特許第6652920号(P6652920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6652920合成樹脂表皮材及び合成樹脂表皮材の製造方法
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  • 特許6652920-合成樹脂表皮材及び合成樹脂表皮材の製造方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6652920
(24)【登録日】2020年1月28日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】合成樹脂表皮材及び合成樹脂表皮材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/40 20060101AFI20200217BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200217BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   B32B27/40
   B32B27/00 D
   D06N3/14 102
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-532932(P2016-532932)
(86)(22)【出願日】2015年7月6日
(86)【国際出願番号】JP2015069460
(87)【国際公開番号】WO2016006583
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2018年4月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-140023(P2014-140023)
(32)【優先日】2014年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴文
(72)【発明者】
【氏名】中村 高人
(72)【発明者】
【氏名】川口 忠之
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭49−093503(JP,A)
【文献】 特開2002−339262(JP,A)
【文献】 特開2008−274205(JP,A)
【文献】 特開昭59−066577(JP,A)
【文献】 特開2014−129622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
D06N 1/00−7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に、基材側から、接着剤層と、表皮層と、表面処理層とを、この順に備え、
記表皮層は
(a1)ポリカーボネートポリオールと、ポリカーボネートポリオールとポリカプロラクトンポリオールのコポリマーポリオールと、からなる群より選択される少なくとも1つと、
(b1)脂環族ジイソシアネートと、
(c1)脂環族ジアミンと、
(d1)モノアミンと、
を反応させて得られる、数平均分子量が35,000以上100,000以下の第1のポリウレタンウレア樹脂を含有し、
前記接着剤層は、
(a2)ポリカーボネートポリオールとポリカプロラクトンポリオールのコポリマーポリオールと、
(b2)脂環族ジイソシアネートと、
(c2)脂環族ジアミンと、
(d2)モノアミンと、
を反応させて得られる、数平均分子量が35,000以上100,000以下の第2のポリウレタンウレア樹脂と、架橋剤と、の反応物である架橋ポリウレタンウレア樹脂を含有する、
合成樹脂表皮材。
【請求項2】
前記(a1)におけるポリカーボネートポリオール、
前記(a1)におけるコポリマーポリオール、及び
前記(a2)におけるコポリマーポリオール、
からなる群より選択される少なくとも1つは、数平均分子量が500以上50,000以下であり、かつ1分子中に含まれる活性水素基数が1.9以上4.0以下である請求項に記載の合成樹脂表皮材。
【請求項3】
前記(a1)におけるポリカーボネートポリオール、
前記(a1)におけるコポリマーポリオール、及び
前記(a2)におけるコポリマーポリオール、
からなる群より選択される少なくとも1つが、下記一般式(1)で表される部分構造を有する、請求項又は請求項に記載の合成樹脂表皮材。
【化1】


一般式(1)中、Rは、炭素数2以上20以下の二価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6以上20以下の二価の脂環族炭化水素基を表し、分子内に複数のRが存在する場合、複数存在するRは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【請求項4】
第1のポリウレタンウレア樹脂の数平均分子量が60,000以上100,000以下である、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の合成樹脂表皮材。
【請求項5】
成形加工品の表皮材である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の合成樹脂表皮材。
【請求項6】
(a1)ポリカーボネートポリオールと、ポリカーボネートポリオールとポリカプロラクトンポリオールのコポリマーポリオールと、からなる群より選択される少なくとも1つと、
(b1)脂環族ジイソシアネートと、
(c1)脂環族ジアミンと、
(d1)モノアミンと、
を反応させて得られる、数平均分子量が60,000以上100,000以下である第1のポリウレタンウレア樹脂を含む樹脂溶液を剥離材上に塗布し、加熱乾燥して、乾式法により表皮層を形成する工程と、
(a2)ポリカーボネートポリオールとポリカプロラクトンポリオールのコポリマーポリオールと、
(b2)脂環族ジイソシアネートと、
(c2)脂環族ジアミンと、
(d2)モノアミンと、
を反応させて得られる、数平均分子量が35,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を含有する接着剤を前記表皮層の剥離材と接しない側に塗布して接着剤層を形成する工程と、
形成された接着剤層の表面に基材を加圧接着する工程と、
前記表皮層から前記剥離材を剥離し、前記表皮層の前記剥離材の剥離後に露出した側に、ポリウレタン樹脂溶液を塗布し、乾燥して、表面処理層を形成する工程と、
を含む、合成樹脂表皮材の製造方法。
【請求項7】
前記剥離材が、表皮層にシボ模様を形成する凹凸を有する、請求項に記載の合成樹脂表皮材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日焼け止め剤耐性を有する合成樹脂表皮材及び該合成樹脂表皮材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インストルメントパネル、ドアトリム、座席、天井などの自動車内装外装部品、トリム、座席、天井などの鉄道車輌及び航空機等の内装部品、家具、靴、履物、鞄、建装用内外装部材、衣類表装材、衣類用裏地、壁装材などに、天然皮革や繊維性シートに代えて、耐久性に優れる合成樹脂表皮材が多用されている。このような合成樹脂表皮材は、最表面に天然皮革に類似した凹凸、即ち、シボ(emboss)模様を有しているものがある。
例えば、自動車内装品については、座席部に天然皮革に換えて、皮革様の外観を有する合成皮革が使用されている。
外観、感触、及び機械的強度に優れた合成皮革として、基材表面に湿式法により表皮層を形成し、基材を剥離して、接着剤を塗布し、基布地と接合させる合成皮革の製造方法が提案されている(例えば、特開平09−31859号公報参照。)。
【0003】
近年、紫外線による人体への影響が問題視され、紫外線の影響を抑制する目的で、紫外線吸収剤の配合量を増やした日焼け止め剤が増加し、盛夏に使用される婦人用化粧料のみならず、季節、及び男女を問わず、日常的に日焼け止め剤が汎用されるようになってきている。
日焼け止め剤は、クリーム、乳液、ローション等に、紫外線吸収能を有する化合物、及び、紫外線遮蔽能を有する粒子から選ばれる成分を含有する。以下、本明細書では、紫外線吸収能を有する化合物を紫外線吸収剤と称することがある。
日焼け止め剤は、製剤化が容易な紫外線吸収剤を含有するものが汎用されている。
自動車の車両向け座席用の合成樹脂表皮材は、より高い耐久性が求められている。従来、合成樹脂表皮材としては、耐薬品性が重視され、エンジンオイルなどの油性成分、汗などの水性成分に十分な耐性を有するものが選択され、従って、水系溶剤や油性成分を含有する整髪料などには耐性を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討により、近年汎用される紫外線吸収剤を高濃度で含有する日焼け止め剤が合成樹脂表皮材に付着すると、合成樹脂表皮材が膨潤して外観を損なう場合があることが見出された。
合成樹脂表皮材に感触向上のために用いられるウレタン樹脂は、分子内にウレタン結合を有し、ウレタン樹脂として、種々の特性向上のために、分子内にベンゼン環などの環構造を有するウレタン樹脂が用いられている。
一方、紫外線吸収剤は、一般的に、ベンゼン環などの芳香環構造を有し、嵩高い分子構造を含む化合物である。紫外線吸収剤が合成樹脂表皮材に付着すると、紫外線吸収剤が有する芳香環等の環構造は、合成樹脂表皮材に用いられるウレタン樹脂、詳細には、ウレタン樹脂に含まれる部分構造であるウレタン結合との親和性が高いために、合成樹脂表皮材の表面から合成樹脂表皮材内部への所望されない紫外線吸収剤の浸透が生じて、合成樹脂表皮材の表面が膨潤する場合があると考えられる。また、ウレタン樹脂表面に付着した紫外線吸収剤が有する水酸基のような極性基によって、ウレタン樹脂が有するウレタン結合が影響を受けて結合が緩み、ウレタン結合の緩みに起因する膨潤が生じる場合があると考えられる。
このようなウレタン樹脂に対する日焼け止め剤の影響は今まで考慮されておらず、合成樹脂表皮材の紫外線吸収剤を含有する日焼け止め剤に対する製品規格も日本国においては存在しないのが現状である。
【0005】
本発明の課題は、紫外線吸収剤を含有する日焼け止め剤が付着した場合においても、合成樹脂表皮材表面の膨潤による外観の低下が抑制された日焼け止め剤耐性に優れた合成樹脂表皮材及び前記合成樹脂表皮材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、合成樹脂表皮材のうち、表皮層及び接着剤層に用いるポリウレタン樹脂の分子構造、及び分子量を制御することで、上記問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。
<1> 基材の一方の面に、基材側から、接着剤層と、表皮層と、表面処理層とを、この順に備え、前記接着剤層及び前記表皮層は、数平均分子量が35,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を含有する合成樹脂表皮材。
<2> 前記ポリウレタンウレア樹脂が、ポリオールと、ポリイソシアネートと、ジアミンと、モノアミンとを反応させて得られるポリウレタンウレア樹脂である<1>に記載の合成樹脂表皮材。
<3> 前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールを含む<2>に記載の合成樹脂表皮材。
<4> 前記ポリカーボネートポリオールの数平均分子量が500以上50,000以下であり、前記ポリカーボネートポリオール1分子中に含まれる活性水素基数が1.9以上4.0以下である<3>に記載の合成樹脂表皮材。
<5> 前記ポリカーボネートポリオールが、下記一般式(1)で表される部分構造を含むポリカーボネートポリオールである<3>又は<4>に記載の合成樹脂表皮材。
【0007】
【化1】
【0008】
一般式(1)中、Rは、炭素数2以上20以下の二価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6以上20以下の二価の脂環族炭化水素基を表し、分子内に複数のRが存在する場合、複数存在するRは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
<6> 前記ポリイソシアネートが、脂環族ジイソシアネートを含むポリイソシアネートである<2>〜<5>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材。
<7> 前記ジアミンが、脂環族ジアミンを含むジアミンである<2>〜<6>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材。
<8> 前記表皮材に含まれる前記ポリウレタンウレア樹脂の数平均分子量が60,000以上100,000以下であり、前記接着剤層に含まれる前記ポリウレタンウレア樹脂の数平均分子量が35,000以上100,000以下である<1>〜<7>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材。
<9> 成形加工品の表皮材である<1>〜<8>のいずれか1つに記載の合成樹脂表皮材。
【0009】
<10> ポリオールと、ポリイソシアネートと、ジアミンと、モノアミンとを反応させて得られる、数平均分子量が60,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を含む樹脂溶液を剥離材上に塗布し、加熱乾燥して、乾式法により表皮層を形成する工程と、ポリオールと、ポリイソシアネートと、ジアミンと、モノアミンとを反応させて得られる、数平均分子量が35,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を含有する接着剤を前記表皮層の剥離材と接しない側に塗布して接着剤層を形成する工程と、形成された接着剤層の表面に基材を加圧接着する工程と、前記表皮層から前記剥離材を剥離し、前記表皮層の前記剥離材の剥離後に露出した側の面に、ポリウレタン樹脂溶液又は分散液を塗布し、乾燥して、表面処理層を形成する工程と、を含む合成樹脂表皮材の製造方法。
<11> 前記剥離材が、表皮層にシボ(emboss)模様を形成する凹凸を有する<10>に記載の合成樹脂表皮材の製造方法。
【0010】
本明細書において、組成物中の各成分の量は、各成分に該当する物質が組成物中に複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば紫外線吸収剤を含有する日焼け止め剤が付着した場合においても、合成樹脂表皮材表面の膨潤による外観の低下が抑制された耐日焼け止め剤性を有する合成樹脂表皮材及び前記合成樹脂表皮材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態の合成樹脂表皮材の層構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
なお、以下、本明細書では、日焼け止め剤が付着した場合の膨潤による外観の低下抑制効果を、「耐日焼け止め剤性」と称することがある。
【0014】
<合成樹脂表皮材>
まず、本発明の合成樹脂表皮材について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態の合成樹脂表皮材10の層構成を示す概略断面図である。
本実施形態の合成樹脂表皮材10は、基材12と、基材12側から、接着剤層14と、表皮層16と、表面処理層18とを、この順に備え、接着剤層14及び表皮層16は、数平均分子量が35,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を含有する。前記ポリウレタンウレア樹脂は、以下に詳述する特定の部分構造を含むポリウレタンウレア樹脂であることが好ましい。
なお、図1に示すように、本実施形態の合成樹脂表皮材10は、前記表皮層16上に表面処理層18を備える。表面処理層18は、表皮層16の外観、強度などを改良するために設けられる層である。
表皮層16及び表皮層16上に設けられる表面処理層18等の合成樹脂表皮材10の最表面には、意匠性を向上する目的で、シボ(emboss)模様、例えば、天然皮革に類似したシボ模様を有していてもよい。
本実施形態において、この順に備えるとは、基材12の一方の面に、基材12側から、接着剤層14と表皮層16と表面処理層18とをこの順に有することを意味し、所望によりさらに設けられる任意の層、例えば、プライマー層、着色樹脂層、クッション層などの存在を妨げるものではない。
【0015】
本発明者らの検討によれば、紫外線吸収剤を含有する日焼け止め剤による膨潤の発生は、ウレタン樹脂内における紫外線吸収剤と親和性を有する部分構造の存在に起因するものと考えられる。
このため、最も外部の影響を受けやすい表皮層、及び、隣接して設けられる接着剤層に、耐日焼け止め剤性に優れた樹脂を用いることで、紫外線吸収剤の表皮層への浸透及び浸透に起因する膨潤を抑制できると推定される。なお、本発明はこの推定機構には何ら制限されない。
【0016】
ポリウレタン樹脂は、一般的には、ジオールに代表されるポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られる。本発明者らは、ポリオールとジイソシアネートのみから得られるウレタン樹脂に代えて、数平均分子量が35,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を表皮層と接着剤層に含有させることで合成樹脂表皮材の耐日焼け止め剤性が著しく向上することを見出した。また、前記ポリウレタンウレア樹脂は、ポリオールとジイソシアネートに加え、さらに、ジアミンとモノアミンとを反応させて得られるポリウレタンウレア樹脂が好適であることを見出した。
【0017】
(ポリウレタンウレア樹脂)
以下、本実施形態において、表皮層、及び接着剤層に含まれるポリウレタンウレア樹脂について詳細を説明するが、本発明の趣旨を超えない限りにおいて、本発明は以下の記載に制限されるものではない。
本実施形態において用いられるポリウレタンウレア樹脂は、数平均分子量が35,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂である。前記ポリウレタンウレア樹脂は、ポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)と、ジアミン(C)と、モノアミン(D)と、を反応させて得られることが好ましい。
以下、説明の便宜上、ポリウレタンウレア樹脂の好ましい原料である各成分に、それぞれ、(A)、(B)、(C)、(D)の符号を付して説明する。以下、ポリオール(A)を「(A)成分」、ポリイソシアネート(B)を「(B)成分」、ジアミン(C)を「(C)成分」、モノアミン(D)を「(D)成分」とそれぞれ称することがある。
(A)成分〜(D)成分を用いて、ポリウレタンウレア樹脂を得る製造方法としては、特に制限はなく、一般的なウレタンウレア樹脂の製造方法、例えば、特開平8−165320号公報等に記載される方法等を適用することができる。
【0018】
<ポリオール(A)>
ポリウレタンウレア樹脂の原料であるポリオール(A)の分子量は、数平均分子量が500以上50,000以下であることが好ましく、1,000以上4,000以下であることがより好ましい。
ポリオールの数平均分子量は、ゲル・パーミュエーション・クロマトグラフィ(GPC)によって測定することができる。
本実施形態においては、温度40℃において、溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド)を毎分1.0ml(1.0cm)の流速で流し、濃度0.2g/20ml(20cm)のテトラヒドロフラン試料溶液を試料重量として3mg注入し、ポリオールの数平均分子量の測定を行なった。試料の分子量測定にあたっては、当該試料の有する分子量が数種の単分散ポリスチレン標準試料により、作成された検量線の分子量の対数とカウント数が直線となる範囲内に包含される測定条件を選択する。なお、溶媒及び測定温度条件は、適宜変更することができる。
また、本発明に使用されるポリオール(A)は、1分子中の活性水素基数、即ち、ポリオールが有する活性水素基である水酸基の平均官能基数が、1.9以上4.0以下の範囲であることが好ましい。
なかでも、本実施形態におけるポリウレタンウレア樹脂の製造に使用されるポリオール(A)としては、得られたポリウレタンウレア樹脂の黄変が抑制され、高耐久性であるという観点から、ポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0019】
(ポリカーボネートポリオール)
本実施形態におけるポリオール(A)として使用されるポリカーボネートポリオールの具体例としては、下記一般式(1)で表される部分構造を有するポリオールが挙げられる。
【0020】
【化2】
【0021】
一般式(1)中、Rは、炭素数2以上20以下の二価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数6以上20以下の二価の脂環族炭化水素基を表し、分子内に複数のRが存在する場合、複数存在するRは互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
なかでも、一般式(1)におけるRが炭素数2以上16以下の二価の脂肪族炭化水素、又は炭素数6以上16以下の二価の脂環族炭化水素である化合物が好ましい。
一般式(1)で表される部分構造としては、低分子量ポリオールから選ばれる1種以上と、カーボネート化合物から選ばれる1種以上との脱アルコール反応、又は脱フェノール反応により得られる部分構造を挙げることができる。
一般式(1)で表される部分構造を得るための反応に用いられる低分子量ポリオールとしては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
一般式(1)で表される部分構造を得るための反応に用いられる低分子量ポリオールは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
一般式(1)で表される部分構造を得るための反応に用いられるカーボネート化合物としては、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート化合物、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート化合物、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジアントリルカーボネート、ジフェナントリルカーボネート、ジインダニルカーボネート、テトラヒドロナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート類などが挙げられる。
一般式(1)で表される部分構造を得るための反応に用いられるカーボネート化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(コポリマーポリオール)
ポリウレタンウレア樹脂の原料として用いることができるポリオール(A)の別の例として、形成されたポリウレタンウレア樹脂が耐久性、耐候性、及び柔軟性等に優れた樹脂膜を形成しうるという観点から、前記ポリカーボネートポリオールと、ポリカプロラクトンポリオールと、脂肪族グリコールとをエステル交換反応することにより得られるコポリマーポリオールも好適なものとして挙げることができる。
ポリカプロラクトンポリオールに対するポリカーボネートポリオールと脂肪族グリコールの比率〔(ポリカーボネートポリオール+脂肪族グリコール)/ポリカプロラクトンポリオール〕は、質量比で99/1から60/40の範囲であることが好ましい。
【0023】
コポリマーポリオールを得るために用いられるポリカプロラクトンポリオールとしては、低分子ポリオールの1種類以上を出発物質として、ε−カプロラクトン、及びアルキル置換ε−カプロラクトンからなる群より選択される1種以上の化合物を用いて、低分子ポリオールを開環付加させて得られるコポリマーポリオールを挙げることができる。
ポリカプロラクトンポリオールの出発物質として用いることができる低分子ポリオールの具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等から選ばれる低分子ポリオールが挙げられる。
【0024】
(コポリマーポリオールの製造方法)
コポリマーポリオールの製造方法としては、公知の技術を用いることができる。一般的には、既述のポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、及び脂肪族グリコールを配合し、窒素ガスをバブリングしながら、50℃以上80℃以下の温度条件で均一になるまで溶解させる。その後、180℃以上200℃以下の温度雰囲気を維持しながら、目的の分子量になるまでエステル交換反応を行うことでコポリマーポリオールを製造することができる。
【0025】
ポリウレタンウレア樹脂を製造する際には、ポリオール(A)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、ポリウレタンウレア樹脂の原料として、既述のポリカーボネートポリオール、及びコポリマーポリオール以外の他のポリオールを、本発明の効果を損なわない限りにおいて、併用してもよい。
【0026】
<ポリイソシアネート(B)>
ポリウレタンウレア樹脂の製造に使用されるポリイソシアネート(B)としては、脂環族ジイソシアネートが好ましい。
【0027】
(脂環族ジイソシアネート)
ポリウレタンウレア樹脂の製造に使用することができる脂環族ジイソシアネートとしては、脂環を有するジイソシアネートが挙げられる。脂環を有するジイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4(又は2,6)−ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0028】
ポリウレタンウレア樹脂を製造する際には、ポリイソシアネート(B)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリウレタンウレア樹脂を製造する際には、既述の脂環族ジイソシアネート以外の他のポリイソシアネートを、本発明の効果を損なわない限りにおいて、併用してもよい。
【0029】
<ジアミン(C)>
ポリウレタンウレア樹脂の製造に使用されるジアミン(C)としては、脂環族ジアミンを用いることが好ましい。
【0030】
(脂環族ジアミン)
ポリウレタンウレア樹脂の製造に使用される脂環族ジアミンとしては、具体的には、イソホロンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ノルボルナンジアミン、水素添加トリレンジアミン、水素添加キシレンジアミン、水素添加テトラメチルキシレンジアミン等を挙げることができる。
なかでも、脂環族ジアミンとして、得られるポリウレタンウレア樹脂に優れた耐日焼け止め剤性を付与し得るという観点から、イソホロンジアミンが特に好ましい。
【0031】
(その他のジアミン)
また、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリウレタンウレア樹脂を製造する際には、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、2−ヒドロキシ−1,3−プロパンジアミン等の、既述の脂環族ジアミン以外の他のジアミンを併用することもできる。その他のジアミンの中には、鎖延長剤として作用しうる化合物もある。
【0032】
ポリウレタンウレア樹脂を製造する際には、ジアミン(C)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
<モノアミン(D)>
ポリウレタンウレア樹脂の製造に使用されるモノアミン(D)は、得られるポリウレタンウレア樹脂の粘度調整やゲル化抑制のために用いられる。
モノアミン(D)の具体例としては、エチルアミン、モルホリン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジブチルアミンモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、ヒドロキシエチルピペラジン、N−(3−アミノプロピル)ジエタノールアミン、N−シクロヘキシルエタノールアミン等を挙げることができる。
ポリウレタンウレア樹脂を製造する際には、モノアミン(D)は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明に好適に使用される耐日焼け止め剤性に優れたポリウレタンウレア樹脂は、前記(A)成分〜(D)成分を用いて、一般的なポリウレタン樹脂の合成法を適用して製造することができる。例えば、ポリオール(A)と、ポリイソシアネート(B)とのウレタン化反応によりイソシアネート基末端プレポリマーを合成し、得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、ジアミン(C)と、モノアミン(D)とをウレア化反応させることにより、ポリウレタンウレア樹脂を合成する方法を挙げることができる。
原料の仕込み比としては、(A)成分が40質量%以上90質量%以下、(B)成分が5質量%以上50質量%以下、(C)成分が1質量%以上30質量%以下、(D)成分が0.1質量%以上10質量%以下の範囲であって、(A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分の合計が100質量%となる範囲であることが好ましく、(A)成分が50質量%以上85質量%以下、(B)成分が10質量%以上40質量%以下、(C)成分が2質量%以上20質量%以下、(D)成分が0.1質量%以上5質量%以下の範囲であって、(A)成分+(B)成分+(C)成分+(D)成分の合計が100質量%となる範囲であることがより好ましい。
また、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の原料の仕込みモル比としては、(B)成分仕込みモル=〔(A)成分仕込みモル+(C)成分仕込みモル+(D)成分仕込みモル〕であることが好ましく、(B)成分を1モル仕込み時、(A)成分が0.3モル以上0.7モル以下、(C)成分が0.298モル以上0.6モル以下、及び(D)成分が0.002モル以上0.1モル以下の範囲であることがより好ましい。
【0035】
得られたポリウレタンウレア樹脂の数平均分子量は、35,000以上100,000以下であることが好ましい。
数平均分子量が上記範囲であることで、優れた耐日焼け止め剤性を有し、合成樹脂表皮材に必要な耐久性、柔軟性が達成される。
本発明の合成樹脂表皮材は、既述のポリウレタンウレア樹脂を表皮層及び接着剤層に用いることで効果を発現する。
【0036】
以下、本発明の合成樹脂表皮材を、その構成に従い、順次説明する。
(1.基材)
本発明の合成樹脂表皮材10に用いられる基材12は、合成樹脂表皮材が必要とする強度、耐久性、柔軟性を有する基材であれば特に制限はない。基材としては、合成樹脂シート、基布などから合成樹脂表皮材の使用目的に応じて適宜選択すればよい。なかでも、隣接する接着剤層との密着性、及び柔軟性の観点から、基材12として基布を用いることが好ましい。
基布は、合成樹脂表皮材の基材に必要な強度と柔軟性を有する布であれば制限なく用いることができる。基布は、織物、編物、及び不織布のいずれであってもよい。
曲げ剛性の観点から、基布は編物であることが好ましい。編物としては、横編み、縦編みのいずれの編み方で得られた編物であってもよい。基布に用いる編物は、柔軟性の観点からは横編みで得られた編物の一態様であるジャージーなどの丸編布が好ましい。丸編みとしては、天竺編み、フライス編み、スムース編み、モクロディ編み、ブラッシュインターロック編み、ポンチ編み、ピケ編みなどが挙げられ、モクロディ編みと称される変形編みなどが好ましい。
【0037】
基布以外で、基材として用いうる合成樹脂シートは、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどの熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂をシート状に成形した合成樹脂シートなどが挙げられる。
基材の引っ張り強度は、耐久性の観点から、ラベルドストリップ試験法(JIS L 1063 2010年)による破断強度が30N/5cm以上であることが好ましい。
【0038】
基材12の厚みは0.3mm以上2.0mm以下の範囲であることが好ましく、0.6mm以上1.2mm以下の範囲であることがより好ましい。基布の厚みが上記範囲において、実用に適する強度と柔軟性とが得られる。
合成樹脂表皮材の基材に用いられる基布は市販品としても入手可能であり、例えば、澤村社製のSSY034、T4100(商品名)などが好ましく挙げられる。
【0039】
(2.表皮層)
本実施形態の合成樹脂表皮材10の表皮層14は、既述の本実施形態に係るポリウレタンウレア樹脂を用いて形成される。
具体的には、離型紙などの剥離材上に、既述のポリウレタンウレア樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む表皮層形成用組成物を塗布し、乾燥して表皮層を形成する。
表皮層は、単層であってもよく、例えば、シボ模様が形成された上部表皮層と、発泡ポリウレタン等の気泡を含む柔軟な樹脂で形成された下部表皮層とを積層した重層構造を有するものであってもよい。表皮層が重層構造である場合には、少なくとも上部表皮層に本発明に係るポリウレタンウレア樹脂を含有する。
【0040】
本実施形態に係る表皮層の形成方法は、少なくとも、離型紙に代表される剥離材上に、表皮層形成用組成物を塗布し、乾燥する工程を含む。
表皮層を形成する際は、まず、表皮層に用いるポリウレタンウレア樹脂を溶媒に溶解した溶液に、必要に応じて着色剤その他の添加剤を加えた表皮層形成用組成物を調製する。表皮層形成用組成物の固形分濃度は、均一塗布性、乾燥性の観点から、10質量%以上50質量%以下程度が好ましい。
得られた表皮層形成用組成物を剥離基材表面に塗布する方法としては、公知の方法を用いればよい。塗布方法としては、例えば、ナイフコート、クローズドヘッドコート、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコートなど、公知のコーティング手段を用いた塗布方法が挙げられる。
表皮層形成用組成物の塗布量は、目的に応じて選択されるが、一般には、乾燥時の表皮層としての塗布量が50g/m2以上300g/m2以下の範囲となる塗布量である。
離型基材上に表皮層形成用組成物を塗布後、70℃以上140℃以下の温度条件で、1分間以上3分間以下加熱乾燥して、表皮層が形成される。
【0041】
具体的な表皮層形成方法の別の例としては、例えば、特開2010−168692号公報に記載される方法などを参照することができる。
表皮層が重層構造を有する場合、剥離基材上に各層を形成する表皮層形成用組成物を逐次塗布して形成してもよく、予め上部表皮層を剥離基材上に形成し、別に作製した下部表皮層を積層して、熱圧着するか又は接着剤を介して接着し、下部表皮層と上部表皮層との積層体を形成する方法をとってもよい。
【0042】
剥離材は、表皮層にシボ(emboss)模様を形成する凹凸を有する離型材を用いてもよい。
剥離材として、表面に所望のシボ模様を形成するための凹凸が予め形成された離型材、例えば、予め天然皮革様の凹凸を形成した離型材を使用することで、表皮層表面に天然皮革様のシボ模様を形成することができる。
【0043】
(3.接着剤層)
基材12と表皮層16とは、接着剤層14を介して接着される。接着剤層14の形成に、日焼け止め剤耐性が高いポリウレタンウレア樹脂を用いることで、得られる合成樹脂表皮材10は耐日焼け止め剤性に優れるものとなる。
接着剤層の形成に用いられる接着剤は、ポリウレタンウレア樹脂を含む。表皮層と接着剤層はいずれも、本実施形態に係るポリウレタンウレア樹脂を含有する。表皮層と接着剤層とはそれぞれの層の厚さ、機能が互いに異なることから、表皮層が含有するポリウレタンウレア樹脂と、接着剤層が含有するポリウレタンウレア樹脂とは、同じ樹脂であってもよく、互いに異なる樹脂であってもよい。
【0044】
接着剤層に含まれる接着剤主剤としては、既述のポリウレタンウレア樹脂を含有すれば特に制限はない。接着剤層に含まれる接着剤は、作業性の観点から、ポリウレタンウレア樹脂を接着剤主剤として含有する2液硬化型ポリウレタン接着剤であることが好ましい。2液硬化型ポリウレタン接着剤は、2液硬化型ポリエーテル系ポリウレタン接着剤、2液硬化型ポリエステル系ポリウレタン接着剤、2液硬化型ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤から選ばれるいずれの接着剤であってもよい。
接着剤層は、接着剤を含有する接着剤層形成用組成物を用いて形成することができる。接着剤層の厚さは、乾燥膜厚で20μm以上100μm以下の範囲であることが好ましい。
接着剤層形成用組成物には、上記ポリウレタンウレア樹脂を含有すれば、本発明の効果を損なわない限りにおいて、目的に応じて、種々の添加剤を含有することができる。
接着剤層形成用組成物が含むことができる添加剤として、リン系等の難燃剤が挙げられる。接着剤層形成用組成物に対する難燃剤の含有量が多過ぎる場合、得られる接着剤層のせん断応力が上がる懸念があるため、難燃剤を使用する場合の含有量は、接着剤層形成用組成物に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0045】
(表面処理層)
合成樹脂表皮材10は、前記表皮層16の接着剤層14とは反対側の表面に、表面処理層18を有する。合成樹脂表皮材10が表面処理層18を有することで、耐久性向上、感触向上等が期待できる。
表面処理層18は、1層でもよく、2層以上の積層体でもよい。
表面処理層18の形成方法としては、表皮層16表面に、ダイレクトグラビア印刷機またはリバースグラビア印刷機にて、ポリウレタン樹脂溶液又は分散液を含むポリウレタン表面処理剤を塗工する方法が挙げられる。
ポリウレタン表面処理剤の形成に使用できるポリウレタン樹脂としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられる。なかでも、合成樹脂表皮材が自動車内装材用であり、長期耐久性が必要な場合には、ポリウレタン表面処理剤に使用できるポリウレタン樹脂としてポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタン樹脂を含む表面処理層18の厚みは、乾燥膜厚で2μm以上30μm以下の範囲であることが好ましい。
表面処理層18が、耐久性向上を目的とする場合には、使用するポリウレタンの被膜の硬さは、JIS K 6251(2010年)に準拠して測定した100%モジュラスで294N/cm以上1470N/cm以下が好適である。
表面処理層18の形成に用いるポリウレタン表面処理剤には、ポリウレタン樹脂溶液又は分散液に加えて、さらに、架橋剤、滑剤、着色剤等を添加してもよい。
表面処理層の形成に用いる表面処理剤に含まれるポリウレタン樹脂は、ポリウレタン樹脂を有機溶剤に溶解させたポリウレタン樹脂溶液の形態でもよく、ポリウレタン樹脂粒子を水系溶剤に分散させたポリウレタン樹脂分散液の形態でもよい。
【0046】
表面処理層18は感触を向上させる目的で設けてもよい。感触向上のための表面処理層の形成に用いられる樹脂材料としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられる。
表面処理層18が感触向上を目的とする場合には、用いられるポリウレタン被膜の硬さは、JIS K 6251(2010年)に準拠して測定した100%モジュラスで98N/cm以上1470N/cm以下程度が好ましく、490N/cm以上980N/cm以下程度であることがより好ましい。
感触向上用の表面処理層18には、ソフトでしっとりした感触を得るために、有機フィラーを含有してもよい。有機フィラーとしては、具体的には、数平均粒子径が1μm以上40μm以下のウレタンビーズが挙げられる。他の有機フィラーとしては、シリコーンビーズ、アクリルビーズ等が挙げられる。
表面処理層18は有機フィラーを1種のみ含有してもよく、2種以上を含有してもよい。表面処理層18が有機フィラーを含有する場合の有機フィラーの含有量は、表面処理層18の全固形分中、0.1質量%以上2.0質量%以下の範囲であることが好ましい。
【0047】
(合成樹脂表皮材の製造方法)
本実施形態の合成樹脂表皮材の製造方法は、ポリオールと、ポリイソシアネートと、ジアミンと、モノアミンとを反応させて得られる、数平均分子量が60,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を含む樹脂溶液を剥離基材上に塗布し、加熱乾燥して、乾式法により表皮層16を形成する工程と、ポリオールと、ポリイソシアネートと、ジアミンと、モノアミンとを反応させて得られる、数平均分子量が35,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を含有する接着剤を前記表皮層16の剥離基材と接しない側に塗布して接着剤層14を形成する工程と、形成された接着剤層14の表面に基材12を加圧接着する工程と、前記表皮層16から前記剥離基材を剥離し、前記表皮層16の前記剥離基材の剥離後に露出した側に、ポリウレタン樹脂溶液を塗布し、乾燥して、表面処理層18を形成する工程と、を含む。
【0048】
接着剤層14の形成に用いる接着剤は、既述の本実施形態の合成樹脂表皮材に使用された接着剤の主剤としてポリウレタンウレア樹脂を含有する接着剤である。
前記表皮層16の説明に記載の方法により、乾式法によって形成された表皮層16の剥離基材とは反対の面に、接着剤層形成用組成物を塗布し、120℃で乾燥させた接着剤層形成用組成物層に、基材12を貼り合わせて48時間、50℃条件下で熟成させた後、剥離基材を剥離し、次いで、表皮層16の剥離基材が剥離された側の面に表面処理剤18を形成することで、基材12表面に、基材12側から、接着剤層14、表皮層16、及び表面処理層18をこの順に有する合成樹脂表皮材10が得られる。
表皮層16上に接着剤層14を形成する前に、接着性向上のため、表皮層16上に樹脂層(プライマー層)をさらに形成してもよい。
接着剤層14を形成する方法としては、先に塗布法を挙げたが、接着剤層14は転写法により形成してもよい。転写法により接着剤層14を形成する場合には、表面保護のため、予め成形された接着剤層14表面に保護シートを有していてもよい。保護シートとしては、樹脂フィルム、離型処理された紙、樹脂をラミネートした紙などを適宜、用いることができる。
【0049】
本実施形態の合成樹脂表皮材10は、耐日焼け止め剤性が良好であるため、表面に紫外線吸収剤を含有する日焼け止めクリームなどが付着した場合でも、紫外線吸収剤に起因する膨潤、外観の低下が抑制され、優れた外観が長期間維持されることから、種々の用途に好適に使用される。したがって、耐日焼け止め剤用の合成樹脂表皮材として好適に用いられる。
本実施形態の合成樹脂表皮材の適用分野は、例えば、自動車用内装材、鉄道車輌及び航空機等の内装部品、二輪車サドル、船舶内装部品、家具、靴、履物、鞄、衣類表装材などの分野が挙げられる。なかでも、顔や身体に付着した日焼け止め剤と接触しやすい用途であるインストルメントパネル、ドアトリム、座席などの自動車内装外装部品用途に本実施形態の合成樹脂表皮材を使用した場合に、その効果が著しい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
(実施例1)
まず、ポリウレタンウレア樹脂〔MNT−111(商品名)、日本ポリウレタン工業社製、数平均分子量:85,000、粘度(25℃):13,000mPa・s、固形分:30質量%〕100kgに、顔料(DIC社製、DILAC BLACK L−1770S:商品名)20kgを投入し、溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を50kg加えて撹拌し、表皮層形成用組成物を得た。
表面にシボ模様が形成された離型紙(大日本印刷製、DE−41:商品名)に、表皮層形成用組成物をナイフコーター法により、乾燥後の厚みが30μmになるように塗布し、120℃で2分間乾燥して表皮層16を得た。
【0051】
基材12としては、トリコット生地(75デニール糸の編物)を用いた。
接着剤主剤であるポリウレタンウレア樹脂〔ADNT−311(商品名)、日本ポリウレタン工業社製、数平均分子量:35,000、粘度(25℃):18,000mPa・s、固形分:30質量%〕100kgに、架橋剤であるイソシアヌレート系硬化剤〔C−HX(商品名):日本ポリウレタン工業社製、NCO含有量:21.2質量%、粘度(25℃):3,000mPa・s、固形分:100質量%〕1kg加えて撹拌し、接着剤層形成用組成物を調製した。
前記で得られた表皮層16の、離型紙と接していない側の表面に、既述のようにして調製した接着剤層形成用組成物を、乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗布して接着剤層14を形成し、接着剤層14と基材12とを貼り合わせて乾燥させ、基材12上に接着剤層14と表皮層16とを有する積層体を得た。
その後、離型紙を剥離して、露出した表皮層16の表面に、表面処理層18を形成するための表面処理剤として一液型無黄変ポリカーボネート樹脂(従来品(1):スタール・ジャパン社製、WF-13-139(商品名))を、乾燥膜厚が10μmとなるように塗布し、乾燥して表面処理層18を形成し、実施例1の合成樹脂表皮材10を得た。
【0052】
(実施例2)
実施例1において用いた、表皮層形成用のMNT−111(商品名)を、ポリウレタンウレア樹脂、〔MNT−211(商品名):日本ポリウレタン工業社製、数平均分子量:85,000、粘度(25℃):10,000mPa・s、固形分:30質量%〕に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例2の合成樹脂表皮材10を得た。
【0053】
(実施例3)
実施例1において用いた、表皮層形成用のMNT−111(商品名)を、MDI/PCDベースポリウレタンウレア樹脂〔MNT−311(商品名):日本ポリウレタン工業社製、数平均分子量:90,000、粘度(25℃):18,000mPa・s、固形分:30質量%〕に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例3の合成樹脂表皮材10を得た。
【0054】
(比較例1)
実施例1において用いた、表皮層形成用のMNT−111(商品名)を、難黄変ポリカーボネート樹脂(従来品(2): DIC社製、クリスボン MP-120(商品名))に代え、接着剤層形成用組成物を、二液型難黄変ポリカーボネート樹脂(従来品(3):DIC社製、クリスボン TA-205(商品名)) 100kgに、硬化剤としてイソシアヌレート系硬化剤(従来品(4):DIC社製、 DN-950(商品名)) 7kgを配合した接着剤層形成用組成物に変えた以外は、実施例1と同様にして比較例1の合成樹脂表皮材を得た。
【0055】
(比較例2)
実施例1において用いた、表皮層形成用のMNT−111(商品名)を、難黄変ポリカーボネート樹脂(従来品(2):DIC社製、クリスボン MP-120(商品名))に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例2の合成樹脂表皮材を得た。
【0056】
(比較例3)
実施例1において用いた接着剤層形成用組成物を、比較例1で用いた二液型難黄変ポリカーボネート樹脂(従来品(3):DIC社製、クリスボン TA-205(商品名))と、硬化剤としてイソシアヌレート系硬化剤(従来品(4):DIC社製、DN-950(商品名))とを含有する接着剤層形成用組成物に変えた以外は、実施例1と同様にして比較例3の合成樹脂表皮材を得た。
【0057】
(比較例4)
実施例2において用いた接着剤層形成用組成物を、比較例1で用いた二液型難黄変ポリカーボネート樹脂(従来品(3):DIC社製、クリスボン TA-205(商品名))と、硬化剤としてイソシアヌレート系硬化剤(従来品(4):DIC社製、DN-950(商品名))とを含有する接着剤層形成用組成物に変えた以外は、実施例2と同様にして比較例4の合成樹脂表皮材を得た。
【0058】
実施例、比較例に用いた各成分の詳細を以下に示す。
〔表面処理層形成用成分〕
(1)従来品(1)一液型無黄変ポリカーボネート樹脂(スタール・ジャパン社製、WF-13-139(商品名))
【0059】
〔表皮層形成用成分〕
(2)MNT−111(商品名):IPDI(イソホロンジイソシアネート:(B)成分)/PCD(1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール、数平均分子量2,000:(A)成分)をベースとし、(C)成分としてのIPDA:イソホロンジアミン及び(D)成分としてのMEA:モノエタノールアミンを含んで合成されたポリウレタンウレア樹脂、日本ポリウレタン工業社製、数平均分子量:85,000、粘度(25℃):10,000mPa・s、固形分:30質量%
(3)MNT−211(商品名):IPDI(イソホロンジイソシアネート:(B)成分)/PCD(1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール(数平均分子量2,000)/ポリカプロラクトンポリオール(数平均分子量2,000)のコポリマーポリオール、数平均分子量2,000:(A)成分)をベースとし、(C)成分としてのIPDA及び(D)成分としてのMEAを含んで合成されたポリウレタンウレア樹脂、日本ポリウレタン工業社製、数平均分子量:85,000、粘度(25℃):10,000mPa・s、固形分:30質量%
(4)MNT−311(商品名):MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート:(B成分)/PCD(1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール(数平均分子量2,000)/ポリカプロラクトンポリオール(数平均分子量2,000)のコポリマーポリオール、数平均分子量2,000:(A)成分)をベースとし、(C)成分としてのIPDA及び(D)成分としてのMEAを含んで合成されたポリウレタンウレア樹脂、日本ポリウレタン工業社製、数平均分子量:90,000、粘度(25℃):18,000mPa・s at25℃、固形分:30質量%
(5)従来品(2):難黄変ポリカーボネート樹脂(DIC社製、クリスボン MP-120(商品名))は、ポリウレタン樹脂の合成に際して(ジアミン、モノアミン)成分を含有しない、本発明の範囲外の樹脂である。
【0060】
〔接着剤層形成用成分〕
(6)ADNT−311(商品名):IPDI((B)成分)/PCD(1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール(数平均分子量2,000)/ポリカプロラクトンポリオール(数平均分子量2,000)のコポリマーポリオール、数平均分子量2,000:(A)成分)をベースとし、(C)成分としてのIPDA及び(D)成分としてのMEAを含んで合成されたPCDベースポリウレタンウレア樹脂、日本ポリウレタン工業社製、数平均分子量:35,000、粘度(25℃):4,000mPa・s、固形分:43質量%
(7)C−HX(商品名):イソシアヌレート系硬化剤、日本ポリウレタン工業社製、NCO含有量:21.2質量%、粘度(25℃):3,000mPa・s、固形分:100質量%
(8)従来品(3):二液型難黄変ポリカーボネート樹脂(DIC社製、クリスボン TA-205:商品名)は、ポリウレタン樹脂の合成に際して(ジアミン、モノアミン)成分を含有しない、本発明の範囲外の樹脂である。
(9)従来品(4):イソシアヌレート系硬化剤(DIC社製、DN-950:商品名)
【0061】
(性能評価:耐日焼け止め剤性試験)
試験片として、合成樹脂表皮材を200mm×200mmに裁断したものを用いた。
得られた実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例4の合成樹脂表皮材10表面に、日焼け止めクリームであるNeutrogena Ultra Sheer DRY−TOUCH SUNBLOCK(商品名:ニュートロジーナ社製、SPF45、紫外線吸収剤としてオキシベンゾンを含有)の50%水溶液1.0gを10cm×10cmの範囲に塗布し、80℃にて3時間加熱した。
その後、日焼け止めクリームを除去し、日焼け止めクリームが付着していた領域の状態を目視で観察し、以下の判定基準に従って評価した。
以下の評価で、Aであれば優れたレベルであり、Bであれば実用に供しうるレベルである。結果を、下記表1〜表2に示す。
【0062】
(判定基準)
A: 樹脂による膨らみがほとんどない。
B: 皮膜が膨らみ、一部の表面形状が変化する。
C: 著しく皮膜が膨らみ、表面形状が変化する。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
これらの結果より、実施例1〜実施例3の合成樹脂表皮材は、紫外線吸収剤を含有する日焼け止め剤による膨潤や外観の変化が抑制され、耐日焼け止め剤性に優れることがわかる。
他方、比較例1〜比較例4の合成樹脂表皮材は、いずれも、日焼け止めクリームにより実用上問題となる外観上の変化が観察された。また、比較例2〜比較例4に明らかなように、表皮層、接着剤層の双方にポリオールと、ポリイソシアネートと、ジアミンとモノアミンとを反応させて得られた、数平均分子量が35,000以上100,000以下であるポリウレタンウレア樹脂を含有しない場合には、本発明の効果を奏しないことがわかる。
【0066】
2014年7月7日に出願された日本国特許出願2014−140023の開示は参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1