高炉ガスの分離方法が開示されている(特許文献1)。実施例においては、3塔の吸着塔を備えた、1段階方式のPSAによる分離方法及びその装置が使用されており、そして、それにより高炉ガスからの二酸化炭素及び水素の分離が実施されている。該方法は1段階方式であり、圧力は300kPaと比較的低いものの、回収されたガス中の水素濃度は60〜70%と高いものではなかった。
【0009】
炭化水素と水とから水素を生成する改質反応を促進する改質触媒と、二酸化炭素吸収剤とを内蔵する改質反応管と、前記改質反応管に原料ガスを供給する供給部と、 前記改質反応管から出力される改質ガスを、水素濃度を高めた製品ガスと、非水素成分の濃度を高めたオフガスとに分離する精製部と、前記精製部からオフガスを前記供給部へ戻す戻し部と、前記改質反応管を減圧することにより前記改質反応管から二酸化炭素リッチガスを取り出す二酸化炭素取り出し部とを有することを特徴とする水素製造装置が開示されている(特許文献2)。この装置は、改質反応により生成する二酸化炭素を改質反応管内部で吸着させることにより、二酸化炭素濃度を低減させて、改質ガス中の水素を高濃度化させるものである。そのために、改質反応管内に二酸化炭素吸収材を充填する必要があり、かつ、該二酸化炭素吸収材を再生するために改質反応管を高温にする必要があった。
【0010】
炭化水素を原料として改質装置により水素含有ガスを製造し、製造された水素含有ガスを水素精製装置(PSA)により水素と水素以外のガス成分が濃縮された濃縮不純物ガスとに分離し、分離した水素を高純度水素として回収する水素製造装置において、前記濃縮不純物ガス中の可燃性成分を燃焼装置により燃焼し、燃焼ガス中の二酸化炭素を脱炭酸装置により除去することを特徴とする水素製造装置における二酸化炭素排出量の低減方法が開示されている(特許文献3)。ここで、脱炭酸装置には二酸化炭素吸着剤、例えば、酸化カルシウム吸着剤が充填されており、二酸化炭素を吸着除去することはできるが、吸着した二酸化炭素の再利用ができない。加えて、使用後の吸着剤はセメント固化材料として再利用は可能であるが、吸着剤としての再利用ができないという問題があった。
【0011】
液化天然ガスを供給形態とする天然ガスを水蒸気改質して水素に富む改質ガスとし、この改質ガスから水素を分離精製し、水素の精製工程で分離された可燃物を含むオフガスを主燃料として改質工程での燃焼加熱に用いる水素製造方法において、改質工程でのオフガス燃焼のための酸化剤として、液化天然ガスの液化冷熱を利用して深冷分離した純酸素又は高濃度の酸素を導入し、この燃焼で発生する燃焼排ガス中の炭酸ガスを高濃度にして、燃焼排ガスから炭酸ガスを容易に液体状態で分離・回収し、分離精製された水素を液化天然ガスで予冷却した後、この水素を深冷空気分離で得られた液化窒素で冷却して液化し、水素の予冷却に用いた後の液化天然ガスを炭酸ガスの液化に利用して、水素の改質工程に供給することを特徴とする液化CO回収を伴う水素製造方法が開示されている(特許文献4)。この方法は液化天然ガスを気化させる際に発生する冷熱を利用するため、使用場所が限定されるという問題があった。
【0012】
含炭素燃料から水素を製造するとともに二酸化炭素を回収する水素製造および二酸化炭素回収方法であって、含炭素燃料を改質して水素と二酸化炭素を含有する水素含有ガスを得る水素含有ガス製造工程;圧力スウィング吸着装置を用いて、該水素含有ガスを、水素が富化されたガスである第一の水素富化ガスと、水素以外の成分が富化されたガスであるPSAオフガスとに分離するPSA工程;二酸化炭素分離膜を用いて、該PSAオフガスを、二酸化炭素が富化されたガスである二酸化炭素富化ガスと、二酸化炭素以外の成分が富化されたガスである二酸化炭素分離膜オフガスとに分離する二酸化炭素膜分離工程;および、水素分離膜を用いて、該二酸化炭素分離膜オフガスを、水素が富化されたガスである第二の水素富化ガスと、水素以外の成分が富化されたガスである水素分離膜オフガスとに分離する水素膜分離工程を有する水素製造および二酸化炭素回収方法が開示されている(特許文献5)。該方法は、1段階方式のPSAによる分離方法及びその装置を使用するものであり、そして、PSAから排出されたオフガスを、更に、二酸化炭素分離膜、次いで、水素分離膜を使用して分離することにより、水素富化ガスと水素以外の成分が富化されたガスに分離するものである。
【0013】
不純ガスを含む水素ガスを、水素吸蔵合金を用いて高純度化する方法が提案されている(特許文献6)。該方法は、水素吸蔵合金に不純物を含む水素ガスを供給して水素ガスを吸蔵させ、不純物を除去したのち、水素吸蔵合金を加熱して水素を放出するものであり、圧力変化だけでなく加熱操作も必要となる。また、改質ガスからCOを除去する第1の除去工程と、得られたCO除去ガスからCO以外の不要ガスを除去する第2の除去工程と、得られた高純度水素をバッファタンクに貯蔵する一時貯蔵工程と、第2の除去工程からのオフガスから水素を回収する水素吸蔵放出工程を備え、上記の高純度水素及び水素吸蔵放出工程からの水素を、上記工程の吸着剤の再生用洗浄ガス及び吸着塔の昇圧用ガスとして使用する方法が提案されている(特許文献7)。該方法は、製品水素の損失を低減するとともに、改質ガスから高い回収率で高純度水素を回収しようとするものである。しかし、該方法においては、水素吸蔵合金に吸蔵した水素は吸着剤の再生用に使用されることから、回収される水素量はどうしても低いものとならざるを得ない。また、水素吸蔵合金からの水素放出温度は200℃という高い温度を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第5647388号公報
【特許文献2】特許第5134252号公報
【特許文献3】特開2004−292240号公報
【特許文献4】特許第3670229号公報
【特許文献5】特許第5039408号公報
【特許文献6】特許第3897854号公報
【特許文献7】特許第5690165号公報
【特許文献8】国際公開第2015/011826号
【特許文献9】国際出願JP2015/080452号
【特許文献10】特許第4246456号公報
【特許文献11】特許第5463050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスから、比較的低い圧力を使用して、二酸化炭素、一酸化炭素、メタン等の炭化水素ガスを吸着除去して、高濃度の水素ガスを効率よく回収することができるばかりではなく、同時に、回収した高濃度の水素ガスを所定の容器、好ましくは、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として、そのまま使用可能なカートリッジ形式の容器に貯蔵し得る、水素回収方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の従来技術は、水素と、二酸化炭素、一酸化炭素及びメタン等の炭化水素ガスとを含む混合ガスから、水素及び二酸化炭素を分離回収する方法であり、分離装置としては、吸着塔を複数並列に設置して使用する、いわゆる多塔式一段吸着分離方式のPSA装置を使用するものである。更に、二酸化炭素の分離又は除去を促進するために、該PSA装置に加えて、別途、吸着剤又は分離膜を組み合わせて使用するものである。上記の多塔式一段吸着分離方式のPSA装置では、比較的低い圧力で水素を分離回収することはできるが、回収されたガス中の水素濃度は十分に高いものとは言えなかった。また、圧力をあまり高くしたのでは、操業及び装置コストが増大するのみならず、操業の安全性の面からも好ましいものとは言えなかった。そこで、水素濃度を高めるために、吸着剤又は分離膜を組み合わせて使用することが考えられたが、これでは、やはりコスト高を生じ好ましいものとは言えなかった。
【0017】
上記問題を解決するために、本発明者らは、バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスから水素を回収する方法であって、上記熱分解ガスから、加圧下において二酸化炭素を吸着除去して、該熱分解ガスを精製する第1精製段階、及び、第1精製段階から得た精製ガスを、第1精製段階における圧力を維持したまま更に昇圧して、該精製ガスから、加圧下において水素以外のガスを吸着除去して更に精製することにより、該精製ガスから水素を回収する第2精製段階を含み、かつ、上記第1精製段階において吸着除去した二酸化炭素を回収することを特徴とする水素回収方法を、既に出願した(特許文献8)。該方法によれば、比較的低い圧力で、バイオマス熱分解ガスから、高濃度の水素を回収することが可能である。
【0018】
更に本発明者らは、上記のような、いわゆる多塔式二段吸着分離方式のPSA装置による水素回収方法について、第2精製段階における圧力を、第1精製段階における圧力以下としても、好ましくは、第1精製段階及び第2精製段階の両者の圧力を、0.15MPa以上0.6MPa以下という低い圧力にしても、バイオマス熱分解ガスから、二酸化炭素、一酸化炭素及びメタン等の炭化水素ガス等を良好に分離することができて、高い水素濃度を有するガスを回収し得ることを見出し、既に出願した(特許文献9)。該方法によれば、上記特許文献8記載の方法に比べて、更に低い圧力で、バイオマス熱分解ガスから、高濃度の水素を回収することが可能であることから、より効率的かつ経済的な操業が可能である。
【0019】
本発明者らは、これら特許文献8及び9記載の方法を更に改良すべく、更なる検討を試みた。その結果、バイオマス熱分解ガスを精製して水素を回収するばかりではなく、高濃度水素の回収と同時に貯蔵を実施できれば、水素の回収と貯蔵並びにその利用をより効率的に行うことができるのではないかと考えた。しかし、従来のように高圧ガスボンベに貯蔵するのでは取扱いが容易ではない。そこで、本発明者らは、水素吸蔵合金を使用して、水素吸蔵合金を充填した容器に水素を貯蔵することに思い至った。好ましくは、水素吸蔵合金を充填した容器を、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として、そのまま使用可能なカートリッジ形式すれば、水素を貯蔵した容器を、そのまま、所定の用途において使用可能なことから、著しく効率的に、水素の精製から使用までをストリームライン化し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
即ち、本発明は、
(1)バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスから水素を回収する方法であって、上記熱分解ガスから、加圧下において二酸化炭素を主として含むガスを吸着除去して、該熱分解ガスを精製する第1精製段階、及び、第1精製段階から得た精製ガスを、第1精製段階における圧力以下の圧力で、該精製ガスから、加圧下において二酸化炭素を含むガスを更に吸着除去して精製することにより、該精製ガスから水素を主として含むガスを回収する第2精製段階を含み、かつ、第2精製段階から回収された、水素を主として含むガスを、水素吸蔵合金が充填された容器に供給して、該容器中に高純度水素を貯蔵する水素貯蔵段階を更に含むことを特徴とする水素回収方法である。
【0021】
好ましい態様として、
(2)上記の水素吸蔵合金が充填された容器が、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として、そのまま使用可能なカートリッジ形式である、上記(1)記載の水素回収方法、
(3)上記の水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器が、自動車、バックアップ電源、無線機、携帯電話機、無人航空機及び家庭用熱電気供給システムより成る群から選ばれる、上記(2)記載の水素回収方法、
(4)上記水素吸蔵合金が、LaNi、LaNi4.7Al0.3、TiFe 0.9Mn0.1、MmNi4.15Fe0.35、CaNi、TiCrV及びLm-Ni系合金より成る群から選ばれる一つ以上である、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(5)上記水素貯蔵段階における圧力が、0.15MPa以上0.6MPa以下である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(6)上記水素貯蔵段階における圧力が、0.2MPa以上0.6MPa以下である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(7)上記水素貯蔵段階における圧力が、0.2MPa以上0.5MPa以下である、上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(8)上記水素貯蔵段階が、2器以上の、水素吸蔵合金が充填された容器を備えており、ここで、第2精製段階から回収された、水素を主として含むガス中の水素を、一の、水素吸蔵合金が充填された容器中の水素吸蔵合金に吸蔵せしめて、該容器に貯蔵し、次いで、他の一の、水素吸蔵合金が充填された容器に切り替えて、水素を主として含むガス中の水素を該水素吸蔵合金に吸蔵せしめて、該容器に貯蔵しつつ、既に、水素の貯蔵を完了した上記の一の容器を取り除いて、新たな水素吸蔵合金が充填された容器と交換することにより、水素の貯蔵を継続する、上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(9)上記水素貯蔵段階が、2〜5器の、水素吸蔵合金が充填された容器を備える、上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の方法、
(10)上記の水素吸蔵合金が充填された容器が、冷却及び/又は加熱可能な設備を備える、上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の方法、
(11)上記第1精製段階における圧力が、0.15MPa以上0.6MPa以下である、上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の方法、
(12)上記第1精製段階における圧力が、0.2MPa以上0.6MPa以下である、上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の方法、
(13)上記第1精製段階における圧力が、0.2MPa以上0.5MPa以下である、上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の方法、
(14)上記第2精製段階における圧力が、0.15MPa以上0.6MPa以下である、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の方法、
(15)上記第2精製段階における圧力が、0.2MPa以上0.6MPa以下である、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の方法、
(16)上記第2精製段階における圧力が、0.2MPa以上0.5MPa以下である、上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の方法、
(17)上記第1精製段階における圧力が、0.15MPa以上0.6MPa以下であり、かつ、上記第2精製段階における圧力が、0.15MPa以上0.6MPa以下である、上記(1)〜(16)のいずれか一つに記載の方法、
(18)上記第1精製段階における圧力が、0.2MPa以上0.6MPa以下であり、かつ、上記第2精製段階における圧力が、0.2MPa以上0.6MPa以下である、上記(1)〜(16)のいずれか一つに記載の方法、
(19)上記第1精製段階における圧力が、0.2MPa以上0.6MPa以下であり、かつ、上記第2精製段階における圧力が、0.2MPa以上0.5MPa以下である、上記(1)〜(16)のいずれか一つに記載の方法、
(20)上記第1精製段階、第2精製段階及び水素貯蔵段階における温度が、いずれも、0〜100℃の範囲である、上記(1)〜(19)のいずれか一つに記載の方法、
(21)上記第1精製段階、第2精製段階及び水素貯蔵段階における温度が、いずれも、10〜40℃の範囲である、上記(1)〜(19)のいずれか一つに記載の方法、
(22)上記第1精製段階、第2精製段階及び水素貯蔵段階における温度が、いずれも、環境温度である、上記(1)〜(19)のいずれか一つに記載の方法、
(23)上記第1精製段階において吸着除去した二酸化炭素を主として含むガスを回収する、上記(1)〜(22)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(24)上記第1精製段階における圧力と、上記第2精製段階における圧力との差圧が、0〜0.45MPaである、上記(1)〜(23)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(25)上記第1精製段階における圧力と、上記第2精製段階における圧力との差圧が、0〜0.4MPaである、上記(1)〜(23)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(26)上記第1精製段階における圧力と、上記第2精製段階における圧力との差圧が、0〜0.3MPaである、上記(1)〜(23)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(27)上記第1精製段階における圧力と、上記第2精製段階における圧力との差圧が、0〜0.2MPaである、上記(1)〜(23)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(28)上記第1精製段階における圧力と、上記第2精製段階における圧力との差圧が、0〜0.1MPaである、上記(1)〜(23)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(29)上記第1精製段階が2塔以上の吸着塔を備えており、ここで、一の吸着塔において、二酸化炭素を主として含むガスを吸着除去して熱分解ガスを精製し、次いで、他の一の吸着塔に切り替えて、二酸化炭素を主として含むガスを吸着除去して熱分解ガスを精製しつつ、既に、二酸化炭素を主として含むガスを吸着除去した上記一の吸着塔において、吸着除去した二酸化炭素を主として含むガスを、吸着塔内の圧力を低下させることにより脱着回収する、上記(1)〜(28)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(30)上記第1精製段階が2〜5塔の吸着塔を備える、上記(1)〜(29)のいずれか一つに記載の方法、
(31)上記第2精製段階が2塔以上の吸着塔を備えており、ここで、一の吸着塔において、二酸化炭素を含むガスを吸着除去して、第1精製段階において精製された熱分解ガスを更に精製し、次いで、他の一の吸着塔に切り替えて、二酸化炭素を含むガスを吸着除去して、第1精製段階において精製された熱分解ガスを更に精製しつつ、既に、二酸化炭素を含むガスを吸着除去した上記一の吸着塔において、吸着除去した二酸化炭素を含むガスを、吸着塔内の圧力を低下させることにより脱着回収する、上記(1)〜(30)のいずれか一つに記載の水素回収方法、
(32)上記第2精製段階が2〜5塔の吸着塔を備える、上記(1)〜(31)のいずれか一つに記載の方法、
(33)上記第1精製段階及び第2精製段階が、いずれも圧力変動吸着(PSA)装置により構成される、上記(1)〜(32)のいずれか一つに記載の方法、
(34)上記第1精製段階において二酸化炭素を主として含むガスの吸着除去に使用する吸着剤が、イモゴライト、非晶質アルミニウムケイ酸塩、活性炭、ゼオライト及び活性アルミナより成る群から選ばれる1つ以上である、上記(1)〜(33)のいずれか一つに記載の方法、
(35)上記第1精製段階において二酸化炭素を主として含むガスの吸着除去に使用する吸着剤が、イモゴライトである、上記(1)〜(33)のいずれか一つに記載の方法、
(36)上記第2精製段階において二酸化炭素を含むガスの吸着除去に使用する吸着剤が、イモゴライト、非晶質アルミニウムケイ酸塩、活性炭、ゼオライト及び活性アルミナより成る群から選ばれる1つ以上である、上記(1)〜(35)のいずれか一つに記載の方法、
(37)上記第2精製段階において二酸化炭素を含むガスの吸着除去に使用する吸着剤が、活性炭又はゼオライトである、上記(1)〜(35)のいずれか一つに記載の方法、
(38)上記第2精製段階において吸着除去される二酸化炭素を含むガスが、水素、二酸化炭素及びメタンを含むガスである、上記(1)〜(37)のいずれか一つに記載の方法、
(39)上記熱分解ガスが、バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスを、更に、スチーム改質して得たガスを包含する、上記(1)〜(38)のいずれか一つに記載の方法
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水素回収方法は、比較的低い圧力を使用して、高濃度の水素ガスを回収することができ、加えて、従来技術において使用していたような特殊な物質又は装置、例えば、吸着剤、分離膜等を組み合わせる必要がないことから、消費電力量等の操業コストを大幅に削減し得るばかりではなく、装置コストの大幅な削減にも寄与し得る。加えて、操作圧力が低いことから、操業における安全性を著しく高めることができる。また、全体として消費電力量を低減し得ることから、間接的に二酸化炭素の発生量の軽減にも貢献することができる。とりわけ、本発明の水素回収方法においては、水素の回収と貯蔵とを同時に実施することから、また、好ましくは、水素の貯蔵を、燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として、そのまま使用可能なカートリッジ形式の容器に行うことから、極めて効率的に水素の回収と貯蔵並びにその利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の水素回収方法の全体フローを示した概略図である。
図2図2は、本発明の水素回収方法に使用し得る水素精製貯蔵装置(第1精製段階、第2精製段階及び水素貯蔵段階)の一実施態様の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の水素回収方法は、バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスから、二酸化炭素を主として含むガスを吸着除去する第1精製段階、及び、第1精製段階で得た精製ガスから、二酸化炭素を含むガスを吸着除去する第2精製段階、並びに、第2精製段階から回収された、水素を主として含むガスから、高純度水素を水素吸蔵合金に吸蔵せしめて貯蔵する水素貯蔵段階を含む。図1に示すように、バイオマス(a)がバイオマス熱処理段階(III)(熱処理装置)に装入されて熱分解ガス(b)が生成される。ここで、熱分解ガス(b)は、バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスを、更に、スチーム改質して得たガス、即ち、改質ガスであってもよい。次いで、生成された熱分解ガス(b)が、第1精製段階(I)に装入されて、ここで、該熱分解ガス(b)中に含まれる二酸化炭素を主として含むガス(e)、例えば、主として二酸化炭素を含み、その他、一酸化炭素、メタン及び水素等を含むガスが、吸着剤により吸着されて除去される。二酸化炭素を主として含むガス(e)が除去された精製ガス(以下、「第1精製ガス」と言うことがある。)(c)は、次いで、第2精製段階(II)に装入されて、ここでは、二酸化炭素を含むガス(f)、例えば、水素、二酸化炭素及びメタン、任意的に一酸化炭素等を含むガスが吸着剤により吸着除去される。一方、第1精製段階(I)において吸着された、二酸化炭素を主として含むガス(e)、及び、第2精製段階(II)において吸着された、二酸化炭素を含むガス(f)は、吸着剤から脱着されて別途回収される。二酸化炭素を主として含むガス(e)及び二酸化炭素を含むガス(f)が除去された、水素を主として含むガス(以下、「第2精製ガス」と言うことがある。)(d)は、次いで、水素貯蔵段階(IV)に装入されて、ここでは、ほぼ水素のみが水素吸蔵合金に吸蔵されて高純度水素(h)が貯蔵され、二酸化炭素を含む排ガス(以下、「水素吸蔵段階オフガス」と言うことがある。)(g)が排出される。ここで、二酸化炭素を主として含むガス(e)とは、該ガス中に体積比で二酸化炭素を最も多く含むガスを言い、二酸化炭素以外には、一酸化炭素、メタン及び水素を含み、その他、硫化水素及び硫化カルボニル等の硫黄化合物ガス、窒素化合物ガス等を含むこともある。二酸化炭素を含むガス(f)とは、水素、二酸化炭素及びメタンを含むガスであり、その他、一酸化炭素、硫黄化合物ガス、窒素化合物ガス等を含むこともある。また、水素吸蔵段階オフガス(g)は、該ガス中に体積比で二酸化炭素を最も多く含み、その他、メタン、並びに、微量の水素及び一酸化炭素を含むことがある。
【0025】
第1精製段階においては、バイオマス熱分解ガスから、まず、主として二酸化炭素(二酸化炭素を主として含むガス)が吸着除去される。また、バイオマス熱分解ガス中の水分も吸着除去され得る。該吸着除去は加圧下において実行される。該圧力は、上限が、好ましくは0.6MPaであり、より好ましくは0.5MPaであり、下限が、好ましくは0.15MPa、より好ましくは0.2MPaである。上記下限未満では、吸着剤の吸着能力が低下するため好ましくない。また、上記下限未満においても、二酸化炭素を主として含むガスの吸着及び脱着は可能ではあるが、吸着能力が低下するため多量の吸着剤を必要とすることから、吸着層が過大となる。一方、上記上限を超えては、加圧に多大な動力を必要とするため好ましくない。また、第1精製段階における操作温度、即ち、二酸化炭素、一酸化炭素及びメタン等の炭化水素ガスを同時に吸着せしめる操作温度は、好ましくは0〜100℃であり、より好ましくは10〜40℃である。該操作は、通常、環境温度で実行される。
【0026】
第1精製段階における吸着剤としては、好ましくは、イモゴライト、非晶質アルミニウムケイ酸塩、活性炭、ゼオライト及び活性アルミナより成る群から選ばれる1つ以上、より好ましくは、イモゴライト、非晶質アルミニウムケイ酸塩、活性炭及びゼオライトより成る群から選ばれる1つ以上が使用される。これらを単独層として、又は、複数積層して使用することができる。更に好ましくは、イモゴライトの単独層、又は、非晶質アルミニウムケイ酸塩の単独層が使用される。ここで、非晶質アルミニウムケイ酸塩としては、好ましくは、合成非晶質アルミニウムケイ酸塩(合成イモゴライト)が使用される。合成非晶質アルミニウムケイ酸塩としては、市販品、例えば、戸田工業株式会社製ハスクレイ(登録商標)を使用することができる。
【0027】
第1精製段階においては、バイオマス熱分解ガス中に存在する二酸化炭素の30〜80体積%を除去することができる。通常、バイオマス熱分解ガス中には、二酸化炭素は20〜40体積%存在していることから、第1精製段階における精製により、バイオマス熱分解ガス中に存在している二酸化炭素の体積を約5〜35体積%に減らすことができる。このようにして、第1精製段階において吸着除去された二酸化炭素及びその他のガス(二酸化炭素を主として含むガス)は、塔内圧力を常圧まで低下させることにより、吸着剤から脱着されて回収される。
【0028】
第1精製段階は、好ましくは圧力変動吸着(PSA)装置により構成されている。第1精製段階においては、上記吸着剤が充填されている吸着塔(PSA吸着塔)が、好ましくは2塔以上、より好ましくは2〜5塔備えられている。
【0029】
第1精製段階における操作方法としては、主として下記の2種類が挙げられる。一の方法として、いわゆる連続法が挙げられる。バイオマス熱分解ガスが、上記圧力に加圧されて、同一の圧力に保持されたまま、一の吸着塔に所定時間連続的に流通され、該吸着塔において、二酸化炭素を主として含むガス、及び、任意的に水が吸着剤に吸着されて除去され、未吸着のガス、即ち、精製ガスが連続的に取り出される。次いで、他の一の吸着塔に切り替えられて、上記と同様に、バイオマス熱分解ガスが所定時間連続的に流通されて、該他の一の吸着塔において、二酸化炭素を主として含むガスが吸着されて除去され、精製ガスが連続的に取り出される。その際、既に吸着操作が終了している上記一の吸着塔が減圧されて、吸着されている二酸化炭素を主として含むガスが脱着されて回収される。その後、該一の吸着塔は、必要なら吸着剤が再生されて、再度、バイオマス熱分解ガスが流通される。これらの操作が順次繰り返される方法である。
【0030】
上記の連続法において、上記の一の吸着塔から他の一の吸着塔への切り替えは、一の吸着塔に充填された吸着剤による二酸化炭素等の吸着能力の低下時間(破過時間)を考慮して、該吸着能力が低下しない範囲内の時間で行われる。該時間は、バイオマス熱分解ガスの処理量及びその中の二酸化炭素等の量、吸着塔の容量、その中に充填されている吸着剤の種類及び量等に依存するが、通常、2〜30分間程度である。該時間は、通常、除去後の第1精製ガス中の二酸化炭素濃度、及び、第1精製段階で吸着除去して回収されたガス中の二酸化炭素濃度を測定し、除去後の第1精製ガス中の二酸化炭素濃度が最小になるように、予め、実験的に決定される。あるいは又は加えて、吸着塔から流出する第1精製ガス中の水素又は二酸化炭素濃度を連続的又は断続的に測定し、第1精製ガス中の水素濃度が所定値未満になった時、あるいは二酸化炭素濃度が所定値を超えた時に、一の吸着塔から他の一の吸着塔への切り替えを実施することもできる。次いで、他の一の吸着塔へのバイオマス熱分解ガスの装入が開始された後、既に、二酸化炭素を主として含むガスを吸着除去した上記一の吸着塔において、吸着除去した二酸化炭素を主として含むガスを、塔内圧力を、好ましくは略大気圧まで低下させることにより吸着剤から脱着して回収する。
【0031】
他の一の方法としては、いわゆる半連続法が挙げられる。バイオマス熱分解ガスが、一の吸着塔に上記圧力に加圧されて充填され、該圧力で所定時間保持されて、該吸着塔において、二酸化炭素を主として含むガス、及び、任意的に水が吸着剤に吸着されて除去される。次いで、他の一の吸着塔に切り替えられて、上記と同様に、バイオマス熱分解ガスが充填及び所定時間保持されて、該他の一の吸着塔において、二酸化炭素を主として含むガスが吸着されて除去される。他の一の吸着塔に切り替えられた後、既に吸着操作が終了している上記一の吸着塔が所定圧力まで減圧されて、未吸着のガス、即ち、精製ガスが取り出される。その後、更に、上記一の吸着塔が減圧されて、吸着されている二酸化炭素を主として含むガスが、脱着されて回収される。その後、該一の吸着塔は、必要なら吸着剤が再生されて、再度、バイオマス熱分解ガスが充填及び保持される。これらの操作が順次繰り返される方法である。
【0032】
上記の半連続法においては、上記の一の吸着塔から他の一の吸着塔への切り替えは、一の吸着塔に充填された吸着剤による二酸化炭素等の吸着能力と、充填されたバイオマス熱分解ガス中の二酸化炭素等の量との関係を考慮して、充填された吸着剤が、二酸化炭素等を吸着するために十分な時間で実施される。該時間は、バイオマス熱分解ガスの充填量及びその中の二酸化炭素等の量、吸着塔の容量、その中に充填されている吸着剤の種類及び量等に依存するが、通常、2〜30分間程度である。該時間は、通常、吸着除去後の第1精製ガス中の二酸化炭素濃度、及び、第1精製段階で吸着除去して回収されたガス中の二酸化炭素濃度を測定し、除去後の第1精製ガス中の二酸化炭素濃度が最小になるように、予め、実験的に決定される。あるいは又は加えて、吸着塔内のガス中の水素又は二酸化炭素濃度を連続的又は断続的に測定し、吸着塔内のガス中の水素濃度が所定値を超えた時、あるいは二酸化炭素濃度が所定値未満になった時に、一の吸着塔から他の一の吸着塔への切り替えを実施することもできる。次いで、一の吸着塔における吸着操作が終了した後、一の吸着塔の圧力が所定圧力に減圧されて、未吸着のガス、即ち、精製ガスが一の吸着塔から取り出される。該所定圧力は、充填した吸着剤の種類、細孔容積及び比表面積等、吸着操作時の最大圧力、並びに、操作温度等を考慮して、既に吸着除去された二酸化炭素等のガスが脱着されない範囲で、予め、実験的に決定される。通常、0.15〜0.3MPa程度である。次いで、該一の吸着塔の塔内圧力を、好ましくは略大気圧まで低下させることにより、吸着除去された二酸化炭素を主として含むガスを吸着剤から脱着して回収する。
【0033】
上記のようにして、第1精製段階から得られた精製ガス(第1精製ガス)は、第1精製段階における上記圧力が維持されたまま、又は、上記圧力以下に減圧されて、第2精製段階へと装入される。この際、第1精製段階と第2精製段階との間に容器を設けて、一端、第1精製ガスを減圧し、好ましくは0.1〜0.3MPa、より好ましくは0.1〜0.2MPaに減圧し、次いで、加圧装置、例えば、コンプレッサーにより、再度昇圧して、第2精製段階へと装入することもできる。
【0034】
第2精製段階においては、第1精製ガスから、二酸化炭素を含むガス、例えば、水素、二酸化炭素及びメタン、任意的に一酸化炭素等を含むガスが吸着除去される。また、硫黄化合物ガス、窒素化合物ガス等が含まれていれば、これらも吸着除去される。第2精製段階における二酸化炭素を含むガスの吸着除去は、加圧下で実行される。該圧力は、上限が、好ましくは0.6MPaであり、より好ましくは0.5MPaであり、下限が、好ましくは0.15MPa、より好ましくは0.2MPaである。上記下限未満では、吸着剤の吸着能力が低下するため好ましくない。また、上記下限未満においても、水素以外のガス、例えば、主としてメタン、一酸化炭素等の吸着及び脱着は可能ではあるが、吸着能力が低下するため多量の吸着剤を必要とすることから、吸着層が過大となる。一方、上記上限を超えては、加圧に多大な動力を必要とするため好ましくない。上記の第1精製段階において二酸化炭素を主として含むガスを吸着除去する圧力と、第2精製段階において二酸化炭素を含むガスを吸着除去する圧力との差圧は、好ましくは0〜0.45MPa、より好ましくは0〜0.4MPa、更に好ましくは0〜0.3MPa、最も好ましくは0〜0.1MPaである。このような圧力差を採ることにより、第1精製段階及び第2精製段階におけるガスの吸着除去を効率的に実施することができる。また、第2精製段階の操作温度は、第1精製段階の操作温度と同一であり、好ましくは0〜100℃であり、より好ましくは10〜40℃である。第2精製段階は、通常、環境温度で実行される。
【0035】
第2精製段階における吸着剤としては、好ましくは、イモゴライト、非晶質アルミニウムケイ酸塩、活性炭、活性アルミナ及びゼオライトより成る群から選ばれる1つ以上が使用される。これらを単独層、又は、複数積層して使用することができる。より好ましくは、活性炭又はゼオライトの単独層が使用される。
【0036】
第2精製段階は、好ましくは、高純度水素を回収するために使用される通常の水素圧力変動吸着(水素PSA)装置により構成されている。第2精製段階においては、上記吸着剤が充填されている吸着塔(水素PSA吸着塔)が、好ましくは2塔以上、より好ましくは2〜5塔備えられている。
【0037】
第2精製段階における操作方法も、第1精製段階における操作方法と同じく連続法及び半連続法の2種類が挙げられる。連続法及び半連続法における吸着操作及び吸着塔の切り替え等の操作は、いずれも上記の第1精製段階において記載した操作と同様にして実施される。
【0038】
本発明の水素回収方法においては、上記のように第1精製段階及び第2精製段階を組み合わせることにより、90体積%以上の純度を持つ水素を回収することができる。
【0039】
上記のようにして、第2精製段階から得られた精製ガス(第2精製ガス)は、第2精製段階における上記圧力が維持されたまま、又は、上記圧力以上に加圧され若しくは上記圧力以下に減圧されて、水素貯蔵段階へと装入される。この際、第2精製段階と水素貯蔵段階との間に容器を設けて、一端、第2精製ガスを減圧し、好ましくは0.1〜0.3MPa、より好ましくは0.1〜0.2MPaに減圧し、次いで、加圧装置、例えば、コンプレッサーにより、再度昇圧して、水素貯蔵段階へと装入することもできる。
【0040】
水素貯蔵段階においては、第2精製ガス中に含まれるほぼ水素のみが水素吸蔵合金に吸蔵されて貯蔵され、二酸化炭素を含むガス(水素吸蔵段階オフガス)が排出される。水素貯蔵段階における水素の水素吸蔵合金への吸蔵は、加圧下で実行される。該圧力は、使用する水素吸蔵合金の水素ガス解離平衡圧に依存するが、上限が、好ましくは0.6MPaであり、より好ましくは0.5MPaであり、下限が、好ましくは0.15MPa、より好ましくは0.2MPaである。上記下限未満では、水素吸蔵合金の吸蔵能力が低下するため好ましくない。一方、上記上限を超えては、加圧に多大な動力を必要とするため好ましくない。また、水素貯蔵段階の操作温度は、第1及び第2精製段階の操作温度と同一であり、好ましくは0〜100℃であり、より好ましくは10〜40℃である。水素貯蔵段階は、通常、環境温度で実行される。
【0041】
水素貯蔵段階において容器中に充填される水素吸蔵合金には、特に制限はないが、好ましくは、常温で水素を吸蔵しかつ放出し得るものが使用される。例えば、LaNi、LaNi4.7Al0.3、TiFe 0.9Mn0.1、MmNi4.15Fe0.35、CaNi、TiCrV、Lm-Ni系合金等が挙げられ、好ましくは、常温で水素を吸蔵しかつ放出し得る、LaNi、CaNi、TiCrV、Lm-Ni系合金等が挙げられる。これらを単独層、又は、複数積層して使用することができる。より好ましくは、Lm-Ni系合金の単独層が使用される。ここで、Mmはミッシュメタルを意味し、Lmはランタンリッチミッシュメタルを意味する。
【0042】
水素貯蔵段階における操作方法も、第1及び第2精製段階における操作方法と同じく連続法及び半連続法の2種類が挙げられる。好ましくは、連続法が使用される。連続法においては、第2精製ガスが、上記圧力に加圧されて、同一の圧力に保持されたまま、水素吸蔵合金が充填された一の容器に所定時間連続的に流通され、該水素吸蔵合金が充填された容器において、ほぼ水素のみが水素吸蔵合金に吸蔵され、吸蔵されなかったガス、即ち、二酸化炭素を主体とする水素吸蔵段階オフガスが水素から分離されて、連続的に取り出される。次いで、水素吸蔵合金が充填された他の一の容器に切り替えられて、上記と同様に、第2精製ガスが所定時間連続的に流通されて、該他の一の容器において、ほぼ水素のみが水素吸蔵合金に吸蔵され、二酸化炭素を主体とする水素吸蔵段階オフガスが水素から分離されて、連続的に取り出される。このようにして、第2精製ガス中のほぼ水素のみが水素吸蔵合金に吸蔵されて該容器中に貯蔵される。水素の吸蔵が完了した容器は減圧されて、吸蔵された水素を放出することにより回収することができる。これらの操作を順次繰り返すことにより連続操作を継続することができる。
【0043】
上記の連続法において、上記の水素吸蔵合金が充填された一の容器から、水素吸蔵合金が充填された他の一の容器への切り替えは、一の容器に充填された水素吸蔵合金による水素の吸蔵能力の低下時間を考慮して、該吸蔵能力が低下しない範囲内の時間で行われる。該時間は、第2精製ガスの処理量及びその中の水素の量、容器の容量、その中に充填されている水素吸蔵合金の種類及び量等に依存するが、通常、1〜30分間程度である。該時間は、通常、水素を吸蔵した後の水素吸蔵段階オフガス中の水素濃度、及び、水素吸蔵段階で水素吸蔵合金に吸蔵されて回収されたガス中の水素濃度を測定し、水素吸蔵段階オフガス中の水素濃度が最小になるように、予め、実験的に決定される。あるいは又は加えて、水素吸蔵合金が充填された容器から流出する水素吸蔵段階オフガス中の水素及び/又は二酸化炭素濃度を連続的又は断続的に測定し、水素吸蔵段階オフガス中の水素濃度が所定値以上になった時、あるいは二酸化炭素濃度が所定値以下になったときに、一の容器から他の一の容器への切り替えを実施することもできる。次いで、水素吸蔵合金が充填された他の一の容器への第2精製ガスの装入が開始された後、既に、水素吸蔵合金に水素の吸蔵を完了した上記一の容器において、吸蔵した水素を、容器内圧力を、好ましくは略大気圧まで低下させることにより水素吸蔵合金から放出せしめて回収する。
【0044】
上記において説明した連続法においては、水素吸蔵合金が充填された容器に貯蔵された水素を、その場で、即ち、本発明の方法を実施する装置の近隣で使用する場合に適している。かかる場合には、水素吸蔵合金が充填された容器は、装置中に設置したままで移動することがないことから、通常、塔式の容器が使用されることが好ましい。水素吸蔵合金が充填された容器に、一端貯蔵された水素は、直ちに取り出されて、配管等で移送されて使用される。より好ましくは、水素吸蔵合金が充填された容器は、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として、そのまま使用可能なカートリッジ形式にされる。かかる場合においては、水素吸蔵合金に水素の吸蔵が完了して、水素が貯蔵された容器は、減圧されることなく装置から取り外され、次いで、新しい水素吸蔵合金が充填された容器が取り付けられて交換される。このようにして、装置の連続操作が実行される。そして、取り外された水素が貯蔵された容器は、直ちに、又は、保管された後、所定の用途に使用される。水素吸蔵合金が充填された容器は、燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器と同一の形状等に設計される。燃料電池を搭載した機器としては、例えば、自動車、バックアップ電源、無線機、スマートフォン等の携帯電話機、ドローン等の無人航空機、及び、家庭用熱電気供給システム等が挙げられる。
【0045】
バイオマス(a)を熱処理して熱分解ガス(b)を製造する方法及び装置は公知である。例えば、有機系廃棄物等のバイオマスを非酸化性雰囲気下において500〜600℃で加熱し、発生した熱分解ガスを900〜1,000℃でスチームと混合せしめ、次いで、得た改質ガスを精製して水素を回収する方法(特許文献10)、有機系廃棄物を非酸化性雰囲気下において400〜700℃で加熱し、発生した熱分解ガスを700〜1,000℃でスチームと混合せしめ、次いで、得た改質ガスを精製して水素含有ガスを製造する有機系廃棄物のガス化方法において、改質ガスの精製が、400〜700℃に保持された、アルミニウム酸化物及び/又はその成形体を含む層に改質ガスを通過させ、次いで、得られたガスを、更に、350〜500℃に保持された、亜鉛酸化物、鉄酸化物、カルシウム酸化物及びこれらの成形体より成る群から選ばれる一つ以上の物質を含む層に通過させることにより実施され、次いで、精製後の改質ガスが、200〜500℃でシフト反応触媒層を通過されることを特徴とする有機系廃棄物のガス化方法(特許文献11)等を使用することができる。熱分解ガス(b)としては、上記方法等において得られた、スチームによる改質前の熱分解ガスを使用することができるが、該熱分解ガスをスチーム改質してより水素濃度を高くしたガスを使用することが好ましい。ここで、バイオマス(a)としては、特許文献9及び10に記載されているものであれば特に制限されるものではないが、例えば、パームの木から発生する廃材(エンプティーフルーツバンチ:EFB、EFBファイバー、パームカーネルシェル)、ココナッツシェル、やし殻、ジャトロファの木から発生する廃材、森林から発生する未利用廃木材、製材工場から発生する製材所廃材、古紙、稲わら、もみ殻、食品工場から発生する食品残渣、藻類、下水汚泥、有機汚泥等が挙げられる。
【0046】
本発明における水素回収方法においては、本発明の効果を損なわない範囲で、更に、他の物質の精製工程をも含めることができる。例えば、バイオマスとして、セシウム等の放射性物質を含むものを使用した際には、本発明の二酸化炭素を吸着除去する第1精製段階に先立って、セシウム等の放射性物質を吸着除去する工程を設けることもできる。これにより、放射性廃棄物等を含むバイオマスからの水素の回収にも使用することができる。
【0047】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
実施例において使用したバイオマス原料は、下記の通りである。
【0049】
バイオマス原料としては、鉛筆製造廃木材(北星鉛筆株式会社製、アメリカ合衆国カリフォルニア州産インセンスシダー由来のもの)を使用した。該鉛筆製造廃木材は、おが粉状の形状であった。該鉛筆製造廃木材の性状を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1中、工業分析値は、JIS M8812に準拠して測定したものであり、元素分析値は、JIS M8819に準拠して測定したものである。但し、元素分析値中、硫黄及び塩素は、燃焼−イオンクロマトグラフ法[燃焼部:株式会社三菱化学アナリテック製Automatic Quick Fumace AQF−100(商標)、ガス吸収部:株式会社三菱化学アナリテック製Gas Absorptior Unite GA−100(商標)、検出部:DIONEX社製イオンクロマトグラフ Ion Chromatography System ICS−1000(商標)]で測定したものである。なお、酸素は、100質量%から酸素以外の元素量を差し引いて算出したものである。また、低位発熱量は、JIS M8814に準拠して測定したものである。ここで、全ての値は乾燥基準で算出したものである。
【0052】
(実施例1)
バイオマス原料の熱分解及びガス改質には、直径:50ミリメートル、高さ:500ミリメートルの円筒状石英管を熱分解反応器として使用し、かつ、直径:50ミリメートル、高さ:500ミリメートルの円筒状ステンレス製管を改質反応器として使用した。上記熱分解反応器に、約1グラム(乾燥重量)の上記鉛筆製造廃木材を装入し、アルゴンガスを50ミリリットル/分で流通しつつ、550℃の温度で上記鉛筆製造廃木材の熱分解処理を実施した。次いで、得られた熱分解ガスの全量を上記改質反応器に送り込み、同時に、蒸留水を0.04ミリリットル/分の量で上記改質反応器の加熱ゾーンに供給して蒸発させることにより水蒸気とし、950℃の温度で熱分解ガスの改質を実施した。これによりアルゴンガスと改質ガスとの混合ガスが8.25リットル(0℃、1atm基準)得られた。ここで、該混合ガス中、改質ガスが3.18リットルであり、アルゴンガスが5.07リットルであった。該混合ガスをガスクロマトグラフィー[島津製作所製GC−14A(商標)、キャリアーガス:アルゴン]を使用して分析した。該混合ガス中に含まれる改質ガスの組成は、下記の表2に示す通りであり、水素濃度は61.42体積%であり、一方、二酸化炭素濃度は23.02体積%であり、一酸化炭素濃度は8.89体積%であり、メタン濃度は6.67体積%であった。上記ガスクロマトグラフィーによる分析においては、キャリアーガスとしてアルゴンを使用していることから、分析に供した混合ガス中のアルゴンは検出されない。次いで、上記のようにして得られた熱分解後の改質ガスを使用して水素ガスを回収するガス精製試験を実施した。また、上記改質ガスの製造は、下記において説明するガス精製試験を十分に実施し得るガス量を得るべく繰り返して実施された。
【0053】
【表2】
【0054】
水素回収貯蔵装置としては、図2に示したものを使用した。第1精製段階(A)においては、4塔の吸着塔(11,12,13,14)を並列に接続して使用した。4塔の吸着塔はいずれもステンレス鋼(SUS304)製であり、いずれも内径40ミリメートル、高さ300ミリメートルの円筒形であった。各吸着塔には、夫々、吸着剤として合成イモゴライト(戸田工業株式会社製ハスクレイGIII(商標))約60グラムを充填した。使用した合成イモゴライトの細孔容積は1cm/gであり、比表面積は約500m/gであった。
【0055】
第2精製段階(B)おいては、4塔の吸着塔(21,22,23,24)を並列に接続して使用した。これらの吸着塔の材質並びに寸法及び形状は、第1精製段階(A)において使用した吸着塔と同一とした。各吸着塔には、夫々、吸着剤として、活性炭(株式会社日本エンバイロテック製活性炭白鷺X2M(商標))約120グラムを充填した。
【0056】
水素貯蔵段階(C)おいては、4塔の吸着塔(101,102,103,104)を並列に接続して使用した。これらの吸着塔の材質並びに寸法及び形状は、ステンレス鋼(SUS304)製であり、いずれも内径10ミリメートル、高さ40ミリメートルの円筒形であった。各吸着塔には、外筒及びその中に冷却水又は加温水を循環できる配管を備え付けた。各吸着塔には、夫々、吸着剤として、水素吸蔵合金Lm−Ni系合金(日本重化学工業株式会社製水素吸蔵合金)約100グラムを充填した。
【0057】
図2に示したように、第1精製段階(A)と第2精製段階(B)との間、及び、第2精製段階(B)と水素貯蔵段階(C)との間に、夫々、中間タンク(31)及び(32)を設置した。本実施例では、該中間タンク(31)及び(32)としては、内容積10リットルの天然ゴム製のガス袋を使用した。
【0058】
上記のように、鉛筆製造廃木材を熱処理及び改質して得られた、熱分解後の改質ガスを、第1精製段階(A)の第1吸着塔(11)に装入した。まず、第1吸着塔(11)の入口バルブ(VI11)を開とし、出口バルブ(VO11)及び吸着ガス抜出しバルブ(VM11)を閉とした。この際、第2吸着塔(12)、第3吸着塔(13)及び第4吸着塔(14)の入口バルブ(VI12,VI13,VI14)、出口バルブ(VO12,VO13,VO14)及び吸着ガス抜出しバルブ(VM12,VM13,VM14)の全てを閉とした。コンプレッサー(10)により、第1吸着塔(11)内の圧力が0.5MPaとなるように、熱分解後の改質ガスを装入した。装入された混合ガス量は約2.56リットル(0℃、1atm)であった。次いで、入口バルブ(VI11)を閉として、この状態で、第1吸着塔(11)を5分間保持し、二酸化炭素を主として含むガスを吸着させた。次いで、出口バルブ(VO11)を開として、第1吸着塔(11)内の圧力が0.2MPaとなるまで減圧し、出口バルブ(VO11)を閉とした。抜き出した第1精製ガス(L1)を中間タンク(31)に導入した。次いで、吸着ガス抜出しバルブ(VM11)を開として、第1吸着塔(11)内の圧力が0.1MPaとなるまで減圧し、吸着ガス抜出しバルブ(VM11)を閉とした。抜き出した二酸化炭素を主として含むガスを第1精製段階オフガス(L2)として回収した。次いで、第1吸着塔(11)内にアルゴンガスが、洗浄ガス導入口及び排出口(図示せず)から導入、排出されて吸着剤が再生された。
【0059】
上記の操作において、第1吸着塔(11)内の圧力が0.5MPaとなり、入口バルブ(VI11)を閉とするのとほぼ同時に、第2吸着塔(12)の入口バルブ(VI12)を開とし、出口バルブ(VO12)及び吸着ガス抜出しバルブ(VM12)を閉とした状態において、コンプレッサー(10)により、第2吸着塔(12)内の圧力が0.5MPaとなるように、熱分解後の改質ガスを装入し、第1吸着塔(11)と同一の操作を第2吸着塔(12)において実施した。以後、第3吸着塔(13)、第4吸着塔(14)、再び、第1吸着塔(11)、第2吸着塔(12)と同一の操作を順次繰り返して、ほぼ連続的に第1精製段階(A)でのガス精製を継続した。これらの操作は全て環境温度において実施した。
【0060】
第1精製段階(A)における精製後のガス(第1精製ガス(L1))をガスクロマトグラフィー[島津製作所製GC−14A(商標)、キャリアーガス:アルゴン]を使用して分析したところ、下記の表3に示す通りであり、水素濃度は89.70体積%に上昇しており、一方、二酸化炭素濃度は7.97体積%に低下していた。また、二酸化炭素を主として含む第1精製段階オフガス(L2)をガスクロマトグラフィー[島津製作所製GC−14A(商標)、キャリアーガス:アルゴン]を使用して分析したところ、下記の表4に示す通りであり、二酸化炭素濃度は51.07体積%であり、その他、水素、一酸化炭素及びメタンが48.93体積%で検出された。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
第1精製段階(A)から抜き出された第1精製ガス(L1)は、中間タンク(31)に導入され、ここで、ほぼ0.1MPaまで減圧された。次いで、該第1精製ガス(L1)を、第2精製段階(B)の第1吸着塔(21)に装入した。まず、第1吸着塔(21)の入口バルブ(VI21)を開とし、出口バルブ(VO21)及び吸着ガス抜出しバルブ(VM21)を閉とした。この際、第2吸着塔(22)、第3吸着塔(23)及び第4吸着塔(24)の入口バルブ(VI22,VI23,VI24)、出口バルブ(VO22,VO23,VO24)及び吸着ガス抜出しバルブ(VM22,VM23,VM24)の全てを閉とした。コンプレッサー(20)により、第1吸着塔(21)内の圧力が0.4MPaとなるように、第1精製ガス(L1)を装入した。次いで、入口バルブ(VI21)を閉として、この状態で、第1吸着塔(21)を5分間保持し、二酸化炭素を含むガスを吸着させた。次いで、出口バルブ(VO21)を開として、第1吸着塔(21)内の圧力が0.2MPaとなるまで減圧し、出口バルブ(VO21)を閉として、第2精製ガス(L3)を抜き出した。次いで、吸着ガス抜出しバルブ(VM21)を開として、第1吸着塔(21)内の圧力が0.1MPaとなるまで減圧し、吸着ガス抜出しバルブ(VM21)を閉とした。抜き出した二酸化炭素を含むガスを第2精製段階オフガス(L4)として回収した。次いで、第1吸着塔(21)内にアルゴンガスが、洗浄ガス導入口及び排出口(図示せず)から導入、排出されて吸着剤が再生された。
【0064】
上記の操作において、第1吸着塔(21)内の圧力が0.4MPaとなり、入口バルブ(VI21)を閉とするのとほぼ同時に、第2吸着塔(22)の入口バルブ(VI22)を開とし、出口バルブ(VO22)及び吸着ガス抜出しバルブ(VM22)を閉とした状態において、コンプレッサー(20)により、第2吸着塔(22)内の圧力が0.4MPaとなるように、第1精製ガス(L1)を装入し、第1吸着塔(21)と同一の操作を第2吸着塔(22)において実施した。以後、第3吸着塔(23)、第4吸着塔(24)、再び、第1吸着塔(21)、第2吸着塔(22)と同一の操作を順次繰り返して、ほぼ連続的に第2精製段階(B)でのガス精製を継続した。これらの操作は全て環境温度において実施した。
【0065】
第2精製段階(B)における精製後のガス(第2精製ガス(L3))をガスクロマトグラフィー[島津製作所製GC−14A(商標)、キャリアーガス:アルゴン]を使用して分析したところ、下記の表5に示す通りであり、水素濃度は91.78体積%に上昇しており、一方、二酸化炭素濃度は6.61体積%に低下していた。また、二酸化炭素を含む第2精製段階オフガス(L4)をガスクロマトグラフィー[島津製作所製GC−14A(商標)、キャリアーガス:アルゴン]を使用して分析したところ、下記の表6に示す通りであり、二酸化炭素濃度は10.44体積%であり、その他、水素、一酸化炭素等が約89.56体積%で検出された。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
第2精製段階(B)における精製後のガス(第2精製ガス(L3))は中間タンク(32)に導入され、ここで、ほぼ0.1MPaまで減圧された。次いで、該第2精製ガス(L3)を、水素貯蔵段階(C)の第1吸着塔(101)に装入した。まず、第1吸着塔(101)の入口バルブ(VI31)を開とし、出口バルブ(VO31)及び吸蔵ガス抜出しバルブ(VM31)を閉とした。この際、第2吸着塔(102)、第3吸着塔(103)及び第4吸着塔(104)の入口バルブ(VI32,VI33,VI34)、出口バルブ(VO32,VO33,VO34)及び吸蔵ガス抜出しバルブ(VM32,VM33,VM34)の全てを閉とした。コンプレッサー(30)により、第1吸着塔(101)内の圧力が0.5MPaとなるように、第2精製ガス(L3)を装入した。次いで、第1吸着塔(101)内の圧力を0.5MPaに維持しながら、吸蔵ガス抜出しバルブ(VM31)を微開にして約0.08リットル/分の流量で、第2精製ガス(L3)を流通させつつ第1吸着塔(101)に水素を吸蔵させた。水素吸蔵中は発熱するため、約20℃の冷却水を第1吸着塔(101)の外筒中に備えられた配管に通すことにより、第1吸着塔(101)を冷却した。この状態で、第1吸着塔(101)を5分間保持し、水素を吸蔵させつつ、メタンや二酸化炭素を含むガスを吸蔵ガス抜出しバルブ(VM31)を通して抜き出し、水素吸蔵段階オフガス(L6)を得た。その後、吸蔵ガス抜出しバルブ(VM31)を閉とした後、入口バルブ(VI31)を閉とし、第1吸着塔(101)内に充填した水素吸蔵合金に水素を吸蔵させる操作を終了した。次いで、出口バルブ(VO31)を開として、第1吸着塔(101)内の圧力が0.1MPaとなるまで減圧し、出口バルブ(VO31)を閉として、水素吸蔵合金に吸蔵させたガス(L5)を回収した。
【0069】
上記の操作において、第1吸着塔(101)の入口バルブ(VI31)を閉とするのとほぼ同時に、第2吸着塔(102)の入口バルブ(VI32)を開とし、出口バルブ(VO32)及び吸蔵ガス抜出しバルブ(VM32)を閉とした状態において、コンプレッサー(30)により、第2吸着塔(102)内の圧力が0.5MPaとなるように、第2精製ガス(L3)を装入し、第1吸着塔(101)と同一の操作を第2吸着塔(102)において実施した。以後、第3吸着塔(103)、第4吸着塔(104)、再び、第1吸着塔(101)、第2吸着塔(102)と同一の操作を順次繰り返して、ほぼ連続的に水素貯蔵段階(C)での水素ガスの吸蔵を継続した。これらの操作は全て環境温度において実施した。
【0070】
水素貯蔵段階(C)における精製後のガス、即ち、水素吸蔵合金に吸蔵させたガス(L5)をガスクロマトグラフィー[島津製作所製GC−14A(商標)、キャリアーガス:アルゴン]を使用して分析したところ、下記の表7に示す通りであり、水素濃度は99.97体積%に上昇しており、一方、二酸化炭素濃度は0.03体積%に低下していた。また、二酸化炭素を含む水素吸蔵段階オフガス(L6)をガスクロマトグラフィー[島津製作所製GC−14A(商標)、キャリアーガス:アルゴン]を使用して分析したところ、下記の表8に示す通りであり、二酸化炭素濃度は79.58体積%であり、その他、水素、一酸化炭素等が約20.42体積%で検出された。
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
表9は、上記のようにして得た、鉛筆製造廃木材を熱処理及び改質して得られた熱分解後の改質ガスの100リットルを処理して水素を回収したときの各ストリームのガスの量を示したものである。ここで、表9中の各数字の単位はリットルである。供給した改質ガス100リットルに対して、第二精製ガス(L3)を41.89リットル回収することができ、その回収率は約42体積%であった。また、改質ガス中に水素は61.42リットル含まれていたが、そのうちの38.51リットルを回収することができ、更に、水素吸蔵段階を経て、精製した水素38.50リットル回収することができた。その回収率は約63体積%であった。
【0074】
【表9】
【0075】
上記の実施例1では、本発明の一実施態様として、水素吸蔵段階の吸着塔、即ち、第1,2,3,4吸着塔(101,102,103,104)内に充填した水素吸蔵合金に吸蔵させたガスを、その場で連続的に取り出した。該実施態様は、高純度水素を使用する設備の近隣に、本発明の方法を実施する装置を設置する場合に有効である。他の実施態様として、水素吸蔵段階の吸着塔を交換可能タイプにして、例えば、第1,2,3,4吸着塔(101,102,103,104)内の水素吸蔵合金に水素が貯蔵された後、順次、水素が貯蔵されていない新しい吸着塔と交換して操業を継続することもできる。水素吸蔵合金に水素が貯蔵された吸着塔は、そのまま、高純度水素を使用する設備の近隣に移動して使用することができる。また、吸着塔自体を、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器と同一の形状等とし、水素が貯蔵された吸着塔自体を、そのまま、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の水素回収方法は、比較的低い圧力を使用して、高濃度の水素ガスを回収し得ることから、操業コスト及び装置コストを大幅に削減し得るのみならず、操業における安全性を著しく高めることができる。加えて、回収した高濃度の水素ガスを所定の容器、とりわけ、水素を燃料とする燃料電池を搭載した機器の水素貯蔵容器として、そのまま使用可能なカートリッジ形式の容器に貯蔵し得ることから、極めて効率的に水素の回収と貯蔵並びにその利用を図ることができる。故に、本発明の水素回収方法は、今後、バイオマスを熱処理することにより得た熱分解ガスからの水素回収に大いに利用されることが期待される。
【符号の説明】
【0077】
I 第1精製段階
II 第2精製段階
III バイオマス熱処理段階
IV 水素貯蔵段階
a バイオマス
b 熱分解ガス
c 第1精製ガス
d 第2精製ガス(水素を主として含むガス)
e 二酸化炭素を主として含むガス
f 二酸化炭素を含むガス
g 水素吸蔵段階オフガス
h 水素吸蔵合金に吸蔵させたガス(高純度水素)
A 第1精製段階
B 第2精製段階
C 水素貯蔵段階
L1 第1精製ガス
L2 二酸化炭素を主として含む第1精製段階オフガス
L3 第2精製ガス
L4 二酸化炭素を含む第2精製段階オフガス
L5 水素吸蔵合金に吸蔵させたガス(高純度水素)
L6 水素吸蔵段階オフガス
10 第1精製段階のコンプレッサー
11 第1精製段階の第1吸着塔
12 第1精製段階の第2吸着塔
13 第1精製段階の第3吸着塔
14 第1精製段階の第4吸着塔
VI11 第1吸着塔入口バルブ
VI12 第2吸着塔入口バルブ
VI13 第3吸着塔入口バルブ
VI14 第4吸着塔入口バルブ
VO11 第1吸着塔出口バルブ
VO12 第2吸着塔出口バルブ
VO13 第3吸着塔出口バルブ
VO14 第4吸着塔出口バルブ
VM11 第1吸着塔吸着ガス抜出しバルブ
VM12 第2吸着塔吸着ガス抜出しバルブ
VM13 第3吸着塔吸着ガス抜出しバルブ
VM14 第4吸着塔吸着ガス抜出しバルブ
20 第2精製段階のコンプレッサー
21 第2精製段階の第1吸着塔
22 第2精製段階の第2吸着塔
23 第2精製段階の第3吸着塔
24 第2精製段階の第4吸着塔
VI21 第1吸着塔入口バルブ
VI22 第2吸着塔入口バルブ
VI23 第3吸着塔入口バルブ
VI24 第4吸着塔入口バルブ
VO21 第1吸着塔出口バルブ
VO22 第2吸着塔出口バルブ
VO23 第3吸着塔出口バルブ
VO24 第4吸着塔出口バルブ
VM21 第1吸着塔吸着ガス抜出しバルブ
VM22 第2吸着塔吸着ガス抜出しバルブ
VM23 第3吸着塔吸着ガス抜出しバルブ
VM24 第4吸着塔吸着ガス抜出しバルブ
31 中間タンク
32 中間タンク
30 水素吸蔵段階のコンプレッサー
101 水素吸蔵段階の第1吸着塔
102 水素吸蔵段階の第2吸着塔
103 水素吸蔵段階の第3吸着塔
104 水素吸蔵段階の第4吸着塔
VI31 第1吸着塔入口バルブ
VI32 第2吸着塔入口バルブ
VI33 第3吸着塔入口バルブ
VI34 第4吸着塔入口バルブ
VO31 第1吸着塔出口バルブ
VO32 第2吸着塔出口バルブ
VO33 第3吸着塔出口バルブ
VO34 第4吸着塔出口バルブ
VM31 第1吸着塔吸蔵ガス抜出しバルブ
VM32 第2吸着塔吸蔵ガス抜出しバルブ
VM33 第3吸着塔吸蔵ガス抜出しバルブ
VM34 第4吸着塔吸蔵ガス抜出しバルブ
図1
図2