(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記a−Si膜上に形成される前記透明導電膜の膜厚のうち、2/3以上の膜厚を10[nm・m/min]以上の成膜速度で形成する請求項1に記載の透明導電膜付き基板の製造方法。
前記a−Si膜上に形成される前記透明導電膜の膜厚のうち、2/3以上の膜厚を10[nm・m/min]以上の成膜速度で形成する請求項8に記載の透明導電膜付き基板の製造装置。
前記加熱室は、前記a−Si膜上に前記透明導電膜を成膜する前に、前記基体及び前記a−Si膜の温度範囲を70〜150[℃]に設定する請求項8から請求項11のいずれか一項に記載の透明導電膜付き基板の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る透明導電膜付き基板の製造方法の最良の形態について、図面に基づき説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0033】
<第一実施形態>
以下では、表面及び裏面の両面がa−Si膜により被覆された基体上に、前記a−Si膜を覆うように透明導電膜が配されてなる透明導電膜付き基板の製造方法について、
図1を参照して説明する。
図1は、透明導電膜付き基板及び透明導電膜付き基板を含む太陽電池の一例(第一実施形態)を示す断面図である。
図1において、透明導電膜付き基板10A(10)を構成する基体101(基板)は平板状の結晶系シリコン基材であり、基体101の表面101aと裏面101bは両面とも、a−Si膜により被覆されている。
図1において、基体101の表面101aに向けた(下向きの)矢印は、光入射方向を表わしている。
【0034】
光入射側となる表面101aに配置されたa−Si膜(
図1ではαと表記)は、表面101aに接して設けられたi型のa−Si膜102と、該i型のa−Si膜102の上に設けられたp型のa−Si膜103と、から構成されている。また、a−Si膜(α)の外面をなすp型のa−Si膜103を覆うように、透明導電膜104が設けられている。さらに、該透明導電膜104の外面には、金属膜からなる電極105が配されている。
【0035】
これに対して、非光入射側となる裏面101bに配置されたa−Si膜(
図1ではβと表記)は、裏面101bに接して設けられたi型のa−Si膜112と、該i型のa−Si膜112の上に設けられたn型のa−Si膜113と、から構成されている。また、a−Si膜(β)の外面をなすn型のa−Si膜113を覆うように、透明導電膜114が設けられている。さらに、該透明導電膜114の外面には、金属膜からなる電極115が配されている。
【0036】
以下では、基体101に対してa−Si膜(α)とa−Si膜(β)を配した構造体を中間構造体1A(1)と呼ぶ。この中間構造体1A(1)に対して透明導電膜104及び透明導電膜114を配した構造体が、透明導電膜付き基板10A(10)である。また、基体101として結晶系シリコン基材を用い、透明導電膜付き基板10A(10)に対して電極105と電極115を配した構造体が、太陽電池100A(100)である。
【0037】
後述する表3から、上記構成(
図1)の透明導電膜104、114として、後に詳述する本発明の製造方法、すなわち、「水素を含むプロセスガスを用い、加熱されたa−Si膜(α、β)上にスパッタ成膜する製法」により、可視域は元より、近赤外域においても低吸収率を備えた透明導電膜が得られることが分かった。
また、後述する表4から、本発明の実施形態に係る製造方法によれば、表面粗さが1nmより小さい透明導電膜を安定して製造できることが確認された。
【0038】
後述する表6から、本発明の実施形態に係る製造方法によれば、可視域から近赤外域において低吸収率を備えた透明導電膜を備えることにより、可視域に加えて近赤外域の光も、発電に有効利用することが可能な太陽電池が得られることが明らかとなった。
【0039】
特に、
図1に示す構成からなる透明導電膜付き基板を製造する場合、透明導電膜の下地をなすa−Si膜(α、β)の温度を70〜220[℃]の範囲とすることにより、当該a−Si膜の表面に水が取り込まれにくくなる。これにより、当該a−Si膜が酸化するという課題(すなわち、a−Si膜が高抵抗化してしまうことに加え、a−Si膜に期待するパッシベーション機能が劣化してしまう課題)が解消される、という効果が確認された。
【0040】
ゆえに、本発明の実施形態によれば、例えば、表面及び裏面の両面がa−Si膜により被覆された基体として、平板状の結晶系シリコン基材を用いた場合(
図1)、可視域から近赤外域において、所望の発電効率が得られる太陽電池用途に好適な透明導電膜付き基板が製造できる。
なお、基体101の表面101a側には、必要に応じて不図示の反射防止層(Anti Reflection Layer:AR層)が配される構成としてもよい。反射防止層(不図示)としては、例えば、絶縁性の窒化膜、窒化ケイ素膜、酸化チタン膜、酸化アルミニウム膜などが好適に用いられる。
【0041】
図7A及び
図7Bは、透明導電膜付き基板の製造方法を示すフローチャートであり、
図7Aは従来例を示しており、
図7Bは本発明の実施形態を示している。従来例及び本発明の実施形態は、以下に詳述する「S16」で相違する。
【0042】
従来の透明導電膜付き基板は、
図7Aに示すS51〜S57の工程フローを経て形成される。すなわち、「c−Si(n)準備、テクスチャー形成、i型a−Si形成、p型a−Si形成、n型a−Si形成、透明導電膜を室温形成、電極形成」からなる7つの工程処理を順に行うことにより製造される。特に、従来の透明導電膜付き基板の製造方法においては、S56において、スパッタ法を用い透明導電膜を室温で形成する工程に特徴である。ここで、S56においてRFスパッタ法を採用する場合は、成膜速度が遅く、量産には不向きである点に課題があった。具体的に、本発明者がRFスパッタ法により透明導電膜を成膜する実験を行ったところ、RFパワーを3kWに設定して透明導電膜を形成した場合、成膜速度は6.3[nm・m/min]という結果が得られた。また、より高いRFパワーにより透明導電膜を成膜する実験を行ったところ、RF放電が不安定となり、6.3[nm・m/min]よりも高い成膜速度を安定して実現することができなかった。
【0043】
これに対し、本発明の実施形態に係る透明導電膜付き基板は、
図7Bに示すS11〜S17の工程フローを経て形成される。ここで、S11〜S15及びS17は各々、S51〜S55及びS57と同じ工程である。一方、本発明の実施形態に係るS16は、従来のS56とは異なる工程である。すなわち、S16は、DCスパッタ法を用い透明導電膜を加熱形成する工程である。S16においては、プロセスガスとして水素を含むガスを用い、DCスパッタ法による高速成膜を行う。
【0044】
投入電力が同じ場合、従来のRFスパッタ法に比べて本発明の実施形態に係るDCスパッタ法は、およそ2倍以上の成膜速度にて透明導電膜を形成できるので、量産性に優れている。
従来のRFスパッタ法により透明導電膜を成膜する場合に比較して、DCスパッタ法により透明導電膜を成膜する本発明の実施形態においては、高い成膜速度が得られる。具体的に、本発明者がDCスパッタ法により透明導電膜を成膜する実験を行ったところ、DCパワーを7.8〜22kWの範囲に設定して透明導電膜を成膜する場合、13〜48[nm・m/min]といった高い成膜速度が得られることが明らかとなっている。
特に、透明導電膜付き基板を生産する製造装置においては、製造コスト等を含む量産性を考慮すると、10[nm・m/min]以上の成膜速度で透明導電膜を基体に成膜する必要がある。このため、上述した成膜工程によれば10[nm・m/min]以上の成膜速度が得られているため、高い量産性で透明導電膜付き基板を製造することができる。また、透明導電膜の膜構造として、積層構造を採用する可能性も考えられるため、透明導電膜の膜厚のうち2/3以上の膜厚を、10[nm・m/min]以上の成膜速度で形成することが好ましい。
【0045】
また、プロセスガスとして水素を含むガスを用いることにより、所望の水素を含有した透明導電膜が、基体を被覆するa−Si膜上に形成できる。その際、透明導電膜を加熱形成(すなわち、透明導電膜の下地をなすa−Si膜(α、β)の温度を70〜220[℃]の範囲に保ちながら成膜)することにより、当該a−Si膜の表面に水が取り込まれることを抑制することができる。
【0046】
温度範囲についてより具体的に説明する。
本発明の実施形態においては、a−Si膜(α、β)上に透明導電膜を成膜する前に、基体及びa−Si膜の温度範囲を70〜150[℃]に設定することが好ましい。このような温度設定は、後述するスパッタ装置700の加熱室(H)752及び成膜入口室(EN)753において行われる。
透明導電膜を成膜する前の基体及びa−Si膜の温度が70[℃]以上である場合は、水の脱離速度が室温時の値に比べて二桁以上大きくなるため、水が一旦a−Si膜に吸着したとしても、再び脱離しやすい状態となる。すなわち、a−Si膜の表面に水が取り込まれことを抑制することができる。一方、70[℃]より低い場合は、一旦a−Si膜に吸着した水が脱離しづらくなり芳しく無い。
透明導電膜を成膜する前の基体及びa−Si膜の温度を150[℃]よりも低くすることで、スパッタによる入熱を加味しても基体及びa−Si膜の温度を220[℃]以下にすることができる。
透明導電膜を基体に成膜する温度が220[℃]より高い場合は、下地をなすa−Si膜が多結晶化して、a−Si膜に期待するパッシベーション機能が劣化するため好ましく無い。
DCスパッタ法により基体のa−Si膜(α、β)に透明導電膜が形成されると、プラズマからの熱を基体が受けて基体温度が上昇するが、成膜後の基体温度が220[℃]以下に抑制されているため、a−Si膜が酸化するといった膜質劣化を抑制することができる。また、10[nm・m/min]の成膜速度で成膜を行う場合であっても、成膜後の基体温度が220[℃]以下に抑制されているため、上記効果が得られる。
【0047】
次に、プラズマからの熱を基体が受けて基体温度が上昇することについて本発明者が実験した結果について説明する。
【表1】
表1において、成膜前の基体温度が70℃未満の場合、成膜中の基体温度が220℃以下となる(記号「△」:不可)。この条件では、基体からの水の脱離が不十分であり、a−Si膜の膜質に悪影響を及ぼすという結果となった。
また、成膜前の基体温度が150℃を超える場合、成膜中の基体温度が220℃を超えてしまう(記号「×」:不良)。この条件では、a−Si膜が多結晶化するという結果となった。
その一方、成膜前の基体温度が70℃〜150℃の範囲内である場合、成膜中の基体温度が220℃以下となる(記号「◎」:良好)。この条件では、基体からの水の脱離が十分であり、a−Si膜が多結晶化することなく、良好なa−Si膜が得られた結果を示している。
【0048】
次に、成膜前の基体温度を70℃〜150℃の範囲内に設定して透明導電膜の成膜を行った場合の具体例(実績1、2)について説明する。
(実績1)成膜前の基体温度を70℃に設定し、DCパワーを22kWに設定し、成膜速度が48[nm・m/min]となるように透明導電膜の成膜を行った。成膜後の基体温度は210℃となった。
(実績2)成膜前の基体温度を150℃に設定し、DCパワーを7.6kWに設定し、成膜速度が13.4[nm・m/min]となるように透明導電膜の成膜を行った。成膜後の基体温度は190℃となった。
このような実績1、2から明らかなように、プラズマからの熱を基体が受けて基体温度が上昇した場合であっても成膜前の基体温度を70〜150℃に設定して透明導電膜を成膜することで、透明導電膜その下地となる当該a−Si膜が多結晶化するという課題(すなわち、a−Si膜に期待するパッシベーション機能が劣化してしまう課題)が解消される。更に、基体から水を十分に脱離することができる。
また、上記実績1、2では、10nm・m/min以上の成膜速度で透明導電膜の成膜を行うことができる。
【0049】
さらに、DCスパッタ法により透明導電膜を加熱形成する際に、プロセスガスとして水素を含むガスを用いることにより、その上に形成される透明導電膜の外面(膜表面)のプロファイルを制御し、凹凸の小さな膜表面形状が実現できる。これにより、DCスパッタ法による高速成膜においても、平坦な表面形状を有する透明導電膜を安定して作製することができる。ゆえに、本発明の実施形態は、透明導電膜付き基板の量産プロセスに貢献する。
【0050】
<第一実施形態の変形例>
なお、上記第一実施形態に係る透明導電膜付き基板10A(10)においては、裏面101bには光が入射しない構造が採用されているが、本発明はこの構造を限定しない。例えば、バイフェイシャル(両面受光型)構造が透明導電膜付き基板に採用されてもよい。本発明の実施形態においては、透明導電膜の下地層として形成されるa−Si膜に対するダメージを低減させる方法として、基体101の両面にTCOをスパッタ法で形成している。このため、本発明の実施形態をバイフェイシャル構造に容易に適用することができる。
【0051】
<第二実施形態>
図2Aは、透明導電膜付き基板及び透明導電膜付き基板を含む太陽電池の他の一例(第二実施形態)を示す断面図である。
図2Aに示す太陽電池100B(100)は、基体101の裏面101b側に、反射膜117を設けた点で、
図1に示す構成と異なる。
図1に示す構成に加えて裏面に反射膜117を追加した場合(
図2A)には、光電変換層として機能する中間構造体1A(1)への入射光の取り込みが一段と高まり、さらなる発電効率の向上が図れる。
【0052】
したがって、本発明の実施形態によれば、表面及び裏面の両面がa−Si膜により被覆された基体として、平板状の結晶系シリコン基材を用いた場合(
図1、
図2A)、可視光に加えて近赤外光も発電に有効利用することができるので、従来に比べて優れた発電効率が実現できる、太陽電池用途に好適な透明導電膜付き基板の提供が可能となる。
【0053】
次に、透明導電膜付き基板及び透明導電膜付き基板を含む太陽電池の変形例1、2について説明する。
図2B〜
図2Dにおいて、
図1に示す第一実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。
【0054】
<透明導電膜付き基板及び透明導電膜付き基板を含む太陽電池の変形例1>
図2Bは、透明導電膜付き基板及び透明導電膜付き基板を含む太陽電池の変形例1を示す断面図である。
図2Bに示す太陽電池100C(100)は、基体101の裏面101b側に、非成膜領域Xを設けた点で、
図1に示す構成と異なる。
【0055】
具体的に、光入射側となる表面101aにおいては、p型のa−Si膜103の全面を覆うように透明導電膜104が形成されている。一方、非光入射側となる裏面101bにおいては、n型のa−Si膜113の一部(外周部)が露出するように、n型のa−Si膜113上に透明導電膜114が形成されている。n型のa−Si膜113が露出している部分は、透明導電膜114が形成されていない非成膜領域Xである。
太陽電池100C(100)を構成する透明導電膜付き基板10C(10)に非成膜領域Xを形成することによって、光入射側に形成された透明導電膜104と、非光入射側に形成された透明導電膜114との電気的短絡を確実に防止することができる。
【0056】
<透明導電膜付き基板及び透明導電膜付き基板を含む太陽電池の変形例2>
図2Cは、透明導電膜付き基板及び透明導電膜付き基板を含む太陽電池の変形例2を示す断面図である。
図2Cに示す太陽電池100D(100)は、p型のa−Si膜がi型のa−Si膜112上に設けられている点、及び、n型のa−Si膜がi型のa−Si膜102上に設けられている点で、
図2Bに示す構成と異なる。
【0057】
具体的に、光入射側となる表面101aにおいては、表面101aに接して設けられたi型のa−Si膜102上にn型のa−Si膜303が形成されており、n型のa−Si膜303の全面を覆うように透明導電膜104が形成されている。一方、非光入射側となる裏面101bにおいては、裏面101bに接して設けられたi型のa−Si膜112上にp型のa−Si膜313が形成されており、p型のa−Si膜313の一部(外周部)が露出するように、p型のa−Si膜313上に透明導電膜114が形成されている。p型のa−Si膜313が露出している部分は、透明導電膜114が形成されていない非成膜領域Xである。
太陽電池100Dを構成する透明導電膜付き基板10D(10)は、n型のa−Si膜303が光入射側(受光面側)に位置するリアエミッタ構造を有する。
太陽電池の変形例1と同様に、透明導電膜付き基板10D(10)に非成膜領域Xを形成することによって、光入射側に形成された透明導電膜104と、非光入射側に形成された透明導電膜114との電気的短絡を確実に防止することができる。
【0058】
次に、
図2Dを参照して、
図2B及び
図2Cに示す透明導電膜付き基板に非成膜領域を形成する工程を説明する。
図2Dに示すように、a−Si膜(α、β)が形成された基体101は、ホルダ400によって支持される。具体的に、ホルダ400は、ホルダ本体401と、ホルダ本体401から突出する突出部402とを有している。突出部402は、a−Si膜(β)の外周部を遮蔽する。突出部402の端面403で囲まれた領域は、ホルダ400の開口部404である。基体101の自重の作用により、裏面101bに形成されたa−Si膜(β)の外周部が突出部402に接触し、基体101はホルダ400によって支持される。ホルダ400に支持された基体101は、後述する製造装置700の搬送機構750によって、第一成膜室754及び第二成膜室755内において水平搬送され、第一成膜室754及び第二成膜室755において成膜が行われる。
【0059】
このように基体101がホルダ400によって支持されている状態では、基体101のa−Si膜(β)の外周部は、突出部402に覆われるため(マスキングされるため)、a−Si膜(β)の外周部は、ホルダ400の下方に位置する成膜室の成膜空間に露出しない。一方、突出部402に覆われていない基体101のa−Si膜(β)は、ホルダ400の開口部404を通じて、ホルダ400の下方に位置する成膜室の成膜空間に露出する。また、基体101のa−Si膜(α)の全面は、突出部402に覆われておらず、成膜室の成膜空間に露出する。
【0060】
製造装置700の第一成膜室754及び第二成膜室755において、a−Si膜(α、β)が形成された基体101に透明導電膜を成膜すると、a−Si膜(α)の全面に透明導電膜104が形成され(デポダウン)、a−Si膜(β)の外周部に透明導電膜が形成されない。一方、ホルダ400の開口部404に相当するa−Si膜(β)の領域に透明導電膜114が形成される(デポアップ)。これによって、a−Si膜(β)の外周部には、透明導電膜114が形成されず、非成膜領域Xが形成される。
【0061】
特に、光入射側(受光面側)に設けられる透明導電膜は、反射防止効果を有しており、できるだけ多くの光を取り込むことがセル性能の改善に効果的である。このため、デポダウンによってa−Si膜(α)の全面に成膜することが重要である。
基体101の両面のa−Si膜(α、β)に透明導電膜104、114が成膜されるため、基体101が大気雰囲気に曝されることなく、真空状態を維持したまま、a−Si膜(α、β)に透明導電膜を形成することができる(真空一貫表裏成膜)。下地がa−Si膜である場合、より効果的に透明導電膜を用いて反射防止効果を得るためには、透明導電膜の膜厚を60〜120[nm]、屈折率を1.9〜2.1と制御することがより好ましい。
また、簡素な構造を有するホルダ400、すなわち、突出部402を有するホルダ400を用いることで、透明導電膜付き基板10C、10Dに非成膜領域Xを容易に形成することができ、透明導電膜104と透明導電膜114との電気的短絡を確実かつ容易に防止することができる。
【0062】
<第三実施形態>
図3は、透明導電膜付き基板、及び、透明導電膜付き基板を含む光センサの一例(第三実施形態)を示す断面図である。
図3において、透明導電膜付き基板20A(20)を構成する基体201は平板状の基材であり、基体201の一方の面(表面)201aが、a−Si膜により被覆されており、他方の面(裏面)201bは露呈された状態にある。平板状の基材としては、結晶系シリコン基板に加えて、例えば、ガラス、プラスチック、樹脂などの透明基材が挙げられる。本発明は、後述する本発明の作用・効果は、基材の透明性に依存するものではないので、不透明な基材に対しても適用することが可能である。
図3において、基体201の裏面201bに向けた(上向きの)矢印は、光入射方向を表わしている。
【0063】
以下では、基体201に対してa−Si膜(γ)を配した構造体を中間構造体2A(2)と呼ぶ。この中間構造体2A(2)に対して透明導電膜204を配した構造体が、透明導電膜付き基板20A(20)である。また、基体201として透明基材を用い、透明導電膜付き基板20A(20)に対して、後述する受光機能を有する光学膜205を配した構造体が、光センサ200A(200)である。
【0064】
光入射側となる裏面201bは基本的に露呈された状態で用いられるが、裏面201b側には、必要に応じて不図示の反射防止層(Anti Reflection Layer:AR層)が配される構成としてもよい。反射防止層(不図示)としては、例えば、絶縁性の窒化膜、窒化ケイ素膜、酸化チタン膜、酸化アルミニウム膜などが好適に用いられる。
【0065】
これに対して、非光入射側となる表面201aに配置されたa−Si膜(
図3ではγと表記)は、表面201aに接して設けられたi型のa−Si膜202と、該i型のa−Si膜202の上に設けられたp型のa−Si膜203と、から構成されている。また、a−Si膜(γ)の外面をなすp型のa−Si膜203を覆うように、透明導電膜204が設けられている。さらに、該透明導電膜204の外面には、受光機能を有する光学膜205が配されている。
【0066】
図3における光学膜205は、a−Si膜(γ)および透明導電膜204を通過してきた光を受光する。本発明の実施形態に係る製造方法により透明導電膜204が形成されるならば、該透明導電膜は可視域に加えて近赤外域においても高透過率を備えることができる。
これにより、光センサ200Aは、可視域から近赤外域に亘る光学膜205の受光機能を活用することが可能となる。
【0067】
<第四実施形態>
図4は、透明導電膜付き基板、及び、透明導電膜付き基板を含む光センサの他の一例(第四実施形態)を示す断面図である。
図4の光センサ200B(200)は、受光機能を有する光学膜205に代えて、発光機能を有する光学膜206を備えた点で、
図3の光センサ200A(200)と異なる。
【0068】
図4において、光学膜206が発光した光は、外部へ導出される場合、透明導電膜204、a−Si膜(γ)および基体201を通過する必要がある。本発明の実施形態に係る製造方法により透明導電膜204が形成されるならば、該透明導電膜は可視域に加えて近赤外域においても高透過率を備えることができる。これにより、光センサ200Bは、可視域から近赤外域に亘る光学膜206の発光機能を活用することが可能となる。
【0069】
<第五実施形態>
図5は、透明導電膜付き基板、及び、透明導電膜付き基板を含む光センサの他の一例(第五実施形態)を示す断面図である。
図5の光センサ200C(200)は、透明導電膜204上に2つの光学膜205、206を有することにより、上述した2種類の光センサ200A、200Bの機能を兼ね備える。ゆえに、光センサ200Cは、可視域から近赤外域に亘る、光学膜205の受光機能とともに光学膜206の発光機能を活用することが可能となる。
【0070】
したがって、本発明の実施形態によれば、一方の面がa−Si膜により被覆された基体として、平板状の透明基材を用いた場合(
図3〜
図5)、可視光に加えて近赤外光も発電に有効利用することができる。このため、従来に比べて優れた広範囲な波長域においてセンシングが可能な、光センサ用途に好適な透明導電膜付き基板の提供が可能となる。
また、本発明によれば、透明導電膜が平坦な表面プロファイルとなるため、透明導電膜に接する光学膜と透明導電膜との間の電気的コンタクト性の向上が図れる。このため、わずかな光に対しても高感度な光センサを得ることが可能となる。
【0071】
<透明導電膜付き基板の製造方法>
以下では、本発明の第一実施形態に係る透明導電膜付き基板(及び透明導電膜付き基板を含む太陽電池)の製造方法について説明する。
本発明の第一実施形態に係る透明導電膜付き基板の製造方法は、表面及び裏面の両面あるいは一方の面がa−Si膜により被覆された基体上に、前記a−Si膜を覆うように透明導電膜が配されてなる透明導電膜付き基板の製造方法である。その際、水素を含むプロセスガスを有する成膜空間において、前記透明導電膜の形成に用いられる母材をなすターゲットにスパッタ電圧を印加してスパッタを行い、前記基体及び前記a−Si膜の温度範囲を70〜220[℃]に設定し、前記a−Si膜上に前記透明導電膜を成膜する(ステップA)。
【0072】
<スパッタ装置>
上述した透明導電膜付き基板(および太陽電池)の製造方法において、
図1に示す透明導電膜の下地に相当するa−Si膜(α、β)は、公知のCVD装置によって基体101の上に形成される。ここで、該透明導電膜(TCO1、TCO2)は、例えば、
図8Aに示すDCスパッタ法を用いて成膜する製造装置(以下では、スパッタ装置とも呼ぶ)700により作製できる。製造装置700は、インライン式スパッタリング装置であり、基体101を水平に維持して搬送する搬送機構を備えた水平搬送型のスパッタリング装置である。
【0073】
図8Aに示すスパッタ装置700においては、複数のプロセス室が直列に接続して配置されており、a−Si膜(α、β)が形成された基体101、すなわち、中間構造体1A(1)を搭載したトレイ(不図示)が、各プロセス室を順に通過することにより、本発明の実施形態に係る透明導電膜を中間構造体1A(1)上に作製する。なお、トレイは、
図2Dに示したホルダ400であってもよい。
【0074】
スパッタ装置700は、仕込室(L)751、加熱室(H)752、成膜入口室(EN)753、第一成膜室(S1)754、第二成膜室(S2)755、成膜出口室(EX)756、搬送室(T)757、取出室(UL)758を備えている。更に、スパッタ装置700は、仕込室(L)751から取出室(UL)758まで、中間構造体1A(1)を水平に維持しながら、中間構造体1A(1)を搬送する搬送機構750を備える。
【0075】
仕込室(L)751から搬入されたトレイ(不図示)に搭載された中間構造体1A(1)の表面及び裏面の両面には、予め、公知のCVD装置によりa−Si膜が形成されている。中間構造体1A(1)は、トレイ(不図示)に搭載された状態で、仕込室(L)751から取出室(UL)758へ向けて、順方向にのみ移動することができる。つまり、
図8Aに示す製造装置700においては、トレイ(不図示)に搭載された中間構造体1A(1)は、逆方向[取出室(UL)758から仕込室(L)751の方向]へ戻る必要がない。ゆえに、
図8Aに示す製造装置700は、量産性に優れている。
【0076】
仕込室751に搬入された中間構造体1A(1)は、仕込室751が所望の減圧雰囲気になった後、仕込室751から加熱室752に移動され、地点Aにおいて、加熱ヒーター752Hにより加熱処理が施される。所望の温度になった中間構造体1A(1)は成膜入口室753に移動され、中間構造体1A(1)が収容された成膜入口室753の雰囲気は、次の第一成膜室754において透明導電膜が形成される際の雰囲気条件に合わせて調整される。成膜入口室753は加熱ヒーター753Hを有し、中間構造体1A(1)の温度、すなわち、基体101の表面及び裏面の両面に形成されたa−Si膜の温度を、透明導電膜の作製に好ましい温度となるように温度調整する(地点B)。換言すると、成膜入口室753は、加熱室として機能する。
【0077】
次に、温度調整された中間構造体1A(1)は第一成膜室754に移動され、地点Cを通過する。このとき、搬送機構750は、ターゲット754T2に中間構造体1A(1)(基体)が対向するように、中間構造体1A(1)(基体)を水平に維持する。搬送機構750によって中間構造体1A(1)が地点Cを通過することにより、ターゲット754T2を用いたDCスパッタ法によって、中間構造体1A(1)の一方の面側にのみ、透明導電膜(114)が形成される。これにより、基体101の一方の面(101b)側のa−Si膜(β)上に、透明導電膜(114)が形成される。ここで、ターゲット754T2はカソード754C2に載置されており、カソード754C2に電源754E2が接続されている。第一成膜室754においては、ターゲット754T2及びカソード754C2が基体101に対して下方に配置されており、デポアップのスパッタリングが行われる。
【0078】
次いで、透明導電膜(114)が形成された中間構造体1A(1)は第二成膜室755に移動され、地点Dを通過することにより、ターゲット755T1を用いたDCスパッタ法によって、中間構造体1A(1)の他方の面側にのみ、透明導電膜(104)が形成される。これにより、基体101の他方の面(101a)側のa−Si膜(α)上に、透明導電膜(104)が形成され、本発明の実施形態における透明導電膜付き基板10A(10)が得られる。ここで、ターゲット755T1はカソード755C1に載置されており、カソード755C1に電源755E1が接続されている。第二成膜室755においては、ターゲット755T1及びカソード755C1が基体101に対して上方に配置されており、デポダウンのスパッタリングが行わる。
【0079】
第一成膜室754における透明導電膜(104)の形成の際、また、第二成膜室755における透明導電膜(114)の形成の際に、それぞれ温度制御装置754TC1、755TC2を用いて、透明導電膜の作製に好ましい温度となるように、下地であるa−Si膜(α、β)の温度を制御してもよい。
【0080】
透明導電膜(104、114)が形成された中間構造体1A(1)は成膜出口室756に移動された後(地点E)、取出室758に移動され(地点F)、取出室758の内部の圧力を大気圧とすることにより(地点G)、スパッタ装置の外部へ搬出される。
【0081】
スパッタ装置700においては、第一成膜室754と第二成膜室755の間には、両成膜室の雰囲気を分離するとともに、各々が独立した雰囲気を維持できるようにすることが好ましい。例えば、仕切りバルブ、ドアバルブ、差圧バルブなどを2つの成膜室の間に設ける。これにより、第一成膜室754において発生した酸素が第二成膜室755の内部空間へ流出することがなく、或いは、第二成膜室755において発生した酸素が第一成膜室754の内部空間へ流出することがなく、他の成膜室から流入する酸素が透明導電膜(TCO1、TCO2)の中に取り込まれる問題が解消される。ゆえに、透明導電膜の組成が所望の組成からズレてしまうことなく、安定した電気的特性や光学的特性を有する透明導電膜を実現することが可能となる。
図8Aに示すスパッタ装置700によれば、透明導電膜(TCO1、TCO2)を成膜する前後に、熱処理を行う処理室[加熱室752や成膜入口室753]が配置されていても、製造効率が維持されるので、製造コストの抑制も図ることができる。さらに、第一成膜室754と第二成膜室755の間に、中間構造体1A(1)、すなわち、a−Si膜の温度調整を行うための温度制御室を有してもよい。このように温度制御室を設けることにより、第一成膜室754と第二成膜室755との間で、両成膜室間の雰囲気を分離することも可能となる。
【0082】
また、製造装置700は、インライン式スパッタリング装置であるため、透明導電膜付き基板(および太陽電池)を高い生産性で製造することが可能であり、装置のフットプリントを小さくすることができるという利点を有する。さらに、インライン式スパッタリング装置の場合、同じ成膜条件で、均一な膜を製造するには適している。
一方、一般的な枚葉式製造装置を用いる場合では、一枚の基板を処理する毎に、先に成膜された基板(成膜後基板)を成膜室から移動室(トランスファチャンバ)に取り出し、次に成膜される基板(成膜前基板)を移動室から成膜室に搬送する必要がある。また、成膜後基板を取り出した後に、成膜室内の残存ガスを除去することによって、成膜室内を清浄な状態にし、その後、成膜前基板を成膜室内に搬送する必要もある。しかしながら、この場合、残存ガスの残存成分が成膜室の壁部等に付着すること等に起因して、残存成分が成膜室から完全に除去されず、残存成分が後に成膜される膜の特性に影響を与える恐れがある。また、基板に膜を形成する際には、成膜室内においてプロセスガスの導入とプロセスガス導入の停止を行い、放電のON/OFFを行っている。この場合、一枚の基板を処理する毎に、下地膜に対する水の吸着量を制御する必要があり、プロセスが困難となり易い。
これに対し、インライン式スパッタリング装置を用いる場合、基体101が仕込室(L)751から取出室(UL)758へ向けて順方向にのみ移動しながら製造装置700内を通過して基体101の両面のa−Si膜(α、β)上に透明導電膜104、114が成膜されるため、下地膜であるa−Si膜に対する水の吸着量の制御がシンプルになるという利点がある。また、常に電源がONされているため、成膜に寄与する時間は100[%]であり、高い生産性と低いランニングコストを両立することができる。
【0083】
また、製造装置700においては、第一成膜室754及び第二成膜室755にて、基体101の両面のa−Si膜(α、β)に透明導電膜が成膜されるため、基体101が大気雰囲気に曝されることなく、真空状態を維持したまま、基体101の両面のa−Si膜(α、β)に透明導電膜を形成することができる(真空一貫表裏成膜)。
ところで、一般的な成膜装置において基板の両面に膜を形成する場合には、基板の一方の面に膜が形成された後に、基板を成膜室から取り出して大気雰囲気に曝し、ロボットが基板を反転させ、基板を成膜室に搬送し、基板の他方の面に膜が形成される。この場合、基板が大気雰囲気に曝されることで、a−Si膜が酸化し、セル特性の劣化を招く恐れがある。
これに対し、製造装置700においては、真空雰囲気が維持されたまま、基体101の両面のa−Si膜(α、β)に透明導電膜が形成されるため、a−Si膜(α、β)が酸化することなく、安定したセル特性を得ることができる。さらに、大気雰囲気に曝される際に基体101に吸着した大気が、成膜装置に混入する頻度、つまり絶対量が減ることになるため、成膜装置のプロセスガスへの汚染も低減される。
【0084】
図1や
図2A〜
図2Cに示すような太陽電池を形成する場合は、透明導電膜付き基板10A(10)を構成する透明導電膜(104、114)上に各々、所望の金属膜を形成し、パターニングを施すことにより、もしくは銀ペースト等を使用した印刷法によりパターニングされた金属膜を形成することで、電極(105、115)を備えた太陽電池100A(100)が得られる。太陽電池100A(100)を形成する場合には、表面及び裏面の両面がa−Si膜により被覆された基体101として、平板状の結晶系シリコン基材が用いられる。
【0085】
これに対して、
図3〜
図5に示すような各種の受発光センサや表示パネル等の用途とする場合は、基体の一方の面がa−Si膜により被覆された構成となるように、すなわち、基体の片面のみが成膜されるように、スパッタ装置700を制御すればよい。このような場合には、基体101として、結晶系シリコン基板に加えて、ガラスや樹脂からなる透明な絶縁性基材が用いられる。
【0086】
次に、
図8Bを参照し、スパッタ装置の変形例1について説明する。
図8Bにおいて、
図8Aに示すスパッタ装置700と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。特に、第一成膜室754及び第二成膜室755の構造の点で、
図8Bに示すスパッタ装置は、
図8Aに示すスパッタ装置とは相違している。以下の説明では、
図8Aに対するスパッタ装置の相違点について具体的に説明する。
【0087】
<スパッタ装置の変形例1>
図8Bは、上述したスパッタ装置の変形例1を示す図であり、上述した第一成膜室754及び第二成膜室755の構造を示す概略構成図である。第一成膜室754は、第一スパッタ室754A及び第二スパッタ室754Bによって構成されている。第二成膜室755は、第三スパッタ室755A及び第四スパッタ室755Bによって構成されている。言い換えると、第一成膜室754を第一スパッタ室754A及び第二スパッタ室754Bに置き換えること、及び、第二成膜室755を第三スパッタ室755A及び第四スパッタ室755Bに置き換えることによって、スパッタ装置の変形例1が実現されている。
【0088】
第一スパッタ室754Aと第二スパッタ室754Bとの間、第二スパッタ室754Bと第三スパッタ室755Aとの間、及び、第三スパッタ室755Aと第四スパッタ室755Bとの間には、不図示の仕切弁(仕切りバルブ、ドアバルブ、差圧バルブなど)を設けることが好ましい。なお、
図8Bにおいては、スパッタ室754A、754B、755A、755Bを減圧する排気装置、及び、カソードに電力を供給する電源は省略されている。
【0089】
第一スパッタ室754Aは、2つのカソードと2つのターゲットを備え、すなわち、カソードC2Aと、カソードC2Aに載置されるターゲットT2Aと、カソードC2Bと、カソードC2Bに載置されるターゲットT2Bとを備える。また、第一スパッタ室754Aは、温度制御装置TC1A、TC1Bを備えている。
更に、第一スパッタ室754Aは、水蒸気(H
2O)を第一スパッタ室754A内に供給する水蒸気(H
2O)供給ポートA、B(プロセスガス導入機構)を有する。水蒸気(H
2O)供給ポートA、Bは、第一スパッタ室754Aにおける基体101の搬送方向において、カソードC2A(ターゲットT2A)の上流側及びカソードC2B(ターゲットT2B)の上流側に水蒸気(H
2O)を供給することが可能となっている。
【0090】
第二スパッタ室754Bは、2つのカソードと2つのターゲットを備え、すなわち、カソードC2Cと、カソードC2Cに載置されるターゲットT2Cと、カソードC2Dと、カソードC2Dに載置されるターゲットT2Dとを備える。また、第二スパッタ室754Bは、温度制御装置TC1C、TC1Dを備えている。
更に、第二スパッタ室754Bは、水蒸気(H
2O)を第二スパッタ室754B内に供給する水蒸気(H
2O)供給ポートC、D(プロセスガス導入機構)を有する。水蒸気(H
2O)供給ポートC、Dは、第二スパッタ室754Bにおける基体101の搬送方向において、カソードC2C(ターゲットT2C)の上流側及びカソードC2D(ターゲットT2D)の上流側に水蒸気(H
2O)を供給することが可能となっている。
【0091】
なお、第一スパッタ室754A及び第二スパッタ室754BにおけるカソードC2A、C2B、C2C、C2Dの機能は、上述したカソード754C2と同じである。ターゲットT2A、T2B、T2C、T2Dの機能は、上述したターゲット754T2と同じである。温度制御装置TC1A、TC1B、TC1C、TC1Dの機能は、上述した温度制御装置754TC1と同じである。
【0092】
第三スパッタ室755Aは、2つのカソードと2つのターゲットを備え、すなわち、カソードC1Aと、カソードC1Aに載置されるターゲットT1Aと、カソードC1Bと、カソードC1Bに載置されるターゲットT1Bとを備える。また、第三スパッタ室755Aは、温度制御装置TC2A、TC2Bを備えている。
更に、第三スパッタ室755Aは、水蒸気(H
2O)を第三スパッタ室755A内に供給する水蒸気(H
2O)供給ポートE、F(プロセスガス導入機構)を有する。水蒸気(H
2O)供給ポートE、Fは、第三スパッタ室755Aにおける基体101の搬送方向において、カソードC1A(ターゲットT1A)の上流側及びカソードC1B(ターゲットT1B)の上流側に、水蒸気(H
2O)を供給することが可能となっている。
【0093】
第四スパッタ室755Bは、2つのカソードと2つのターゲットを備え、すなわち、カソードC1Cと、カソードC1Cに載置されるターゲットT1Cと、カソードC1Dと、カソードC1Dに載置されるターゲットT1Dとを備える。また、第四スパッタ室755Bは、温度制御装置TC2C、TC2Dを備えている。
更に、第四スパッタ室755Bは、水蒸気(H
2O)を第四スパッタ室755B内に供給する水蒸気(H
2O)供給ポートG、H(プロセスガス導入機構)を有する。水蒸気(H
2O)供給ポートG、Hは、第四スパッタ室755Bにおける基体101の搬送方向において、カソードC1C(ターゲットT1C)の上流側及びカソードC1D(ターゲットT1D)の上流側に、水蒸気(H
2O)を供給することが可能となっている。
【0094】
なお、第三スパッタ室755A及び第四スパッタ室755BにおけるカソードC1A、C1B、C1C、C1Dの機能は、上述したカソード755C1と同じである。ターゲットT1A、T1B、T1C、T1Dの機能は、上述したターゲット755T1と同じである。温度制御装置TC2A、TC2B、TC2C、TC2Dの機能は、上述した温度制御装置755TC2と同じである。
【0095】
水蒸気(H
2O)供給ポートA〜Hは、例えば、スパッタ室内においてターゲットの長手方向(例えば、
図8Bにおける紙面奥行き方向)に延びる配管に接続されている。また、配管には、複数のガス導出孔が設けられており、複数のガス導出孔を通じて、水蒸気(H
2O)供給ポートから水蒸気がスパッタ室内に供給される。スパッタ室内において水蒸気が供給される位置は、例えば、ターゲットと基体101との間の放電空間であることが好ましく、ターゲットに近い位置(スパッタリングが行われる位置に近い位置)であることが好ましい。
このような構成により、a−Si膜(α、β)上に形成された透明導電膜に対して、水蒸気を均等に供給することができる。
【0096】
スパッタ室754A、754B、755A、755Bには、雰囲気ガスとしてアルゴン(Ar)をスパッタ室内に供給するアルゴンガス供給ポートと、酸素(O
2)をスパッタ室内に供給する酸素ガス供給ポートとが設けられている。
【0097】
アルゴンガス供給ポートは、スパッタ室の各々において、水蒸気(H
2O)供給ポートA〜Hに近い位置に設けられ、例えば、複数の位置(多点)に設けられている。なお、アルゴンガス供給ポートは、スパッタリング雰囲気を形成するためのアルゴンを供給すればよいため、スパッタ室の各々に1箇所に設け、この1箇所から多量のアルゴンを供給してもよい。
【0098】
酸素ガス供給ポートは、水蒸気(H
2O)供給ポートA〜Hに近い位置に設けられている。なお、スパッタ室の各々における酸素ガスの供給位置は、プラズマの分布、ガス流の分布、成膜される膜の特性等に影響を与えるため、適宜調整される。例えば、複数の位置から酸素ガスを供給する分割管を酸素ガス供給ポートに接続し、分割管を通じてスパッタ室内の複数の位置から酸素を供給してもよい。
なお、酸素ガス供給ポートを設けずに、酸素ガス及び水蒸気を含む混合ガスを水蒸気(H
2O)供給ポートA〜Hからスパッタ室内に供給してもよい。
【0099】
次に、第一スパッタ室754A、第二スパッタ室754B、第三スパッタ室755A、及び第四スパッタ室755Bの動作について説明する。なお、以下の動作では、アルゴンガス及び酸素ガスがスパッタ室内に供給されている状態で、水蒸気(H
2O)供給ポートから水蒸気をスパッタ室内に供給してスパッタリングを行う場合を説明する。
上述した構造を備えるスパッタ装置においては、地点Bから地点Eに向けた方向に、a−Si膜(α、β)が成膜された基体101が搬送される。
まず、地点Bから第一スパッタ室754A内の地点C1まで基体101が移動する過程でターゲットT2A、T2Bを用いたDCスパッタ法によって、基体101の一方の面(101b)側のa−Si膜(β)上に透明導電膜114が形成される。
このとき、基体101がターゲットT2Aに対応する位置を通過してa−Si膜(β)上に透明導電膜114が形成される際に、最初に、水蒸気(H
2O)供給ポートAから水蒸気がターゲットT2Aの上流側に供給される。これにより、ターゲットT2Aによって透明導電膜114を形成する過程において初期に形成される初期層(以下、単に透明導電膜114の初期層、或いは、初期層と称する)は、水素を多く含む。更に、初期層が下地層として機能し、透明導電膜の成長が進み、a−Si膜上に透明導電膜が形成される。
【0100】
同様に、基体101がターゲットT2Bに対応する位置を通過してa−Si膜(β)上に透明導電膜114が形成される際に、最初に、水蒸気(H
2O)供給ポートBから水蒸気がターゲットT2Bの上流側に供給される。これにより、ターゲットT2Bによって透明導電膜114の初期層は、水素を多く含む。更に、初期層が下地層として機能し、透明導電膜の成長が進み、a−Si膜上に透明導電膜が形成される。
【0101】
更に、第一スパッタ室754Aから第二スパッタ室754B内の地点C2まで基体101が移動する過程で、a−Si膜(β)上に透明導電膜114が形成される。
このとき、基体101がターゲットT2Cに対応する位置を通過してa−Si膜(β)上に透明導電膜114が形成される際に、最初に、水蒸気(H
2O)供給ポートCから水蒸気がターゲットT2Cの上流側に供給される。これにより、ターゲットT2Cによって透明導電膜114の初期層は、水素を多く含む。更に、初期層が下地層として機能し、透明導電膜の成長が進み、a−Si膜上に透明導電膜が形成される。また、ターゲットT2Dによる成膜の場合も、水蒸気(H
2O)供給ポートDが水蒸気を供給することで、ターゲットT2Dによって透明導電膜114の初期層は、水素を多く含む。更に、初期層が下地層として機能し、透明導電膜の成長が進み、a−Si膜上に透明導電膜が形成される。以上の工程を経て、デポアップにより、a−Si膜(β)上に透明導電膜114が形成される。
【0102】
続いて、a−Si膜(β)上に透明導電膜114が形成された基体101は、第二スパッタ室754Bから第三スパッタ室755A内の地点D1まで移動する。この過程で、ターゲットT1A、T1Bを用いたDCスパッタ法によって、基体101の他方の面(101a)側のa−Si膜(α)上に透明導電膜104が形成される。
このとき、基体101がターゲットT1Aに対応する位置を通過してa−Si膜(α)上に透明導電膜104が形成される際に、最初に、水蒸気(H
2O)供給ポートEから水蒸気がターゲットT1Aの上流側に供給される。これにより、ターゲットT1Aによって透明導電膜104を形成する過程において初期に形成される初期層(以下、単に透明導電膜104の初期層、或いは、初期層と称する)は、水素を多く含む。更に、初期層が下地層として機能し、透明導電膜の成長が進み、a−Si膜上に透明導電膜が形成される。
【0103】
同様に、基体101がターゲットT1Bに対応する位置を通過してa−Si膜(α)上に透明導電膜104が形成される際に、最初に、水蒸気(H
2O)供給ポートFから水蒸気がターゲットT1Bの上流側に供給される。これにより、ターゲットT1Bによって透明導電膜104の初期層は、水素を多く含む。更に、初期層が下地層として機能し、透明導電膜の成長が進み、a−Si膜上に透明導電膜が形成される。
【0104】
更に、第三スパッタ室755Aから第四スパッタ室755B内の地点D2まで基体101が移動する過程で、a−Si膜(α)上に透明導電膜104が形成される。
このとき、基体101がターゲットT1Cに対応する位置を通過してa−Si膜(α)上に透明導電膜104が形成される際に、最初に、水蒸気(H
2O)供給ポートGから水蒸気がターゲットT1Cの上流側に供給される。これにより、ターゲットT1Cによって透明導電膜104の初期層は、水素を多く含む。更に、初期層が下地層として機能し、透明導電膜の成長が進み、a−Si膜上に透明導電膜が形成される。また、ターゲットT1Dによる成膜の場合も、水蒸気(H
2O)供給ポートHが水蒸気を供給することで、ターゲットT1Dによって透明導電膜104の初期層は、水素を多く含む。更に、初期層が下地層として機能し、透明導電膜の成長が進み、a−Si膜上に透明導電膜が形成される。以上の工程を経て、デポダウンにより、a−Si膜(α)上に透明導電膜104が形成される。
【0105】
上述したスパッタ装置の変形例1によれば、水素が多く含まれている初期層が下地層として機能する。スパッタで成膜される透明導電膜は下地の影響を大きく受けるため、より効果的に水素を多く含む透明導電膜を成長させることができ、a−Si膜(α、β)上に水素を含む透明導電膜を形成することができる。
【0106】
なお、上記スパッタ装置の変形例1においては、水蒸気(H
2O)供給ポートA〜Hの全てから水蒸気をスパッタ室内に供給する場合を説明したが、必ずしも全ての水蒸気(H
2O)供給ポートから水蒸気を供給する必要はない。以下の変形例2、3に述べる水蒸気(H
2O)供給ポートのみから水蒸気を供給してもよい。
【0107】
(スパッタ装置の変形例2)
(水蒸気(H
2O)供給ポートA、Eからの水蒸気供給)
上述したように、a−Si膜(α、β)に対して最初に形成される透明導電膜に水素を含ませることがより効果的である。その一方、先に成膜された透明導電膜上に積層される透明導電膜に対しては、水素を供給しなくてもよい。このため、水蒸気(H
2O)供給ポートA、Eからの水蒸気供給によって、a−Si膜(α、β)に対して最初に形成される膜に水素を導入し、水蒸気(H
2O)供給ポートAよりも下流側の水蒸気(H
2O)供給ポートB〜D及び水蒸気(H
2O)供給ポートEよりも下流側の水蒸気(H
2O)供給ポートF〜Hからは水蒸気を供給しなくてもよい。
この場合、水蒸気を供給する機構を減らすことができるため、装置コストとランニングコストを上述したスパッタ装置の変形例1に比べて低減することが可能となる。
【0108】
(スパッタ装置の変形例3)
(水蒸気(H
2O)供給ポートB、Fからの水蒸気供給)
a−Si膜(α、β)に対して最初に形成される透明導電膜に水素を含ませる必要がある一方、基体101に対する水蒸気の付着を防ぐことが好ましい。即ち、水蒸気(H
2O)供給ポートA、Eからの水蒸気供給の場合、基体101の表面101aと裏面101bに水蒸気が付着してしまう恐れがある。そこで、水蒸気(H
2O)供給ポートA、Eからの水蒸気供給を行わずに、水蒸気(H
2O)供給ポートB、Fからの水蒸気供給を行ってもよい。
この場合、水蒸気を供給する機構を減らすことができるため、装置コストとランニングコストを上述したスパッタ装置の変形例1に比べて低減することが可能となり、それぞれのターゲットの間から水蒸気を供給することによって、透明導電膜に含まれる水素濃度の分布が良好となる。
【0109】
なお、上述したスパッタ装置の変形例1〜3においては、a−Si膜(α)上に成膜される透明導電膜104及びa−Si膜(β)上に成膜される透明導電膜114の成膜条件は、必ずしも同じである必要はなく、異ならせてもよい。
例えば、光入射側(表面101a)に形成される透明導電膜104に要求される特性として、高い光透過性及び低い抵抗値を示すことが要求される。このため、上述したように水素を透明導電膜に添加することで、高い移動度及び低いキャリア密度を有する透明導電膜が形成される。その一方、非光入射側(裏面101b)に形成される透明導電膜114は、高い光透過性が要求されないため、水素を導入せずに透明導電膜114を形成してもよい。
このため、
図8A及び
図8Bに示すスパッタ装置においては、第一スパッタ室754A及び第二スパッタ室754Bに水蒸気(H
2O)供給ポートを設けず、透明導電膜114を成膜する際に水蒸気を供給しなくてもよい。
【0110】
(透明導電膜付き基板の製造方法)
以下では、本発明の透明導電膜付き基板の製造方法の一例として、
図8Aに示すスパッタ装置を用いて、
図1に示す透明導電膜付き基板10A(10)を製造する方法について例示する。なお、以下に説明する製造方法は、
図8Bに示すスパッタ装置にも適用可能である。
【0111】
透明導電膜(TCO1、TCO2)の作製に用いるターゲット材としては、酸化インジウムに酸化スズを1〜10質量%添加したスズ添加酸化インジウム(ITO)が挙げられる。ITOの中でも、比抵抗の低い薄膜を形成できる点で、酸化インジウムに酸化スズを5〜10質量%添加したITOが好ましい。
【0112】
例えば、所定の板厚とされ矩形状をなすn型の結晶シリコンからなる基体101を準備する(
図7BのS11)。基体101の表面及び裏面の表面に対して所望のテクスチャー処理を施す(
図7BのS12)。所定の洗浄処理および乾燥処理を行った後、公知のCVD装置によって、基体101の表面及び裏面の両面に、透明導電膜の下地となるa−Si膜(α、β)が形成される。その後、a−Si膜が形成された基体101、すなわち、中間構造体1A(1)を、スパッタ装置700の仕込室751に位置するトレイ(不図示)にセットする。仕込室751の内部を排気装置751Pにより所定の圧力まで減圧した後、仕込室751から減圧下にある加熱室752へ中間構造体1A(1)を移動させる。加熱室752の内部を排気装置752Pにより所定の真空度以下に保ちながら、トレイ(不図示)にセットされた中間構造体1A(1)を加熱ヒーター752Hにより所定の温度まで加熱する。
【0113】
所定の温度まで加熱された中間構造体1A(1)を、成膜入口室753へ移動して、加熱ヒーター753Hにより、a−Si膜(α、β)の温度が所望の範囲(70〜220[℃])となるように加熱する。その後、加熱された状態にあるa−Si膜(α、β)が外面をなす中間構造体1A(1)を、第一成膜室754へ移動する。第一成膜室754において、ITOからなるターゲット754T2を用いたDCスパッタ法により、a−Si膜(α)の上に、透明導電膜104(TCO1)を形成する(
図7BのS16)。
【0114】
次いで、中間構造体1A(1)の一方の面に透明導電膜(104)が形成された中間構造体1A(1)を、第二成膜室755へ移動する。第二成膜室755において、ITOからなるターゲット755T1を用いたDCスパッタ法により、a−Si膜(β)の上に、透明導電膜114(TCO2)を形成する(
図7BのS16)。
【0115】
このとき、第一成膜室754および第二成膜室755において、プロセスガス導入機構754Gおよび755Gにより、プロセスガスとして水素を含むガスを導入する。この場合、アルゴン(Ar)ガスに水蒸気(H
2O)を添加した形で導入してもよいし、アルゴンガスに酸素(O
2)と水素(H
2)の混合ガスを添加した形で導入してもよい。さらに、アルゴンガスに酸素および水素を添加した上で水蒸気を添加してもよいし、アルゴンガスと酸素ガスに水蒸気を添加してもよい。また、基体やトレイ等の基体の周辺部品に水(H
2O)を吸着・吸蔵させることにより、プロセス雰囲気中に水素を添加することも可能である。
【0116】
その後、透明導電膜104(TCO1)と透明導電膜114(TCO2)の上に、所定の成膜法により、金属膜からなるパターニングされた電極105、115を形成する(
図7BのS17)。これにより、本発明の実施形態に係る太陽電池100A(100)が得られる。
【0117】
ここで、金属膜、すなわち、電極105、115を形成する方法として印刷法を用いる場合は、銀ペーストを用いてパターニングされた電極を形成することが一般的である。この場合、電極の印刷の後、電極を加熱焼成することで、金属膜の膜中に含まれる不純物の脱離と膜の低抵抗化を促すが、同時に透明導電膜104および114も加熱することで、透明導電膜104および114のさらなる低抵抗化を期待することができる(ステップB)。
【0118】
一方、印刷法を選択しない場合であっても、成膜後の加熱による透明導電膜のさらなる低抵抗化を期待して、透明導電膜の形成後に加熱炉にて加熱処理(後加熱)を行う場合もある(ステップB)。このように、形成後の透明導電膜に対して加熱処理を行う場合、加熱温度としては200℃付近、処理雰囲気としては大気圧雰囲気下であってもよいし、減圧下であってもよく、所望のガス雰囲気中で行われる。
【0119】
なお、本発明の実施形態に係る透明導電膜の膜質および光学的特性を評価するため、基体101としてガラス基板(型番:Corning社製EagleXG)を用い、基体101の片面のみに透明導電膜を形成してなる透明導電膜付き基板を作製した。表2は透明導電膜の作製条件である。ここで、表2において成膜前の基体温度として150℃としたが、DCスパッタ法により基体表面に透明導電膜が形成されると、プラズマからの入熱により、基体温度が上昇する。このような場合でも、成膜時の基体温度(すなわち、透明導電膜の下地をなすa−Si膜の温度)[℃]が70〜220の範囲となるように成膜前の基体温度を調整することにより、本発明の効果を得ることが可能となる。
【実施例】
【0120】
次に、本発明の実施例について説明する。
以下に説明する実施例1〜13の透明導電膜は、上述したスパッタ装置の変形例2を用いてa−Si膜上に成膜されており、すなわち、水蒸気(H
2O)供給ポートA、Eからターゲットの上流側に水蒸気(H
2O)を供給しながらスパッタリングを行うことによって成膜された透明導電膜である。
【0121】
【表2】
【0122】
<透明導電膜の膜質評価>
表3は、透明導電膜の膜質を評価した結果である。
表2に示した透明導電膜の作製条件をベース(加熱成膜:成膜前の基板温度で150℃)として、プロセスガスであるアルゴンと酸素に加え、水蒸気の状態で水素を添加した。その際、水素の添加量は、アルゴンに対する水の分圧として、5条件(0.0%、2.0%、4.0%、6.0%、8.0%)について検討した。
また、室温成膜(成膜前の基板温度で25〜30℃)によって透明導電膜を形成した。その際、水素の添加量は、アルゴンに対する水の分圧として、2条件(0.0%、2.0%)について検討した。
以下では、室温成膜で水素の添加量が0.0%の条件を比較例1、室温成膜で水素の添加量が2.0%の条件を比較例2、加熱成膜で水素の添加量が0.0%の条件を比較例3と呼称する。また、加熱成膜で水素の添加量が2.0%、4.0%、6.0%、8.0%の条件は順に、実施例1、実施例2、実施例3、実施例4と呼称する。
【0123】
【表3】
【0124】
表3から、以下の点が明らかとなった。
(A1)従来技術である室温成膜においても、プロセスガスとして水素を含むガスを導入することにより、ホール移動度が増加する一方、キャリア密度は若干減少した。その結果、自由キャリアによる光の吸収が減少することにより、波長1150nmにおける吸収率が減少することが確認された(比較例1と比較例2との比較)。
(A2)本発明の実施形態における加熱成膜においては、プロセスガスとして水素を含むガスを導入することによる、ホール移動度の増加(表中の矢印a)とキャリア密度の減少(表中の矢印b)が、室温成膜の場合より顕著に現れた(比較例3と実施例1との比較)。
(A3)水素の添加量を増やすと抵抗値(シート抵抗)が増加する傾向が確認された(表中の矢印c)。そして水の分圧が6%より大きくなる(実施例4)と、シート抵抗が100Ω/□を超える(表中のd)ため、透明導電膜としての機能に問題が生じる(実施例1〜4)。
(A4)水の分圧が6%より大きくなった場合(実施例4)、ホール移動度の急激な減少(表中の矢印e)とともに、キャリア密度が増加(表中の矢印f)することが確認された(実施例3と実施例4との比較)。このため、波長1150nmにおける吸収率が、水素を添加しない場合と同等レベルまで増大する(表中の矢印g)ことが判明した(比較例3と実施例4との比較)。
【0125】
以上の結果より、透明導電膜が、導電膜としての電気的特性を維持しつつ、近赤外域における低吸収率も実現するためには、3つの条件(加熱成膜を行うこと、プロセスガスとして水素を含むガスを導入すること、水の分圧を6%以下にすること)を満たすことが重要であることが分かった。
【0126】
<透明導電膜付き基板の光学的評価>
図6は、透明導電膜付き基板の光学特性(透過率、反射率、吸収率)を示すグラフであり、横軸が波長、縦軸が透過率(左側)と反射率(左側)と吸収率(右側)である。透明導電膜付き基板の成膜条件は、表2および表3に示す条件と同じである。
図6では、シート抵抗値がほぼ同等の数値であった、比較例2のサンプル(室温成膜、水添加2%)と実施例2のサンプル(加熱成膜、水添加4%)について、光学特性(透過率、反射率、吸収率)を比較した。
図6において、点線が比較例2のサンプルを表わしており、実線が実施例2のサンプルを表わしている。
【0127】
図6から、以下の点が明らかとなった。
(B1)透明導電膜において導電性の指標であるシート抵抗値を同等に揃えて比較すると、表3において、波長1150nmにおける吸収率は、比較例2(室温成膜のサンプル)が2.96%であり、実施例2(加熱成膜のサンプル)が0.99%であった。これより、加熱成膜によって、吸収率を大幅に低減できる(およそ3分の1)ことが分かった。
(B2)加熱成膜によって吸収率が低減する現象は、
図6に示すように、近赤外域の波長域のほほ全域に亘って観測された。加熱成膜のサンプルは、低吸収率化が図れたことにより、高透過率の透明導電膜となることが分かった。
(B3)上記(B2)の現象(低吸収率、高透過率)は、近赤外域において波長が大きな領域になるほど、拡大する傾向にあることも分かった。これより、本発明の実施形態は、近赤外域の波長域の光に対して、有効な透明導電膜付き基板の提供に寄与することが判明した。
【0128】
図6より、本発明の実施形態に係る製造方法、すなわち、「加熱されたa−Si膜上に、水素を含むプロセスガスを用いて透明導電膜をDCスパッタ法により成膜する製法」により、可視域から近赤外域において低吸収率を備えた透明導電膜が得られることが明らかとなった。
これに対して、a−Si膜を150[℃]に加熱したとしても、透明導電膜をアルゴンと酸素のみで形成した場合は、本発明のような効果、近赤外域における低吸収率は安定して得られないことが判明した。
ゆえに、可視域から近赤外域において低吸収率を備えた透明導電膜を安定して作製するために、「加熱されたa−Si膜上に、水素を含むプロセスガスを用いて透明導電膜をDCスパッタ法により成膜する製法」が有効であることが確認された。
なお、上述した「水素を添加することにより、近赤外域における吸収率の
減少が見られ、これに伴い透過率が減少する傾向」は、水の分圧として6%以下が好ましいことがわかった。8%とした場合には、波長が大きくなるに連れて、吸収率が増加する傾向があった(不図示)。
【0129】
また、上述した本発明の実施形態に係る製造方法、すなわち、「加熱されたa−Si膜上に、水素を含むプロセスガスを用いて透明導電膜をDCスパッタ法により成膜する製法」のうち、DCスパッタ法をRFスパッタ法に代えた場合、投入電力を同一に設定しても、透明導電膜の成膜速度が2分の1程度に遅くなることが確認された。これより、本発明の実施形態に係る製造方法は、RFスパッタ法に比べて、量産性に優れた製法であることも明らかとなった。
【0130】
<透明導電膜の結晶性評価1>
表4は、透明導電膜付き基板における透明導電膜の表面粗さ(Ra)と、透明導電膜に含まれる水素の含有量(水素濃度)を示す。ここで、透明導電膜に含まれる水素の含有量とは、透明導電膜の厚さにおいて中央付近における水素濃度のことを示す。
その際、透明導電膜の成膜条件のうち、水素の添加量は、アルゴンに対する水の分圧として、6条件(0.0%、0.3%、1.0%、2.0%、4.5%、6.0%)について検討した。
透明導電膜の成膜条件は、水素の添加量の条件以外は、表2および表3に示す条件と同じ(加熱成膜、すなわち、成膜前の基体温度150℃)であり、成膜後に200℃、30分の後加熱処理を施している。なお、表4において、「−−」は測定値無しを意味する。また、表4において、「水素の含有量」とは、代表値である。透明導電膜の水素含有量については、後述する
図15〜
図19を参照して具体的に説明する。
【0131】
【表4】
【0132】
表4から、以下の点が明らかとなった。
(C1)加熱成膜を行い、かつ、プロセスガスとして水素を含むガスを用いて作製された透明導電膜(実施例5〜9)は、表面粗さが1nm以下の値となる。水素を含むガスを用いない場合(比較例4)は、表面粗さが2.11nmであった。これより、水素を含むガスを用いることにより、透明導電膜は表面平滑性が改善することが分かった。
(C2)透明導電膜に含まれる水素の含有量(水素濃度[atoms/cm
3])は、水素を含むガスを用いない場合(比較例4)が4.81×10
20であるのに対して、水素を含むガスを用いる場合(実施例5、実施例7、実施例9)が10
21台(2.15×10
21〜7.03×10
21)であった。
以上の結果から、表面平滑性の高い透明導電膜を得るためには、透明導電膜に含まれる水素の含有量(水素濃度[atoms/cm
3])を、1×10
21以上とすることが必要条件であることが判明した。
【0133】
(D1)上記(C1)〜(C3)に述べた傾向、すなわち、「表面平滑性の高い透明導電膜と透明導電膜に含まれる水素の含有量との関係」は、後述する
図9A〜
図14に示す写真(SEM像に見られる透明導電膜の結晶構造)からも明らかである。
(D2)プロセスガスとして水素を含むガスを用いない場合(
図9A及び
図9B)には、SEMの断面図において、透明導電膜の結晶が柱状に観測された。これに対して、プロセスガスとして水をごく僅か添加しただけで(
図10A及び
図10B)、柱状の結晶は見られなくなった。水素の添加量が0.3%以上6.0%以下の範囲では、柱状の結晶は観測されない(
図10A〜
図12B)。
(D3)上記(D2)の現象(水素の添加により柱状の結晶が消失した現象)は、水素を含むプロセスガスを用いることにより、透明導電膜が非晶質化したためと考えられる。
(D4)柱状の結晶が消失した結果、透明導電膜の表面の平滑性が改善したことにより、表面粗さRaの値として1nm以下が得られるようになった。水素の添加量が0.3%以上6.0%以下の範囲では、Raは1nm以下であった(表4)。
(D5)上述した(D1)〜(D4)の傾向は、シリコン基板の表面にテクスチャーを設けた場合でも、同様であることが確認された(
図13、
図14)。
以上の結果からも、表面平滑性の高い透明導電膜を得るためには、透明導電膜に含まれる水素の含有量(水素濃度[atoms/cm
3])を、1×10
21以上とすることが必要条件であることが確認された。
【0134】
<光学的評価2>
図9A〜
図12Bは、ガラス基板からなる基体上に作製された透明導電膜のSEM像を示す写真であり、
図9A、
図10A、
図11A、
図12Aは、透明導電膜の断面を示す150k倍の写真である。
図9B、
図10B、
図11B、
図12Bは、透明導電膜の表面を示す150k倍の写真である。
図9A及び
図9Bは、水素の添加量が、アルゴンに対する水の分圧として、0.0%である場合を示している。
図10A及び
図10Bは、水素の添加量が、アルゴンに対する水の分圧として、0.3%である場合を示している。
図11A及び
図11Bは、水素の添加量が、アルゴンに対する水の分圧として、2.0%である場合を示している。
図12A及び
図12Bは、水素の添加量が、アルゴンに対する水の分圧として、6.0%である場合を示している。
図9A〜
図12Bに示される透明導電膜の成膜条件は、水素の添加量の条件以外は、表2および表3に示す条件と同じ(加熱成膜、すなわち、成膜前の基体温度150℃)であり、成膜後に200℃、30分の後加熱処理を施している。
図13と
図14は、シリコン基板からなる基体上に作製された透明導電膜のSEM像を示す写真であり、何れも250k倍の断面の写真である。
図13は、水素の添加量が、アルゴンに対する水の分圧として、0.0%である場合を示している。
図14は、水素の添加量が、アルゴンに対する水の分圧として、2.0%である場合を示している。
図13と
図14に示される透明導電膜の成膜条件は、水素の添加量の条件以外は、表2および表3に示す条件と同じ(加熱成膜、すなわち、成膜前の基体温度150℃)であり、成膜後に200℃、30分の後加熱処理を施している。
【0135】
図9A〜
図14に示す写真から、以下の点が明らかとなった。
(E1)水なしの場合(
図9A及び
図9B)、すなわち、プロセスガスとして水素を含むガスを用いない(水素の添加量0.0%)場合(比較例4:
図9A及び
図9B)は、透明導電膜の表面には細かな結晶粒子が観測された。断面写真から明らかなように、各結晶粒子が柱状をなしており、この柱状に応じた凹凸形状が透明導電膜の表面に反映されていることが確認された。
図9A及び
図9Bにおいて、透明導電膜の表面粗さRaは2.11nmであった。
(E2)水素を含むガスのプロセスガスに占める割合が0.3%の場合(実施例5:
図10A及び
図10B)は、透明導電膜が非晶質の状態で形成されており、断面写真から柱状の状態の結晶は観測されなかった。これに伴い透明導電膜の表面は平坦になることが確認された。
図10A及び
図10Bにおいて、透明導電膜の表面粗さRaは0.85nmであった。
(E3)水素を含むガスのプロセスガスに占める割合が2%および6%の場合(実施例7:
図11A及び
図11B、実施例9:
図12A及び
図12B)は、透明導電膜おいて非晶質化がさらに進み、断面写真から柱状の状態の結晶は観測されなかった。これに伴い透明導電膜の表面は平坦性がさらに改善することが確認された。
図11A〜
図12Bにおいて、透明導電膜の表面粗さRaは0.51nm(実施例7)および0.29nm(実施例9)であった。
(E4)透明導電膜を形成する基体がシリコン基板であっても(
図13および
図14)、基体がガラス基板である場合(
図10A〜
図12B)と同様に、(E2)および(E3)の効果が得られることが分かった。
【0136】
上述した(E2)と(E3)の効果は、透明導電膜に含まれる水素の含有量[atoms/cm
3]が10
21台以上(2.15×10
21以上)である場合に確認された。その際、透明導電膜には柱状の状態の結晶は観測されなかった。このため、透明導電膜が平坦な表面プロファイルとなり、透明導電膜に接して形成された構造と透明導電膜の間の電気的コンタクト性の向上が図れた。
ゆえに、本発明の実施形態に係る透明導電膜付き基板の製造方法および透明導電膜付き基板は、可視域から近赤外域の広範囲の波長に対して優れた機能を有するとともに、透明導電膜に接して形成された構造と透明導電膜との間の電気的コンタクト性が改善された太陽電池、各種の受発光センサや表示パネル等の実現に寄与する。
【0137】
<水素含有量のプロファイル>
図15〜
図19を参照し、表4に示された比較例及び実施例の透明導電膜の水素含有量のプロファイルについて説明する。
図15〜
図19は、SIMS分析によって得られた結果を示している。
SIMS分析に用いた測定器は、アルバックファイ製SIMS6650である。測定条件として、1次イオン種はCs
+であり、加速電圧は5kVとした。
図15は、比較例4の透明導電膜の水素含有量のプロファイルを示している(H
2O/Arが0%である場合)。
図16は、実施例5の透明導電膜の水素含有量のプロファイルを示している(H
2O/Arが0.3%である場合)。
図17は、実施例7の透明導電膜の水素含有量のプロファイルを示している(H
2O/Arが2.0%である場合)。
図18は、実施例8の透明導電膜の水素含有量のプロファイルを示している(H
2O/Arが4.5%である場合)。
図19は、実施例9の透明導電膜の水素含有量のプロファイルを示している(H
2O/Arが6.0%である場合)。
図15〜
図19の各々において、横軸は透明導電膜の深さ(透明導電膜の表面(外側)から透明導電膜を掘った時間)を示しており、左の縦軸は水素の含有量[atoms/cm
3]を示しており、右の縦軸は16O、115In、120Sn、28Siの2次イオン強度を示している。
図15〜
図19の各々において、実線が水素含有量を示している。
図15〜
図19の各々において、左右の縦軸に示された数値はオーダを意味しており、即ち、左の縦軸に示された数値1.00E+17〜1.00E+23は、1×10
17〜1×10
23を意味し、右の縦軸に示された数値1.00E+01〜1.00E+07は、1×10
1〜1×10
7を意味する。
【0138】
図15〜
図19から、以下の点が明らかとなった。(F1)比較例4の場合、透明導電膜の水素含有量は1020[atoms/cm
3]台であった。なお、a−Si膜と透明導電膜との界面の近く(150Seconds付近)では、急激に水素含有量が上昇しているが、これは、界面から受けるノイズの影響であり、考慮する必要はない。
(F2)比較例4の場合、透明導電膜の初期層、すなわち、透明導電膜とa−Si膜との界面に近い位置では、後述する実施例5、7、8、9に比べて水素含有量が低いことが明らかとなった。
(F3)実施例5、7、8、9の場合、透明導電膜の水素含有量は10
21[atoms/cm
3]台以上であった。
(F4)実施例5、7、8、9の場合、透明導電膜の初期層、すなわち、透明導電膜とa−Si膜との界面に近い位置では、比較例4に比べて水素含有量が高いことが明らかとなった。特に、透明導電膜とa−Si膜との界面に近い位置では、水素含有量が高い結果が得られたが、その理由は、ターゲットの上流側に水蒸気(H
2O)を供給することで、水素含有量が上昇したと考えられる。
(F5)実施例5、7、8、9の場合、透明導電膜が成長するに従って、水素含有量が緩やかに減少することが明らかとなった。即ち、透明導電膜に含まれる水素の含有量は、透明導電膜とa−Si膜との界面から透明導電膜の外側に向けて
減少することが明らかとなった。
なお、実施例8、9の場合、透明導電膜とa−Si膜との界面に近い位置において、16Oの2次イオン強度が低下しており、酸素低下領域が生じている結果が得られた。その一方、比較例4、実施例5、7では、界面に近い位置において16Oの2次イオン強度が低下するような結果が得られなかった。
【0139】
<透明導電膜の水素含有量の分布>
表5に示された比較例及び実施例の透明導電膜の水素含有量の分布について説明する。
表5に示す「H
2O/Ar」について、0[%]は比較例4を示しており、0.3[%]は実施例5を示しており、2[%]は実施例7を示しており、4.5[%]は実施例8を示しており、6[%]は実施例9を示している。「MAX」は水素含有量の最大値であり、「MIN」は水素含有量の最小値であり、「Ave」は水素含有量の平均値であり、「UNI」は「(MAX−MIN)/(MAX+MIN)」の値を示しており、均一性である。
【表5】
表5から、以下の点が明らかとなった。
(G1)H
2O/Arが0%の場合では水素含有量の最大値、最小値、及び平均値が最も低いことが明らかとなった。
(G2)H
2O/Arの量の増加に伴って水素含有量の最大値、最小値、及び平均値が増加することが明らかとなった。特に、H
2O/Arが6%の場合、水素含有量の最大値、最小値、及び平均値が最も高いことが明らかとなった。
(G3)均一性「UNI」に関し、H
2O/Arが0%の場合では値が大きくなることが明らかとなった。また、H
2O/Arの量の増加によって、H
2O/Arが0%の場合よりも均一性が低くなる。特に、H
2O/Arが2%の場合が最も均一性が優れており、H
2O/Arが4.5%及び6%の場合では、2%の場合よりも、優れた均一性が得られないことが明らかとなった。このため、優れた均一性及び水素含有量の増加の両方を実現するには、H
2O/Arが2%であることが好ましい。
特に、良質な透明導電膜の膜質を得るために、水素含有量が膜内に均一となるように水素を透明導電膜に添加させることが好ましい。例えば、膜中の水素濃度分布が50%以下であることがより好ましい。また、スパッタ法で形成される透明導電膜の膜質は初期層の影響が大きいため、初期層の水素濃度が膜厚方向で高くなるように透明導電膜をスパッタ法で形成することがより好ましい。
【0140】
<太陽電池セル特性評価>
表6は、透明導電膜付き基板を含む太陽電池のセル特性を示しており、
図1に示す層構成の試料を用いて評価した結果である。
表6の各試料には、シリコン基板にa−Si膜が形成された上に、透明導電膜として、表2に示す成膜条件で、膜厚115[nm]の透明導電膜が設けられている。
透明導電膜を成膜する際の基体(すなわち、a−Si膜)の加熱条件として、室温の場合(比較例5)と150℃の場合(実施例10〜実施例13)を実施しており、それぞれプロセスガスに水素を含むガスを用いている。水素の添加量は表6に示すとおりである。
ここで、透明導電膜を室温で成膜し、かつ水素の添加量が、水の分圧として2.0%の場合(比較例5)における各評価項目の値を100とし、透明導電膜を加熱成膜した場合(実施例10〜実施例13)における各評価項目の値を規格化している。
太陽電池のセル特性の評価項目は、開放電圧、短絡電流、曲線因子、変換効率である。
【0141】
【表6】
【0142】
表6から、以下の点が明らかとなった。
(H1)加熱成膜(150[℃])の各試料(実施例10〜実施例13)の方が、室温成膜の試料(比較例5)に比べて、開放電圧が高い。
(H2)開放電圧の低下は、a−Si膜のパッシベーション効果の低下に起因することが公知である。加熱成膜の各試料においては、室温成膜の試料より開放電圧が高くなっていることから、加熱成膜を行うことにより、透明導電膜の下地をなすa−Si膜への水の取込が低減され、a−Si膜の劣化が抑制されたことが分かった。
(H3)上記(H2)の作用・効果は、発電特性の向上に寄与する。すなわち、加熱成膜の各試料の方が、おおむね、短絡電流や曲線因子が高くなり、その結果として変換効率の高い太陽電池が得られることが分かった。
(H4)短絡電流の改善は、低吸収率化の結果であると考えられる。
(H5)曲線因子の改善は、透明導電膜の表面平坦性が図られたため、透明導電膜の上に形成される電極と透明導電膜との間の電気的コンタクト性が向上したことと、透明導電膜の低抵抗化によると考えられる。
【0143】
上述した表6の結果から、本発明の実施形態に係る製造方法、すなわち、「加熱されたa−Si膜上に、水素を含むプロセスガスを用いて透明導電膜をDCスパッタ法により成膜する製法」によれば、透明導電膜の下地であるa−Si膜への水の取り込みを低減し、a−Si膜の劣化を抑制することが可能となる。このため、太陽電池としての特性が向上することに加えて、可視域から近赤外域において低吸収率を備えた透明導電膜を備えることが可能となる。その結果、可視域に加えて近赤外域の光も、発電に有効利用することが可能な太陽電池が得られることが明らかとなった。
【0144】
これに対して、a−Si膜を加熱することなく、室温にあるa−Si膜上に透明導電膜を、水素を含むプロセスガスを用いて形成した場合は、透明導電膜の下地であるa−Si膜への水の取り込みによるa−Si膜の劣化が発生すると考えられるため、太陽電池としての特性が劣化すると同時に、赤外域における低吸収率は得られない。それゆえ、この条件で作製された透明導電膜を含む太陽電池は、可視域に加えて近赤外域の光を、発電に有効利用することが困難である。
【0145】
ゆえに、可視域から近赤外域において低吸収率を備えた透明導電膜を含む太陽電池は、近赤外域の波長の光も有効に利用できる。よって、本発明の実施形態に係る製造方法は、従来に比べて優れた発電効率を有する太陽電池の提供に寄与する。
【0146】
本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【0147】
例えば、上述した実施形態では、基体101の表面101a及び裏面101bの両方にa−Si膜を形成しているが、表面101a及び裏面101bのうち少なくとも一方に、a−Si膜が形成されてもよい。
また、第一成膜室754及び第二成膜室755は、スパッタ装置の変形例1〜3で説明した水蒸気(H
2O)供給ポート、酸素(O
2)ガス供給ポート、及びアルゴン(Ar)ガス供給ポートを備えてもよい。
なお、上述した実施形態では、基体101を水平に維持して搬送する搬送機構を備えた水平搬送型のスパッタリング装置について説明した。透明導電膜中に取り込まれるダストの混入を考慮すると、本発明は、垂直搬送方式のスパッタリング装置にも適用可能である。