【文献】
MORENO-MANAS, M. et al.,Palladium nanoparticles stabilised by polyfluorinated chains,Chemical Communications,英国,The Royal Society of Chemistry,2001年12月21日,2002,pp.60-61
【文献】
XU, XH. et al.,Fabrication of superhydrophobic surfaces with perfluorooctanoic acid modified TiO2/polystyrene nanocomposites coating,Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects,NL,Elsevier,2009年 3月25日,Vol.341,pp.21-26
【文献】
FERRER, J. C. et al.,Direct synthesis of PbS nanocrystals capped with 4-fluorothiophenol in semiconducting polymer,Materials Chemistry and Physics,NL,Elsevier,2010年,Vol.122,pp.459-462
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ナノ粒子の表面に対して、フルオロベンゼンチオール系、フルオロアルカンアルコール系、パーフルオロカルボン酸系、フルオロアルカンチオール系、フルオロアルカンアミン系、及び、フルオロアルカンエステル系のうち、異なる2種以上の表面改質剤により表面改質されており、
フルオロアルカンチオール系を構成するアルカンチオールとしてデカンチオールを有する表面改質剤と、フルオロアルカンアミン系を構成するアルカンアミンとしてウンデシルアミンを有する表面改質剤とが併用されることを特徴とするナノ粒子。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
本実施の形態におけるナノ粒子は、ナノ粒子の表面に対して、フルオロベンゼンチオール系、フルオロアルカンアルコール系、パーフルオロカルボン酸系、フルオロアルカンチオール系、フルオロアルカンアミン系、及び、フルオロアルカンエステル系のうち、少なくともいずれか1種の表面改質剤により表面改質されたことを特徴とする。ここで「系」とは、異性体や変性体等を含む概念である。
【0020】
上記表面改質剤において、フルオロアルカンアルコール系を構成するアルカンアルコールは、オクタノールであり、前記パーフルオロカルボン酸系を構成するカルボン酸は、オクタン酸であり、前記フルオロアルカンチオール系を構成するアルカンチオールは、デカンチオールであり、前記フルオロアルカンアミン系を構成するアルカンアミンは、オクチルアミンであり、前記フルオロアルカンエステル系を構成するアルカンエステルは、プロピオン酸オクチルであることが好適である。
【0021】
これにより後述する実験に示すように、表面改質処理されたナノ粒子のフロン系溶媒への分散性を良好にでき、ナノ粒子の蛍光強度を高めることができることが後述する実験結果によりわかっている。
【0022】
また、表面改質剤としては、ペンタデカフルオロオクチルアミン、あるいは、プロピオン酸トリデカフルオロオクチルが選択されることが、表面改質剤種以外の表面改質処理条件を広く選択でき、適切且つ容易に、フロン系溶媒への分散性を高めることができ好適である。
【0023】
本実施の形態におけるナノ粒子の製造の際の、表面改質処理条件は、以下に示すナノ粒子のスクリーニング方法に基づいて決定することができる。なおスクリーニング方法は、ナノ粒子の製造工程における一連の処理に加えることもできる。すなわち本実施の形態におけるナノ粒子の製造方法は、ナノ粒子の生成−表面改質処理、とする以外に、スクリーニング−表面改質処理条件の決定−ナノ粒子の生成−表面改質処理とすることもできる。以下、ナノ粒子のスクリーニング方法について説明する。
【0024】
本実施の形態におけるナノ粒子のスクリーニング方法は、ナノ粒子混濁液を収容容器の収容部に小分けするステップと、各ナノ粒子混濁液を異なる条件により表面改質処理するステップと、ナノ粒子混濁液を分散媒により分散させて評価サンプルを得るステップと、評価サンプルを吸収スペクトルや蛍光スペクトルにより評価するステップと、を備える。
【0025】
例えば本実施の形態では、多数の穴(ウェル)を有するマイクロウェルプレートを用い、表面改質条件の異なる多数の評価サンプルを生成し、これら評価サンプルの光学分析評価まで一連して行うことを可能とする。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態におけるナノ粒子のスクリーニング方法のステップを示すフローチャートである。
【0027】
図1に示すステップST1では、量子ドットを含むナノ粒子混濁液(以下、QD液と言う)を生成する。量子ドットは、構成元素の原料となる化合物を混合して前駆体溶液を生成し、前駆体溶液を例えばマイクロリアクターを用いて反応させて合成することができる。合成された量子ドットは、公知の方法による精製過程を施すことができる。精製した量子ドットを溶媒に混合して、QD液を得ることができる。溶媒を限定するものでないが、例えば、アルコール類、ケトン、トルエン、水等である。
【0028】
次に、
図1に示すステップST2では、ステップST1で得られたQD液を、収容容器に設けられた多数の収容部内に少量ずつ注入する。収容容器としては、例えば、マトリクス状に収容部としてのウェルが配列されたマイクロウェルプレートを用いることができる。このように本実施の形態では、既存のマイクロウェルプレートを用いてスクリーニングを行うことができる。あるいは、ウェルの部分が取り外しできるような個別容器を多数並べたプレート状の収容容器を用いることもできる。収容容器の材質を問うものではないが、ガラス製が好ましく適用できる。特にインキュベーションのステップにより、プラスチック製よりも耐熱性及び耐薬品性に優れた材質で収容容器を作製することが好ましい。更に、容器にはインキュベーション中及び光学分析の溶媒の蒸散をふせぐためにキャップもしくはフィルムによるカバーを施す方が望ましい。特に光学分析中のカバーは、テフロン(登録商標)コートされたカバーを用いることで、溶媒がカバーを侵食し、白化させて分析精度を低下させることを防ぐ。また収容容器を熱伝導性に優れた材質とすることで、各収容部に小分けした各QD液に対して略均等な加熱を施すことができる。したがって加熱温度のばらつきを抑制でき、各評価サンプルに対して高精度な評価を行うことができる。
【0029】
収容容器に配置された収容部の数を限定するものでないが、具体的には、50個以上とすることが好ましく、より好ましくは、96個以上であり、更に好ましくは150個以上である。また各収容部の容積は例えば、3.0mL以下、好ましくは1.5mL以下である。さらに、分散媒となるモノマーの粘度は一般的に粘度が高いために、サンプル量が少なすぎると撹拌が行いにくい。このため収容部の容積は、0.5mL以上、好ましくは1.0mL以上であることが望ましい。後述する実験では96個のガラス製ウェルをプラスチック製、もしくは、アルミニウム製のプレート状ホルダーに備えたマイクロウェルプレートを用いている。
【0030】
また各収容部に注入するQD濃度は、実際にマトリックス中で得たいQD濃度と、個々の容器に添加する添加量から計算可能である。具体的にはQD濃度は、0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましい。QD液量は数十μL以下(具体的には50μL以下)、好ましくは、20μL以下であり、より好ましくは、10μL以下であり、更に好ましくは5μL以下である。本実施の形態では、複数個、好ましくは50個以上の収容部の夫々に添加するQD液量を数十μL以下、好ましくは20μL以下とすることで、1回の収容容器で使用するQD液全体としては数mL以下に抑えることができ、1条件あたりで従来に比べて1/10〜1/100程度の試薬量で済む。このため、特に品質の安定しない開発品の表面処理条件の探索に有効である。また、量子ドットや表面改質剤は高価なものが多いため、収容容器を用いた1回の実験あたりに使用する試薬量を抑えることができ、コスト面でも効果的である。
【0031】
続いて本実施の形態では、
図1のステップST3にて、表面改質処理を施す。このとき、各QD液に対して異なる種類の表面改質剤を添加する。例えば後述する実験−1では、8種類の表面改質剤(界面活性剤)を用いている。
【0032】
本実施の形態では、表面改質条件を、以下のファクターにより異ならせることができる。例えば、(1)改質剤種(2)表面改質剤の濃度(3)表面改質処理中の溶媒濃度(4)インキュベーション時間、等である。
【0033】
図1に示すように、表面改質処理では、異なる条件の下、表面改質剤及び溶媒を添加し(ステップST3−1)、続いて、インキュベーションを行う(ステップST3−2)。
【0034】
なお、表面改質剤の添加は、後述する実験−2及び実験−3のように、2段階以上行うこともできる。また、表面改質剤の溶媒は用いなくてもよい(すなわち、直接、表面改質剤をQD液に添加する)。また、溶媒としてはトルエン等、量子ドットが分散するとともに、表面改質剤が溶解するものを用いることが好ましい。
【0035】
このステップST3により、各収容部に収容されたQD液に対して、異なる条件にて表面改質処理を行うことができる。
【0036】
なお、インキュベーションは、オーブンやインキュベータを用いて行うことができる。インキュベーションでは、温度と時間を調整するが、本実施の形態では、各収容部に収容された全てのQD液に対して、同じ条件の下で一度に行うことができる。なお、インキュベーションの際にはQDの凝集による表面改質剤の偏析を避けるために、溶液は振とう器、マグネチックスターラ、もしくは微細な撹拌棒を用いて撹拌を行うことが望ましい。
【0037】
さらに、超音波分散をかけると、より短時間で凝集状態の緩和を図ることができ、ウェル内での溶液の均一性が向上するために、望ましい。さらにまた、必要に応じて、同一条件で作られたサンプルに対して温度勾配をかけたホットプレート上でインキュベーションさせるなどして、異なるインキュベーション温度条件を施すことも可能である。
【0038】
なお、表面改質剤及び溶媒の添加後、インキュベーションの前に、上記振とう処理、撹拌、超音波処理などを行ってもよい。この場合、サンプルを40−100℃に加熱することで媒体の粘度が低下して、撹拌などが行いやすくなる。インキュベーション前、インキュベーション中、もしくはインキュベーション後に必要に応じて真空脱気することで、水分や揮発性夾雑物などの低沸点の不純物、それからナノ粒子懸濁液に用いた分散媒(トルエン等)を除去することも可能である。この場合も、必要に応じて加温を行った方が、溶媒の除去は行いやすい。
【0039】
次に、
図1に示すステップST4では、インキュベーション後に、凝集剤を添加する。凝集剤は、量子ドットの表面極性と異なる極性の溶媒であれば特に限定されるものではない。例えば、フロン系溶剤に量子ドット及び表面改質剤を分散させた場合、トルエンは凝集剤となる。あるいは、エタノール等のアルコールなども凝集剤となり得る。
【0040】
次に、
図1に示すステップST5では、量子ドットを濾過もしくは沈降させて上澄み液を除去する。これにより表面改質された量子ドットを得ることができる。例えば、凝集剤の添加と遠心分離を繰り返し行った後、ステップST5に移行することもできる。このとき、繰り返しステップで用いられる凝集剤としては同種類であっても異なる種類のものであってもよい。なお、ステップST4、及びステップST5を行うか否は任意に決定できる。
【0041】
次に、
図1に示すステップST6では、各収容部に収容された表面改質済み量子ドットと分散媒とを混合して、評価サンプルを生成する。混合は、例えば、マイクロプレート用シェーカーを用いることができる。本実施の形態では、混合を、各評価サンプルに対して同時に行うことが可能である。このように、本実施の形態では、表面改質条件の異なる多数の評価サンプルを一度に生成することができる。
【0042】
次に、
図1に示すステップST7では、各評価サンプルに対して、光学分析評価を行う。評価は、主として、吸光光度法、及び、蛍光分析法により行うことができる。これにより量子ドットの分散性及び蛍光特性を評価することができる。なお、吸光光度法や蛍光分析法として、吸収スペクトルや蛍光スペクトルを取ることができると、吸収スペクトルや蛍光スペクトルの形状の変化により、溶解の程度やその速度、蛍光失活の原因(溶解もしくは、それ以外)、添加物の溶解やQDとの相互作用、及びそれらの速度などの情報等も同時に知ることも可能であるために、より望ましい。
【0043】
蛍光光度法により得られた吸光吸光度に着目して評価することができる。すなわち量子ドットの凝集が大きいと、光散乱が大きくなるために、透過率が低下する。そのため、例えば、吸光スペクトルを測定する場合はベースラインが上昇する。更に、吸光スペクトルを測定する場合については、吸収ピーク位置は粒子径に関係付けられており、ピーク消滅した場合、量子ドットが溶解したこと、あるいは分相して光路から消滅したことを意味する。
【0044】
一方、LEDを光源とする場合は、サンプル自体が本来持つ吸光度(QD自体の吸光度+目的分散媒の吸光度の和)が0.1以下の波長の吸光度から、0.1以上上昇しないことを条件に、分散性の評価を行うことがでる。また、励起波長の吸光度が大きく低下しないことを条件(具体的には10%以上低下しない)として、QDの消滅及び分相がないことを評価することができる。なお、ベースライン及びピーク消滅の評価は、基準となる評価サンプル(基準サンプル)と比較して評価することができる。例えば、基準サンプルとしては、表面改質処理前における、トルエン等の良溶媒に分散した状態の量子ドットとすることができる。
【0045】
また吸光度としては、上述したサンプル自体の本来持つ吸光度が0.1以下となる波長が多くある場合は、散乱強度が高いためにできるだけ短い波長が望ましい。特に、波長720nm以下の可視光における吸光度が0.1以下であることを条件に評価することが出来る。
【0046】
また、蛍光光度法により得られた蛍光強度では、蛍光強度が上記に挙げた基準サンプルの蛍光強度と比較して低下した場合、同程度の場合及び、上昇した場合や、基準サンプルと比較した際の蛍光強度の低下率及び上昇率で評価することができる。
【0047】
評価の際の光学分析では、高速測定が可能であるために、個々の評価サンプルに対して迅速な評価が可能であり、収容容器に納められた多数の評価サンプルの特性評価に要する時間を従来に比べて短縮することができる。
【0048】
また本実施の形態では、複数の収容部に対向して配列された複数の発光ダイオードを光源として利用して、上記した評価を行うことができる。また本実施の形態では、一つの受光器と発光ダイオードの間に、各サンプルを移動させながら測定することも可能であるが、複数の収容部に対向して配列された複数の受光素子を受光部として利用して、上記した前記評価を行うことができる。このように、本実施の形態の収容容器を上下から挟むように、発光ダイオードと受光部とを収容容器に所定間隔離して対向配置した状態で、上記した光学分析評価を行うことがより好ましい。これにより、光学分析評価を多数の評価サンプルに対して一度に行うことができ、従来に比べて表面改質条件の探索に要する時間をより効果的に短縮することができる。
【0049】
なお、発光ダイオードとしては単色発光ダイオードを使ってもよいし、発光ダイオードから放出される光のスペクトルに重なりがない限りは2色LED(必要があれば多色LED)と光学フィルターを併用することができる。この際、分散性評価、又は、溶解、及び、蛍光強度評価に必要な波長の光のみを受光部で検出する構造として、スペース及び試薬量の低減を図ることも可能である。
【0050】
更に、光学分析を長時間かけて連続的に行うことで、吸光度や蛍光強度の時間的変化が捉えられるため、サンプル自体の時間的安定性が確認できる。
【0051】
また本実施の形態で用いる光学分析用光源には、キセノンランプなどの白色光源も用いることも可能であるが、上記したように、複数の前記収容部に対向して配列された複数の発光ダイオードを光源として利用して、評価を行うことが好ましい。なお、吸光度評価の場合の発光ダイオードの波長は、ナノ粒子及びナノ粒子を分散する媒質の吸光度が0.1以下である波長(たとえば,可視光を発光するQDの場合であって、緑色発光粒子の場合は600nm、赤色発光粒子の場合は700nmなど)を用いればよい。更に、粒子の溶解や溶媒の分離を調査したい場合は、後述する蛍光用の励起光源と同じ波長で吸光、蛍光ナノ粒子を用いることが望ましい。
【0052】
また、蛍光評価の場合は、ナノ粒子を効率よく適切に励起する波長(たとえば、350nm、365nm、375nm、385nm、395nm、400nm、405nm、410nm、420nm、430nm、440nm、450nm、460nm)であることが望ましい。吸光度評価用の発光ダイオードと蛍光評価用の発光ダイオードは、併用しても構わないし、使用に際して適宜入れ替えて使用することも可能である。また本実施の形態では、回折格子等を用いて蛍光、及び、透過光のスペクトルを得てそれを解析することも可能であるが、上述したように、複数の収容部に対向して配列された複数の受光素子を受光部として利用して、評価を行うことが好ましい。蛍光評価の場合には、発光素子からの入射光を遮るために、発光素子と受光素子の間に発光素子を遮蔽する光学フィルターを挿入する方が望ましい。これにより、評価を多数の評価サンプルに対して一度に行うことができ、従来に比べて表面改質条件の探索に要する時間を効果的に短縮することができる。
【0053】
以上により、本実施の形態によれば、複数の収容部にナノ粒子懸濁液を小分けし、各収容部内のナノ粒子に対して様々な実験条件にて表面改質処理を施して条件の異なる組み合わせの複数の評価サンプルを作成でき、これら評価サンプルに対する光学分析評価まで一連して行うことを可能とする。このため、本実施の形態では、一度に多数の評価サンプルを用いて、表面改質条件の検討等を行うことが可能である。また、表面改質処理における所定の処理について、収容容器に分けられた多数の評価サンプルに対して一括して均等に行うことができる。以上により本実施の形態では、従来に比べて表面改質条件の探索に要する時間を短縮でき、サンプル及び試薬量の低減も図られ、更に、条件・評価の管理をしやすくなり労力を効果的に低減することができる。
【0054】
本実施の形態では、上記したナノ粒子のスクリーニング方法を、スクリーニングシステムとして提示することができる。すなわち本実施の形態におけるスクリーニングシステムは、収容容器に設けられた複数の収容部の夫々に、ナノ粒子懸濁液が小分けされ、ナノ粒子の表面改質処理が、前記収容部ごとに別条件にて行われ、各収容部内に分散媒を加えて、前記ナノ粒子と前記分散媒とを混合した評価サンプルが生成され、各収容部の前記評価サンプルに対して、光学分析により評価が行われることを特徴としている。
【0055】
続いて、
図1に示したナノ粒子のスクリーニング方法を用いて、具体的に以下の実験を試みた。
【0056】
[フロン系溶媒への分散のための表面改質剤における実験−1]
LED用封止材として使用されるCdSe系量子ドットの、ヘキサフルオロメタキシレンへの分散性を念頭に、CdSe系量子ドットの表面改質条件を調べた。
【0057】
まず
図1のステップST1では、CdSe系量子ドットを含むナノ粒子混濁液(QD液)を生成した。
【0058】
例えば、Cd源とSe源の原料としての各化合物を溶解して、CdSe系前駆体溶液を生成した。そして、CdSe系前駆体溶液を、マイクロリアクターを用いて反応させ、CdSe系量子ドットを合成した。
【0059】
続いて、CdSe系量子ドットの表面に、ZnS及びZnSeの各シェルを被覆した。例えば、Zn源とSe源とを調合した原料を連続注入法にて反応させて合成したZnSeからなる第1のシェル部をドット表面に被覆した。続いて、ZnS原料を連続注入法にて反応させて合成したZnSからなる第2のシェル部を第1のシェル部の表面に被覆した。このようにして生成されたコア/シェル構造のCdSe系量子ドットのトルエン分散体を、ガラス製のマイクロウェルプレート(容量1.5mL×96ウェル)の各ウェルに所定量(数十μL)ずつ注入した(ステップST2)。CdSe系量子ドットは、全てのウェルで同じ濃度である。
【0060】
次に、各CdSe系量子ドットに対して、表面改質処理を行った(ステップST3)。ここで、使用した表面改質種は、フルオロベンゼンチオール系2種類(C
6H
4F−SH、C
6F
5−SH)、フルオロアルカンアルコール系1種類((C
6F
13)(C
2H
4)OH)、パーフルオロカルボン酸系1種類((C
7F
15)COOH)、フルオロアルカンチオール系1種類((C
8F
17)(C
2H
4)SH)、フルオロアルカンアミン系2種類((C
8F
17)(C
3H
6)NH
2、(C
7F
15)(CH
2)NH
2)、フルオロアルカンエステル系1種類((C
6F
13)(C
2H
4)OCOC(CH
2)CH
3)の計8種類を用いた。また、表面改質剤の濃度を5%、10%、及び20%の3種類とした。また表面改質処理中のトルエン濃度を3%、10%及び20%の3種類とした。濃度はいずれも質量%である。表面改質剤の溶媒としては、ヘキサフルオロメタキシレンを用いた。
【0061】
次に、インキュベーションを行った。このときのインキュベーション温度を、40℃に設定した。またインキュベーション時間を、3時間、あるいは、24時間とした。
【0062】
続いて、凝集剤としてトルエンを添加し(ステップST4)、凝集・沈降させて上澄み液を除去した(ステップST5)。
【0063】
このようにして得られた表面改質処理済みのCdSe系量子ドットを、分散媒としてのヘキサフルオロメタキシレンに混合し、評価サンプルを得た(ステップST6)。
【0064】
そして、マイクロプレートリーダーにより、可視―紫外吸収分光分析及び蛍光分光分析を行い、量子ドットの分散性及び蛍光特性を評価した。
【0065】
上記実験では、試料調整時に、量子ドットの濃度が各実験条件で同一になるように調製しているため、各評価サンプルを相的比較することが出来る。
【0066】
この実験では、トルエン分散した量子ドット(表面改質処理は行っていない)を基準サンプルとし、基準サンプルに対して各評価サンプルを相対評価した。
【0067】
まずは、可視―紫外吸収分光分析により得られた吸収スペクトルから、ベースラインと吸収ピークについて調べた。以下の表1は、インキュベーション時間を3時間とした、各評価サンプルの分散性の評価結果である。また、表2は、インキュベーション時間を24時間とした、各評価サンプルの分散性の評価結果である。
【0070】
表1、表2の縦軸には、添加した表面改質剤の種類が表示され、横軸上段には、表面改質処理中でのトルエン濃度(トルエン0%、トルエン3%、トルエン10%及びトルエン30%)が振られている。また横軸下段に示す5%、10%及び20%の数値は、表面改質剤の濃度を示している。
【0071】
表1、表2に示す△は、ベースラインが基準サンプルよりも上昇したものを示している。ベースラインの上昇は、量子ドットが分散媒中で良好に分散せず凝集した状態であることを示している。
【0072】
また表1、表2に示す×は、量子ドットが溶解したか、あるいは、分相及び激しい凝集による量子ドットの偏析によりピーク消滅した状態を示している。
【0073】
一方、表1、表2に示す○は、ベースラインが基準サンプルと同等かそれ以下であり、且つ吸収ピークが基準サンプルと同等以上見られた評価サンプルを指す。
【0074】
表1及び表2に示すように、8種類の表面改質剤のいずれにも、トルエン濃度及び表面改質剤の濃度を調整することで、基準サンプル以上の吸収スペクトルを維持したまま、分散媒であるヘキサフルオロメタキシレンに適切に分散させることができる条件が見つけられた。
【0075】
また表1及び表2に示す実験結果により、インキュベーション時間を24時間以内に設定することが好ましい。またインキュベーション時間を3時間程度としても、好ましい分散性が得られていることから評価時間を短くすべくインキュベーション時間を3時間以内とすることがより好ましい。
【0076】
次に、蛍光分光分析により得られた蛍光スペクトルから、蛍光強度ついて調べた。以下の表3は、インキュベーション時間を3時間とした、各評価サンプルの蛍光特性の評価結果である。また、表4は、インキュベーション時間を24時間とした、各評価サンプルの蛍光強度の評価結果である。
【0079】
表3、表4の縦軸には、添加した表面改質剤の種類が表示され、横軸上段には、表面改質処理中でのトルエン濃度(トルエン0%、トルエン3%、トルエン10%及びトルエン30%)が振られている。また横軸下段に示す5%、10%及び20%の数値は、表面改質剤の濃度を示している。
【0080】
表3、表4に示す△は、基準サンプルと同程度の蛍光強度を示している。また表3、表4に示す×は、基準サンプルよりも蛍光強度が低いことを示している。また表3、表4に示す○は、基準サンプルよりも蛍光強度が高いことを示している。
【0081】
表3、表4に示すように、ペンタフルオロベンゼンチオール(C
6F
5−SH)及び、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロウンデシルアミン((C
8F
17)(C
3H
6)NH
2)は、いずれも発光しないことがわかった。
【0082】
また、表1から表4に示すように、フルオロベンゼンチオール(C
6H
4F−SH)は、インキュベーション時間が3時間、24時間に係らず、トルエン濃度が30%であり、表面改質剤濃度が5%〜20%の条件により、分散性及び蛍光強度に優れることがわかった。
【0083】
また、表1から表4に示すように、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール((C
6F
13)(C
2H
4)OH)は、インキュベーション時間が3時間、24時間に係らず、トルエン濃度が30%であり、表面改質剤濃度が5%〜20%の条件により、分散性及び蛍光強度に優れることがわかった。
【0084】
また、表1から表4に示すように、パーフルオロオクタン酸((C
7F
15)COOH)は、インキュベーション時間が3時間、24時間に係らず、トルエン濃度が30%であり、表面改質剤濃度が5%の条件により、分散性及び蛍光強度に優れることがわかった。
【0085】
また、表1から表4に示すように、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロ−1−デカンチオール((C
8F
17)(C
2H
4)SH)は、インキュベーション時間が3時間、24時間に係らず、トルエン濃度が30%であり、表面改質剤濃度が5%の条件により、分散性及び蛍光強度に優れることがわかった。
【0086】
また、表1及び表3に示すように、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロオクチルアミン((C
7F
15)(CH
2)NH
2)は、インキュベーション時間が3時間、24時間に係らず、トルエン濃度が3%であり、表面改質剤濃度が5%、10%の条件により、あるいは、トルエン濃度が10%であり、表面改質剤濃度が10%、20%の条件により、または、トルエン濃度が30%であり、表面改質剤濃度が20%の条件により、分散性及び蛍光強度に優れることがわかった。
【0087】
このように、ペンタデカフルオロオクチルアミン((C
7F
15)(CH
2)NH
2)を使用した場合、3%程度の低トルエン濃度から30%程度のトルエン濃度の幅広い範囲にて、表面改質剤濃度を5%〜20%程度の範囲内で調整することで、フッ素系溶媒に均一分散でき、しかも強い蛍光強度を得ることができるとわかった。
【0088】
また、表1及び表3に示すように、プロピオン酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル((C
6F
13)(C
2H
4)OCOC(CH
2)CH
3)は、インキュベーション時間が3時間のとき、トルエン濃度が3%であり、表面改質剤濃度が10%の条件により、あるいは、トルエン濃度が10%であり、表面改質剤濃度が5%、10%の条件により、または、トルエン濃度が30%であり、表面改質剤濃度が5%〜20%の条件により、分散性及び蛍光強度に優れることがわかった。
【0089】
また、表2及び表4に示すように、プロピオン酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル((C
6F
13)(C
2H
4)OCOC(CH
2)CH
3)は、トルエン濃度が0%であり、表面改質剤濃度が10%の条件により、あるいは、トルエン濃度が3%であり、表面改質剤濃度が10%の条件により、あるいは、トルエン濃度が10%であり、表面改質剤濃度が5%、10%の条件により、または、トルエン濃度が30%であり、表面改質剤濃度が5%〜20%の条件により、分散性及び蛍光強度に優れることがわかった。
【0090】
上記の実験及び検討に要した時間は1日強であり、100程度の条件探索が可能であった。また、上記した実験手法と同様に、フッ素系溶媒に分散した量子ドットを用いて更にフッ素系高分子への量子ドットの分散を検討した。そして、量子ドットの凝集なしに、良好な蛍光強度を保ちつつフッ素系高分子へ分散させることが可能な条件を見出すことができた。
【0091】
ところで、上記実験に使用したマイクロウェルプレートには96個のウェル(穴)がマトリクス状に配列されている。そこで実験では、マトリクス状の行方向(横方向)に並ぶウェルには、同じ表面改質剤を注入し、列方向(縦方向)に並ぶウェルには、異なる表面改質剤を注入した。すなわち上記した表1〜表4に示す○×△が示された各マスが各ウェルを示しており、表1〜表4に示すように、横方向に並ぶ各マスは、同じ表面改質剤での実験結果を示し、縦方向に並ぶ各マスは、異なる8種類の表面改質剤での実験結果を示している。
【0092】
また実験では、マトリクス状の列方向(縦方向)に並ぶウェルには、同じ表面改質条件(表面改質剤種以外)で揃え、行方向(横方向)に並ぶウェルには、表面改質条件(表面改質剤種以外)が異なるものとした。すなわち、表1〜表4に示すように、縦方向に並ぶ各マスは、同じ表面改質条件(表面改質剤種以外)での実験結果を示し、横方向に並ぶ各マスは、異なる表面改質条件(表面改質剤種以外)での実験結果を示している。
【0093】
このように、表面改質剤と、表面改質条件とを行ごと、あるいは、列ごとに調整することで、管理を行いやすくなり、労力低減を効果的に図ることができる。
【0094】
[フロン系溶媒への分散のための表面改質剤における実験−2]
上記の実験―1で生成したCdSe系量子ドット原液3mLを、エタノール洗浄し、トルエン100μLに混合したQD液を用いて、以下の評価サンプルを生成した。
【0095】
(評価サンプル−1)
QD液を10μLごとに小分けして複数の収容部に注入し、続いて、溶媒50μL、デカンチオール(フルオロアルカン
チオール系)5μL、及び、ウンデシルアミン(フルオロアルカンアミン
系)1μLの順に入れて、Vortexミキサーにて分散させた後、ろ過した。続いて、フッ素系樹脂溶液50μLを混合して乾燥させた。
【0096】
(評価サンプル−2)
QD液を10μLごとに小分けして複数の収容部に注入し、続いて、デカンチオール5μL、ウンデシルアミン1μL、及び、溶媒50μLの順に入れて、Vortexミキサーにて分散させた後、ろ過した。続いて、フッ素系樹脂溶液50μLを混合して乾燥させた。
【0097】
各評価サンプルに入れた溶媒としては、ノベック(登録商標)7200(A)、FC72/ノベック7200(添加比率=1/1)(B)、及び、FC72(C)の3種類を用いた。
【0098】
そして、各評価サンプルの吸光度、蛍光ピーク、蛍光面積、面積/吸光度及び、トルエン分散比を求めた。なお、FC72は、C
6F
14である。その実験結果が、以下の表5に示されている。
【0100】
表5に示すトルエン分散とは、表面改質処理をしていないQD液である。表5の縦列に示す「1−A」の「1」とは、評価サンプル−1のことを示し、「A」は、溶媒であるノベック7200(A)を示している。他の縦列の表記もこれに準じて示されている。
【0101】
表5に示すように、デカンチオールをウンデシルアミンよりも先に添加し、その後、溶媒で分散させた評価サンプル−2は、評価サンプル−1と比較して、吸光度を低くでき、蛍光ピークを同等にできることがわかった。
【0102】
このように、デカンチオールとウンデシルアミンの2種類の表面改質剤を併用し、加えて添加順番を調整することで、フッ素系樹脂への分散性が良好でしかもトルエン分散の量子ドット(表面改質剤の添加なし)に比べて、高い蛍光強度を持つ表面改質条件を、本実施のスクリーニング方法により簡単かつスピーディに得ることができた。
【0103】
[フロン系溶媒への分散のための表面改質剤における実験−3]
上記の実験―1で生成したCdSe系量子ドット原液2.4mLを、エタノール7.2mLにて第1回の洗浄をし、エタノール3.2mLにて第2回の洗浄をしたのち、トルエン60μLに混合して得たQD液を用いて、以下の評価サンプルを生成した。
【0104】
(評価サンプル−3)
QD液を50μLごとに小分けして複数の収容部に注入し、続いて、デカンチオール5μL、ウンデシルアミン1μL、及び、溶媒であるC
6F
14(250μL)(D)の順に入れて、Vortexミキサーにて分散させ、遠心させて分層させたのち、下層を抽出してろ過した。そして、フッ素系樹脂溶液250μLに混合させ、その後、乾燥させた。
【0105】
(評価サンプル−4)
QD液を10μLごとに小分けして複数の収容部に注入し、続いて、デカンチオール5μL、ウンデシルアミン2μL、及び、溶媒である(C
3F
7)
3N(50μL)(E)の順に入れて、Vortexミキサーにて分散させ、遠心させて分層させたのち、下層を抽出してろ過した。そして、フッ素系樹脂溶液250μLに混合させ、その後、乾燥させた。
【0106】
そして、各評価サンプルの吸光度、吸光ピーク、蛍光ピーク、蛍光面積、面積/吸光度を求めた。その実験結果が、以下の表6に示されている。
【0108】
表6に示す、3、4の表記は、評価サンプルの番号を示す。
図2は、実験−3における評価サンプルの波長と吸光度との関係を示すグラフである。また、
図3は、実験−3における評価サンプルの波長と強度との関係を示すグラフである。
【0109】
実験により、溶媒として(C
3F
7)
3Nを用いた評価サンプル−4のほうが、評価サンプル−3に比べ蛍光面積を大きくでき強度が高く、また乾燥後の強度低下が小さいことがわかった。
【0110】
このように、デカンチオールとウンデシルアミンの2種類の表面改質剤を併用し、加えて溶媒を調整することで、フッ素系樹脂への分散性が良好でしかも高い蛍光強度を持つ表面改質条件を、本実施のスクリーニング方法により簡単かつスピーディに得ることができた。
【0111】
本実施の形態では、上記したように、フロン系溶媒への分散性を高めるための表面改質条件を導き出した後、その表面改質条件に基づいて、ナノ粒子の製造を行う。
【0112】
すなわち、本実施の形態のナノ粒子の製造方法は、ナノ粒子を生成するステップと、ナノ粒子に対して、フルオロベンゼンチオール系、フルオロアルカンアルコール系、パーフルオロカルボン酸系、フルオロアルカンチオール系、フルオロアルカンアミン系、及び、フルオロアルカンエステル系のうち、少なくともいずれか1種の表面改質剤を添加して、ナノ粒子の表面を表面改質処理するステップと、を有している。
【0113】
本実施の形態では、上記のスクリーンング方法に基づき、表面改質処理条件として、表面改質剤の選択とともに、表面改質処理中での溶媒濃度及び、表面改質剤の濃度を調整するこができる。「調整」には、製造過程の諸要因に基づいて変更したり微調整する行為のみならず、スクリーニング方法で決めた表面改質剤や濃度を使用し続ける行為も含まれる。
【0114】
また、表面改質剤種、表面改質処理中での溶媒濃度及び、表面改質剤の濃度の決定は、上記したスクリーニング方法における、表面改質処理条件が異なる複数の評価サンプルに対して分光分析評価を行うことで簡単且つ適切に得ることが可能である。