(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
質量%で、C:0.6〜0.9%、Si:0.7〜0.9%、Mn:0.1〜0.6%、Cr:4.0〜6.5%未満、(Mo+W/2):2.0超〜3.9%、(V+Nb/2):0.1〜0.6%、および、N:100超〜500ppmを有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼で、この鋼の焼入れ時の残留オーステナイトの安定性を表す値であるRはR=51.4×C(%)−4.2×Cr(%)−44.4×V(%)+0.1×N(ppm)で示され、R:15.0〜31.0であり、硬さ:63HRC以上で、500000μm2中の一次炭化物の個数:200個以上で、かつ、500000μm2中の一次炭化物の面積率:0.5〜3.0%であることを特徴とする高硬度で高靱性な焼入焼戻しされた冷間工具鋼。
質量%で、C:0.6〜0.9%、Si:0.7〜0.9%、Mn:0.1〜0.6%、Cr:4.0〜6.5%未満、(Mo+W/2):2.0超〜3.9%、(V+Nb/2):0.1〜0.6%、および、N:100超〜500ppmを有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼で、この鋼の焼入れ時の残留オーステナイトの安定性を表す値であるRはR=51.4×C(%)−4.2×Cr(%)−44.4×V(%)+0.1×N(ppm)で示され、R:15.0〜31.0であり、硬さ:63HRC以上で、500000μm2中の一次炭化物の個数:200個以上で、かつ、500000μm2中の一次炭化物の面積率:0.5〜3.0%であり、さらに平均炭化物面積は25μm2以下であることを特徴とする高硬度で高靱性な焼入焼戻しされた冷間工具鋼。
【背景技術】
【0002】
近年、冷間加工技術の発展に伴って、より高硬度の被加工材を冷間で加工したり、その加工量が増大するなどして、冷間加工条件が過酷化している。そのため、冷間工具鋼に対しては、63HRC以上の硬さがあり、かつ、靭性の高い材料が求められている。また、冷間工具鋼は焼入れ後に500℃以上の焼戻しを行ったとき、焼入れ前の寸法に比べて膨張(以下「変寸」と称する。)するため、仕上加工が必要であり、経済性の観点から、この変寸が小さい方が良い。
【0003】
ところで、冷間工具鋼の鋼材としてHRC63を超える硬さを有する材料として、例えば、JISで規定される高速度工具鋼のSKH51が挙げられ、また、加工硬化の大きいステンレス鋼またはHRC40程度の調質鋼などの難加工材の転造に対する転造ダイス用鋼が提案されており(例えば、特許文献1参照。)、また、C、Mo、W、V,Coなどの合金元素を多量に加えて、多量の硬質炭化物を析出させることで、高硬度を得ており、低温焼入れが可能な鋼が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、これらの鋼は粗大な一次炭化物が多く、そのために靭性および疲労強度が低いだけでなく、金型材料費が高くなる問題がある。
【0004】
さらに、直径換算して直径が10μm以上の炭化物の個数と介在物の清浄度を抑制した高い硬さと高い靱性をあわせ備えた、精密加工用の工具鋼が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、この鋼は炭窒化物が疎になる部分が多いために、炭窒化物によるピン止めが働きにくく、結晶粒の粗大化を招き、靭性が低下する場合が見られるので、使用条件が過酷な冷間加工用として、十分な特性を有しているとは言えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような問題を解消するために、発明者は鋭意開発を進めた結果、合金成分式、鋼材中の一次炭化物の単位面積あたりに占める面積率および個数、さらに焼入れ後の残留オーステナイト量、および、焼入れ焼戻し後の炭化物の面積を規定することで焼入れ時に結晶粒の粗大化を起こすことなく、かつ、変寸の少ない、焼戻し後の硬さが63HRC以上となる高硬度で高靭性な冷間工具鋼が得られることを見出した。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、焼入れ時に結晶粒の粗大化を起こすことなく、変寸の少ない、焼戻し後の硬さが63HRC以上となる高硬度で高靭性な冷間工具鋼を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、第1の手段では、質量%で、C:0.6〜0.9%、Si:0.7〜0.9%、Mn:0.1〜0.6%、Cr:4.0〜6.5%未満、(Mo+W/2):2.0超〜5.0%、(V+Nb/2):0.1〜0.6%、および、N:100超〜500ppmを有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼で、この鋼の焼入れ時の残留オーステナイトの安定性を表す値であるRはR=51.4×C(%)−4.2×Cr(%)−44.4×V(%)+0.1×N(ppm)で示され、R:15.0〜31.0であり、500℃以上の焼戻し後の硬さ:63HRC以上で、500000μm
2中の一次炭化物の個数:200個以上で、かつ、500000μm
2中の一次炭化物の面積率:0.5〜3.0%であることを特徴とする高硬度で高靱性な冷間工具鋼である。
【0009】
第2の手段では、質量%で、C:0.6〜0.9%、Si:0.7〜0.9%、Mn:0.1〜0.6%、Cr:4.0〜6.5%未満、(Mo+W/2):2.0超〜5.0%、(V+Nb/2):0.1〜0.6%、および、N:100超〜500ppmを有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼で、この鋼の焼入れ時の残留オーステナイトの安定性を表す値であるRはR=51.4×C(%)−4.2×Cr(%)−44.4×V(%)+0.1×N(ppm)で示され、R:15.0〜31.0であり、500℃以上の焼戻し後の硬さ:63HRC以上で、500000μm
2中の一次炭化物の個数:200個以上で、かつ、500000μm
2中の一次炭化物の面積率:0.5〜3.0%であり、さらに焼入れ後の残留オーステナイト量は12〜30%であることを特徴とする高硬度で高靱性な冷間工具鋼である。
【0010】
第3の手段では、質量%で、C:0.6〜0.9%、Si:0.7〜0.9%、Mn:0.1〜0.6%、Cr:4.0〜6.5%未満、(Mo+W/2):2.0超〜5.0%、(V+Nb/2):0.1〜0.6%、および、N:100超〜500ppmを有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼で、この鋼の焼入れ時の残留オーステナイトの安定性を表す値であるRはR=51.4×C(%)−4.2×Cr(%)−44.4×V(%)+0.1×N(ppm)で示され、R:15.0〜31.0であり、500℃以上の焼戻し後の硬さ:63HRC以上で、500000μm
2中の一次炭化物の個数:200個以上で、かつ、500000μm
2中の一次炭化物の面積率:0.5〜3.0%であり、さらに焼入れ焼戻し後の平均炭化物面積は25μm
2以下であることを特徴とする高硬度で高靱性な冷間工具鋼である。
【0011】
第4の手段では、質量%で、C:0.6〜0.9%、Si:0.7〜0.9%、Mn:0.1〜0.6%、Cr:4.0〜6.5%未満、(Mo+W/2):2.0超〜5.0%、(V+Nb/2):0.1〜0.6%、および、N:100超〜500ppmを有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼で、この鋼の焼入れ時の残留オーステナイトの安定性を表す値であるRはR=51.4×C(%)−4.2×Cr(%)−44.4×V(%)+0.1×N(ppm)で示され、R:15.0〜31.0であり、500℃以上の焼戻し後の硬さ:63HRC以上で、500000μm
2中の一次炭化物の個数:200個以上で、かつ、500000μm
2中の一次炭化物の面積率:0.5〜3.0%であり、さらに焼入れ後の残留オーステナイト量は12〜30%であり、焼入れ焼戻し後の平均炭化物面積は25μm
2以下であることを特徴とする高硬度で高靱性な冷間工具鋼である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋼は、500℃以上の高温焼戻しで硬さが63HRC以上の高硬度であり、冷間工具鋼としたときに、高温焼戻しにより変寸して膨張することなく正確な寸法の工具が得られ、高硬度の被加工材を効率よく正確に加工することができ、特に冷間加工用の金型、成型用ロール、転造ダイスなどとして優れた特性を有する高硬度で高靱性な冷間加工用の鋼材である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、本発明の実施の形態を記載するに先立って、本発明の手段の鋼の化学成分の限定理由並びに残留オーステナイトの安定性を表す値のR、焼戻し後の硬さ、500000μm
2中の一次炭化物の個数、500000μm
2中の一次炭化物の炭化物面積率、焼入れ後の残留オーステナイト量および焼入れ焼戻し後の平均炭化物面積における限定理由について以下に説明する。なお、%は質量%である。
【0015】
C:0.6〜0.9%
Cは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに焼入れ性を高める元素であり、Cが0.6%未満であるとこれらの効果は得られない。一方、Cが0.9%より多いと粗大な炭化物を形成し、靱性および加工性を悪化する。そこで、Cは0.6〜0.9%とし、望ましくは0.7〜0.9%とする。
【0016】
Si:0.7〜0.9%
Siは、脱酸剤として作用し、かつ基地の硬さを増し、焼入れ性を向上させる元素であり、Siが0.7%未満であるとこれらの効果は得られない。一方、Siが0.9%より多いと靱性および加工性を悪化する。そこで、Siは0.7〜0.9%とする。
【0017】
Mn:0.1〜0.6%
Mnは、脱酸材として作用しかつ焼入れ性を増す元素であり、Mnが0.1%未満であるとこれらの効果は得られない。一方、Mnが0.6%より多いと鋼のマトリックスを脆化し靱性を悪化する。そこで、Mnは0.1〜0.6%とし、望ましくは0.2〜内0.6%とする。
【0018】
Cr:4.0〜6.5%未満
Crは、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入れ性を高める元素であり、Crが4.0%未満であるとその効果を得られない。一方、Crが6.5%以上であると、粗大な炭化物を形成し、靱性および加工性を悪化する。そこでCrは4.0〜6.5%未満とし、望ましくは4.5〜6.3%とする。
【0019】
(Mo+W/2):2.0超〜5.0%
(Mo+W/2)は、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性を高める働きをする。そのためには、(Mo+W/2)は2.0%超が必要である。一方、(Mo+W/2)は粗大な炭化物を形成し、靱性および加工性を悪化する。そこで、(Mo+W/2)は2.0超〜5.0%とし、望ましくは2.6〜4.0%とする。
【0020】
(V+Nb/2):0.1〜0.6%
(V+Nb/2)は、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制する効果があり、靱性の向上に寄与する働きをする。そのためには、(V+Nb/2)は0.1%以上が必要である。一方、(V+Nb/2)は粗大な炭窒化物を形成し靱性および加工性を悪化する。そこで、(V+Nb/2)は0.1〜0.6%とし、望ましくは0.3〜0.5%とする。
【0021】
N:100超〜500ppm
Nは、窒化物を形成するために必要な元素であり、形成された窒化物が耐摩耗性を向上させるとともに結晶粒の粗大化を防止し靱性の低下を抑制する働きをする。しかし、Nが100ppm以下であるとこれらの効果は得られない。一方、Nが500ppmより多いと、粗大な窒化物を形成し、靱性および加工性を悪化する。そこで、Nは100超〜500ppmとし、望ましくは120〜400ppmとする。
【0022】
R:15.0〜31.0
Rは、本願発明の化学成分の範囲を満たす鋼の焼入れ時の残留オーステナイトの安定性を表す値であり、CおよびNが増えることで、焼入れ時に残留オーステナイトが安定化しやすくなるが、Cr、Vが増えると、炭窒化物が形成されやすくなり、特にVは焼入れ温度に加熱されても固溶しにくい炭窒化物を形成するため、残留オーステナイトの安定性に寄与するCおよびNの影響を低下させる。すなわち、Rが大きいほど残留オーステナイトは安定となる。
ところで、残留オーステナイトは500℃以上で焼き戻した時に、マルテンサイト化して二次硬化に寄与するが、マルテンサイト化が起こることで、膨張して焼入れ前の寸法からの変寸が大きくなるため、残留オーステナイトの安定性が高すぎると、残留オーステナイトが多く残るようになり、焼入れ前の寸法からの変寸が大きくなる。そこで、Rは31.0以下とする。ただし、残留オーステナイトの安定性が低すぎると、マルテンサイト化が低温で進みやすく、二次炭化物が析出したときに起こる析出硬化の温度域と重ならなくなるため、焼戻し後の硬さが63HRC以上得られなくなる。そこで、Rは15.0以上とする。以上の理由から、Rは15.0〜31.0とし、望ましくは17.0〜29.0とする。
【0023】
500℃以上の焼戻し後の硬さ:63HRC以上
500℃以上の焼戻し後の硬さは、本発明の冷間工具鋼を塑性加工用のダイスまたは圧延ロールなどするときに必要であり、特に高硬度である金属材料の加工には、工具鋼の硬さが63HRCより低いと加工できない。そこで、本発明の冷間工具鋼における、500℃以上の焼戻し後の硬さを63HRC以上とする。
【0024】
500000μm
2中の一次炭化物の個数:200個以上
500000μm
2中の一次炭化物の個数は焼入れ処理後に残っている500000μm
2中の炭化物の個数をいう。ところで、本発明鋼における500000μm
2中の一次炭化物の個数が200個より少ないと、冷間工具鋼として必要な耐摩耗性が得られない。また、結晶粒のピン止め効果も得られない。そこで、必要な耐摩耗性とピン止め効果を有するものとするために、500000μm
2中の一次炭化物の個数は200個以上とする。
【0025】
500000μm
2中の一次炭化物の炭化物面積率:0.5〜3.0%
一次炭化物は結晶粒のピン止めに寄与することが出来るが、500000μm
2中の一次炭化物の炭化物面積率が0.5%未満では結晶粒のピン止め効果が得られない。一方、この面積率が3.0%を超えると、炭化物同士の距離が近くなって、割れの伝播が起きやすくなり、靱性が低下する。そこで、500000μm
2中の一次炭化物の炭化物面積率は、0.5〜3.0%とし、望ましくは0.5〜1.8%とする。
【0026】
焼入れ後の残留オーステナイト量は12〜30%
焼入れ後の残留オーステナイトは、500℃以上で焼戻し行ったときに、マルテンサイト化して二次効果に寄与する。しかし、焼入れ後の残留オーステナイト量が12%より少な過ぎると、マルテンサイト化による二次硬化が十分に得られない。そこで残留オーステナイト量は12%以上とする。しかし、焼入れ後の残留オーステナイト量が30%より多いと、焼戻し後の変寸が大きくなる。そこで、焼入れ後の残留オーステナイト量は12〜30%とし、望ましくは、14〜25%とする。
【0027】
焼入れ焼戻し後の平均炭化物面積は、25μm
2以下
焼入れ焼戻し後の平均炭化物面積は、25μm
2を超えると、割れ起点になりやすい炭化物サイズのものが多くなり靱性が低下する。そこで、焼入れ焼戻し後の平均炭化物面積は、25μm
2以下とする。
【0028】
ここで、本願発明の実施の形態について説明する。先ず、本願の請求項1〜4に係る発明の鋼であり、表1に示す供試材である発明鋼のNo.1〜36と、それらの比較例である表2に示す供試材である比較鋼のNo.37〜52の、各供試材の鋼の100Kgを真空誘導炉で溶製し、得られた鋼を、断面の縦辺および横辺それぞれが50mmである角材に鍛伸した。次いで、これらの角材を
図1に示すように、1050℃に加熱した後、空冷して焼入れ処理し、その後、500〜600℃に加熱して空冷する焼戻し処理を2回以上繰り返した。表1および表2に供試材の化学成分とR値を示す。
【0031】
上記の表1の各発明鋼および表2の各比較鋼の供試材について、500〜600℃の2回以上の繰返し焼戻し処理温度で、最も高い硬さとなったものを評価した。この硬さが63HRC以上のときは○とし、63HRCよりも低いときは×として、表3および表4に示した。
【0032】
上記の焼入れ処理した各発明鋼および各比較鋼の供試材を用いて、中心部から、縦8mm、横8mm、長さ8mmの試験片を割り出し、X線回折により残留オーステナイト量(%)を求めて、表3および表4に示した。
【0033】
さらに、上記の焼入れ焼戻し処理した各発明鋼および各比較鋼の供試材を用いて、中心部から、縦15mm、横15mm、長さ15mmの試験片を割り出し、光学顕微鏡の100倍の視野で、3箇所ランダムに撮影し、画像解析装置を使用して、それぞれの500000μm
2視野内の一次炭化物個数および一次炭化物面積率をそれらの画像から測定し、その平均を求めて、表3および表4に示した。
【0034】
さらに、上記の焼入れ焼戻し処理した各発明鋼および各比較鋼の供試材を用いて、中心部から、縦15mm、横15mm、長さ15mmの試験片を割り出し、ナイタールにより腐食し、光学顕微鏡の100倍の視野でランダムに撮影し、画像解析装置を使用して、それぞれの500000μm
2視野内の炭化物の平均面積をそれらの画像から求めて、表3および表4に示した。
【0035】
また、発明鋼および比較鋼の靱性は、シャルピー衝撃値で評価した。シャルピー衝撃試験は、上記の焼入れ焼戻し処理した各発明鋼および各比較鋼の供試材の中心部から、縦10mm、横10mm、長さ55mmからなる、
図2に示す10R−2mmCノッチのシャルピー試験片を割り出し、実施した。63HRC以上の硬さが得られるJIS鋼種であるSKH51の粉末冶金により製造した鋼は、63HRCで25J/cm
2のシャルピー衝撃値が得られるため、この25J/cm
2のシャルピー衝撃値を基準として、30J/cm
2より高いシャルピー衝撃値が得られれば、靱性に優れているとして◎とし、25J/cm
2より高く30J/cm
2以下であれば、靱性がよいとして○とし評価して、表3および表4に示した。
【0036】
上記した鍛伸後の各発明鋼および各比較鋼の供試材を用いて、縦50mm、横50mm、長さ100mmからなる試験片を割り出し、長さ方向の寸法を測定した後、上記の焼入れ焼戻し処理を行ない、再度、長さ方向の寸法を測定して、熱処理前からの変寸した長さを求めた。ところで、SKH51は0.1mm膨張するので、この0.1mmを基準の変寸とし、膨張が0〜0.1mm未満であればよいとして○とし、0.1mm以上であれば悪いとして×として表3および表4に示した。
【0039】
以上の表1および表3から、本発明鋼の化学成分であるC、Si、Mn、(Mo+W/2)、(V+Nb/2)の含有量が、各々1つでも請求項の範囲から高く外れた鋼種はシャルピー衝撃値が低いため、靱性が低い。(Mo+W/2)、残留オーステナイト量およびR置が各々1つでも低く外れた鋼種は、硬さが63HRC以上でない。Nが低く外れた鋼種はシャルピー衝撃値が低いため、靱性が低い。R値が高くはずれた鋼種は、変寸が大きい。一次炭化物面積率が低く、一次炭化物個数が少ない鋼種はシャルピー衝撃値が低いため、靱性が低いことが分かる。