【文献】
都田昌之、山本康平,シリコン酸化膜のウェットエッチング速度,山形大学紀要(工学),日本,山形大学,2008年 2月,第30巻,第45−54頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記pH測定計が、内部液を貯留したボディと、一部又は全部を応答ガラスで形成した、前記BHF溶液が流れる管体とを具備し、前記管体を形成する応答ガラスが前記ボディ内の内部液に接触するように、前記管体が前記ボディを貫通していることを特徴とする請求項2記載のBHF溶液濃度測定装置。
BHF溶液のpHとHF濃度との関係を求めるとともに、HF濃度が1ppm〜500ppmであるBHF溶液のpHをガラス電極を利用して測定し、前記関係を参照して、測定したpHの値からBHF溶液の作成時に添加されたHF濃度を算出することを特徴とするBHF溶液濃度測定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、簡単な構成で、BHF溶液中のHF濃度を、低濃度領域まで精度良く測定できるようにすべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明に係るBHF溶液濃度測定装置は、BHF溶液中のHF濃度を測定するものであって、BHF溶液のpHとHF濃度との関係を記憶している関係記憶部と、BHF溶液のpHを測定するpH測定計と、前記関係記憶部に記憶された関係を参照して、前記pH測定計で測定したpHの値からHF濃度を算出する濃度算出部とを具備することを特徴とするものである。
【0006】
BHF溶液とは、基本的には、水にNH
4FとHFとを混合させた溶液である(他の物質が混合しているものもある)。本発明者は、このBHF溶液が低濃度(HF濃度が1ppm〜500ppm程度)において、pHがHF濃度に敏感であり、他方、NH
4F濃度には鈍感(HF濃度に対する約1/50以下)であることを見出して初めて本発明を完成したものである。
なお、pHの値とは、pHを間接的に示す値(例えばH
+の濃度など)も含む概念である。HF濃度、NH
4F濃度についても同様である。
かかる構成によれば、pHを測定するだけで、BHF溶液中のHF濃度を精度良く測定できる。
【0007】
本発明者は、pHとHF濃度との関係がNH
4F濃度によって変わることをさらに見出した。この知見によれば、前記関係記憶部が、異なる複数のNH
4F濃度毎にpHとHF濃度との関係を記憶しており、前記濃度算出部が、与えられたNH
4F濃度に対応する前記関係を参照して、前記pH測定部で測定したpHの値からHF濃度を算出するものであることが好ましい。
【0008】
BHF溶液はガラスを腐食するため、pH測定計としてガラス電極を用いることは考えにくい。しかしながら、上述した低濃度のBHF溶液であれば、ガラス電極を利用することが可能であり、応答性良くHF濃度を測定できる。
【0009】
pH測定計の具体的な態様としては、内部液が貯留されたボディと、一部又は全部を応答ガラスで形成した、前記BHF溶液が流れる管体とを具備し、前記管体を形成する応答ガラスが、前記ボディ内の内部液に接触するように、前記管体が前記ボディを貫通するように構成されたものを挙げることができる。
【0010】
このような構成であれば、管体を細径にすることによって、BHF溶液を容器に貯留することなく、少量のBHF溶液をサンプリングすればよいので、測定のために使用されるBHF溶液の量を低減でき、測定によって生じるBHF溶液のロスを従来に比べ飛躍的に抑えることができるようになる。また、BHF溶液の対流による影響を受けないので、測定精度を向上させることができる。
【0011】
さらに、前記BHF溶液の濃度を測定するときは、該BHF溶液の管体内での流れを停止させるように構成しておけば、BHF溶液の流動による測定値への影響をなくすことができる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成した本発明によれば、BHF溶液中のHF濃度を精度良く測定できる。また、このHF濃度をpH値から算出するので、複雑な構成を回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施形態に係るBHF濃度測定装置100は、例えば半導体製造におけるエッチングプロセス等で用いられるBHF溶液中のHF濃度を測定するためのものであり、半導体製造装置にインラインで組み込まれる。
具体的に説明する。
【0016】
このBHF濃度測定装置100は、
図1に示すように、エッチングのためのBHF溶液が流れる本流路(図示しない)に接続されて、その一部をサンプリングするサンプリング機構1と、サンプリングしたBHF溶液のpHを測定するpH測定計2と、BHF溶液のpHとHF濃度との関係を記憶している関係記憶部3と、前記関係記憶部3に記憶された関係を参照して、前記pH測定計2で測定したpHの値からHF濃度を算出する濃度算出部4とを具備したものである。
【0017】
前記サンプリング機構1は、前記本流路に連通するサンプリング流路11と、該サンプリング流路11へのBHF溶液の導入等を制御する流通制御機構12とを具備したものである。
サンプリング流路11は、サンプリングされたBHF溶液が流れる流路であり、該BHF溶液に対する耐蝕性を有した配管部材で形成されている。
流通制御機構12は、前記サンプリング流路11上に設けられたポンプ121と、このポンプ121の動作を制御する制御部122を具備したものである。
【0018】
制御部122は、この実施形態では、前記ポンプ121とは別に設けられた情報処理回路5がその役割を担う。この情報処理回路5は、CPUやメモリ、通信ポートなどから構成されたデジタル回路と、バッファーや増幅器などを具備するアナログ回路と、これらデジタル回路とアナログ回路とを仲立ちするADコンバータ、DAコンバータなどを具備したものである。そして、前記メモリに記憶させた所定のプログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協働することにより、この情報処理回路5が前記制御部122としての機能を発揮する。
【0019】
そして、この制御部122からの指令信号によって、ポンプ121が稼動すると、前記本流路を流れるBHF溶液の一部をサンプリング流路11に引き込み、ポンプ121が停止するとBHF溶液のサンプリングを停止するように構成してある。
【0020】
pH測定計2は、ここでは、いわゆるガラス電極法に基づいてpHを算出するものであり、ガラス電極21及び比較電極22と、これら各電極21、22の電位差に基づいてpHを算出するpH算出部23とを具備している。
【0021】
前記ガラス電極21は、
図2に示すように、内部に第1内部液211を貯留した第1ボディ212と、該第1ボディ212に設けられた応答ガラスGと、前記第1内部液211に浸漬された第1内部極214とを具備したものである。
【0022】
第1ボディ212は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の材質から形成された中空ブロック体状をなすものである。
第1内部液211は、例えば、pH緩衝液等である。
【0023】
応答ガラスGは、周知のように第1内部液211と測定対象であるBHF溶液との間に介在してそのPH差による電位を生じせしめるものであり、この実施形態では、この応答ガラスGによって管体213を形成している。
【0024】
この応答ガラスGによって形成された管体213は、第1ボディ212の一側面からその内部空間を通って他側面に亘るように貫通させたキャピラリー状をなす非常に細いものである。その内径は、例えば0.1mmから2mm程度、好ましくは0.5mmから1mm程度である。
この管体213の始端は、前記サンプリング流路11に接続されており、ポンプ121の稼動によって前記本流路から管体213の内部にBHF溶液が導入されるようにしてある。
【0025】
このようにして、管体213の外表面が前記内部空間に充填された第1内部液211に接触する一方で、該管体213の内部にBHF溶液が導入されることによって、前述したように、第1内部液211と測定対象であるBHF溶液との間に応答ガラスG(管体213)が介在するようにしている。
なお、この実勢形態では、管体213の全部を応答ガラスGで形成してあるが、第1内部液211に接触する一部だけを応答ガラスGにしてもよい。
【0026】
第1内部極214は、例えば、銀/塩化銀から形成された棒状又は長板状をなすものであり、前記第1ボディ212の底壁を貫通するように取り付けられて、その一部が第1内部液211に浸かるようにしてある。
【0027】
前記比較電極22は、
図2に示すように、内部に第2内部液221を貯留する第2ボディ222と、第2内部液221に浸漬してリファレンス電位を出力する第2内部極224と、液絡部223とを具備したものである。
【0028】
第2ボディ222は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等の材質から形成された中空ブロック体状をなすものであり、その内部空間に、前記第2内部液221が充填されている。この第2内部液221は、例えば、pH緩衝液等である。
【0029】
この第2ボディ222には、前記内部空間の他に、BHF溶液が導入される内部流路8が設けられている。この内部流路8は、第2ボディ222の一側面から他側面に亘って貫通する貫通孔であり、その始端が、前記管体213の終端に連通されている。この構成により、BHF溶液が前記管体213を通った後、この内部流路8に導入されるように構成してある。なお、この内部流路8は、前記管体213と同様に細径のキャピラリー形状に形成されている。
【0030】
第2内部極224は、例えば、銀/塩化銀から形成された棒状又は長板状をなすものであり、前記第2ボディ222の底壁を貫通するように取り付けられて、その一部が第2内部液221に浸かるようにしてある。
【0031】
前記液洛部は、この内部流路8と前記内部空間との接触部位に形成してある。
具体的に説明すると、前記内部空間は、第2内部極224が挿入された領域よりも図中上側、すなわち、底壁の反対側端部において、その内径が小径に形成されており、この小径部分の先端において、前記内部流路8の側面と接触する。この接触部位に、非常に小さい孔乃至多孔質部材を設けて、前記液絡部223が形成してある。
【0032】
さらにこの実施形態では、前記第1ボディ212と第2ボディ222とを、その側面同士が対向するように離間配置し、スペーサ部材6によって第1ボディ212と第2ボディ222とを一体的に連結してある。そして、スペーサ部材6から偏位した箇所において、第1ボディ212の側面から管体213の終端部を突出させ、その突出端が、第2ボディ222の内部流路8の始端に接続されるようにしてある。
このようにして管体213の突出部を外空間に露出させているのは、第1内部液211が不測の原因で管体213との隙間から漏洩しても、第2ボディ222内に到達しないようにするためである。
同様の理由から、管体213の始端部も第1ボディ212から突出させ、外空間に露出させてある。図中符号7は、この突出した管体213の始端部を支持する支持部材である。
【0033】
pH算出部23は、
図1に示すように、前記第1内部極214と第2内部極224との電位差を測定し、その電位差に基づいて前記BHF溶液のpHを算出するものであり、この実施形態では、前記情報処理回路5がそのメモリに記憶させた所定のプログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協働することにより、該pH算出部23としての機能を発揮する。
【0034】
前記関係記憶部3は、BHF溶液のpH値とHF濃度との関係をNH
4Fの濃度毎に記憶しているものであり、物理的には、情報処理装置のメモリの所定領域に設定されている。
【0035】
前記関係は、本発明者が初めて見出したものであり、例えば実験によって予め求めてある。
図3は、NH
4Fの濃度が0.2%(2000ppm)と0.3%(3000ppm)とのそれぞれでの前記関係を実験で求めたグラフである。該関係記憶部3は、この関係をルックアップテーブルや演算式として予め記憶している。
【0036】
なお、前記関係が成り立つ理由を、本発明者は、以下のように考えている。
BHF溶液の各成分は、以下のように解離することが知られている。ここで、Kは解離定数である。
(1)NH
4F⇔NH
4++F
− K1 不明(強解離)
(2)HF⇔H
++F
− K2=1.3*10
−3
(3)HF
2−⇔HF+F
− K3=0.104
NH
4Fは、完全に解離していると仮定し、BHF溶液の作成時に添加されたHFの初期濃度をH、NH
4Fの初期濃度をN、H
+濃度をC、HF
2−濃度をDとすると、平衡状態に達した時の最終的なF
−濃度はN+C−D、最終的なHF濃度はH−C−Dと表すことができる。ここで、式(2)と(3)の解離定数と、HFの初期濃度(H)と、NH
4Fの初期濃度(N)は既知であるので、H
+濃度(C)つまりpHの値が分かれば、これらの値と式(2)と(3)からHF濃度を算出することができる。このため、BHF溶液のpH値とHF濃度との間には、ある一定の数式で表すことができる1対1の関係が成り立っていると言える。この式に基づいてシミュレーションした結果を、
図3に示す。実験結果と同じ傾向を示していることがわかる。
なお、前記式からいえることは、解離が生じる前(例えば前述のように、BHF溶液の作成時に添加されたHF濃度)と、平衡状態に達したときのHF濃度とは1対1の関係にある。したがって、本発明でいうHF濃度とは、そのどちらであってもよい。
【0037】
前記濃度算出部4は、前記pH測定計2で測定したpH値を取得するとともに、前記関係記憶部3に記憶された関係を参照して、測定pH値からHF濃度を算出するものであり、前記情報処理回路5がそのメモリに記憶させた所定のプログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協働することにより、該濃度算出部4としての役割を担う。
【0038】
ところで、前記関係記憶部3に記憶された関係は、NH
4F濃度毎に異なるため、HF濃度の算出には、NH
4Fの濃度も必要である。ここでは例えばオペレータがプロセスに先立って入力した値を用いるようにしている。
図3の実験結果、あるいはシミュレーション結果からみると、NH
4F濃度が0.1%(1000ppm)変動すると前記関係が若干変わることがわかるが、エッチングプロセス中、NH
4F濃度が、ここまで変動することはほとんどないからである。
【0039】
次に、以上のように構成したBHF濃度測定装置100の動作の一例を簡単に説明する。
まず、制御部122がポンプ121に指令を出して、BHF溶液を本流路からサンプリングし、ガラス電極21の管体213及び比較電極22の内部流路8にBHF溶液を充満させた後、ポンプ121を停止してBHF溶液の流れを止める。この状態で、BHF溶液中のHF濃度を測定する。測定が終了後は、サンプリング流路11の接続先を、図示しないバルブを操作するなどして洗浄液タンク(これも図示しない)に切り替え、内部のBHF溶液をパージする。この一連の動作を所定タイミングで繰り返し行って、BHF溶液中のHF濃度を逐次測定する。
【0040】
しかしてこのような構成のBHF濃度測定装置100によれば、以下のような効果を奏する。
図3のグラフに示すように、pH値が、HF濃度が数ppm変動しても敏感に反応するのに比べると、NH
4F濃度の変動(1000ppm)に対して極めて鈍感であることがわかる。したがって、従来の光学式濃度計では測定できなかった低濃度領域(HF濃度が1ppm〜500ppm、好ましくは5ppm〜50ppm程度)において、ppmオーダーの分解能で精度よく、HF濃度を測定できる。また、その測定に利用するのは、pH測定計2だけなので、その構成が複雑化することもない。
管体213が細径であるため、測定に使用するBHF溶液の量を非常に少量に抑えることができる。したがって、BHF溶液のロスを従来に比べ飛躍的に抑えることができるし、細径であるが故に、BHF溶液の対流による影響を受けないので、測定精度を向上させることができる。
【0041】
pH測定計2としてガラス電極21を利用しているので、測定を短時間で行える。そのため、例えば、エッチング工程におけるBHF溶液のHF濃度をほぼリアルタイムで監視することができる。
【0042】
一方、BHF溶液の測定に供するサンプリング量が極少量で済むので、BHF溶液が極低濃度であることと相俟って、ガラス電極21への腐食等によるダメージを最小限に抑えられ、装置寿命を使用に耐える十分な長さに保つことができる。
測定の都度、パージするので、この点もガラス電極21へのダメージ軽減に寄与する。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、関係記憶部には、NH
4F濃度毎の関係が離散的に記憶されているが、使用されるによるBHF溶液におけるNH
4F濃度が、関係記憶部に記憶されておらず、例えば中間値であった場合などは、その前後2つの関係から補完して関係を求めればよい。
pH測定計は、形状的にはロッド式のガラス電極でもよいし、機能的にいえば、耐フッ酸用のものでもよい。また、特殊な機能のないものでも構わないし、ガラス電極方式の以外のものでもよい。NH
4Fの濃度は、前記実施形態では、オペレータが入力した初期値を用いていたが、別途、NH
4F濃度計(例えば導電率計や吸光度計により測定できる。)を設けて、その値を取得するようにしてもよい。pH濃度からHF濃度に変換する関係式のパラメータとして、前記実施形態では、NH
4F濃度を採用していたが、これに加えて、温度や圧力を考慮してもよい。
その他、本発明は、前記図示例に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。