特許第6653750号(P6653750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653750
(24)【登録日】2020年1月30日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】半導体基体及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20200217BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20200217BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20200217BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20200217BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
   H01L21/205
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-501400(P2018-501400)
(86)(22)【出願日】2016年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2016001060
(87)【国際公開番号】WO2017145199
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】鹿内 洋志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 憲
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 勝
(72)【発明者】
【氏名】土屋 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
【審査官】 棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−221001(JP,A)
【文献】 特開2010−232293(JP,A)
【文献】 特開2012−243871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/338
H01L 21/205
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン系基板と、
該シリコン系基板上に、第1材料を含む窒化物系化合物半導体の第1の層と、前記第1材料よりも格子定数が大きい第2材料を含む窒化物系化合物半導体の第2の層とが繰り返し設けられた層を含むバッファ層と、
該バッファ層上に前記第2材料を含む窒化物系化合物半導体のチャネル層と
を備え、
前記第2の層の格子定数は、前記第1の層の格子定数よりも大きく、
前記バッファ層において、前記第1の層上の前記第2の層との間の少なくとも1つには、上方に向かって前記第2材料の組成比が徐々に大きくなり、上方に向かって前記第1材料の組成比が徐々に小さくなる、窒化物系化合物半導体の第1の組成傾斜層を有し、前記第2の層上の前記第1の層との間の少なくとも1つには、上方に向かって前記第1材料の組成比が徐々に大きくなり、上方に向かって前記第2材料の組成比が徐々に小さくなる、窒化物系化合物半導体の第2の組成傾斜層を有し、
前記第1の組成傾斜層は前記第2の組成傾斜層より厚いものであることを特徴とする半導体基体。
【請求項2】
前記第1の組成傾斜層の厚みに対する平均組成変化率は、前記第2の組成傾斜層の厚みに対する平均組成変化率より小さいことを特徴とする請求項1に記載の半導体基体。
【請求項3】
前記第1の層上の前記第2の層との間の全てにおいて、前記第1の組成傾斜層を有し、
前記第2の層上の前記第1の層との間の全てにおいて、前記第2の組成傾斜層を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体基体。
【請求項4】
前記バッファ層の最上層には前記第1の組成傾斜層が設けられ、該第1の組成傾斜層の下には、前記第1の層が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の半導体基体。
【請求項5】
前記第1材料及び前記第2材料は、B、Al、Ga、Inからなるグループの中から選択されるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の半導体基体。
【請求項6】
前記第1の層がAlN層であり、前記第2の層がGaN層であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の半導体基体。
【請求項7】
前記第1及び第2の組成傾斜層の前記第1材料の平均組成変化割合が29%/nmより大きく、75%/nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の半導体基体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の半導体基体の上に、電極を備えるものであることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基体及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体層は安価なシリコン基板上やサファイア基板上に形成されるのが一般的である。しかし、これらの基板の格子定数と窒化物半導体層の格子定数は大きく異なり、また、熱膨張係数も異なる。このため、基板上にエピタキシャル成長によって形成された窒化物半導体層に、大きな歪みエネルギーが発生する。その結果、窒化物半導体層にクラックの発生や結晶品質の低下が生じやすい。
【0003】
上記問題を解決するために、基板と窒化物半導体からなる機能層との間に組成の異なる窒化物半導体層を積層したバッファ層を配置することが従来行われていた。
【0004】
また、特許文献1〜3等のように、GaN on Si系半導体はGaN系の多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設け、応力をコントロールし、クラック抑制、結晶性向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−158889号公報
【特許文献2】特開2007−221001号公報
【特許文献3】特開2010−232293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、各層間に組成傾斜層を設ける場合、それが無い場合と比較し成長時間が延びる問題が有る。また各層間に組成傾斜層が有る場合、その組成傾斜層の格子定数変化量を0.7%/nmより大きくすると(すなわち、組成傾斜層を薄くすると)、結晶性劣化が生じ、クラックが長くなり、ウェーハの歩留まり及びこのウェーハを用いて作製したデバイスの歩留まりが低下する事が後述する実験で分かった。これは格子定数の大きい層上に格子定数の小さい層を成長させる際、その間の組成傾斜層が大きく影響していると考えられる。このため、組成傾斜層を成長させる時間の短縮のため、組成傾斜層の格子定数変化量を0.7%/nmより大きくした場合では、特許文献2の構造(すなわち、多層バッファ層において、GaN層とAlN層との間に組成傾斜層を設ける構造)は適用できない事が分かった。この影響はバッファ層上に能動層であるGaN層を成長させる際、その膜厚を厚くするとより顕著になる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、多層バッファ層の各層間に格子定数変化量が0.7%/nmより大きい組成傾斜層を設けた場合でも、結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制できる半導体基体及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコン系基板と、該シリコン系基板上に、第1材料を含む窒化物系化合物半導体の第1の層と、前記第1材料よりも格子定数が大きい第2材料を含む窒化物系化合物半導体の第2の層とが繰り返し設けられた層を含むバッファ層と、該バッファ層上に前記第2材料を含む窒化物系化合物半導体のチャネル層とを備え、前記バッファ層において、前記第1の層上の前記第2の層との間の少なくとも1つには、上方に向かって前記第2材料の組成比が徐々に大きくなり、上方に向かって前記第1材料の組成比が徐々に小さくなる、窒化物系化合物半導体の第1の組成傾斜層を有し、前記第2の層上の前記第1の層との間の少なくとも1つには、上方に向かって前記第1材料の組成比が徐々に大きくなり、上方に向かって前記第2材料の組成比が徐々に小さくなる、窒化物系化合物半導体の第2の組成傾斜層を有し、前記第1の組成傾斜層は前記第2の組成傾斜層より厚いものであることを特徴とする半導体基体を提供する。
【0009】
このように、第1の組成傾斜層を第2の組成傾斜層より厚くすることで、バッファ層上に設けられるチャネル層に圧縮応力を加えることができ、これによりチャネル層の結晶欠陥を低減でき、格子定数変化量が0.7%/nmより大きい組成傾斜層を設けた場合でも、結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。
【0010】
このとき、前記第1の組成傾斜層の厚みに対する平均組成変化率は、前記第2の組成傾斜層の厚みに対する平均組成変化率より小さいことが好ましい。
【0011】
第1の組成傾斜層の平均組成変化率と、第2の組成傾斜層の平均組成変化率が、このような関係を有していれば、効果的に結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。
【0012】
このとき、前記第1の層上の前記第2の層との間の全てにおいて、前記第1の組成傾斜層を有し、前記第2の層上の前記第1の層との間の全てにおいて、前記第2の組成傾斜層を有することが好ましい。
【0013】
第1の組成傾斜層及び第2の組成傾斜層がこのようにすべての間に設けられていることにより、確実に結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。
【0014】
このとき、前記バッファ層の最上層には前記第1の組成傾斜層が設けられ、該第1の組成傾斜層の下には、前記第1の層が設けられていることが好ましい。
【0015】
バッファ層の上部をこのような構成とすることにより、より効果的に結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。
【0016】
このとき、前記第1材料及び前記第2材料を、B、Al、Ga、Inからなるグループの中から選択することができる。
【0017】
第1材料及び第2材料として、上記のものを好適に用いることができる。
【0018】
このとき、前記第1の層をAlN層とし、前記第2の層をGaN層とすることができる。
【0019】
バッファ層を構成する第1の層及び第2の層として、特に上記のものを好適に用いることができる。
【0020】
このとき、前記第1及び第2の組成傾斜層の前記第1材料の平均組成変化割合が29%/nmより大きく、75%/nm以下であることが好ましい。
【0021】
第1及び第2の組成傾斜層の第1材料の平均組成変化割合が29%/nmより大きければ、第1及び第2の組成傾斜層をより薄くできるので、第1及び第2の組成傾斜層の成膜時間を短くすることができ、それにより製造時間を短縮することができる。
また、第1及び第2の組成傾斜層の第1材料の平均組成変化割合が75%/nm以下であれば、結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制する効果を維持できる。
【0022】
また、本発明は、上記の半導体基体の上に、電極を備えるものであることを特徴とする半導体装置を提供する。
【0023】
このような半導体装置であれば、チャネル層において結晶性劣化やクラックが長くなることが抑制された半導体装置とすることができるので、半導体装置の歩留まりや特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明の半導体基体であれば、多層バッファ層の各層間に格子定数変化量が0.7%/nmより大きい組成傾斜層を設けた場合でも、結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。従って、成長時間を短縮できるので低コストのものとすることができる。また、本発明の半導体装置であれば、チャネル層において結晶性劣化やクラックが長くなることが抑制された半導体装置とすることができるので、半導体装置の歩留まりや特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の半導体基体の実施形態の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の半導体基体の実施形態の別の例を示す概略断面図である。
図3】本発明の半導体装置の実施形態の一例を示す概略断面図である。
図4】実施例1、2のバッファ層のアルミ含有率の分布を示す図である。
図5】実験例1の半導体基体の概略断面図である。
図6】実験例2の半導体基体の概略断面図である。
図7】実験例3の半導体基体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
上述したように、基板と窒化物半導体からなる機能層との間に組成の異なる窒化物半導体層を積層したバッファ層を配置することが従来行われている一方で、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設け、応力をコントロールし、クラック抑制、結晶性向上を図ることも行われていた。
しかしながら、各層間に組成傾斜層を設ける場合、それが無い場合と比較し成長時間が延びる問題が有る。
そこで、組成傾斜層の成長時間をできるだけ短縮するために、本発明者らは、組成傾斜層の格子定数変化量を大きくして組成傾斜層を薄くすることを検討した。
【0028】
まず、実験例1として、図5に示すように、多層バッファ層において、各層間に組成傾斜層を設けない半導体基体100を3枚作製した。なお、半導体基体100は、単結晶シリコンからなる基板112と、基板112上に設けられたバッファ層113と、バッファ層113上に設けられたGaNからなるチャネル層126と、チャネル層126上に設けられたAlGaNからなるバリア層127を有している(図5(a)参照)。バッファ層113は、AlN層114とGaN層115が繰り返し積層されている構造を有している(図5(b)参照)。
なお、AlN層114は上述した第1の層に相当し、GaN層115は上述した第2の層に相当する。
【0029】
作製した実験例1の半導体基体100を用いて、0002方向のGaN層(チャネル層)の結晶性をX線回折を用いて測定した。また、実験例1の半導体基体100の表面を観察することによりクラックの長さを測定した。その結果を表1に示す。
【0030】
次に、実験例2として、図6に示すように、多層バッファ層において、各層間に組成傾斜層を設けた半導体基体101を3枚作製した。なお、実験例2の半導体基体101は、実験例1の半導体基体100とほぼ同様の構成であるが、AlN層114上のGaN層115との間に第1の組成傾斜層116を設け、GaN層115上のAlN層114との間に第2の組成傾斜層117を設けた点で、実験例1の半導体基体100と異なっている(図6(b)参照)。ここで、第1の組成傾斜層116はAlとAlより格子定数が大きいGaを含み、上方に向かってAlの組成比が徐々に小さくなり、かつ、上方に向かってGaの組成比が徐々に大きくなっている。また、第2の組成傾斜層117はAlとGaを含み、上方に向かってAlの組成比が徐々に大きくなり、かつ、上方に向かってGaの組成比が徐々に小さくなっている。第1の組成傾斜層116と第2の組成傾斜層117は同じ厚さとし、格子定数変化量をそれぞれ0.88%/nmとして、0.7%/nmより大きくした。
【0031】
作製した実験例2の半導体基体101を用いて、実験例1と同様にして結晶性、クラックの長さを測定した。その結果を表1に示す。
【0032】
次に、実験例3として、図7に示すように、多層バッファ層において、各層間に組成傾斜層を設けた半導体基体102を3枚作製した。なお、実験例3の半導体基体102は、実験例1の半導体基体100とほぼ同様の構成であるが、AlN層114上のGaN層115との間に第1の組成傾斜層116’を設け、GaN層115上のAlN層114との間に第2の組成傾斜層117’を設けるとともに、第2の組成傾斜層117’を第1の組成傾斜層116’より厚くした点で、実験例1の半導体基体100と異なっている(図7(b)参照)。ここで、第1の組成傾斜層116’の格子定数変化量を第2の組成傾斜層117’の格子定数変化量より大きい値とし、第2の組成傾斜層117’の格子定数変化量を0.88%/nmとして、いずれも0.7%/nmより大きくした。
【0033】
作製した実験例3の半導体基体102を用いて、実験例1と同様にして結晶性、クラックの長さを測定した。その結果を表1に示す。なお、実験例3の半導体基体102においては、クラックが半導体基体の全面に生成されたため、X線回析による結晶性の測定ができなかったが、結晶性はかなり低いものと推定される。
【0034】
【表1】
【0035】
表1からわかるように、組成傾斜層の格子定数変化量を0.7%/nmより大きくした場合、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設けた実験例2、3の半導体基体は、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設けない実験例1の半導体基体と比較して、結晶性は低下し、クラックの長さが増加した。特に第2の組成傾斜層117’を第1の組成傾斜層116’より厚くした実験例3では、結晶性が顕著に劣化し、クラックは全面に発生した。
【0036】
上記の実験結果より、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層が有る場合、その組成傾斜層の格子定数変化量を0.7%/nmより大きくすると(すなわち、組成傾斜層を薄くすると)、結晶性劣化が生じ、クラックが長くなり、ウェーハの歩留まり及びこのウェーハを用いて作製したデバイス歩留まりが低下する事が分かった。このため、組成傾斜層の格子定数変化量を0.7%/nmより大きくした場合では、特許文献2の構造(すなわち、多層バッファ層においてGaN層とAlN層との間に組成傾斜層を設ける構造)、及び、特許文献3の構造(すなわち、多層バッファ層においてGaN層とAlN層との間に組成傾斜層を設けるとともに、GaN層上のAlN層との間の組成傾斜層の厚さをAlN層上のGaN層との間の組成傾斜層より厚くする構造)は適用できない事が分かった。
【0037】
そこで、本発明者らは、多層バッファ層の各層間に格子定数変化量が0.7%/nmより大きい組成傾斜層を設けた場合でも、結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制できる半導体基体について鋭意検討を重ねた。
その結果、第1の層上の第2の層との間に設けられる第1の組成傾斜層を、第2の層上の第1の層との間に設けられる第2の組成傾斜層より厚くすることで、バッファ層上に設けられるチャネル層に圧縮応力を加えることができ、これによりチャネル層の結晶欠陥を低減でき、多層バッファ層の各層間に格子定数変化量が0.7%/nmより大きい組成傾斜層を設けた場合でも、結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0038】
まず、図1を参照しながら、本発明の半導体基体の実施形態の一例について説明する。
【0039】
図1に示すように、半導体基体10は、基板12と、基板12上に設けられ窒化物半導体からなるバッファ層13と、バッファ層13上に設けられ窒化物半導体からなるチャネル層26を備えている。
バッファ層13は、第1材料を含む窒化物系化合物半導体の第1の層14と、第1材料よりも格子定数が大きい第2材料を含む窒化物系化合物半導体の第2の層15とが繰り返し設けられた層を含むものである。
基板12は、例えば、シリコン基板又はSiC基板等のシリコン系基板とすることができ、チャネル層26は第2材料を含む窒化物系化合物半導体からなり、例えば、GaN層とすることができる。
このバッファ層13において、第1の層14上の第2の層15との間の少なくとも1つには、上方に向かって第2材料の組成比が徐々に大きくなり、上方に向かって第1材料の組成比が徐々に小さくなる、窒化物系化合物半導体の第1の組成傾斜層16を有し、第2の層15上の第1の層14との間の少なくとも1つには、上方に向かって第1材料の組成比が徐々に大きくなり、上方に向かって前記第2材料の組成比が徐々に小さくなる、窒化物系化合物半導体の第2の組成傾斜層17を有している。第1の組成傾斜層16は第2の組成傾斜層17より厚いものである(図1(b)参照)。
なお、第1及び第2の組成傾斜層16、17において、第1材料の組成比の最大値は、第1の層14の第1材料の組成比以下であり、かつ、第2材料の組成比の最大値は、第2の層15の第2材料の組成比以下である。
【0040】
なお、半導体基体10は、さらに、チャネル層26上にバリア層27を含むことができ、チャネル層26とバリア層27とで、能動層29を形成することができる。このバリア層27は、例えば、AlGaN層とすることができる。
【0041】
上記のように、第1の組成傾斜層16を第2の組成傾斜層17より厚くすることで、バッファ層13上に設けられるチャネル層26に圧縮応力を加えることができ、これによりチャネル層の結晶欠陥を低減でき、格子定数変化量が0.7%/nmより大きい組成傾斜層を設けた場合でも、結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。
【0042】
ここで、第1の組成傾斜層を第2の組成傾斜層より厚くすることで、チャネル層の結晶欠陥を低減できる、推定されるメカニズムについて、以下に説明する。
【0043】
格子定数が小さい第1の層(以下、AlN層を例とする)上に格子定数が大きい第2の層(以下、GaN層を例とする)を成長させる際にその間の第1の組成傾斜層を、GaN層上のAlN層との間の第2の組成傾斜層より厚く挿入すると、上層のGaN層はAlN層によりコヒーレントに成長し易くなる(すなわち、GaN層の格子定数がAlN層側に小さくなる)。これは、組成傾斜層が厚いという事はその格子定数変化量が小さい(すなわち、より緩やかに格子定数が変化する)のでミスフィット転位発生による格子緩和がより起こりにくくなるためである。一方で、GaN層上にAlN層を成長させる際にその間の第2の組成傾斜層を上記の第1の組成傾斜層より薄く挿入すると、上層のAlN層はGaN層にコヒーレントに成長しにくくなる(すなわち、AlN層の格子定数がそれほどGaN層側に大きくならない)。これは、組成傾斜層が薄いという事はその格子定数変化量が大きい(すなわち、より急激に格子定数が変化する)のでミスフィット転位発生による格子緩和がより起こり易くなるためである。そのため、バッファ層の上層の能動層のGaN層に生じる圧縮応力が大きくなり、結果として、チャネル層の結晶性の劣化、クラックの伸長の抑制が出来ると推定される。
【0044】
逆にGaN層上にAlN層を成長させる際にその間に第2の組成傾斜層を第1の組成傾斜層より厚く挿入すると、上層のAlN層がGaN層によりコヒーレントに成長する(すなわち、AlN層の格子定数がGaN層側に大きくなる)。また、AlN層上にGaN層を成長させる際にその間の第1の組成傾斜層を第2の組成傾斜層より薄く挿入すると、上層のGaN層はAlN層にコヒーレントに成長しにくくなる(すなわち、GaN層の格子定数がそれほどAlN層側に小さくならない)。そのため、バッファ層の上層の能動層のGaN層を成長させる際の圧縮応力が弱まり、結果として、結晶性の劣化、クラックの伸長(品質低下)となると推測される。これは格子定数変化量が大きい(すなわち、格子定数変化量が0.7%/nmより大きい)場合により顕著になると推測される。
【0045】
半導体基体10において、第1の組成傾斜層16の厚みに対する平均組成変化率は、第2の組成傾斜層17の厚みに対する平均組成変化率より小さいことが好ましい。
第1の組成傾斜層16の平均組成変化率と、第2の組成傾斜層17の平均組成変化率が、このような関係を有していれば、チャネル層26において効果的に結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。
【0046】
半導体基体10において、第1の層14上の第2の層15との間の全てにおいて、第1の組成傾斜層16を有し、第2の層15上の第1の層14との間の全てにおいて、第2の組成傾斜層17を有することが好ましい。
第1の組成傾斜層16及び第2の組成傾斜層17がこのように設けられていることにより、チャネル層26において確実に結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。
【0047】
半導体基体10において、第1材料及び第2材料を、B、Al、Ga、Inからなるグループの中から選択することができる。
特に、第1材料としてAl、第2材料としてGaを好適に用いることができる。
【0048】
半導体基体10において、第1の層14をAlN層とし、第2の層15をGaN層とすることができる。
【0049】
バッファ層13を構成する第1の層14及び第2の層15として、上記のものを好適に用いることができる。
【0050】
第1の層14をAlN層とし、第2の層15をGaN層としたときに、前記第1及び第2の組成傾斜層の前記第1材料の平均組成変化割合が29%/nmより大きく、75%/nm以下であることが好ましい。
【0051】
第1及び第2の組成傾斜層の中で第1材料と第2材料の間で変化する第1材料の平均組成変化割合が29%/nmより大きければ、第1及び第2の組成傾斜層をより薄くできるので、第1及び第2の組成傾斜層の成膜時間を短くすることができ、それによりバッファ層の製造時間を短縮することができる。結果として、半導体基体を安価に構成することができる。
また、第1及び第2の組成傾斜層の中で第1材料と第2材料の間で変化する第1材料の平均組成変化割合が75%/nm以下であれば、結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制する効果を維持できる。
なお、第1及び第2の組成傾斜層の上面側と下面側における第1材料の組成変化割合が、第1及び第2の組成傾斜層の中央側における第1材料の組成変化割合よりも小さいことがより望ましい。これにより、より効果的に結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制できる。
【0052】
次に、図2を参照しながら、本発明の半導体基体の実施形態の別の例について説明する。
【0053】
図2の半導体基体10’は、バッファ層13の最上層に第1の組成傾斜層16が設けられ、この最上層の第1の組成傾斜層16の下には、第1の層14が設けられている点で図1の半導体基体10と異なっている(図2(b)参照)。
バッファ層の最上部をこのような構成とすることにより、チャネル層に生じる圧縮応力が高まり、より効果的にチャネル層の結晶性劣化やクラックが長くなることを抑制することができる。
【0054】
次に、図3を参照しながら、本発明の半導体装置の実施形態の一例について説明する。
【0055】
図3に示す半導体装置11は、図1の半導体基体10のチャネル層26上に、例えば、バリア層27を介して電極(例えば、ソース電極30、ゲート電極31、ドレイン電極32)が設けられたものである。
【0056】
半導体装置11において、例えば、ソース電極30、ドレイン電極32は、ソース電極30からチャネル層26内に形成された2次元電子ガス28を介して、ドレイン電極32に電流が流れるように配置することができる。
ソース電極30とドレイン電極32との間に流れる電流は、ゲート電極31に印加される電位によってコントロールすることができる。
【0057】
このような半導体装置であれば、チャネル層26において結晶性劣化やクラックが長くなることが抑制された半導体装置とすることができるので、これにより半導体装置の歩留まりや特性を向上させることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
図1に示すような半導体基体10を3枚作製した。ただし、基板12はシリコン単結晶基板とし、チャネル層26はGaNからなるものとし、バリア層27はAlGaNからなるものとした。また、バッファ層13において、第1の層14はAlN層とし、第2の層15はGaN層とし、第1の組成傾斜層16及び第2の組成傾斜層17は、AlGa1−xN(0≦x≦1)で表される組成を有し、バッファ層13中のAlの含有率xの分布は、図4に示すようなものとした。図4において、d1は第1の組成傾斜層16の厚さであり、d2は第2の組成傾斜層17の厚さであり、d1>d2なる関係を有している。
第1の組成傾斜層16の格子定数変化量は0.88%/nmであってその厚みは2.8nmとし、第2の組成傾斜層17の格子定数変化量は第1の組成傾斜層16の格子定数変化量よりも大きく、その厚みは0.25nm以上2.8nm未満とし、いずれの格子定数変化量も0.7%/nmより大きくした。
また、第1の層14上の第2の層15との間の全てにおいて、第1の組成傾斜層16を設け、第2の層15上の第1の層14との間の全てにおいて、第2の組成傾斜層を設けた。
【0060】
作製した実施例1の半導体基体を用いて、実験例1と同様にして結晶性、クラックの長さを測定した。その結果を表2に示す。
【0061】
(実施例2)
実施例1と同様にして半導体基体を3枚作製した。ただし、第1の組成傾斜層16の格子定数変化量は1.76%/nmであってその厚みは1.4nmとし、第2の組成傾斜層17の格子定数変化量は第1の組成傾斜層16の格子定数変化量よりも大きく、その厚みは0.25nm以上1.4nm未満とし、いずれの格子定数変化量も1.4%/nm以上とした。
【0062】
作製した実施例2の半導体基体を用いて、実験例1と同様にして結晶性、クラックの長さを測定した。その結果を表2に示す。
また、前述の実験例1〜3の測定結果についても、比較のため表2に再掲する。
【0063】
【表2】
【0064】
表2からわかるように、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設けるとともに、第1の組成傾斜層を第2の組成傾斜層より厚くし、組成傾斜層の格子定数変化量を0.7%/nmより大きくした実施例1では、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設けない実験例1と比較して結晶性が高くなり、クラック長も短くなった。また、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設けるとともに、第1の組成傾斜層を第2の組成傾斜層より厚くし、組成傾斜層の格子定数変化量を1.4%/nm以上とした実施例2では、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設けない実験例1と比較して結晶性が高くなり、クラック長は同等であった。特に、組成傾斜層の格子定数変化量を1.4%/nm以上とした実施例2では、組成傾斜層の格子定数変化量を0.7%/nmより大きくした実施例1と比較して、結晶性がより高くなっていた。
このように、多層バッファ層の各層間に組成傾斜層を設けるとともに、第1の組成傾斜層を第2の組成傾斜層より厚くすれば、組成傾斜層の格子定数変化量を0.7%/nmより大きくした場合でも、結晶性の劣化、クラックが長くなることを抑制できることが確認できた。
【0065】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7