特許第6653877号(P6653877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 名古屋工業大学の特許一覧 ▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6653877
(24)【登録日】2020年1月31日
(45)【発行日】2020年2月26日
(54)【発明の名称】Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20200217BHJP
   B01J 35/08 20060101ALI20200217BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20200217BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20200217BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20200217BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20200217BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20200217BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20200217BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20200217BHJP
【FI】
   B22F1/02 A
   B01J35/08 B
   B01J23/89 M
   B22F1/00 K
   B22F1/00 M
   H01M4/86 M
   H01M4/92
   H01M4/90 M
   H01M8/10
   !C22C19/03 G
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-64650(P2016-64650)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-179412(P2017-179412A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 怜雄奈
(72)【発明者】
【氏名】日原 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 道久
(72)【発明者】
【氏名】石河 瞭一
(72)【発明者】
【氏名】服部 達哉
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 賢信
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−030882(JP,A)
【文献】 特開2005−135900(JP,A)
【文献】 特開平08−212827(JP,A)
【文献】 特開2007−332405(JP,A)
【文献】 特開2000−345332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
B22F 9/00−9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt、Zn及びNiで構成されるPt−Zn−Ni系コアシェル粒子であって、
主としてPt及びNiで構成されるコア粒子と、
前記コア粒子を被覆する、主としてZn及びNiで構成されるシェル層と、
を備えた、Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子。
【請求項2】
前記シェル層がPtを含まない、請求項1に記載のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子。
【請求項3】
前記シェル層がPtをさらに含むが、前記コア粒子が前記シェル層よりもPtに富んでいる、請求項1に記載のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子。
【請求項4】
前記Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子が1〜20nmの粒子径を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子。
【請求項5】
前記Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子の全体におけるPt、Zn及びNiの量に対するPtの割合が30〜70原子%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子。
【請求項6】
前記Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子の全体におけるPt、Zn及びNiの量に対するNiの割合が20〜60原子%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子。
【請求項7】
前記Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子の全体におけるPt、Zn及びNiの量に対するZnの割合が10〜50原子%である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子。
【請求項8】
固体高分子形燃料電池の正極若しくは負極、アルカリ燃料電池の正極若しくは負極、又は金属空気電池の正極に触媒として用いられる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白金(Pt)は、固体高分子形燃料電池(PEFC)、アルカリ燃料電池(AFC)及び金属空気電池における電極触媒材料として機能する。具体的には、固体高分子形燃料電池(PEFC)、アルカリ燃料電池(AFC)及び金属空気電池の正極において、及び固体高分子形燃料電池(PEFC)及びアルカリ燃料電池(AFC)の負極において、Ptが触媒として使用される。
【0003】
ところで、Ptは高価であるため、使用量の低減が求められている、近年、Pt使用量の低減を図るべく、非Pt原子で構成されるコア粒子の表面にPt原子を覆ったコアシェル粒子の研究が行われている。これは、コア(核)を安価な元素である非Pt元素で構成し、かつ、触媒機能に必要な表面(シェル)をPtで構成することで、Ptの使用量を低減させるというコンセプトに基づくものである。こうすることで、純Pt粒子よりも安価に、触媒活性の高い粒子を得ることができる。
【0004】
例えば、非特許文献1(Vojuslav R. Stamenkovic et al., Science, 315, 493-497, 2007)には、PtNi(111)表面を有するコアシェル粒子が開示されている。そして、このPtNi(111)表面がPt(111)表面よりも酸素還元活性(ORR)に関して10倍以上の活性を有し、かつ、ポリマー電解質膜燃料電池(PEMFC)用の現状のPt/C触媒よりも90倍以上の活性を有することが記載されている。また、非特許文献2(Peter Strasser et al., Nature Chemistry, 2, 454-460, 2010)には、脱合金化されたコアシェル燃料電池触媒における活性の格子歪制御が検討されており、Ptリッチのシェルが、Ptのバンド構造のシフトと酸化体種の化学吸着の弱化とをもたらす圧縮歪を呈し、この知見が電極触媒活性の調整に応用可能であることが示唆されている。
【0005】
ところで、非特許文献3(Yuichiro Kurokawa et al., Journal of Applied Physics 113, 174302 (2013))には、プラズマ・ガス凝縮クラスター堆積(PGCCD)装置を用いてナノサイズのコアシェルクラスターを作製できることが述べられており、PGCCD装置によりSn1−x/Siクラスター堆積フィルムを合成したことが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Vojuslav R. Stamenkovic et al., Science, 315, 493-497, 2007
【非特許文献2】Peter Strasser et al., Nature Chemistry, 2, 454-460, 2010
【非特許文献3】Yuichiro Kurokawa et al., Journal of Applied Physics 113, 174302 (2013)
【発明の概要】
【0007】
前述のとおり、従来のコアシェル粒子は、非Pt原子で構成されるコアを、Pt原子を含むシェルで覆ったものであった。しかしながら、より低いPt使用量でありながら、より高い触媒活性の高い粒子が提供できればより望ましい。
【0008】
本発明者らは、今般、Pt、Zn及びNiの3元素を用いてコアシェル粒子を構成すること、とりわけシェル層を主としてZn及びNiで構成し、かつ、コア粒子を主としてPt及びNiで構成することで、低減されたPt使用量でありながら、純Pt粒子と同等以上の触媒活性を呈することができるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、低減されたPt使用量でありながら、純Pt粒子と同等以上の触媒活性を呈することが可能なコアシェル粒子を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、
Pt及びNiを含むコア粒子と、
前記コア粒子を被覆する、Zn及びNiを含むシェル層と、
を備えた、Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子の模式断面図である
図2】プラズマ・ガス凝縮クラスター堆積(PGCCD)装置の基本構成を模式的に示す図である。
図3A】例1において作製されたPt−Zn−Ni系コアシェル粒子(Pt:63原子%)と例2(比較)において作製された純Pt粒子(Pt:100原子%)の、固体高分子形燃料電池の電流−電圧(I−V)特性を示す図である。
図3B】例1において作製されたPt−Zn−Ni系コアシェル粒子(Pt:63原子%)と例2(比較)において作製された純Pt粒子(Pt:100原子%)の、固体高分子形燃料電池の電流−出力(I−P)特性を示す図である。
図4】例3において作製されたPt−Zn−Ni系コアシェル粒子(Pt:40原子%)の対流ボルタンメトリ測定結果を示す図である。
図5】例4(比較)において作製された純Pt粒子(Pt:100原子%)の対流ボルタンメトリ測定結果を示す図である。
図6A】例5で作製されたPt−Zn−Ni系コアシェル粒子(Pt:31原子%)のSTEM像である。
図6B図6Aに示されるSTEM像に対応する、STEM−EDXによるNi、Pt及びZnの元素マッピング像である。
図6C図6Aに示されるSTEM像に対応する、STEM−EDXによるNi単独の元素マッピング像である。
図6D図6Aに示されるSTEM像に対応する、STEM−EDXによるPt単独の元素マッピング像である。
図6E図6Aに示されるSTEM像に対応する、STEM−EDXによるZn単独の元素マッピング像である。
図7A】例5で作製されたPt−Zn−Ni系コアシェル粒子(Pt:31原子%)の別のSTEM像である。
図7B図7Aに示されるSTEM像に対応する、STEM−EDXによるNi、Pt及びZnの元素マッピング像である。
図7C図7Aに示されるSTEM像に対応する、STEM−EDXによるNi単独の元素マッピング像である。
図7D図7Aに示されるSTEM像に対応する、STEM−EDXによるPt単独の元素マッピング像である。
図7E図7Aに示されるSTEM像に対応する、STEM−EDXによるZn単独の元素マッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子
図1に本発明のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子10(以下、コアシェル粒子10という)の模式断面図を示す。図1に模式的に示されるように、コアシェル粒子10は、コア粒子12とコア粒子を被覆するシェル層14とを備える。コア粒子12はPt及びNiを含む。また、シェル層14はZn及びNiを含む。したがって、コアシェル粒子10は全体としてPt−Zn−Ni系の基本組成を有する、すなわちPt、Zn及びNiを基本成分として含む、典型的にはPt、Zn及びNiで構成されるといえる。このようにPt、Zn及びNiの3元素を用いてコアシェル粒子を構成すること、とりわけシェル層を主としてZn及びNiで構成し、かつ、コア粒子を主としてPt及びNiで構成することで、低減されたPt使用量でありながら、純Pt粒子と同等以上の触媒活性を呈することができる。前述のとおり、従来のコアシェル粒子は、非Pt原子で構成されるコアを、Pt原子を含むシェルで覆ったものであった。これに対し、本発明のコアシェル粒子はPt原子を、粒子表面を構成するシェルよりも、むしろシェルに取り囲まれたコア内にリッチに含有させる。こうすることで、予想外にも純Pt粒子と同等以上の触媒活性を呈することができる。しかも、Pt原子はシェルに必ずしも存在する必要はなく、コアにさえ存在していればよい。それ故、Pt使用量を低減でき、コスト的にも有利となる。つまり、本発明の粒子の特徴は、従来のコアシェル粒子とは異なりPtが表面に無くても触媒活性が高く、しかもその触媒活性が純Ptと同等以上となることにある。
【0013】
コア粒子12はPt及びNiを含み、典型的には主としてPt及びNiで構成される。コア粒子12はZnをさらに含むものであってよい。実際、プラズマ・ガス凝縮クラスター堆積(PGCCD)装置を用いて作製されたコアシェル粒子10においては、コア粒子12はZnを不可避的に含有しうる。したがって、コア粒子12単体に着目した場合、Znは不可避元素ないし不可避不純物ということもできる。コアシェル粒子10の粒子径は1〜20nmが好ましく、より好ましくは1〜15nm、さらに好ましくは1〜5nmである。
【0014】
シェル層14は、コア粒子12を被覆する層である。シェル層14はコア粒子12を完全に被覆していてよいし、部分的に被覆していてもよい。シェル層14がコア粒子12を完全でなくとも概ね全体的に被覆していれば十分である。シェル層14の厚さは0.25〜5nmが好ましく、より好ましくは0.25〜4nm、さらに好ましくは0.25〜1.5nmである。
【0015】
シェル層14は、Zn及びNiを含む。したがって、Niはコア粒子12及びシェル層14の両方に含まれる。
【0016】
シェル層14はPtを含まないのが好ましい。あるいは、シェル層14はPtを含むものであってもよいが、コア粒子12がシェル層14よりもPtに富んでいるものであればよい。いずれにしても、Ptの使用量を大幅に低減しながらも、触媒活性を向上させることができる。
【0017】
コアシェル粒子10の粒子径は1〜20nmが好ましく、より好ましくは1〜15nm、さらに好ましくは1〜5nmである。このような範囲内であると、PGCCD装置等を用いたスパッタリング技術で作製しやすい上に、優れた触媒活性をより実現しやすい。
【0018】
Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子10の全体量に対するPtの割合は30〜70原子%であるのが好ましく、より好ましくは30〜65原子%であり、さらに好ましくは30〜50原子%である。Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子10の全体量に対するNiの割合は20〜70原子%であるのが好ましく、より好ましくは20〜60原子%であり、さらに好ましくは20〜50原子%である。Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子10の全体量に対するZnの割合は10〜50原子%であるのが好ましく、より好ましくは10〜40原子%であり、さらに好ましくは10〜30原子%であり、特に好ましくは10〜20原子%である。
【0019】
本発明のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子は、優れた触媒活性を発揮できることから、固体高分子形燃料電池の正極若しくは負極、アルカリ燃料電池の正極若しくは負極、又は金属空気電池の正極に触媒として用いられるのが好ましい。
【0020】
製造方法
本発明のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子はいかなる方法により製造されたものであってもよいが、好ましくは、プラズマ・ガス凝縮クラスター堆積(PGCCD)装置を用いて製造することができる。PGCCD装置は、後述する図2に例示されるように、直流マグネトロンスパッタリング方式の原料気化装置と、希ガス中凝縮装置とを組み合せたナノクラスター試料作製装置である。PGCCD装置を用いたクラスターないし粒子の製造方法は公知であり、例えば非特許文献3(Yuichiro Kurokawa et al., Journal of Applied Physics 113, 174302 (2013))に記載されており、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。非特許文献3や図2に記載されるようなPGCCD装置を用いたクラスターないし粒子の製造において、Ptターゲットと、Ni−Zn合金ターゲットとを対向させてスパッタリングチャンバ内に配置してスパッタリングを行い、基材上に膜状に堆積させることにより、本発明のコアシェル粒子を製造することができる。スパッタリングの方式は直流マグネトロンスパッタリングが好ましい。PGCCD装置を用いた方法により本発明のPt−Zn−Ni系コアシェル粒子が形成されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、Ptのように融点が高い元素は表面エネルギーが大きく、それ故、表面を減らすようにPtが粒子の内側に位置する傾向があるためではないかと推察される。
【実施例】
【0021】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0022】
例1
本例ではコアシェル粒子を作製し、固体高分子形燃料電池の燃料極触媒としてのコアシェル粒子の特性を調べた。具体的には以下のとおりである。
【0023】
(1)コアシェル粒子の製造
図2に示される構成を有するプラズマ・ガス凝縮クラスター堆積(PGCCD)装置(株式会社日本ビーテック製)を用意した。このPGCCD装置100は、スパッタリングチャンバ102と、クラスター成長室104と、堆積チャンバ106とを備える。スパッタリングチャンバ102は、Arガス及び/又はHeガスを供給可能なガス供給口108と、上下に対向して配置される2つのターゲットホルダ112,114とを備える。クラスター成長室104は、スパッタリングチャンバ102と連通する成長ダクト116と、成長ダクト116の先端のノズル118と、ノズル118と対向して設けられるスキマー120とを備え、コンパウンド分子ポンプ(CMP)とメカニカルブースターポンプ(MBP)に連結され減圧可能とされる。堆積チャンバ106は、試料ホルダ122を備え、ターボ分子ポンプ(TMP)に連結され減圧可能とされる。試料ホルダ122は、スキマー120から放射される原子が堆積可能な位置、すなわちスキマー120と対向しかつ所定距離離れた位置に設けられる。
【0024】
スパッタリングチャンバ102内の上側のターゲットホルダ112にPtターゲットを、下側のターゲットホルダ114にNi−Zn合金ターゲット(組成:Ni−40原子%Zn)を固定した。こうしてPtターゲットとNi−Zn合金ターゲットを対向させて配置した。PGCCD装置100内を減圧し、スパッタ出力:250W(Ptターゲットに対して)及び150W(Ni−Zn合金ターゲットに対して)、Arガス流量:400sccmの条件で、マグネトロンスパッタリングを行い、試料ホルダ上にPt原子、Ni原子及びZn原子のナノ粒子を堆積させてコアシェル粒子を得た。
【0025】
試料ホルダ122上にセットしたCuグリッド上に堆積したコアシェル粒子をTEM観察用サンプルとした。STEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析器)(製品名:JEM−ARM200F、日本電子社製)により、コアシェル粒子に対して組成分析を行った。その結果、Pt及びNiを含むコア粒子と、Zn及びNiを含むシェル層とが確認された。また、コアシェル粒子の全体組成はPt63Ni25Zn12であった。
【0026】
(2)固体高分子形燃料電池の電流−電圧(I−V)特性
上記得られたPt−Zn−Ni系コアシェル粒子(組成:Pt63Ni25Zn12)を用いて、以下に示される燃料極(触媒及び集電体)、電解質及び空気極(触媒及び集電体)を用いて固体高分子形燃料電池の測定系を構成した。
<測定系>
‐燃料極
触媒:Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子(組成:Pt63Ni25Zn12
集電体:カーボンペーパー(撥水加工が施されたもの)
‐電解質:Nafion(登録商標)(和光純薬工業社製)
‐空気極:
触媒:純Pt
集電体;カーボンペーパー(撥水加工が施されたもの)
【0027】
上記測定系を用いて以下の条件で固体高分子形燃料電池を作動させ、電流−電圧(I−V)特性と電流−出力(I−P)特性を測定した。測定結果は図3A及び3Bに示されるとおりであった。
<測定条件>
‐燃料極:純Hガス/流量:100sccm
‐空気極:純O/流量:100sccm
【0028】
例2(比較)
Ni−40原子%Znターゲットの代わりにPtターゲットを250Wのスパッタ出力で用いたこと以外は例1と同様にして、純Pt粒子(組成:Pt100%)を作製した。次いで、燃料極触媒として上記純Pt粒子を用いたこと以外は例1と同様にして、固体高分子形燃料電池の電流−電圧特性(I−V)と電流−出力(I−P)特性の測定を行った。測定結果は図3A及び3Bに示されるとおりであった。
【0029】
図3A及び3Bに示される結果から、Pt63%の例1のコアシェル粒子は、Pt100%の例2の粒子よりもPt含有量が少ないにも関わらず、I−V特性及びI−P特性がPt100%の例2よりも良好であった(すなわち同じ電流密度でのセル電圧及び出力密度が同等以上であった)。
【0030】
例3
本例ではコアシェル粒子を作製し、金属空気電池の正極触媒としてのコアシェル粒子の特性を調べた。具体的には以下のとおりである。
【0031】
(1)コアシェル粒子の製造
例1と同様にして、Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子を製造した。試料ホルダ上に堆積したコアシェル粒子をサンプルとして採取し、例1と同様にしてコアシェル粒子に対して組成分析を行った。その結果、Pt及びNiを含むコア粒子と、Zn及びNiを含むシェル層とが確認された。また、コアシェル粒子の全体組成はPt40Ni42Zn18であった。
【0032】
(2)正極触媒の触媒活性の対流ボルタンメトリ測定
上記得られたPt−Zn−Ni系コアシェル粒子(組成:Pt40Ni42Zn18)を用いて、以下に示される作用極、電解質、対極及び参照極を用いて電気化学測定系を構成した。
<測定系>
‐作用極(正極触媒):コアシェル粒子(組成:Pt40Ni42Zn18
‐電解質:1M KOH水溶液
‐対極:Pt
‐参照極:Hg/HgO
【0033】
<測定条件>
上記測定系を用いて以下の条件で正極触媒の触媒活性の対流ボルタンメトリ測定を行った。測定結果は図4に示されるとおりであった。
‐電位範囲:+0.1〜−0.8V(vsHg/HgO)
‐作用極回転数:500〜4000rpm(500rpm刻みで変化させた)
【0034】
例4(比較)
Ni−40原子%Znターゲットの代わりにPtターゲットを250Wのスパッタ出力で用いたこと以外は例1と同様にして、純Pt粒子(組成:Pt100%)を作製した。次いで、作用極(正極触媒)として上記純Pt粒子を用いたこと以外は例3と同様にして電気化学測定系を構成して、正極触媒の触媒活性の対流ボルタンメトリ測定を行った。測定結果は図5に示されるとおりであった。例3と同様の評価を行った。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示される結果から分かるように、Pt40%の例3のコアシェル粒子は、Pt100%の例4の粒子よりもPt含有量が少ないにも関わらず、触媒活性はPt100%の例4と同程度であった。
【0037】
例5
本例ではコアシェル粒子を作製し、そのSTEM−EDXによる組成分析を行った。具体的には以下のとおりである。
【0038】
(1)コアシェル粒子の製造
例1と同様にして、Pt−Zn−Ni系コアシェル粒子を製造した。
【0039】
(2)STEM−EDXによる組成分析
STEM−EDX(走査透過型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光分析器)(製品名:JEM−ARM200F、日本電子社製)により、コアシェル粒子に対して組成分析を行った。その結果、図6A〜6B及び7A〜7Eに示されるように、Pt及びNiを含むコア粒子と、Zn及びNiを含むシェル層とが確認された。また、コアシェル粒子の全体組成はPt31Ni52Zn17であった。図6Aにコアシェル粒子のSTEM−EDX像を、図6B、6C、6D及び6Eに、図6Aに示されるSTEM像に対応する、Ni、Pt及びZnの元素マッピング像、Ni単独の元素マッピング像、Pt単独の元素マッピング像、及びZn単独の元素マッピング像をそれぞれ示す。また、図7Aにコアシェル粒子の別のSTEM−EDX像を、図7B、7C、7D及び7Eに、図7Aに示されるSTEM像に対応する、Ni、Pt及びZnの元素マッピング像、Ni単独の元素マッピング像、Pt単独の元素マッピング像、及びZn単独の元素マッピング像をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0040】
10 コアシェル粒子
12 コア粒子
14 シェル層


図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E