特許第6651927号(P6651927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6651927
(24)【登録日】2020年1月27日
(45)【発行日】2020年2月19日
(54)【発明の名称】免疫反応試薬製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/531 20060101AFI20200210BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20200210BHJP
【FI】
   G01N33/531 A
   G01N33/574 A
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2016-58203(P2016-58203)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-173081(P2017-173081A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河合 信之
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/074265(WO,A1)
【文献】 米国特許第05998222(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/531
G01N 33/574
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原に対して特異的に反応する抗体を固定化した固相抗体を用いて、免疫反応試薬を製造又は保存する機器、器具又は容器を前処理し、次いで当該機器、器具又は容器を用いて免疫反応試薬を製造する方法であって、前記抗体は、製造しようとする免疫反応試薬が反応する抗原と同一の抗原に対して特異的に反応する抗体であり、かつ、前記前処理は、免疫反応試薬を製造又は保存する機器、器具又は容器に存在する前記抗原を、免疫反応試薬の製造に先立って除去するものであることを特徴とする、免疫反応試薬の製造方法。
【請求項2】
抗原に対して特異的に反応する抗体を固定化した固相抗体を用いて、免疫反応試薬の材料を前処理し、次いで当該材料を用いて免疫反応試薬を製造する方法であって、前記抗体は、製造しようとする免疫反応試薬が反応する抗原と同一の抗原に対して特異的に反応する抗体であり、かつ、前記前処理は、免疫反応試薬の材料に存在する前記抗原を、免疫反応試薬の製造に先立って除去するものであることを特徴とする、免疫反応試薬の製造方法。
【請求項3】
抗原が扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原)である、請求項1または2に記載の免疫反応試薬の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外診断薬等に使用される免疫反応試薬の製造方法であって、抗原に対する抗体を固定化した固相抗体を用いて、使用する設備や材料等に前処理をすることにより、偽陽性の発生を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍マーカーの一つである、扁平上皮癌関連抗原(Squamous Cell Carcinoma抗原、以下SCC抗原)は、ヒト子宮頸部扁平上皮癌組織から抽出、精製された分子量約45,000の蛋白質で、セリンプロテアーゼインヒビターの一員として機能していることが知られている。このSCC抗原は子宮頸部、肺、頭頸部、食道などの扁平上皮癌患者の血中で高率に高値を示すことから、扁平上皮癌の補助診断に、また、腫瘍の進行度をよく反映するので、治療効果の判定や治療後のモニタリングによる再発の指標など、腫瘍マーカーとして臨床的に広く用いられている。
【0003】
前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen、以下PSA)も腫瘍マーカーの一つであり、分子量約34,000の前立腺組織特異的な糖蛋白質で、カリクレイン様のセリン蛋白質分解酵素であり、240個のアミノ酸と4本の糖鎖より成っている。このPSAは前立腺癌患者の血中で高率に高値を示すことから、前立腺癌の早期発見、治療効果の確認や術後の経過観察に極めて優れたマーカーとして臨床的に広く用いられている。多くの検査用キットでは、PSA濃度が2.5から4ng/mL以下において正常とされている。
【0004】
テストステロンやエストラジオールを代表とするステロイドホルモンも、性腺機能、下垂体機能、骨の成熟、骨量の維持、精巣、肺、卵巣、副腎腫瘍などの悪性腫瘍の存在確認やフォローアップにも有用で、臨床的に広く用いられている。
【0005】
しかしながら、SCC抗原は皮膚表皮、毛髪、唾液、汗等の血液以外の体液等にも存在している。PSAに関しても前立腺から分泌され精液中に含まれている生体物質であり、精漿中にmg/mL単位と血液中と比較して100万倍ほどの高濃度で存在している。さらに、テストステロンやエストラジオールを代表とするステロイドホルモンも、尿中に高濃度で存在している。上記の他にもβ2−マイクログロブリン(以下BMG)やC−ペプチドなど、臨床的に広く用いられているにもかかわらず、尿中に高濃度で存在しているものが多数ある。
【0006】
これらの抗原は採血や組織片採取といった侵襲性を伴うことなく、意図せずに、かつ容易に体外に露出することが可能であり、さらに手といった皮膚表皮や衣類等に付着するという特徴を有している。このような特徴から、検体の取り扱い時や体外診断薬製造時において、容易に抗原が混入して、偽陽性の原因となることが問題となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
臨床検査の分野において、正確な測定は種々の試薬で求められている。
【0008】
そこで本発明の目的は、体外診断薬等に使用される免疫反応試薬を効果的に偽陽性の発生を抑制する製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、免疫反応試薬を製造又は保存する機器、器具又は容器や、免疫反応試薬の材料に対して該抗原と特異的に反応する抗体を固定化した固相抗体を用いて前処理することにより、偽陽性の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は以下のとおりである。
(1)抗原に対して特異的に反応する抗体を固定化した固相抗体を用いて、免疫反応試薬を製造又は保存する機器、器具又は容器を前処理し、次いで当該機器、器具又は容器を用いて免疫反応試薬を製造することを特徴とする、免疫反応試薬の製造方法。
(2)抗原に対して特異的に反応する抗体を固定化した固相抗体を用いて、免疫反応試薬の材料を前処理し、次いで当該材料を用いて免疫反応試薬を製造することを特徴とする、免疫反応試薬の製造方法。
(3)抗原が扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原)である、(1)または(2)に記載の免疫反応試薬の製造方法。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明における抗原は特に限定はないが、臨床検査の測定対象物質であることが好ましく、例えばSCC抗原、前立腺特異抗原(PSA)、テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン、コルチゾール、BMG、C−ペプチド等のことをいう。中でもSCC抗原は前述のように体外に露出していることが多いため、本発明を適用するのに好ましいものである。
【0013】
本発明における抗体はポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、抗体を産生する実際上任意の動物種、例えばウサギ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、マウスまたはラットなど由来の抗体が使用できる。抗体の形態には完全抗体や、それを酵素処理や化学処理により切断したF(ab’)やFab’等のような抗体断片であってもよい。
【0014】
本発明において固相抗体は、ビーズや微粒子などの固相担体に固定化した抗体で、溶液に不溶性のものを指すが、固相に直接抗体が結合していてもよく、二次抗体を介して固相に抗体が結合していてもよく、アビジン−ビオチン結合を介して固相に抗体が結合していてもよい。
【0015】
固相担体としては、ビーズや微粒子等を使用することできる。ガラス、金属、セラミツクス等の無機物であってもよく、また高分子ポリマー等の有機物であってもよい。ビーズの粒子径は100から5,000μmが好ましく、さらには500から2,000μmが好ましい。微粒子の粒子径は0.1から100μmが好ましく、さらには1から10μmが好ましい。またそれらのビーズや微粒子は磁性体を含むものであってもよい。
【0016】
このような固相抗体を用いて、免疫反応試薬を製造・保存する際の機器、器具又は容器を前処理する方法には特に限定はないが、固相抗体を緩衝液や水等に懸濁させた懸濁液を前記の機器、器具、容器に添加し接液処理することが好ましい。また固相抗体を用いて免疫反応試薬の材料を前処理する方法についても特に限定はないが、当該材料が緩衝液や液状試薬の場合は、それに直接固相抗体を添加し、接液処理することが好ましい。
【0017】
前処理した後の、固相抗体の除去方法としては、機器などの転倒や濾過などによる除去でもよく、ビーズや微粒子が磁性体を含むものである場合には、磁気などによる除去でもよい。このように前処理された機器、器具、容器又は材料を用いて免疫反応試薬を製造すればよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、偽陽性の発生を抑制できる良好な性能を有した体外診断薬等に使用される免疫反応試薬を得ることが可能となる。例えば、本発明で得られた免疫測定試薬は精度よく測定することができるので、本発明によって高精度な測定も実現できる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例により限定されるものではない。
免疫測定装置として全自動エンザイムイムノアッセイ装置(AIA−2000、東ソー社製)と免疫測定用試薬として当該装置用免疫反応試薬を用い、1ステップサンドイッチ法により各測定を行った。なお、各免疫反応試薬は後述したようにして調製した。
【0020】
(実施例1)
抗SCC抗体を固定化したビーズ(固相抗体)7000個を500mLのTris緩衝液に懸濁させ、それをビーズ分注機器に投入し1時間撹拌した。その後ビーズを除去し、投入したビーズが残存していないことを確認した。
【0021】
新たな抗SCC抗体を固定化したビーズを処理済みのビーズ分注機器に投入し、規定数量のビーズを小型カップに分注した後に、スクロース、ウシ血清アルブミン、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、さらにアルカリ性ホスファターゼ標識抗SCC抗体含むTris緩衝液を加えて凍結乾燥を行い、免疫反応試薬を作製した。
【0022】
作製した試薬に対して、前記自動免疫測定装置で標準品1(SCC抗原:0ng/mL)と標準品2(SCC抗原:1.0ng/mL)を測定し、アルカリ性ホスファターゼの基質である蛍光基質の蛍光強度を測定した。標準品1の蛍光強度は0.309(nmol/(L・s))であり、標準品2の蛍光強度は1.581(nmol/(L・s))であった。
【0023】
(比較例1)
抗SCC抗体を固定化したビーズ(固相抗体)でビーズ分注機器を処理しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で免疫反応試薬を作製した。
【0024】
作製した試薬に対して実施例1と同様に測定を行い、蛍光強度を測定した。標準品1の蛍光強度は0.560(nmol/(L・s))であり、実施例1の標準品1の蛍光強度よりも高い結果であった。
【0025】
上記の実施例1の結果と共に表1に示す。
【0026】
【表1】